大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: カゲプロr18 NLBL大歓迎! ( No.633 )
日時: 2016/12/13 00:01
名前: 海月













何か起こればいいのにな。何か起こればいいのにな。
それは、わたしの中では「願い」でしか無くて、実際に行動に起こす事は無かった。
願うだけでは叶わない。そんな事知っている。それは、わたしの中では夢のようなものだから。なにか胸がドキドキするようなこと。願っているだけで、想像するだけで満足している。





黒い壁、黒い床、黒い天井。
なのに照明ばかりは爛々と明るい。無駄に広い広い空間を隅々まで照らしていた。
窓の1つ無いこの部屋。壁の一面は本で埋まっていた。他にあるものと言えば、木製の物書き机に小さなベッド、壁に張り付いた、小さく揺れる大型のモニターにデジタルの掛け時計。小さなステンレス製の扉はお風呂に通じている。なんの可愛げもないインテリア。「あの時」以来、この部屋の警備は輪をかけて厳重になっていた。


読みかけの本にしおりを挟んで、そっと閉じた。
今日はもう寝ようかな。朝も昼も夜も分からないが、体が勝手に眠くなるから。
本を枕元に置くと、今日も物書き机に向かった。

10月2日


今日も本を読んだ
グリム童話、という短編集だ
すこし怖いお話だ
また明日も読む



そこまで書いて、わたしはペンを置く。昨日は何を読んだっけ。星空の図鑑だったかな。難しい言葉がたくさんだけど、不思議と読み入ってしまう。

机の隣、壁に張り付いているモニターにそっと触れて、「体調は優れているか」「変わったことはあるか」などの見慣れた質問に適当に答え終える。小さく揺れるモニター。実は強く揺すれば取り外せて、その下には大きな穴があって、そこを通じて外へ抜け出せるのでは………………そう、何度考えた事だろうか。実際には硬くて硬くて取り外せやしなかった。
ぱちん、と照明を落とし、わたしはベッドに潜った。

明日はきっと、何か起こるかな。
そう願うのはもはや習慣。
起こるはずもないのに、今日も願う。


いつもいつも同じ。
起きて、本を読んで、日記をつけて。
同じ日々。同じ生活。メビウスの輪みたいに切れ目が無い。抜け出せない。生きているのか死んでいるのか分からなくなってくる。明日の自分より明日の事をよく知っている。
この厚い厚い日記帳を捲り返せば、何千日と似たような事が綴られているんだもの。この先もずっとそうなんだろうな……っと、その矢先


「ふぎゃぁあっ!?」


背中に鈍痛が走る。寝返った背中のくぼみ(思いっきり押されると痛いところ)を強く何かに、すごく硬い謎の何かにゴリゴリと刺激された。なになに、なんなの!?
驚きのあまりベッドから転げ落ちる。わたしはベッドからなるべく離れた。どうしよう。なんだろう。わたしのベッドに何かいたのかな。
…と、転げ落ちて離れたはいいが、もう照明は落としてしまっている。真っ暗闇。なんにも見えないよ…。照明をまた付けるには、本棚のとなりまで歩かなきゃ。なんでこの部屋はこんなに広いの。
久方ぶりに目の奥が熱くなる。鼻の奥がつきんと痛む中、わたしの中の天秤には、謎の何かに対する「怖い」と何故か「楽しい」の二つの感情がかけられている。ずっしりと重みを主張する怖いに対し、楽しいは綿のように上皿にちょこんと乗っていた。

結論、謎の何かはとても怖い。

分からないってすごく怖い。
今日読んだグリム童話に出てくる、勇んで狼の腹を引き裂いた赤ずきんちゃんより怖い。
じっ…とベッドシーツを睨みつけるが、シーツの擦れる音などは聞こえてこなかった。謎の何かに動きは無いらしい。では、謎の何かは生物じゃなかったのか。えっ、じゃあ死んでるの?死後硬直だからあんなに硬かったのかな?だったら、謎の何かはずっとベッドにいたの?そもそも謎の何かってなんなんだ?
発火した思考は焚付けられるばかりだ。妄想という妄想が暴走する中、わたしは抜き足差し足でベッドに…謎の何かに接近した。心臓が口から出てきそうだった。

「………………」

動きは無い。
そーっとシーツに手を伸ばして伸ばして引っ込めるを繰り返す内に、指先がシーツ越しに謎の何かを掠める。
そういえば、わたしは能力を使えば目が赤く光るのだから、ここは発動させて照明のかわりにするべきでは無いだろうか。いやしかし、赤い光に照らされた謎の何かなど見たくない。だって赤い光だ。怖いよ。あぁ、けど、でも、うぅん………。

