大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.55 )
- 日時: 2019/10/13 16:07
- 名前: 皇 翡翠
青から赤へ 青か赤か
青いは進め。赤いは止まれ。信号は判りやすく色で判断している。黄は気を付けろという印であるが、気を付けるのは案外曖昧ではあったりする。そういう意味では二つの色で充分ではないかと思う。何故真ん中に曖昧なものを入れていくのか。
好きか嫌いかの二択で済む話を如何して此処まで拗らせてしまったのか。「判らない」それはまさに黄色そのものだ。
そんなことを思って部屋で乱歩さんの曖昧な言葉に苛立ちを覚えたりもしたが―――
キスをしたら、その先はどうなるものなのだろうか。
「たっだいまー」
今朝から大きな声を出して周囲―――探偵社内の人の注目を浴びた乱歩。そしてその後ろで腰を屈んでいる男、太宰は小田原からの帰還を示した。
二人であのまま太宰の家で呑み続けた為、太宰はすっかり二日酔いの気分を持ち越してしまっていた。それとは反対に乱歩は至って健康体である様を見せていく。大声から軽い足取りで事務所の一室を周って見せた。
「太宰と乱歩さん、一緒だったんですね。何処かホテルにでも泊まられましたか?それでしたら経費で落としますので―――」
「いいや、太宰の家で呑み続けていたんだよねぇ。全く太宰ったら酔ってこんな無様な姿を晒しちゃってさぁ」
国木田の予想は外れて、昨夜の呑み状況を乱歩が簡潔に話をした。だが、太宰の心中では、
―――酔ったのは乱歩さんでしょう!
と訴えたい気持ちもあったりするが、喋る気力が無い彼は何とか自分の椅子へと辿り着いた。それが精一杯であった。
「それじゃあ、乱歩さんは一応報告書を提出してください。太宰、お前も同行者として提出してもらうからきちんと身体の体勢を整えてペンを持て!」
まるで態度が人によって変わる国木田。すっかり体調不良な男に体勢を整えろなど鞭を打つ彼の口をめがけて睨みつける太宰。だが、国木田はその視線に気づくことなくさっさと何処かへと姿を消して行ってしまった。そして乱歩さんを捜し、顔を気だるいながらもなんとか動かしていくが、遠くで社長室に向かっている姿だけを確認出来た。
「……んん、何でかなぁ」
昨夜の様子を思い返してみるがあの時、確かに乱歩が酔いを理由に太宰へと近づいたのだ。それが何処まで彼の記憶に残っているのか、太宰はモヤモヤしながらもそれでも期待を捨てきれずにはいられないのだ。それもそうだろう。だって乱歩は確かに好意的な想いを抱いており、それを時折見せてしまっているのだから。
―――乱歩さんは私に気があるのだろうか。
酒に酔ってそのまま酔いに流されて起きた時には記憶が無くなっていた、だとか。色々と太宰は考えつつ、本人に確認する勇気も無い太宰はそのまま遠くに見える社長室のドアを眺めているだけだった。
次に乱歩との今朝を思い返す。ろくに机の上を片付けないまま、酔いに任せて二人は倒れ込むように寝てしまっていたので散乱しているそれを片付ける作業から一日は始まった。起きたのは、苦しさが襲い掛かってきたのだ。お腹の辺りが誰かに押されている様な、中に入っているものが戻ってきそうな気分になり、それで強制的に起こされたのだ。
「……ら、乱歩さん…?」
起きた時に、腹に有ったのは乱歩の頭だ。乱歩の頭が寝がえりで太宰の元まで近づいてしまったのだろう。寝る際に太宰は乱歩から一定の距離を取っていたのははっきりと覚えているからだ。
―――このまま隣で寝ていたら何をするか判らない。
理性を保つ為に、なけなしの理性を守る為に彼から離れていたのだ。
「ら、乱歩さん…起きて…起きてください…!」
あまり勝手に起こしてあげるのは可哀想では無いかと思いながらも、この体勢のままでは自分の身体の一部が口から出て来てしまうかもしれない、と考えて仕方なく彼の頭を動かす。頭を動かされた乱歩は、脳が覚ましてそれから順当に覚醒し始めた。
「……んにゃ、なんで…太宰が此処にいるの?」
「あれ、昨日のことを覚えています?乱歩さん、昨日私の家で酒を呑んでそのまま酔いつぶれて寝てしまったんですよ」
