大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.18 )
日時: 2018/08/06 16:47
名前: 皇 翡翠

【太乱】

まるで甘美な毒のようだ。
口にすれば命に関わるかもしれない危険な物なのに、思わず手を出してみたくなるような魅力がある。口にしてみなければその危険性が理解できない、幸福な夢幻を見せてくれるのでは期待してしまう。例え後遺症が残ろうとも、命を落とすことになったとしても、ほんの一滴を求めてしまう。そして、そのほんの一滴で虜になってしまう。そんな毒だ。
そして今その毒を求めてやまない私は、きっと既に中毒患者になってしまっているのだろう。

「随分と斬新な例えだね」

愛想笑いすら浮かべずただ無情に太宰を見据える乱歩が、どうでもよさそうに吐き捨てた。太宰はへらりと何時もの笑顔を作り、そうでしょうかと言葉を返す。

「貴方にぴったりの表現だと思いましたが」
「この僕を毒に例えるなんて、いい度胸してるよ。いくら死.にたいからって、その例えは不愉快だ」
「ふふ、すいません」

謝る割には、全く誠意が感じられない。嘘吐きと乱歩が云えば、太宰は楽しそうにうふふと笑うだけで否定しない。太宰がさらに言葉を続ける。

「ですが、強ち間違ってないと思うんです。子供のように甘いのに、ふとした瞬間に鋭い大人になる。貴方は自身を惜しみなく曝け出しているのに、周囲はそんな貴方に圧倒されて貴方の本質を疑る。そして貴方を求めて敬うようになる。ね?まるで麻薬や媚薬といった類いの、毒のようではありませんか」

太宰が乱歩の手を取る。そうして口角を軽く上げ、乱歩に微笑みかける。それは子供を諭すようにも見え、女性を口説くようにも見えた。
太宰は乱歩が好きだ。それが普通の好きではなく、愛しい存在にだけ向ける好意である事も理解できている。太宰にとって江戸川乱歩という人間は特別なのだ。異能者と名乗っているが実際は非異能者であり、真実を見抜くという『超推理』は乱歩自身の推理力だけで行っているという神業。異能者を越えた非異能者。乱歩の頭脳は、太宰の頭脳と同等もしくはそれ以上のものだ。太宰にとってそれは、この上ない喜びだった。この酸化した世界で、生きる理由も何もない太宰が唯一対等でいられる相手なのだ。当然手放したくなくなる、求めてしまうのは必然だった。嘗ての同僚がそうだったように、失ってはいけない存在なのだ。
乱歩がじっと太宰を見据える。本心を探っているような瞳に、太宰はただ笑顔で見つめ返す。と、乱歩が盛大に溜め息をついた。

「君は本っっっっっ当に莫迦だね、救いようのない莫迦だ。ていうかまず女性を口説く感じで話すその神経が引く。ちょっと離れてくれる?鳥肌立ちそう」
「えぇ、酷いですね。結構本気だったんですけど」

べしっと結構強く――といっても痛くないが――手を叩かれ、渋々乱歩の手を離す。眉を寄せて不機嫌な乱歩が太宰を睨みながらさらに言葉を続けた。

「あのさぁ、君が僕に何を求めてるかなんて興味ないけど、僕の事舐めてない?」
「はい?」
「その気になればお前が知られたくない事も全部、僕は見抜くことができるんだよ。例えばお前の過去とか、…お前が僕と重ねている誰かさんの事も」

ぴり、と空気が少し張り詰めたような気がする。太宰が先刻までの笑顔を消し、じっと乱歩を見つめていた。乱歩はそれすらもうっとおしそうに、苛立った様子で続けた。

「僕の言動にいちいち左右されるのはお前や他の人間が莫迦だからだよ。ねぇ太宰、お前は自分を特別だと思ってこの世の全部を無下にするけど、僕からしたらお前は出来の悪い愚かで莫迦な後輩なんだよ。お前は僕を対等だ何だって見てるけど、僕からしたら全っ然下なんだからな。この僕と対等でいようだなんて莫迦じゃないの!」
「へ…?」
「お前が特別だったら僕はそれ以上だよ!天才、いや寧ろ神にも等しい!僕の異能はそれくらい価値があるんだからね!それをお前は自分と同価値だと見るなんて、一回眼科にでも行ってきたら?」

ぐい、と太宰のネクタイを引っ張られる。乱歩と太宰の顔の距離が一気に縮まる。あと一歩踏み込んでしまえばキスしてしまいそうだ。

「よく覚えときなよ太宰。僕はお前が思っているほど簡単な人間じゃないんだから、―――本当に手放したくないなら、それなりに頑張ってみれば?」

まぁ無理だと思うけどね、と。それだけ云うとスッキリしたのか、乱歩があっさりと太宰のネクタイを放して離れていく。太宰は乱歩に一気に捲し立てられた言葉のひとつひとつを受け止め、そしてじんわりと温かな感情を感じていた。
この人は矢張り、―――手放したくない、愛おしい存在だ。
思わず乱歩の腕を引き寄せ、そのまま勢いでキスをする。驚いた様子の乱歩を見て、太宰はそれすらも愛おしいと感じていた。

きっともう手遅れなのだ。
太宰はとっくに、乱歩に依存してしまっているのだ。

唇が離れてすぐ乱歩の右拳が飛んできて、太宰はそんな事を思いながらそれをにこやかに顔面に受けた。


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