大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.16 )
日時: 2019/04/25 05:20
名前: 枕木

『寂しい、帰ってこい』

たったこれだけのことが、どうしても口にできなかった。それは俺のプライドなのか、恥ずかしさなのか。だけどその言葉を口にすることを、3週間もの間ずっと耐えていたのは事実で。
それがこんな災いを呼ぶとは、思ってもみなかったのだ。

*  *  *

ぱちっと目が覚めて、真っ先に見えるのはもう見慣れた元太宰の家の天井で。そして、次に感じるのは温もりのない傍らだった。
あと1週間か。あれから、3週間もたつことになる。

太宰が、探偵社の仕事として1ヶ月遠征に行くことになった。仕事内容はそこまで危険なものではないらしいが、探偵社でなければできない仕事だと言い、しかも信用できる相手だったので、国木田らと連れだって行くことになったのだ。
出発する朝、太宰はうじうじと玄関で靴を履いていた。

「社長も酷いと思わないかい? 何も新婚さんにいきなりこんな任務を課さなくてもいいじゃないか……」
「だから、その事に関しては申し訳なく思ってるって言われたんだろ? 腹括って早く行けよ」
「そうなんだけどねえ……」

靴を履き終えて、太宰は盛大に溜め息をついた。そして、少し拗ねたような顔で俺を見る。

「というか、中也は寂しくないの?」

どきりとした。
新婚で、まだいろいろ不安なところがあって、暫くはずっと一緒にいたかった。寂しくない、と言えば嘘になる。
だけど、俺は嘘を吐いた。ここで強がらないと、益々こいつが行きにくくなってしまう。

「手前と違ってそこまでやわくねえんだよ。とっとと行っちまえ」

しっし、と手で追い払う仕草をすると、太宰は悲しそうに「中也あ……」と呼び、そして、ぎゅっと抱きついてくると、すぐに離して出ていった。

すぐに離れた体温とにおいが、いつまでも消えないことに戸惑った。ドアを開けて、叫びそうになったのを堪えた。

『寂しい、帰ってこい』

溜め息をつく。
そこで、異変に気がついた。
「はぁ……」と、息とともに吐き出される筈の声がなかったのだ。
起き上がって、喉に手をあてる。そして、「ああ」と発音する。
……発音した、筈だった。

「……!?」

あ、あ、い、い。
どの音も出ない。喉は震えているのに、音がしない。耳がおかしくなったのかと思ったが、びっくりして慌てて起き上がった時にたてたバタッという音は聞こえる。
つまりは。焦る。なんで、どうしてだ……?

声が、出ない。

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.17 )
日時: 2019/04/25 18:09
名前: 枕木

部下達にこんな状態を見せたくなかったので、自分の職場ではなく、結構親しんできた、夫の職場に向かった。
がちゃり、と事務所のドアを開ける。中には、椅子を回しながらスナック菓子を食べている乱歩、新聞のクロスワードパズルで遊んでいる敦と賢治、紅茶を飲んで優雅に過ごしている与謝野がいた。見知った面々だけで安心する。

「あれ、中原さん。どうしたんですか」
「珍しいねェ、アンタが静かにドアを開けるなンて」
「いつも蹴破りますもんねえ」

カラカラと笑う探偵社員に「うるせ」と返事をしようとしたが、矢っ張り声が出ない。無言で、喉に手を当てる俺の異変に気づいたらしく、皆が、どうしたの、と目を瞬かせる。
ここに来たものの伝える手段がわからず困っている俺を救ったのは、名探偵だった。
ひょいっと俺の目の前に立ち、俺の顔を覗き込む。そして、へえ、と呟いた。

「なに、君、声が出ないの?」

*  *  *

まだ目を丸くしている敦と、興味津々な賢治と乱歩に囲まれて、与謝野と向かい合って座り診察を受ける。筆談用にと、賢治がメモ帳とペンを貸してくれた。

「ンー……喉は震えているから、病気じゃあないねェ。所謂、ストレス性ってやつさ」
『ストレス?』
「嗚呼。ストレスがかかり過ぎると一時的に使えなくなッちまうのさ。アンタ、何か凄く言いたい事を我慢してるンじゃないかい?」