これでは謎の何かがわからない!
煮え切らない自分に苛立ちを感じた。
わたしの中の天秤は何故だか平等になりつつある。
むくむく、むくむく。わたしの中で何かが膨らんでいく。狼と7匹の子ヤギに出てくる狼は、最後腹にたっぷり石を詰め込まれて、その重みのせいで水中へ落っこちてしまう。それみたいに、わたしの中の「楽しい」という好奇心もどんどん膨らんで、ついに天秤が傾いて、それでも膨らみ続けて「上皿」という陸から「地面」という水中へ落ちてしまった。

結論、もういい、やっちまえ!

ぎゅう、と目をつむる。
息を短く吸って、ふっと止める。
くわっと目を見開く。
わたしはついにシーツをめくった。













「ばあああぁああ!!!」
「きゃあぁあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」






がばり。絶叫。ずしぃ、と覆い被さってきた謎の何かに腰が砕けて思い切り尻餅をついたが、その痛みすら驚愕が塗りつぶしてしまった。
不気味に煌めくその瞳。血のような色だった。チェシャ猫のようにぐにゃりと歪んだ笑み。全身にムカデが這いずるような悪寒が走る。
そして首元に当たる布地の感触に……んん、布地?
そしてシャンプーのいい匂いがする。…んん、いい匂い?
背中に腕が回されて……ううん、腕?人?人なの?









「あはは、はははははは!!ひぃ、ひ、そんな、そんな驚かなくったって、え、ひ、ひひ」




わたしをぎゅっとまま爆笑している謎の何か。がたがた揺れる。
この声。この笑い方。大きなブラッドムーンの瞳はいつも愉快に歪んでいた。「あの時」、いつも一緒にいた三人の中の一人。


重みが消える。
ぱたぱたとわたしから遠ざかったかと思うと、やがてぱちん、と再び照明が灯った。




「あはは、はーー…コホン。いやあ失礼失礼。あは、久しぶりなものでねぇ…少し羽目を外し過ぎてしまったね。今日は一報あってここに来たのだ」



謎の何かが露わになる。
赤い縦割れの瞳。靡く黒髪。
セーラー服に燃えるような赤色のマフラー。
その頬を覆う模様は蛇の鱗のようだ。






わたしは彼女をはっきりと覚えていた。
クロハに負けないくらいずる賢くて、目にしたもの全てを、まるで焼き付けるように記憶出来てしまう。
わたしとクロハの脱走の手助けだってしてくれた。
人目なんて気にしない。
周囲の雑音に惑わされない。
いつ如何なる時も我が道を行く、研究所随一のトラブルメイカー。

目に焼き付ける。

「いやあ何年ぶりかな!髪もすっかり伸びてしまって…そのもこもこ具合、とてもいいと思うよ」

「にしてもまぁべっぴんさんになったねえ!うん!あぁでも君は色白過ぎるよ。まっしろしろだ。少しは外へ出てみてはどうだい」

「全く、この研究所のザル警備がマシになったとはいえ……会えなくなるのは寂しいものだな。今日上がってくるのには一苦労だったのだよ!会えて嬉しいのだあ」


まだ腰が砕けているわたしに、焼き付けるはもう一度、ぎゅっと抱きついた。

















なにがメビウスだ。
なにが抜け出せないだ。
昨日の自分はなにも知らないじゃないか。
胸がドキドキ、いや飛びでるほどの事態に遭遇しているじゃないか。


セピア色に沈めていた記憶が、閉じ込めていた思い出のカケラが、時空を超えて日常へ転がり込んできた。
死んでいないだけの日常。まるで鮮烈な色彩を纏う過去が、くすんだ灰色の日々を叩き壊しに来た。焼き付けるのマフラーの色が、懐かしくて、目に慣れない赤色がまぶしくて。
涙がでてきた。




「……………っぅ、ぅぅ」

「な、そんな泣くほど驚かなくたって!感動の再会を地味にやる訳にはいかないじゃないか………」






後に何か言っていたけれど、よく聞こえなかった。
次から次へと涙が溢れて、嗚咽も止まらなくて、顔を見られるのが恥ずかしくて。焼き付けるの胸に顔をぐりぐり押し付ける。焼き付けるが耳元で何か喋っている。よしよしと背中をさすられる。
そしてやっと、強く打ち付けたお尻がじんじんと痛み出した。