大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.13 )
日時: 2017/09/20 12:42
名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA

第二話
『逃げた理由』
(side:洸流)


「白城君」
十一月中旬。
もう忙しく過ぎ去る日々にも慣れた頃。
僕はまた、彼と再会した。
「…………黒子君」
まあ、今回も偶然だと思う。
学校が終わった後フラフラしていたら声を掛けられただけだし。
「お久し振りです」

二人でファストフード店へ入り、隅の席で向い合せに座った。
「……今度はウィンターカップを見に来ないかって?」
彼の言葉を予想してそう訊くと「はい」と素直に返事が返ってくる。
「……無理だよ」
ホットコーヒー片手にそう答えるがどうやら彼は引く気は無いらしい。
「……黄瀬君は、変わりましたよ」
その先の言葉を彼は敢えて言わなかったが、僕には聞こえていた。
――――君はまだ、変わらないんですか?
反論なんてない。
反論なんて出来ない。
「…………前みたいに、純粋にバスケを楽しんで……もしかしたら、前以上かもしれません」
それは良かった。
僕が丁度引っ越す頃に皆が変わり始めていたのに気付いていたから。
「……黒子君も、変わったしね」
自分を必要としてくれる場所を見つけた人は、強くなる。
今の、黒子君みたいに。
「…………そうかもしれませんね」
いつまでも変わらない僕と違って、皆は変わっていく。
黒子君はあの頃と、明らかに目が変わっていた。
最後に会ったあの時、黒子君は寂しげな目をしていた。
でも、今の彼は生き生きしている。
とても楽しそうで。
「ちゃんと、黄瀬君と向き合ってあげてください」
それは、涼太のためか、僕のためか。
「……君が居なくなった後、黄瀬君は――――」
「そういうの、要らないから」
それ以上聞いたら今以上に涼太に会いたくなってしまう。
「黄瀬君は、君を待ってるんですよ」
さっき少し強めに言葉を遮り、その話はしたくないと目で訴えたのにも拘らず、強引にまた話を始める。
「……僕は、涼太に会う資格なんて無いんだよ」
それは、自覚して物凄く傷ついた事。
未だに諦められず、一人になると涼太の事ばかり考えてしまうからいつも何かに集中するようにしている。
「それは、君だけが決める事ではありません」
でも、事実には変わりない。
だって僕は、あの時涼太から――――あの現実から逃げたんだ。
そんな事をしておいて、
「ごめん、もう帰る」
コーヒーを一気に飲み干し、そう言って僕は立ち上がる。
これ以上話していたら、色々な事を思い出して辛くなるだけだから。
「今度こそ来てください。絶対に」
僕は彼の言葉に応えず、ごみを捨てて店を出た。


あの時、僕は。

  *  *  *

「何でお前が――――!」
「お前のせいで――――!」

あの頃僕は、虐められていた。
僕はベンチにも行く事もほとんど無く、マネージャーとして桃井(ももい)さん――女子マネージャー――と一緒に選手達の体調管理等をしていた。
僕は人の体調不良や怪我、試合時のクセを見抜き、監督や桃井さん、更には司令塔である赤司(あかし)君や部長である虹村(にじむら)先輩にも伝える役割をしていた。
しかし、レギュラーの一人である三年生が足首の怪我を隠し、練習している時いつものように僕は気付いて近くに居た監督と桃井さんにすぐさま伝えた。
勿論、すぐに赤司君にも伝わり、レギュラーを降ろされたという事があった。
その際、その三年生に二人きりになれる場所に連れて行かれて「何で怪我してるって伝えたんだ」と言われ、殴られた。

そこから、僕は皆の不満の捌け口になったのだ。

一年生に命令されると言う屈辱、すぐに切り捨てる監督。
一年生レギュラーである四人への嫉妬。
顔を殴られる事は無かったが、身体は良く殴られ蹴られていた。
何人にも、ほぼ毎日。

