大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文豪ストレイドッグス】自分の妄想で書く! ( No.30 )
日時: 2017/11/30 23:09
名前: トースト

其れでは予告通り『溺死した魚と転落死した鳥のお話』を始めていきまーす!

注意!
・少しでも不快に思われた方はUターンを推奨します。
・一部捏造が含まれております。
・今回は“黒の時代”(二人とも17歳)で中太です。
・死ネタです。


『溺死した魚と転落死した鳥のお話』


目が覚めた時、私は、大変不思議な感覚に包まれて居りました。
頭の中がやけにからんからんとして居て、如何して自分が今寝台に横になって居るのか、思い当たる節が何も見つからなかったのです。
周りを見渡してみますと、其処には和装の女性と洋服の男性が、椅子に座って私を眺めて居ました。女性は私が目を覚ましたのを見て、如何云う訳か安堵の表情を浮かべるのです。

???「おお、漸く目を覚ましおったか。心配したぞ、中也。躰に異常は無いかえ?」
中也…。中也とは、一体誰のことだろう…。
私の名前だろうか。

???「中也…?俺は、中也と云う名前なンですか?」
私がそう申しますと、二人は目を見開き、私の顔を先刻よりも更にじっと見つめました。
其の時、私は初めて“不思議な感覚”の正体を理解しました。如何やら、自分の名前が判らないのです。ですから、女性が云う「中也」と云う名前にも大して納得がいかず、私は未だ自分の名前が「中也」だと認識が出来ませんでした。
すると、今度は男性の方が「君、自分の名前は?」と問うてきた。
そんなもの、自分が知りたい位だ。

???「……判りません…。でも、其の女性が云う限り、俺は“中也”と云う名前なのでは無いンですか?」
断定はして居ない。
あくまで此れは質問だ。情報が少な過ぎる今、流石にもう自分を「中也」だと認めるには未だ早い。
すると男性が、私の云い分を聞きしたり顔を浮かべました。

???「そう、そうだね。君は実に賢い。此の少ない情報の中でよく自分の名前を理解するコトが出来たね。そうだよ。君の名前は中也。『中原中也』だ」
前言撤回。如何やら私の名前は「中也」で間違い無いらしい。
中原…中也……。其れが私の名前…。未だ納得出来ない処はあるが、仮にでも『中原中也』の名は使わせて貰おう。
名前が判った処で、次に気になるのは矢張り此の二人だ。私が寝台で横になって居たのはまぁ善いとして、此の二人は、私にとってどの様な関係を持って居る人物なのだろうか。

中也「あの、貴方達は……一体…」
私が恐る恐る聞くと、今度も女性では無く男性が答えてくれました。

???「あぁ、そうだね。君は私達のこと迄忘れて仕舞ったんだったね」
忘れる…。私が此の人達を…忘れる…?何の話をして居るのかイマイチ理解が追い着かない。さては私が名前を思い出せなかったのと何か関係があるのだろうか。

???「私の名前は森鴎外。森さんでも首領でも、君の呼びたい様に呼び給え。君の現上司だ」
此の人は、森鴎外…。森さんと云うのは未だ分かるが…首領?私の上司と云って居る処も聞くと、何かの組織のトップなのだろうか…。

???「私の名は尾崎紅葉。お主の好きに呼んだら善い。其方の鴎外殿と同じ、お主の現上司じゃ」
森さんに尾崎さん、か…。よし覚えた。何方とも私の上司らしい。上司には、失礼な振る舞い等出来るまい。
そう慎重に分析して居ると、男性……否、森さんの方から話を切り出した。

森「中也君。目を覚まして早速で悪いのだけれど、君は如何やら一時的な記憶喪失になって居る様なんだ」
記憶喪失、何処かで聞いたことある様な言葉だ。
私は生唾をコクリと飲みました。

中也「……記憶…喪失、ですか…」
森さんは私の言葉に軽く頷きました。

森「君は頭を強く打って仕舞ってね。其の所為で記憶が飛んでいって仕舞ったらしいんだ」
成る程。寝台で寝かされて居たことにも合点がいった。
森さんは其の儘続ける。

森「私と紅葉君としても此れは想定して居なかった由々しき事態でね、今内心混乱して居るんだよ」
混乱して居るだなんて、私にはとても思えませんけど。

森「君には此れから記憶が完全に戻る迄の間、此の病室の中で過ごして貰うよ。君には治療が必要だし、何より外は今の君には危険だからね。でも安心して善いよ。“外”には出れないけど中庭程度なら君にも屹度支障は無いと思うから、『此の階と中庭以外は行かない』、其れだけ守ってくれれば後は君の好きにして善いよ」
そうか、自分は記憶喪失な分治す為の治療が必要なのか。だったら、其のルールは私が絶対守らなければいけないものだ。何故、此の階を出てはいけないのかは疑問に思っても聞かないとして。

