大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: ハイキューBL ( No.127 )
- 日時: 2014/09/15 22:02
- 名前: 鑑識
菅大です菅大
雨、だ。それも、土砂降りの。
ざあざあどころか、ほとんど音が聞こえないくらいの密度の濃さ。ため息をつくと、同時に雨足が強まった気がした。
なんとなく内履きを脱いでみる。静かな廊下にペタペタ鳴るのが心地よくて、足の裏の冷たさも気にせず何歩か歩いた。
ふいに名前を呼ばれた気がして、声のする方へとぺたりぺたり歩み寄った。廊下の角を曲がると、少し離れたところに見慣れた姿を見つけて、大きく手を振る。
「あっいたいた。スガ!」
「おー。どした、大地」
駆け寄ってきたのは、我らが烏野高校男子バレーボール部主将で、裸足の俺を見て少なからず驚いていた。
息を切らした姿に声をかければ、彼は俺の手元を横目に見て安堵のため息を漏らす。
それだけで、なんだか彼が急いでいる理由が分かってしまうのが、なんとなくうれしかった。
心の中で留めるつもりだった感情はつい表情まであらわれてしまったようで、小首をかしげる彼には満面の笑みをくれてやった。
「帰るべ、大地」
「あぁ。悪いなスガ」
彼を連れてそそくさと外ばきに履き替えると、忘れ物だらけの傘立てに手を伸ばした。そこから、テープで印をつけたひとつを手に取る。
ぱつん、と軽い音を立てて傘を開く。シンプルなビニール傘は、つい一ヶ月ほど前に買ったものだった。
降りしきる雨のなかへと、先に飛び込む。
遅れて飛び込んだ彼は、急ぐあまり足元の水たまりに気が付かなかったようだ。
水しぶきが跳ねる。
「ゲッ」と情けない声を上げると、ずぶ濡れになった方の足を上げて、片足飛びでやってきた。
「うはは、大丈夫?」
「笑うなよっ。あーもー、ぐっしょぐしょだ」
半身だけ体をずらすと、あいた隙間に滑り込むように入り込んだ。
至って一般的なサイズの傘は、大の男二人が入るにはすこし狭い。
肩が触れ合うくらいの距離がやけにもどかしく感じられた。
「おれ、持とうか?」
「いいよ。たいして身長変わんねぇべ」
「そっか。キツくなってきたらいつでも言ってな」
「ありがと」
彼の気遣いに礼を言って、それから、他愛もない話をしながら家路についた。
内容としては、クラスのアホなやつのこと、今日の授業でのこと。あとは練習のメニューだとかフォーメーションのことだとかスパイクのフォームだとか今月の月バリのことだとか、それはそれはもうバレーのことばかりだった。
しかしまぁ、それが当たり前に感じるのだから、俺だって大概なのだろう。
ふと、肩と肩とが触れ合った。見た目通りがっしりと頼りがいのあるからだは、しかし俺の体を吹き飛ばすでもなく、寄り添うようにそこにある。
かすかに触れたばかりのそこからは、なにかよくわからないものが伝わってきた。
じんわりと、ゆっくりと、内側へと侵食したそれは、俺の皮も肉も血も骨も通り抜けて、心臓から脳からどこにあるんだかわかりもしない心まで蝕んていく。
蝕まれた箇所はほんのりと暖かくなって、かたちを失っていった。
そのとき、ぽつりとなにかが萌芽する感覚があった。
小さな芽は、彼の頼もしいからだを土壌にして、傘の端々からぽつぽつおちる雨粒を水分として、それから、彼から伝わったあたたかななにかを陽の光にして、凄まじい速さで成長を遂げていく。
「聞いてるか、スガ?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「顔、赤いぞ。大丈夫か」
得意の愛想笑いを見せびらかして、傘を持っていないほうの手をひらひらと振った。
だいじょぶ、なんて、頭の中はぐちゃぐちゃだけど。
「風邪か?」
