大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.67 )
日時: 2019/10/21 21:55
名前: 皇 翡翠

待ち人探し(乱歩さん誕生日・福乱) 


『名探偵よ、街中に隠されたものを全て探し出し、目的地まで辿り着き給え』


真っ白の紙に癖のある字で書かれた文字――万年筆である事、筆記体から恐らく太宰が書いたもの――を見て、江戸川乱歩はめんどくさそうに溜め息を付いた。

十月二十一日の午前八時。
本日は探偵社が誇る名探偵、江戸川乱歩の誕生日である。

探偵社では事務員であろうが社員の誕生日を祝う事は恒例行事である。然し、その祝い方は一人一人違う。例えば国木田の誕生日は太宰の案で一日中心臓の縮むようなドッキリを仕掛けまくったし、ナオミの誕生日の時は谷崎の案でその日を仕事を休み全員で街中を遊びまわったりした。そしてそれは、名探偵である乱歩も例外ではない。
要約すれば、街中の何処かにいるであろう社員を見つける――謂わば「かくれんぼ」である。『超推理』の異能を持つ乱歩に見抜けぬ謎が無いように、毎年行われる誕生日会も尽く見抜いてしまう。本人は祝われるならどんな形でも良いのだが、他の面々はそれに納得いかないようで、毎年何故か乱歩の誕生日だけは規模がでかく、且緻密に構成された計画で行われる。…それもあっさりと乱歩は見抜いてしまうのだが。
そして今年の誕生日は、社内だけじゃなく街全体を巻き込んでしまおうという訳だ。

「全く、僕を出し抜く為とは云え、出張帰りに労働を強いるなんて!」

毎年この時期になると乱歩は出張に行かされる。勿論、事件解決のためだ。然し乱歩は知っている。探偵社で自分に行う誕生日計画を知られないように、無理矢理にでも出張をねじ込んでいる事を。

「これでプレゼントが碌でもないヤツだったら、怒るからね」

ブツブツと文句を言いながら乱歩が眼鏡を取り出す。福沢から貰った、異能発動に必須の眼鏡だ。それをかけると、暫し沈黙し目を開けた。その口元は、綺麗な三日月を描いている。太宰の字が書かれた紙を手に持つと、乱歩は探偵社を後にした。



***

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.68 )
日時: 2019/10/22 00:40
名前: 皇 翡翠


「見っけ」

探偵社のある建築物の一階、喫茶処「うずまき」に足を運んだ乱歩は、窓際に近い席に座る人物を指差してそう言った。

「いやァ、矢っ張り見つかりますよね、此処じゃ」

苦笑して頭をかく人物――谷崎に、乱歩は「当然だね」と仁王立ちで答えた。谷崎は少々バツが悪そうに笑った。乱歩は谷崎の向かいの席にどっかりと座ると、店主に善哉を頼んだ。それから谷崎に言う。

「今日は水曜日の平日だ。学生であるナオミちゃんは当然この時間帯は学校。ひとり残された谷崎には別に行きたい場所もないし、かといって探偵社に居るわけにもいかない。だから、取り敢えずこの店で時間を潰すのと同時に、他の皆に僕が帰ってきたタイミングを伝える役目を請け負ったって所かな」
「流石ですね…その通りです」

谷崎が苦笑する。敵わない、と降参したかのように手を軽く上げた。丁度そのタイミングで店員が善哉を運んでくる。善哉と一緒に三色団子も付いてきた。店員はただニッコリと笑うと奥に戻っていった。どうやらサービスらしい。善哉の餡を口に含んで甘さを堪能していると、谷崎が足元に置いていた袋から何かを取り出した。

「乱歩さん、誕生日おめでとうございます」

そう言って谷崎は机上に箱を置いた。

「んんむ?」
「ボクとナオミからで、バウムクーヘンです。これ、ナオミがお気に入りの店で…」

谷崎が乱歩に送る誕生日プレゼントは、バウムクーヘンだった。綺麗な丸の形をしたバウムクーヘンの外側が、砂糖でコーティングされている。乱歩は餅を残した善哉の器を横に置き、今度は団子に手を伸ばす。