図星を突かれて、顔が歪んだ。
真逆、これ程の事になるとは思わなかった。たったこれだけ、それでも、とても言えないこれだけ、なのだ。
与謝野は溜め息をついた。

「あるンだね? 言っちまいな、文面だけでも」

ぐ、と唇を引き結ぶ。ペンを動かそうとした手が止まる。左手の手袋の下の薬指を見て、胸が痛くなった。
乱歩が、にやつきながら面白がるように言った。

「太宰、でしょ?」

びく、と肩が跳ねる。俺の分かりやすい反応を見て、敦と賢治が乱歩に「おぉ」と歓声をあげる。

「もう3週間だもんね、そりゃあ、寂しくなっちゃうよね。だけど、中原じゃ素直に伝えるのは難しいよねえ」
「なンだ、そんなことかい?」

ぷいっとそっぽを向く。わかってる、自分でも阿呆らしいって。

「伝えたいことがあるなら、電話でも……」
「それができていたらこんな事になっていなかっただろうね」
「成る程。新婚って難しいですね」
「ほんとヤダヤダ、新婚なんて」

電話は、何度もしようとした。太宰からは何度もかかってきた。元気か、きちんと食べているか、と。その度に俺の事は考えないで仕事しろ、と切ってしまうので、まともな話をしていない。伝える機会は幾らでもあったが、しなかった、できなかっただけだ。

『一週間しかたってないのに遠征になったから』
「それは、済まなかったねェ」
『でも、仕事の邪魔、したくない』

色んな覚悟を決めて一緒になったのだ。このくらいのことは堪えられる。堪えなきゃいけない。俺があいつの邪魔になりたくない。

項垂れる。矢っ張り、ただのプライドだろうか、意地だろうか。下らないだろうか。そうやって耐えた結果がこれだなんて、情けなさ過ぎる。

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.18 )
日時: 2019/04/27 10:37
名前: 枕木

「ア、アンタ……」

震えた声に疑問を覚えて顔をあげて、びっくりした。
皆が、うるうる潤んだ瞳で俺を見つめている。与謝野、賢治、敦……乱歩までもが顔を歪めている。
あ……? なんだ、これ。

「け、健気だねぇ……!」
「太宰さんが羨ましいなあ……」
「何か、本当にごめんなさい……」
「ほんと莫迦だよね、太宰は」

おいおいと泣く探偵社員達が、びっくりしたけど面白くて。
成る程な、太宰は、こんな奴らと働いているのか。

『ありがとう』
「何言ってるんだい!」
「そうですよ! 寧ろごめんなさい!」
『違う。ありがとう。
 本当は、寂しい』

手が勝手に動いていた。
御免な、俺の喉。これだけ口にしてれば良かったんだよな。
なんつーか、弱くなりたくなかった。太宰がいないともう何も手につかないなんて、そんな弱点を認めたくなかった。
きっともう、手遅れなんだよな。今さら、どう足掻いたって無駄だ。
……それなら、もう。

『太宰に、会いたい』

与謝野達が何度も頷く。笑みが溢れた。
会いたい。それだけの、単純で純粋な気持ちだ。

「勿論、今すぐにでもだよ。ねェ、賢治?」
「はい」

賢治がにこぉっと微笑む。不思議に思っていると、乱歩が右手の5本指をパッと開いた。

「あと、5秒」

え?
……その、数秒後。

バァン!

「!?」
「中也っ!」

奴にしては珍しく焦った声。翻る砂色の外套。包帯の薬品っぽいにおい。でも……嗚呼、このにおいは、そうだ。誰よりも知っている、愛しい人のにおい。

俺は、太宰に抱き締められていた。

「ああもう中也の莫迦。賢治君が、中也が私の所為で声が出なくなったなんて云うから、慌てて駅から走ってきたのだよ?」

抱き締められながら賢治を見ると、賢治はまたにこぉっと笑った。苦笑する。腕を伸ばして、ペンをとった。

『別に手前の所為じゃない』
「そう……なの?」
『ん』
「そう……。でも、元気だね、良かった……」

ぎゅうぅ、ときつく抱き締められる。少し苦しかったけど、嬉しかった。

「とっとと帰って慰めてやんな、太宰」
「また来てくださいね、中原さん!」
「太宰、程ほどにね!」
「何の話ですか乱歩さん!?」

太宰がくすくすと笑い、それから、「帰ろうか」と俺を促す。
俺は、こくりと頷いて、探偵社を後にした。

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.19 )
日時: 2019/04/26 18:00
名前: 枕木

帰宅してドアを閉めると、太宰は再び俺をぎゅうっと抱き締めた。

「御免ね、中也……気づけなくて」

何を言ってるんだ、こいつ。お人好しかよ。嗚呼、声が欲しい。あったら、こんな太宰を叱って、そして、

「太宰」

って……え?

