大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.112 )
- 日時: 2019/09/28 22:56
- 名前: 枕木
「……中也」
「ん……」
その声に、ぱちっと目を開けた。今何時だ……躊躇いがちに細く開いた扉の隙間からさしこむ光に目を細め、返事をする。
そこから顔を出したのは、帰宅した夫だった。
「御免、起こしちゃったようだね」
「否、いい。お帰り、太宰。飯食ったか?」
「うん。台所立つの辛いのに作り置きさせちゃって御免ね」
「悪ィな、飯一緒に食えなくて。ろくなもん作れなかったし」
「ううん。美味しかったよ。君って料理だけは人並みだから……」
少し遠慮したような変な軽口にくすっと笑う。全く、らしくねェなァ。
黙って、手招きする。太宰はそっと寝室に入ってきて扉を閉め、蒲団脇のスタンドライトを点けた。そして、そのまま俺の枕元に座り、俺の髪を撫でた。
その手つきが心地好くて目を瞑る。最近は太宰も仕事量が多く、俺もつわりが非道くてずっと寝込んでいる状態だったから、こうして触れ合うのは久しぶりだ。矢っ張り、なんか落ち着くな……
俺がつわりになってから、俺の希望で、太宰には俺が寝る寝室にあまり入ることのないように、リビングで寝てもらっている。でも、今日は……
「太宰、風呂入ったか」
「うん」
「歯磨きは?」
「したよ。なあに、お母さんみたい」
「まあ、練習だろ」
「そっか。中也、本物のお母さんだものね」
太宰はふふっと笑い、目を細めた。仄かな明かりに照らされた、俺を見下ろす太宰の顔は、何処までも優しかった。
それを見た途端、愛しさが溢れた。
胸の内が温かくなって、ぎゅっと締め付けられる。どうしようもなくなる。好きだなあって。好き。好きだ、太宰。
「太宰……」
呼びながら両手を伸ばすと、太宰は柔らかく笑って、そっと、俺に覆い被さり、そして、首に腕を回した俺をぎゅっと抱き締めた。
腹を気遣って、体重はかけないように、優しく、そっと、それでも、ぎゅっとしてくれる。幸福感に満たされて、「ふふっ♪」と笑みが溢れた。
「だーざーいー……」
「うん……ちゅーや、あったかいねえ。矢っ張り、こうしているのが一番幸せだなあ……」
耳元でほっと息をつく太宰が、俺と同じことを感じていることに驚いた。でも……嬉しいもんだな。
「なァ太宰」
「ぅん?」
「今日は……此処で寝ろよ」
「つわり、大丈夫なの?」
「嗚呼」
「そっか……」
太宰が、姿勢を変える為に俺を一度離した。そして、嬉しそうに微笑んで、俺に添い寝すると、自身の胸に俺を包み込んだ。
「ふふふっ」
堪えきれなくてという風に太宰がもらした笑みは、本当に幸せそうで。此方まで、嬉しくなった。
太宰のにおい、柔らかさ、鼓動、体温……
その愛しい全てを、顔をつけた胸から、包むように躰に回された腕から、密着した躰から、感じる。
嗚呼、矢っ張り俺は『これ』が一番好きだ。一番、安心する。
吐き気もだるさもあって最近は寝付きが悪かったが、今日はいい夢が見られそうだ。
そっと顔をあげてみると、やさしい笑顔がそこにあった。
ふっ、と笑って、再び胸に顔を埋めた。こういうことを云うのは、少しばかり恥ずかしい。
「……なァ、太宰」
「ぅん?」
「つわりも、収まってきたし……そろそろ、安定期に入る」
「! それは善かった」
嬉しそうな声。心配してただろうからなァ。こいつ、自殺未遂と錠外しと悪巧み以外、からっきしだからな。
だから……だからこそ、こうして甘やかしてくれるんだろう。
まあ、これにどれだけの効果があるかは本人は知らねェだろうし、知らなくていいけどな。
だから……だからな。
「…………明日から、此方で寝ろ」
「!!」
太宰の目が輝く。「いいの!? やったぁ!!」そんなところだろう。くすっと笑ってから、目を瞑った。愛しい胸に顔を埋める。
「それと」
父親になる、お前が。母親になる、俺が。
これからは何でも二人……否、三人になる。
今までもこれからも、沢山のことがある。良いことばかりじゃない。
だけど、確かに、ここに温もりがある。幸せがある。俺が掴んだものだ。手放さねェよ、絶対にな。
「赤ん坊の、服……とか、買いに、行くか」
「っ……うん!」
思い描く未来、ここにある温もり。
それがあれば、今はいい。幸せなんだ。すごく、すごく、な。
明日は起きたら一番にこいつにキスしよう。驚いて跳ね起きたのを笑ってやろう。そして、朝飯を一緒に食おう。
幸福を噛み締めて、眠りについた。愛しい人に包まれて、俺は夢も見ない、安心しきった眠りに落ちていった。
「おやすみ、中也」
太宰は、世界で一番愛しい二人にキスをした。
幸せな、とある家族の、夜の話。
えんど