「どうやら俺は人間でも、獣でもない何者かに成り下がったようだ」
そう語った彼はいつかと同じように自嘲する。そしてその姿を現した。
「リウ・・・」
以前見たあの姿とは違い、ほぼ人間であった。僕に近づかず陰から出ただけで立ち止まる。ただ自然と姿を見たいという気持ちから僕が足を踏み出すと彼は驚いた顔で後ずさる。
「・・・エン、俺が気持ち悪くないのか?」
「よく見えない、傍でよく見てもいいか?」
「・・・少し、いや大分怖いな・・・人がこんなに近くにいるのは、もうしばらくぶりのことなんだ」
「僕でも、怖いか?」
「お前だから特に怖い」
「僕はお前なら大丈夫だ」
「・・・・・・」
「寄ってもいいか?」
「・・・ああ」
一歩ずつ近づきやっと人が人と会話する距離になる。思わず
「久しぶり、リウ」
呼びかけただけだが彼はまた驚き、その見開いた目を苦しげに細めると涙をこぼした。
「どうした・・・リウ」
「・・・・・・」
「涙もろいのは相変わらずだな、リウは」
「・・・ぅ・・・エン・・・」
いつの間にか僕の目もうるんでいた。
「!・・・お前まで泣くな・・・涙もろくなったのか?」
「リウが泣きすぎるから」
僕らはそうして森の中で泣いた。
○○○○
「いい!アンコいいよ!やっぱけもみみいいよねぇ!」
「まだリウくんの描写してないけどー?」
「けもみみとしっぽは残ったってことでしょ?」
「あとは牙とか・・・他詳細は今んとこ未定・・・美玲(みれい)はほんとにけもみみすきだよねー」
「もとのアフターストーリーだし、しかももとからファンタジーなのをさらに二次創作するアンコちゃん・・・」
「いやさーなんか二人みてると創作意欲かきたてられるっていうかさ」
とある高校の教室の窓際、何やら楽しげに話している彼女らの話をなんのとなしに聞いている僕は加藤 鈴。スズという自分の名前が大嫌い、それに似合う容姿でない男の僕は、小さな鈴とは正反対に馬鹿でかい体を椅子に押し込めて机に突っ伏している。
「だって見てよあの二人、何話してるか知らないけど竜一君のあの笑顔」
「笑うと可愛い」
「亜子(あこ)もそう思う?普段無表情だもんねー」
彼女らの属性を知っているけど特に害があるわけでもないし・・・とつい先ほどまで思っていたけど、前言撤回。どうやらクラスメートで小説や漫画をかいているらしいこと、その登場人物に見当がついてしまった。笑顔が可愛い、長谷竜一(ちょうやりゅういち)くん。彼は実は不登校だった。確か高校一年からで丸一年は一切登校せず、最近また学校に来るようになった。高二の三月、もうすぐ春休みが始まるこの時期にクラスにやってきた。もちろんクラスにはまだ馴染めてはいないが、何人かと笑顔で話すようになった。先程彼女たちが言ったように普段は無表情・・・最初の頃は睨み付けてばかりいる警戒心むき出しのやつだった。そしてその彼と一番仲がいいのは遠藤円(まどか)くん。天パで名前が女っぽいことからからかわれやすいけど、人当たりがよく僕にも話かけてくれる。円が竜一を連れ出した。彼はいいやつの見本みたいなやつだ。
「で、この話のタイトルなんだけど・・・」