「ワンホールだね、流石!これ高かったんじゃないの?」
「確かに有名店のですけど、乱歩さんだからこれくらいしないとッてナオミも」
「ふふん、よく判ってるじゃあないか!」

さてと、と善哉も団子も食べ終えた乱歩が席を立つ。谷崎は見つけた、まだ見つけ出さねばならない人物は残ってる。谷崎がバウムクーヘンの箱を抱えて言った。

「乱歩さんに見つかッたら探偵社に戻るルールなので、ボクは戻りますね。これどうします?」
「んー流石にバウムクーヘン抱えたまま移動するのはなぁ。谷崎、探偵社の冷蔵庫に入れといて!僕の名前書いといてね!」
「判りました」

頑張ってくださいね、と谷崎の言葉に、乱歩は笑顔で「バウムクーヘンよろしくね!」と返して店を出た。

谷崎は見つけた。残りは後、七人。



***



次に乱歩が足を運んだのは、探偵社からだいぶ離れた先にある畑だ。元々は荒れ果てた土地だったのを、とある人物によって立派な畑となった場所だ。其処で忙しなく野菜を収穫している人物を見つけ、乱歩はその背後に声をかけた。

「賢治くん見っけ」
「あ、乱歩さん!おかえりなさい!お誕生日おめでとうございます!」

屈託ない爽やかな笑顔でその人物――賢治が手を上げて言った。その手は新鮮な土に汚れた軍手がはめられ、何時もの素足ではなく長靴を履いている。サイズが合っていないので、恐らく借り物だろう。パコパコと音を鳴らしながら賢治が乱歩の傍まで駆け寄った。

「賢治くんの事だから、隠れている間に此処の畑の世話でもしてるだろうなって。此処の土地、結構荒れてて野菜育ちにくいし。で、そのまま本格的な農作業になっちゃって隠れること自体忘れるんだろうなーって」
「流石乱歩さん!凄い推理です!」

別に推理という程じゃない。少し考えれば判る事だ。然し褒められる気分は良いので何も言わないでおいた。賢治はそうだ!と思い出したように畑の隅に置かれた段ボールから何かを取り出した。それが地面に置かれた時、ドンッと地鳴りがした。少し離れた乱歩の足元にも振動が伝わってきた。

「これ、乱歩さんにあげます!誕生日プレゼントってやつです!」

それを見て、乱歩の表情が引きつった。
賢治が段ボールから片手で取り出したのは、銀色に輝く集乳缶だった。乳牛から絞った牛乳を入れる缶だ。牛乳が入っているのなら、相当重い筈の代物だが、賢治は片手でそれを持った。流石『雨ニモマケズ』超怪力の異能の持ち主である。

「僕の村では、祝い事にはその家で一番出来のいい物を捧げるんです!野菜も牛も豚も出来は良いんですけど、今年は乳牛がとってもよく育ったので!」
「………えーっと、流石の僕もそれを持って歩くのは無理だよ」
「あ、じゃあ僕はこの後探偵社に戻らなくちゃいけないので運んでおきますね!あと何人ですか?」
「まだ二人しか見つけてないけど、もう全員の居場所に検討は付いてるから大丈夫!」

