大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.62 )
- 日時: 2019/06/10 21:24
- 名前: 枕木
近くのカフェで軽い朝食を食べ、のんびりと手を繋いだまま歩いた。
計画[プラン]も特にない、気まぐれなデエト。人生初めてのその日は、とうに梅雨入りしているというのに、まるで天までこの男の誕生した日を祝うように、初夏らしい清々しく晴れた日だった。
繋いだ手から伝わる体温が温かくて、けれど少し恥ずかしくて、ちらっと隣を歩く恋人の横顔を見るだけで頬が熱くなる。
そんな、幸せな時間だった。
しかしそれも、前から歩いてくる二人組を見た瞬間、打ち砕かれたかのように思われた。
「ッ……!」
「……中也」
恐怖と不安に立ち止まった俺の手を握った太宰の手に力がこもる。
俺の名前を呼び、にっこり微笑みかけ、そして、太宰は正面から二人を……ポートマフィア首領・森鴎外と、それに続く第二位・尾崎紅葉と、向き合った。
「おや、奇遇だねえ、太宰くん。散歩かい?」
「こんにちは、森さん、姐さん。見て判りませんか、可愛い恋人とデエト中ですよ」
「ほう、可愛い恋人、のう」
三人とも穏やかな笑顔だが、穏やかな昼前の横浜駅前とは思えない緊張感だ。通行人がただならぬ空気を避けながら、ひそひそと何かを囁いて去っていく。
姐さんにみつめられ、俺は太宰の手から手を抜こうとした。しかし、太宰はぎゅっと掴んで離さなかった。
『大丈夫だから』そう云っている気がした。
暫く、ビリビリと肌が焼けそうな空気が続く。
その空気を緩めたのは、三人一斉に肩をすくめ、小さく交わした微笑だった。
あれ……平気……なのか?
「あの中也くんが休暇が欲しいなんて云うから、驚いたんだよ。これなら納得だねえ」
「何しろ、半年も前からこの2日だけはと願い出をしていたからのう」
「え、そうなの中也!?」
張り詰めた空気から一転、突然俺の話を始める。姐さんが着物の袖を口元に当てながら朗らかに云うと、太宰がバッと俺に振り返り、キラキラと輝く瞳で訊いてきた。
ば……莫迦、ンなこと云えるか! 姐さんもそれは云っちゃいけねェやつだろ!?
……という叫びは心の中に秘めておくが。取り敢えず、熱い頬を太宰の背中に隠すようにそっぽを向いた。
「本当に中也は愛いのう……」
「全くだね。……そんな中也くんに突然無粋な話題を持ってきてしまって悪いのだけど、少し顔を貸してくれるかい? 把握しておいてほしいことがある、幹部としてね。嗚呼太宰くん睨まないで睨まないで。幹部として、と云っただろう。すぐに無事返すから」
「はい」
頭を切り替えて、素早く返事をする。少し名残惜しかったが太宰と手を離し、首領に手招きされて、路地裏で話をした。商売相手が襲われる事件があったので俺の直属の部下を借りたい、どの部隊が適任か、という簡単な相談と報告をして下さった。
ものの数分だろう。俺は首領と話をした。その間の太宰と姐さんが何を話していたか、なんて、知る由もねェ。
「中也と一緒になる気かえ?」
中也と森が路地裏に消えてから、紅葉が、太宰に静かに問うた。
太宰は姐さんの視線を静かに受け止め、微笑んで頷いた。
「私の妻になってもらいます」
「私たちが、お前に中也をやると?」
「いいえ、微塵も。くれないでしょうけど、貰います」
太宰が微笑んだ顔を崩さず云う。紅葉の瞳が細められ、背後から冷たい靄が発せられた。
「随分強気じゃのう。中也は絶対にやらんと云ったらどうするのかえ?」
「奪います」
紅葉は、初めて見た。
太宰の、本気の殺意を。本気の瞳を。本気の愛を。
幼い頃から見てきた二人だ。紅葉は、冷たい靄をしまい、困ったものじゃのう、と微笑んでため息をついた。
「まあ、中也があれほど楽しみにしていたデエトじゃ。邪魔したくはないからの。今日は善い」
「助かります、姐さん」
「困った童らじゃのう。……太宰」
「はい」
「覚悟は、あるのかえ」
鋭い視線を太宰は静かに受け止め、そして、優しい笑みを浮かべた。
「はい」
紅葉は、黙って日傘をくるりと回した。
その美しい横顔は、嬉しそうにも、寂しそうにも見えた。
云うなれば、娘に大切な人ができた母の表情。
太宰の微笑も、その母に認められた嬉しさを象徴しているように見えた。
「やあ、待たせたねえ」
間もなくして、森と中也が現れる。何でもない顔で太宰に一言二言会話の内容を説明している中也を見てポートマフィア2トップは和やかに微笑み、そして、二人の隣をすれちがっていった。
「楽しんでくるんだよ、中也くん」
「はい」
「楽しませるのじゃぞ、太宰」
「はーい」
二人を見送ってから、中也はじっと太宰を見上げた。
「なあに?」
「……姐さんと何を話してたンだ?」
「ん〜……ひみつ♪」
「……?」
まだ気になる中也の手を、太宰が再び握る。
「まあいいじゃない。デエトの続きね、中也」
「……ん」
あっという間にほだされた中也は、太宰と並んで歩き出す。太宰は、さっきの紅葉との会話は決して中也に教えまいと誓った。
そして、それのついでに、誓った。
絶対に、この愛しい人を幸せにしよう、と。
今更、当たり前の話なのだが。きちんと言葉に起こしておきたかったのだ。
人間らしい温かさが胸に溢れた。不可解だが、不快じゃない。そうか、これを人は
「ねえ中也」
「んぁ?」
「遊園地、行こうか」
愛と呼ぶのかなあ。
予定が定まり、足取り軽く歩き出した四本の足は、長年寄り添った夫婦のごとく、揃っていた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.63 )
