大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.17 )
- 日時: 2017/09/20 12:45
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
第五話
『流れた時間』
(side:洸流)
少し前に二学期が始まったはずだった。
感覚では、だけど。
あっという間に流れた時間。
だってもう、今日は二学期最後の日。
冬休みの比較的短い期間の休みでも短期のアルバイトを入れる予定だったのに、少し前に親から「体を壊すから止めなさい!」と言われてしまい、あの書店だけになってしまった。
校長先生の長くて眠くなってしまいそうな話でさえ、僕はそんな素振りも見せずに真面目っぽく聞く事が出来る。
本当は、話なんて頭に入って来てないし。ずっと違う事を考えているから。
天皇誕生日前日の終業式。
涼太の試合まで、あと一週間もない。
まだ、行くかどうか迷ってた。
二ヶ月前に涼太と再会した時、僕は気付いてしまったんだ。
涼太に嫌われたくないと言いながら避け続けて、それでも想ってくれてる事が嬉しくて。繋ぎ止めたくて。しかも、涼太と――――あの出来事とちゃんと向き合う事を避けているだけだって事に。
本当の話をしたら、引っ越した理由を話したら、涼太は何て言うのかな。
あれは、仕方がない事だってずっと自分に言い聞かせてたから。
僕のせいでレギュラーを降ろされる先輩が何人もいたのも事実だし、そのせいで引退試合にちゃんと出る事さえ叶わなかった人も、たくさん。
やっと終業式が終わって、家に帰った。
これからの休みの日、何かしらの予定を入れないとずっとマイナスな思考で埋め尽くされてしまう。
「………………」
僕一人の部屋で、何度も涼太の名前を呼びそうになるのをぐっと堪える。
呼べば呼ぶほど会いたくなる。
僕の名前を呼んでほしい。
涼太の声が聴きたい。
「っ、あ〜……もう……」
ずっと、涼太の事しか考えていない。
「散歩でもしよう」
制服から着替えて何も考えたくなくて外へ出た。
* * *
ふらふらと何となく気の向くままに歩いて小さめの児童公園に行き着いた。
子供がちらほらとは遊んでいるが、子供達は皆ランドセルを遊具の傍に放置して遊びに集中していた。
純真無垢。
その言葉が似合うのは子供の内だけ。
でも、子供にも似合わなくなる時期は来る。
子供はいつまで経っても子供のままじゃないかもしれないから。
「あれ? 洸流じゃん」
ベンチに座って家に居る時と大差ない思考の中に居たら急に声を掛けられ、徐に顔を上げる。
「あ……伊崎君」
夏休み以来の再会。
あの時とは違う荒れ方をしている僕の心に、彼の存在は響かなかった。
少しボーっとしながら名前を呼んだものの、彼からの返事はない。
「何か悩んでるわけ?」
悩んでる。でも、相談してどうにかなるものでもないし。
特に、伊崎君に相談しても、ね……。
「……別に……」
冷たくそう応えて背凭れに寄りかかる。
涼太に来てほしいと、会いたいと言われた。
僕は本当に会いに行ってもいいのだろうか。
「…………また虐められてるとか?」
僕の隣に座り、静かな声でそう訊いて来た。
僕を虐めていた人達以外で、僕が虐められていた事を――――僕の秘密を知る唯一知る人物。
「違う。今は、もう……」
虐められてないんてない。
今は平和に、退屈に過ごしてる。
「じゃあ、どしたの?」
あんまり何回も訊かれたら言ってしまいそう。
僕は、結構単純だから。
「関係無いし」
この悩みを打ち明けるのが怖くて、また僕は逃げる。
また行くあてもなくどこかへ散歩に行こう、そう思って立ち上がる。
「ちょい待ち」
不意に腕を掴まれ、カクンッと後ろに引かれて少しバランスを崩す。
そしてバランスを崩した僕を伊崎君が受け止める。
「…………帰る」
腕を振り解こうとしても伊崎君の力に敵わなくて、腕を掴まれたまま睨みつける。
「……黄瀬が原因?」
「っ……」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
解り易く反応してしまったから、伊崎君にはもう気付かれただろう。
「何かされた?」
涼太はそんな人じゃないし。
睨みつけると伊崎は小さく溜め息を吐く。
「話、聞くけど?」
そっか相談じゃなくて、話すだけなら……。
* * *
結局、僕は試合を見に行くかどうか悩んでいるという話をした。
やっぱり、僕は単純だと思う。
「ふーん……じゃあ、やっぱり黄瀬は知らないのか。中学の時の、アレ」
知らない。教えてない。話してない。
だから、僕が急にいなくなった理由も知らない。
「…………はぁ……羨ましい限りだよ、ホント」
伊崎君がしみじみと呟いた言葉の意味が理解出来ず、首を傾げる。
「…………俺が洸流の事好きだって忘れてる?」
「いや、憶えてるけど……」
それが何で羨ましいに繋がるの?
頭にクエスチョンマークを浮かべていると伊崎君に苦笑されてしまった。
「洸流にそんなに想われてて良いな、って言ってんの」
不意にそんな事を言われたら、どう返していいのか解らなくて俯く。
確かに、涼太の事好きだけど……。
「…………でも俺が洸流にそうやって避けられてたら、当然嫌われてるって思うけどね」
その言葉で、不安になる。
でも、そう思われるのは当然。
自業自得なのに。
「自分勝手だよね」
知られたくないから遠ざけて。
でも繋ぎ止めていたくて。
「繋ぎ止めたいなら、気持ちを全部言うべきだと思う。でも、知られたくないなら、拒絶するべきだ」
極端な二択で、どちらかを選ばなければならない。
でも、もし――――、
「これ以上曖昧にしたら確実に嫌われるよ」
「っ……や、だ……」
その可能性を考えた。
曖昧にしたなら、知られないまま繋ぎ止められるかもしれないって。
なのに、伊崎君は僕のその思考に先回りしてその道を断った。
「……なら、答えは一つだと思うけど」
気持ちを全部伝えるって、事。
受け入れて、もらえるのかな。
「黄瀬の事、信じなよ」
――――もし駄目だったら俺が受け止めるからさ。
伊崎君はそう言い残して帰って行った。
* * *
皆が変わっていくのを、僕はただ傍で見ているだけだった。
少しずつ、バラバラの方向へ向かって行っている。
それぞれが孤立して、まとまりが無くなっていく。
それでも監督は、勝てればそれでいいとそう言った。
でも、それじゃ駄目だった。
皆が変わっていく事に、負ける事のない退屈な試合に、皆は呆れて更に変わる。
そうなるのも解ってた。
防ぐ事なんて出来ないけど、それでもあの時、何かすればよかった。
「あと、五日……」
――――黄瀬の事、信じなよ。
――――会いたいんスよ……。
伊崎君の言葉と、涼太の言葉が頭を巡る。
「……いいのかな……」
* * *
それから、一日一日がゆっくりと過ぎて行った。
そして、今日は、運命の日。
何かが変わる、そんな日になると思う。
第五話『流れた時間』完