大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.8 )
- 日時: 2017/05/03 16:56
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
(side:洸流)続き-4
ルールは火神と僕の一対一で、僕がゴールを守り、彼がゴールにシュートを決めれば彼の勝ちという簡単なもの。
制限時間は五分。スリーポイントシュートも、ダンクシュートもあり。ただ単に僕から点を奪えば良いだけ。
「さあ、準備は出来たよ。いつでもどうぞ」
僕がそう言うと火神の顔つきが真剣なものになる。
僕は火神に好きなタイミングで初めて良いと言った。彼が動き始めたら黒子君がタイマーを作動されるように言ってある。だから、僕と黒子君はいつ彼が動き出すか解らない。
「いくぜ、黒子!」
火神は黒子君にそう言ってから動き出した。お恐らく、正々堂々勝負したいからだろう。
でも、それじゃあハンデを課した意味が無い。その代わり、僕は火神が隣を過ぎるまで一歩も動かない事を勝手に決めた。
それでも十分に間に合う。
僕は、隣を火神が通った瞬間に体の向きを変え、彼の半歩先に出る。
「っ……!?」
そして、財布を掏るようにボールを奪い、彼から距離を取る。
先ほど一人で練習をしていた時、要所要所でクセが出ていたからそれを考えれば彼からボールを奪う事はとても容易だった。
「奪ってみなよ」
僕は棒立ちのまま、繰り返しボールを地面に叩きつけ受け止める。
さあ、早く。そう挑発するように笑ってみせると、僕の狙い通り突っ込んでくる。
彼のその様は、猪突猛進を体現したようなものだった。
「だから、君は読みやすい」
彼には聞こえないほど小さな呟きに、久し振りのバスケを自分が少し楽しんでいる事を自覚する。
彼の手を躱し、わざと僕が守るべきゴールの方へ誘導してみたりする。すると更に彼は僕の手元へ手を伸ばす。でもその手はただただ空を掻くばかり。
「…………やっぱり……――――」
半分無意識に口にしていた言葉を意識的に言うまいと口を閉ざし、わざと彼にボールを渡らせる。
でも、彼は手を抜かれている事に気づいていない。
そして、スリーポイントシュートを決めるべく、狙いを定め跳ぶ。
「甘いよ」
彼が跳んでから、一秒未満の間を開けて僕も跳ぶ。
彼の手から放たれたボールは、一直線にゴールへ向かっていた。でも、そのボールはゴールに届く寸前、僕の手によって弾かれた。
「なっ……」
彼は驚愕に顔を歪め、着地する。
それはそうだろう。彼と僕とでは二十センチ程度の身長差があるのにも拘らず、僕は一秒未満の間で彼の後に跳んだ。
そして、彼の高さを頭一つ分、越した。彼も三十センチは裕に跳んでいただろう。でも、僕はそれ以上だった、と。
――――ピピピピッ、ピピピピッ!
ゲーム終了の音が鳴る。
彼は少し呼吸を乱し、驚いた表情のまま固まっている。
「ありがとうございました」
僕は彼に一礼してからベンチの方に居る黒子君の方へと向かって歩く。
「……僕の勝ちだね」
黒子君を横目で見ながら静かに自転車のロックを外す。彼はこちらを見ながら静かに「それでも」と言う。
「気が向いたら、来てください」
一年半前とは少し違う、彼の眼を見つめながら、嘘と本音を混ぜて答えた。
「気が向けばね」
あれから一週間。また、同じファストフード店でのアルバイトの日に彼らは来た。
お得意様である火神君は解るけど、黒子君までもが来る必要性はない。しかも時々こちらを振り返って見ている。
勿論、気付いていない振りをする。
「白城君の知り合い? 先週も話しかけられてたよね?」
一通り仕事が落ち着いた後、先輩がこっそりと話し掛けて来た。
「あぁ……まぁ……」
僕は否定も肯定もせず、曖昧な返事をして正面に向き直る。
「柳沢(やぎさわ)、サボんなよ」
気配もなくプレッシャーを与えに来た店長に先輩は肩を竦め、静かに戻って行った。
「それと、白城。ちょっといいか?」
店長の目的は僕で、先輩への忠告はついでだったようで「はい」と答えると代わりの人がレジに立ってくれた。
そのまま店長と二人で事務所に戻り、椅子に座るよう促されて事務所に設置されている休憩所で店長と向い合せに座った。
「白城、最近お客とトラブってはいなよな?」
いや、トラブルは起こしていない。だが、何となく、先程の二人の顔がチラつく。
「トラブル……? 覚えはないですけど…………あの、もしかして苦情でも?」
