大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.66 )
日時: 2019/12/15 19:22
名前: 皇 翡翠

PLAYBOY (丙) 太宰×乱歩+モブ女性

キスをした。
 きっと彼は好きだと自覚し始めている。私が好きだと意識している様が毎日会うたびに変わっていく。

 何時の間にか毎日朝食を共にとる生活を送っていた。自分の職業柄夜を一緒に過ごすことも出来ない。かと云って乱歩さんは昼から仕事があるのだから、限られた忙しい朝の時間の合間を狙って会う。

「乱歩さん、可愛いですね」

 そう云うと、照れて顔を隠してしまいながらも喜んでいる表情が覆っている両手の隙間から見え隠れしている。
 形こそ恋人関係と云えるものでは無いけれど、そう呼ばれる日も遠くは無いだろう。呼んで、そして……如何するつもりなのだろうか。
 自分の目的をすっかり見失ってしまいながらも、そのまま乱歩さんとの幸せなひと時を過ごしていた。












「……あんた、最近調子どうなの?」

夜の常連のお客様。彼女が久しぶりに来店してきた。最後に来店してきたのはひと月ほど前じゃないだろうか。
 どうやら最近は仕事が立て込んでいてこちらに顔を出せなかったという話だが、本当に顔色が悪かった。それに瞬時に気付いた私は流石にきつい酒を強要しては可哀想だと水をジョッキで頼む。

「調子は普通ですよ。何時も通りお客様と仲良くさせていただいていますよ」

 何も変わっていない。仕事面においては。特に大きなお客様がついてくれたわけでもないが、常連の方は相変わらず顔を出してくれる。それ以外特に彼女に報告する必要も無いだろうと、自身もノンアルコールを口に入れて彼女の次の言葉を茉。

「そうじゃないわよ。先日勝負をしたじゃない。あなたが男を惹きこむ力があるのか否か、と。その様子じゃあすっかり放置していたのかしら」
「あ、ああ」

 忘れていた。すっかり目的を忘れていた。
 自分が乱歩さんに近づいた理由を今、改めて思い返す。乱歩さんを口説いていたのはこの為だったのだと思い出す。すっかりその目的など空の彼方へと放り投げて、毎日乱歩さんと対面している時間を幸せだと称して過ごしていた。
 だが、そういうつもりで彼に近づいていたわけでは無かった。
 そう思った途端に罪悪感がのしかかり始めた。

「あの、太宰さん。貴方を訪ねている人がいるのですが……」

 二人で楽しく会話をしている間に新人が一人、耳打ちをしてきた。
 こんなところに来客?しかしこの云い方だと客ではないから来訪者か。誰が太宰を訪ねて此処まで顔を出してくるものがいるのだろうか。
 眉間に皺を寄せて険しい表情をしながらも、此処に連れてくるように命じる。裏の事務所に通して誰とも知らない人物に要件を聞こう。
簡潔に指示をして、自分は隣に居る女性への接待を続ける。

「放置なんてしていないですよ。勝負は私の勝ちですよ」
「え、嘘。本当に口説いたの?」

意外、という驚きと共にそれを実行したのかと引かれている両方の顔をされてこちらとしても文句を吐き出したくなった。この女が持ちかけた話だというのに、なんだその目は。

「じゃあ今は恋人同士ってわけ?」
「…まぁ、正確にはまだですが…もう落ちていますよ」
「可哀想にね。太宰が男を好きになるなんてありえないのに」

 女性は高らかに笑う。店中に響き渡るのではないかと周囲を気にして注意を引いていないかと警戒していると、そこでとんでもない人物と目が合ってしまう。
 この場に似つかわしくない人物。会いたくても会いたくない人物。

「…乱歩さん」
「……あー…この前、家に来た時に忘れていたネクタイを返そうと思ってここまで来ちゃったんだけど、迷惑だったかな」

 らしくない。彼が人に迷惑をかけたかと気にするなんて。
 来訪者とは乱歩さんのことだったのか。
 ひとまず乱歩さんに近づいて、手に持っている紙袋を受け取る。そこには、しっかりとアイロンが為されていたネクタイ。なんでわざわざこんなところにまでやってきてしまったんだ、と問いたい気持ちもあったが、それよりも乱歩さんが紙袋を渡した途端に身を引いたことにショックを受けた。

「なんか、御免よ」

 終いには謝らせてしまった。口であっさりと謝罪をされてそのままそそくさと帰ってしまった。

「……あの子、話を訊いていたんじゃない?」

 女性がそう囁くと、漸く乱歩さんの異常な反応との繋がりを見つける。
 二人で会話をしていた様を見られて、しっかりと訊かれていた。一体どこから彼は訊いていたんだろうか。
 少なくともあの反応からすればきっと自分は騙されて、賭けの対象として扱われていたことに気付いてしまったに違いない。
 去り際に見せたあの悲しそうな表情を作らせてしまったのは、自分なのだ。
 そう考えると、途端に罪悪感が重くのしかかりのしかかり、立ち上がれなくなりそうだった。

「………違う」

 遊びじゃない。
 賭け事じゃない。
 そんなもので遊べる程に軽い繋がりでは無かった。
 当初の軽い考えをもっていた自分を殴ってしまいたい。殴って、やり直して……

―――一体、どこからやり直せばいいのだ。

 取りあえず仕事が終わったら直ぐ様彼の元へと向かい、謝罪をして……
次から次へとしなければならないことを考えて考察して、それでも最後がうまくいかない。謝罪をして、許しを請うとして…そして私と乱歩さんはどうなるのだろうか。
 もう一度やり直すのか、無かったことにするのか。











