大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.16 )
日時: 2018/05/26 13:05
名前: 皇 翡翠

江戸川乱歩は大人である 福乱

乱歩は子供っぽい反面、大人びて見える時が多々ある。
数十年も共に過ごしていれば、それなりに乱歩の事も判るようになる。
単純な事から些細な仕草まで、すっかり覚えてしまうくらいには。
出逢った頃はまだ幼い子供だった乱歩も、もう成人になり心身共にそれなりの成長を遂げた。それでもまだまだ子供の様に振る舞う、天真爛漫、天衣無縫な性格は昔から変わらないのだが。
そんな乱歩だが、福沢と共に過ごして影響を受けたのか、子供らしい反面誰よりも大人びて見える時がある。
例えば事件解決の依頼の時、自らの才能を異能と勘違いして自らを異能者だと名乗る乱歩は妥協をしない。
「犯人は捕まえる」「迷宮入りは認めない」「事件は解決されるもの」「救える命は救うべし」と、自らが“名探偵”である事に絶対的なプライドを持っている。
それ故に、乱歩は事件解決等の仕事で私情を挟むことはなく、相手にどんな事情があろうとも無慈悲にただ仕事をこなすようにしているのだ。
仕事以外でもそうだ。乱歩は興味の無い事、どうでもいい事には冷めている。
その上妙に頑固で冷静。以前新入りが誘拐された時も、「彼は守られる為に探偵社に入ったわけじゃないから助ける必要はない」と見捨てようとした。

要するに、子供らしく見えて意外とドライなのだ。
子供のようで誰よりも大人らしいのだ。


何時も通り各自仕事をこなしている昼時、警察関係者が探偵社に訪れた。
探偵社に依頼された事件に関する資料をわざわざ届けてくれたのだ。
切って貼ってを得意とする探偵社は警察、特に市警とは関わりが深く、共に互いの顔を覚えてしまうくらいには馴染みのものとなっている。
資料を運んできた市警の者に対し、探偵社も温かく迎え入れる。

「こんにちは、資料をお持ちしました」
「嗚呼どうも。わざわざすいません」

市警の女性が笑顔で資料を渡す。国木田が資料を受け取り、その背後ではナオミが茶菓子を用意していた。

「連絡くれたら妾達が自分で取りに行くッてのに」
「とんでもない!探偵社の方々には色々とお世話になってますので、このくらい!」

市警の男性の方が手を左右に振って笑う。何時もありがとうございます、とお礼を云われて与謝野は「妾じゃなくて、国木田とか乱歩さんに言いなよ」とからから笑い返した。乱歩は市警の二人には興味がないようで、挨拶もそこそこに市警が運んできた資料から興味のある事件を探し漁っている。
その間に太宰が女性市警に「素敵な方だ…是非共に心中して頂けないでしょうか?」と言い寄り、国木田に投げ飛ばされていた。
調査員が挨拶をしたのに、社長である福沢が顔を出さないわけにはいかない。
市警の二人に声をかければ、女性が真っ先に反応を見せた。その頬はほんのりと紅潮している。

「あら、福沢さん。お邪魔しております」
「御手数を御掛けした。感謝する」
「いえ!福沢さんのような方のお役に立てるなんて光栄ですわ」

少し恥じらうように頬に手を当てて女性が福沢を見つめる。福沢に気があるのが丸わかりだ。女性の少し後ろで居心地の悪そうに男性が苦笑している。福沢はそれとなく女性の言葉を流しながら対応をする。少し離れた処で、太宰達が此方をチラチラ見ていた。

「あー…あれは確実に下心あるねェ」
「全く、仕事に私情を挟むなど市警は弛んでいるんじゃないのか?」
「えぇ?あれくらい普通じゃない。国木田君だって女性に前に…」
「黙れ貴様!その首へし折るぞ!」
「まぁまぁ国木田さん…でも、社長ッて意外と隅に置けませんね。あんなに女性にアプローチされてる姿見るの初めてです」
「そうだな……俺も初めて見る。というか女性が社長に言い寄っている光景を見た事がない」
「社長はモテないわけじゃないんだけどねェ、近寄り難い雰囲気があるから話しかけられないだけだよ」
「嗚呼、残念だなぁ。一緒に心中できそうな素敵な女性なのに」

ふと太宰が、机に両足を乗せて資料を読み漁っていた乱歩を見やる。どれもこれも興味がないようで、机の上には資料が散らばって放置されたままだ。太宰が乱歩に声をかける。

「乱歩さん、アレどう思います?」
「は?」
「ほらアレですよ。あの人は社長に気があるようですし、社長も独身ですから。もしかしたら、なんて。」
「おい太宰!」

国木田が少しだけ顔を赤めて太宰を止める。想像したのだろう、チラチラと何度も此方を見てくる。与謝野もニヤニヤと笑っているだけで、特に何も言わない。谷崎はそんな彼等を見て困ったように笑うだけだ。乱歩が資料から漸く顔を上げて云う。