少し戸惑いながらも訊くと「そう言うわけではないんだが……」と言葉を濁している。
「表にいらっしゃるお二人のどちらか、ですか?」
仮に、黒子君だった場合はもう一度説得したいから訪ねてきているだけで、火神だった場合は、もう一度バスケがしたいから訪ねて来ている、と言ったところかな。
「ん? いや……違うが……知り合いなのか?」
的外れだった。つまり、あの二人ではない。
僕がここで働いている事を知っている知り合いは、あの二人だけのはずだ。親はどんな店で働いているかは知っているが、どこで働いているかは知らない。
……誰なのか全く想像つかない。中学の時の知り合いか、高校の知り合いかが僕が働いているのを見かけて訪ねて来たのだろうか。
中学の知り合いだったら、少し困るな……などと考えていると、店長が一つ溜め息を吐き、
「実は、今日の午前中に茶髪でサングラス掛けたちょっとチャラめのアンちゃんが来て…………白城洸流っていうアルバイトはいないかって訊かれてな…………」
茶髪、チャラめで僕を訪ねてくる人物。
「高校生ぐらいですか?」
僕の問いに店長は呻りながら「そう見えなくもない」と曖昧な答えを出す。
そう見えなくもない、か……。
「その人、背高いんですか?」
淡々と問う僕に店長は何も違和感を覚えていないらしく素直に答える。
「ああ、まあ何かスポーツやってたのかっていうぐらいには」
「…………そうですか……」
どうせ、ここは二学期が始まる前に辞めると言ってある。だから、残り少ないシフトの中でその人物と出会わない事を願おう。
もしその人とと会ったら面倒な事になりそうだ。何となく、だけど。
軽く頭痛を憶えながらも平静を装いながら「多分、知らない人ですね」と答えて再び表に戻った。
* * *
その日の夜。夜十二時。
あまり時間が無く、なかなか出来ない洗濯もさ流石に夜帰って来たらシャワーを浴びた後――毎日とは言えないが――洗濯をして乾燥機にかけて……と色々していると日付けを跨いでしまう事が多い。
「ふぅ……」
ベッドに横になり、溜め息を吐く。明日は六時半には起きなければ朝のアルバイトに間に合わない。
早く寝なければ……と思いつつも今日は流石に体が怠く、度が過ぎると眠りに就き辛い。
憂鬱で、すぐに過ぎていく毎日。
僕は一体何をしているんだろうなぁ……。
色々考え事をしている内に瞼が重くなり、部屋の電気を消してもう眠る事にした。
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.9 )
- 日時: 2017/05/03 17:07
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
(side:洸流)続き-5
――――――――
「洸流」
学校の屋上で目をつぶった状態で日向ぼっこをしていると不意に声を掛けられた。
「んー?」
声の主が誰か判り、目を瞑ったまま返事をすると隣に人が座る気配がする。
「なーにしてんスか?」
斜め上から声降ってくるがまだ目を開けずに「日向ぼっこ」とだけ答えると髪をくしゃりと撫でられる。
「んー……くすぐったい……」
ゆっくりと目を開けると太陽の光が目に入り、次に彼の――――幼馴染みの楽しそうな顔が目に入った。
「やっぱ、洸流って髪柔らかいんスね」
彼に言われて初めて意識し、自分の髪に触ってみる。
「そうかな?」
僕は横になったまま手を伸ばし、微笑む彼の髪を撫でる。僕の行動を意外に思ったのか、彼は少し驚いたような顔をする。
「あー……うーん……でも涼太(りょうた)も柔らかいんじゃない?」
すぐに手を放すと彼は照れたような反応を見せる。
「オレ、髪撫でられたの洸流が初めてっスよ」
自分の頬を指先で軽く掻きながら苦笑のような笑みを浮かべて呟くように僕に言った。
「あ……もしかして嫌だった?」
僕がゆっくり半身を起しながら聞くと彼は首を横に振る。
「そっ、そういう意味じゃなくて! ただ……」
彼はそのままもごもごと俯いてしまう。僕が彼の言葉を待っていると、チラッと上目使いでこちらの様子を窺ってきた。
「ただ、何て言うか……ちょっと、特別っぽい、かな……なんて、思ってたり……」
「…………――――」
彼は愛の告白をした後のような少し気まずい表情でこちらの様子を窺っている。
「ふふっ」
その様子を見て、僕は彼に犬の耳や尻尾が生えている姿を連想してしまったため、思わず失笑してしまった。
「なっ、ちょ、そこ笑うとこっスか!?」
彼は頬を少し紅潮させ少し拗ねた様な顔をする。