そんな時、涼太がバスケ部に入部した。
相変わらず涼太はスポーツ万能でグングン成長して。
すぐにレギュラーになれた。
それから更に暴力は酷くなっていくばかり。
モデルをして、あまり真面目にバスケ部の練習に参加しない涼太がなぜレギュラーに選ばれてるんだという不満が多発していて、僕は暴力や暴言に耐えるのが辛くなっていた。

「なあ、白城……ちょっといいか?」
重い体を引き摺りながら部活が始まる体育館へ向かう途中、わりと温厚なレギュラーである三年生に声を掛けられた。
「え、あっ、はい……」
僕に相談なんてするはずないし……先輩も、僕でストレス発散かな?
何て諦観していたら、先輩は気まずそうにこう言った。
「実は今膝ちょっと痛めててさ……そんな大事じゃなかったから良いんだけど……監督とかに知られたらレギュラー降ろされかねないし……もうすぐインターハイだから、黙っててほしいんだけど……」

口止めだった。
去年、僕が駄目にしたあの先輩は一週間安静にしていれば治る程度の怪我だった。
でも、あの先輩は引退前、最後の試合にベンチにさえ入れてもらえなかった。
そんな先輩に監督は「怪我をするほど軟なお前をレギュラーにしても勝つ事は出来ない。お前の代わりはいくらでも居る」と言い放ったのだ。
それを目の前で聞いていたこの先輩は、それを恐れてる。
でも、僕はこれしか仕事が無いのだ。
「えっと――――」
出来ない。そう、断ろうとした時、
「頼んだぞ」
威圧するようにそう言って後ろを気にしながら先輩は逃げるように去って行った。
多分、理由は先輩の後ろに赤司君が来ていたから。
「白城」
怪しげに赤司君は微笑み、僕の名前を呼ぶ。
「赤司、君……」
ちょっと驚いて言葉が出て来なかった。
いつも赤司君の気配に気付く僕が、初めて気付かなかったから。
「相談事かい?」
「あ……うん。ちょっとね」
間違ってはいない。
今、この場でさっきの話を言うべきか迷う。
最悪、練習の時違和感さえなければ誤魔化せるし。
初めて僕は赤司君の信頼を裏切る事になるんだろうか。
「ふぅん……まあ、いいさ。遅れてしまうよ、早く行こう」
と言いつつ赤司君はいつもの歩調で僕の斜め前を歩き出す。
歩くと、体が痛い。
でも、息が切れたら気付かれる。
だから平静を装いながら僕は彼について行く。
いつか気付かれたら相当怒られそうだな……涼太とか、赤司君とか……青峰(あおみね)君も。
なんて思いながら、僕は歩を進め続けた。

Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.14 )
日時: 2017/09/20 12:43
名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA

(side:洸流)続き


いつものように練習が始まった。
違和感さえなければ、と思ったけど、やはり微妙にタイミングがズレている。
一秒未満ではあるものの、ズレはズレ。
このズレに赤司君が気付かない訳がない。
「…………」
顔が、怒ってる。
僕を見ないでほしい。
顔を逸らして他の部員達を見る。
怪我をしている者はいないが、あちこちで一年生がへばっている。
皆筋肉痛だ。
「白城」
大事な"キセキ"達にはマイナス面での変化はなく、安心していると不機嫌な声で赤司君に呼ばれた。
「っ……」
急に後ろから呼ばれて驚き、体が跳ねた。
「…………」
無言の威圧。視線を逸らすと余計怖くなるから恐る恐るその眼を覗く。
「知っている事があるなら話せ」
赤司君の肩越しにはあの先輩が見える。
こっちを見て、これまた威圧してきている。
「えっと……」
二人からの威圧。
精神的に怖いのはもちろん赤司君。
でも、肉体的にも精神的にも影響があるのは先輩。
僕のせいで試合に影響が出たら困るのも事実で。
「西野(にしの)先輩が……右、膝を……」
僕は、それしか言わなかった。
赤司君は一度溜め息を吐いて踵を返す。
恐らく、あの先輩の許へ行く。
僕は目を逸らして、これから起こるであろう事からも目を逸らす。
また、人が増える。
でも、僕の仕事は少しでも余裕で勝つための支援。
それしか、ない。

