大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re:【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.167 )
日時: 2019/12/24 21:17
名前: 枕木

「あー、かったりぃ」

そうぼやきつつ、首をゴキゴキと鳴らした。靴音を鳴らしながら、彼はひっそりとした暗い廊下を歩く。くああ、と大きく欠伸をした。ポートマフィアの“最小”幹部様、中原中也である。

今日は朝早くからヨコハマにヤクを流通させようとしていた雑魚共をぶっ潰して回り、その始末書を提出しようと首領のところへ行ったらエリス嬢の買い物の護衛につかされた。今日は街全体が妙に浮かれていて、色んなものが何やらキラキラしていた。何時もの倍以上の数の人間が、それも、赤い帽子を被ったり、動物の角を頭に生やしたりした人間が、そのキラキラしたものたちを見ては歓声をあげ、この寒い中身を寄せ合い楽しげにしていた。塵のようにいる人々の間を潜り抜け、何時よりはしゃいでいるエリス嬢について店を回るだけでも疲れるし、街がそんな雰囲気で終始苛ついていて、「リンタロウに洋菓子[ケエキ]を買えたわ!」とご機嫌なエリスを首領の元へ膨大な買い物袋とともに送り届けた後の現在、中也はただただ疲れていた。

なんで今日は皆こんな浮かれてんだ……? と溜め息をつきつつ、何気なく窓の外を見た。そして、お、と小さく声をあげる。

「雪か」

窓の外で、白く冷たいものが降ってきていた。今まで意識していなかったが、恐らく初雪。まあ、言うて年末だ。特に珍しいことじゃない……

そこで、彼ははた、と立ち止まった。

とある記憶が、甦ってきたのだ。

何年前だろうか。覚えていなかったが、未だ、彼らが子供だった頃。年末に、ふっと窓の外を見たら雪が降っていて。中也はさして興味を示さず、雪か、と呟いた後拳銃の手入れを再開したが、同じ部屋にいた同僚は違って。
彼は、わあ、と歓声をあげ、藁人形にくくりつけるための髪の毛を採取していた中也の帽子を放り投げると、窓に駆け寄った。そして、輝いた片目で静かに降るそれをみつめ、中也を振り返り、笑顔を弾けさせて、云った。

『ホワイトクリスマスだね』

中也はそのとき、クリスマス、という日を知らなかった。
だから、何だよそれ、と訊いた。すると彼は目を真ん丸にし、考え込む顔になって。そして、中也に気づかれないようにニヤリと笑って、クリスマスっていうのはね…… と中也に話して聞かせた。


そうか。今日は、クリスマス前夜。クリスマスイブ。そういえばそうだったな。日付感覚のない彼は今日何故あんなに浮かれた雰囲気だったのかを納得し、じっと窓の外をみつめた。

あれ以来、確か、あの場所には行っていなかった筈だ。ヨコハマには余り雪が降らない。

中也は、カツン、と靴音を響かせた。

*  *  *

「あっ、雪だ」

寒い寒いと云いながら空調の温度を調節していた敦が、窓の外を見て歓声をあげた。途端に、事務所中がざわざわする。

「まあ、クリスマスイブに雪だなんて。ロマンチックですわね、お兄様♪」
「そうだね。きっと明日はホワイトクリスマスだ」
「うーん、僕の推理だとこれは積もるねえ……ということは、明日は雪遊びだ!」
「わあい! 僕、雪合戦したいです〜!」
「け、賢治君が雪合戦なんかしたら死人が出るんじゃ……」
「……雪兎……」
「コォラ、持ち場を離れるな! クリスマスは浮かれた莫迦共が事件を起こし易い。休む暇などないぞ!」
「まあまあ、いいじゃないか。雪合戦? 結構だよ。怪我したら直ぐに妾ンとこ来ればいいさ。ねえ?」
「「ヒィッ!!」」

相変わらず賑やかな武装探偵社事務所内。しかし、その賑やかな輪から一人外れて、じっと窓の外をみつめる男が一人居た。何時もなら真っ先に話に入り斬新な発言で周りを引かせているところである。敦もそれに気がついて、雪だるまとかまくらどちらを作るかで議論を始めた輪から外れて、彼に近寄った。

