大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.49 )
- 日時: 2018/08/10 14:50
- 名前: 皇 翡翠
六日の朝と七日の指先
福乱 架空の疾患を扱っているため御注意ください
一
血が滲むほどきつく噛まれた唇が、白く色を失って震える。額に玉のような汗が溜まって、鼻筋を駆け降りてぼとりと滴った。それから、枯れた喉から濃い呼吸が締め出されて、真っ赤に膨らんだ拳がゆるりと脱力する。
「そうだ、俺がやったんだ。」
しんと張り詰めた空気に、インクを落とすように、一つ。酷く震えた男の声が、息を詰めた観衆の間に広まる。
僕は知っていた。
罪を暴かれた人間を襲う最初の感情が、羞恥であるということを。浅知恵は看破され、役者の如く朗々と積み上げてきた演技は見るも無残に舞台から引き下ろされる。その瞬間、困惑し目を見張る観客の足先に突き出された道化は、真っ先に羞恥を覚えるのだ。僕は奥歯を噛みしめる。
「そうだ、俺がやったんだよ!耐えられなかった、耐えられなかったんだッ!あの男に見下されて、手柄を横取りされて…お前らに!この気持ちがわかんのかよ!ああ?わかんねえだろうなあ探偵さんよォ!」
血走った瞳が見開かれる。先程までの朦朧が嘘のようにこちらを睨みつけてくる。僕のシャツの襟元を掴んだ手がわなわなと震えていた。男の唾が飛んで、それを合図にしたように動揺が走った。大きく手武骨な手が男を引き剥がす。あわてた警官が二人係で犯人を取り押さえた。ふうと息をついたのも束の間、カツカツと震えた足音が近づいてきて、僕の前でとまった。百合のような甘い香りがした。髪を乱した女が、おしろいの落ちた顔を歪めて僕を睨みつける。
「どうして、どうしてよ探偵さん!ねえ貴方、嘘だって言って頂戴!」
ひび割れて甲高い声。真実を受け入れられない女の慟哭が、僕の耳を打った。真っ赤に手入れした爪が、取り乱したように宙を切って大袈裟な身振りをする。僕はただただそこに立っていた。どこかで、水の膨らむごぽりという音が聞こえた気がした。それは、淀んだ空気を掻き出しきれなくなった、換気扇の音かもしれない。鼓膜についと触れたその音が、やけに意識に残っていた。目の前で騒ぎ立てる凡庸な女のことを、眺めながらにして忘れてしまうくらいには。
「乱歩、」
戒めるような声が響く。意識がずるりと引き上げられた。僕は女の顔を一瞥して、
「君、莫迦じゃないの。」
「何、言ってるの貴方、偉そうに!あなたが言ったことは出鱈目よ!」
女のヒステリックな声がこだまする。観衆が僕らを見つめる視線は腫れ物に触るようだ。冗談じゃない、僕は苛々と唇を噛んで、女の顔を見上げた。
「莫迦は君の方だよねぇ。目の前に真相を突き付けられて感情が整理できない稚拙さを、僕に押し付けないでくれないかな。不愉快だ。」
「乱歩」
「何ですって!貴方、さっきから聞いていれば偉そうに。つらつらつらつら、聞いていれば屁理屈ばかり!貴方の高説にはね、感情ってものが抜けてるのよ。あんたのせいで、あんたのせいでっ!」
最後の方は逼迫した呼吸に埋もれて聞き取り辛かった。僕は女の顔を白けた気持ちで眺めた。三秒後には忘れてしまいそうな平凡な器量の女だが、僕に対する憤怒は色鮮やかだった。ごぽり。また水の湧くような音がする。犯人をパトカーに押し込んだ警察官が、慌てたようにやって来て女を宥める。なおも騒ぎ立てる女をぐいぐいと引っ張っていった。なおも興奮する彼女を、別の車両に収容する。コンクリートを蹴り飛ばす硬いピンヒールの音が、ずっと耳の奥を叩いていた。
僕はスーツの前を手繰り寄せて、くるりと踵を返す。最近、こんなことばかりだ。本当のことを告げても、喜ぶ人なんていない。真実を白日に晒したって、被害者は帰ってこない。不幸な人が増えるだけだ。結果だけ見れば、僕は厄病神も同然なのだ。―悪魔のような独白を頭から追い出す。冷静で闊達な名探偵の足音が、梅の開く晩冬の空にこんこんと高く木霊した。
冬は終わりをちらつかせている。
「乱歩」
低い声が響く。別段大きいわけでもないのに、この人の声はよく通る。僕はぴたりと歩を止めて雇用主を待った。現場近く並木道は梅の上品な白で薄らと華やかだ。来るべき叱責の内容を予見して僕はきゅっと眉を寄せた。我ながら不細工な顔だろうと思う。
「何故あんな言い方をした。」
