大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: ハイキューBL ( No.29 )
日時: 2014/07/14 00:14
名前: 鑑識

続きです














部活によって培われた体力やら脚力は自分の想像以上であったらしい。十分とかからずに辿り着くことができた。


入口へと駆け出す。ゆっくりと開く自動ドアに苛立ちを覚えながら、少し開いた隙間に体を滑り込ませた。駆ける足は止まらない。



白く無機質な床を少し行くと、エレベーターが目に付いた。部員からのメールを見るに、彼の部屋は3階。

エレベーターと非常階段を交互に検討し、結果自分の脚力を信じることにした。









ぽたり、滴がひと粒。








額を伝う汗が、右目に入り込む。眩んだ視界に足がもつれ、転びそうになるのをなんとか踏み留まった。
くそ、タイムロス。
階段を選んだのは失敗だったろうか。


いや、後悔は後だ。今はとにかく、脚を動かせ。












部屋の前には既にほとんどの部員が集まっていた。
荒く息を吐くばかりで言葉が出ない。しかしそれでも、そのうちの一人が顎で示し、部屋に入るよう促した。


俯いているため表情は伺えないが、雰囲気からおおよそのことはアタリがついた。


あぁきっと、彼はもう。









ゆっくりとドアを開く。
部屋には、男が一人。それから、およそ彼の母だと思われる女性がいた。


男は、普段の活発で騒がしい性格からは想像できないほど、落ち着いた笑みを浮かべている。

また女性は、自分が来ることを予想していたかのような仕草で、こちらへと手招きした。





「来てくれたのね、赤葦くん」



「木兎さ........光太郎さんは」





「....えぇ、死んだわ。
ついさっき、本当に君が来る直前に」





彼女は、悲しげに、慈しむように、そう呟いた。
赤い瞳、顔もむくんでいることから、相当泣いたのであろうことが想像できた。

恐らく彼女は自分がそのことに気付いていることを知って、しかしそれでも、毅然とした態度を取っている。



「車に、轢かれたって」


「ええ。轢き逃げ、だったらしいわ」


「そうでしたか....」



束の間の沈黙。
それから、眠りにつく彼の顔を見やる。

安らかな表情からは本当に寝ているようにしか見えないがしかし、触れた体温はひどく冷たいものだった。




「死んでしまったんですね」


「助かる可能性も、あったの。運が悪かっただけで」


「そう、なんですね」







感情の起伏が少ないと評価されるこの顔は、今でも、落ち着いた表情を作れているのだろうか。震える唇を噛み締めて、一歩近づいた。

胸元に手を当てるが、鼓動は聞こえない。首から頬、それから今は少ししぼんだ髪を撫でていく。




「死んでしまったんですね、本当に」




さらさらと頬を撫でながら、呟く。





「あなたは、子供みたいだし、すぐに調子乗るしすぐへこむし、めんどくさいことは確かでしたけど」





「ころころ変わる表情とか、純粋な笑顔だとか、バレーが好きで好きでしょうがないところとか。嫌いじゃ、ありませんでした。いえ、いっそ好きでした」




固まった筋肉を動かすように、強く頬を押し上げる。生気のない表情は見てられなかったけれど、それでも目をそらすことはしなかった。





「なにこんなとこで寝てるんですか木兎さん。




もっとバレーするんでしょう。勝つんでしょう。
全国制覇するんでしょう。
俺のトスを、もっと、打ってくれるんでしょう」




「ねぇ、木兎さん。
可愛げの無い後輩ですみません。
あなたのノリについていけなかったことも、謝ります。
ムードを大事にしてやれなくてすみません。不甲斐ないセッターですみません。あなたにはふさわしくないセッターだったのかもしれません」




「でも、それでも俺は、





もっと、あなたとバレーがしたかった」





涙が出そうで、でも泣いたら負けな気がして、怒りに身を置くことで堪えた。噛み締めた唇が悲鳴を上げる。




「まだやり残したことが沢山あるじゃないですか!


コンビネーションも、フォーメーションも、まだ試行錯誤の途中だったでしょう!?


キスだってセックスだって、まだ数えるほどしかしてない!もっとしたいって言ってたじゃないですか!休みの前の日にはあんなに騒がしく俺を家に呼んだじゃないですか!



どうして!どうして死んだんだ木兎さん!!」




なんだ俺は、こんなに大きな声が出せたのか。
感情の起伏が少ないって、涙くらい流せるじゃないか。




「ぼくとさんっぼくとさん、ぼくとさん、ぼくと、さ、」




久方ぶりに流した涙を止める術がわからなくて、ただ重力に従ってこぼれ落ちる涙をそのままに、彼の胸元へと縋りついた。心臓の音は聞こえない。



突きつけられた死の実感に、ただ涙を流すことしかできなかった。












「........すみません」


「ねぇ赤葦くん、あなたは....」



なにかを伺う視線に全てを察して、少しの躊躇の後に口を開いた。彼女には、話しておかなければならないと、そう感じた。



「....えぇ、俺は、木兎さんの恋人でした」


「そう、やっぱりそうだったのね」


「すみません。最後までどこまでも救えない結果になってしまって」


「何言ってんのよ。こんなに想ってくれる人が居てあいつは幸せだったでしょうね。あいつにはもったいないくらいのいい男だわ」


「全然、そんなことはなくて」


「ありがとう、赤葦くん」


「っ....」



少し強引でさっぱりした性格の彼女は、やはり彼を彷彿とさせるものがあって、少しだけ瞳が潤んだ。それを隠すように俯くと、彼女は静かに微笑んで口を噤む。

それから、思い出したようにまた話し始めた。





「........ねぇ、赤葦くん。ケータイはちゃんと確認したかしら?」






「ケータイ....?」






ずっと握り締めていたスマホを起動させると、ぼんやり光る画面に新着メッセージが3件。




ひとつめは、バレー協会のメルマガ。




ふたつめは、母からの心配するメール。





みっつめは、











「木兎....さん?」










「やっぱり、見てなかったのね。本当はあなたに、直接伝えたかったらしいんだけどね。ずっとずっと、赤葦赤葦って口にしてたのよ」





無機質な文字で書かれた件名は[あかあしへ]。未だに自分の漢字がわかっていない彼に、笑みがこぼれた。






一つ一つ文字を追っていく。
その度に涙が画面を濡らして、ぼやけた視界と相まって随分と読むのに時間がかかった。拭う袖がもうぐしゃぐしゃだ。










「本当に馬鹿だな、あなたは....」









「わかってるんじゃないですか」












ぽたり、滴がひと粒。













「俺はずっと、あなたが好きでしたよ。木兎さん」
























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[あかあしへ]









元気かあかあし!おれはかなり元気だ!
ぜったいに死なないから安心してくれ!



それでなあかあし、お前に伝えたいことがある。
なんかこう書くと死ぬみてーだな。



おれはお前のことが好きだ。わかってると思うけどな!

お前もおれのことが好きだって知ってる。だからひとこと、好きだって言ってほしい。




おれから伝えたい大事なことはそれだけだ。




あと任せたぜあかあし!次期部長はお前だからな!





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ぽたり、しずくが一粒。溢れたそれは、あなたへの想いの欠片。






よくわかんねーですね!