「ごめんごめん。僕が涼太の"初めて"って何か面白いなって思っちゃって……」
少し先ほどの失笑を引きずりながら彼の機嫌を直そうと声を掛けるとジーッと僕の方を見つめてくる。
「面白くなんかないっスよ」
まっすぐこちらを見据え、至って真面目な顔でそう囁くと何故か僕に顔を近付けてくる。
「……?」
戸惑っていると息のかかる距離で彼の顔は止まる。
「オレの"初めて"は、ずっと洸流だったんスから」
僕の顎にそっと彼の手が添えられ、ゆっくりと彼の顔が近付いて来た。
「だから――――」
――――――――
「…………ちょっ…………とっ…………って……夢、だよね……」
夢を見たおかげでいつの間にか半身を起していて、夢から現実に意識をちゃんと戻してゆっくりと後ろに倒れる。
「……はぁ……」
思わず溜め息が漏れる。こんな夢を見るという事は彼に会いたいという事なんだろうか。そんな資格もないくせに。
「…………はぁ〜……」
更に深い溜め息が漏れる。気持ちを切り替えてヘッドセッドにあるはずの時計を手探りで探る。
「ん、っと……」
見つけた時計を引き寄せて時刻を確認する。
――――午前五時三十分。
本当はもう少し寝ていたい所だけど、二度寝するとアルバイトに遅れてしまう。
「仕方ない、か……」
彼の出てくる夢を見るのは恐らく三日振りぐらいだ。
少し前に比べたらその頻度は減ったが、それでも三日。
どれだけ後悔しているかが良く解る。
でも仕方なかったんだと、これでよかったんだと、そう思うしかない。
いつもよりゆったりと準備を済ませ、朝六時四十五分。
太陽が昇り、道を明るく照らしている。僕はその太陽の光に目を細めながら自転車を走らせる。
これから行くアルバイト先は朝七時から休憩ありで昼二時までのシフトで出ている短期アルバイトのコンビニである。
家から十分。駅に向かう途中にあるバイト先に向かって少し疲れの残る足を動かす。
この生活が終わるまで後一ヶ月もない。早く過ぎていくことを願うばかりだ。
正直辛いし、しかも今月に入って彼の事ばかり思い出してしまう。
もう少し。あと少しであの退屈でのんびりとした日々を過ごせる。
でも今日は書店の方で午後三時からアルバイトがある。今向かっているバイト先から家に戻るのに十分。更に駅とは反対方向に十五分。あまり家でゆっくりもできないスケジュールだ。
「あぁ……僕って、一体何でこんな事してるんだろ……」
今までうっかり口に出す事も、なるべく考える事もしないようにしていたその言葉を、無意識に口にしていた。
それから二学期が始まるまで、あのファストフード店で働くとたまにあの二人を見かけていたがほとんど話さず、たまに視線を交わす程度で過ごした。
一度話したあの日以来、何事もなく単調に毎日を過ごす事が出来た。
「……さて……と…………」
九月一日。今日から二学期が始まり、アルバイトも今日から一つになる。
これでいつもの退屈で単調な毎日に戻れる。
半袖のワイシャツに夏仕様の制服のズボンに学生鞄。一ヵ月前の登校日以来の制服に袖を通すと分刻みのスケジュールから解放される感じがして、少しだけ安心した。
今日、午前中は始業式で午後の二時間の学活の後、学校が終わる。その後今日はアルバイトも無く、暇なので夕方に妹達と会う約束をしている。
そしてまだ少し倦怠感の残る足を動かし、家を出た。
学校に着くと亜理紗が最初に話し掛けて来た。
「今日から通常営業でしょ?」
ニコニコしながらそう訊かれ頷くと物凄く笑みが深まる。
「じゃあ、早速今日の放課後何処か――――」
「――――亜理紗」
不意に唯乃が亜理紗の隣に立ち、溜め息混じりに名前を呼ぶ。
「ん?」
「何?」と唯乃の意図に気づいていない亜理紗に、唯乃は半眼で軽く頭を押さえる。
「天然……だよね…………」
急に老けた口調で呟き、子供に言い聞かせるように亜理紗の眼をしっかりと見て言う。
「洸流君はずっと忙しかったから休まないと体が持たないと思わない?」
…………。
沈黙。
「あ、そっか」
うん。理解してくれたみたいだ。
妹達と約束があるから行く気は無かったけど、そっちから引いてくれるのはありがたい。
まず、そこまで深い付き合いするつもりも無かったのに何故そんなに色々な所に連れて行かれるのかが解らない。
「ごめんね」
亜理紗が申し訳なさそうに謝られ、社交辞令として「謝らなくてもいいよ」と苦笑を含みながら言うと亜理紗が少しへこんだような顔をする。
「私って結構空気読めないんだよねー……」
しみじみと呟くと周りが慌ただしく自分の席に着く音が聞こえる。