一度視線を戻した時、あの先輩に殺意の籠った目で睨まれた。
その時、本当に殺されるんじゃないかと思った。
初めてではないその感覚。
もう慣れつつあるその感覚。
そして、今日もまた。

やはり人数は増えていた。
五人だったのが八人になっていた。
これから先もっと増えるのかと、恐怖に体が震えた。
また殴られて、蹴られて、罵られて。
先輩たちのストレスを受け取らされる。
痛い。
苦しい。
煩い。
聞きたくない。
逃げたい。
逃げられない。
泣きたくても泣く事さえ許されなくて。

部活がある程度終わるとレギュラーメンバー以外解散となる。そしてその後僕は先輩達に人気のない屋上近くにある階段の踊り場でストレス発散を受けていた。


それでも、帰る時はいつもと変わらない。
先輩たちが満足した後、僕は歩くのすら辛いなか、平静を装いながら教室に荷物を取りに来ていた。
「ひーかーるっ!」
不意に後ろから抱きつかれ、全身に痛みが走った。
「っ……」
何事かと振り返る事も出来ない。
「えっ? そんなに勢い良かったっスか?!」
慌てて僕から離れたその声に、一瞬で痛みを意識から切り離す。
「なんちゃって」
へらへら笑って振り返ると、慌てる涼太が目に入る。
「ちょっ……も〜、なんなんスか〜!」
安心したように笑う涼太を見て、僕も安心する。
大丈夫、バレてない。
「急に抱き付いてくるからだよ」
不意打ちは卑怯だよ。
バスケでもね。
まあ、この学校なら何にも言われないかもしれないけど。
「酷いっス……」
「酷くないし」

なんて遣り取りをしながら二人、ほぼ同じ帰り道を歩く。
途中まで他の"キセキ"のメンバーも一緒だったけど、最後は二人で歩いてる。

「洸流、また明日っスね」

いつもそうやって僕達は途中で道を別れていた。

「うん。また明日――――」

  *  *  *

家に着いて直ぐベッドに横になる。
昔の事を思い出して、気分が悪くなっていた。

今でも体中に痣が残ってて、それから目を背ける事の出来ないお風呂が憂鬱で仕方がない。

誰かに相談していれば、何か違ったのかもしれない。
でも、みんなに迷惑はかけたくなかった。
僕が我慢すればいいだけだった。
だったのに。
我慢できなかった。
残り一年の、我慢が。

元々僕が中学に上がる時、父は単身赴任で引っ越していた。
でも、僕が中三に上がる時、丁度二人が小学校を卒業するから引っ越そうと、僕から言った。
母さんは「あと一年なのに大丈夫?」と心配してきたが、大丈夫じゃないから引越したいなど言えなくて、大丈夫と答えた。
隣の県に引っ越す事、灯里も輝哉も反対はしなかったけど、二人は結構鋭いから僕の事を心配してた。まあ、大丈夫で押し通したけど。
隣の県に移住して、でも都内の高校受けた方が良いって言われて、今は高校の近くに一人暮らし。
中学最後の一年は暴力に怯える事なく過ごす事は出来た。
でも、やっぱりずっと涼太にさよならは言うべきだったかと考えていた。
そしたら理由を訊かれそうで、怖かった。

「っ…………!」

急に、身体に痛みが走った。
誰にも殴られてないのに。
誰にも蹴られてないのに。
体が、痛い。
怖い。
嫌だ。
誰か、助けて。
もう、終わったのに。
「りょ、うた……」
気付けば、僕は泣きながら涼太の名前を呼んでいた。
助けになんか来ないのに。
痛みなんて幻覚なのに。
苦しいよ。
会いたい。
会えない。
会いに行きたい。
会う資格なんてない。
つらい。
全部幻覚。
そんな事判ってる。
でも、怖い。
もう怖い事なんて無いのに。

――――プツッ
そこで、僕が意識を手放していた。


第二話『逃げた理由』完