大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.6 )
日時: 2019/06/01 05:05
名前: 枕木

※原作無視です

「……は?」

威圧をかけて言う。厭、重力か。普通の2倍くらいの重力。
それをかけられた友人の人虎は、可哀想なくらい身体を縮めて、涙を目に浮かべた。

「え、えーと、無理矢理呑んで落ちた国木田さんとか、呑んでないのに寝ちゃった乱歩さんとか、芥川と一緒に頑張って帰らせなくちゃいけないので……」
「……何で太宰は俺なんだよ?」
「す、すみません……」

うるうると震わせる琥珀色の瞳をみつめ、盛大に溜め息をついた。そして、テーブルに突っ伏して気色のわるい笑みを浮かべ、気持ち良さそうに寝ている男を見やる。
探偵社の奴等が意外と気の合う連中だったと知り、こうして男で集まり呑みに来るような仲になっても、未だにこいつとは打ち解けられない。しばらく相棒として傍らにいて、こいつが離れていって本気で命を奪い合う立場になって、また一緒にいるようになって。
芥川も元同業者という点では同じ筈なのに、元の関係に戻ったどころか昔よりも親しくしている。俺とはあの頃と同じ……どころか、逆になんとなく他人行儀になった気がする。
俺とて、今の太宰との関係は複雑だ。あの時、太宰が相棒としての俺を捨てたとき、“これ”は一緒に捨てた筈なのに……
だから、あまり関わりたくなかった。しかし、駄々をこねて起きようとしない彼らを起こすのに苦戦奮闘している年下の友人二人を見ていると、そんなことも言っていられない。もう1つ溜め息をついて、太宰の傍らに膝をついた。
安らかな呼吸に合わせて規則正しく動いている肩を掴もうとして、一瞬躊躇う。
いや、平気だ。もうとっくに“これ”は忘れたんだ。
肩を掴んで、揺さぶる。

「おい、太宰。起きろ、みっともねえ寝顔晒してんな」
「ん〜……」
「だーざーい」
「わ、わかった、わかったよ……起きるから、重"い"からそれ"や"め"て……」

周辺のものに少々重力をかけてやると、太宰はぶつくさ言いながらも起き上がって外套を羽織った。そして周りを見回し、「うわあ、見苦しーい。敦くんも芥川くんも頑張ってねぇ」と暢気に言う。『少しは手伝えや……』と黒い靄を発する芥川を敦が慌てて止め、早く帰れと促してくる。その言葉に甘えて、せめてもの大人のマナーとして全員分の勘定をする。太宰の「大人気あるねえ、中也。かっこいい〜」というおだてにしれっと「後で探偵社に請求書送っておくからな」と返すと、太宰のふざけた笑顔がひきつった。

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.7 )
日時: 2019/04/21 23:41
名前: 枕木

太宰を連れて帰ってくれと頼まれた俺も、ほどほどには酒を呑んでいる。店を出て、ほろ酔い気分で見上げた夜空の月は、成る程、風流だ。

「中也、酔ってるの?」
「なンでんなこと訊くんだ?」
「いや、中也がそんな顔で空見上げてるの、珍しいじゃない」
「そうかぁ? 俺だって夜空くらい見上げる。俺も日本人だぜ」

そう。空を見上げることが増えた。
掴めなかったあの肩と、あの笑顔から。
いや、てかなんか普通に会話してんだな、俺達。少し安心した。

「つーか、手前こそ酔ってんじゃねえのか。相当呑んでただろ」

一応、路地の奥まったところにある居酒屋を選んでいた。しばらくはこの人気のない路地を二人で歩くことになる。

「私を誰だと思っているの。泥みたいな、そんな酔い方なんかしない」

まあ手前ならそうだよなあ、と相槌を打つ。

それから、しばらく沈黙が続いた。大通りに出て、帽子を深く被り直す。酒がいい感じに回ってきている今襲われたら、結構まずい。
そんな俺を見たからか何なのか、太宰は少し遠回りしようと言い出した。道行く人々を避けながら、自分より幾分高いそいつの背中を追いかける。
少し、いやだいぶ、懐かしい眺めだ。外套が黒色から砂色になって、包帯がとれて、少し大きくなった。それでも変わらない、奴の背中。

俺がずっと触れたくて、けれど触れられなかった、愛する背中。

「……だざ」
「中也」

気がつくと、街中を抜けてどこかの公園にいた。同じ街でも、賑わっているところから少し離れると人は誰もいない。錆びた鉄棒とぶらんことベンチがあるだけの、質素な公園。風もなくて、本当に静かだった。

太宰は、黙って月を見上げていた。
穏やかに微笑んだ静かな横顔は、よく知っているものだった。

「私は、今酔っている」
「……は?」
「言っていいことと悪いことの判断もつかないくらい、泥酔してる」
「……」
「きっと、これからすることも全部明日の朝には忘れてる」
「……だから、何だよ」

それだけ保険をかけたからには何かとてつもないことを言い出すのだろうと構えていると、突然太宰がくるりと振り向き、そして、

「……っ!?」

ぎうっと抱き締めてきた。

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.8 )
日時: 2019/04/22 05:55
名前: 枕木

頬にかかる、奴の柔らかい髪。とく、とく、と少し早いリズムで動く胸の、少し低い体温と、決して不快ではない男のにおい。後頭部を胸に押し付ける右腕の力強さと、腰に回した左腕の優しさと……
そこまで感じたところでハッとして、ぐ、と胸板を両手で押し返した。

「な……んだよ! 気でも狂ったのか手前!」
「だから酔ってるって言ったじゃない。ねえ、お願い。このまま……」

ぎゅう、と更に身体を密着させられる。
もし、あの頃、同じようにされていたら。
こいつのことは、どういう風に感じていただろう。きな臭い胸に押し付けられて、血が滲んだ腕で抱き締められて……

「……中也、甘いにおいするね」

そんなこと、ずっと隣にいても言わなかったくせに……!