胸を張ってそういえば、賢治が素直に凄いと手を叩いて褒めた。

「それじゃあ僕はこの辺で!乱歩さんなら大丈夫でしょうけど、頑張ってください!」
「あったりまえ!じゃあ賢治くん、それよろしくね!」
「はい!」

元気よく返事をした賢治は、集乳缶をひょいと片手で抱えてすたこらと探偵社の方向へ駆けていった。その背を見送りながら、乱歩は素直にすごいなぁと思うのだった。

谷崎の次は賢治。後は、六人。
乱歩は、その内の二人に会いに行くことにした。



***



「矢っ張り此処にいたね!」

乱歩が向かった先は噴水公園の近くだ。この辺に何時も移動販売のクレープ屋がある。その店の近くの、公園のベンチに座ってクレープを食べる二人組に乱歩は声をかけた。

「うわっ!ほ、本当に見つかった…!」
「…。」

そこに居たのは、最近入社したばかりの新人――敦と鏡花の二人だ。乱歩を見るなり驚いたように身体ごと仰け反った敦と、夢中で食べていたクレープから顔を上げてぺこりと挨拶をする鏡花。対照的な二人を見て乱歩は愉快そうに笑った。

「最初は建築物の隙間とか、見つかりにくそうな場所に隠れようと考えたんだろうけど。もうすぐお昼だ。何か食べようとして鏡花ちゃんがクレープを提案したんだろう?否、最初は湯豆腐を提案したんだろうけど、敦くんのお財布事情が悪くてクレープにしたってところかな。食事ぐらいは明るいところで食べようとして、食べていたところを僕に見つかったわけだ!」
「お、おぉ…!なんでそこまで判るんですか…!?」

敦が本気で頭を抱えて言った。乱歩はその顔をけらけらと笑いながら眺め、ただ一言「僕の異能は有能だからね!」と言った。ぶっちゃけ本人が気付いていないだけで、乱歩の『超推理』は異能ではなく、本人の推理力から成せる神業なのだが。乱歩がぺちぺちと敦の頭を叩きながらにっこりと笑った。

「ところで敦くん。プレゼントの前に僕もクレープ食べたい、ほら僕誕生日だし」
「えええっ!あの、僕、今お金が……って乱歩さんさっき見抜いてましたよね!?」
「うん。敦くんのお財布の事情は知ってるよ。でも僕も食べたい」
「えぇぇ…わ、判りました…!」

とっても悲痛そうな顔で泣く泣く敦が乱歩の要求通りクレープを買いにいく。それを待っていようとベンチに乱歩が座り込む。ちょい、と袖を鏡花が引っ張った。

「ん?なんだい?」
「…これ」

鏡花が差し出した袋。中身は、乱歩が前に鏡花に教えた混ぜると色が変わる飴と、兎と虎の人形だ。小さな二つの人形は、恐らく敦がゲームセンターで取ったものだろう。通りで彼の財布事情が悪くなるわけだ。

「誕生日、おめでとう」
「うん、ありがとね!」

あげると言わんばかりに押し付けてくる袋を受け取る。丁度敦も戻ってきて、鏡花が渡した袋を見て「え、もう渡したの?僕居なかったのに!?」と狼狽えていた。二人で渡す手筈の筈が、先を越されてしまったようだ。敦の様子がおかしくて、乱歩は愉快そうに笑ってクレープを受け取った。

「それじゃ、プレゼントのオマケってことで貰っとくね!」
「へ、はい!あ、お誕生日おめでとうございます!」
「ふふ、このあと二人は探偵社に戻るんでしょ?迷子にならないようにね」

それだけ伝えて、乱歩はその場を後にした。背後で二人が「それじゃあ行こうか。きっと谷崎さん達が待ってる」「うん」と会話しているのが聞こえた。クレープを頬張りながら、次はどっちにしようかな、と乱歩は考えるのだった。

谷崎、賢治、敦と鏡花。後は、四人。



***



とある食堂に辿り付き、席に着いて早々乱歩は店員に伝言を告げた。

「眼鏡で金髪、手帳を片手にした男が来たらこの席に通してね!」

その特徴だけで誰だか理解したであろう店員は、にっこりと笑うと畏まりましたと席を離れた。先に注文しておいた挽肉焼をもぐもぐ食べていると、暫くして一人の男が入店した。先程の店員がその姿を見て笑って乱歩の伝言を告げた。乱歩もそれに気付き、その人物に向かってひらひら手を振った。その人物――国木田が驚いたように目を見開いた。相変わらず判り易いなぁと思いながら、ちょいちょいと手招きした。観念したように、国木田が複雑そうな顔をして乱歩が座る席の向かいに座った。