「太宰さん、どうかしましたか?」

彼は振り返らず、窓の外をみつめたまま、ふっ、と微笑んだ。

「いや。……少し、クリスマスイブと雪で、懐かしい思い出を思い出してね」
「? ……どんな思い出ですか?」

敦が訊くと、太宰はふふっと笑い、くるりと振り返った。

「とある無知な子供にね、素敵な嘘を教えた思い出だよ」

敦は釈然としない顔で、はあ…… と首をかしげた。
太宰は笑みを浮かべたまま、事務所の扉へと歩いていった。ドアノブに手をかけたところで国木田が気付き、声をかける。

「コラ太宰、未だ仕事は片付いとらんぞ」

太宰はガチャリと音をたてて扉を開け、ひらりと片手を振った。そして一言。

「仕事は片付けたよ」

国木田がハッと太宰の机を見ると、書き上がった書類の束が、綺麗に整頓されて重ねてあった。

「信じられん……」

国木田が、太宰の出ていった扉を呆然とみつめる。

「明日は雪でも降るのではないか」
「もう降ってますよ、国木田さん」

すかさず敦が云う。

「じゃあ槍だな」
「槍ですね」

二人は頷き合った。

「クリスマスの奇跡だね」

乱歩が云ったが、それは太宰のことを云ったのか、雪だるまかまくら戦争が雪兎コンテストをしようという結末で終わったことを云ったのか、判別はできなかった。

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.168 )
日時: 2019/12/27 21:55
名前: 枕木

山を少し登ると、鬱蒼とした林が開けて、余り広くはない原っぱになっている。その真ん中に、一本の樅の木が生えていた。何故此処に生えているのかは判らない。けれど大分大きく育っていて、切れば金になるのではないかと思う。しかし、数年経ってもその木は雪で白く染まって堂々と立っていた。

「相変わらずでけぇな」

俺はそれを見上げ、白い息を吐いた。

元々この周辺にはポートマフィアの隠れ家の1つがあって、ヨコハマの外れでの仕事を終えるとこの基地を使うことが度々あった。その頃は『双黒』なんて呼ばれ太宰と一緒に仕事をすることが多かったから、二人でこの基地で夜を明かすこともあった。そんな時間の中で、太宰はいつの間にかこの籾の木を発見していたらしい。

『クリスマスにはね、クリスマスツリーが必須なんだ。樅の木が、それも大きければ大きいほどいい』

そんなでけェ樅の木ここら辺にねェだろ、と云ったら太宰は迷わずこの場所を口にした。そして、その日の内に二人でこの山に登った。その時は今よりもこの木が大きく見えて、すげェな、と声に出した。太宰は満足げに笑って、

『これなら神様に届きそうだね』

と云った。そして、おもむろに黒外套の内ポケットから…………


はあ、ともう一つ白い息を吐いた。
懐かしい思い出だった。まだ俺も太宰も子供で、太宰は俺の『同僚』と呼べた。けれど二人で過ごす時間が積み重なっていくにつれて太宰の瞳は濁っていって、ついに太宰は俺の前から姿を消した。四年という空白の時間。それからはもう、太宰に手が届くことはなくて。きっともう、これからも、太宰に近づくことはない。

太宰のことを考える度、激しい嫌悪感と苛立ちを覚える。それは本当だ。だけど、それと同時に何処かが…胸の内の何処かが、鉛と化したように重たく、鈍く、痛む。
その正体に、きっと俺は気づいてる。

こんなの、莫迦げているかもしれない。

けれど、あのときと同じように、クリスマスイブに雪が降ったんだ。太宰と再会した、その年のクリスマスイブに。

それなら、ホワイトクリスマスの奇跡ってやつを、少しくらい信じてみてもいいだろ?

俺は、喉笛に手をやった。硬い感触がある。マフィアに入って間もない頃、賭けに負けた罰として太宰に差し出されたもの。

『ハイ、これで君は今日から僕の犬だ!』
『なんでそうなるんだよ!!』

そんな言葉と共に着けられた、この首輪。罰を受けると云ったのは俺だから、外せないでいただけだ。……本当は、太宰が包帯をほどいたあの日、外そうと思った。けれど、しなかった。仕方のないことだ。暫く身に付けてりゃあ、多少は愛着湧くだろ?
けれど、流石に長すぎた。もう、いいだろう。
俺は、首輪を外した。そして、樅の木の、少し浮いて届くところに輪にしてくくりつけた。
すた、と地面に着地して、かかった雪の所為で目立っている、その黒い首輪をみつめる。

