大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.17 )
- 日時: 2018/08/04 15:04
- 名前: 皇 翡翠
【国乱】
国木田には江戸川乱歩という人が判らない。
探偵社の先輩で、異能者であり異能『超推理』を――正確には異能なんて現象的なものではなく、非凡的な頭脳による推理なのだが――駆使して、数々の難事件を解決してきた、名探偵と呼ぶに相応しい人物だ。
そこまではいい。だが国木田が理解できないのは、乱歩の人間性である。
天真爛漫、天衣無縫で誰にも靡く事のなく、自身に絶対的な自信とプライドを持つ乱歩。だが妙に子供っぽく、二十歳を越えていると云われると疑ってしまうぐらいだ。その上非凡的な頭脳を持っているにも関わらず、電車の乗り方も知らない世間知らず。
異能者ではあるが、それなりの常識を持ち合わせている国木田には、江戸川乱歩という人は、尊敬に値するが理解しきれない人物であった。
「何ぼんやりしてんの、国木田」
訝しげに顔を覗き込んでくる乱歩に、ぼんやりとしていた国木田の意識が現実に戻ってくる。乗り込んだタクシーは既に目的地に到着しており、乱歩は先に扉を開けて外に出ている。窓から顔を出して、いつまでも降りない国木田を見ていた。
「すいません、少々考え事を…」
「ふぅん。珍しいね、けど仕事中にそういうのやめてよ。お前は何の為に僕に着いてきたの?」
「はい…本当にすいません」
「全く、しっかりしなよ」
乱歩がため息混じりに国木田を叱る。国木田は申し訳なさそうに乱歩に謝罪をし、運転手に金を渡してタクシーを降りた。仕事中に物思いにふけてしまうなんて、何たる失態だ。そもそも今は仕事中なのだから、すべきことをしなければ。
今回の依頼はとある屋敷での殺人事件だ。屋敷の奥方が心臓を突き抜かれて殺害されていた。部屋は窓も扉も開いていたが、関係者には全員アリバイがある。そして、肝心の凶器が屋敷の何処にもないのだという。
「ああ、これはこれは江戸川さん!御足労ありがとうございます!」
「やぁどーも!相変わらず無能だねぇ警察諸君!こんな事件も解決できないなんてね、職務怠慢してない?大丈夫?」
「いやぁ面目ないです、名探偵のお力を借りることになるとは…返す言葉もございません」
「まぁしょーがないよね!僕の異能は超有能だからね!しょーもない警察よりも僕のが頼りになるもんね!僕が来たからには事件はばっちり解決だよ安心してね!」
「よろしくお願いします!」
顔馴染みの市警がすぐに乱歩の対応をする。すっかり慣れきっているせいか、乱歩の無礼な言葉にも寧ろノリ気で返している。殺人事件に合わない楽しげな雰囲気まで伝わってくる。なんとなくその光景を見ていられなくて目を逸らした。目を逸らした先に真っ白な犬小屋がある。傍に置かれた皿に水が入っているから、犬を飼っているようだ。
「関係者は室内に集めてあります、殺害現場は此方です」
案内された一室は、屋敷の二階にある奥方の部屋だった。床にはぱらぱらと血が染み付いている。関係者は奥方の主人、長女、次女、メイド、庭師だ。殺人のあった当日は彼等しか屋敷に居なかったらしい。次女の足元には真っ白な毛並みの大型犬が尻尾を振っていた。
きょろりと乱歩が部屋全体と関係者を見渡す。何かを考え込んで、国木田、と声をかける。
「殺害された日って雨降ってた?」
「はい。夕方頃に俄か雨が少々。然し殺害されたのは昼間で、発見が…」
「そこまで訊いてない。必要な事だけ答えてよ」
