大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.1 )
- 日時: 2019/04/20 18:07
- 名前: 枕木
「莫迦なのか、手前は」
最初に出てきた言葉はそれ。
続けて、ああそういや手前莫迦だったな、訊くまでもなかった。と付け加える。すると、自分の足元にひざまづき、ジュエリーケースを開けて差し出している男は、むっと口を尖らせて顔を上げた。
「その莫迦に惚れちゃったのは君でしょ。さっさと受け取ってよ」
「なんでそんな上から目線なんだよ?」
「ねえ、この体勢結構疲れるから〜。早く〜」
「うるせ、少し黙ってろ」
はあ、と溜め息をつく。今まで、こんな訳のわからない求婚(プロポーズ)をされた者はいたのだろうか。それは否、だろう。じゃあ俺が人類初か?うわー……
「ちゅーうーやー」
「……いいのかよ」
「ん? 何が?」
ぽつりと呟くと、太宰は大きく伸ばしていた腕を少し降ろし、首をかしげた。
黒髪の前髪から覗く瞳は、何となく楽しそうに見える。
だけど……
「……俺と一緒になったって、良いことなんか何もねえだろ。寧ろ、色々……」
「ふうん、つまり、求婚は受けてくれる積もりなんだ?」
「っ……。でも、手前が……」
「中也」
太宰が、立ち上がる。いくらか身長の高いその男の顔を見上げる。
不安、後悔、だけど、幸せで。
だけど、自分の幸せの為に一番大事な奴を不幸せにさせたくなかった。
お互いがこの敵同士という立場でいる限り、俺達は……
「ぷっ。なにそんな中也らしくない顔してるの。怯えた小鹿みたいだよ」
笑って、太宰は俺の左頬を手で包み込んだ。
嗚呼……温かい。
「中也、本当に莫迦だね」
「あ”?」
「中也知らないでしょ」
「何をだよ」
あー、なんか訳わかんねえ、喉に鉛でもつかえているような。それに、目が熱い。
「私が、中也と一緒にいることをどれだけの幸せだと感じているか、をさ」
「は……」
「一緒に居てよ、中也。それだけでいいから」
それだけでいい、とか嘘言うんじゃねえよ、とか言おうとしたのに、代わりに出てきたのは頬を伝う熱い雫。
太宰はそれを優しい笑顔で拭って、再びジュエリーケースを差し出した。
「結婚でもしようか、中也」
「いいぜ、後悔すんなよ? 太宰」
「もちろん」
指輪を奪うように取って、いつもみたいに、これから勝負でも始まるかのような、口振りで。
でも、拳の代わりに交わしたのは、甘ったるい口づけだった。
それが終わると、太宰はいつも通りの飄々とした表情に戻って、うーんと伸びをしながら歩き出した。
「じゃあ帰ろうか。君がもたもたしていた所為でこんな時間だ」
「あ”? 手前が無駄に格好つけてたからだろ」
「えー? 泣いちゃうくらい格好良かったんでしょ?」
「それとは関係無ェよ阿呆」
月明かりに照らされて、アスファルトに寄り添う2つの影が映る。そして、指には美しい輝き。
そんなのが嘘みたいに、子供みたいにいがみ合って。
……まあ、これでいいか。
「中也」
「あ?」
こうやって自分の名を呼ぶ、こいつがいれば、なんて。
そう、思ったところだったのに。
「好き」
突然、あまりにも優しい顔で、近い距離で、愛しそうに告げるから。
だから、幸せになろうと思った。生まれて初めて。
俺は、言葉代わりに奴の外套の襟を掴んで引き寄せた。重なった影が答えだった。
それじゃ、結婚でもするか。
えんど