大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.173 )
- 日時: 2020/01/01 00:00
- 名前: 枕木
〜大晦日の太中〜
炬燵にもぐり込みごろごろしていた太宰が、急に此方をバッと見る気配がした。うわ、早ェな、流石。「中也!?」と鳶色の目を輝かせ起き上がるいい大人の姿に、餓鬼みてェだな、とくすくす笑った。
「なんか、私の大好きな匂いがする……!」
「ん〜? そりゃ、俺の事かァ?」
にやっと笑い云ってみれば、太宰はにやっと笑い返し、「それもあるねえ」と炬燵から這い出して台所へやってきた。
菜箸を持ち鍋をみつめる俺の背後に立ち、首と胸に腕を回してぎゅっと抱きついてくる。今まで炬燵に入っていた温もりを背中全面に感じて、温かくてほっと息を吐いた。
「中也、一寸冷えちゃったね」
うなじに口づけをしながら、太宰が云う。くすぐってェ、と少し身を捩ると、ふふっと笑うのが判った。
「そうかァ?」
自分では余り寒さを感じなかった。我が家に炬燵以外の暖房器具はないが、こうやって湯気のたつ鍋の前に立っていると割と温かい。けれど、太宰はうなじに顔を埋めたまま頷いた。
「うん、冷えてるよ。平熱より0.6度くらい低い」
「くらいって割には細けェな」
「まあ、誤差はプラスマイナス0.04度ってとこかな」
「うわ〜……」
ま、口でそう云っても、今更そんなんでどん引きなんかしないがな。
んー、でも太宰がそう云うってことは、躰冷えたんだな。今って冷えやすいけど冷やしちゃいけねェ時期だし、気をつけねェと。
少し反省しながら、菜箸を置き、鍋に蓋をする。その次の瞬間、「ふー……」と耳に湿った息が吹き掛けられ、思わずびくっとした。こら、と振り返ると、待ってましたとばかりに口づけられる。呼吸を遮られ、目を見開いた。
「ん〜!! んぅ、んっ……ぷはっ! こら、だざい……」
「ふふっ。温めてあげようと思って」
「ッ〜〜……」
至近距離で悪気なく笑う太宰に叱る気にもなれず、ふん、と不機嫌に息を吐いた。でも、なんだか無性に愉快な気持ちになって、すぐ吹き出した。太宰も同じだったようで、ふふっ、と笑いながら、こつん、と額を合わせた。
すぐ目の前に太宰の顔がある、大晦日の深夜。少し寒いのが気にならなくなるくらい。抱き締められて、吐かれた息を感じて。目を閉じると、口づけされる。誰が予想できたかってな。
「もう八ヶ月なんだねえ……」
唇が離れると、太宰が、しみじみと云った。けれどすぐにくすっと笑う。
「まあ、“もう”って感じる日々じゃなかったけど」
「いつの間にか、こんなんなってんだもんなァ」
「本当に。……信じられないことばかりだよ」
太宰は、大きく膨らみもう誰がどう見ても妊娠していると判る、俺の腹をそっと撫でた。その手に自分の手を重ねる。……あー、あったけェな。
太宰の肩に頭を乗せると、太宰は反対の手で俺の頭を撫でた。
妊娠して、半年と数十日。性別を教えてもらわないことにしたのは、太宰と二人で決めたことだった。男か女か判らない我が子は、順調に育っている。今じゃもう俺を移動のときや寝るときに苦しめるまでになった。お陰で毎日大変だぜ、全く。
「有り難う、中也」
耳元で囁かれた。目を見開く。
その、「有り難う」にどれだけの意味が、言葉が詰まっているか。……それは、俺しか判らねェんだよなァ。
だから、俺は笑って、
「どういたしまして」
と云った。太宰は満足そうに息を吐いた。
顔を上げると、太宰はにっこり笑っていた。笑う角には福来るって云うんだっけな。なんか、こいつといるときは何が起こっても笑っちまう。変な奴。知ってたけどな。だから、にっ、と笑い返した。
「んー。じゃあ、そろそろ食うか」
「うんっ!!」
蓋を開けると、旨そうな……太宰の好物の匂いがした。太宰が餓鬼のように両手を握り締める。ははっ、奮発した甲斐があったな。
「よし、年越しそば蟹乗せ、食おうぜ!」
「わあい! 蟹がいっぱい♪」
鍋の中には、程好く茹でられた蕎麦の上に蟹の足の身が並べられた、年越し蕎麦。良く出汁が出てそうなつゆが旨そうだ。
初めて誰かの為に作る、年越し蕎麦だった。
器によそい、炬燵に置く。ふと振り返ると太宰が悪戯っ子のように笑っていて、その両手に持っているものに苦笑した。
「俺今飲めねェんだけど?」
「葡萄ジュースでーす♪ 私は普通にお酒〜」
「嫁が我慢してんだから手前も我慢しろや」
「やだね。太宰さんは大人だからねえ」
「オイコラ……」
「ハイハイ、怒らない怒らない。誰も中也がその身長でお酒飲めるとか(笑)外見子供なのに(笑)とか云ってないよ」
苦情を云おうとした俺を遮るようにして、太宰がグラスに飲み物を注ぐ。俺のグラスには葡萄ジュース、太宰のグラスには氷割りのウイスキー。炬燵に入って飲むのがたまらなくうまいらしい。変わらねェなァ。
ふっ、と笑みがもれて、どうでもよくなった。俺は太宰の正面に座り、腹を庇いながら炬燵に足を入れた。
湯気のたつ二つの年越し蕎麦の器、葡萄酒に見せかけた葡萄ジュースと氷割りのウイスキー。
かつて双つの黒と呼ばれ恐れられた俺らが、今、ここに夫婦として向かい合っている。
人生何があるか判らねェもんだな、本当に。
鳶色の瞳、黒髪、むかつくけど整った顔、無駄に巻いた包帯、白いシャツ。
昔とは違う、けれど確かに此処にいる、ずっと愛してきた男。
誰よりも愛しい、太宰治という男。
「じゃあ、来年もよろしく」
そいつが、微笑み、カラン、と氷の光るグラスを持ち上げた。
俺も、それに葡萄ジュースのグラスで応える。暫く酒は飲めねェな。でも不思議と苦じゃないのは、幸せだからだろう。
堪らなく幸せなんだ。八ヶ月前始まった、この幸せを、噛み締める。これが続くのだろうか。否、続けたい。続いてほしい。
それを願う為の、乾杯だ。
「おう。よろしくな、治?」
顔を見合わせて、いつも通りで行こうよ、と笑った。その耳が少し紅くなってるのに、何だか堪らなくなった。
何時終わるか判らない、この日々。明日の約束もできないこの日々で。それでも、手前との約束くらい、してもいいだろ?
ずっと、ずっと……
「末永くよろしくな、太宰」
「末永くよろしくね、中也」
澄んだ音を響かせてグラスがぶつかるのと___未来への誓いを交わしたのと、新しい年が始まったのは、同じ瞬間だった。
えんど
明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 枕木