あのとき、確かに神に届いた。それなら、また届くかもしれない。あの日以来神を信じたことはない。けれど、届いてくれ。

どうか、また______

「人から貰ったものを捨てるなんて」
『クリスマスっていうのはね、神様の誕生日なんだ』

背後からの見知った声に、目を見開いた。

『だから、贈呈品を贈らなきゃいけない。それも、見易いように樅の木にくくりつけてね』

すっ、と後ろから手が伸びた。そして、俺が浮いてくくりつけた首輪を、易々と取った。その手には包帯が巻かれていた。砂色の外套も、見知ったものだった。

『でも、神様は優しいからね。見返りをくれる。けれど、その場合ただの贈呈品じゃだめなんだ』

その手が、極自然な動作で後ろから手を回し俺の首に首輪を巻いた。

「だめじゃないか、中也」

ごくっと息を飲み込む。胸をぎゅっと押さえた。深呼吸をして、覚悟を決めた。
ゆっくりと、振り返る。
見知った顔がにっこり笑って、ひらりと手を振った。

「久しぶりだね、中也」
「……未だ死んでなかったのかよ、太宰」

絞り出した声は、掠れていた。
心臓がバクバク鳴る。嫌だ……止めろよ。

「それを、これにくくりつけたってことは」

くるっと、樅の木に向かい直った。知られたくない。……知られたくなかった。


「君は何を願ったのだい?」
『自分の一番大切なものを捧げると、願いが叶うんだ』


「ッ……」

未だ、ずっと、信じてた。何時か、何時か、また、


太宰に、愛される日が来るんじゃないかって。


思い出にすがって、奇跡を信じて。らしくもない。けれど、願えば何時かは叶うんじゃないかと思った。
何度も願った。けれど、太宰の背中は遠ざかるばかりで。でも、今日なら、叶う気がした。

あの日俺は、太宰と手を握って、太宰に手渡され俺が取り付けた樅の木の天辺の星を、じっとみつめていた。
そのとき、太宰に訊いた。あの星が手前の大事なモンじゃねェだろ? 手前は願い事ねェのか、と。

『君こそ、無いの?』

太宰に聞き返されて、俺は少し照れ臭さを感じながら、もう大体叶ってるからな、と答えた。太宰はその返事に嬉しそうに笑って、僕もだよ、と答えた。嗚呼そうだ、それで、此処で口づけした。だが太宰の本当の願いが叶ったのは、ほんの四年前だ。太宰に気を遣われていたとか、気色悪くて鳥肌がたつな。

「ねえ、君は何を願ったの? 教えてよ」

太宰が俺の肩口に顎を乗せ、囁いた。かじかんだ耳が震えた。

「教えたところでどうにもなんねェだろ」
「じゃあ、どうにかなるのなら、教えてくれるの?」
「莫迦か手前。それ本気なら後で後悔するぞ」

声が震えていないか、不安で堪らなかった。

「いいよ。私は、本気だ」

静かな口調に、心臓が高鳴った。
どうにかなるわけない。そんなわけがない。期待するな、信じるな。もう二度と、裏切られたくない。

そう思うのに……俺は、振り向いていた。太宰、と呼んだ。息を吸い込む。太宰の鳶色の瞳に吸い込まれそうだった。けれど堪えて、掠れた声で云った。

四年分の、願い事。


「もう一度、俺を愛してくれ」


太宰は、にっこり笑った。


「やっと云ったね」


「……は?」

中也は、思ってもみなかった反応に目を見開いた。太宰は、硬直した中也をぎゅっと抱き締めた。
混乱して、中也は太宰の胸の中で目を白黒させる。

「だ、ざい……?」
「だって中也、一度もそうやって口に出してくれないんだもの。寂しかったよ、ずっと」

そういえばそうだったか、と中也はハッとした。ずっと隠そうとして、胸の内に秘めていた願い事なのだ。

「まあ、勿論答えはイエスなんだけれどね」

その言葉で、死ぬほど驚く、という感覚を中也は味わった。中也は、大きく躰を震わせた後、太宰のシャツを握り込んだ。

太宰はその背中を擦りながら、この愛しいものに、いつ本当のことを教えようか考えた。中也はきっとクリスマスの奇跡だなんて思っているだろうけど、これは中也の小さな勇気が生み出した、当然の結果なんだから。
まあでも、こんな雪の降るクリスマス、少しくらい、恋人同士でロマンチックに過ごすのも悪くない。

もう少し、真実は隠したままで。このまま抱き締めていよう。太宰は、樅の木を見上げた。

その天辺には、あの日と同じ星が輝いていた。

「メリークリスマス、中也」

太宰はそう囁いて、中也の顔を上げさせると、雪のように溶けそうな、甘い口づけをした。


えんど