「だって鬼道が言ったんだろ?なんだっけ、相手を女子だと思って手繋ぐだけでも効果あるかもって」
「それは円堂が本当の恋というものをしているかどうかを検証する為に出した案なだけであって、なにも俺達でやろうなどと考えて言ったわけでは」
「もー!いいから手!繋ぐ!」
「えんどっ」
「豪炎寺も!」
「え、ああ」
円堂の言い訳にタラタラと説明文を述べる鬼道に円堂は聞く耳持たず、鬼道の右手と円堂の左手、円堂に差し出された右手に俺の左手を繋ぐ。
円堂が強引に鬼道と手を繋いだせいで鬼道は椅子から立ち上がっている。
三人で恋人繋ぎをしながら、無言で目をつぶっている円堂を見る俺と鬼道。
「ハッ!ダメだ!やっぱ女子じゃねえと無理だー!」
「円堂は好きな子でも出来たのか?」
「えっ!?いやあー、そういうわけでもー、ないんだけどさあ」
「「(嘘が下手だな)」」
俺と鬼道の手を離して机に突っ伏しる円堂に問いただすと、あからさまな反応。目を泳がし顔をかいて冷や汗を流している。
きっと鬼道も同じことを思っただろう。鬼道が問い出す。
「誰なんだ?そのお相手は」
「い、いや!居ないって!」
「今更隠すのか?」
「いやいや、言えないって!」
「何を隠す必要があるんだ?俺達に出来ることなら協力するぞ?」
「だから言えないんだって!」
「ん?どういう事だ?」
鬼道と俺の交互の質問責めに引き攣った笑みを浮かべながら両手を前に出して首を横に振る円堂。
協力するという鬼道の言葉に円堂の返事は俺も鬼道も首を傾げてキョトンとするしかない。
俺が問えば円堂は言いづらそうに唸りながらゆっくりとした口調で口を割った。
「その子、豪炎寺のこと気になってるらしいんだ」
「えっ」
「ぷっ、ククッ、なるほど…豪炎寺か、お目が高いな」
「だろ?だから極力さあ」
なぜ俺なんだと聞き返したくなったが、口元に手を当てて笑った鬼道が俺を選ぶ女子は見所があると誉めてくれたようで嬉しくて、綻びそうになる顔を我慢するのにムッとする顔なんて作れない。
そのうちに話は進み、出来れば俺の協力は要らないと円堂が遠まわしに言う。
「なにもその子の前で円堂の事を話すだけが協力じゃないけどな…」
「なら交渉は俺が行こう!任せろ!女子生徒は春奈で慣れている!」
「だから鬼道もダメなんだってえー!」
「なぜだ!」
「ゴーグル取ったらダメだし、頭良いしスポーツ出来るし料理出来るし完璧じゃんかあー!」
「いや、ゴーグルは取っても取らなくても関係ないだろう」
「「いやいや、あるある」」
鬼道は自分の顔の良さを自覚していない。俺と円堂のセリフがハモってしまった。
顎を机に乗せたままの円堂に鬼道は率直に告げた。
「だが、豪炎寺の顔や俺の肩書きと円堂は根本から違うからな、告白は早くとも推していくしかないんじゃないか?円堂の良さは中身にあるんだからな」
「ああ、俺もそう思うぞ」
「鬼道、豪炎寺!ありがとなあー!」
俺の顔、という鬼道に少し引っかかるが、確かに円堂の持ち味は、その真っ直ぐで熱いところだと思ってる。鬼道の意見に頷いて同意すると円堂は単純なもので涙目の目を輝かせる。
抱きつくだろうと思えば抱きつく相手が机で阻まれた俺よりは近い鬼道に抱きついた。スキンシップに慣れてない鬼道は「よ、よせ、円堂っ!」と顔を赤くして慌てているが、それが可愛くて俺も抱きつきたくなる。
うずうずしながら見ていれば、パッと離れた円堂はスッキリ問題解決させたようで席についてガツガツと弁当を食べ始めた。
「全く、騒がしいやつめ」と鬼道が軽く服装を整えているのを見て、少し違和感を感じた。
服装を整える行為についてではない。鬼道は円堂が好きなはずで。円堂が好きなら、円堂の好きな人を聞いて傷ついているはずだ。なのにそんな素振りは一切無い。協力するという事、それが嘘をついているというよりは本心からで微塵も傷ついているように見えないことが違和感なのだ。気にしていないというか…。
鬼道は円堂が好きなんじゃないのか…?