ほら、やっぱり。僕の父代りにして雇用主の男、福沢諭吉は特徴的な銀髪の下から、対象を射抜いて殺.さんばかりの鋭い視線を覗かせて立っていた。二十糎以上も上背の低い若輩者にそれは狡いだろう。僕は何か面白くない気持ちでもにょもにょと返事をした。
「あんなって、何。僕はそのままを言ったまでじゃない。」
「あのような言い方をしなくとも、賢いお前ならあの場にある人間がどれほど動揺しているか汲んでやることはできただろう。」
福沢さんが言うと全て正しく聞こえる。不思議だ。僕が全てを詳らかに語って見せても、あの女はそれを虚偽と罠ったのに。僕には判断ができない。つまらない気持ちになって、ガムの張り付いたアスファルトを睨みつけた。
僕にわかるのは、物事の真相とか事象とかで、つまり存在しないものは最初から掴めない。正しさは、今でも矢張り大人の手にあるのだ。
福沢さんの濃灰色の着物の裾が、ちらりと視界を掠めた。僕は黙りこくっていた。
「お前は見事に犯人の、被害者の心情を見抜いた。どうしてわざわざ他人に苦い思いをさせるような言い方になってしまうのだ。」
福沢さんは怒っていた。どうして感情を汲んでやらないかって?女の声が張り付いている―僕の推理には感情がないらしい。濃紺の帯の上で社長は腕を組んでいた。如何にもきちっとした彼の佇まいは、何時までも僕を甘やかしてはくれない。
どうしてだろう。本当のことを教えてあげて、何故僕が責められなくちゃいけない?そりゃあ、真実は口に苦し、だ。だからって、どうして僕が受け止めてあげなければならない?わからない。無性に腹が立った。胃の底でぐるりと不快感が泳ぐ。冷えきった晩冬の空気を肺にぐっと押し込んだ。全部飲み込むつもりで顔を上げる。福沢さんの鋭い視線がぶつかった。その瞬間、何故か無性にやるせなくなる。世界一の、自慢の名探偵を見る目じゃなかった。聞き分けの悪い子どもにうんざりしているのだろう。あんまり惨めで泣きたくなった。腹の底に沈めた筈の不快感が呼気と一緒に溢れてくる。僕の口が、勝手に言葉を投げつける。
「どうして僕が我慢してあげなきゃいけないのさ!わからないんじゃないよ、汚い感情が流れ込んできて、もう窒息しそうなんだ!みんなの気持ちが分かる奴は、わかっちゃった奴は、それに従わなきゃいけないの?」
社長が驚愕している。目を見開いていた。嗚呼、屹度僕は今、酷いことを言っている。わかってはいたが、止まれない。言葉は濁流だ。
「それなら、わからない方がマシだよ!」
頭がぼおっとした。一気に叫んだせいだ。耳元で蒸気機関車の叫び声みたいな音がする。福沢さんは怖い顔をしていた。怖い顔のまま、衝撃に頬の筋肉を引き攣らせていた。酷い顔。屹度失望したのだ。僕があまりに物分かりが悪いから。そう思ったら無性に泣きたくなった。不出来が憎い。中途半端に優秀なぐらいなら、いっそ福沢さんの持っている正しさにぴったり寄り添えるくらい、人格も素晴らしかったらよかったのに。
僕は硬直した福沢さんに背を向けて走り出した。とんでもなく惨めだった。
僕がみんなの気持ちや、都合や、理解や環境を推し量って親切にすれば良いのだろうか。父上と母上は偉大だったから、全部わかってくれた。しかし、混純の世界に身を投げ出したら、それはもう許されない?わかってしまうということは、受容しなければならないということなのだ。恐ろしい場所に生きている。僕は堪らなくなって足を速めた。
灰色の空に白梅が腕を広げている。酷く色身の無い街を、僕は当てもなく走る。冷たい空気がきゅうきゅう気道を絞めつけて、肺が焼き切れそうだ。運動は得意じゃないが、それでも走った。
僕はいつまでも子供だ。そんなこと、知っている。
知らない大通りを出鱈目に走った。
荒いだ呼吸が気道を焦がす。走って、走って、誰もいない公園まで逃げ延びる。逃げるも何も、福沢さんは追いかけてすら来なかった。それもそのはず、彼が本気で僕を捕まえようとすればスタートダッシュの段階で勝敗は決してしまうのだから。
酷く惨めだった。ゲホゲホと咳込む。咄嗟に、半ば習慣化された動作として口に手を当てる。
呼吸が落ち着いて、肩で息をつく。ずきりと、何かが痛んだ
それが、心なのか心臓なのか、判別は付けられなかった。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.50 )
- 日時: 2019/07/25 15:46
- 名前: 皇 翡翠
ニ