中也「…分かりました」

森「君は物判りが早くて助かるよ」

中也「………はい」

森「其れじゃあ私は、紅葉君と少し話し合うコトがあるから、悪いけど少し席を外すよ。トイレは此の部屋に入って直ぐ右手にあるし、ポットやウォーターサーバーなんかも置いてあるから、喉渇いたら其れを使ってね。ご飯は毎食私か紅葉君が運んでくるから、間食とかは出来ないけど我慢してね」
丁度、頭の中を整理したかった処だ。漸く一人になれる。
森さんは早口気味に此の部屋の使い勝手を説明すると、尾崎さんと共に扉の向こう側へ行って仕舞ったのだった。
却説、整理を始めようと思い立った処、扉の向こう側から森さんと尾崎さんの話す声が小さくはあるが聞こえる事に気が付いた。私は耳が良いらしい。
別に盗み聴きだなんて、そんな失礼な事がしたい訳では無いが、扉の前に行き、顔の側面をぴったりと付け、耳に意識を集中させる事などハタから見れば完全に変質者だ。いや、もう此れ以上見苦しい云い訳は辞めよう。此れは興味本位からなる完全な盗み聴きだ。無礼が悪過ぎるなんて今は気にならない。兎に角、“記憶喪失”と云うものが自分の中で起こっているのだとしたら、少なくとも情報は集めておきたい。自分が何の職業をして居るのかも知らなければ、況してや自分が記憶を取り戻す事によって何を思い出すのかも、未だ判らず仕舞いなのだから。
扉の向こうから声が聞こえる。私が意識を集中させるに伴って、其の声はより鮮明に聞き取れるものへとなっていきました。

尾崎「如何するのじゃ、中也は、彼の子は記憶喪失になって仕舞った。屹度、太宰のコトも忘れたに決まっておる。中也が記憶を完全に取り戻した時、如何する心算なのじゃ」
太宰…?誰だ…。森さんと尾崎さんのことでは無いことは確かだ。其の人も自分の上司か何かだろうか?

森「中也君から太宰君の記憶を完全に抜き取るしか方法は無いだろうねぇ。中也君は太宰君のコトを思い出すべきでは無いよ」
太宰を思い出すべきでは無い?だから太宰って誰?

尾崎「分かっておる。太宰の一件は、中也一人が気に病む様なことでは無かろう。あれは、私達の責任でもある」
太宰の一件?自分は其の人に何かして仕舞ったのだろうか。記憶が飛んで居て判らないけど。

中也「だざい……太宰…治……」
太宰治だって?何を突飛なコトを口走って居るんだ、私は。其の太宰と云う人物の性別も判らない癖に。
……いいや、判る。私は、其の人物の性別が、判る。判る筈なんだ。だって太宰は、其の人は私の…________

中也「恋人なンだから」
私は、自分のお喋りな口を手で覆いました。太宰…其の人が『太宰治』と云う名前だと云うことが判りました。其の人の性別が、男だと云うことが判りました。判って居ました。確信して居ました。私は、彼のことを記憶を喪っても尚、知って居たのです。
太宰が…私の恋人?本格的に私は如何かして居る様です。男と男が付き合うだなんて事、私はそんなに“普通”では無かったのでしょうか。
でも、今でも、判る。私は、彼を、如何しようも無く、愛して居たと。だって、記憶を喪った今でも、彼の名前を聞くだけで、こんなにも私は、嗚呼、こんなにも私は……

中也「あれ……、何で、涙なんか…」
気付けば私は、泣いて居ました。特別悲しい訳でも、何処かが痛い訳でも無いのです。唯、涙は止まってくれなくて。私は意味が解らずに、涙が枯れるのを待ちました。
涙が止まらないのを善いコトに、私の頭の中では私が記憶を喪う前の私の記憶がフラッシュバックと云う形で文字通り一部分だけ甦って居ました。

________『中也…私ね、花の中でも一番、桃の花が好き。……なんて云ったら、君は怒るだろうけどさ』
今のが、太宰治?私のことを、中也と呼んで居る。
嗚呼、そう云えば、彼の好きな花は、桃の花だったかも知れない。未だ、彼のことは少しも思い出せないけれど。

________『Tu fui, ego eris. ……此の言葉の意味、君知ってるかい?』
英語…か?其れとも何か別の国の言葉?聞いたこともなければ、自分には到底意味等解る筈も無い言葉だ。後で森さんにでも尋ねてみようか。

________『私は君が羨ましいよ。中也。鳥の様に、何にも囚われず自由な君が。妬ましくて恨めしい。海に居る魚が、大空を羽ばたく鳥を見上げて、羨む様に。私も君を、羨んだって、善いだろう』
彼は私を妬んで居たのか、鳥の様だと云う、私のことを。私は今や、鳥籠の外にも出られぬと云う状況だと云うのに。
フラッシュバックは、涙が止まると同時に終わり、私は小さく息を吐きました。
太宰治…私と彼は恋人と云う関係にある…。ならば何故、森さん達は私から彼を取り上げようとするのだろう。若しかして、私の記憶喪失に彼が、深く関係して居るから?記憶喪失に迄に至ることを、私は彼に、否、彼は私にしたんだろうか?
其の時、終わった筈のフラッシュバックがまた私の脳裏を掠めました。

________『…………君を止めるのは、何時だって相棒の私の仕事でしょう』
どくり、と心臓の音が大きく聞こえました。此の記憶は、何?何時云われた言葉だ?何故、私はこんなにも此の記憶を拒絶して居るのだろう。思い出したくない記憶?此の先に、私が記憶を喪った原因があるのか。でも、私は…。
其処迄考えた処で、私はふっと意識が遠のく感覚を覚えました。少し、頭を使い過ぎたでしょうか。私は其の儘、床に倒れ伏す様にして深い眠りにつきます。
遠くで、声が聞こえました。

________『中也…私を殺しておくれよ』


太宰、

太宰治。


貴方は一体、何者なんですか?




此処で切りますです!