「やばっ、這禽(はっとり)先生が来ちゃう……!」
這禽裕亮(ゆうすけ)――――僕のクラスの担任で生徒からの人気が高く、爽やかで基本的には優しいが怒らせるととても怖い。三十代半ばなのだがたまに高校生と間違えられるほどの童顔である。数学を担当している。
僕は少し、あの人が苦手だ。
「おはよう、皆。良い夏休みを過ごした人も多いかなと思いますが、まずは各教科の担任の先生に宿題を忘れず、提出してくださいね」
相変わらずの爽やかさで女子を癒している。だが、定期的に這禽先生と目が合う。
気まずそうに視線は外されるが、ショートホームルームの中で十回近く目が合った。
その後、体育館に移動し、始業式を終わらせたら学活が続き、放課後になると這禽先生から呼ばれて少し教室に残る事になった。
「白城君、本当にバスケ部入る気、無い?」
這禽先生は男子バスケ部の顧問を務めている為、僕がバスケの強豪校である帝光(ていこう)中学に二年間在籍していて、更にバスケ部に入っていた事まで知っていた。その為入学してからずっと誘われている。
「すみません。僕はもうバスケは辞めたので」
何度も同じ答えを言うものの、熱烈なアプローチは中々止まない。
「今度、見るだけでも良いから来ない?」
多分先生は僕にバスケをする姿を見せて、やりたそうな顔をしたら一度入れて、あわよくば入部へ……と考えているのだろう。
でも、僕は見ているだけであまりバスケをしたいと思った事は無く。体力もそんなに無くから、最近火神君とバスケをした時もあまり激しく動かないように努めていた。
「いえ……それに、僕は中学の時、バスケがしたくてバスケ部に入ったわけではないので」
――――すみません。今日は約束があるのでもう帰ります。
流石に、苦手な先生の相手をしていると疲れる。
僕は断りを入れて教室を後にした。
「…………はぁ……」
――――そんなに溜め息ばっかり吐いてると幸せ逃げちゃうっスよ?
「……っ……」
不意に、昔聞いた涼太の言葉を思い出した。
彼の言葉を、声を、仕草を思い出す度、胸がチクチクする。
黒子君に会ってから、涼太の事を思い出す事が増えた気がするし。
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.10 )
- 日時: 2017/05/03 17:21
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
(side:洸流)続き-6
今朝目が覚めたのが早かったため、自転車ではなく徒歩で来ていて、ゆっくりと街を散策していた。
途中赤信号につかまり、少しボーっとしながら信号が変わるのを待っていた。
「洸流」
不意に名前を呼ばれ、そちらを振り返ると懐かしい顔を見つけた。
「…………伊崎(いざき)君」
出来れば君の顔は見たくなかった。
口に出しかけた言葉を飲み込み、彼の――――伊崎結友(ゆう)の名前を呟くに留まらせる。
茶髪で、チャラい印象を受ける容姿。背が高くて、高校生に見えなくもない、少し大人びた顔立ち。恐らく、僕のアルバイト先に顔を出した人物。
制服を着崩し、両手をズボンのポケットに入れたままこちらに向かって数歩足を進めた。
「何、その呼び方」
不愉快そうに顔を歪めながら話し掛けて来た彼は帝光中の後に行った学校で一年間同じクラスになっていた。
「…………関係ないでしょう、僕が君を何て呼ぼうと」
僕は、中学が変わった時にそれまでの人間関係を一掃した。そして、高校に上がった時も。だから知り合いでも、黒子君の時と同じで今までのようには呼ばないと決めている。
「――――じゃあ、僕はもう行くから」
信号が青に変わり、僕は逃げるように一歩を踏み出す。
「――――待った」
彼に腕を掴まれてしまい、仕方なく足を止める。
「離してくれる? 君に用はないから」
冷たく言い放つが、伊崎君に怯む様子はない。
その代わりの様に僕の腕を掴む手に、更に力が籠った。
「俺は話があるから」
僕は仕方無く逆らうのを止め、彼に腕を引かれてどこかに連れて行かれる。
「あのさ、痛いんだけど」
腕に後が残りそうなほど強く掴まれても困る。流石に伊崎君から逃げたらその後どうなるか分かっているから逃げはしないし。
「洸流がひ弱なのが悪い」
と言いつつ少しは力を弱めてくれたが、さすがに身動きが取り辛い。
どこに連れて行かれてるのかも判らないまま引きずられるように彼の後を付いていく形で歩いていると、辿り着いたのは高架下にあるバスケットコートだった。
――――ガタンガタンガタンッ!
