大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.59 )
日時: 2019/07/24 16:19
名前: 皇 翡翠

たまごかけごはん
15ぐらいの二人で料理するとかしないとか

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 昔からなんだってできた。ただ、料理はからっきしだった。自殺に失敗するのと同じように失敗する。しかしその理由は見当がつく。

 一つ。舌の肥えていた太宰少年はたとえ卒なく料理が出来たとしてそこそこの味にしかならないのであれば料理をする気が削がれてしまうから。
 一つ。舌が肥えているとは言っても大抵のものは味の素をかければ美味しくなると信じてやまないから。
 一つ。そもそも生きることに執着の持てない彼は食べるという行為自体にも執着が持てず、空腹という苦の状態から逃れるべく食という生命活動を行っているに過ぎないから。彼にとって餓死はあまり好ましくない死なのだ。

 そんな彼に料理を覚えさせるのだと息巻いたのは中原少年であった。
 中原は格別料理が得意な訳でも不得意な訳でもなく、そこそこの腕である。平々凡々である。美味しくもなければ不味くもないのである。太宰の言葉を借りるなら「小学生の調理実習よりかはマシ」なのである。
 その中原が太宰に料理を覚えさせんとしたのには特にこれと言った理由はなかった。ただただ自分が優位に立てる分野を見つけてはしゃいだだけであったのだ。しかし、いつの間にやら「中也先生の料理教室」は中原が太宰にただ手料理を振る舞うだけの、いわば炊き出しとなってしまった。
 きっかけは最初のカリキュラムであるブリの照り焼きで太宰は炭の味の素がけを作ったからだった。しょんぼりとしながら箸で炭を突く太宰を見た中原はソッと自分の作ったブリの照り焼きを差し出した。
 すると太宰はみるまにいきいきしだして
「いやあ、中也の作る料理は実に平々凡々だね。美味しくもなければ不味くもない。毒にも薬にもならない全く面白みのない味だよ」
などとペラペラと舌を動かしながら器用に箸も動かしぺろりとブリの照り焼きをたいらげたのだ。

 その結果、「次はもっと簡単なやつ作るぞ」とカリキュラムはどんどん難易度を落とし、その度に太宰は落第し中原の料理をたいらげた。二人は「ごちそうさまでした」と「お粗末様でした」を繰り返し、最終的に太宰は「中也、次は蟹料理が食べたい」などと注文をつけ、中原もついついうっかり「おう」などと返事をしてしまうに至ったのである。
 そしてブリの照り焼きから半年が経った頃、中原は携帯端末で「蟹料理 初心者」を検索しながらハッと我に返った。これじゃあ太宰を餌付けしてるだけじゃねえか。
夕焼け色の頭を抱えながら中原は誓う。なんとしてでも太宰に食えるものを作らせよう、と。

 その翌日、太宰はルンルン気分で「中也先生の料理教室」に向かった。なんと言っても今日は蟹料理がたべられるのだから!
 しかし机の上に出されたのは蟹でもなければ料理でもなかった。
「………たまご」
思わずしょんぼりと呟くと中原が真剣な顔で言った。
「もう、きっと、手前が作れるのはこれだけだ」
卵を持ち、コンと机に叩いてカパッと軽い音を立てながらホカホカと炊きたてのご飯の上にのせる。
 卵かけご飯だった。

 なんてひもじい。僕は蟹を食べるために朝食抜いたのに。太宰は投げやりに卵を割ってホカホカご飯の上にのせた。殻がちょっとだけ入ってしまったので、無言で中原のものと交換した。

「ねえ、僕、もう料理なんて作らない。ずっと僕のために料理作ってよ」
思わず太宰は言った。言ってからプロポーズみたいだな、しかも古いドラマの、と赤面した。

「………卵がちゃんと割れるようになったらな」
と中原が返事をしたので、卵かけご飯ぐらいは作れるようにするか、と思ったのだった。