- 日時: 2019/06/15 14:15
- 名前: 枕木
一つ二つアトラクションに乗り、ベンチに座って休憩していたところで、俺の目に止まる人影があった。
「……あ? あれは……」
「ん? 嗚呼、そういえば二人も来ると云っていたねえ」
思い出したように太宰が云う。
ソフトクリームを舐めながら歩いてくる小柄な男と、その隣を歩む和装の男。
そう。前方から歩いてきたのは、武装探偵社社長・福沢諭吉と、自他認める名探偵・江戸川乱歩である。
あんまり、会いたくねェ二人だな……
当然俺と太宰のことは太宰から聞いているだろうが、俺はこいつらとはマフィアとしてしか会ったことが無い。気まずいし、なんとなく気恥ずかしい。
しかし、笑顔で手を振る太宰とその隣でうつむく俺に気づいた二人は、こちらへ近づいてきた。
「奇遇だね、太宰。デエト場所ここに選ぶとかベタだなあ」
「ふふ、お見通しですか」
「当たり前。こんなのが恋人って、素敵帽子君かわいそう」
「お、おい……」
名探偵とは知っているが、こうもズバッと云われると戸惑う。乱歩の方は太宰を軽蔑的な目で見ながらソフトクリームを舐めているが。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.64 )
- 日時: 2019/06/15 21:38
- 名前: 枕木
……まずい。
こんなの、絶対にあいつにバレたくない。バレたら、最悪別れを切り出されるかもしれない。そんなの、絶対に……
* * *
最近、中也がセックスさせてくれない。
いやまあ、今までも其処まで頻度は高くなかったんだけど。お互いこんな仕事しているわけだしね。
それでも、お酒を呑みながら目線が絡み合ったりすると自然と躰が求めあって、口づけした勢いで蒲団に押し倒して、情事に至る、という流れを切られたことは一度もなかった。もう幾度となく抱いているけれど一度も。抱く度に感度も妖艶さも可愛らしさも増していく中也を見ていくのは幸せで幸せで、そんな中也も全部ひっくるめて愛している。
それなのに、その中也が。
「お、おい、待て」
「……え?」
蒲団に押し倒したところで、ぐっと胸を押し返される。
何時もならもうとろんとしている中也は焦ったような顔で、瞳を揺らし、必死で私を止めた。
「今日は……無理だ」
「どうして?」
「無理なもんは無理なんだよ」
「なに、生理?」
「あ、阿呆! ……そうじゃ、ねェけど、今日は」
おかしい。明らかにおかしい。
私の下で目を逸らしつつ、そう云う中也は、何かを隠していると見え見えだ。だけど、その隠し事は何なのか判らない。
でも……どうしてだろう。中也……怯えてる、何かに。私の胸を押した右手が、微かに震えていた。
それを知ってこのまま必死な恋人を組敷くなんて選択、私にはない。大切な恋人だもの。
だから、ふう、と1つ息をついて熱を持ち始めていた下半身を落ち着かせ、不安げに蒼い瞳を揺らす恋人を安心させるように抱き締めた。
「わかったよ、今日はしない。その代わり、抱き締めて眠っていい?」
「……ん」
中也は張り詰めていたものを解すように私の胸の中で息を吐き、小さな声で
「悪い」
と謝ってきた。
不安に揺れていた瞳、怯えて震えていた右手、必死な制止の声。
どうしてそんなに私に抱かれたくないんだろう。
もう微睡んでいる胸の中の恋人の朱色の髪を撫でながら考えて、ふと、思い立った。
真逆、そんなわけない。いつもあんなに善がって鳴いて啼いて……でも、若し。
……中也が、私に抱かれるのに飽きて、私との情事に嫌気が差したのなら。もう二度と私に抱かれたくないと迄思っているのだとしたら。
血圧が下がっていくような感覚だった。胸の中で愛しい恋人が身動ぎした。
もう二度と、中也を抱けない……?
もう中也は、私に飽きた……? 中也に、嫌われた……?
その夜私は、中々眠りにつけなかった。浅い眠りの中で、朱色の髪に黒い帽子をのせた小さな背中を追いかける夢をみた。追いかけても追いかけても一向に距離は縮まらず、伸ばした手は届かない。私にとってこれ以上はない悪夢。
目を覚ますと、もう恋人は仕事に出掛けていた。胸の中の温もりはもう消えていた。
枕元に置かれていた『遅くなる』と一言書かれたメモの紙を握り潰して、私は立ち尽くしていた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.65 )
- 日時: 2019/06/16 14:37
- 名前: 枕木
あまり太宰と顔を合わせたくなくて、早朝から夜中までひたすら敵の殲滅に尽くした。仕事から帰ってきたのは、日付が変わった頃だった。
「太宰? 寝てるか?」
何時もは豆電球はついているのに真っ暗な寝室の襖を開ける。太宰……怒ってんのか? まあ、あんな出掛け方したら怒るよな……
手ぐさりで蒲団脇のスタンド電気をつけると、弱い明かりに照らされて、すやすやと眠る恋人の顔が映し出された。
その寝顔をじっとみつめる。
何時まで、この状態を保てるだろうな。あまり持たない気がする。手でしたり口でしたり騙すことはできるだろうが、この性欲莫迦の絶倫が俺の制止に従っていられる訳が無ェ。無理矢理犯されるのが先か、別れを切り出されるのが先か……どちらにしろ、俺のこの躰で俺達に未来はない。
太宰の黒髪を撫でる。身動ぎ1つせず、すやすやと眠っている。そんな穏やかな寝顔、いつの間に出来るようになったんだ。あの4年間で、か……?