「…どうして此処の場所が?」
「国木田は真面目すぎるからね。ひとつの場所に留まらず時間ごとに隠れる場所を変えてたんだろう。丁度時間は正午を回ったし、国木田はその手帳の予定通り動くから昼食の時間も変わらない。そして今日の予定はこの飲食店で鮭のムニエルが出る日替わり定食を頼んで食す!だろ?」

確信めいた口調で問えば、国木田は目を伏せて「…お見事です」とだけ返した。判り易い彼は、きっと乱歩にあっさりと見破られた自分の不甲斐なさを嘆いているのだろう。心の中だけで。然し顔に出ているのだから本当に判り易い。店員がきて、乱歩の推理通り国木田が日替わり定食を頼んだ。それを見て乱歩は小さく笑う。居心地の悪そうに国木田が茶を啜った。

「何人見つかりましたか」
「あと三人だね。太宰と与謝野さんと社長」
「くっ…太宰よりも先に見つかってしまうとは…!」
「大丈夫だよ国木田。太宰の居場所も判ってるし。ていうかほら、太宰そこに居るよ?」

国木田の座る、すぐ後ろの席を指させば、其処に座っていた人物――太宰がおやおやと笑って振り返った。

「バレてましたか」
「うぉわあああっ!?」

突然の太宰の登場に、国木田が大袈裟すぎるほど派手な音を立てて椅子から落ちた。国木田の様子に満足したように太宰は声を上げて笑った。乱歩はそんな二人を見てただ皿の上の挽肉焼を口に入れた。

「ずっと僕をつけてたでしょう、太宰。谷崎の時も賢治くんの時も、さっきだってそうだ。探偵社に残された文字はまだ墨が乾ききってなかった。あれはまだ書いた直後だった。ということはお前は僕がまだ探偵社に居た時、お前も探偵社に居たんだろ。僕が気付かないとでも思った?バレバレだよ、だってお前炭の匂いが微かにしたもん。今日の自殺は練炭自殺だね。面倒だから最後の方にしようと思ったけど、国木田も見つけたしもういいかなって」
「流石は乱歩さん!名探偵!」
「太宰!貴様!真面目に隠れろと!何を!している!」

ぱちぱちと拍手して褒める太宰を容赦なく首を絞めて問い詰める国木田。何時もの光景だ。ぽきりと太宰の首から変な音がしたが、太宰は倖せそうな顔をするだけなので何の問題もない。漸く落ち着きを取り戻した国木田が懐から一冊の冊子を取り出した。太宰も同じように、ひとつの箱を取り出す。

「乱歩さん、本日は御誕生日おめでとうございます」
「誕生日おめでとうございます。探偵社が誇る名探偵のお誕生日ですので、ちょっと奮発しました」

二人からのプレゼントを受け取り、乱歩は呆れ半分、納得半分といった様子で笑った。

「成る程。流石は探偵組だね」

国木田からのプレゼントは手帳だった。いつも国木田が使っているようなモノではなく、古典的で御洒落な茶色の手帳だ。まるで名探偵が持っていそうな手帳だ。
一方、太宰からのプレゼントは万年筆だった。太宰の愛用している物とは少々違って、生産元の印が刻まれている。かなりの上物だ。
手帳に万年筆。まるでセットで用意されたかのようなプレゼントだ。それに気付いた国木田が太宰を睨んだ。太宰は知ってて万年筆にしたのだろう、へらへら笑うだけだった。

「…あまり太宰と組扱いしないでください」
「えー私はいいけどなぁ。ホラ、国木田くんがいたら報告書とか楽だし」
「俺は便利屋じゃないぞこの包帯無駄遣い装置!」
「あっはっは!有り難く頂くよ、ありがとね二人共!」

