大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.121 )
- 日時: 2019/10/19 21:31
- 名前: 枕木
俺に初めて「君は生きている」と云ってくれたのは、帽子をくれた人。
そして、俺に初めて生きる目的を、正しい生き方をくれたのは……
「中也くん」
風貌はどこにでもいる中年の町医者。その実は、俺らポートマフィアを束ねる首領、森鴎外。
そんな彼の、きっと誰にも触らせない膝にただの一幹部で部下である俺を乗せ、ヨコハマを動かすために指示をだして、時には人を救うためではないメスを握る指が、俺の唇をなぞる。
そして、柔らかな優しい声で俺の名を呼ぶ。命令を出すときに指を指すだけでは判り辛いから、呼ぶ為にあるだけの名前を、こんなに、優しい声で。
信じられない。真逆、この人が俺を愛してくれているなんて。俺の恋人だなんて。誰が予想できただろう? 例え、俺が、恩人である首領に命以上のものを捧げたいと願っていたことを知っていたとしても、こうなることを予想できた者はいない筈だ。
窓のスクリィンを閉ざし、誰もいない、首領の部屋で、二人きり、肌に触れられて。
「ンッ……あ、ぼす……」
「首領じゃないだろう?」
「ひぅっ! あッ、も、り、さ……」
「なんだい?」
はあ、はあ、と荒い息を整える。誰も、誰も知らない。こんな関係だなんてこと、こんなことをしてるだなんてこと。
それでも、矢っ張り、信じられない。
「お、れ……」
「ん?」
にっこり笑った顔。優しい顔。
嗚呼、本当に信じられない。
こんな。
……こんな、勤務時間中に、こんなことされるだなんて。
「はっ……なしてください! 俺、始末書が……っ」
「えー? そんなのいつでもいいよ? 君の為なら経費も人材も繋がりもどれだけ失ったって構わないからねえ」
「そう云う訳にはいきません!!」
いいじゃないいいじゃない、と俺の腰にぎゅっと抱きつく彼からなんとか逃れようともがく。無駄なのは判ってんだけどな、矢っ張り、駄目なもんは駄目だろ!?
首領直々の任務を果たし、報告に上がったところでこれだ。最近はいつもこれじゃねェか? 首領に呼び出されたと気ィ引き締めて首領室伺って見れば、朗らかに「今日の帰りデエトしよう、中也くん。店を予約するけど、何料理がいい?」と訊かれたり、廊下で部下に頼んだとある案件の調査書を読んで眉間に皺寄せてれば突然背後から「いやあ、美人が悩む姿はそそるねえ」と尻を撫でられたり。
公私混同はしないように、と云ったのは首領だ。その首領が仕事中もデエト中も、何処でも何時でも恋人を隠さない。勿論片想い相手だった人に愛されるのは嬉しい。が、それに甘んじて仕事を軽んじる積もりはさらさらない。それなのに首領がこれでは、部下に示しがつかない。
から。
「は、な、し、て、ください!!」
「えー? 私のこと嫌いかい?」
「……いえ……」
「本当かい? 嬉しいなあ、嬉しくて、抱き締めたくなってしまうよ」
先刻からこの繰り返しだ。
ため息をつき、一旦無駄な体力の消費を止めるか、ともがくのを止めた。首領は俺の胴に抱きつきながら、俺が抵抗をやめたと見るや、躰を起こし、今度は自分の胸中に俺を収めて抱き締めた。
あー……また負けた……流されっぱなしだな、何時か罰当たるんじゃねェか……?
「ふふ。中也くん、愛しているよ」
幸せそうに笑って、首領が俺の耳元でそう云った。ぎゅう、と抱き締められて、鼓動が、体温が、俺の為に開いた黒い衣服と皺一つないシャツ越しに、伝わってくる。冷酷で鋭い脳とは裏腹に、人間らしく、あたたかくて柔らかい。どれだけの人間が知っているだろう、広大なヨコハマを支配するポートマフィアの首領が、実は子供体温だなんて。
本当に罰が当たりそうな気がする。
こんな……信じられないくらい、
「幸せだよ、すごく」
吃驚して、胸中から顔だけをあげて恋人の顔を見上げた。彼は俺を見下ろし、微笑んでいた。髪を撫でて、ちゅっと額に口づけを落とした。そして、俺をみつめて、云った。
「有り難う、中也くん。生まれてきてくれて」
その真っ直ぐな瞳に、目元に柔らかく刻まれた皺に、ぐっと息がつまった。胸が締め付けられた。せりあがってきたものを必死で抑える。嗚呼、罰が当たる、きっと、何時か。でも。
「……っ、でも、始末書、書いてからですよ。なにか、その、する、のは」
「おや、この流れを切れると思っているのかな?」
「〜〜っ」
ふふふ、と楽しげにくつくつ揺らして笑う胸に泣きそうな顔を埋めて、溢れそうな想いを隠した。
こんなに幸せで、いい訳ない。何時か罰が当たる。それでも、俺は、このどうしようもない人が、大好きで、愛しくて。勝負になんてなりっこねェんだ、最初っから。判ってるのに、それでも足掻いてしまうのは、
「照れ屋さんだねえ、中也くんは」
「五月蝿いですよ……鴎外……さん」
「!!」
貴方に捧げた筈のこの血潮を、躰を、心を、貴方が優しく触れてくれるのが嬉しくて、悔しくて。
だから、ほんの少しの、照れ隠し。
貴方がくれたのは、古ぼけた黒帽子と、生きる目的と正しい生き方。それと、溢れるような愛。
どうか、ずっと傍に置いてください。
「無論だよ。寧ろ、心配なのはこちらだけどねえ。君も強くなった。去っていこうと思ったら、出来るんじゃないか?」
「そんなことしません。云いましたよ、首領。俺は、貴方のために奴隷として敵を砕く。そして敵に思い知らせましょう。ポートマフィアを蔑する者が、どれほど苛烈な重力で潰されるかを」
真っ直ぐに自分を見上げ、微笑む小悪魔を、森は黙って見ていた。
その表情には、今までのどんな笑みとも違う笑みが___謎めいてもいなければ底知れなくもない、人間が愛しいただ一人に向けて浮かべる笑みが___浮かんでいた。
そして一言、「期待しているよ」と云ってそっと口づけた。
そのあと、
「でも、奴隷じゃなくて恋人って云って欲しいなあ」
と笑って付け加えた。
7年経って、敵だった組織の幹部となり首領の恋人になった少年は、ひどく赤面した。
えんど