大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.34 )
日時: 2019/05/05 01:45
名前: 枕木

ガチャッ

「只今ーッ! 中也死んでるー?」
「だ……れが死ぬか……こンの青鯖……」

態とふざけて挨拶してみたが、弱々しい応答に顔を歪めた。家に上がって、食卓の上に、早くに上がった会社から帰る途中で買った食材と果物を置く。
中也が台所に立てなくなって1週間がたつ。妊娠初期の症状、つわりだ。知識はあるし、中也の中に子がいるという証拠であることも分かっている。それでも、辛そうにしている中也を見ているのも、森さんと姐さんの許しを受けて産休っぽいものをもらっている中也を一人で家に置いておくのも、つらい。だからこそ、社長と社員達に頭を下げて、会社を早く上がる許しをもらっているのだ。頭ではわかっていても、心配だし、不安なのだ。

襖を開けて、寝室にしている部屋へ入った。カーテンを閉めた薄暗い部屋で、中也は一人で二人用の布団で丸まっていた。「中也」と声をかけると、中也は小さな声で「太宰……」と答え、弱々しく手を伸ばしてきた。私は、屈んでその手を握って頬にあて、中也に覆い被さるように抱き締めた。嗚呼、冷たい。苦しそうに細い息をしている。その背中を擦ってやる。

「今日は、何回吐いた?」
「……5回」
「昨日より酷いね……。辛くなったら、何時でも私の事呼び給えよ? つわりだって、緩和する方法はあるんだから」
「ん……でも」
「うん、わかっているよ。薬や治療は嫌なんでしょ?」

中也が胸の中で小さく頷いた。
男から産まれる子供なんて何があるかわからない、産まれるまでなるべく何もしたくない。そう云ったのは中也本人だった。確かに、出産できる男性がいるとわかってからの男性の安産の例は少ない。そもそも、出産できる男性が少ないのだ。中也の心配はよく分かる。

「じゃあ、尚更私を呼んでよ。ね?」
「うん……」

中也は素直に頷き、私の胸に顔を埋めた。更に強く抱き締めて背中を擦ってやる。中也は、吐き気やだるさ、強烈なストレスと、持ち前の精神力で独りで戦っている。それならせめて、不安や恐怖は私がはらってあげたかった。「何かして欲しい事はある?」と訊くと「傍にいろ」と返す健気な妻に、私ができることはこれくらいだったのだ。

「お粥、食べられた?」

中也が胸の中で小さく横に首を振る。布団の傍らのテーブルには、成る程、蓋を閉じたままのお粥がある。

「辛いけど、食べなくちゃ。今が一番栄養を必要とする時期なのだからね」

野菜とかお肉買ってきたから、何か食べよう。と促すと、中也は苦しげに顔を歪め、そして、上目遣いで、

「じゃあ……太宰が食べさせて……?」

と返してきた。

勿論私は、中也の妊娠を知ってからもう何度抑えたかわからない、今すぐこのアホほど可愛い妻を犯したいという衝動を必死で抑え、台所に立ったのだった。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.35 )
日時: 2019/05/04 10:28
名前: 枕木

いつかこういう事になるからと中也に教わっていた方法でうどんを作る。煮る、茹でる、はできるようになったのだ。それを自慢すると、中也は呆れ顔で「こんなん鯖でもできる」と云った。本当に可愛くない。嘘です、狂いそうなくらい可愛いです。

一秒でも中也と離れていたくなくて手早く作ると、寝室へ持っていった。中也は私とうどんを認めると、ゆっくり起き上がり、そして口元を抑えてうめいた。器を机に置き、肩を抱く。

「袋要る?」
「否、いい……吐けるもん無ェ……」
「食べられなさそうだったら無理しなくても」
「食いもんが必要なのは俺じゃねえだろ。赤ん坊だ。少しでも、食わねえと。それに、手前の料理、手並み拝見といこうじゃねえか」

青白い顔でにやっと笑い、そんなことを云う。
やっぱり強すぎるのだよねえ、この男は。

「わかったよ」

中也の肩を抱いたまま片手でうどんを数本箸で掬うと、息を吹き掛けて冷ました。そして、中也の口元に持っていく。

「はい、あーん」
「……」

あーんは無視されたけど、中也はおとなしく口を開けて、すすった。ゆっくりと無理矢理口を動かして、一生懸命飲み込んでいる。すごく胸が苦しくなる姿だったけれど、それは紛れもなく子を守ろうとする母の姿だった。

時々おえつきながら、中也は完食した。思わず口づけをする。

「頑張ったね、中也」

中也は、ほんのり頬を染めて微笑んだ。
少しずつ母親に近づいていく中也は、この世のどんな女性よりも美しく強い。

改めて思う。私は、天下一の果報者だと。

「このうどん、味薄くねえか?」
「ほとんど味の素で味つけたからね」
「ったく……やっぱり、手前には台所任せらんねえな」
「なら早く立てるようになんなよ。弱気な中也って気持ち悪い」
「俺も手前の料理ずっと食べてンのなんか御免だ」

そう。早く元気になってほしい。たくさん食べて、たくさん休んで、子と共に元気でいてほしい。病気でもないけれど、そう願う。

中也を布団に横たわせて布団を被せると、自ら添い寝して、中也の髪を撫でた。

「まあ、それまでは面倒見てあげるから、ゆっくり休み給えよ」
「上から目線うぜえ。……迷惑かけて……悪いな」

罰が悪そうにぼそっと云う。私は笑って、抱き締めた。ああもう。

「今更でしょ。私の事誰の旦那だと思っているの? 早く寝なよ、ぽんこつなめくじ」
「……ばーか……治……」

消え入るような声で呼ばれた。すぐに、胸の中ですやすやと寝息をたて始める。微笑んで、私も目を閉じた。

なんて愛しい、君と、小さな命。君が小さな命を守るなら、私はそんな君を守るから。だから、今夜は絶対悪夢を見ないようにと、強く抱き締めて眠った。

中也は、幸せそうに微笑んで眠っていた。
その夜は悪夢もつわりもなく、ただ、幸せな夢を見ていたそうだ。

どんな夢を見たかは、教えてくれなかったけれど。顔を真っ赤にして、何を見たんだろうね?


えんど