大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.22 )
- 日時: 2018/05/27 11:03
- 名前: 皇 翡翠
青から赤へ 変わらない目をして
「はぁ」
一つ浮かぶ。
「はぁ」
二つ浮かぶ。
浮かんでも天井に届く前に消えていくこの吐息は社内に届いていた。今日もまた社内は忙しく動き回る。動いて一人外へ出て。一人また帰ってくる。
乱歩がその彼らを観察していると、其処に一人の男が帰ってきた。
「ただいま戻りました」
両手に紙袋持ちながら帰宅の知らせを回りにする。すると、自分の席に戻る太宰。
乱歩はその両手の紙袋が何かと気になって遠くから眺めていると、四角い箱を取り出し始めた太宰を視界に捉える。それは、菓子折であった。
太宰は先刻女性のしがない依頼を叶えてきたところで、そのお礼として貰っていた品物であった。
菓子折であることは乱歩も直ぐに理解していた。遠目でもはっきりと見える菓子の装飾に見覚えがあった。以前一度だけ福沢社長に強請って購入してもらった品。
「………いいなぁ」
机に突っ伏しながらも乱歩は彼が菓子折に手を触れていく様をスローで確認す量にしっかりと駒送りで把握していた。
ところだったのだが。
「ほら、乱歩さん」
「うえ?」
あまりにも突然だったため、乱歩は変な気の抜けた声が出てしまった。
乱歩の目の前にやってきた太宰は箱を持って現れた。乱歩が羨望の眼差しを送っていた箱の中身―――生菓子を乱歩に持ってきたのだ。その品に視線を落とすと、それに素直に喜ぶ乱歩がいた。
「え、これいいの?」
「乱歩さんが食べてくれればきっとお菓子も喜んでくれると思いますよ」
そして小袋に包められたものも取り外して、一口。歯型がついた菓子の一部を食べると、更に笑みを増していく。
大人になってこんなに素直に喜べる時があるだろうか。太宰は乱歩のその素直さに自分も無意識に綻んでいた。太宰は自分で貰った品物だというのに、乱歩にばかり食べさせて自分は一切手を触れることは無かった。
「…あれ、乱歩さんと太宰」
そこへ資料を手にしている国木田が通る。
仕事をしていない二人を奇妙に思ったので様子を伺いながら近寄ってきたのだ。太宰も乱歩が居る前では説教されないことを知っているので、堂々と彼の顔を見れた。
一方で国木田は太宰よりも乱歩が口に入れている品に目を向けていた。
「乱歩さん、美味しそうなものですね」
「ん、一つあげようか。まあ、僕のものじゃないんだけれどね」
もぐもぐ、口の中で固形物を噛み砕きながら国木田に勧める。勿論これが元は太宰の所持品であることを忘れずに。
「ええ、国木田君にあげるのはなぁ。私は今日一日しっかりと働いたから休憩しているのであって…国木田君はまだ仕事中でしょう?」
「なんなら先日の依頼の始末書をお前に書かせても構わないんだが。あの時は途中で勝手に逃げ帰った腑抜けについてもしっかりと報告しないといけないからな」
先日の話を持ち出した国木田に対して太宰は直ぐに反論を示す。
それでも二人の会話が繋がり、妥協することを知らない二人の云い争いはどんどん大きくなり、周囲の注目すら集め始めていた。
―――ここで喋らないでほしいなぁ、全くこの二人は。
乱歩は目の前で起こっている口喧嘩を耳に入れていなかった。入れないように努めていた。実際耳に入れた処でその場にいなかったものにその時の話に混じれるわけでも思い返せるわけでも無い。
すっかり半分以上の菓子が乱歩の胃の中へと侵入して行ってしまった。
太宰は相変わらず国木田を怒らせる天才であり、彼の怒りゲージをどんどん増していく。それに見事真正面から受け取ってしまうことで太宰の術中にハマってしまっていた。
「…二人って非常に仲が善いよね。うん、仲良しだよね」
何故二度も繰り返したのか。
「乱歩さん、御言葉ですが仲が善いとはとても思えないです。そもそも共同作業が多いだけで仕事上の付き合いです。友人なんてとても認識し難いです」
「あらら、随分と国木田君は辛辣なことを云ってくれるねえ。まあ、私も国木田君とは友人とは思っていないから構わないよ」
二人の刺々しい言葉の指し合いは再び開始される。太宰の口から次から次へと言葉が現れていき、それは直ぐに国木田へと突き刺さっていく。不器用な国木田はそんな太宰の口のうまさに勝つことができないのだ。
「……仲良しじゃん」
乱歩はそっと席から立とうとするも、直ぐに太宰は反応する。
「あれ、乱歩さん。何処へ行かれるんですか?」
「手洗いに行くだけ」
乱歩は二人に背を向けてそのまま歩いて離れて行く。
「……国木田君が邪魔しなければなあ」
「なんだ、俺が何か拙いことでもしたというのか」
「国木田君の所為でもあるけれど、流れがあんまり私に向いていないかもしれないと思って、少し反省しているよ」
しっし、と手首を巧みに使用して太宰は国木田をこの場から去るように示唆する。その行為に羽虫のように扱われたと思い国木田は不機嫌さを露わにするも、これ以上ここで討論するのに時間の無駄であると判断し、早々に姿を消した。
そしてこの場を離れた乱歩も戻らない為、太宰は自分で一つ、菓子を口に入れる。ぱさぱさした食感のこの菓子は、水分が欲しくなるものであった。
矢張りうまくいかない。