悔しくて哀しくなって、太宰の頬に手を沿え、呟いた。
「若し『此れ』を暴露しても……手前は、俺の事を嫌いにならねェか……?」
溜め息がこぼれる。莫迦莫迦しい。俺も早く寝るか……
がしっ
「!?」
立ち上がろうとしたら、後ろ手を掴まれた。あっという間に世界が反転して、蒲団に押し倒される。目の前に、眠っていた筈の恋人の顔があった。
「て……め、狸寝入りか」
「中也こそ、そういうことは起きてるときに云いなよ」
太宰の顔を見て、ハッとした。
太宰は、辛そうに顔を歪め、瞳を揺らしていた。
「ねえ、何を隠しているの? 私のこと、もう嫌いになったの?」
俺の手首を蒲団に縫い付けている太宰の手に、力が入った。何かを堪えているような、歪んだ顔。
嗚呼……俺の不安が、こいつも不安にさせちまったのか。
「……悪かった」
「全部、教えてよ。何があったって中也のこと好きだから」
「約束しろよ?」
「勿論。なんて云ったって、中也の恋人だよ?」
「云ったな? どうなっても知らねェぞ」
「上等」
やっと、互いの表情が解れて笑みが浮かぶ。
太宰が、いとおしそうに俺の頬を撫でた。目を閉じると、唇が触れた。シャツの下を太宰の手が這い、気持ちを高めていく。
そして、久方ぶりの夜が始まった。
* * *
「ひッ……ン、んん……」
震える手が私の後頭部を押さえる。
舌で赤く膨れた中也の胸の果実を舐めながら目を上げてみると、真っ赤な頬で目をとろんと蕩けさせ、指を噛んで声を押し殺そうとする恋人がいた。
カリ、と果実に歯をたててみると、私の手の中で中也の自身がぴくっと跳ね、更に硬くし、愛液を垂らして、くちゅ、と音をたてる。そして、腰を揺らして私の手に自身を擦り付けてくる。その手を見てみれば、ぬらぬらと濡れていた。
「ほら中也、見て御覧? これ、全部中也が出したのだよ?」
「やっ……ごめ……」
「ふふ、私こそ御免ね。もうとっくに欲しくなっちゃってるでしょ?」
中也の背中に手を回し、一緒に起き上がって、私の足に座らせる。すかさず中也は私の首に腕を回し、私の自身に位置を合わせて腰を降ろした。下着は身に付けたままだ。前だけずらして晒していた中也の自身を私の腹に擦り付けながら、中也は腰を揺らして、下着越しに入り口を私の自身に擦り付けた。
「あッ、あッ……」
「あーあ……我慢できないの?」
「ん……もう、挿入て……」
「ふふ、仕方ないなあ」
私が許可をすると、中也は私の下着のゴムを引っ張った。そして、解放を待ちわびていた私自身がふるりと現れると、それをうっとりとみつめた。
中也は膝立ちになり、自身の下着を下に押し下げた。自身から出た愛液がついていて、ねっとりと糸を引いていた。しかしそれにも構わず下着を脱ぎ捨て、そして、もう露になっている私自身に濡れてひくひくしている入り口を合わせ、そのあと……腰を下ろした。
「ああぁあああぁ……ッ」
うっとりと嬌声を上げながら、私自身が中也の中に飲み込まれていく。ごりごりと狭い内壁を押し広げると、中也はぴくっと躰を痙攣させ、それでももう止められないようで、私が動く間もなく、全部飲み込んでしまった。
「あ……あっつ……」
ぽたぽたと中也の自身から愛液が滴り落ちる。可愛くて可愛くて、赤く染まった躰を抱き締めて、躰を密着させた。
「どうしたの? 今日。何時もの数倍淫らだね」
「いやか……?」
「ううん。大歓迎」
朱色の髪を撫でて、つむじに口づけを落とす。
「でも……此処からは、私の番ね」
「え……だ、だめ。今日は、全部俺が」
「やーだ。いいから、中也は善がってなよ」
中也が、すがるような瞳を私に向ける。だけど、気づかないふりをして……下から、突き上げた。
「あァんっ!」
背中を逸らし、高い嬌声をあげると、その瞳もとろんと蕩けた。
少し腰を浮かせて、腰を引き、ぱちゅ、と打ち付ける。
「ひあァあんっ! ンッ……あっ」
更に追い討ちをかけるように腰を揺らすと、中也は躰を丸めて強ばらせ、私の背中にしがみついた。びく、びく、と足が痙攣している。やけに感度がいいな……と思った次の瞬間。
とぴゅっ
「…………え?」
必死に私にしがみつく中也の自身が触れていたお腹に、熱い液体がかかる感覚。強ばらせていた躰を緩ませ、中也が、どさ、と蒲団に背中をつける。内股をやわく痙攣させながら、顔を手で隠し、はあ、はあ、と荒い呼吸を繰り返している中也とお腹にかかった液体を見比べる。
うそ……でしょ?
「中也……イッたの?」
三度突いただけで。確かに感度はいい方だが、こんな早さ聞いたこともない。
問い掛けると、中也は暫く黙っていたが、やがて、顔を覆い隠す手の間から、震える声で云った。
「わ……笑うなら笑えよ。でも……頼むから」
手が退けられる。真っ赤な頬と、うるんだ蒼い瞳。
「別れるとか……云うな」
そっか。
中也が隠していたことは、これか。
何度も抱かれて、感じやすすぎる躰になってしまったということ。すぐに絶頂してしまう躰になったということ。それを知られたくなくて、セックスをあんなに拒んだのだろう。
不安そうに目を泳がせる中也の頬に、そっと触れる。
「……中也」
朱色の髪を、かきあげる。中也がぎゅっと目を瞑った。
……次の瞬間。
「……っぷ」
「…………?」
「ふふ……あはははははっ!」
腹の底から込み上げてくる笑いを堪えられなくて、私は声をあげて笑った。
うそだろう、こんな可愛い隠し事をあんなに苦しんで悩んでたなんて、莫迦みたい。
中也は少し呆然としていたけれど、意を決したように、そろり、と私の首に腕を回した。
「……嫌じゃねェのか? こんな、だらしない躰抱いて、嫌にならねェか?」
「なるわけないじゃない。嬉しくなるだけだよ。本当に莫迦だね、君は」
中也の瞳から涙が溢れる。微笑んで、それを拭った。
「ねえ、これからも中也のこと抱いていい? 沢山、沢山」
「……うん」
「嬉しい」
「……俺も」
笑いあって、甘い口づけを交わした。
そして、中也の足を持ち上げて広げる。見られて、また中也自身が起き上がってきた。濡れそぼっている真っ赤な入り口が、きゅう、きゅう、と開閉を繰り返している。誘われるようにして亀頭をそこにくっつけてみると、嬉しそうに吸い付いてきた。
「あはは、可愛い。……じゃあ、たっくさんイかせてあげるね」
「うん……おさむ……」
中也は妖艶に微笑んで、腰を揺らした。粘液が擦れて、くちゅ、と音をたてた。
第二ラウンド……開始。
* * *
何度も奥底を突いてイかせたあと、中也は自ら私の上に乗り、お馬さんを始めた。
「あッ、あッ、ああー……あン、あンッ……あぁん……! あっ、す、ごい、あッ、おく、あたっ……あぁっ」
「きもち?」
「き、もち、きもちぃ……あッ、そこ、そこっ……あっ、おく、ごりごり、あたるっ……」
ずちゅ、ずちゅ、と上下に腰を揺すって、唾液を垂らして、恍惚の表情で喘ぐその姿を下から拝む、この幸福。