丁度電車が通り過ぎ辺りに音が反響した。
「……目的地に着いたんでしょ? 手、いい加減離してくれる?」
どうせ時間はまだあるし、話すかバスケをしたら解放されるだろうし。
そう思いながら伊崎君に声を掛けるとすんなりと手を解放された。
彼は辺りを見回し、バスケットボールを探す。落ちているのを見つけるというよりは隠したものを見つけるよな仕草で辺りを見回していた。
腕を解放された後、軽く痺れていた手を掃うように振り、血を巡らせながら人気の少ない場所にバスケットコートがあるのを不自然に思う。手造り感のある少し歪んだ線、独立している錆の目立つ二つのゴールポスト。
「……それで、話って何?」
電車が来るたびに振動が来るコンクリート製の壁に寄り掛かり、腕を組みながら僕から話を切り出すと彼はこちらを振り返った。
「あー……」
一瞬、僕を連れて来た理由を忘れていたのか溜め息のような唸りの様な声が発せられ、目つきが変わる。
まるで、獲物を捕らえた肉食獣のような瞳で彼は僕を静かに捕らえる。
ぞくり、と久し振りに見たその目に恐怖のような畏怖を憶えた。
「聞かなくったって、解ってるくせに」
低く彼から発せられた言葉に鳥肌が立ち、思わず右手で自分の左腕を抱えた。
「俺と、勝負しよう」
伊崎君はどこからか持ち出してきたバスケットボールを手に、コートの確認をしている。
うーん……やっぱり辛いかな。今回は。
勝つ確率が七割って所だし。
「一年以上振りだな、こうやって向き合うの」
口角の緩んでいる伊崎君に嬉しそうに言われ「あぁ、うん」と曖昧な返事を返し、重心を低く構える。
…………今、気が付いたことが一つ。
――――僕って負けず嫌いなんだなぁ……。
今までだって勝ち戦しかしてきた憶えないし。相手との強さが五分だと戦うのを躱していたが、相手のクセを熟知していれば勝つ確率が格段に上がるため戦ってはいた。
「さぁ、始めるぞ」
伊崎君が僕に確認を取り僕が頷くと、踏み込む足に力を入れたのが見て取れた。
僕は静かに息を吸い込む。
「今度こそ、勝ってやる」
「僕は今まで、負け戦は受けた事ないからね」
彼を軽く挑発すると解りやすく顔に苛立ちが浮かび、迷わず僕に向かって突っ込んでくる。
昔からの伊崎君のクセは変わっていないようで一安心する。
伊崎君の手と地面を往復するボールを、自分の方に来るように強く弾き、ボールを奪う。
「っ……!」
頭に血が上りやすくて猪突猛進。――――うん、大丈夫。間違いなく勝てる。
自分の勝利を確信し、伊崎君側のコートへ走る。
ボールを奪いに来る伊崎君を避けながらダンクシュートを決めるべく跳躍した。
「チッ……」
彼も僕の後を追って跳躍していた。すると側から僕よりも長い腕が迫って来ていた。
だがその手は空しく空を掻く。
ネットを揺らす音の直後からゴールポストが揺れる音がガタガタ、ギイギイと聞こえる。
僕達はほぼ同時に着地すると、後を追ってボールが地面に落ちる。
「もう一回――――!」
「えぇー……もう無理…………っ――――?」
伊崎君の再戦の申し立てをされ、体力が持たないと断った直後、奇妙な音を耳が拾う。
――――ギィィィィィィィィィッ!