執務室を照らす陽光が漸く冬の終わりを感じさせる。決して贅沢ではないが、シンプルで上品な作りの洋風の書斎机には、ラムネ瓶のような薄い翡翠色をした花瓶が一つ飾られていた。
東北で大きな事件があった時に江戸川が貰ってきたもので、飾り気のない質実剣豪とした社長室にあって少しばかり異質な空気を纏っていた。初めて一人で依頼に出向いた折依頼主から贈られたものの差す花も無いからとどさくさに押し付けたものだ。否、あれは彼なりの贈りものであったのかも知れぬ。本人はそのようなことおくびにも出さぬが、初めてのお使いを済ませた子供のような瞳を思い出すと、福沢は何となくそんな気がしてならない。それ以来、半ば義務のように花を取り換え続けていた。花を差したいから花瓶を持ち出すのではなく、花瓶が空では格好がつかないので、花を見繕うのだ。それならばいっそ花瓶ごと物置に仕舞ってしまえば良いのにとは事務手伝いの言だが、福沢は良い、と言ったきりその職務を手放そうとしない。つまり、先程の仮説が全く否定されない内は、幻かも知れぬ江戸川からの好意を無下にできないのである。福沢は、花屋で買った一振りの梅の枝を眺めて、一年ぶりほどの溜息をついた。
江戸川乱歩はボイコットの達人であった。
乃木坂のとある会館で起きた殺人事件の帰り、江戸川は赤らんだ眼の縁に涙を溜めて福沢を睨みつけると、静かに溜まり続けた水が風船の腹を裂いて飛び散るように怒りをぶつけて、そのまま走り去ってしまった。福沢は、彼の外套がぴゅうぴゅう吹き付ける北風に捲られながらずんずん小さくなっていくのを、ただ呆けたように見つめていた。
それから、彼の叫んだ言葉の一つ一つを脳内で再生し、巻き戻し、擦り切れるまで咀嚼して漸く、彼の青年の胸中に累積したわだかまりの輪郭を、朧げながらつかむことができた。本日二回目の溜息をつく。悩ましげに米神に指を添える姿は一国の参謀、否、壮年の哲学者を思わせた。事情を知らぬ事務手伝いの女がそっと茶を置いて脱兎の如く部屋を後にする。または、彼の頭痛の種が殆ど育児に等しいと知れば、彼女も助言の一つや二つ、零したかも知れぬが、彼女は生憎そこまでの観察眼とひらめきは持ち合わせていなかったのである。
きいという微かな音が事務所のドアの開閉を告げた。福沢はくるりと窓を振り返り、年季の入った深いシアンのサッシに手を掛ける。江戸川がずんずんと歩いていた。福沢と口を利かずとも、仕事には向かう心算らしい。見降ろす彼は小さくて、福沢はちくちくという胸の痛みに唇を噛んだ。心なしか元気がないように見える。朝餉は食べたのだろうか、まだだろうな。ちらりと、こちらに視線が流されたような気がした。福沢は阿呆のようにかける言葉に逡巡したまま、彼の後姿を送り出した。
こうなったら、彼は意地でも喋らないだろう。昨晩社員寮の彼の部屋を訪ねた時も、居留守を使われた。端末への応答は徹底的に無視され為す術がない。間違ったことをいったつもりはないが、容易に受け入れ難い言い方で叱っても全く意味がない。内容が正しかろうと、手段を間違えればただの非難だ。福沢は身の入らない気持ちで書類に向き直ると、機械的に手を動かした。温くなった茶を口に含むと、出過ぎた茶葉の苦味が口いっぱいに広がった。
しかし、なんということだろう。長期戦になるだろうという福沢の覚悟は終業時刻間際にあっさりと破られた。
屹度、期待される行動の数々を察しながら殺伐とした殺.人現場で真理を突き付ける役回りに、若い心は疲弊していたに違いない。頭ごなしに否定したのは大変拙かったと、福沢は深い溜息をついた。彼の能力に甘えるような言い方だったことも認める。だから、江戸川が帰還したらきちんと謝罪しようと腹に決めていたのに。
政府宛の報告書に社の実印を押して一日の業務を終わらせた所に、快活な声が響く。ぱたぱたという足音が近づいてきて、常の如くノックを心のうちで済ませた江戸川が扉を開け放った。
「ただいまー!!社長、聞いて、驚かないでよね!名探偵乱歩さんの最速解決記録を更新したんだ!」
昨夜から今朝の出社時にかけてのむっつりは何であったのだろう、江戸川乱歩が外套も帽子も取らずににこにこと報告する。福沢は目を白黒させて彼の顔をじろじろ見詰めた。四秒ほど表情筋を観察したところで、江戸川の方が顔を顰める。
「何かついてる?」