何度も出したのにまだ足りていない中也自身は硬く勃ち上がっていて、腰を揺する度に愛液を垂らしながらぶるんぶるんと揺れる。
「あッ、あッ、あッ……あン! あ、あん、ああん……っイく、イく、イッ……!」
切なげに顔を歪め、躰を丸めて中をきゅっと締め上げながら、中也は躰の中央の自身から白濁を吐き出した。
「あぁあ……」
声をあげ、足を広げて痙攣させる。どろっどろの内壁が、痙攣にあわせて収縮した。全てを晒け出して絶頂する姿は淫乱と呼ぶしかなくて、ぞく……っと快感が脳天をつき抜け、奥底に熱を放った。
「ッ……」
「あっ……あァッ!」
起き上がって、熱から逃げようとした中也の腰を押さえ、最奥で勢いよく熱を放つ。それだけで声もあげられず絶頂した中也に更に追い討ちをかけて、上下に腰を揺らす。腰を押さえているから逃げることも叶わず、中也はただ、一番奥を硬くて太いもので擦られて快楽に声をあげるしかできないようだった。
「あッアッアッアア、ああんっあん、あ、あ、あ、あ」
蕩けて弛緩した躰を下から揺さぶられ突き上げられ、中也も意識が朦朧としてきたようだった。揺らす度にあげていた嬌声も途切れ途切れになり、やがて、私の首にしがみつき、びくん、びくん、と躰を痙攣させ、イくことしかできなくなった。
「あああ……っ! ね、も、むり、だざ……」
「うん。はあ、はあ……一緒に、イこう」
「だざい……」
「中也……」
抱き締めて、口づけた。
そして、フィナーレに中也の腰を押さえて、奥底をぐりぐりと押し潰した。
中也は声にならない声を上げて、ぶるっ……と躰を震わせ、そして、射精を伴わない絶頂を果たした。背中を弓なりに反らせて永遠の絶頂に蒼い瞳を揺らす中也の中に精を放ちながら、私は、愛と欲の境界線を消した。
* * *
抱きたい。抱かれたい。大事にしたい。大事にされたい。愛したい。愛されたい。
つまりは、全て同じなのだ。たまにすれちがうのも、仕方がないだろう。だけど全ては、絶対にここに戻ってくる。君が好きだ、と。
私は、朱色の髪に口づけをして、その躰を抱き締めて、眠りについた。
今日はいい夢を見られそうだ。笑みが溢れる。こんなに穏やかに眠れるようになったのも中也の所為なんだよ。中也は知っているのかな。
その夜、二人は同じ夢を見た。
ゆっくり、のんびり、寄り添って歩く、やさしい夢。たまに距離があいたりするけれど、同じ速度で、ずっと隣で歩く。
それは二人にとって、これ以上ない幸せな夢だった。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.66 )
- 日時: 2019/06/16 21:23
- 名前: 枕木
最近エロ書いてないなあ、とぼんやり考えていて、気がついたら指の下で中也くんが喘いでました。
恐るべし、エロの力。
てか長いね。中也くん腰大丈夫だったかな。大丈夫じゃないって?そりゃそうだよね!(キラッ
時々こんなのも挟みつつ、なんだかんだと3日後には太宰さんの誕生日です。誕生日小説も書き上げますから、一緒にお祝いしましょうね(^^)
それでは、御休みなさい。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.67 )
- 日時: 2019/06/18 06:05
- 名前: 枕木
探偵社社長は、少し渋い顔で俺を見ている。まあ、そりゃあそうだよな……敵の組織の、しかも探偵社に喧嘩を売りつけたこともある奴だ。部下の恋人という立場も許しがたいだろう。
なんか……胸が寒い。仕方のないことだ。判りきってることじゃねえか……
ふと、隣に座っていた太宰が、立ち上がる気配がした。太宰は社長と俺の間に立った。
「社長。少し、ご相談が。此方へ来てもらえますか?」
「善いだろう」
「っ、だざ」
背を向けた太宰に、慌てて声をかける。太宰は振り返り、にっこり微笑んだ。
「直ぐ戻るよ」
そう云って、太宰と社長は土産売り場の裏へ消えていった。
直ぐって……それまで、無表情でソフトクリーム食い続けてる名探偵と二人きりかよ? うわ、どうすりゃいいって……
「あのさ」
びくっと肩が大袈裟に跳ね上がった。い、いきなり話しかけンなよ……!
名探偵は、さっきまで太宰が座っていた俺の隣に、すとん、と座った。いつの間にか眼鏡をかけている。
そして、ソフトクリームをペロリと一舐めし、俺の方は見ずに問うてきた。
「そのくらいで傷ついてるのに、どうして太宰と恋人でいるの?」
「……何の話だ」
「云っておくけど、僕に誤魔化しとか効かないからね。社長の視線とか、辛かったんでしょ」
喉まできた弁解の言葉を飲み込む。こいつに其れは無意味だ。
だから、黙って、視界に広がる明るい遊園地の光景を眺めた。大きな観覧車、豪奢なメリイゴウランド、キラキラしたオブジェ。そして、その間を行き交う幸せそうな人の群れ。
そこから少し離れた空間であるこの柵沿いのベンチに座っているのは、俺たち二人くらいだった。
黙っていると、更に名探偵が口を開いた。
「太宰は、ちゃんとそういう覚悟あるよ」
「……え」
「若し、組織か君か選ばなくちゃいけなくなったときの、覚悟。君と一緒にいるっていう、覚悟。どんなに軽蔑されようが、冷たい目で見られようが、ね」
純粋に驚いた。何時も飄々と生きている自殺嗜好の彼奴が、そんな未来のことまで考えて腹を決めている、なんてことに。
名探偵が、コーンまで食い尽くしたソフトクリームを巻いていた包装紙をぐしゃっと握り潰した。そして、其処で初めて俺をみつめた。
「君には、そういう覚悟、あるの?」
静かな問いだった。
余計な言い訳なんていらない。もう、とっくにそんなの決まってる。
「太宰を好きになったときから決めてる」
名探偵の糸目が開き、澄んだ瞳を見せた。
自然と笑みが溢れる。そうだった。もうとっくに答えは出てるじゃねェか。
「彼奴の恋人は俺じゃなきゃ務まらねェよ」
名探偵は、暫く俺をみつめていた。そのあと、ため息をつきながらカチャ、と眼鏡を外した。
「誰ものろけろなんて云ってないし。本当、太宰と君って似てるよね」
名探偵は空を見上げた。
「……まあ、いいんじゃないの、似た者同士仲良くやれば」
それが、名探偵……乱歩の言葉だった。
詰まり……俺、認められた……のか、こいつに?
「今度菓子折りでも持っていく」
「あっ、それなら、駅前のロールケーキね! クッキーも!」
突然目をキラキラさせて此方に身を乗り出し、子供のように云う。俺は判った、と頷きながら笑った。
「あれ、何だか随分うちどけてるね」
振り向くと、正面から太宰と社長が歩いてきた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.68 )
- 日時: 2019/06/18 21:46
- 名前: 枕木
用はすっかり済んだようで、明るい表情をしている。社長も、先刻より穏やかな表情だ。……一体、何の話したンだ?