バッ、と喉に手を当てる。
今、俺

「だ、ざ、い……こ、え。こえ……声、出た……」
「中也!」

太宰が、パァッと顔を明るくする。なんで俺より嬉しそうなんだよ、莫迦。

「良かった……本当、良かった……」
「嗚呼……なんか、悪かったな」
「いーよ」

太宰はとびきり優しい顔で、口づけをしてきた。

「ンっ……」

太宰の手が、するりと腰に回る。そこで察して、俺は、受け入れる意を示して太宰の首にするっと腕を回した。

*  *  *

「ひッ、んっ、んん……ッ」

沢山の赤い花が咲いている俺の身体に、緩い快楽がゆっくりと波のようにうち寄せてくる。1ヶ月ずっと放置されていた俺のモノは一回出したくらいじゃ全然足りなくて、勃ち上がってとろとろと限り無く愛液を溢れさせている。痛いくらい張り詰めているのに、これまでにないほど大きくなった太宰のモノは入り口のところをゆっくり出入りするだけで、決定的な快楽を与えてくれない。あまりのもどかしさに、涙が滲んだ。

「ひぅっ……や、だ。やだ……」
「何が?」
「な、んで、そんな……」
「なんだい? どうしてほしい? ちゃんと伝えないと、また声が出なくなってしまうよ?」

太宰がにやにや笑う。かあ、と頬が熱くなる。
だけどもう、限界だった。

「お………く。奥……」
「んー? こう?」

太宰がぐりゅぐりゅと奥へ進める。しかしその動きもゆっくりだ。こんな緩い快楽じゃなくて、もっと激しい……

「……きもち、よく」
「ん?」
「きもちよく、しろよ……」

太宰が軽く目を見張る。
恥もプライドもかなぐり捨てて言った。だけど、その甲斐はあったようで、太宰は俺の足を掴んで広げると、ごりゅ、と奥を突き上げた。

「ああッ!」

これだけで絶頂を迎えそうになるが、まだ足りなかった。見れば、太宰も少し苦しそうに顔を歪めている。
その首に腕を回して、抱き締めた。

「おさむ、もっと」

そこからはもう、いつも通りかいつも以上で。入り口でぐちゅぐちゅと泡がたち、とぴゅっと白濁を吐き出した。でも、足りない。

「あっ、あっ、ああんっ! は、あ、だ、ざい……」
「うん」
「も、っと。もっ……と……」
「いい……よっ」
「ああッ!」

腰ぎりぎりまで引き、勢いよく中を擦って奥を突いた太宰のモノをきゅんっと締め付ける。太宰が腰を前後に揺らして亀頭で内壁を擦れば、腰がしなって白濁が吐き出された。ほぼ同時に、奥の奥まで熱を出される。それが快楽になってきゅうきゅうと締め付ければ、太宰はにやりと笑って、再び腰を揺らした。
長い、久しぶりの夜だった。

*  *  *

怠い身体を綺麗にして、これでもかと云うほどぐちゃぐちゃに汚した布を取り替えた布団に寝転がる。
太宰は俺の髪を撫でながら、ふと、思い出したように尋ねてきた。

「中也がそんなに私に言いたかったことって、なんなの?」
「……言わない」
「さっき、もっとー、とか……」
「黙れ」

恥ずかしくてぷいっと背中を向ける。ねえ、教えてよーと駄々をこねて抱きついてくる太宰に降参して、はあ、と溜め息をついた後、振り返って、ぼそっと言った。

「寂しい、帰ってこい」

太宰が目を見開く。そして、幸せそうに笑う。

「ただいま、中也」
「……お帰り」

ちゅっと口づけを交わして、太宰の胸に頬をつけて、目を閉じた。

矢っ張り、こうじゃないと、俺はもう。
弱くたっていい。こいつが一緒にいるなら、まあ、大丈夫だろ。この温もりに触れていれば、そう、思える。こういう気持ちを、少しずつ伝えていこう。

微笑んで、眠りについた。
1ヶ月ぶりの、心地のいい眠りだった。


中原中也誕生日まで、あと4日(再び寝落ちです、ご容赦を)