「っ……手前、なんで、捨てたんだよ」
「……御免」
「御免じゃねえだろ!? もう、相棒やってた時間より、敵同士だった時間の方が長えんだよ! いまさら……なんで……」

視界が滲んだ。嗚咽が喉からもれる。
もう、捨てた。捨てたかった。だけど……できなかった。

「中也……御免、御免……っ」
「っ……ふ……うっ……」

泣くつもりなんてなかったのに。
だけど、こいつが、こんなことをするから。莫迦みたいに必死で、謝るから。

「……中也、許して。もう一度、私にチャンスを頂戴。お願い」
「……チャンスって、なんのだよ」

「もう一度、中也の隣にいる資格」

そっと、胸中から解放される。
太宰は光を宿した瞳で真っ直ぐ俺をみつめて、指で俺の目元を拭った。

「中也が、好き」

目を見張る。

「愛してる。ずっと傍にいたい」

……ああそうだった。こいつ、今泥酔してるんだったな。
それだったら、俺もいいだろうか。今なら、許されるだろうか。

ずっとずっと、お前のことが

「……好き、だ」

去っていく背中が怖い。掴めなかった、掴んだところで振り払われて、決して振り向いてくれなかった肩も。
それでも、捨てられなかった。

「もう、離れんな……っ」
「うん」
「背中を見せんな。隣にいろ」
「うん」
「絶対、俺の」

その先は言えなかった。言葉は、奴に飲み込まれたのだ。

「んぅ……」

太宰は俺の口内まで深く堪能してから唇を離し、そして口の端を舐めて、「塩っぱい」と笑った。
「ばーか」と掠れ声で返すと、愛おしそうにうっとりとみつめられ、再び、抱き締められた。

離れていた時間は、埋まらない。何度も捨てた想いも戻らない。
それでも、ずっと待っていた。諦めていなかった。諦められなかった。

その夜、太宰は俺が泣き止むまで抱き締めていた。
泣き止むと、「帰んぞ、酔っ払い」と手をとって、ぐいっと引っ張って。太宰は、何やら楽しそうに笑っていた。

*  *  *

「ってのがなれ初め」

薬指に指輪をはめた左手でストローを回しながら言うと、乱歩も国木田も谷崎も、顔を手で覆って溜め息をついた。

「すまない……俺の同僚が。長年苦しめたことを許してくれ」
「ほんとあり得ない……太宰が素直になれなくてこじらせてただけじゃん」
「て、てことは、あれですね。酔い潰れてくれた国木田さんとか乱歩さんとか帰れと促してくれた敦くんとか芥川とか、みんなで実らせた恋なんですね!」
「まあ、そうだな」

その点では感謝しないといけない。
ていうか今思い返すと確かにいろいろ酷いな。告白はよしとして、プロポーズもプロポーズだ。ジュエリーケースを差し出して腕疲れたっていう奴がいるか?

ま、あいつらしいと言えば、あいつらしいか。

「おい、携帯電話鳴ってるぞ」
「ん? ああ、本当だ」

Re: 【文スト】名もなき愛を【太中・乱歩受け】 ( No.9 )
日時: 2019/04/22 17:20
名前: 枕木

アイスコーヒーを飲みながら携帯を開いて、思わず、げっ、と呻き声が出る。

「……悪い、俺、出る」
「嗚呼……」

俺の携帯を鳴らした犯人を乱歩でなくとも皆察し、勘定はいいから早く行け、と促してくれた。
店を出て、着信音が鳴り続けていた電話に出る。

「ンだよ」
『今どこにいるのかなあ? すぐ帰ってくるって言ってから1時間もたっているのだけれど』

1時間ぐらいでこの声は相当やばいよな、こいつ。まあ知ってたけど。

「すぐ帰るから待ってろ」
『うん……待たないよ?』
「あ?」

そう返したその次、突然背後から帽子を取られた。犯人なんか、振り向かなくてもわかる。

「てーめぇ……」
「はい、背後がら空き〜。そんなんじゃすぐ襲われちゃうでしょ」
「そんなん手前ぐらいだろ」

振り向くと、ふざけた笑顔。
よく言ったもんだよなあ、惚れた方が負け、ってな。

「帰ろうか、中也」
「……ん」

手を差し出される。
綺麗に包帯を巻いた、綺麗な手だった。
それを、掴む。
もう、恐怖はなかった。

愛してみようと思う。自分を、人生を、こいつを。

「つか帽子返せよ」
「やーだ。帽子取ると身長がさらに縮んじゃうねえ、中也くん?」
「殺されたいのか手前……」

肩が触れた。

手は、離さなかった。
ずっと、な。


えんど