ペットくんと飼い主さん
ちかん、っていうのは人生を諦めたおっさんがすることだと思う。
多分だから、男でも女でもみさかいなくやっちゃうんだろーな。
(…ッのジジィ…)
後ろから聞こえる気持ちわりぃ吐息。
がっしりした手は俺の尻を撫で回し、前へ行こうとしている。
正直、辛い。
変に触るからゲイでもないのに反応させられるし、身動きも取れないから逃げ場もないし。
なんて考えていた時。
「っ、ぅあ…」
電車が駅についた瞬間、びく、と肩が上がって、思わず震える。
立っていられなくて咄嗟に窓に手をつくと、窓にうつってたのは、にやにや笑うおっさん。
それと。
「ぁ…」
口をあけて、涙目で助けを乞うように見つめる、俺。
恥ずかしくなって窓にうつるおっさんを睨み付ければ、刺激がはしる。
(掴むなクソジジィっ)
必死に声を我慢しようとしてもやっぱり無理で、でも満員のなか喘ぎ声を晒すのは耐えられなくて、ゆらゆら揺れる意識の中、必死に隣の人の腕に抱きつく。
「…え、君」
「っぁ、た、すけてぇ…、ぅぐ…」
ヤバい。ヤバいヤバい。
自分のものとは思えないほどの甘ったるい声に羞恥心が芽生えつつも助けを乞えば、隣の人は何かを悟ったような顔して頷いた。
そしてスマートフォンを取り出して急に俺の顔を撮ったかと思えばおっさんの手をつかみ。
「おじさぁん、なにしてるんですかぁ?まさかチカン?男相手にぃ?」
結構な音量。
おっさんはあたふたと慌てて電車を降り、恨めしそうに隣の人を睨み付けた。
「あの、あんがと」
「んー別にぃ。あっ、良かったらうち来る?」
いきなりの誘いに戸惑ったものの、用事もないしいいよ、と笑ってみる。
すると彼は驚いた顔をして俺の腕をつかむとひっぱって、俺を電車から降ろした。
(……にしても、すげーな)
駅から徒歩五分と言う彼の家。腕を離す気配もないので諦めて、彼を見つめてそんなことを考える。
必ずイケメンの部類であろうその整った顔立ちは、男でも思わず見つめてしまう。
まつげ長いなぁとか、色白いなぁとか、目ぇでかいなぁとか、足長いなぁとか。
ぽやぽやと考えていれば、でこぴんによって現実へ。
「うが」
「もー何ねてんの。着いたよぉ?」
「あ、ご、ごめん」
咄嗟に視線を上げれば。
「…可愛い家」
こじんまりとした、可愛い家が建っていた。