「そうかも」
「スガが風邪ひくの、珍しいな」
「んー、前はいつだったっけ」
「三ヶ月くらい前かな。スガ、休んだりとかあんまりしないからすげー違和感あったの覚えてる」
「えへへ、その度はどうも」
「教室でお前の名前呼んじゃってさー。も、みんなに笑われてすげー恥ずかしかった」
真っ赤になる大地とからかうクラスメイトが簡単に想像できて、思わず頬が緩む。めざとく見咎められたけれど、大地は困ったように笑うだけで、怒らなかった。
「ほんと、お前がいないってだけで、全然違うんだなぁって」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん」
「なんつーかさぁ、スガがいないと生きてけねーかなーくらいの」
「そりゃ、お互い様だべ」
「まぁな」
「自分で言うんだ」
「だってスガ、俺のこと好きだろ?」
「、あ」
時間が止まった、気がした。
心の中に芽生えたなにかは、いつしか綺麗なライトブルーを花開かせていた。
はたから見れば美麗なだけのそれは、地下の奥深くで、生きるのに精一杯、必死に足掻く。
開花と同時に、心の奥底が暖かくなった。先程彼から受け取ったのと同じような、不思議なぬくもりを、感じた。
間違いなく、なにか、あたらしい感情が生まれたのだと、感じた。
「まあ、ね」
「はは、やっぱりか!」
「大地だって、俺のこと好きだろ?」
たった一つのなんてことない質問に、ドキドキと、バクバクと、今まで感じたことのない音量で、心臓が鳴り響いた。
彼もあの涼しい顔の下に、これほどの熱情を渦巻かせてくれていたのだろうか。
まぁきっと、そうではないのだろうけれど。
「さぁ。どうだろうな」
「え」
「うそうそ、俺も好きだよ」
悪戯っぽい笑みに、心が貫かれた。よろめきそうになる足腰をぐっと支えられたのは、きっと日頃の練習の賜物だと密かに感謝する。
大の男二人が雨の中、愛を叫びあっている光景はさぞ間抜けなことだろう。
あぁでも、おかしいと思ったのに、うまく笑えなかった。
さっき生まれた感情には、名前がない。
いや、正確には当てはめることができそうなことばに思い当たって入るのだけれど、なんとなくそのひとことで片付けてしまいたくないような、複雑な感情だった。
「だいち、大地」
小さな声で囁いてみれば、それだけでその感情はおれのほとんどを支配して、きっと胸のところにあったのであろう心をあたためる。
わざと肩を触れ合わせてみれば、伝わった熱はめらめらと心の外側にあった鉄の壁をとかしてしまって、入り込んだ内側から、じくじく茹だらせていく。
あぁきっと、この感情の名前は。
「すきだ、だいち」
(冷めない熱)
「ん?悪い、雨の音で全然聞こえない」
「なんでもないよ」
「そうか?」
「そうだよバーカ」
「なんでだよ!?」
彼にもこの熱が伝わればいいと思って、傘を持ち替えて、彼の手を取った。
目を見開いた彼にへらりと笑うと、俺にあまい彼はそれだけでお手上げのため息をつく。
二人に当たるように傘をさすのが難しかったから、彼にだけでも雨が当たらないようにした。
左肩からじんわりと濡れていくのを感じる。冷たくてさみしい雨の筈なのに、心はいっそ熱いくらいだ。
今すぐこの傘を投げ出して、彼を抱きしめて愛を叫びたいと考えはしたけれど、とてもとても現実的ではないので考えるだけにとどめた。
それもこれもぜんぶぜんぶ、この感情に名前を当てはめてしまうのが、どうももったいなく感じられるものだから。
「何笑ってんだ、スガ」
「んー?いや、好きだなーって」
「あんまり言うなよ、なんか照れる」
「すきすきすきー大地すきー」
「るさいっ」
「ごめんごめん」
「ったく....こっちの身にもなれよ」
「なにー?聞こえない!」
「なんでもない!バカ!」
「理不尽だ!」