乱歩は手帳と万年筆を鏡花がくれた袋に入れる。かさり、と荷物が少しだけ増えた袋を引っさげて、乱歩は席を立った。二人に向けて笑顔で言う。

「それじゃ、僕もあと二人のとこ行かなきゃだから!よろしくね!」
「はい。それでは」
「いってらっしゃ〜い」

律儀に頭を下げる国木田と、ひらひらと手を振って見送る太宰を横目に乱歩は店を出た。


「さて、国木田くん。じゃんけんしようか」
「何故だ。真逆お前、自分の食事代を俺に押し付ける気か?それくらい自分で払え」
「うふふ、残念ながら半分正解かな。けど私のじゃあない」
「何?」
「国木田くん、この伝票を見給えよ。乱歩さんの分もあるだろう?」
「…!?」
「然りげ無く押し付けられてしまったからね。これは公平にじゃんけんで決めようではないか」


谷崎、賢治、敦に鏡花。そして、国木田と太宰。残りは二人だ。
きっと、二人共待っているんだろう。あの場所で。



***

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.69 )
日時: 2019/10/21 23:30
名前: 皇 翡翠




すっかりお昼もすぎて、夕方だ。
国木田と太宰と別れた後、乱歩が向かった先は探偵社だった。但し、今の探偵社の方じゃあない。まだ探偵社が出来て間もない頃に利用していた旧晩香堂。其処に残りの二人――与謝野と福沢が待っている。
それに向かう道を歩いていると、ふと先の方で誰かが待っている。その人物を確認して、乱歩は口角を上げた。

「与謝野さん、見っけ」
「おンや、見つかっちまったかい」

態とらしくにんまりと笑った与謝野に、乱歩は知ってたくせに、と笑い返す。

「与謝野さん達が連絡を取り合ってたのは知ってる。だから、国木田が見つかったら此処に集まるようにしてたんでしょ?流石にずっと此処にいるのも暇だしね」
「お見通しかい、流石だねェ」
「社長はもう下に居るね。与謝野さんは案内役?」
「案内って程でもないさ、ただ一人でこの階段を歩くより、話し相手が居た方が詰まらなくないだろう?」

そう言いながら、与謝野さんが旧晩香堂へ行くための隠れ通路を開く。先の見えない階段が続く道だ。それを見て、乱歩は「成る程、確かにね」と呟いた。

与謝野に先導されるような形で階段を降りる。コツコツ、と二人分の足音が狭い通路に響いた。それで、と乱歩が口を開く。

「与謝野さんのプレゼントは?」
「妾かい?妾からはこれさ」

そう言って与謝野が乱歩に渡したのは、透明な瓶に詰められた色鮮やかな金平糖だ。瓶に提げられた紙に「happy birthday」と英字で記されている。

「どうだい?今年の誕生日は」
「ま、中々楽しかったけど面倒だよ。一応、僕出張帰りなんだけど。もう少し勞ってほしかったなぁ」
「ふふ。乱歩さんならそう言うと思ったよ。だから明日は乱歩さんは休みでいいって社長が言ってたよ」
「社長が?」
「そもそも、今年の計画は社長が言いだしっぺだからねェ」

与謝野の言葉に乱歩の足が止まる。微かに目が細まる。与謝野が乱歩を見て、気付いていなかったのかい、と問うた。再び足を進めた乱歩が言う。その声は、どこか不満げだ。

「…ううん。なんとなくそんな気はしてた。敦くんや鏡花ちゃんが思いつくようなことじゃないし、賢治くんも違う。谷崎も、国木田ももっと違う案を出す。太宰が考えそうではあるけど、彼奴ならもっと工夫するだろうし」
「へェ、じゃあ最初から見抜いていたのかい」
「まぁね。仮に太宰が考えていたとして、彼奴は最後に国木田が飛び上がりそうなドッキリを仕掛けるぐらいはするよ。けどこれは平凡なかくれんぼだ。この先に待っているのも、社長だけじゃなくて他の社員も集まってるんでしょ?これはただの時間稼ぎだ。僕にあっちこっち探させている間に、此処で誕生日会の準備をしていた…違う?」

