大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.198 )
- 日時: 2020/04/20 18:05
- 名前: 枕木
命を育むことのできる器をもっているとはいえ、躰は普通の男だ。生まれて初めての陣痛に耐えられる女の躰は持ち合わせていなかった。
運ばれながら、ただただ激痛に襲われる。繰り返し繰り返し訪れる波の狭間で、幾度も意識が溺れかけた。けれどその度に、頬を叩かれて連れ戻された。
ぼんやりと目を開ければ、それは、
「しっかりするんじゃ、中也! 私はそんなひ弱な男に育てておらぬ!!」
と叱咤しつつも目に涙を浮かべる姐さんだったり、
「頑張んな! 今、アンタの子も一生懸命産まれようとしてンだよ!」
と鬼の形相をする探偵社の女医だったりした。
女は、強ぇな。
否、俺も姐さんに育てて貰ったんだ。強いに決まってる。そして、お前らも俺の子だ。そうだよな、お前らも生きようとしてんだ。俺も。
「中也さん、着きましたよ!」
「おい人虎、揺らすな。中也さんの躰に障るだろう」
消えかける意識を必死で保ちながら目を開ければ、眩い光と、マスクに手袋をつけた女や男が見えた。躰が持ち上げられ、大きな椅子に乗せられる。背もたれがぐっと倒され、天井を見上げた。バタン、と扉の閉まる音がして、突然、周りで聞こえていた声援や足音がなくなり、静寂に包まれた。「失礼しますね」と声がして、下着ごと脱がされる。足を開かされ、けれど寒さも感じられぬほど、痛みは強くなっていた。
「頑張って。もう大分開いていますからね。あともう少しですよ」
痛い、痛い、痛い、痛い。
うめいて、声をあげて、手に触れた肘掛けを必死で掴んだ。手袋の感触が無いと気付けるほど、理性は残っていなかった。息をするのもやっとで、「呼吸して。はい、すぅー……はぁー……」と声をかけられ、必死で呼吸をした。
「ぐっ……あああ……っ!!」
突然一際大きい波がきて、頭痛と共に激痛が走る。
その瞬間、必死に堪えていた一線がぶつりと切れた。掴んでいた右の肘掛けがバキッと嫌な音をさせて、俺の手の中で粉々になった。
「ああ……ぐああ……ああああああ……!!」
「抑えて! っ、堪えて! 頑張って!」
がく、がく、と躰が震える。けれど激痛は収まらなくて、怒りのような感情が燃え上がる。
「開いた! もう、出てきますよ! 頑張って!!」
叫ぶように言う医師の声が、遠ざかる。肘掛けが、左手の中でミシリと軋む。
痛ぇ……終わらせてぇよ。
でも、お前らが俺の元に来ようとしてんだ。
でも、もう。
否、もっと。
今にも押し勝とうとする衝動が、肘掛けを更に軋ませる。
ああ……もう。
嫌な音がして、掴むものの無くなった俺の左手が……
掴まれた。
「中也!!」
見知った声だ。
すうっと燃え上がっていた衝動が落ち着いてゆく。静かな意識で目を開ければ、俺の左手を両手で包み込んだ夫が、泣き出すんじゃねぇかと心配になる顔で、俺を見下ろしていた。
ひゅう、と息を吸い込んで、掠れた声で呼んだ。
「だざい……」
太宰は頷いて、ぎゅっと俺の左手を握り直した。
「中也。もうすぐ会えるよ。頑張ろう」
小さく、首を動かす。太宰は笑みを浮かべた。
ぐいっと更に足を開かされる。足の間に顔を埋めた男の医師が、「見えた!」と叫んだ。
生まれようとする意志が、圧迫感と痛みを伴って、迫ってくるのを感じた。
「頭が出ますよ! いきんで!」
「ひっ、ふっ、ふっ、」
「そう、その調子! 頑張って、もう少し!」
