大人二次小説(BLGL・二次15禁)

ココロコイシ:2  ※鬱注意 ( No.3 )
日時: 2017/08/10 16:41
名前: 八咫烏−やたのからす−

呼吸が止まりそうな夜。
私は見たこともない所にいた。酷く脆い、木々に覆われた家が傍に有った。
人間は居なさそうだし、お姉ちゃんも多分居ない。
......ねぇ、なんで、どうして私はここにいるの?
その問い掛けは、口に出すこともままならなくて。

ーーーーあれ、口ってなんだっけ。
アー、アー、って声にしようとしてみるけれど、中々出ない。
喉に手を当ててるのに、ギュッと指を閉じれば、何にもぶつからず空を掴んだ。
ねぇ、ねぇ、ねぇ。私の喉はどこ?


「何も言わずとも。ここに有りますよ」


.........誰?
誰?誰かの声が家から響く。
怖い。
恐ろしくてたまらない。
何者でもない、人生らず者が潜んでるにちがいない!!

私は静かに呼吸を荒くさせる。
......喉、という概念が無いにも関わらず。
そう、だから。
目の前には声の主と思わしき人物がいつの間にか立っていた。
赤い帽子が特徴的な、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべた......妖怪?
そうだ、きっと妖怪に違いないわ。
妖怪である私を取って食おうだなんて考えた、馬鹿者よ!!

私は体を大胆に後ろへ捻り、それに連れて足を動かした。
...そして、彼奴から逃げ出そうと必死にもがく。
ーーーーもがく?


嗚呼、ああああああ、アアアああああ、アアアアアアアアアアアアああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
私の口は何処!!
私の喉は何処!!
私の足は何処!!
私の腕は何処!!
必死になって、あるはずの無いものを探す。
探して回る。犬の様に、子犬のようにキャンキャン吠えては怯え、その場で三回転。


「......其所に有るでしょう」


嘘だ。
私のものは何処にも無いわァ!!!
背後からねっとりと、彼奴が語りかける。
動けないのに、声だけが、視界だけが広がる。
背後から抱き締められた。私だけじゃ、視えなかった筈の躯を抱いて。

ーーー先ほどまで感じられた、温もりが消える。
ーーー視界が徐々に、暗闇に支配される。
嘘、嘘、嘘、嘘、嘘だ。
私は...何も見えなくなる?
何も、聴こえなくなる?


「自我を喪った愚か者よ、眠りなさい」


彼奴のねっとりとした厭ァな声だけが私の脳を支配した。
ねぇ!!
私の口は何処!!
私の喉は何処!!
私の足は何処!!
私の腕は何処!!
私の手は何処!!
私の眼は何処!!
私の耳は何処!!
私の体は何処!!
私の意識は何処!!

「何もなくて、何も聴こえない意識の外よ」
最後の私の叫びに答えられた気がした。



  ***



いつしか聞いたお話。
覚妖怪は、“概念”が無くなると気が狂うんだって。
その代償に、代わりのものを得られるらしい。
例えば、意識の概念が無くなったら無意識の概念を手に入れる様に。

そう、それは覚妖怪の精神錯乱。
うふふ、嘘、よ。
凄いのねあなた。私の嘘を見抜ける人なんて、一人しか居なかったわ。
そう、たった一人だけ..ね。
ええ、今は居ない。存在しえない、の。その場に居るんだけれどね。
...あなたには分からなくても良い。だって...、いや、言うのは止しておきましょうか。
......何?聞きたいの?物好きねぇ。気が狂うかもしれないって言うのに...。

「踏み込まないで。あなたには到底理解の出来ぬ自演(無意識)なのよ。
あなた、だって闇は嫌いでしょう?ずっとずっと続く暗闇は...。
地獄の沼に溺れるみたいに、あなたも脱け出せなくなる...。
だって、闇(コンプレックス)は儚いのだから。
だって、夢(パラノイア)は儚いのだから。
さぁ、分かったなら帰りなさい。
そして今日のことは何もかも忘れるのよ。

......私だって、花を愛す様に、あの子(嘘を見抜けた妹)を愛したかった」