大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.20 )
日時: 2018/08/09 14:58
名前: 皇 翡翠

【ポオ乱】

愛したいと、求める人がいる。

本の頁を捲る音と、ひたすらに文字を綴るペンの音だけが聞こえる。他の物音は何一つとして聞こえない。強いて言うなら、二人分の規則正しい呼吸の音だけだ。
静かな空間で、ポオはカリカリと活字を紙に綴っていく。綴られていく活字は紙の中だけで生き、現実から隔離された異空間を作り出す。ポオは思う。本を書くという事は、世界を作り出した創造主と何一つ変わり無い行為だと。各頁に刻まれた物語の一部に、頁を捲らなければ進まない時刻、物語の終わりはその世界の終末となる。
それがハッピーエンドかバッドエンドかは作者次第だ。
ポオが好む世界は矢張りミステリーだ。人間が醜い感情を交じ合わせて引き起こす罪を、同じ人間が暴き裁く。
殺人を犯す者、正義を振り撒く者、何もできない無能な者。そんな中で一際輝く事ができるのは、選ばれた主人公だけだ。選ばれた主人公は、誰よりも有能な名探偵となりその世界で生きて輝く。
ちらりと前髪の隙間から、ソファに寝そべって自作の本を読み漁る彼を盗み見る。過去に書いてきた幾つもの物語を、彼は容赦なくつまらないと放り捨て、ソファの傍に散らばっている。

江戸川乱歩。この世界の、主人公に値する価値のある名探偵。
そして、ポオが愛してやまない人物だった。

「ねぇポオ君」

何冊目か判らない自作本を流し読みつつ乱歩が口を開いた。ポオは目線を手元に戻す。物語の続きを書き進めながら言葉を返す。

「どうかしたであるか」
「…正直、こんな事云うのは流石の僕でも気が引けるけど」

目線を上げないで文字を綴っているため乱歩の表情は伺えない。然し、その声がどことなく不機嫌であることは判った。何か不快にさせるような真似をしてしまっただろうか。それとも、過去の作品が余り面白くなかったのだろうか。確かに彼の頭脳には及ばないが、中には自信作が幾つかあったのだが。
乱歩がもそりと動いて、寝そべったまま此方を見る。じとりとした目線をポオに向けたまま、乱歩が重い口を開いてこう云った。

「そんな紙に欲望ぶちまけてるぐらいなら僕にハッキリ言ってほしいんだけど」

ガリ、とペンが思わぬ方向に向かってしまった。綺麗な文字が書かれる筈が歪に歪んでしまう。明らかすぎる動揺に、乱歩が呆れたように溜め息をついた。
ポオはミステリーが好きだ。然し今ポオが書いている小説は、ミステリーなんてものではなく恋愛小説だった。
ただの恋愛小説ならまだ可愛いかもしれない。然しポオの書く恋愛小説は普通の男女の恋愛ではなく、男同士の噺である上男の欲望が生々しく表現された所謂官能小説だった。そして何よりも、その小説の登場人物の名前に、ポオと乱歩の名が使われている。つまり、二人を題材にした官能小説なのだ。
乱歩がソファから立ち上がり、ズカズカとポオに近付いたかと思えばさっと書きかけの小説を奪い取る。

「うわあああああッ!!」
「これ何時から書いてたの?うっわ…何これ、よくこんな…うわぁ」
「やめ、返し、乱歩君!」
「『熱で全てがドロドロに溶けてしまいそうな、激しい快楽に溺れてしまいそう…』」
「抜粋するのはやめるのである!」

物事をパッと見ただけで真実を見抜いてしまう彼にとって、本の内容もさらっと読めてしまうようで、パラパラと書きかけの小説を速読しては眉を潜めている。死.んだ。確実に引かれた。羞恥で顔が赤いのか、それとも危機感で顔が青いのか、今自分がどんな顔をしているのか判らない。混乱してしまい正常に働かない脳でどうにか言い訳を考える。然し、そんなポオの考えは乱歩の発言で一瞬で消え失せる。

「僕にこういうコト、したいの?」

思わずえ、と乱歩を見た。気付けば乱歩はポオの目と鼻の先に顔を近付けており、艶っぽい笑みを浮かべていた。思わず言葉につまり、上手く声が出ない。恐らく今の自分は情けないことに顔が真っ赤になっているに違いない。

「残念、今の君には僕をあげられない。僕がお断りだよ」

やれやれとでも言いたげに両手を広げ、ふいと背を向けられてしまった。嘘をつかない彼は何時だって本音しか云わない。先程の言葉で少し期待してしまっていたので、ハッキリと「お断り」と云われた事に落ち込んでしまった。確かに頭脳でも人間性としても彼には到底及ばないが、それでも好きなのだ。好きな人にそう云われるのは、誰だって悲しい。

不意に目の前が暗くなる。一瞬だけ、唇に温もりが当たる。
次に視界に映ったのは、唇を妖艶に舐める乱歩だった。キスされた―――その事実を受け止めて、ポオが硬直した。

「今のを堂々とやれるようになったら相手してあげる」

挑発するような口調に、先が長そうだと心の中だけでそう思った。それでも、可能性があるのならば諦めるつもりはない。ポオは乱歩を六年もの間、想い続けてきたのだから。

愛したいと、求める人がいるのだ。