激しく鳴り響く音の正体の方へ顔を上げると、ゴールポストが軋みを上げながらこちらに向かって倒れてきていた。
「えっ――――」
――――ガシャアアアアアンッ!
数秒後、派手な音を鳴り響かせながらゴールポストは倒れた。
その瞬間体全体に痛みが走り、視界が真っ暗になった。
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.11 )
- 日時: 2017/09/20 12:41
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
(side:洸流)続き-7
「あっぶな……」
不意に頭のすぐ上から降ってきた声に驚き、それと同時に視界も開ける。
「洸流、大丈夫?」
目の前に、伊崎君。その後ろに、青い空の中で爛々と輝く太陽があった。
――――助けて、くれたんだ。
今の状況に理解するのに少し時間が掛かったが、理解できた途端にハッとなる。
「結友ッ、怪我は?!」
上半身を勢いよく起こして問い詰める様に訊く。
「俺様の反射神経舐と運動神舐めてんじゃねーぞ」
怪我をしているともしていないとも明言しない彼の足元に視線を移すと見た感じだと怪我はなさそうだった。
「っ……」
だが次の瞬間、伊崎の顔が苦痛に歪んだ。
「ゆっ……伊崎っ……」
「いや、そこは結友って呼ぶところでしょ」
場違いな感想を言う伊崎君を無視して、彼の足を見る。
「どっちが痛い? どの辺?」
左右の足首そっと触れると「ッ……」と再び顔が苦痛に歪む。
恐らく右足首だ。
「ちょっとごめん」
伊崎の右足首にそっと触れてみる。すると先ほどは角度的に見え辛かったのもあり、気付かなかったが僅かに腫れているのが触れて分かった。
「軽度の捻挫だと思うけど……ちょっと待ってて」
コートの傍にあるベンチの上に置いておいた自分の鞄を漁り、テーピング用のテープを取り出す。
「何でテープなんか持ってんの?」
伊崎の当然ともいえる疑問に、僕は苦笑を漏らす。
「癖だよ。なかなか抜けなくて」
靴と靴下を脱がせて手早くテープを巻く。二年近くテーピングなんかしてないのに手は覚えてるみたいで頭で考えるよりも早く手が動いていた。
「……取り敢えず、応急処置だからちゃんと病院行ってね」
テープを巻き終わり、立ち上がってから手を差し出す。
「ん、サンキュー」
僕の手を握り、右足を使わないようにしながら伊崎君は立ち上がった。
「っと…………助けてくれてありがとう」
彼が立ち上がったのを確認し、少し躊躇うように言うと彼に抱きつかれた。
「ちょっ――――」
「いやー、怪我なくてよかったわー」
伊崎君はそう言いながら僕の背中をトントンと叩き、肩に手を回す。
「っ、怪我、してるじゃん」
彼の右足首を指しながらそう言うと「そうじゃなくて」と言われた。
「洸流に、って言わなきゃわかんない?」
そう言って、伊崎君は微笑んだ。
* * *
伊崎君は、バスケの試合になると頭に血が上りやすくなって、猪突猛進になる。
だけど、コートの外だと飄々とした印象を受ける。
そんな二面性に惹かれる女子は多かった。クラスが同じだった僕はよく彼が告白されているのを目撃していた。
色々な子が声を掛けて、顔を赤く染め、好きだと告白をする。
場所や、女の子のタイプは――当然と言えば当然なのかもしれないが――毎回違った。
でも、毎回彼の態度と別れ際のシチュエーションは変わらなかった。
毎回、女の子は泣きながらその場を走り去って行く。
初めてその場を目撃した時は物凄く驚いてなぜ女の子を泣かせたのか少しキツめの口調で訊いてしまった。
そしたら何て事無いというように伊崎君は答えたのだ。
「告白されたから振った」
「好きじゃないから?」と訊くと、伊崎君はうーんと考えてから首を横に振った。
「いや、うん、まあ、それもあるけど…………俺、好きな人いるし」
好きな人がいる。でも、付き合ってもないし告白もしてないから振られてもないと続けて僕に言った。
「告白しないの?」と訊くと困ったように笑い、はぐらかされてしまった。
それから少しした後、僕は彼に告白された。
正直、嬉しかった。友達に好かれている事が。でも僕は彼を友達としか認識できず、断った。
それでも彼は友達でいて欲しいと言われた。僕も、それを望み今までと同じく友達として接していた。
そんなある日、彼は僕の秘密に気が付いた。
それもあって少し彼と距離を置いている時、僕は自分の置かれた状況に耐えきれなくなって引っ越した。
それ以来会ってもいなければ、連絡もしていなかったのだ。
* * *
「あーあ。ここで別れるの勿体無いなぁ……家まで送ってくれてもよくない?」