「中原、そういうのは野暮ってやつだよ」
口を開こうとしたとき、乱歩が隣でこっそりと云ってきた。悪戯っ子のように笑い、片目を瞑って見せる。
名探偵が云うんなら、そういうもんか。
頷くと、乱歩はにこにこ笑った。そんな俺と乱歩を交互に見ながら、太宰が云う。
「あれ、いつの間にそんな仲良くなったんですか、乱歩さん」
「ないしょ。さあて、ソフトクリームも食べちゃったし、社長、彼処の屋台行こうよ。チュロスだって!」
ぴょんっと弾みをつけて立ち上がると、乱歩は社長の腕に腕をからませつつ、そうねだった。黙って懐から財布を取り出して中身を確認する社長に、太宰と一緒に思わず苦笑する。
「じゃあ、私達も行こうか」
「ん」
差し出された太宰の手を取って立ち上がる。そして、苦い顔をしている探偵社社長とにこにこしている乱歩とすれちがった、その時。
ぼそっと、小さな声だった。でも、俺に向けられた言葉だった。
「……世話をかけてすまないな」
……え……?
振り向くと、同じように振り向き、俺をみつめる社長がいた。
そして、社長は、そっと微笑んだ。それに気づいた乱歩も振り返ってきて、大きく手を振られる。
「今度絶対に探偵社来てね! 待ってるからね!」
「おう」
「今日と明日の休暇分は後日挽回することだ、太宰」
「はーい」
手を振り返して、その場を去った。
それから俺達は、夕暮れになるまで遊園地を満喫した。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.69 )
- 日時: 2019/06/18 22:25
- 名前: 枕木
空が朱色がかってきた頃。
太宰が、遊園地を出た途端満足そうに伸びをする中也をみつめ、微笑んで云った。いつ云うか迷っていたが、今でいいだろう。
「お疲れ様、中也」
「?」
「たくさん人に会って、疲れたでしょ」
「ああ……」
中也は腕を下ろしながら、今日のことを脳裏に思い起こす。
ポートマフィア2トップに会って心臓が縮んだが、穏やかに別れたこと。探偵社の代表2人に会って冷たい目を向けられたが、温かく別れて……
……あ?
其処で、中也は立ち止まった。
何か此れ……意図があンのか?
太宰が、立ち止まった中也を見て微笑む。そして、答え合わせを始めた。
「せっかくの中也との誕生日休暇だからね。どうせなら最高な日にしようと思って。ずっとしなきゃいけないとは思っていたのだけどね。……みんなに、私達のことを認めてもらう、ってこと」
結婚式に困るでしょ、と続けようとした太宰を「待て」と制止したのは、中也だった。
驚いて行動が止まった太宰を真っ直ぐ見上げ、中也は云った。
「『みんな』になら、一番に会いに行かなきゃなんねえやつ、いるだろ」
太宰は、心臓が凍るような感覚を味わった。
……中也の口から、その名が出るとは思ってもみなかったのだ。
* * *
太宰には、どうして中也がこんな場所につれてきたのか、全く理解ができなかった。
あの真っ直ぐな蒼い瞳をみつめ返して察して、そして、此処に着くまで散々考えたけれど、矢っ張り判らなかった。
だって此処は。
「織田。……織田作之助」
中也が、墓石に刻まれた名を読み上げる。否、本当は呼んだわけではないのかもしれない。その名へ対する太宰の想いを計る為、呟いたのかもしれない。けれど中也はここへ来るまで、今現在も、一度も太宰の顔を見なかった。
少し寒いくらいの風が吹き、横顔を照らす夕日より甘い色の髪がなびいた。
笑いも泣きもせず、ただ静かに墓石をみつめるその美しい横顔は、何を思っているのだろう、と太宰は考えた。
そして、墓石に視線を戻し、ぽつりと云った。
「……知っているの?」
「否、知らねェ」
「……そう」
太宰がそっと瞳を閉じる。中也は、じっと墓石を見下ろしていた。
中也が知っていることは、きっと1つだけなのだろう。
「でも」
中也が振り向いた。
蒼色の瞳が太宰を真っ直ぐみつめていた。
「大切な人なんだろ」
疑問形ではないその言葉。太宰は嘘のない真っ直ぐな瞳をみつめかえしてしまっていて、もう、小さく頷くしかなかった。無理矢理微笑もうとしたような、歪んだ表情。
中也は太宰の微かな返事を聞いてから、おもむろに帽子をとった。
そして、静かに、墓石の前にひざまづいた。驚いて、太宰は目を見開いた。
……中也は、何を……?
太宰が訊く前に、中也がそっと口を開いた。
「俺は、太宰と友人だったことは一度も無ェ。何度も殺しあった」
それは自分に向けて云っているのか、それとも墓の下に眠る自分の友人に云っているのか、太宰は判らなかった。
「だけど」
風が吹く。朱色の髪が舞う。
太宰の世界に、光がかかった。
全てが輝く。止まっていた何かが動き出す。
たった、一言で。
「俺は、こいつと生きたい」
何かを変えてやれるわけでもない。何かを与えてやれるわけでもない。だけど俺は、手前とは違う。俺は、こいつを残していかない。絶対に。
中也は、眼前の男にそう云い放った。
「こいつと、生きていく」
暫く、時間が止まったようだった。
気がついてみれば、日が沈みかけていて、薄暗い。中也は立ち上がり、帽子を被った。
「……届いたと思うか?」
「……うん……うん、うん……」
静かな問いに、何度も頷いて返す。
そして、一寸後に、恋人を抱き締めた。
強く胸の中に抱き、締めて離さない。
「中也……ありがとう……っ」
中也は、黙って、震える背中に手を回した。
そして、ふと、“彼”の墓に寄り添うようにして咲いている一輪の花に気がついた。
一輪だけだ。でもそれは、とてもとても美しい、蒼い薔薇の花だった。
「……ねえ中也。どうしてこんなところに薔薇が咲いているんだろう」
「さあ……な」
そう云う中也の頬には、涙が光っていた。
蒼い薔薇の花言葉は、『奇跡』と『祝福』
その花は、“彼”からの祝福だったのだ。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.70 )
- 日時: 2019/06/19 00:00
- 名前: 枕木
「すっかり遅くなっちゃったね」
織田作の墓まで足を運び、其処から私達の家まで徒歩、ともなると大分時間がかかる。途中で夕食を食べて帰路へ着いたが、もう日付変更時刻に近い。
「ああ……そうだな」
中也も、少し眠そう? そりゃあそうだよな、疲れたよね。
……でも、もう少し頑張ってね、中也。最後の誕生日の我が儘だから。
「今日も色々あったね、中也」
「……そうだな」
「今日まで、本当に色んなことがあったよね」
「そうだな」
苦笑混じりに中也が云う。
本当に本当に、色んなことがあった。噛みつきあって、話をして、すれちがって、殴りあった。
出会って7年。本当に色んなことを、色んな場所で……
だけど其処には何時も君が……中也がいた。
立ち止まる。
だから、最後のお願いは
「中也」
中也が振り向く。
嗚呼、変わらない、強い光を宿した綺麗な瞳だ。
