大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 コメ、リクは雑談の方で ( No.44 )
日時: 2019/03/21 15:37
名前: 皇 翡翠

黒白遊戯 マフィア太宰/太乱

マフィアに楯突く者、害なる者は如何なる者であっても処罰せよ。

ボス直々の指令は組織の裏切者の始末だった。取引に使う武器をこっそり持ち去り別ルートで個人的に売買していたらしい。だから組織の邪魔になる裏切者は殺.してしまえと命じられた。態々私が出るような仕事じゃないだろうと思ったが、中々厄介な事態になっているらしい。

その裏切者が先週、マフィアとは関係のない所で殺人事件を起こしていたらしい。何があったかは知らないが、自身の妻と娘を殺.して警察に捕まっているそうだ。軍警に引き渡される前に処罰しろ、が今回の指令だ。少々面倒なことになってるなぁと笑えば、それだけで終わらないのだから厄介だ。

軍警に引き渡すために護送車に乗せる。本来、そういうのは目立つことなく隠れて行われる。だから暗.殺しやすい上に楽だ。
然しどうしたことか、今回の護送車は街中を堂々と通って運ぶという。しかも人の多い日中に、だ。護送するということは警察車も少なくとも二台は警戒に付く。ただ其だけの事が中々厄介だ。正面から堂々と襲うことも事故を装って車を激突させる事も、人の目が多い上に警戒されている状況では難しい。マフィアと云えど、簡単に一般人を巻き込んでまで裏切者の制裁は行えない。今回、あくまで彼はただの人殺.しとして捕まっているのだ。マフィアの存在が明るみにされてはいけない。

「中々面倒だね」
「だから手前に指令がいったんじゃねーか」

中也が苛々した様子で私に言う。私はただ成程!と更に彼を煽るように答える。

「けれど無理だね。これはどうしようもない」
「あァ?」
「これだけ徹底されては、残る手段は狙撃だけだろう。然しここまで警戒されているのに、狙撃に対して相手が警戒してないと思う?中也。私なら護送車の窓ガラスを防弾にしたり、身代わりを置いたり対策するよ」
「…成程な、つまり」
「護送中に殺.すのは無理だ。処罰をするなら護送後だね」

護送中にするよりも護送後の方が楽だ。そっちならまだ穴がたくさんある。然し、少し興味が湧いた。

「ただの市警が、こんな対策法を思い付くなんてね」
「全くだ…めんどくせぇ事しやがって」
「馬鹿だなぁ中也。本気でそう思ってる?だとしたらその帽子宜しく本当に最悪だよ」
「ハァ!?んだとこの自.殺愛好家!!」
「ただの殺.人犯として護送されるんだよ、彼は。それなのにここまで警戒する必要ある?他にも重罪人なんて幾らでもいる。彼の他にも護送車に乗せられたマフィアの裏切者は今までにもいたけど、誰もこんなに警戒されてない」

つまり、これには市警に助言したであろう第三者の存在がいる。そしてその第三者は、彼がマフィアで暗.殺される事を見抜いて、この厄介な対策を行った。態々そう説明してやると、漸く中也も理解したらしい。

「その殺.人事件、もう少し調べた方がいいね。裏切者の処罰は中也に任せるよ」
「何でだよ、手前の仕事だろうが」
「私はそっちよりも第三者の方が気になるから」

事件の資料を奪って部屋を出る。背後から中也の怒鳴り声が聞こえてきたが当然のように無視だ。

資料室で彼の関わった事件について調べると、市警とは別の関係者が居ることが判明した。

“武装探偵社”

まだ創立して間もない会社だが、実績は中々のものだ。社長の名は福沢諭吉。社員はマフィアに比べ全然少ない。だが、『異能開業許可証』を持った、異能者が集まる組織。そして、その探偵社の要であり、今回の事件に関わっている人物。名探偵であり、異能者――江戸川乱歩。

「へぇ」

調べれば調べるほど面白い。“天使事件”と呼ばれる事件の解決をきっかけに、無数の事件を全て解決している名探偵。まさに武装探偵社には必要不可欠な人物。今回の裏切者の引き起こした事件を解決し、助言した人物はこの人だ。然し、裏切者といえどマフィアである事には変わり無い。そう易々と自分がマフィアだとバレるとは考えにくい。それに、この人の異能についても判らない。
この人はどんな異能で、何処まで真実を見抜いている?