乱歩の言葉に、与謝野は笑顔で「正解だよ」と告げた。そうこうしている内に、旧晩香堂に繋がる扉の前に着いていた。乱歩が唇を尖らせて言う。

「確かに中々楽しめたのは認めるよ。プレゼントも嬉しかった!でも僕を驚かせる程じゃあないね。どうせならもっと、国木田の誕生日の時みたいに派手な―――」

乱歩が扉を開いた、瞬間。



目の前が色とりどりの紙吹雪で埋まる。同時に、大音量の爆発音と風圧。


不意打ちすぎる衝撃にふらつく。そのままぺたんと尻餅をついてしまった。パラパラと紙吹雪が乱歩の頭や身体に降り注いだ。与謝野が満足げに笑っている。

「驚いたか」

社長――福沢が扉の前で、バズーカ砲を抱えて立っていた。

「………………………………………………正直、超びっくりした」
「そうか」

呆然とした様子で、取り敢えず乱歩がそれだけ言えば、福沢は平然と一言返すだけだった。福沢の背後を見やる。
乱歩の推理通り、誕生日会の用意がされていた。机上のケーキやお菓子、無駄に派手に飾り付けられた室内。黒板にはでかでかと「乱歩さん誕生日おめでとう」と書かれている。字は敦と賢治で書いたものだ。その周辺に描かれているうさぎなどのイラストは鏡花のものだ。飾り付けは谷崎とナオミだ。もう学生も下校していておかしくない時間だ。この時間まで乱歩を引き付けるのが、国木田達の役目だったのだ。手先の器用なナオミに、飾り付けを手伝ってもらうために。
全身に降り注いだ紙吹雪を払いながら、乱歩が福沢をじろりと見る。とても不満です、と顔が物語っていた。

「…社長は、何もないの?」
「無論、用意はしてあるが」
「それだけ?」

乱歩の言いたい事を理解しているのだろう、福沢が微かに口元を緩めて微笑んだ。そっと手を伸ばす。紙吹雪を払い落とす振りをして、乱歩の耳元でそっと囁いた。



「――――――――――――」



乱歩が固まる。丁度その時、太宰がひょっこりと福沢の背後から現れて乱歩の手を取った。

「さぁ乱歩さん!名探偵の誕生日を盛大に祝いましょう!国木田くんが一発芸してくれますよ!」
「待て太宰!誰が一言でもそんな事をすると言った!?」
「乱歩さんお誕生日おめでとうございます!兄様からバウムクーヘンは受け取りました?あれ私のお勧めなんですよ」
「ちゃんと伝えたよ、ナオミ。バウムクーヘンも用意してありますよ乱歩さん」
「牛乳で生クリーム作ったんです!ケーキに使ったので、どうぞ乱歩さん!」
「鏡花ちゃん待って!そんなに混ぜて色が変わる飴ばかり量産されても乱歩さん食べきれないよ!!」
「えっ…」
「おやおや、まだ乾杯もしてないのに賑やかだねェ。酒は用意してあるかい?」

太宰に引っ張られながら乱歩も室内に踏み込む。与謝野と福沢もその後に続く。まだ乾杯も何もしていないのに、随分と騒がしく賑やかだ。
然し、乱歩の頭を埋め尽くすのは、先程の福沢の言葉だった。


―――満足するまで、付き合ってやる。



「乱歩」

福沢が呼ぶ声がする。乱歩が振り返る。
その顔は、とても優しい微笑みで。


「おめでとう」


顔に熱が溜まるのを感じながら、乱歩は福沢に言葉を返す代わりに抱きついた。


…今日はめいっぱい甘えて、甘やかしてもらおう。