ぴ、と人指し指を指されてしまう。すいません、と謝るが乱歩は既に国木田を見てもいない。
矢張判らないと国木田は思う。探偵社にいる時や、つい先程も市警と話している時は子供のような風来坊な振る舞いをするのに、仕事の時は誰よりも冷静沈着で大人びている。特に国木田はこの乱歩に圧倒される。普段もあまりないが、妙に大人びた乱歩に国木田は何時も以上に頭が上がらなかった。
乱歩が懐から黒縁眼鏡を取り出す。社長から授かった貴重な品らしい。それを掛けた乱歩が暫し黙する。レンズの奥で細い切れ目が開かれる。
「犯人はこの子だ」
乱歩が指さした先にはーーー一匹の大型犬。
「正確には凶器を隠した犯犬、かな。奥方を殺した凶器は折り畳み傘だよ、床に落ちた血液は明らかに不自然だ。ほとんどが傘に付着して、畳む時に血が落ちたんだよ。だからこんな風に散らばるみたいに残った。それから犯人は窓から木に飛び移って外に出た。で、傘を犬に隠させた。犬の習性に気に入ったものを隠すっていうのがあるよね。それを利用したんだよ。そうだな…犬小屋のすぐ後ろの木の根元。そこ探してよ、掘り返した跡が残ってる筈だから。雨が降ったのは貴方にとって幸運だけど誤算でもあった。木に飛び移った時の足跡が雨で泥濘んで消えるけど、同時にそれは不自然になってしまったんだ。だって…ーーー庭師の貴方が、アリバイの為に他の植物周辺には足跡を残しているのに、奥方の部屋の周辺だけ植物の手入れをしていないなんて、おかしいでしょう」
淡々と語られる事件の真相。誰もが乱歩の推理に耳を傾けて訊いていた。犯人だと云われた庭師でさえ、驚愕しているも言葉を発することすらできない。
圧倒されるのだ。誰もがこの小さな名探偵に。
部屋を飛び出していった市警の一人が傘を抱えて戻ってきた。その傘は血まみれだ。osoraku凶器に使われたという傘だろう。乱歩の推理通り、土の中から見つかったという。それがきっかけだった。庭師が突然懐から刃物を取り出した。その目は狂気が宿っている。刃物の先はーーー乱歩の存在。
拙い、と思うより速く身体が動いていた。
気が付けば庭師は床に伏せ、国木田が刃物を奪い庭師を押さえつけていた。
事態を漸く理解した市警が庭師に手錠をかける。推理を終えた乱歩はとっくに眼鏡を外し、何時もの飄々とした態度でニコニコと笑っていた。殺人事件は、乱歩によって迅速に解決されたのだった。
帰りはタクシーは使わず、歩いて帰ろうと乱歩が云った。特に無駄話をすることなく、黙々と二人で並んで歩く。国木田は今日の反省を頭の中でしていた。
「国木田」
不意に乱歩が国木田の名を呼ぶ。国木田がはいと返事をすれば、乱歩がじっと国木田を見据えていた。
「今日のお前は集中力が欠けてたね」
「はい、申し訳ありません」
「そうだね、仕事には集中しなきゃ。でもさっきの庭師を抑える手際は凄かったね」
「あ、ありがとうございます」
褒められた。なんとなく乱歩に褒められると他の人に褒められるよりも嬉しくなる。乱歩が非凡的な才能の持ち主だからか、それともーーー愛しい存在だからだろうか。
「最後のだけは褒めてあげられる。だから、」
ぽすん、と軽い音がした。国木田の胸の中に、仄かな温もりを感じる。小さな乱歩の身体が、国木田の身体と密着している。乱歩が国木田に抱きついているのだと気付くのに、数秒の時間を有した。
「これはご褒美ね」
するりと国木田の身体から離れた乱歩は、まるで悪戯っ子の様に笑った。国木田は顔に熱が溜まるのを感じながら、それでも思わず言葉を返した。
「こ、…子供扱い、しないでください」
嗚呼この人は…本当に、判らない人だ。
* * *