気の乗らない処罰よりも、俄然興味が沸いた。


 * * *


喫茶店で紅茶を飲みながら時計を確認する。あと少しすれば約束の時間だ。ざわざわと賑やかな店内を確認して、そっと耳元に取り付けた無線機に話しかけた。

「あ、あー、あ~♪」
『おい巫山戯てんじゃねぇよクソ太宰』
「よしよし。ちゃんと通じてるね、頼むよ中也」
『なんで俺までこんな事…』
「賭けに負けたのは中也だろう?」

無線機から容赦ない舌打ちが聞こえた。声を聞かずとも苛立ちと怒気が伝わって来るが、「負けた方が勝った方の云う事を聞く」という賭けに乗っかった中也の責任だ。所謂自業自得というものだ。
太宰が中也に出した要求は『名探偵との接触に協力する』事である。別に首領から直接命令されたわけでもなければ、マフィアとしての仕事というわけでもない。これはあくまで太宰個人の興味で行われている。中也はそれに付き合わされているだけだ。遣せ瀬無い気持ちにもなる。
接触する方法は単純明快。探偵社に偽名で依頼を申し込むだけだ。是非名探偵殿の力をお借りしたい、と日時と場所を書いた手紙を送る。マフィアとは違い表で堂々と動く組織だ。事件解決の以来が入れば、探偵社として動く。例の人物が来なかったとしても、代わりに来た誰かさんを脅すなり何なりして聞き出せばいい。そうするくらいの価値はある。
全て太宰の好奇心で仕組まれた計画だ。

カラン、と客が入ってきた事を告げる鐘が小さく鳴った。太宰が其方に目をやれば、一人の青年が入ってきたのが見えた。きょろりと店内をひと目見てから、大股でずんずん歩き太宰の目の前でぴたりと静止した。不揃いの短髪、細い切れ目の青年。服装はどことなく探偵を連想させる。太宰が接触のために約束を取り付けた、例の名探偵――江戸川乱歩だ。

「お待ちしておりました、探偵さん」

太宰がにっこりと人の良さそうな笑みを浮かべる。青年はじっとその表情を見て、盛大に溜め息をついた。それから無遠慮に太宰の正面の席にどっかりと座る。

「それで、」

太宰が何かを言うより先に乱歩が口を開く。その目は睨むように太宰を見据えている。

「マフィアが僕に一体何の用?」

無線機の奥で息を呑む音が聞こえた。太宰は特に驚いた様子もなく、ただ微笑んだまま乱歩を見やる。乱歩も太宰を見る。お互いがお互いの腹を探っているような、そんな視線が交じり合う。数分の沈黙を破ったのは太宰だ。

「よく判りましたね」
「僕を舐めないでほしいね。それくらい、異能を使わなくても判るよ」
「成程。確か…『超推理』、でしたっけ?」
「わざとらしいなぁ、知ってたくせに」

乱歩が呆れたように背もたれに体重をかける。どっかりと机に足を乗せ、太宰を睨むようにして見やった。余りにも無礼な態度だが、太宰は寧ろ愉快そうに笑うだけで何も言わない。乱歩が云う。

「僕の事を事前に調べてたんだろ。じゃなかったら偽名であんな依頼文、普通は書いたりしないよ。目的があってお前は僕を此処に呼んだんだ。内容は…この間の事件のあらましと、マフィアについて何処まで掴んでいるか」
「おや、そこまで読まれてるとは」
「だからそれくらいなら異能なくても判るって」

