大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.61 )
- 日時: 2019/06/10 18:59
- 名前: 枕木
閲覧1000ありがとうございます!
続きますのは、私が人生で初めて書いた太中になります。時系列的には、太宰さんが中也くんに告白する話の一年前くらいかな…。それでは、どうぞ
特別な人、というのが、自分には存在しなかった。
尊敬を抱く先輩はいる。信頼のある同僚もいる。優秀な部下もいる。
それでも、唯一という者がいなかった。それこそ、私と心中してほしいと願うような、唯一の存在がいなかった。
唯一というのはその者の弱点だ。それを失えば、その者はもう二度と元に戻れなくなる。だから、何にも執着しない。それは、信念を掲げるまでもない、自らの決まりだった。
夕日があまり入れない、薄暗い路地裏を、ゆらゆらと歩く。
特に用があるわけでもない。ただ気の向くままに、歩くだけだ。
あれ、どこか行くんですか、太宰さん。
いいや? 少し散歩をするだけさ。
でももう夕方ですよ? 探偵社に報告をして来ないと……って、太宰さん、いない!?
そんな声を背中に。
くすくすと笑う。あの虎の子があまりにも苦労人で、いっそ笑えてしまう。
「手前のせいじゃねえか」
そんな呆れ声の突っ込みに、立ち止まる。
前方の影から現れたのは、
「げっ」
「それはこっちの台詞なんだよ、太宰」
自分がただ一人、嫌い、という感情を抱く人物だった。
苦手、とか、やっかい、という感情を抱く者はいるが、嫌い、という感情を抱くのはこの中原中也という男しかいない。それは双方も同じなようで、格好つけた帽子を押さえつけて、これ見よがしにため息をついた。
鋭い瞳は自分を睨み付けているが、拳が叩き込まれる気配はない。いや、こんな所で無粋な喧嘩を持ち込むような男ではないのだが。
それでも、嫌いだ。
「何をしているんだい、中也くん」
「その呼び方気持ち悪ィ。……散歩、してンだよ」
「ぷっ」
「あ”?」
少し目を逸らして、散歩、なんて言う。日が落ちてきているとはいえまだ人目が行き届くこの時間に、闇の組織の幹部様が一人散歩とは笑える話だ。
「煩え。コロスぞ」
「あはははは、いやあごめんね。ふふ、散歩の邪魔をして悪かったよ。ごゆっくりどうぞ」
顔をしかめている中也の横を通り過ぎようとしたとき、ふわりとなつかしい香りを感じて、驚いて足を止めた。
女性のような、甘い香り。だけど鼻につく辛さというのは全くなくて、ふわふわとやさしい。
まさか、と香りの主を見下ろす。
「何だよ?」
いきなり自分の傍らで立ち止まった元相棒を、いぶかしげに見上げる中也。
間違いなく、この香りは中也のものだ。そっちの組織で中也の傍らにいたときから変わらない、唯一の相棒の体臭。
もう戻る気なんて全くないはずなのに、なつかしいと感じた、自分の心に驚く。
いや、なつかしいと感じたのはポートマフィアではなく、中也自身だろうか。
中也の隣にいた、この距離だろうか。
顔の包帯を外して新しい同僚ができても、感じることはなかった。
中也に、だけ、だった。
傍にいると漂う香りを感じてしまうのも、
嫌いだ、という感情を抱くのも。
「おい太宰……」
「中也」
「だから何だよ?」
少し苛立っている。
でも、なんだか、なんというか。
いや、でも、やっぱり。
「嫌いだなあ」
「は?」
「中也のコト」
今更何なんだよ、と更にいぶかしげに顔をしかめる中也。
本当にかわいくない。やっぱり嫌いだ。こいつだけは。
「じゃあね」
手を振って、歩き出す。また、路地を、まったりと歩き出す。
いつになったら、私の唯一の人は現れるのだろうか。私にとって、その人だけ、という存在……は……
足を止めた。
……だけ。そいつだけ。こいつだけ。
……いや、まさか。
「やっと見つけた……太宰さん!」
いつの間にか路地を抜けていた。息を切らした敦くんが、私まで駆けてきた。
「はぁ、はぁ……」
私の目の前にくると、膝に手をついて激しく呼吸をした。すぐ傍にきたのに、香り、などは感じない。
いやまさか、嘘だろう。
「? 太宰さん?」
「なんだい」
「どうしたんですか、変な顔してますよ」
「そうかな?」
「はい。初めて見ました、太宰さんのそんな顔」
私にとっての、特別な人。その人だけ、その人しかいない、私の唯一。
それは、元相棒で強くて小さい、私がただ一人嫌う人。
「……弱ったなあ」
「?? 太宰さん?」
次会ったとき、どんな顔をすればいいのだろうか。
さっきから百面相をしている先輩を、いぶかしげに見上げる後輩の人虎。
たった今芽生えた恋のせいで一番苦労することになるのは、自分だということも露知らずに。
それは、とある夕方の出来事だった。
{つづくお}