俺は惚れっぽい性格だ。と自分でも思うのだがやめられない。そして決まって叶わぬ恋、禁断の恋?男でも女でもどちらにしたって俺はいつも報われない。
「川口ー寝てないの?」
「うん」
「くまやばいよー、隠れないよー」
「そこはうまくやれメイク担当」
「まあ頑張るよー・・・なあ川口」
「ん?」
「俺にも頼っていいよー」
「んー・・・」
「隣にはいるから」
「・・・まあ頑張るよ」
「俺に頼るのに頑張らなきゃいけないの?」
「丸藤だからな」
「なにそれーへんなのー」
「お前がな」
「ひでえ」
川口 護(まもる)っていう名前を俺は別に嫌いじゃないけど呼ぶ相手は少ない。俺が呼ばせないから。じゃあ誰がそう呼ぶかってとはるか遠くの田舎の両親と兄の柊一(しゅういち)とあとは恋人と言っていいか疑うほどの短い関係の一部のニンゲン。
あ、悠太が来た。今日休まないんだ、いや連絡もらってないけど。俺を見つけて満面の笑みで少し早足で俺に近づく。俺の方が目をそらしてしまった。丸藤は俺より背が高い、たいていの男は俺より背が高いけど・・・ああ、俺の身体を隠してくれないかなあ。
「おはよーっす」
「ゆーた君!おはー」
「おはよう」
悠太が俺を見て変な顔をする。
「丸先輩ーわぐっち先輩のメイク濃くないっすか?」
「いいよーこれくらいしても本人気づかないんだから」
「はあ!?」
慌てて鏡を見ると見事な玉塚歌劇団のメイク。鼻筋が通ってる・・・彫が深い・・・ホントにこいつは・・・!
「まーるー!!」
「だって川口くま気にしてたからさー、うまい隠し方でしょ!」
「ふざけんな!泣かすぞ!!」
「にっげろー」
丸藤はこうして俺をよく励ます。そうして俺らは友達以上恋人未満の関係を続けている。丸藤とやりたいと思ったことは何度かある。本人に言ったこともある。途中までやりかけたこともある。俺はなぜか途中でいつもできなくなる。何故か。丸藤がそういうやつだからだ。丸藤 剛(ごう)その名に似合わぬ体つきと性格で彼がジャイ●ンと呼ばれていたのはほんのわずかな間だけだった。
丸藤が誰かと付き合っているところを見たことがない。運良く付き合えた奴がいたとしても、恋人の期間が短いんだろう。もたないんだろうな相手の方が。丸藤だって完璧な人間じゃないけど、一緒にいると自分の悪いところばかり見えてくる。何でも許してくれる丸藤にはきっと神様とやらがついてるのだろう、悪人は近寄りがたい。俺はそんな丸藤と親友とやらをやっている。
「川口先輩、昨日のこと・・・」
「悪い悠太、今ちょっと手が離せないんだ」
「分かりました、またあとで」
そう言う悠太の顔は特にいつもと変わらなくて、いや犬臭だっけか、それは半端ないが・・・
「川口?」
「・・・」
「川口!なにゆーた君に見惚れてんの!」
「な!違う!!」
「・・・冗談だよ、なに今度はゆーた君なの?」
「・・・はぁ」
「そうなの」
「そう・・・今度はね」
「俺は応援してるよ・・・またいろいろとあるんだろうけど」
「ああいろいろとあるよ」
「おまじない!」
そういって丸藤はいつものやつをしてくれる。
「ありがと、ごう・・・」
「どういたしまして、まもるくん」
「だから名前呼ぶなってあと今回ちょっと痛かった」
「まもくんも名前呼んだじゃん、文句言わない」
っていっても、背中に頭おっつけてくれるだけだけどな。石頭の持ち主の剛君は俺の友達。