乱歩が面倒くさそうな顔をした。対照的に太宰は興味深そうに笑っている。

「まぁ、依頼は依頼だ。ちゃんとやらなきゃ社長も怒るし、面倒だけど全部教えてあげるし、何なら僕の異能を披露してやってもいい」
「へえそりゃあ幸運だ!いやぁ実はとても興味がありまして、嗚呼なんて有難いことだろう。名探偵の推理を直接訊けるなんて」
「わざとらしいなぁ。僕の異能を疑ってるくせに…まぁいいや」

溜め息をひとつ零した乱歩が懐から何かを取り出す。ただの黒縁眼鏡だ。なんの変哲もない安物のような眼鏡を乱歩がかける。

「それは?」
「僕の異能発動に必須道具だよ」

眼鏡越しに細い切れ目が太宰を睨んだ。太宰はただニコニコと先程から笑顔を絶やさず崩すこともない。

「…まず、この間の事件は強盗に見せかけた殺人だった。犯人は知ってると思うけど、マフィアの下っ端さん。被害者はその奥さんと赤ん坊。奥さんは下っ端さんがマフィアだと知らなくて、ごく平凡な家族だった…表向きはね。けど奥さんは知っちゃったんだ、自分の夫がマフィアに所属してるってね。それが犯人が殺人を犯した動機だ。
下っ端さんはマフィアの取引に使う筈の武器を横領してた。当然、誰にも内緒で。バレたら殺されちゃうだろうからね。その隠し場所に使ったのが家の車庫。自分にしか判らない上に安全で身近な場所に隠そうとするのは人間の心理だよね。車庫に置いてあったドラム缶の底に隠されてた。ガソリンを入れてたのを抜いて其処に隠してたんだよ。けど偶然奥さんがそれを見つけて問い詰められて殺しちゃった。これだけなら普通の殺しだけど、もしその動機がバレたらマフィアにも狙われる。だから偽装しようとして、赤ん坊も殺して家を荒らしたんだ。勿論アリバイ工作もしてね。けど残念なことに警察は僕に事件解決を頼ってしまった。彼の誤算は僕が事件に関わってしまったことだね。そんな訳で証拠も動機も全部見抜いてしまったわけだけど、そうなると彼がマフィアに殺されちゃうのも判っちゃうんだよね。僕は他人はどんな奴でも莫迦で愚かで愛すべき人間だから、殺されると判ってて見捨てるわけにはいかないんだよねぇ、名探偵だし。だから無能な市警に助言してあげた。…で、君は厳重な市警の動きに違和感を感じて、僕を調べ上げて今日接触を図ったってわけだ」

眼鏡越しに細い切れ目が此方を見やる。まるで全てを見透かしてしまいそうな瞳に、太宰はただ笑顔で返した。
頬に手をやり、とんとんと指を叩く。
成程、これが―――この人の云う、『超推理』の異能か。

「残念だけど僕はマフィアなんてどうでもいいんだよね、だからどこまで掴んでるかーなんて聞かれても知らないよ。僕が興味あるのは世にも奇妙で珍しい難事件と甘いお菓子だけなんだ。他の事なんてどうでもいい、だからマフィアなんて知らないよ。僕はただ事件を解決しただけだ」
「…成程」
「はぁ、疲れた。君の用件は済んだだろ、もう僕帰っていい?」

言うが早いか乱歩が席を立とうとする。太宰は止める事なく、ただ笑顔のまま乱歩を見つめた。
ふと、机に手を置いた乱歩の動きが止まった。黒縁眼鏡を掛けたまま、軽く首を動かして後ろを見た。乱歩の肩に手を置いて太宰を睨む小さな彼に太宰はたった一言だけ声をかけた。

「意外と早かったね中也」
「お前が呼んだんだろうが、殺.すぞ」

そんな会話を横目に乱歩は溜め息をひとつ隠す事なく吐き出した。「面倒事に巻き込まれた」と言いたげな顔で太宰を見る。そして肩に置かれた中也の手を払った。

「…まだ何か?」
「いやぁ、用という訳じゃないですよ。元々私の独断で調べてましたし、首領から貴方を殺.せと命じられている訳でもないですから」
「じゃあ何?元々の依頼も嘘だったし、お前の用も終わった。なら帰っていいでしょ、依頼金はちゃんと払っておいてよね」