「乱歩さん!済みませんでした」

 とんとん、扉を叩く音が早朝だというのに響き渡る。この時間は何時もなら乱歩さんと一緒に朝食の準備をし始めていた頃だ。迷惑を承知で着替えを済ませず、帰宅もせずにそのひたすら彼の部屋の扉を叩いて、中に居る人に訴えていく。

「……乱歩さん、お話だけさせてください。貴方に話しておかなければならないことが沢山あるんです。云い訳にしか聞こえないかもしれませんが、それでもお願いです。顔を見せてくれないでしょうか」

 こんなに相手に苦労をしたことは無かった。女なんて簡単で、誰もが魅惑の誘いをすれば直ぐに乗っかり、楽だった。別れる時だって泣き出したりしたけれど、それはそれで感情をはっきりと表してくれたなら単純に理解しやすい。なだめるだけで徐々にその感情を収めて完結できる。
 そんな経験しか持っていない私には今の状況をどう打破したらいいのか解決の兆しすら見えないのだ。

「……乱歩さん、済みませんでした」

 見えているか知らないが、扉を前に頭を下げる。きっと見知らぬ人が見たら滑稽に見える光景だが、見知らぬ人など別に興味がない。今大事なのは目の前に居るだろう相手なのだから。
 しかし、滑稽だと思っていたのは乱歩さんも同じであった。

「太宰、何しているの」

 すっかり耳が訊き慣れていたこの声が、横から聞えてくる。

「―――え」
「なんで僕の家の前で頭を下げて謝罪しているのか判らないけど。取り敢えず、家にでも入れば」

 乱歩さんの右手には何時ものコンビニ袋。どうやら私が謝罪をしていた宅は主が留守をしていたらしい。すっかり人目も気にせず声を張ってしまった自分が恥ずかしくなり、耳が少し赤く染まる。
 素っ気ない態度ではあるが、乱歩さんは扉を開けて招いてくれた。
 今度こそ、きちんと対面して云いたいことを伝えてしまおう。

「…乱歩さん、話があります」
「うん」
「乱歩さんのことを最初は、賭けごとの対象として扱っていました。仕事場でろくでもない賭けを引き受けて、乱歩さんに近づいて魅了させようとしていました。でも、乱歩さんと共にいられた時間を確かに感じていた時にはすっかりその目的なんて忘れていました。二人で一緒に居られる瞬間が幸せで、もっと乱歩さんを知っていきたいという欲が強まって行きました。これらは本物の気持ちです」

 私は、乱歩さんからの遮りなど入らないように一気にありのままの気持ちを伝える。
 その後にぽかん、と口を開いて訊いていた乱歩さんはこちらをじーっと見てから下を見て、彼から何か話をされることは無かった。
 軽蔑されてしまっただろうか。それは当然か。自分の気持ちを弄ばれてしまったと怒号を食らっても可笑しくはない。
 だが、彼はあっけらかんと発言をした。

「…君は今僕を好きだというのか」
「はい」
「……そっか」

 彼は相変わらず下を向いているままだ。
私自身もこれ以上何も云えずに、臆病で彼からの返答を待つことしか出来ない。この場から姿を消せと云われれば、二度と顔を見せるなと云われてしまえばそれで終わってしまっても構わないだろう。私はそれ程非道な行いをしてしまったのだから。

「……ははっ」

 しかし、乱歩さんは突然口角を上げて笑い始めたのだ。

「ははっ、太宰の真面目な雰囲気は矢張り似合わないね。君は何時も異様な笑みが似合う」
「え、笑顔ですか」
「僕が君に遊ばれているなんてことはとっくに気付いていたよ。ああ、この人は僕を真正面から見てはいないんだろうなと思って。だから、ちゃんと拒絶をしただろう」

 最初に。最初に、告白をして無理に落そうとした時だ。彼はあの時から気付いていたというのか。確かに、彼は観察眼が鋭いと思っていたが、そこまで見抜かれていたのか。
 それでも、一緒にいてくれたのは。

「君が何時の日か僕を真正面から見てくれて一緒に笑い合える人物だと判った時は純粋に嬉しかったよ。僕の性格上、如何しても皆が一歩引いてしまったりもして、あまり楽しめなかったからね。だから、太宰と一緒にいれて凄く嬉しかった」

 彼は今度は真正面を向いた。笑顔で。綺麗な表情だ。私はこんな綺麗な笑みを彼に見せられていたのだろうか。眩しくて直視するのが厭になるぐらいに、彼は自分を保っていた。私に汚染される事無く。

「君が今僕を好いていてくれるのなら、もう一度チャンスを与えるよ」
「えっ」
「だから、口説き直して、僕を惚れ直させてみてよ」

 彼は綺麗な笑みをたくらみの笑みに変えて、そのまま私に近づいて一瞬だけ唇に何かが触れる。ほんの一瞬のキスで、後からそれを実感させられた。

「…ら、乱歩さん!」
「じゃあ、また明日」

 彼は扉を開けて出ていくように示唆される。今日はこれでお開きだという事だろうか。
  しかし彼は別に私を拒んではいない。まだきちんとチャンスを与えてもらったのだから、彼に云われた通り惚れ直させようじゃないか。

「…またね、乱歩さん」

 私はそう一言残して乱歩さんと別れた。
 そして見上げた空には雲など全く姿を見せていなかった。