大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中*乱歩受け・中也受け】 ( No.32 )
日時: 2019/05/02 21:02
名前: 枕木

ピンポーン
……ガチャッ

「……うっわ」
「やっほー」

中也は一瞬、このままドアを閉めようかと思ったがやめた。相手は、にこにこしている。

「誕生日おめでとう、中也くん♪」
「……どうも」

溜め息混じりに、手前で5人目だ、と中也が告げると、太宰はショックでうめいた。

4月29日。
今日は、中原中也が生まれた日だ。

*  *  *

中也には、7つのころまでの記憶はない。15までの記憶もおぼろげだ。だけど、この帽子を授かってから、なんとなく自分の人生というものが見えてきた気がしていた。そんなこんなで生きてきて、こんな歳になって、そして今では。

「……何で君たちまでいるの」

リビングに入ってきた太宰がいきなり不機嫌になる。すると先客たちは、苦情を申し立てた。

「中也さんは太宰さんのものじゃないでしょう? 僕たちの大切な中也さんですよ!」
「そうそう。太宰が独り占めとか有り得ないよ」
「私は中也くんの親同然だよ? 君が私に敵うとでも?」
「抜け駆けなど誰がさせるものか」

敦、乱歩、森、国木田、太宰。この、何もかも違うちぐはぐな者たちがここに集まっているのは、この者たちにはたった1つの共通点があるからだった。
その共通点というのは、言わずもがな、この中原中也という男を愛している、という点だ。隙あらば彼は自分のものだと争奪戦を始めるので、本人はとてもとても迷惑をしているようだが。

「ていうか、太宰、来るの遅くない? 真逆、好きな人の誕生日忘れてたとか?」
「うわあ、最低ですね」
「ふっふっふ……忘れるわけないだろう。私はね、これを買っていたのだよ。はい、中也プレゼント♪」

太宰が、外套の中から掌サイズの立方体の高級そうな箱を中也に差し出す。中也は、微妙な顔をしてそれを受け取り、恐る恐る開けた。そして、軽く目を見張る。

「……これ……」
「ん? どれどれ」
「なんだ?」

森と国木田も覗き込む。そして、同じように目を見張った。太宰が得意気に微笑む。それは、有名な高級ブランドの腕時計だった。それも、荒仕事の多い中也のための強化した特別仕様のもの。値段はどのくらいになるかなど、想像するよしもなかった。

だが、中也は数刻基れをみつめたあと、絶望的な溜め息をもらした。

「……なンで手前等って、仲違いしてる癖に考えること同じなンだ?」
「へ?」

太宰が目をぱちくりさせる。くいっと中也が親指を指す。そこは台所のテーブルだ。
そしてその上には、太宰がプレゼントしたものと全く同じものが2つ置かれていた。

「……はァ!?」
「首領と国木田も同じもん持ってきやがったんだよ」

中也が盛大に溜め息をつく。森は朗らかに微笑みながら太宰への殺気をかもしだし、国木田は軽蔑したような目を太宰に向けた。

「おや、私に似せてくるとはねえ」
「真似は良くないぞ、太宰」
「はぁ!? 誰が君たちなんかに……って、え? じゃあ、その箱は?」

1つ、腕時計を入れるものではない木箱が置いてあったのだ。中也が、ああ、それな、と頷く。

「敦だ」
「!?」

全員が敦を見る。誰も敦が中也にプレゼントを渡すところを見ていないのだ。
敦は、少し困ったような顔をする。しかし中也はそんな敦の肩にぽん、と手を置き、にやっと笑った。

「こいつの趣味、なかなか悪くなかったぜ?」
「すみません、あまり高いもの買えなかったんですけど」

敦が嬉しそうに微笑む。そこで皆が、中也が大切そうに握っているものに気づく。
それは、敦の云う通り値段はそこそこ張る程度の、万年筆だった。だが決して脆いものではなく、長く使うことのできる良い作品だ。
中也はそれをくるくる回しながらにやにや笑う。

「大人等より、よっぽどこいつの方がいいんじゃねェか?」
「ッ、中也さん……!」
「それは聞き捨てならないな」

突然、森がすっと腕を伸ばし、中也を自分の方へ引き寄せた。

「私なら、君に素晴らしい夜をプレゼントしよう。こんな子供といる明るい世界より、私といる暗い世界の方が、性に合うだろう?」
「……確かに、そうですね」
「中也さん!?」

素直な中也が、小さく頷く。敦は、ショックでよろよろと座りこんだ。

「それでは、私と……」
「迄、中原には俺がふさわしい」
「国木田くん!?」
「ほう」

国木田が森の胸から中也を引き剥がし、自分へ引き寄せた。森が黒い殺気を発する。

「俺なら中原に理想通りの家庭をプレゼントしてやれる。理想通りの、素晴らしい生活だ。どうだ?」
「……いいかもな」
「く……ッ」

少し夢見色の瞳をする中也に、森が膝をつく。そして、すかさず太宰が国木田から奪い、引き寄せた。

「貴様……ッ」
「残念でしたー」

べーっと舌をつきだしてから、太宰が中也に向き直り、真剣な表情で告げる。

「中也、私ほど君を理解している人はいないでしょう? 私は中也の全てを知っているよ。私と一緒が一番楽だ。気ままな時間をプレゼントするよ」
「……悪くねェな」
「ぐはっ……」

大打撃に、国木田が膝をつく。
勝ち誇った笑みを輝かせている太宰。これでもう敵はいない……そう思った、そのときだった。

「ねっ、全部僕の云った通りになったでしょ?」

太宰が、衝撃の雷に打たれる。そう、敵はまだいたのだ。それも、強敵。
それは……

「ら、乱歩さん……ッ」

乱歩がずっと消していた気配を露にして、にっこりと微笑む。そして、指を一本たてた。

「太宰が今日遅れた理由。それはね……」

太宰が固まる。中也が興味津々に乱歩をみつめる。
乱歩は、楽しそうに笑って云った。

「腕時計を買うお金が足りなくて、社長に土下座しに行ったからだよ」

太宰、敗北。
中也は、心底感心した。

「本当に手前なんでもわかるんだな」
「そうだよ! でもこれすごい頑張ったんだから。誉めてよ〜」

乱歩が中也に抱きついてすりすりと猫のように胸に頭を押し付ける。中也もそれをよしよしと撫でる。

「ワイン、気に入ってくれた?」
「嗚呼。一番いいプレゼントだった」
「でしょ♪ ねっ、僕が一番でしょ? 僕にしちゃおうよ」
「そうするか」

ここだけ即答。

「乱歩オォォォォオォォ!!!」

復活して叫ぶ敗者たち。途端に再開する中也争奪戦。
わちゃわちゃがやがや、この上なく五月蝿い。
だけど中也は、自分に抱きついている乱歩を引き剥がそうとする皆を見ながら、くすりと笑った。
つまりは、皆が、中也が生まれてきたことを喜んでいるのだ。中也に生きていて欲しいと願っているのだ。それが一番のプレゼントだと、彼は気づいていた。

「……なァ」

中也がぽつりと皆に声をかける。皆が動きを止める。
中也は、照れくさそうに笑いながら、云った。

「ありがとな」

……それに全員の心が射抜かれ、倒れたことは云うまでもないだろう。
この全員が今日云いたかったことは、ただ1つなのだ。

誕生日おめでとう、中也。


えんど