今度こそ乱歩が席を立って店を出る。カランカランと乱暴に扉に付いた鐘が揺れる。残された太宰と中也はその背を見送った後、で、と中也が口を開いた。

「どうすんだ、彼奴」
「ふふ」
「気持ち悪ぃ笑い方すんな」
「中也はどう思った?彼について」
「…本物だろ。『超推理』っつったか?使い方によっては驚異になる」

中也が目を細めてそう云った。その考えはご尤もな意見だ。全てを見透かし、真実を見抜く異能なんて、使い方次第では幾ら極悪非道なポートマフィアと謂えど壊滅に追いやられる事も有り得る。“武装探偵社”なんてちっぽけな会社だと侮っていたが、あんな怪物のような異能を持つ人物が居るとは思っても見なかった。
太宰が席を立つ。机にきちんと代金を置いて店を出た。どっち?と問えば中也が軽く指を指した。人通りの多い道から逸れた、薄暗い路地裏に続く道を。

煩かった人の声が遠ざかり、二人分の足音が響く。暫く歩くと道が開け広くなる。その中心に群がっていた黒服の部下が一斉に二人に頭を下げた。元々見張らせて待機させていた部下達だ。太宰は彼らに軽く手を上げ、それからコツコツと倒れる人物の前にしゃがみ込む。

「またお逢いしましたね、乱歩さん」
「……お前本当いい趣味してるね」

縛られている訳でもないのに立ち上がれないでいる乱歩が太宰を睨む。その片頬が軽く腫れている。恐らく部下が殴ったのだろう。中也の異能で捕まえるのは簡単だから、傷つけないように丁寧に扱えと言ったのに。あとでその部下に制裁を加えよう。

「すいません、怪我させないように命じた筈だったのですが」
「ほんと迷惑だよ。…で、どうするつもり?殺.す?」

吐き捨てるように言われた言葉に、真逆!と太宰が声をあげる。

「殺.したりなんてしませんよ!私はただ、貴方に興味があるんです。それにその異能、『超推理』でしたっけ?使い方次第ではマフィアをも凌駕する異能とは、いやぁ本当に素晴らしい異能をお持ちで!」
「…お前、」
「何故そんな人物が"武装探偵社”なんてちっぽけな会社に属しているのか、その異能の限界は、貴方がどんな人物でどんな思考を持っているのか、…まぁ簡単に言ってしまえば、私が貴方の事をもっと知りたいのです」

全てを見透かす異能を持っているのなら、私の考えている事も判りますよね?
そう云えば、彼は微かに目を開いた。一応相棒という立場にいる中也も、太宰の考えが読めたようで溜め息を吐いて頭を抱えた。太宰だけが愉快そうにうふふと笑った。

「……死.ね」

小さな声で吐き捨てられた言葉に、太宰は嬉しそうに微笑んだ。

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.45 )
日時: 2019/07/24 16:50
名前: 皇 翡翠

「どうぞ此方へ、少々狭いですが」

乱歩の手を引いて太宰はにこりと部屋へと誘う。
マフィアの基地にある空き部屋。捕虜等を捕らえておく牢屋なんかではなく、部下に用意させた客人を持てなす為の部屋だ。慌てて用意させた部屋なので家具はアンティーク調の机と椅子、シンプルなベッドにそれなりの本が置いてある本棚ぐらいだ。簡素な部屋だが牢獄よりはましだろう。
部下にぶたれた頬をガーゼ越しに――中也が簡単に手当した――抑えながら、乱歩は不服そうに部屋全体を見渡した。それからわざとらしいため息を吐きベッドに座る。

