大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: ハイキューBL ( No.62 )
- 日時: 2014/07/26 14:23
- 名前: 鑑識
山月のつもりです。
部活が終わりちらほらと人が帰りはじめると、俺はふわふわしたクリーム色に声をかけた。
未だ着替えている最中の彼の名前を呼ぶと、気だるげに振り向く姿に安心感を覚える。
一旦なんでもない、と話を誤魔化して、そのあと着替え終わったのを見計らってからもう一度声をかけた。
かえろ、という俺の言葉に対して、彼の返事は首を一度だけ縦に振ってyesのサイン。
やけに素直に頷かれて、思ってもみなかった事態に面食らう。
どうしたの、と呟く声は、同じくお疲れ様でしたという大きな声にかき消された。
溜息とともに荷物を肩にかけた彼を、焦って呼び止める。
自分の口から漏れた情けない声は、やはり彼を止めるには至らずにそこらへんの空気と同化していって。
おつかれさまでした、とあからさまにめんどくさそうな態度で言い放った彼はそのまま扉の向こうへと消えていった。
ーーーともかく追いかけねば。
「おつかれさまでした!」
部員の言葉を背中に受けて、謎の使命感と共に、錆び付いた扉を潜った。
暗い夜風の中に、クリーム色は佇んでいた。先に出たくせして、俺の言葉を無視したくせして、ちゃんと俺が出てくるのを待っていてくれたらしい。
そのことに気付いて上機嫌に駆け寄ると、「何笑ってんの、キモいよ」なんて一蹴されたけれど。
兎にも角にも、共に帰る気はあるようだ。
大人しく半歩後ろに位置して、長い足で歩く彼に置いていかれないように早足で。
そうしたら今度は頭の中で話題を探して、彼が気に入りそうなものを抽出していく。
急いでいる理由を聞こうか。いやいや、それはきっとそのうち話してくれるはずだ。じゃあ別の、えーとそうだな。
「ねぇツッキー、最近気に入ってる曲とかないかな?」
「……あるには、あるけど」
選んだ無難な質問に、無愛想に、しかしはっきりと答える。珍しい、素直に答えてくれた。
さっさと帰ろうとするので不機嫌なのかと思えば、案外そうでもないらしい。
安堵のため息をひとつついて、質問を続けた。
「それってどういう曲?」
「ギターが、かっこいい曲」
「へぇー、聞いてみたいなぁ」
するすると言葉を吐き出していく彼に目を丸くする。
やはり今日の彼はいやに素直だ。なにか愉快なことでもあったのだろうか。
ギターがかっこいい曲を頭に思い浮かべて、頭の中で試行錯誤する。こないだ聴いた曲は、あぁあれはベースがいいんだったな。ギターギター。
ふと、視界の端に赤いものが映る。
自分よりも幾分か高い顔を見上げると、眼鏡の奥に映るのは目線をあっちこっちへ飛ばしながら、時折こちらへと向く視線。
あ、目が合った。
そのままするりするりと視線を下げた先にある右手には、赤をベースに黒いラインが入った、見慣れたイヤホンがある。
普段はヘッドフォンの彼も、時折イヤフォンを使う。それはあまり大きな荷物を持ちたくない時だとか、首に下げるのが暑い時だとかそう大した理由ではないのだけど。
見慣れた赤いそれは、確かに普段彼が使用している物であった。
戸惑いを隠せないまま交互に見やっていると、むっすりと差し出された右手から大急ぎで受け取る。
これは、聞いてみろってことなのだろう。
「えっと、これは」
「....聞いてみなよ」
「あ、ありがと!ちょっとそこにでも座らない?」
「いいケド」
俺の手に収まった赤はそのままに、近くの公園にポツリと置かれたベンチへと歩き出した。
腰掛けると随分と冷たく感じられるそれは、大分ペンキが剥がれていていやにさみしい。
あとから右隣に座った彼は、イヤホンを左耳に着けた。ちらりとこちらに視線を当てて、俺にも付けるよう促す。
右耳にすっぽり収まったそれからは、既に曲が流れ始めていた。雰囲気から、そろそろサビと言ったところだろうか。
「今流れてるやつ?」
「うん」
「かっこいいね!」
「当たり前でしょ」
まぁ彼が気に入る曲といえばこういったかっこいいものが多いのだけど。
歌詞はほとんど聞き取れない。時折聞こえるloveだとかlikeだとかいう単語から、なんとなく愛だとか恋だとかに関連したものであることが想像できた。
「ねぇツッキー、ここの歌詞ってなんて言ってるの?」
「....なんだろうね」
なんと、わからないのだそうだ。
珍しいこともあるものだ、彼は大概気に入った曲の訳は網羅しているというのに。
不思議に思って隣を盗み見ると、彼はぼんやりととおくを眺めている。いつもとどこか様子がおかしい彼があまりに不可解で、ひとつの考えに思い当たった。
こっそりと右耳に付けた赤を外して耳をすませてみる。
あぁ、なるほど。わからないのも仕方あるまい。
「いい曲だねぇツッキー」
「そう」
「このサビのふんふふふんふんふーんってとこ好きかも」
「山口音痴。ふんふふふんふんふんでしょ」
ぼんやりとしたまま鼻歌を歌う彼の横顔がやけにかわいらしく見えて、頬が緩むのを感じた。そのまま、流れる曲に合わせてふらふらと音を奏でていく。
ねぇツッキー、とひと声かけて、振り向いたところを思い切って、だけど残り少ない理性を総動員させてできる限り優しく、抱き寄せた。
ふんわりと香るのはブランド物のシャンプーとかではなくて、俺の家と同じ家庭用のシャンプー。ふわふわの頭を軽く叩くと、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
あぁやっぱり。
「素直じゃないなぁ」
「....るさい」
「ごめんツッキー!」
何も音を流さないイヤフォンを外して、そっと耳元に口づけた。
壊れた片耳、奏でる片耳。
伝わる体温は中々に暖かい。
「急いでたのって、イヤホン、買いに行くためでしょ?」
「まぁ、ね」
「壊れてるならそう言えばいいのに」
「別に、言う必要ないでしょ」
「俺はツッキーと一緒に曲聴きたいなぁ」
「....知らないよそんなの」
「よし、行こいこ」
「ん」
はいわかんなーいわかんない。イヤホン壊れてんのに片耳貸してくれちゃうのがいいなぁって思っちゃったんだもん!思い立っちゃったんだもん!!もう!