私が好きになった人だ。
「話があっ」
「お」
遮って、中也が声をあげる。見ていたのは懐中時計だ。そして、その盤を見せて、云う。
「日付が変わった」
「……詰まり」
「手前の誕生日だな」
苦笑する。なんてぶっきらぼうな返答だろう。
だけど、そのあと中也は私を見上げ、にっこり笑って云った。
「手前が生まれてきやがったこと、感謝してる。……おめでとう、治」
少し目を見張って、それから、笑って抱き締めた。
あーあ、愛しいなあ。どうしようか。
「……だから、手前の誕生日だから」
胸の中で中也が云う。
腕の中から離すと、中也は私を真っ直ぐみつめた。覚悟と決意をかためた、綺麗な瞳だった。
「きいてやるよ、手前の話」
ほら、話しやがれ。と中也は云った。
ああもう……敵わないなあ、一生。
私は迷わず、中也の足元にしゃがみ、膝をついた。
そして、外套の下に入れてあった、私の精一杯の愛の形を取り出す。
ジュエリーケース。そして、中身は勿論。
ケースを開けて、恋人に差し出した。
何を云おうかちゃんと考えていたのに、全部忘れてしまった。
でもいいや。伝えたいことは元から1つだけだから。
深く息を吸う。
いつ、こうなることは決まったのだろう。君と出会ったとき? 君と手を重ねたとき? 違う。
生まれてきた、あのとき。
今日、この日だ。
今なら包帯もほどけるだろう。生を叫べるだろう。
生まれてきたこの世界に、生まれてきたこの日に、そして私と出会ってくれた君に、精一杯の愛を。
真っ直ぐ中也をみつめて、云った。
「好きだから、結婚して」
中也の表情が崩れる。笑顔が、泣きそうに歪む。でも、最後には笑っていた。
そして、中也は掠れた声で、云った。
「莫迦なのか、手前は」
ありがとう、おめでとう。
太宰が生まれた日に、二人の愛が生まれた日に、祝福を。
6月19日。
おめでとう、太宰。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.71 )
- 日時: 2019/06/19 22:10
- 名前: 枕木
もう1日も終わってしまいますが、後書きです〜
眠気眼で投稿ボタン押してそのまま寝落ち、起きて其処から先程まで外にいたので気づきませんでしたが……0:00ぴったりに投稿してたのね、太宰さん誕生日おめでとう話。ちょっぴり誇らしいです♪
それはそうとして、お気づきでしょうか、中也の最後の台詞……実は、このスレで一番最初に投稿したプロポーズの話に繋がるように書いてみました!(詳しくは>>1)
いつか求婚台詞も書きたいと思っていたので、こんな特別な日に書けてよかったです。てか、太宰さん中也くんぎゅーってするの好きね。丁度すっぽり収まるんだろうな(笑)
織田作も初登場です。蒼い薔薇は、中也くんの瞳の色……なんちって。
明日で忙しいのも一旦終わります。決して楽しくはない事で忙しいのって嫌なもんですね。このサイトが癒し(;;)
ともかく、太宰さん誕生日おめでとうございます!
みなさんもいい夢を。お休みなさい。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.72 )
- 日時: 2019/06/25 22:27
- 名前: 枕木
ガチャンッ
「……は?」
「……え?」
うわ、声揃うとか気色悪ィ。思わず隣の男を睨みあげると、その男も包帯に隠れていない片目で同時に睨んできた。
しかし、殴ることは出来ない。否、何か理由がある訳ではない。物理的に、だ。
隣の男……太宰は俺から視線を逸らし、眼前の男……俺らの首領・森鴎外を見た。
「首領、之はどう云うことですか?」
俺も訊きたいことは同じだ。同じように首領を見ると、首領は組んだ手に顎を乗せ、にっこりと微笑んだ。
「否なに、君達に絆を深めて貰おうと思ってね。……今日から暫く、其れで行動して貰うよ」
朗らかに首領が云ってから、俺達は一拍おき、そして同時に“其れ”をまじまじと見た。
意味もなく包帯を巻いた忌々しい右手首と、黒い手袋をはめた俺の左手首には同じ銀色の輪がはまっている。そしてその輪を繋ぐ、10センチ程の鎖。要するに手錠。
俺と太宰、この最悪の男は、何故か手錠で繋がれていた。
…………は?
「「はあぁぁアアァァ!?」」
これは、俺達が17のときの話だ。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.73 )
- 日時: 2019/07/06 16:45
- 名前: 枕木
「はぁー……」
深々と溜め息を吐く。
ジャンケンで負けて太宰の家に来ているのも、この世で顔を見たくない奴第1位の男が終始左隣10センチ以内に居るのも、全ては訳の判らない首領と、この手錠の所為だ。否違ェ、元はと云えばこいつが悪い。
そう思い直して、平然と自宅のドアノブに鍵をさしこんでいる隣の男を睨み付ける。
ガチャ、と鍵が開いた。ドアを開けてから太宰は俺を一瞥し、そして、不機嫌そうに手錠のはまっている右手首をぐいっと引いた。
「そんなとこにつっ立ってないで早く入ってくれる? そうしてつっ立ってると本当に帽子置き場にしかならないから」
「黙れ包帯の付属品。チッ、こんな状態じゃなけりゃ誰が手前の家なんか入るかよ」
「其れは私の台詞だね。君という異物が私のプライベート空間に入るなんて寒気がする」
「誰が異物だゴラ! そのまま凍え死ね!!」
悪態をつき合いながら、短い廊下を歩き、床の間に着く。
服や塵が散乱しているのだろうと思っていたが、案外そんなことはなかった。
俺達が入ってきたドアが南だとすると、部屋は東西が少し長い長方形だ。部屋の真ん中に机とソファ、その正面に、低い棚の上に乗った液晶テレビがあり、テレビの両隣にはタンスとクロオゼット。ソファの右手の東の壁には太宰の背丈程ある、趣向の良く判らない書物がぎっしり詰まった本棚が3つほど並び、窓は西側しかない。その西側の壁は窓以外何もなく、その他の装飾品もないので、広めの白い壁紙のこの部屋は、殺風景に感じられた。
「……つまんねえ部屋だな」
「不満ならどうぞご退却下さい」
太宰が左手でつい、とドアを指差す。
それを睨み付け、低く云った。
「それが出来てたらとっくにしてる」
太宰が舌打ちして、どさ、とソファに座る。俺も必然的に隣に座ることになる。じろり、と顔を見合わせ、そして同時に諦めの溜め息を吐いた。俺はうつむき、太宰は天井を見上げる。左隣10センチだ。相手の行動が何でも判るこの距離が忌々しい。あー、なんでこんな目に遭ってンだ、俺……
「錠外しは手前の十八番だろうが」
「無理。頭悪いなあ、首領は『命令』って云ったんだよ。それに、この手錠には鍵穴が無い。仮に開けられたとしても、恐らく、もう一度錠をかけることは出来ない。首領の命令に背きたくないなら、諦めるしかないよ」
そう。首領は『命令』と云った。
あのあとのことだ。