「随分と簡素な部屋だね」
「すいません。もっと善いお部屋を用意させたかったんですが、これが限界でして」
「全く…名探偵を誘拐しておいて、この待遇とはね」

じろりと乱歩の瞳が太宰を睨みつける。太宰はうふふと笑った。
"武装探偵社"の名探偵、異能者である江戸川乱歩。その実力は先刻間近で見せてもらった。そうして本物だと確信した。
乱歩の異能――『超推理』は、真実を見抜くという神懸り的な能力。使い方次第では、どんな組織も壊滅に追いやることもできる異能。
そんな異能を持つ人物が、"武装探偵社"というちっぽけな組織で探偵稼業をしている。
ほんの少しの興味から始まり、大きな好奇心と変化した。太宰の興味と関心を、これほどまでに沸き立たせた人物は久し振りだった。だから、個人的な好奇心故に…乱歩を誘拐した。

「それで、僕をどうするの。探偵社の情報でも訊き出す?拷問にかける?」
「ふふ、厭ですね。そんな心算は毛頭ありません」

太宰が肩をすくめる。

「私は単純に―――貴方のことが知りたいのです」

それは単純な好奇心で、強い本心だった。太宰は笑って乱歩にそう素直に伝える。乱歩はじとりと太宰を睨んで、すぐに目を反らす。どうでもいい、とその目が語っていた。
不意にこんこん、と扉が叩かれ、返事をする前に誰かが入ってくる。中也だ。やけに苛ついた表情で軽く顎を動かして外へと促す。

「…すいません乱歩さん、少し席を外します」
「あっそ」

本棚から本を適当に取り出して、速読にしても速すぎるぐらい頁をペラペラ捲る乱歩に一言云い、中也に促されるまま部屋の外へと出る。
パタン、と扉が完全に閉まられたのを確認して中也と向き合う。まだ何も云っていないのに中也が舌打ちした。舌打ちしたいのは此方だというのに、折角の時間を邪魔されたのだから。

「それで?何の用だい中也」
「あの餓鬼についてだ」

中也が心底不服だ、と云った様子で続ける。

「幹部のお前が決めたことなら好きにすりゃいい、けど使えそうなら使うし要らなくなったら処分しろ」
「なんで中也にそんな事言われなきゃいけないのさ」
「俺じゃねぇよ首領からだ」
「!ちょっともしかして首領に乱歩さんの事伝えたの!?」
「当たり前だろ!探偵社とは云え部外者を捕らえたんだぞ!」

巫山戯んなと叫ぶ中也だがその言葉そっくりそのまんま返してやりたい。確かに乱歩は武装探偵社とは云え、一般人には変わり無い。幹部である太宰といえど一般人を誘拐したとなれば、流石の中也も放ってはおけなかったのだろう。だからといってなんで黙って首領に報告してしまうのか。普通許可を貰ってからするものじゃあないか。まあどっちにしろ許可は出さなかっただろうけど。

「ハァ…中也は本当に最悪だね。だからモテないんだよ」
「ぶちのめすぞ自殺愛好家。お前のせいで俺はお前らの事見張って何かあったら報告しろって言われてんだよ」
「何それ超迷惑」
「こっちの台詞だ」

はぁぁ、と長い溜め息が出た。啀み合っていても仕方ない。本当なら一切首領には報告せずに満足するまで楽しもうと思っていたのだけれど。中也も仕方ないと諦めたのか、あんまり変なことしようとすんなよとぼやいた。
丁度その時部下の一人が小走りでやってくる。その手には数枚の資料が握られていた。急遽太宰が用意させたものだ。太宰がにこりと笑ってそれを受け取る。仄かに部下の袖口から火薬の匂いがした。乱歩を殴った部下の始末は、ちゃんと行ったらしい。ありがとうと一言だけ言って部下を下がらせる。中也が何だそれ、と資料を見た。

「ふふ、実験用だよ。乱歩さんのね」

中也に資料を渡す。それに目を通した中也が太宰の考えている事を察したのか、性格の悪い奴、と嫌そうに吐き捨てた。太宰は資料を中也の手から奪い取り、再び部屋の中へ入る。中也も首領から監視しろと命じられたため、太宰に続いて室内に足を踏み入れる。

