大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.15 )
日時: 2017/05/03 18:20
名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA

第三話
『ひとりの理由』
(side:洸流)


「あー……」
地を這うような声で溜め息と共に声が漏れた。
今日は、朝九時から一時間の休憩ありで夜七時までアルバイト。
本が好きで、あまり人とかかわらずに済むからという理由で選んだ書店。
昨日、あのまま寝てしまって朝から長風呂して空腹を満たしたのにも拘らず、まだ朝の七時。

いつか、つらい思いなんてせずに涼太を思い出す事が出来るのだろうか。


人が一番居ない時でも見える範囲にお客様が四、五人は居るという全国にも何百という支店のある本屋は、今日も相変わらずだった。
平日や週末に関係無くお客さんが絶えない場所。
僕はそこで棚に本を補充すると言うのをメインに働いている。
違う場所に本が来ていたら元の場所に戻したり、時々お客様に応待したり。

「おにーちゃん、あそんで……?」
けど、なぜか僕は良く小さな子供にこうやって声を掛けられる。
「えっと……迷子かな?」
子供の目線に合わせて屈むと、話し掛けて来た女の子ははにかむだけで応えてくれない。
「一人なのかな?」
笑顔で訊いてあげる。
でも、えへへって笑うだけ。
うーん……。
「お名前は?」
マイクを握るような仕草をしてそれを女の子に向けて質問する。
「えりちゃん」
あ、返ってきた。
「えりちゃんか。可愛い名前だね」
女の子は照れながらも嬉しそうに笑う。
「ママがね、つけてくれたの」
お母さんと一緒の可能性が高いかな。
「じゃあさ、えりちゃん。お兄さんと、えりちゃん、どっちがママを見つけるのが早いか競争しようか」
遊んでほしいなら、やるって言うはずなんだけど……。
「うん!」
やった。

先輩に一言声を掛け、サービスカウンターに女の子を誘導する。
「あっ、ママだ!」
「エリカっ」
サービスカウンターには女性が既にいて女の子の声に反応して振り返った。
「やった。えりちゃんのかちだねっ!」
母親に抱き上げられながら女の子は笑ってそう言った。
「お兄さん負けちゃった。でも、もう次はこの遊びしちゃだめだよ?」
そう声を掛けると、女の子は「はぁい」と応えてくれた。
その間、お母さんは僕に謝りつつ女の子を叱っていた。

「あ、お帰りなさい」
「ただ今戻りました……」
月一で子供に話し掛けられるのはちょっと……、そう苦笑を漏らしながら元の仕事に戻る。
子供はとても無邪気で、元気だ。
そして、とても素直。
「小っちゃい子、嫌いだっけ? いらっしゃいませー……」
先輩はこそこそと話しつつ、あまり大きくならない程度の声でお客さんにも挨拶をする。
「いらっしゃいませ。なんていうか……無垢な目で見られると、胸に刺さります」
僕もそれに応え、お客様にもしっかりとご挨拶をする。
「あ〜……あの目は、うん。確かに」
あの純粋な無垢な目で見られると、責められているような錯覚に陥るから。


土曜日という事もあり、そこそこに人がいて少し人に酔いそうになりながらあと十五分ほどで休憩に入る頃まで来た。
雑誌類のコーナーの整列、補充を行っていると印象的な金髪が視界の端に映った。
気のせいかと思い、そちらの方を盗み見ると、気のせいではなかった。
この辺ではあまり見ない制服を着ている、ピアスを付けた長身の――――、
「…………涼、太……」
見間違いなんて、するはずがない。
最後に会った時より、身長が伸びていて、顔も大人びていた。
それでも、判る。
心臓が痛いくらいに跳ねている。
「――――あの、すみません」
お客様からの声でハッとした。
思わずじっと見つめていた涼太から視線を外し、笑顔で「はい、どうなさいました?」と応える。
欲しい雑誌の在庫があるかどうかという事で、下の引き出しを開けると残り五冊だけ残っていた。
「こちらでよろしいでしょうか?」
その雑誌の表紙を飾っていたのは、涼太で、また心臓が跳ねた。
でも、笑顔はちゃんと保ってそれを手渡しし、時計を確認する。
あと、十分。
涼太と会わずに休憩に入れるのか、それとも。
「ぁ、っ……」
ふと、視線を感じてそちらを向くと、涼太と目が合った。
声が出なくて、そっぽを向いて足早にその場を去る。
あと十分も残っているから流石にバックに戻るわけにいかず、取り敢えずトイレへ向かう。
足早に、誰ともぶつからないように人の合間を縫っていく。

トイレが見えて、少し足を早める。
心臓が破裂しそうな程、胸を叩き続けてる。

――――カシャンッ
個室に入り、鍵を閉めて一つ溜め息を吐く。
「洸流」
壁を挟んですぐそこに、涼太の息遣いを感じる。
ずっと聞きたかった声だ。
ずっと会いたかった人が居る。
「洸流……そこに、いるんスよね?」
涼太の声は、少しだけ震えてる。
顔が見えない分、余計に声に集中してしまう。
応えられない。
涼太、ごめん。僕は、君に会える資格は無いから。
「っ…………十二月、二十七日に試合やるんス、来て、欲しいっス……!」
胸が痛い。涼太……。
「りょ、う……た……」
鍵を開ければ、触れられる。
そしたら、謝罪だって。
涙が止まらなくて、その場にしゃがみ込む。
「会いたいんスよ……洸流に……」
こんな、僕に。
「ご、めん……」
ごめん。ずっと、ずっと。
でも、開けられない。
僕は、君にふさわしくないから。
「待ってる、から……」

その言葉を最後に、涼太の気配はなくなってしまった。


第三話『ひとりの理由』完