大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中*乱歩受け・中也受け】 ( No.28 )
日時: 2019/04/28 05:34
名前: 枕木

「ああそうだ、太宰」
「ん? なに?」

食卓について新聞を読んで朝食を待っていると、台所で目玉焼きを焼いている中也が何かを思い出したような軽い口調で私を呼んだ。
日曜日の、仕事のないのどかな朝だった。

「俺、ガキできた」
「へー」

軽く返事をして、新聞をめくる。ふうん、相次いで猫が行方不明、ねえ。おかしな事件もあるものだねえ……

そこで、ぴたり、と行動が静止した。
……ん?
さっきの中也の発言を反芻する。

『俺、ガキできた』

……はい?
ぐりん、と振り向く。目を見開いて彼の小さい背中をみつめる。目玉焼きの油が跳ねたようで、小さく「あちっ」と叫んだ。

たっぷり5秒、その背中をみつめていただろうか。
なんだよ、と振り返った中也が、怪訝そうに私を見る。
私はおもむろに深呼吸をした。そして。

「はあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!?!?」

それは、とてものどかな日曜日の朝の出来事だった。

*  *  *

「うっるせー」
「い、いやややや、だだ、だって」
「騒ぐな、鬱陶しい」

ガ、ガキって子供のことだよね。ガキができたって、中也が錬金術会得したとかじゃないよね。それはつまり……?
中也は目玉焼きをみつめている。私はそんな中也の周りをおろおろ歩き回る。中也はそんな私を面倒くさそうに返り見て、カチッと火を止めると、目玉焼きを皿に移しながら、これまた面倒そうに言った。

「だから、妊娠したっつってんだよ」
「……中也の彼女?」
「ふざっけンな、俺だよ」
「……父親は?」
「手前。太宰治」
「……君、女性だったの? 今まで男として抱いていたのだけれど」
「男に決まってんだろ。ただ女の器を持ってるってだけだ」

中也は少しキレている。キレているのはいいとして、驚きが連続して、私にしては珍しく、情報処理がうまくできない。
子供を産むことのできる男性は存在している。だけど滅多に物事を忘れることのない私の記憶では、中也もその中の一人だと明かされたことはない。
混乱したまま、それでも、命を宿している身体でこんなに動き回っている中也が心配になった。
目玉焼きを食卓に置いた中也の肩を掴み、椅子に座らせる。中也は、何すんだよ、と半ギレしている。

「び、病院は行った……?」
「あ? まだだが……」
「何してるの!? 朝ご飯食べたら行くからね!?」
「検査薬でもう陽性出てんだから焦る事ァ無ェだろ」
「莫迦!! 中也の莫迦! 無能!!」
「アア”!? つか、さっきから何なンだ手前はァァ!!」

ドゴッ

それは、のどかな日曜日の朝……の筈だった。

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中*乱歩受け・中也受け】 ( No.29 )
日時: 2019/04/28 18:30
名前: 枕木

中也ほど病院と云う言葉が似合わない人間はいないだろう。私も人のことを云えたものではないけれど。

でも今はそんなことに構っていられない。朝食を食べて、半ば強制的に中也を病院に連れていくと、中也は観念したように溜め息をつき、「外で待ってろ」と云って病院に入っていった。ポートマフィアの傘下にいる医療機関が運営している病院だ。入る前に中也が少し電話をすると、一人の偉そうな医者が出てきて、病院の裏手へ、中也を手厚く招き入れた。とりあえずは、大丈夫かな……?

ふう、と一息ついて、ふらりと近くのカフェへ入った。テーブル席を取って、窓ガラス越しに外を見た。男性と女性に挟まれて手を繋ぎ、にこにこしている少女が目の前を通る。よく見ると若干丸みのある中也のお腹を思い出した。

真逆、私があんな風になるのだろうか? 中也と、二人で?

将来の誓いは交わした。命を賭ける覚悟もある。けれど、命を授かる覚悟はできていない。全く予想もしていなかった。
全く実感がわかなくて、ただ、これは本当に現実なのだろうかというぼんやりした不信感があるだけだった。

「太宰?」

その声に、ハッと我にかえった。随分長い間ぼんやりしていたらしい。見ると、中也が向かいに座りながら「ほら」と数枚の書類をよこしてきた。
面倒そうに頬杖をつき、

「それで満足かよ」

と云う。
黙って、書類を読んだ。

そして、暫く瞬きもできなくなった。

「……太宰?」
「…………うん、そっか。そうだよね、当たり前か……」

前髪をかきあげて、はは、と震えた声で笑った。

どうしようか、これ。

「?………!? 太宰!?」

中也が驚いたように声をあげた。

あー、もう……どうして、これだけのことなのにね。
こんな。

「……太宰中也」

名前を呼ぶ。
私の、妻の名前だ。
それだけなのに、止まらなかった。

「……健康な、妊娠3ヶ月……」

頬を伝う涙は、人間らしい温かさがあった。
やっと、人間になれた気がする。
やっと、中也と

「家族に……なったんだね」

中也は、私へそっと手を伸ばした。そして、頬を指先で拭い、ぷはっ、と笑う。

「だっせえ顔だな、治」

やっと、やっと、愛せる。私の人生を、私と云う人間を、中也の全てを。
無性に愛を伝えたくなって、席をたった。

「帰ろうか、中也」
「ん」

短い返事をして、中也が腰を浮かせる。私はそっとその手をとった。中也が、少し顔を赤らめて、それでも私の手にすがるように立ち上がる。

たくさん、色んなことをしなきゃいけない。新しい家族を迎えるために。だけどまず始めに、家に帰ったらこの愛しい人を抱き締めて、口づけをして、愛を告げよう。何度も、愛そう。

笑みが溢れた。
心からの、笑顔だった。


中原中也誕生日まで、あと1日。