足を踏み入れて、二人は目を丸くした。
室内が紙切れで溢れかえっていたからだ。部屋に置かれていた本棚には一冊も本が残っていない。ベッドの上で乱歩によって一枚一枚破り捨てられている。ぺらぺらと頁を捲るたびに乱歩はその頁を破って適当に放り出している。既に頁が無くなり背表紙だけとなった本が、ベッドで寝そべる乱歩の頭上に数冊放置されてあった。
なんというか、奇妙な光景だ。狭く白いこの部屋に溢れかえる紙の束と、ひたすらに破っては捨てるという作業に没頭する青年。中也がさっそく頭を抱えた。面倒事に巻き込まれた、という顔だった。
室内に入ってきては固まる二人に、乱歩が手を止めないまま口を開いた。

「何か用?」
「…何をしてらっしゃるんですか?」
「見てわかんないの?本を読んでるんだけど」
「読んでねぇだろ!破ってんだろ!」

乱歩の言葉に中也が鋭い突っ込みを入れた。太宰としては乱歩のこの行為を面白がっていたが、中也からすれば何一つ面白いとは思えなかったらしい。乱歩が漸く手を止めて身体を起こした。すっかり頁の無くなった本を投げ捨てて、太宰と中也を交互に見る。

「だってつまらないんだもの。どうせなら殺人事件の資料とか、そういうの置いといてよ」
「つまらなかったら破るのかよ…どういう暇潰しの仕方だよ」
「うふふ、それはすいません。ですが、事件の資料でしたら持ってきました」

太宰が先程部下から受け取った資料を掲げて乱歩に見せる。乱歩はじろりと資料と太宰を見た。

「…どういう心算?」
「賭けを致しませんか」

にっこりと笑顔を作り、太宰が云った。

「此処にマフィアで起きた事件についての資料が三つほどあります。どの事件もとうに解決済みの事件で、私も中也も事件の内容を知っています。犯行手口も、犯人もです。この資料にはそれらは書いてありません。この資料に書いてある内容は、被害者と死因と容疑者、目撃情報など…まあ事件について、ある程度の事は。もしこの資料だけで犯人と犯行手口を推理して、全て言い当てる事ができたら乱歩さんの勝ち。推理を外したら私の勝ち。勿論、中也も事件の内容を知っていますから推理が当たっているのに外れてるーなんて不正はしません。乱歩さんは武装探偵社が誇る"名探偵"で、『超推理』という異能の持ち主でしたよね。でしたら、資料から犯人を推理することなんて簡単なのでは?」

まるで挑発するように太宰が乱歩を見る。乱歩は暫し黙っていたが、急に立ち上がると太宰に近付き、正面に立って太宰に云った。

「利益は?」
「ふふ。…乱歩さんが勝てば、何なりとお好きにどうぞ。ですが、もし負けた時は…」
「そっちの言う事を聞けってわけね」

太宰が笑う。乱歩が太宰を睨む。

「…約束は守ってよ」

ぱしっと乱歩が資料を奪い、唯一の家具であった椅子に座る。机の上に資料を並べる手際は慣れている。流石は探偵稼業をしているだけあるな、と中也は壁に凭れながら様子を伺っていた。何にせよ、結末は見えてはいたが。
太宰が乱歩の傍に近寄り、その肩に手を置いた。

「"名探偵"の推理は、矢張り近くで見たいですから」
「…気持ち悪い」

嫌そうに顔を歪めて乱歩が太宰を睨む。太宰はにこにこと笑うだけだ。乱歩が懐から黒縁眼鏡を取り出して掛ける。

「先程も気になってたんですが、それは?」
「僕の異能発動に必須なの。霊験ある貴重な品なんだよ」

傍から見ればただの古ぼけた眼鏡だが、そんな貴重品なのか。乱歩が眼鏡を片手で押さえ、それから資料を見た。

沈黙。

「………………………………判った」
「―――は?」
「えぇ、本当に?」

乱歩の言葉に、中也が素っ頓狂な声を上げた。太宰が訝しげに乱歩を見る。乱歩は溜め息をひとつ吐き出すと太宰と中也を見た。そこに居たのは、江戸川乱歩ではなく"名探偵"だった。乱歩が語る。