つるつると頬を触って首を傾げる。福沢は否とかああとか要領を得ない返事で、無駄になった覚悟を飲み干した。自分のことを試しているのか―あまり無さそうな可能性だが、対応を間違えるわけにはいかない。用意した誠実さを貧乏性で持ち出すことにした。福沢は慎重に話を切り出す。
「乱歩、昨日のことだが、」
「昨日?何かあったっけ。あ、報告書なら明日の朝まとめて出すからまだ待っていてよね。」
江戸川は怪訝そうな顔をして福沢のことを見つめるばかりだ。それから、
「社長が隈なんて作って珍しい。早く寝た方が良いよ、」
誰のせいだと思っている。指摘された通り三時間しか眠れなかった福沢は目線を合わせて、
「乱歩、はぐらかさないでくれ。お前のことを考えない物言いだったと反省している。謝らせてもくれないのか。」
江戸川は猫のように細い眼を彼なりに見開いた。
「物言いって…ああ、昨日叱られたっけ。どうして社長が謝るの?」
「お前を傷つける言い方をした。」
「そう…なの?」
江戸川はきょとんと首を傾げるばかりだ。噛み合わない会話は翻訳機を通した異国人とのそれのようだ。江戸川の顔を見る。恐ろしいことに、本当に怪訝そうな顔をしているのだ。
「傷ついたのではなかったのか。」
「覚えてないよ。」
覚えていないとはどういうことか。福沢が問い質そうとした刹那、事務員が来客を告げた。就業間近の社内が俄かに賑やかになり、客はすぐさま応接室に通された。社長、と呼び出され、張り合いのない謝罪が終わる。喉に骨がつかえたまま米粒を流し込まれたみたいだ。江戸川はすでに直前までの会話に興味を失って、菓子袋を手に事務所のソファに座り込んでいた。
それから、表面上は何事もなかったかのように日常が続いた。
春は世界が動き出す。探偵社への依頼など広く世情を考えるのならば少ない方が良いに決まっているが、気持ちと言うのは矢張り仕事が増えれば高まるものだ。一般企業でない異能探偵社は、依頼量が直接社の信頼を表す。頼られて良い気がしない者は、そもそもこの職に向かんだろう―次々に舞い込むきな臭い事件に頬を緩めるわけにはいかないが、最終的にはこう言い聞かせるしかない。卓上の梅の枝は見事な花をつけ福沢に微笑みかけていた。表情筋のひとつも動かさない福沢なりに、商売繁盛に浮かれていたのだが、喜んでばかりもいられなかった。書類を一山片づけたところで、梅こぶ茶を一口啜った。考えねばならぬことがある。
飲み込んだ違和感が喉に閊えた。江戸川のことだ。彼は相変わらずの傲慢な物言いと、しかしそれも許さざるを得ないほどの見事な推理を披露して難事件を丸裸にしているが、福沢は気付いていた。あの口論の翌日、けろりとした顔で執務室にやって来て以来何かがおかしい。違和感の原因を探ろうとすれば決まって頭痛がするが、無視できるほど小さなものでもない。福沢とて探偵社の看板を掲げる人間だ。江戸川ほどの推理力を持たずとも、直感的なセンスにかけては十分彼に劣らない。
例えば、前日に解決した事件について話している時。夕食に食べた料理の話をしている時。記憶に齟齬は無いようだが、奇妙に空虚なものを感じる。同じ事象について話しているのに、噛み合わないのだ。まるで、向かう方向ばかり同じで永遠に交わることのない線分上に取り残されているような…。
考えて、小さく溜息をつく。失礼します、という声に思考は中断された。何を書くでもなく握っていた万年筆をごろりと手放し、構わぬと声をかけた。設立当初からの事務員が湯呑を取り換える。礼を述べた福沢はふと思いついて、気まぐれに口を開いた。
「最近、乱歩はどうだ。」
事務員の女はきょとんとして見せてから、はてと首を傾げた。
「いつも通り、と申しますか、早々に事件を解決なさっては事務所で菓子を召し上がっています。…まあ、」
何事か言いかけて淀んだ語尾を聞き逃さない。
「何かあったか。」
「いえ、何か、と言うほどではありませんけど…その、随行の事務員が一昨日、酷く乱歩さんのご機嫌を損ねてしまったらしいのですが、」
福沢の眼光が鋭くなる。事務員は半歩身を退けた。続けろと促す。
「いつもなら翌日お供するのに苦労するのに、どういう風の吹きまわしか、すっかりお許しを頂いたそうで。出社なさった時にはもうすっかり済んだようなお顔をなさっていたんですよ。」
何か良いことでもあったんですかねえ、と微笑んで、古い湯呑を盆に乗せた。立ち去るついでにちょいと書斎棚の書類を直して部屋を後にする。
福沢はああ、と上の空で返事をして、背凭れに身を預けた。
ある予感があった。
暫し逡巡して、卓上の連絡帳を引き寄せた。