大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.58 )
- 日時: 2019/06/04 05:12
- 名前: 枕木
躰に軽い衝撃を感じて、目を覚ました。
辺りは真っ暗だったが、カーテンを開けたままだった窓からさしこむ月明かりが、俺を起こした者を照らし出した。
「どうかしたのか、敦」
子供みてェに俺の胸に顔を埋め、胴にぎゅうっと抱きついている恋人に問いかける。
恋人は無言だったが、その背中に触れると、冷たく冷えきっていた。
「悪い夢でも見たか?」
「……いえ……違くて……」
敦が顔をあげる。紫がかった琥珀色の瞳が、怯えきって揺れていた。青白い少年の顔が、俺にすがって向けられている。
「僕は……何者なのでしょうか。僕は何なのか全くわからないんです。もう何を憎めばいいんですか? 僕はちゃんと生きていますか……?」
そうか。こいつも、戦っているのか。
自分自身と。自分って存在と。
憎むものがなくなって、自分を憎むしかなくなって、そうしたら自分は何なのかわからなくなる。非道だと云われても他人を憎んでしまえばいいのに、こいつは優しすぎて憎めない。
それなら、俺がかける言葉は、1つだけだ。
「それじゃ、愛せよ」
敦の瞳が揺れる。
そのさらさらした髪を撫でる。こんな優しい手つきできるようになったのも手前の所為なんだぜ、知ってるか、敦。
「手前自身も、周りの奴等も、みんなまとめて愛しちまえ。無理矢理でも好きになれ。そうすりゃァ、手前が愛した何人かには手前の価値ができるだろ」
「……でも、僕には愛なんて」
「敦」
怯えきった瞳を真っ直ぐみつめる。
7年前の自分と重なった。俺も、もがいて足掻いて、必死であらがおうとしていた。運命ってやつに。でも、今では若し運命ってやつがあるなら、感謝してやってもいいと思ってんだ。その理由はな。
「俺は、手前の事を愛してる」
敦は目を見開いた。
「其れは、手前が俺を愛したからだ。俺にとって、手前は帽子の次に大切だ」
「……帽子?」
「莫迦、帽子より大切だよ。其れは、手前の自信にはならねェか? 俺の恋人っていう価値は、嫌か?」
あー、ったく、なんで俺がこんな甘ったるい台詞吐いてんだ。
でも、恥もプライドもどうでも良くなるくらい、手前のことが
「好き、敦」
額に口づけをした。
唇を離してから数拍おいて、敦が起き上がった。そして、俺の上に覆い被さる。その直後には、唇を塞がれていた。
「んぅ……んっ……ん……」
「んー……っぱ」
長い口づけのあと唇を離すと、透明の糸で繋がっていた。其れが途切れたあとで、敦は俺を見下ろし、とびきりの笑顔をした。何かが吹っ切れたような、明るい笑顔だった。
「すみません、よく見てみたら物凄く素敵な人生でした」
「そうだろ? 嗚呼でも、俺以外をこんなふうに愛したらただじゃおかねェぞ?」
「やだなあ。中也さんはお茶漬けの次に大切なんですから」
「あ”?」
「怖い怖い。えへへ、一番に決まってるじゃないですか」
額に軽い口づけをして、敦は俺を真っ直ぐみつめた。
「愛していいんですか、中也さん」
「おう」
「一緒にいてくれますか」
「おう」
「……僕は、貴方にとって何ですか?」
「恋人」
うん、充分です、と敦は笑った。
もう一度口づけをして、それから、敦はにやっと笑った。
「何だかもう目が覚めちゃいました。これから、中也さんの愛を確かめてもいいですか?」
「い、否、確かめる迄も無……」
冷や汗が一筋流れ、慌てて制止したが、敦はもう既に雄の瞳をしていて、問答無用で布団に手首を縫い付けられた。
「愛しています、中也さん」
「……あっそ」
口づけを交わした。
不安なら何度だって云ってやる。苦しいなら何度だって叫んでやる。
何で生きてるのかって訊かれたなら、即答してやるよ。
誰より優しくて危なっかしい恋人がいるから、心配で墓になんか入ってられねェんだ、ってな。
えんど