「どうして絆なんか深める必要があるんですか! 今のままでも俺達は成果をあげている筈です!」
「それがねえ、君達の仲の悪さは組織としても結構問題になっているんだよ。君達の部下も君達が喧嘩したあとは八つ当たりされて大変だとか」
「ッ……」
思わず言葉に詰まった。『八つ当たり』という言葉が反芻される。つい最近も部下を相手に実戦訓練をしているとき、先程嫌がらせをしてきた太宰の顔がちらつき、思わず力が入って、相手になっていた部下をぶっ飛ばしてしまった。すぐに手当てしたため大事には至らなかったが。太宰も覚えがあるのか、黙って首領をみつめるままだ。
そんな俺達を見て首領は満足げに笑った。
「大丈夫、君達が仲良くなったと私が認めたら、直ぐに外してあげるから。任務もきちんと考慮して与えるし。という訳で、頑張ってねえ」
太宰は、もう何も云うまいと、一礼してから踵を返した。ぐいっと引っ張られる。よろけた。キッとその男の頭を睨む。
「オイてめ!」
「のろま」
「ああ"!?」
太宰に引き摺られるようにして首領の部屋を出ようとドアを開いたとき、思い出したように首領が後方から「嗚呼」と声をあげた。
振り向くと、首領は微笑み、云った。
「『其れ』は、首領としての『命令』だからね」
……詰まりは。
「仲良くなったと首領に認められるしか、この悪夢から覚める方法はない」
「……可能だと思うか?」
「ちっとも」
即答だ。
「珍しく俺も手前とは同意見だ」
この悪夢は、終わりそうも無ェ……
また、二人同時に溜め息をついた。
「……仲良くなるのは無理だけど」
「あ?」
顔をあげて振り向くと、太宰は天井を見上げたままだった。
そして、気力無さげに云う。
「気の進まない努力をすれば、仲良く見せるのは可能だ」
太宰が俺に振り向く。鳶色の片目と目が合った。
透き通っているとは云い難い、何も映していないような瞳だった。
そして、奴は云った。
「協力してよ、中也」
その瞬間、悪夢から覚める為の悪夢が始まった。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.74 )
- 日時: 2019/07/12 04:08
- 名前: 枕木
太宰との手錠生活は、一言に最悪だった。
夕飯を作れば、
「其処の塩取れ」
先程から俺の手元を見るばかりで一向に手伝う気の無い太宰に苛立ち、声をかけた。塩は、俺の左後ろの棚の上にある。太宰からすれば、左手を伸ばせば届く距離だ。
しかし、太宰は一回「は?」と嫌そうに顔をしかめた。子供か、そのくらいやれや。
だがすぐに、「嗚呼……」と太宰が何かを理解したように俺を見る……というか、見下ろす。
「届かないもんね、仕方ないか」
「あ”!?」
手前、最近背ェ伸びてるからって調子乗るんじゃねェぞ? あ”?
その憤りを言葉にする前に、太宰は塩に手を伸ばした。
……右手を。
「ッ、てめっ……!」
強制的に俺の左手が2メートルの頂に連れていかれる。いきなり筋が張った。
その数秒後、鍋の中に適当に塩をかける太宰の横で、俺は左腕を押さえて悶えていた。完全に腕つった……
絶対、殺す。
風呂に入れば、
「……之、どうやって脱ぐんだよ?」
「首領にこの鎖をどうにかしてもらうしかない」
「風呂にも入れねェのかよ……!」
「まあどっちみち、君と裸の付き合いなんて御免だけどね」
「ケッ、此方こそ願い下げだ」
寝床につけば、
「此方向くんじゃねェよ気色悪ィ」
「嫌だよ、私達が同じ向きで寝たら君と密着することになる」
煙草と酒と薬品の匂いがする太宰の蒲団に、向かい合って、10センチの距離で眠る。この世で一番嫌いな男と。
これ以上の苦痛があるか?
我慢するしかない、と腹に決めて、目を瞑った。
「チッ……絶対俺に触んなよ」
「何、夜這いでもかけると思ってるの? 自意識過剰もいいところだね」
「思ってもねェよ!!」
嗚呼、早く、早くこの悪夢が終わって欲しい。
そう切に願って、眠りについた。
* * *
「はい、これでいいと思うよ」
「……ありがとうございます」
一度は解放された左手首に、僅かな間なら着替えなどができるように細工してもらった手錠がかけられる。勿論、もう片方は太宰の右手首にかけられる。ガチャン、という小気味のいい音に溜め息をついた。嗚呼、矢ッ張り、そう簡単には悪夢から解放されねェか……
「一夜過ごしてみて、どうだい? 何か変わった?」
嗚呼、今が最悪です。変わったと云えば以前よりこいつがうざくなったくらいです。
そう云おうと思ったが、それより前に太宰が云った。
……笑顔で。
「彼がこんなに近くにいて、僕の知らない中也を知ることができて楽しいです。以前より彼の事が好きになりました」
思わず、その男の横顔を凝視する。
それで早く手錠を外してもらえるようにしている積もりか……?
俺は呆れて眺めていたが、それを聞き、首領は嬉しそうに微笑んだ。
「それなら良かった。それじゃあ、早速、以前より増した仲の良さを見せてもらおう」
冷や汗が流れる。……真逆とは思うが。
「任務を与えよう」
……頭が痛ェ。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.75 )
- 日時: 2019/07/06 16:53
- 名前: 枕木
俺達が取り仕切る時間、何もかもが寝静まるこの時間。
俺は、直属の部下10名と共に、最近俺らの商売を邪魔している小規模組織の殲滅に向かっていた。首領直下の任務だ。……手錠で繋がれた太宰と共に。
階ごとに明かりの点る、隠蔽の為に普通の証券会社に見せかけているビルを見上げてから、じろりと左隣の男を睨む。男は、つまらなそうに裏口の横にある証券会社らしい会社名が書かれたプレートを眺めていた。
「手前、絶対ェ足引っ張んじゃねェぞ」
「誰に云っているの? もし僕に云っているなら、一度首領に頭診て貰った方が佳いよ」
「あ”!? つか手前、昨日から思っていたが本当に努力する気あンのかよ!?」
「気の進まないって云ったじゃないか」
「それは詰まり、遣る気は無ェってことか?」
「君にしては上出来じゃないか、そう云うことだよ」
溜め息をつく。判っちゃいたが、矢っ張り悪夢が覚める気配はない。ほんっとに苛つくなコイツ。
「……太宰は戦死したって首領に報告してやろうか?」
「戦死かあ、つまらない死に方だね」
太宰は相変わらずプレートを眺めて云った。
太宰が、この世の誰にも理解されない思考を持っている事はとっくに知っている。太宰が、この世の何処にも無いモノを見ている事も知っている。相棒だから。
でも、こんなに近くで、こんなに沢山の言葉を交わした事は少ない。
相棒だから……否、相棒なのに、か。
そもそも、相棒ってのは何処からそれを指すんだ? 仕事の同僚で、俺のいざと云う時の命綱で、死んで欲しい男一位で……今は、終始隣にいる、まで付け加えなきゃなんねェか。
そういうのを全部ひっくるめて相棒と呼ぶのか。それとも、他に意味があるのか?
