大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.144 )
- 日時: 2019/10/31 17:56
- 名前: 枕木
「中也ー? 準備できたー?」
あー、やべ、待たせちまってたか。
部屋の外からの彼奴の声に「一寸待ってろ、直ぐ行く」と叫んで、鏡を覗きこんだ。
蒼い瞳が真っ直ぐこちらをみつめている。辛かった時期も終わり、彼奴に抱き締められて眠るようになったからだろう。彼奴に会う度心配された目元の濃い隈も消えて、ただ、蒼色が明るく輝いていた。
じっとそれをみつめて確認してから、思わず苦笑した。
今まで、自分の容姿とか気にしたことなかったんだけどな、彼奴が、「君の瞳って快晴の空の色で綺麗だよね」とか云って笑うから。そりゃ、気にするだろ。乙女かよってな。俺が一番判ってるんだよなァ……
ふう、と息を吐き、最終確認として、数歩後ろに下がって、鏡に自分の全体を映し、観察してみた。
朱色の髪。少し伸びたな……こうなってから、整える暇とか無かったもんなァ。早いとこ切るか結ぶかしねェと、彼奴に玩具にされる……三つ編みとか団子とか、何で無駄に器用なんだろうな、彼奴。
蒼い瞳。目元に隈は一切なし。また彼奴は綺麗だねって笑うだろうか。心配で歪めた顔よりずっといい。
そして、太股まで丈のある白いセーター。彼奴が自分の職場の探偵社員たちに俺のことを話したところ、その中の女性陣が協力して編んでくれたらしい。女にはこういうときの状態って判るもんなのか、冷えやすい躰に温かく、ゆったりとしていて苦しくなくて、着ていると調子もいい、有難い贈呈品だ。そのセーターに黒いパンツ、あとは、休暇をとってから二、三ヶ月が経っているものの、首領の厚意でその位が保たれている、ポートマフィア幹部としてのせめてもの威厳として、黒外套を羽織る。
うん、まあ、こんなところだろ。
一人鏡の自分に頷いていると、後ろから人がぬっと現れた。うわっ、脅かすんじゃねェよ阿呆!
「あはは、御免御免。何してるのかなあって」
「あー……悪ィな、待たせて。もう済んだから、出られるぞ」
「ん。急がなくていいよ? どうせ今日明日暇だからねえ。ゆっくりしようよ」
呑気にそう云って、後ろからぎゅっと包み込むように抱き締めてきた。
「こらこら」と口では云いながら、ふと、それが鏡に映っているのと目が合った。
顔の上半分は、高さ的に映っていなかった。なんかムカつく……ふわっとした黒髪、優しく微笑んだ口元、砂色の外套と何時もの服装、その裾から覗く真っ白な包帯。
そっと、俺の腹に回っているその左手に包帯越しに触れてみた。
……温かい。指が細長くて、すらりとした、綺麗な手。だけど温かい。その手が、俺に触れている……
なんか、夢みたいだな。
「なんか、夢みたいだね」
頭上で、奴がそう呟いた。
思わず、ふっ、と吹き出して、笑った。背後の奴も、笑った。
本当にな、夢だよなァ、これ。今まで現実がこんなに優しかったことなんか一度もねェのに。
「……私は夢でもいいよ。ただ、これが永遠に覚めない夢でありますように」
「そんな甘いもんか?」
「いいじゃない、偶には」
「まあ、偶には、な」
「うんうん」
楽しそうに笑う奴の左手に触れた指先を、そっと滑らせる。
包帯、長い指、薬指……硬い感触。
鏡にきらりと輝く、小さくて、途方もなく重くて、それでいて人生で一番幸せな、約束。
「中也」
振り返ると、鳶色の瞳が、あって。
それは、笑っていた。
「今日も綺麗だね、私の奥さんは」
目がかち合って、引き寄せ合うように、口づけをした。柔らかい感触が触れ合って、その隙間がなくなって、互いの下唇を柔く食んで、離れた。至近距離で、じっとその笑顔をみつめる。
でも堪えられなくなって、吹き出した。
なーんでこんなんなんだろうな、俺の旦那は。お前の父親だぜ? こいつ。ははっ、お前も笑ってんの? 大丈夫だ、俺がいるからな。父親はこんなでも、母親はしっかりするから。心配すんな。
「ん……あれ?」
「動いただろ、今」
「うん、動いた!」
目を輝かせて、俺の丸く膨らんだ腹に触れた手でそっと撫で、嬉しそうな顔で、判る判る動いてる! と子供のような反応をした。
そして、少し屈んで、まだこの世に姿を現せていない、けれど確かにここにいる自身の息子に、語りかけた。
「今から君が何時でも此方に来られるように、お買い物するからね。大人しくしてるんだよ?」
「ははっ、今日はよく動くな、こいつ」
「ちゃんと返事をするだなんて……私に似て頭がいいんだね」
「ばーか、早く外で暴れたくて仕方ねェんだよ。俺に似て体術遣いだな」
「えー……」
口を尖らせた顔と見合わせると、矢っ張り同時に吹き出してしまった。
やばいな、なんか。今日はなんか……すげえ、幸せだ。
「ふふふっ。今日はまだこれからだよ? 楽しいのはここからでしょ?」
「はははっ。そうだな。じゃあそろそろ出るか、太宰……じゃなくて」
「君も太宰だからねえ」
「わ、判ってんだよ! ……治」
「よくできました♪」
「っ……ほら、早く行くぞ」
「はぁい」
熱い顔を隠すように、ふいっと背け、歩き、外套掛けに掛けてあった黒外套を引っ付かんで、羽織る。そして、靴を履いて扉を開けた。直ぐに、だざ……おさむ、も、追いかけてきて、「いい天気だね」と空を見上げた。
澄みきった快晴の空。あー、これって。
「君の瞳の色と同じで、綺麗だね」
治が、にっこり笑ってそう云った。
……あーあ、矢っ張りこいつ、駄目だな。
二人で一頻り笑ってから、滲んだ涙を拭いつつ、歩き出した。
この蒼色も、治の笑顔も、全部、見せてやるからな。楽しみにしとけよ。
ははっ、今日は本当によく動くなァ、お前。