大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.56 )
日時: 2019/06/02 18:13
名前: 枕木

やけに喉の渇く、土曜日だった。

雨が降る。そのせいだろうか、頭が痛い。内側からガンガンと、何度も、何度も。
携帯電話を握り締める。数分前に青鯖から貰ったメールは、もう何十回も読み返してしまって、見る気をなくしていた。
明日の午後8時。
宅呑みでもしない?、って。
うん、いいかもしれねェな。彼奴の好きなつまみでも買って行こう。安くて旨い、あいつの好きなつまみを。うん、それが、いい。
少し楽しみで、唇の端が上がった。

「いらっしゃい、中也」
笑顔で、明るく。何時もの、太宰だった。
「ちょっと高いワイン秘蔵してあるんだよね。今日は中也のために開けてあげるよ。特別だからね? 感謝してよ?」
「あ”? 態々呑みに来てやったんだ、感謝するのは手前だろ」
うきうき、るんるん。本当に、楽しそうに。
嗚呼、喉が渇く。

「それで、そのときに……」
なんてことのない世間話を、安いつまみを高いワインで飲み下しながら交わす。
グラスを傾けて、赤いワインを揺らして、少し赤らんだ頬で。
酔ってんな、こいつ。
「酔ってないよ〜? ねえ中也」
笑顔で、キスしよう、って。やだ、酔っ払いは断る。
ひどいな〜中也は。あはは、と上機嫌で。
悪かったな、ひどい彼女で。
なに言ってるの、世界一かわいい素敵な彼女だよ。
嗚呼、知ってる。
さすがだねえ。まあそんな事微塵も思ってないけど。
いつもいつも、毎日毎日。こんな会話を繰り返して、もう何年だろう。
それでも、幸せだった。楽しかった。

「……少しだけなら感謝してやる、太宰」

少し目を見開いて、それから、微笑んで。
そして、手を繋いで眠った。
おやすみ、太宰。

喉が渇いて、目を覚ました。
隣で眠る恋人を眺めてから、水を求めて外に出た。雨が降っていた。嬉しくて、微笑んだ。
やけに喉の渇く日曜日だった。
雨の中に立っていた。
さらさら、さらさら。
頭の中で、微かな音がする。雨は降り続いている。だけどもう、頭は痛くない。
全てが、溶けていく。俺の身体も、想いも、全部。
これで、いい。安っぽい演出で、終わりにしよう。
目を閉じる。
さらさら、さらさら。
おやすみ、太宰。

アパートの外に出る。
朝起きたら隣にいなかった恋人を探しに来たわけじゃなかった。
雨はもう止んだのか、確認しにきただけなのだ。
雨は、止んでいた。駐車場には、水溜まりができていた。大きな、水溜まり。
嗚呼、喉が渇く。
水がほしくて、水溜まりの水を掬った。
うん。しょっぱい。
覚えのある、しょっぱさだった。
これは、確か、

もうこの世にはいない恋人の、最後の夜に眠りながら流していた涙の味。

額と、頬と、それから唇。
最後のキスは、しょっぱくて。
だからだろうか。

やけに喉の渇く、月曜日だった。


塩体病___身体が塩と化して死ぬ奇病。末期には異常に喉が渇く。治す方法はなく、接吻によって感染する。