「………覚え、てない」
首を傾げてぽけーっとしている乱歩は心ここにあらず状態になり、太宰の言葉もろくに訊いていなかった。
「覚えていないんですか」
「―――なんで太宰の家にいるんだっけぇ?」
「そこからですか」
太宰はそれだけ訊けばそれ以上何も云えなくなり、疑問を持ち続けている乱歩を放っておいて空になっている缶を回収する作業に取り込む。乱歩も缶を持って中身が入っているかどうかを確認する為に横に数回振っていたが、ほとんど飲み干されていた。
「……酔っていた、酔っていただけだ」
ささっと片づけをしている太宰には聞こえない小さな声で呟いたので、勿論その声に誰かが応じてくれるわけも無かった。
そんな朝を送っていたので太宰は記憶を保管していなかった乱歩に何も云えなかったのだ。
―――あのキス、意味はなんだったんだろう。
只の酔っ払いの戯言ならぬ戯れ行為だったのだろうか。それとも、本心から近づいてきてくれたのだろうか。
自分の唇に指を当ててみても、もうすっかり感触が消えてしまって何も残っていなかった。
その寂しさを感じていると、乱歩が社長室から出て来て何か手土産を持ち自分の椅子へと腰掛けた。手土産と呼ぶには余りにも昔風な白黒使用で、現代におけるテレビや写真がカラーとなっているのに対して写真が写っているのにそれらも人の褐色の判別が難しい―――それは、今日の新聞だ。
乱歩はその新聞を受け取って端に乗せられている四コマ漫画を先ずは探していく。早朝のパパさんがやるように大きく新聞を前に広げてそれ以外の光景を遮断していく。太宰の姿も彼からは見えない様に、そして太宰からもまた乱歩の姿はたった数枚の紙によって遮断されてしまった。
「……乱歩さん」
試しに太宰は声を掛けてみる。
「……なに?」
興味が無い、腑抜けた返答が帰ってくる。
太宰は今乱歩を呼び止めたところで何か用事がある訳でも無い。云うならば、呼んでみただけ、という奴だ。一人言に近かった名前呼びは姿は見えずともしっかりと相手の元にまで届いていたのだ。
だからと云って、この先どうしようかと太宰は乱歩に対するアプローチを考えてしまった。考えて考えた末に出たのが、考えないという暴挙であった。
ぱさっと新聞が落ちる音が響く。
「え、ちょっと太宰?」
乱歩が大きく広げていたそれを簡単に奪い取り、それは簡単に床に落とされた。流石にそんなことをされるとは思っても居なかった乱歩は太宰を見てぱちぱちと何度も瞬きをした。
「乱歩さん、今迄通りで構わないと思っていましたけれど矢張り駄目でした」
「……え、ええ?」
流石にこの場では誰かに訊かれてしまうかもしれない危険性がある為、半ば無理矢理彼の腕を掴んで人気の無い階段へと連れて行く。本当に階段だ。通路だからこその危険性もあり得るが、基本的に使用されない階段は二人の姿を隠すのに充分役に立つ場所なのだ。
二段下がって太宰は乱歩を見上げる。見上げるとはいえ、元々の身長差がある為に段差によってそれが中和されたのだが。
「乱歩さんは私のこと好きですか、嫌いですか?」
「―――だ、だから…判らないって」
「だったら判ってください。自分の気持ちなんですから判らないなんて曖昧なもので誤魔化さないでください」
変わらない、普通通りにしていると気を付けていたものの、とっくに太宰の頭の中では普通を装うのに限界が来ていたのだ。
「……嫌いって云ったらどうなるの?」
「そしたらもう私は貴方に近づきません」
「……好きって云ったらどうなるの?」
「そしたらもう私は貴方を離しません」
乱歩は戸惑っていた。このまま、変わらない状況に甘んじていたからだ。甘んじて彼の家に勝手に上がり込んで寝て、世話になっていた。それでいい、それが一番平和で変わらないとはこういうことだと思っていたからだ。
『何も変わらないでいいんですよ』
黄色は危険。
まさにその通りだあやふやに綱渡りなんてものに挑戦して、渡り切ることも断念する度胸も無く、何時までもぶら下がっていれば、どん底に突き落とされてしまうのだ。
「……判った」
乱歩はついに決心をした。