大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.130 )
日時: 2019/10/22 10:22
名前: 枕木

拝啓  ダザイオサム 様
手前におかれましては、全く理解のできない自殺趣味に相も変わらず勤しんでいることかと存じます。その努力が一刻も早く報われることを、俺も切に願っております。手前に送って差し上げた葡萄酒にも毒を盛ってやりましたが、手前のことだからぴんぴんしてやがることでしょう。手前は本当に人間なのか疑わしくなることがあります。いや失敬、元々人間失格の烙印押されていたんでしたね、それなら仕方のないことです、本当に残念です、早く死ね。俺の車爆破したことも汚濁遣ったあとの俺を放置していったことも忘れてねえからな、早く天界へ召されてください。まだまだ物申したいことはありますが、手前の為に態々買った紙を消費するのも手前の為に慣れない手紙書くのに時間を消費するのも腹立たしいので、止めておきます。本題に入る。同封しておいたこれは、手前の犬を卒業した記念です。これを着けている限り手前に何処までも付きまとわれてコケにされる気がしてな、あまりに不吉だから返却致します。本当にめでたい、ペトリュス開けたいくらいです。ああそうだ、手前記念に持ってこいよ。まあ手前の薄月給じゃ買える気もしねえからな、ロマネで我慢してやる、次顔付き合わせるときは是非ご持参ください。つっても手前のことだから数年に一度くらいふらっと来るくらいだろうがな、いや実際は来て欲しくもないから矢っ張りいいです、二度と顔見せんな、来んな。忘れろ、全部。そうだなァ、例えば、15から18、それと22からの記憶全部、忘れちまえば手前にとってもご都合宜しいでしょう。こんなこと態々云わなくても手前のことだから直ぐ忘れるだろうがな、念の為だ。取り合えず、こいつは返す。これでめでたく清算できんだろ。ほら、こんな紙切れ捨てちまえよ、早くしろ、ぐずぐずすんな。手前は何時もそうだ、一つもままならねェ。適当でマイペースでマジむかつく。飯作るのは何時も俺だったし、靴下もとうとう一度も裏返ったまま洗濯籠に入れない日はなかった。そのくせ飯の味が薄い偶には蟹出せとか、靴下が生乾きだとか文句ばっかりつけるしマジ腹立つ。その腹いせに靴の中に生卵入れてやったら普通に引っ掛かったよな、あれは傑作だったぜ。あれが無かったら手前の汚部屋なんか疾っくに出てってやってたな、有り難く思えよ。とりあえず新聞溜め込むのやめろ、どうせ一度読んだら内容全部頭に入ってんだろうが。手前の手にかかるとただの紙さえ哀れになるからな。あと手前毎日外食できるほど給料ねえんだから自分で飯作れよ。猿でも作れる料理の作り方まとめといてやったから、遣れ。できんだろ、元ポートマフィア最少年幹部さんよお。できなかったら猿以下だぜ、それも笑いもんだから俺は一向に構わねェが。おんぼろの洗濯機も手前の給料から引いて新しいのにしたし、掃除機は直しておいたから、感謝して泣きながら遣え。本当に手前はなんもできねえからな。そんなんじゃ女の方から愛想尽かすぜ。哀れに一生孤独で死んでくんだな、手前には当然の結末だ、せいぜい莫迦やって迎えろよ。まあそれを迎えるのもあと何十年先か見当つかねェけどな。手前の苦しみ悲しみが一刻も早く終わるように祈っててやるよ。まあ当分顔つき合わせることもないからな、会うとしたら百年後。手前がどうしても会いたいっつうなら、そんくらい経ったなら会ってやってもいい。それまでに会いに来たら殺すからな。俺の手にかかる前に手前が死ぬことを祈ってる。俺の気に入ってる手袋が手前の血で汚れるのなんか真っ平だからな。そういや、手袋どこいったんだ。手前みつけたら教えろよ。帽子と首輪と手袋は気に入ってんだ。いつも着けとかねえと落ち着かない。手前にはどうでもいい話か。なんか莫迦莫迦しくなってきたからこの辺でやめるか。とりあえず早く死ね。会うのは百年後だ。そしたら決着をつけてやる。まあ、それまで精々しぶとく生きるんだな。今もどっかで青鯖が空に浮かんだような阿呆面して、女たぶらかしてんだろ。早く死んじまえよ、太宰、また、百年後にな。

差出人のないその手紙の内容は、酷いものだった。私は苦笑した。
「なに、結局会いたいの会いたくないの、どっちなの」
『だから、百年後だっつってんだろ』
「莫迦だなあ、そんなに生きられるわけないじゃない」
『ケッ、今更人間ぶるんじゃねェよ』
「人間失格だもの、君の云う通り、ね」
「犬卒業なんて云ったって、君私の犬としてろくに働いたことないじゃない」
「私葡萄酒なんて判らないよ。ロマネってなに?」
「私がどう暮らそうが私の勝手じゃないか。蟹、一度も出してくれなかったの怒ってるからね」
「私、君よりよっぽど女性にもてると思うけどねえ?負け惜しみかなあ」
「嗚呼、手袋なら、私知ってるよ。まあ教えてあげないけどね」
立て続けに、云った。勿論返事は返ってこない。墓石が喋るわけがない。
私だって、人間なのだ。いつかは死ぬし、それまでは生きるしかない。


君のいない人生を、この先百年、歩むしかない。


「百年なんて、無茶云うよねえ」
死ね死ねと云っておきながら、百年は会わないだなんて、本当に君は莫迦なことしか云わないね。呆れるよ。
墓石に乗っているのは、趣味の悪い黒帽子。黒い外套がふわりとかかって、その姿は小さな躰で精一杯威厳を見せるとあるポートマフィア幹部のようだった。
手紙と一緒に入っていたものを、重石代わりに墓石の前に置く。気に入っていたのなら、返さなくたっていいよ。君が身に付けていたものなんか持っていたくはないからね。重石代わりのそれの下で揺れるそれを見て、ふう、と息を吐く。毎年こんなことをして何をやっているんだろう、私。からかう相手がいなくなったから、少し暇になっただけだよ。それだけだから。
「さあて、今日は入水日和だなあ」
砂色の外套を翻して、私は墓石に背を向けた。
また来年、私はここへ来るだろう。何故って? 嫌がらせだよ。彼奴が忘れてくれって云うものだからね、嫌がらせ。忘れてほしいなら、絶対忘れてやらない。あと百年生きて、ちゃんと云い付け守ったんだから云うこと聞いてよねって、蒼い瞳を細めて悔しそうな顔を拝んでやる。
それまでは、こうして、細やかな嫌がらせを、繰り返して。

「またね、中也」

呟いた太宰の足元で、黒い首輪を乗せられた赤い椿が風に揺れた。黒い手袋を、片方だけ添えられて。
太宰は黒い手袋がちらりと姿を見せたのをポケットに押し込んで、振り返らずに去っていった。


10月22日。
中原中也が、死んだ日。