―――何も変わらない。
『何も変わらないでいいんですよ』
それを云ったのは自分であるのに、自分の言葉に刺さっていた。
受け入れられずとも、否定もされないで中途半端な回答を渡されてしまい、私としても心の整理が上手くいかなかった。いっそフッてくれれば幾分か楽になれただろうに。
太宰は、未だに乱歩に対して希望を持ち続けてしまっていた。もしかしたら、今後好きになってくれるかもしれない、と。
それでも何も変わらなくなり、先日の告白すらなかったことになっているのではないか、と太宰は内心不安でいっぱいになっていた。
「あれ、国木田君は?」
数分後に自分の机へと戻ってきた乱歩は、片手に水を持っていた。
「もう仕事に戻りましたよ」
不安を笑顔で塗りつぶす太宰。
「そう云えば一つ事件を引き受けたんだけれど、人手が足りていないみたいなんだ。だから、太宰が今回案内係をやってよ。どうせ暇でしょ?それに案内役だけで構わないから」
「何処まで行くんですか?」
「小田原」
「あらあら、それは随分と小旅行で」
神奈川の横から横へ。移動するには少し時間が掛かるが、今から行って帰ったきた頃には日が沈んでいる頃だろう。
それでも太宰は乱歩の事を好いている身分として、この誘いを断る理由など浮かんでこなかった。酷い云われようではあったが、暇であることには変わりないのだ。
「それじゃあ、これから旅行の準備でもしようか」
「流石にその準備時間はありませんよ。それに日帰りですから観光する隙は与えられないと思います」
太宰は乱歩に苦笑いを見せる。一瞬、彼の顔に浮かんだ不満の色からして、水をさすような発言をしてしまったのだと察する。しかし、それは太宰にしても同じことであった。
「隙は無い、か」
「ほら早く。太宰、日が落ちてくる前に早く向かうよ」
乱歩はいつの間にか太宰の前から姿を消して、手ぶらのまま社の玄関口にまで進んでいた。その素早さに動揺しながらも、太宰は必要最低限の持ち物だけ所持して彼の後についていく。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.23 )
- 日時: 2018/05/27 14:54
- 名前: 皇 翡翠
事件現場に向かえば、すぐさま人々が乱歩の登場を心待ちにしていたことが判る様に手厚い待遇を受ける。
会う人会う人から菓子を与えられるのだ。親戚の叔母さんが久しぶりに子供と出会って物を与えてしまうような、そんなスナック感覚で。
「それで、本題に入ろうか」
乱歩はその行為を軽く受け取り、早々に切り替えて犯行現場の真ん中に立って辺りを観察する。
「死体の傷を見てから凶器は―――……」
乱歩は次々に状況を独りでぶつぶつ呟いている。別に警察から前情報を貰っていたわけでも無いが、その呟きの大半は当たっていた。凶器が何か、そして何処に置かれていたのかも。それでは大半の残りは間違えているのかというと、そういうわけでも無い。単純にまだ警察が追い付いていなかったのだ。乱歩が先にその情報を見ただけで読み解いてしまう。
「……なるほどね」
太宰も乱歩の隣に立ち、彼と同じものを見ていく。乱歩が何を見て読解しているのか、それに出来るだけ近づこうと努力をして後を追いかける。
だが、所詮乱歩の見ている世界を共有できるものなどいない。彼は、彼で一人の世界観を持っている。
太宰が割り込もうと努めたところでそれについて行くのは無理な話である。それは、太宰自身も判ってはいた。
「超推理、お願いします」
直ぐに頭を下げた警察官は身体を動かすよりも乱歩の異能力に助けを求める方が効率がいいと判っていた。
乱歩は頭を下げて、自分よりも下に居る存在を見て、至極満面な笑みを見せつけて、眼鏡を取り出す。
「はっはっはっ!矢張り君たちは愚かなものだねぇ。この僕無しではまともに渡り合うことすら出来ないなんて実に可哀想ではある。けれど、そうして頭を下げてまで僕を頼っている人を助けてあげるのが名探偵の役目だろうからね」
大きな声で笑い、周囲の注目を一身に浴びた。スポットライトが皆自然と乱歩へと向けられていく。
「乱歩さん、頑張ってください」
まだ事件の真相を理解出来ていない太宰も、一歩後ろに離れた場所から応援をする。
太宰の役目は此処まで届ける案内係であり、横浜へと帰り道を作ってあげるのも彼の役目であり、それ以外役立たず同然なのだ。
実際には乱歩が一人でいるよりは彼を知っている人物がいるだけで幾分か警察側の負担が和らぐというものがあるが、乱歩はそんな彼等側の心情を理解しようとなど全く頭の片隅に置かれていない。でなければこう事件現場を自由に闊歩出来るわけ無いのだが。
そんな彼の事細かな行動すらも太宰はきちんと見ていた。見ているうえで、彼は告白をしていたのだ。
「………」
異能力が目の前で発動されながらも、太宰は乱歩の背中を見ながら事件とは違うことを考えていた。
事件の真相など1割も興味が無いのだ。
何ら、何を考えていたか。それは簡単なことだ。
乱歩自身について。
あれからずっと乱歩のことばかりを頭に入れている太宰は、彼が何を考えているのかということだけ考えていた。
変わらなくていいと云ったのは自分自身だというのに、何も変わらない毎日に恐怖しているのだ。
乱歩の変わらない態度に彼は恐怖している。