「まず一つ目の事件。マフィアの敷地内で下っ端の女性が殺された殺人事件だけど、この犯人は敵マフィアの密偵人。ポートマフィアに紛れて密偵していたのがバレて口封じで殺したんだよ。けどこの女性の死体の写真、人差し指の付け爪が剥がれてる。傍に落ちていた様子も無いって事は犯人のポケットにでも入ってるだろうね、それが証拠。
 二つ目の事件。マフィア傘下の会社で起きた傷害事件。幹部の人が刺されたってやつだけど、これ自演だよ。同じ幹部の人を嵌めようとしたみたいだけど、左手で右肩を刺したから変なんだよ。他の幹部の人は右利きだもの。それに殺そうとするなら普通心臓に近いところを刺すでしょ。たぶん今後に影響の少ないところを刺したんだろうけど、何にせよ卑怯な人間だね。まぁとっくにそっちが処分してるんだろうけど。
 それで、最後のこの事件だけど…犯人は、」

淡々と推理していた乱歩が、不意に黙った。太宰を見て、そっと人差し指を太宰に向けた。

「お前だよ、太宰」

太宰が僅かに目を見開いた。乱歩が続ける。

「四肢の骨折、内蔵損傷、背中の刺し傷、顔を覆い潰す程の火傷、首を絞められた跡、脳を打ち抜かれた弾痕。拷問でもされたのかっていうぐらい無残な死体の画像。けど死因は毒殺。容疑者達の意味不明で統一性のない矛盾しまくった証言。莫迦で愚かなただの人間なら、絶対に解けないだろうけど…僕を一緒にしないでくれる?これはつい先刻殺されたんだ。顔は火傷で判らないけどこいつは僕を殴り付けた奴だろ、覚えてないとでも思ったの。本当の死因は銃殺で、殺した後に死体をわざと傷付けたんだ。それから写真を撮って、適当に容疑者や証言を捏造させた。そう命じたのは君だ。つまり実行犯はお前の部下で、黒幕が太宰」

これで満足した?
乱歩がレンズ越しに太宰を見据えた。然し、太宰と中也は言葉を返せなかった。
全て当たっている―――。乱歩の推理は、全て真実だった。たったあれだけの資料で、犯人や犯行を全て見抜いてしまったのだ。然し二人が言葉を失う程驚愕していたのは、そこではなかった。此奴は―――…
太宰が漸く口を開いた。

「…成程。流石ですね」
「約束は守れよ。お好きにどうぞ、なんだろ」
「ええ、何なりとどうぞ」

乱歩が指を三本立てて、太宰につきつける。そうして云った。

「一つ目。僕の身の安全と保障。
 二つ目。探偵社に一切の危害は加えない事。
 三つ目。僕に依頼する分、ちゃんと探偵社に依頼料を振り込む事」
「…それだけでいいんですか?」
「十分だよ。だって、―――迎えがちゃんと来るからね」

にっと不敵に笑う乱歩に、太宰は少しだけ目を細めた。その様子を見ていた中也は、背中に嫌な汗が流れるのを感じていた。太宰が笑う。

「判りました。では今の分もしっかりと振り込んでおきます」
「はぁ疲れた。ねえお腹すいたんだけど、駄菓子食べたい」
「すぐ用意させますね。あ、中也よろしく」
「は!?俺かよ!お前が面倒みろよ!」
「嗚呼乱歩さんには紹介がまだでしたね。先程もお会いしましたけど、このちっちゃい真っ黒くろすけは蛞蝓と申します。残念ながら乱歩さんの監視役になってる輩です」
「蛞蝓じゃねぇよ中也だ糞が!何一つ合ってねぇじゃねぇか!つーかお前先刻名前呼んだだろうが!」