「それ、僕関係ある?」
「へ?」
「あの女性とどうなるかなんて、社長の好きにすればいいじゃん。僕らの問題じゃないんだからどうでもいいでしょ、そんなの」

笑顔すら見せずバッサリと言い捨てた乱歩が椅子から立ち上がる。何処へ、と国木田の問いに乱歩は駄菓子屋、と短く返して出て行ってしまう。その背を見送りながら谷崎が驚いたように云う。

「…なンというか、乱歩さんッて意外とそういう事には冷めてますよね」
「まァあの人はねェ。興味のない事にはとことん興味がないから」
「それより太宰!お前くだらん事を考える暇があるなら仕事しろ!!」
「うわ国木田君、いきなり蹴らないでよ。危ないなぁ」

国木田が太宰に叱責したのをきっかけに、「さぁ仕事だ」とまたそれぞれ仕事に手をつけ始める。福沢はその様子を横目に、未だ福沢に色目を使う女性市警を対応しながら乱歩が出て行った扉を静かに見つめていた。



 + + +


業務も終わり福沢が自宅に帰宅する。既に夕飯も風呂も終え、寝るばかりだ。
布団を敷いて本を読んで過ごしていると、寝室にそうっと乱歩が足を踏み入れる。その表情はどこか暗い。ぺたんと乱歩が福沢の前に正座する。福沢が本を閉じる。

「福沢さん」
「なんだ」

「今から甘えるけど、いいですか」

乱歩の言葉にそっと両手を広げれば、すぐさま乱歩が猫の如く飛び込んで体当たりをしてきた。勿論、日々鍛練を重ね鍛えている福沢には、乱歩程度の体当たりで微動だにせず受け止めることができる。
乱歩が福沢の背に腕を回し、力強く抱きしめながら福沢の胸に頭をぐりぐりと押し付ける。まるで猫の習性だ。

「あ〜〜〜…福沢さん…好き…大好きぃ…!」
「知っている」
「知ってても言いたいの!」

倖せいっぱいな恍惚とした表情で乱歩が福沢を抱きしめる。何度も福沢の名を呼び、何度も好きだと言葉にする。福沢はその度に律儀に頭を撫でて言葉を返す。そしてまた乱歩が倖せそうに笑って、その繰り返し。

探偵社ではこの関係は公にしないと決めたのは、意外にも乱歩だった。
「後輩の前ではそれなりに先輩らしく居たい」という乱歩の意向によるものだ。なんとなく判らない気もしないが、それなら子供らしい仕草から直せばいいのに、と思う。然しそれでは乱歩らしくもないかと思うので口にはしない。その為、探偵社の面々には秘密にしているのだが、その反動なのか何なのか、乱歩は家に帰ると毎回昼間の分だけ甘えだす。人目がない家で、二人だけでたっぷりと甘えたいのだそうだ。悪い気はしない。
漸く顔をあげた乱歩だが福沢から離れようとはせず、今度は頬を膨らませて不貞腐れ始めた。

「昼間の市警!なんなのあのおばさん、すっごい社長に色目使っちゃってさ!」
「何だ、気にしていたのか」
「当たり前じゃん!だってあんな下心丸出しでさ、見てるこっちが恥ずかしくなるんだもん!」

ぷんぷんと怒る乱歩に、あの時突然駄菓子屋に出掛けたのは逃げる為かと理解した。面倒な事や嫌な事からさらっとすぐ逃げ出すのはこの子の得意技だ。だが同時に福沢は昼間の乱歩の言葉も思い出した。

「…なら、あの時の言葉は」
「ん?…あ、昼間の?」
「そうだ」

探偵社では隠すとはいえ、流石に意中の相手に「どうでもいい」と云われるのは多少気にする。乱歩もそれを察したのか、素直にごめんなさいと謝った。福沢は小さく溜め息をついて乱歩の髪を撫でた。乱歩が福沢の顔色を伺うように見てくる。怒られたばかりの子供のようで、福沢はそっと口付けを落とす。

「好きにすればいいと、そう言ったな」
「?、うん…」
「なら、好きにさせて貰うぞ。乱歩」

そう告げてもう一度口付けを落とせば、乱歩が艶っぽく笑みを零した。先程までの子供らしさは消えている。

「ふくざわ、さん」

誘うような甘い声色で名を呼ばれる。
嗚呼、本当に、大人びている。子供なのか大人なのか判らない、不思議な存在だ。だが、福沢からすればどの乱歩も変わり無い。愛しくて仕方ない、大切な存在だ。大人になろうと背伸びする子供のような乱歩を、福沢は愛おしそうに抱きしめた。



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