大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.65 )
- 日時: 2019/12/07 17:03
- 名前: 皇 翡翠
青から赤へ 無意識な答え
「……判った」
ゆっくりと決意を固めた乱歩は、開口してはっきりと断言した。
「じゃあ、好きだ」
判らないと曖昧に答えた最初の時、それよりも乱歩ははっきりと答えたつもりであった。彼としてはきちんとした答えを相手に繰り出したのだが、最初の「じゃあ」という言葉は酷く太宰に疑問を与えてしまった。
「…じゃ、じゃあとはどういう事ですか。仕方がないから好きだと云ってあげよう、というような発言ではありませんか?」
太宰はその発言では満足できるわけも無い。そりゃあそうだろう。
「だって、太宰が僕に二択しか与えないのだから、だったら好きだと答える!だって嫌いだって云ったら前みたいに仲良く莫迦莫迦しい会話が出来ないだろう?そうなるぐらいだったら好きだって云った方が良いと思ったんだよ」
乱歩の中ではまだ曖昧「判らない」のまま変わらないでいた。彼は、はっきりと太宰が好きなのか判らない。そもそも好きとは何なのか、と思っていたのだ。
乱歩の中で「太宰」の位置づけは確かに変わっていた。
あの日、好きだと云われてから確かに乱歩は太宰をきちんと意識していた。
そんな彼の心境を判るはずも無い太宰は、今一つすっきりとせず。別れる決断も出来ずに、かといって抱き締めて彼を離すまいという決意を固める腕も持たず。それでも太宰はきちんとしておきたかったのだ。
「…それじゃあ、乱歩さん。私がこれから乱歩さんにキスをしても文句は云いませんか?」
「へ…?」
「だって好きならこれから恋人同士として生活していくのであれば、それぐらいしてもいいですよね」
本当はその先にも進んでみたいのだが。
とはいえ、初めての経験では無い。かつて酒に酔って二人は一度キスをしている。それも乱歩からだ。酔って覚えていない乱歩に太宰はその時の記憶を蒸し返す勇気も悪気も持っていないので彼はそれに関してはひとまず蓋をして。
「……別に、してもいいよ」
そう云った後に唇を噛み締めながら、乱歩は太宰を見つめる。
「……本気ですか」
太宰としても、このままキスをしてしまいたかった。このもやもやした気持ちを払しょくするには動かないことに変わりはないと考えているのだが、それでも「じゃあ」という前置きは何時までとっても脳内に残り続けてしまって、彼の歯車を止めてかかる。
「……別に厭じゃない。太宰にキスをされても厭じゃない。厭じゃなかった」
「……厭、じゃなかった?」
硬く噛み締められていたと思っていた唇はまたも大きく開かれて、太宰に伝えた。はっきりとした回答はあげられなかった乱歩ではあるが、それでも自分の今の気持ちはきちんと把握している。
「あの時―――酒に酔ってた時にしてみたけれど、別に厭じゃなかった!それに…むしろ、心臓が早くなったし…何か緊張した」
少しずつ片言になっていく単語達は、あの時をまた思い返すように乱歩の心臓を早めていく。
勿論そんなことを云われてしまえば、太宰も動かざるを得ない。
「…誰にでもそんなことを云っているんじゃないですよね」
「そんな誰彼構わずに変なことはしない。第一、僕は酒なんて弱くも無い」
太宰に、だけだ。
最後に小さく萎んでいきそうな声はきっちりと太宰へと届けられていき、その言葉はすっかり相手の口の中へと含まれて行ってしまう。
「ん……っ」
階段の段差を埋め尽くして太宰は一段上に登って彼の唇に吸い付いた。
平坦な地に足を置いていないので乱歩は前のめりになって落ちそうになる。最初は脚でしっかりと踏ん張っていたが、徐々にその力よりも酸素を求める方に神経が向いてしまい、結局乱歩の身体が階段から落ちそうになったところで仕方なく顔を離して、太宰が腕に見事収めてあげる。
「乱歩さん、どきどきしているんですか。心音が凄いこちらにも届いています」
「そ、れはっ…僕が階段から落ちてそのまま二人で怪我をするかもしれないと思って、その危険性に心臓が早まっただけだ!」
「またまたぁ」
「にやけるなっ!」
もう平気だ、と乱歩は慌てて太宰から離れて心臓を聞こえないてないか警戒して、距離を取る。それでも心臓は何時までも収まる気配を見せない。
「……乱歩さんが、まだ気づいてくれないのなら、私が惚れさせてあげます。逃げられないぐらいに、私に好きだと云ってくれるまで粘ることにします」
「え、そん…」
何か云おうとしたが、乱歩の喉には痰が絡まって上手く言葉を出せなかった。その隙に、太宰は会話を続ける。
「云ったでしょう。好きならば離しはしない、と。最初は告白をしてそれでいいと思っていましたが、矢張りきちんと貴方を手に入れたいと思う欲が増してしまいました」
にこり、と笑った表情は乱歩の心臓をまたも早めて行った。
「な、んで…そんな恥ずかしいことを云うんでよ…。僕、は好きか嫌いかと問われれば好きだと云っただけだ!」
「でもキスしてもいいんですよね」
「うっ…」
それを云われてしまうと、それ以上何も云えない。
「……なんてこともありましたよね」
昔を思い出す。二人で一つの枕を共有しながら、太宰は昔話を隣の彼にした。
隣の男―――乱歩は、すっかり最後まで話し終えたところで耳を真っ赤にしている。矢張り恥ずかしい過去を掘り返されるのはいい気分では無い。
「…にしてもあの時の乱歩さんには全く自覚が無いというのですから、本当に鈍感ですよね。周囲の反応には敏感なだけに意外でしたよ」
「………うるさいなぁ」
乱歩はシーツに顔を埋めて太宰に見られまいと隠す。早く熱が引いてくれないかと待ちながらも、耳だけはしっかりと太宰に向けておく。その隣にいる太宰は耳まで真っ赤になって隠しきれていないその姿を見て可愛いな、と思いながら別に言葉にはしないであげる。優しさだ。昔の話を一から十までしておいて何が優しさかと傍から問われてしまいそうな苛めっぷりであるが、あの時を思い返して太宰もまた反省をしていたりもした。
あの時は太宰もまた必死であった。だから乱歩が無意識に好意をそこまで抱いてくれているとは考えつく余裕が無かったのだ。本当は酔った勢いで襲い掛かろうとも思っていたのだから。
「……でも、今こうして一緒にいるんだからいいじゃないか」
「そうですね。乱歩さんが、自覚するのには随分と時間が掛かりましたが」
今となっては結果オーライ。笑い話にはならないけれど、それでも馴れ初めを思い返して改めて一言。
「乱歩さん、これからもよろしくお願いします」
その数秒後に、小さく「うん」とだけ聞こえてきた声は、逃しはしなかった。