「中也……」
痛みを堪えきれなくて、太宰の手を握り締めた。
嗚呼、いってぇなぁ、コラ。
何時か、この痛みをお前らに伝える日が来るんだろうなァ。
「いきんで! もう少し!」
「ひっ、ひっ……ふぅ、ふ、ああ、あああ! ぐぁあああぁぁぁ……!」
「出た! 頭! もう一踏ん張り!」
ぐっと下半身に力を込める。
「中也……」
「ぎっ……ぐ、あ、う、うぅ、ぐ、う、ひっ」
手を、思いきり握り締めた。
「いきんで!!」
「中也!」
「ぎっ……ああああぁあぁぁ……!!」
お前らが必死に、生まれて来ようとしている。医師らも額に汗を浮かべて、お前らを助けようとしている。此処まで、沢山の声や手が支えてくれた。
そして、太宰がお前らの未来を躰張って守った。俺が一年間、腹の中で育ててきた。何時もお前らと会える日を、太宰と、全員で過ごす日々を祈って、命をかけて守ってきた。
なあ、絶対ェ守るから。
お前らの未来も、全部。
だから、来い。俺と、治の元に。
「中也、最後だよ。息吸って……いきんで!」
元気に、生まれてこい。
「う、ぐ、あああぁぁぁぁあああぁぁぁ!! 〜〜〜っ、〜〜っ!!」
ずっと腹の中にあった温かさが……消える。代わりに聞こえたのは、手際よく俺との繋がりを切る音が四回。そして、ばしゃばしゃとお湯がかけられる音。
もう親しみさえ感じていた痛みが消え、静寂が訪れる。
その静寂を打ち破ったのは、
「うぅ……」
小さな、うめき声。
そして、間髪入れずに、響く。
「おぎゃぁぁぁあああ!! おぎゃあああぁぁぁ!!!」
「ひっ、うっ……おぎゃぁああ!おぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」
それは、二人分の産声だった。
二人が、初めて声をあげた瞬間だった。
「中也……!!」
「お目出度うございます!」
ぼやけていた視界が、頬を熱い雫が伝うと共に、泣きそうに笑う太宰の顔で一杯になった。
「元気な双子の男の子ですよ!」
太宰がそっと身を引いた。もう力の残っていない手を、太宰の手が引く。すると喧しい泣き声が近づいてきて……
目の前に、真っ赤な顔を皺くちゃにして、歯のない口を大きく開けて泣き喚く、赤ん坊が二人、やって来た。
「抱いてあげて。君の子供たちだよ」
太宰が、引いた手をそっと離した。
俺は、微かに震える手を、伸ばした。
両手で二人の頬に触れれば、「えっぐ……」としゃくりあげて、泣き声が止んだ。
柔らかい頬は、林檎のように熟れていて。
その温かさに触れてしまえば、声が掠れているのを、自覚していても。
名前を、呼んだ。
すると、二人はそれに返事をするように、ぱちっと目を開けた。
息を飲むような、澄みきった、
青色と鳶色が、俺をみつめるように開いていた。
涙を呑み込むのに必死な俺の胸に、二人はそっとやってきた。
まだ世界に慣れていない四つの瞳は俺の顔を見上げるように見えて、涙は意地でも呑み込んだ。
もう一度、二人の名前を呟いた。
二人は、それに応えるように、今度は顔を皺くちゃにして、泣き出した。
俺たちにも泣かせろよ、と笑うのは俺と太宰の声で、本当に喧しく、二人の泣き声が響いた。
けれど、その声と胸の中の熱さは、ずっと待っていた、何よりも愛しく大切なもの。
ぎゅうっと抱き締めれば、苦しいと抗議するように、全力で暴れた。太宰が笑い、扉の外で歓声があがった。
頬を伝うそれは、言葉じゃ云い表せねぇ。けれどそれは紛れもなく、お前らに溢れ堕ちた、
母親の涙だった。