大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.19 )
日時: 2018/05/27 12:40
名前: 皇 翡翠

【中乱】

ふわ、と空から一輪の花が落ちてきた。
真紅の色をした薔薇の花が、まるで自我を持っているかのように乱歩の手の中に収まる。何処から落ちてきたのだろうと周囲を見渡すこともなく、乱歩はこの花の持ち主を瞬時に悟った。こんな芸当ができるのは一人しかいない。
次の瞬間、まるで花吹雪のように薔薇が降り注いできた。思わず目を瞑り薔薇から背ける様に腕で顔を庇う。手に持っていた花を落とし、何か別の固形物が手の中に収まる。その存在を確かめようとそっと瞼を開いてみる。
手の中のものを確認するより先に、目の前に立っていた人物を見て乱歩は嗚呼矢っ張り、と溜め息をつきそうになった。
全身黒ずくめで、小柄な乱歩よりも小さな背丈。印象的な帽子を被った彼――中原中也が其処に居た。

「よお名探偵、また逢ったな」
「わざとらしすぎ10点減点」

ここまでが最速テンプレとなってしまった挨拶の流れである。
薔薇の花吹雪の中現れた、普通の女性なら幻想的だと好感持てる状況だろうが、残念ながら乱歩には減点評価であった。減点された中也と云えば、「またかよ!」と懐から高級そうな手帳を手に取りわざわざメモを録っている。開かれた頁には今だけでなく過去にも乱歩が減点加点と発言した点数がメモしてある。まるで理想に溺れる後輩の様だと思いながらそれをただなんとなく見ていた。自分の昔の発言に興味なんてない。メモを録りながら中也が云う。

「毎回減点じゃねーか、この前マイナス一万越えたぞ」
「君が毎回おかしな現れ方をするからだろ。なんだよ薔薇の花吹雪って…この薔薇どうしたの」
「自腹で買ったに決まってんだろ」
「そうじゃない。薔薇の花吹雪から登場する意味が判らないって云いたいの。さすがに痛いんだけど…病院行きなよ?精神科の」

辛辣すぎる言葉を中也に向かって容赦なく浴びせる乱歩。然し中也も慣れてしまっているのか、「薔薇が気に入らなかったのか?じゃあ今度は別の花を…」ともう次を考えている。中也が一寸厨二病臭いのは知っていたが、最近それが更にこじれているような気がする。
そもそも最初はまだ普通だったような気がする。偶然出逢い、敵愾心剥き出しで睨まれて、一寸話しただけだったのだけれど。何故かその後も何度も逢い、その度によく判らないアプローチをされた。流石に何度も続くと偶然ではないことも察するし、厭でも口説かれているという事も判ってしまう。
そうして今もその奇妙な関係は続いている。

「だいたい、この箱は何なのさ…中身は、」

中身を開ける前に中身を理解してしまった乱歩が、思わず言葉を詰まらせた。箱の大きさは乱歩の掌にすっぽり収まる程度。重量はそこまでなく軽いが、箱の中心に刻まれたブランド名は有名な宝石店のものだ。それだけ判れば厭でも判る。口元を引きつらせたまま箱を開ければ、予想したとおりの物が入っていて思わずくらくらした。
中に入っていたのは指輪だった。小さな宝石が埋め込まれたシンプルな指輪だが、確実に十万は越える品物だ。
素人でも判るぐらいの超高級品とも言えそうな指輪がある。正直、トキメキ云々の前に…重い。

「ねぇ莫迦なの?なんで指輪なんてプレゼントするの?プロポーズだとしても重すぎるし薔薇の花と合わせてもこれはないよ痛すぎる。ちょっと気持ち悪いぐらいには引くんだけど」
「そんなにかよ!それ店員のオススメだったんだぞ?」
「そういう問題じゃないし。意味わかんない」

頭が痛い。意図的にやっているならまだしも、中也は全て真剣そのもので行っているので余計に質が悪い。
はぁ、とまた溜め息が出てしまう。この疲労感は中也の元相棒と関わる時も感じている気がする。もしかしたら元相棒なだけあって似た者同士なのかもしれない。そう云ったら煩く叫ばれて否定されるのが目に浮かぶので口にはしない。
乱歩が箱を開いたままそれを中也に投げ渡す。ぽすりと中也の手に収まり、中也が少し、否だいぶ落胆した顔をして「あーくそ」と悔しそうな声を漏らした。そのまま中也が指輪の箱を閉じ懐にしまう。すると、乱歩がちょっと、と中也を呼び止めた。顔を上げると、乱歩が此方に向かって左手を差し出している。

「え、」
「そういうのって普通送り主が嵌めてくれるもんじゃないの」
「いや、だってお前、引いたんじゃねえのかよ」

ぱちぱちと瞬きをしながら乱歩を見れば、乱歩がぷいと目を逸らして云った。

「貰わないとは言ってないし、拒否した覚えもないけど」

ほんの少しの間。だがすぐに言葉の意味を理解した中也がボンッと爆発した。それを見て乱歩がまた溜め息をついた。

面倒くさいし、正直女に口説かれるみたいに接されるのも腹が立つ。しかも本来敵同士で、更にいうなら男同士だ。どう考えても頭おかしいし有り得ないだろうと、乱歩も判っている。
けれどどれだけ冷たくあしらっても、最後は甘やかしてしまうのだから。
彼が厄介な病気を抱えているように、何かしらの病気にかかってしまっているのだろう。

取り出された指輪が、迷うことなく左手の薬指に嵌められていくのを眺めながら、「加点してあげようかな」と小さく呟いた。



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