それから、話は冒頭に戻るのだが。
冷たいベンチに座ってからも、繋がれた手はそのままだった。
ただ、どうしようもなくどうしようもできない空気の中、どうしたらいいのかわからないまま時間だけが過ぎていく。
バスは俺たちが来る少し前に出たばかりのようで、次にバスが来るのはかなり後のようだ。
俺はといえば、言いかけて言えなかった告白をしてしまいたかった。先程から手をつないだままはなさない様子だったり、むしろ彼から繋いできた様子を考えれば、きっと彼も俺のことを決して悪くは思っていないのだろう。
告白すれば、彼は了承するようなそんな気がしていた。自惚れではない自信もあった。
ただそれでも彼に打ち明けられないのは、彼の様子がなんだかおかしいことと、もし了承されたとして、その後の彼との関係が全く想像できないことの恐怖が、俺の背中を引いてはなさなかったからだ。
うじうじと考える自分がみっともなかった。あまりにも自分らしくなかった。
だからこそ、なにかきっかけがあれば、勢いでもなんでもいいから言ってしまおうと思っていた。
そうだな、例えば。
ーーーーー
木兎さんの様子がおかしかった。
心当たりはあるのだ。
きっと、俺が告白される現場を、正確に言えば俺が告白されに行く現場を見てしまったことが、それなのだろう。
これまでも告白されることはいくらかあって、彼もそのことを知っていた筈なのだけど、何故か彼はやけに衝撃を受けたようだった。
彼は俺のことが好きなのだろうということが、嫌でもわかった。俺が告白されたという事実を目の当たりにして、あまりに衝撃を受けていたから。それから一緒に帰ることになった時も、あまりに唐突に、本人に自覚がないほど突発的に、俺の手を握ってきたから。
俺は、そのことに少なからず驚いていて、また少なからずどころか相当の喜びを覚えていた。きっと叶うことはないだろうと思っていたのに、彼のぬくもりが伝わってくるのが嬉しくて、もともと自覚していたつもりだった恋心を再認識した。やはり俺は、彼のことが好きでたまらなかった。
バス停に着いてから、どうやって彼に打ち明けようか迷っていた。彼は時々何か口にしていたけど、生返事しかできていなかったように思う。彼もそれがわかっていて、それでいて話しかけていたようだった。
結果的に彼を放置する形になってしまったけれど、彼もなにか考え事をしているようで、心ここにあらず、といった様子だったので、そう気にはならなかった。
彼も俺のことが好きだとわかったから、特に迷う余地はないはずだったのだけど、どうにも俺は結構な意気地なしらしい。なにか、そう、きっかけが欲しかった。彼にこの思いを打ち明けるための、きっかけが。
あぁそう例えば、
(雨が止んだら、打ち明けようか)
止んでくれ。止まないで。
そんなわがままな願いを一心に受けた雨は徐々に弱まって、そのうち遠くの方にバスが見えた。
びたりぴたり、とうとう水たまりに広がっていた波紋がなくなる。
「「 」」
雲の切れ間から差し込む日差しに背中を押されて、言葉は案外すんなり、音になった。
よくわかんなくなりました。きっと二人の言葉はバスのエンジン音に邪魔されます。