まるで漫才のような会話だが、乱歩は興味が無いようで「あ、そう」とまた本の頁を破る作業に戻った。太宰は笑って「ではすぐお持ちしますので、少々お待ちを」と告げると中也を無理やり引っ張って外へと連れ出した。部屋を出る際、中也は横目で乱歩の姿を見た。先程の推理の時に感じた、あの奇妙な雰囲気は既に無くなっていた。

扉が閉じられ、廊下に出た二人は何を話すわけでもなく黙する。人気のない廊下で、二人は暫くの間ただその場に突っ立っていた。その表情は、二人共違う。

「中也、」

太宰が口を開く。云いたい事は、既に判っている。

「…なんつー化物拾ってきやがったんだテメェは」

中也が苦々しく呟いた。まだ信じられないでいた、先程の出来事を。
そもそも、太宰が乱歩に持ちかけた賭けは、本来ならば勝てる筈のない出来レースだったのだ。乱歩の異能『超推理』が、幾ら有能な異能であろうと、太宰の異能の前では無意味なのだ。太宰の異能―――『人間失格』は、全ての異能を無効化にする能力だ。どんな異能であろうと、太宰が一寸でも触れてしまえば使えなくなる。太宰の前ではどんな異能者もただの一般人と変わり無い。だから太宰はあの賭けを持ち掛けたのだ。乱歩の異能を無効化させ、彼の"名探偵"としてのプライドを折ると同時に此方の指示に従わせる為に。
然し結果はどうだ。太宰は間違いなく乱歩に触れていた。然りげ無い動作で怪しまれることもなく、異能を使っている筈の乱歩の肩にしっかりと触れていた。だが、乱歩は異能を使った。そして賭けに勝った。これが意味する事は、ただ一つ。

―――江戸川乱歩は異能者ではない、という事だ。

「うふふ」

太宰が笑う。まるで新しい玩具を貰った子供のように。否、そんな無邪気なものじゃない。それは、捕食者に近い笑みだった。興奮しきった様子で、太宰が云う。

「見ていたかい中也!あの人は凄い人だよ!私が乱歩さんの肩に触れていたのを知っているだろう?けれど彼は見事に推理した!それもたったこれだけの資料で、真実をあんなにもあっさりと見抜いてしまったのだよ!あれがただの異能?真逆!乱歩さんのあの異業は誰もが持つ推理力を働かせたもの、まさに神業だよ!嗚呼なんてことだろう、世の中にはこんなにも素晴らしい人がいるだなんて!」

恍惚とした表情で太宰が嬉しそうに語る。見た事もない笑顔で太宰が語る。中也は、なんとも言えばい嫌な予感を感じていた。こういう時の太宰は、普段の数十倍は危険なのだ。
太宰は幼い。然し最年少幹部になれる器と頭脳がある。そして力量と異能も。それ故に、太宰は世の全てを達観したような雰囲気を持っている。誰よりも頭の良い彼は、誰よりも孤独だった。
然し違う。その太宰をも上回る頭脳を持つ者が居たのだ。誰かの為に"名探偵"として生きる乱歩に、太宰は出逢ってしまったのだ。全てを達観し裏社会に身を置く太宰と、全てを解き明かしても闇を感じさせない乱歩。似ているのに、こんなにも違う二人の存在。太宰が興味を持たない筈が無い。きっともう、彼を逃がす事など無い。

「中也、」
「…なんだよ」
「うふふ、私ね―――久し振りに、生きていて善かったと思えたよ」

心底嬉しそうに笑う太宰に、中也は何とも言えぬ恐怖を感じた。
そうして、部屋の奥に居る乱歩に同情した。


最年少マフィア幹部の太宰治。

武装探偵社の"名探偵"である江戸川乱歩。


これは、黒と白の相容れない二人が過ごした五日間の出来事である。