彼は大学生の兄に連絡を取り、駅で待ち合わせる事になった。
怪我をしている伊崎君をベンチに座らせ、僕は彼の正面に立って次の電車の時間をネットで調べていた。
「勿体無いって言われても無理だよ。怪我させたのは悪いとは思うけど、僕にも用事があるし」
もう一時間もしないうちに妹達との約束の時間になってしまうため、時間と睨めっこをしている状態なのだ。
まだ間に合うとは思うが、ギリギリになってしまったら妹に遅れると連絡をしなくちゃと思いつつ、周りを見るとすぐ傍に車が止まった。
「うわー、来るの早っ、空気読めよ兄貴ー」
車から降りてきた伊崎君と同じくらい長身の男性に伊崎君は不満を漏らす。
「俺を迷惑だと思うなら歩いて帰れ」
お互いに憎まれ口を叩きながらもお互いに笑い合っている。
相変わらず仲が良いな、と思いつつ、僕は彼に頭を下げる。
「お兄さん、すみません。僕のせいで伊崎君が怪我をしてしまって…………」
申し訳なさそうに――本当に思っているのだが――言うと、伊崎の兄――――伊崎晃樹(あき)は目を丸くした。
「え、いや、それはいいんだけど…………洸流君……だよね? 何か雰囲気変わった……?」
彼は弟の事はどうでもよさそうに流し、僕に対して興味を示す。
「え、いや……気のせい、です――――」
「変わった変わった。俺の事伊崎君って呼んで来るしー」
横から――というか正確には斜め後ろから――伊崎君が茶々を入れる。
「……どうせお前が何かしたんだろ」
冷たく晃樹さんは伊崎君にそう言って小さく溜め息を吐く。
「いやー、俺なんもした憶えないけどねー」
「ま、それは置いといて。洸流君、結友が迷惑かけてごめんね。ここまで付き添ってくれてありがとう」
柔和な笑みを浮かべ、僕に相変わらずの優しげな声で伊崎君を無視し、礼を言ってくる。
「いえ……僕の不注意ですから……」
事実を言うといやいや、と彼は言う。
「こいつが悪いでしょ」
僕に変な気負いをさせないために彼は言ってくれるが、僕は彼の気遣いにどう返したらいいのか困ってしまう。
「まー、そういう事にしとけば? 兄貴はしつこいから」
終わりの見えないこの会話に伊崎君が入り、取り敢えず彼の不注意となってしまった。
「それより、時間ないんでしょ?」
伊崎君の言葉にハッとなり時間を確認すると電車が到着する時間になっていた。この電車を逃すと次が十分後なので待ち合わせの時間に間に合うか間に合わないかのギリギリになってしまう。
「やばっ――――すみませんッ、僕はもうこれでッ!」
「うん、気を付けてね」
「またねー」
急いで二人と別れ、走ってホームへ向かう。
伊崎君の最後の言葉が「またね」だった事に、少し引っ掛かりを持つ。
また、会う可能性があるのか。
走ったおかげで心臓はバクバク言っていたが、ホームに着くと同時に電車が来たので飛び込みにならずに済んだ。
時計を見ると五時半を指していた。
「ギリギリだ……取り敢えず、少し遅れるかも……っと……」
妹に約束の時間に間に合わないかもしれないと連絡をし、ホッと息を吐く。
頭がズキズキして、少し胃が痛む。
走ったからか、伊崎君兄弟(たち)に会ったからか。
そこそこ席の埋まっている車内に数人立っている人はいるものの、そこまで混んでいるという印象は受けない。
ドアの傍で電車に揺られながらボーっと流れる景色を眺める。
この景色のように、僕の日々は過ぎて行く。
一日一日、何かをしていないと、辛くなる。
ずっと涼太の事ばかり考えている自分が嫌だった。
自分で、決めた事にまだ踏ん切りがついていない自分が、嫌いだった。
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.12 )
- 日時: 2017/05/03 17:32
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
(side:洸流)-8
一度家に帰り、待ち合わせ場所に向かうのに電車に乗った。
学校に行く方向とは逆の電車で、あまり乗り慣れない。
妹達とは駅で待ち合わせしているから駅に着いたら探せばいいだけだ。
待ち合わせをしているうちの一人、妹の後姿をすぐに見つけたが、どうやらナンパされているらしかった。
……いつもの事だ。
「――――灯里(あかり)」
後ろから声を掛けると、灯里は嬉しそうに振り返る。
あれ? そう言えば輝哉(てるや)が居ない。
「あ〜、よかった〜!」
灯里は僕に抱き付いて待ち合わせしてましたアピールをする。
「んだよ、彼氏いんじゃん」
ブツブツと男達は呟きながら去って行った。
「もう! 輝哉が居なくなった隙にこうなるんだからッ!」
灯里は相当ご立腹らしい。
居なくなった隙にって事はトイレかな?
「灯里〜、兄ちゃ〜ん!」
あ、来た。
僕より背が高い弟が戻って来た。
「あれ? 灯里、怒ってる? もしかしてまたナンパ?」
輝哉がそう訊くと灯里は怒りが収まらないのかぷいっとそっぽを向いてしまった。
苦笑しながら僕が灯里を宥める。
「まあまあ……」
「中二をナンパする神経が解んない! 明らか大学生でしょ、さっきの!」
――――中二が小学生ナンパしてんのと同じだって!
怒りはなかなか収まらないみたいだね……。
まあ、でも高校生ぐらいには見られてると思うけど。
背もバレーボールやってるからそこそこあるし、顔も中学生の割には大人びてるし。
輝哉もそうなんだけど。
一応双子だからそう言う所は似てるのかな。
「あにい、今失礼なこと思ったでしょ」
ギクリとする。嘘は誤魔化しきれないし、本音とも言えないから苦笑を漏らすと、灯里が深い溜め息を吐いた。
「まったくもう……うちの男共は……」
輝哉と一緒にショボーンとする。
妹に怒られる僕と輝哉……うん、いつもの事だ。
「ま、いっか。今日は私の買い物に付き合ってくれるんでしょ? 行こう!」
灯里は天真爛漫だから白城家のムードメーカーで、いつもみんなを笑わせてるから。
灯里の笑顔を見ると自然に笑える。
嫌な事も、忘れられる気がする。
輝哉が笑うと、心が和むし。
悩みなんてどうでも良くなる。
それから灯里の買い物に付き合い、輝哉と共に僕は荷物持ちになった。輝哉も少し買い物をし、僕は二人を家に送ってから自宅アパートへ帰った。
元々、僕から二人を誘って今日、無理矢理予定を入れたんだ。
二人が駄目だったらふらっとどこかへ出かけるつもりだった。
でも、二人が「良いよ」って何も聞かずにオーケーしてくれた。
二人は、多分僕に気を使ってくれてるんだと思う。
灯里は時々僕の様子を窺って満足そうな顔をしていたりもしたし、輝哉は僕に色んな話題を振って来るし。
悪いと、思ってる。
中学生の二人に寄り掛かって、一人で立てる事さえ難しくて。
一人で立とうとさえしない僕は、現実逃避をして日々を過ごしているから。
忙しくしていた方が後ろを振り返らずに済む。
そう思って夏休みをあんなにハードにしたのに、肉体的にただただ疲れて行くだけで、他はいつもと何も変わらなかった。
意味が無かった。
涼太に会いたい。
声を聴きたい。
触れたい。
名前を呼んでほしい。
また、笑って欲しい。
傍に居たい。
謝りたい。
ずっと、想いばかりが頭を巡る。
名前を呼びたくなって、口を噤む。
涙が出そうになるのを必死に堪える。
僕に泣く資格なんてない。涼太の名前を呼ぶ資格もない。
「ごめん…………ごめんなさい…………」
ベッドの中でただただ謝罪の言葉を独り、呟き続けた。
届かないと解っていても、それでも謝りたくて。
第一話『高校一年生の夏休み』完