一般的に美しいと称される太宰の横顔を見、思考を働かせていると、太宰が顔をしかめて俺に振り向いた。
その距離、7センチ。
至近距離で、鳶色の片目と視線が絡んだ。
人工光だけを反射した瞳。濁りきっていて、俺の姿さえ映っていない。太宰の瞳は、何も映しちゃいなかった。この世の何もかもに諦めたような、僅かも動かない瞳に、何故か釘付けになっちまって。
そして、ふと、思った。
俺は、太宰にとって何なのだろう、と。太宰は、俺にとって何なのだろう、と。
「何、何か云いたい事でもあるの?」
「は? あ、否……」
吐息が俺の前髪を揺らす。はっと我に返って……近くね? 近ッ!?
だが、言葉が出ない。上手い言葉を探していると、背後から驚いたような声がした。
「き、貴様ら!?」
咄嗟に背後で放たれる銃声。周辺警備に来ていた男が、俺の部下に撃たれて倒れていた。
途端に、階上が騒がしくなる。この先は馴れた道だ。ぱっと太宰から顔を逸らし正面玄関に部下を全員行かせ、裏口のドアを開ける。なんか空気が変だったから助かったな……
「結局、何なの」
「あ?」
太宰が云う。無表情でそう訊いてきたから、素直にさっきの冷たく胸を横切った疑問は話したくなかった。
ぷいっと顔を逸らした。
「……何でも無ェよ」
そう応えると、太宰はもう何も云わなかった。
手錠で繋がれている不便さはあるが、片手片足でも殲滅など造作もない。無駄な言葉は一切交わさず、終始隣に太宰がいるだけで、ほとんど何時もと変わらず任務を果たした。
汚れてもいない黒外套を左手ではたく太宰を見ていて、思ったことは、2つ。
10センチってこんなに遠かったか。
太宰は近づく努力は無理だと云ったが、俺は、太宰の事を、もう少し知れるんじゃねェか。
思えば、もうこの時には悪夢は別のものに変わっていたのかも知れねェな。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.76 )
- 日時: 2019/07/06 06:22
- 名前: 枕木
「好きな食いモンとかあンのか?」
「……は?」
それは、買い出しのためスーパーに来て、じゃがいもを吟味しているときに俺が云った言葉だった。
それを投げ掛けられた男は、顔をしかめていぶかしげに声をあげる。ったく、人がせっかくよ……
まあ、端から返事がくるとは思っちゃいねェが。溜め息をつき、じゃがいもに向き直る。矢っ張り、いきなり近づくのは無理な話だ……
「……蟹」
「え?」
思わず聞き返した。
聞き取れなかった訳じゃ無い。否、だって、こいつ、今答えたのか? 俺の質問に?
「蟹。頭だけじゃなく耳も病院行かなきゃいけないんじゃない?」
「うるせェ、聞こえてる。……蟹、好きなのか?」
そう問うと太宰は、ずっとつまらなそうに見ていたじゃがいもを1つ掴み、俺が肘にさげていた籠に無造作に入れた。そして、またじゃがいもを見ながら、無表情無感情で云った。
「悪い? 君に文句云われる理由ある?」
「別に文句は云ってねェけど……」
驚いたンだよ。好きな食べ物はあるのか、という俺からの問いに、太宰が素直に答えたことが。
否、恐らく太宰は質問に対して機械的に答えただけなのだろうが。それでも、太宰に好きなものがあること、それを答えたということに、ごく純粋に驚いた。
太宰はもう1つじゃがいもを籠に放り込んだ。それを確認して、無表情な太宰の横顔をみつめて少し悩む。
……でも、まあ、いいか。ずっと相棒だったもんな。相棒の意味は、よく判らないけど。
「行くぞ」
それだけ云って、野菜売り場から歩き出す。太宰は黙ったまま着いてきた。
目的の場所に歩く間、俺は先刻急遽変えた今日の夕食の献立に必要な食材などを籠に入れていった。太宰は何れにも、興味を示さなかった。
俺はその売り場に来て、最初は何れにするかと悩んでいたが、まあ、いい、本人に聞いてみるか、と、太宰に振り返った。太宰は、それらを……蟹の足が5、6本入ったトレーたちをみつめていた。
そう。ここは、蟹コーナーである。
「太宰、何れがいいんだ?」
「……え?」
呟いた太宰の片目と目が合った。驚いたように見開いている。あれ? なんか、珍しいな。何時も無表情無感情なのに。
「どうして僕に訊くの」
太宰が困惑したように云う。は? そんなの……
「手前が好物だって云ったから、だろ」
籠の中には、本だしと、葱と、うどんの束が入っている。
「蟹入れたうどんにしようと思ってな」
「どうして」
「どうしてって、そりゃ……」
真っ直ぐ俺をみつめ、やけにしつこく訊いてくる太宰に首をかしげ、少し考えてから、口を開いた。そんなこと、考えたことねえ。もし云えるとしたら……
「好きなものがあるって、嬉しいだろ」
太宰が目を瞬かせる。
「……僕を喜ばせようとしているの?」
「自惚れンな。俺が食いたかっただけに決まってンだろばーか」
少し恥ずかしくなってそう返すと、太宰は黙った。くっそ、なんか調子狂うな……
少したってから、太宰は1つ、蟹のトレーを籠に入れた。そっと、静かに。真っ赤なその甲羅を見てから、ぷいっと顔を逸らしている太宰を見る。……あ、耳が赤ェ。
「……ははっ」
「なに」
「ひひひ……否、なんでもねェよ」
無性におかしくなって笑った俺に眉をひそめて、太宰が批判的に声をあげる。なんだよ、可愛いところあンじゃねェか。
俺は、少し拗ねたような顔の太宰を見てから、蟹のトレーを籠にもう1つ入れた。
今日判ったことは2つ。
太宰は、蟹が好きだ。
そして。
「肉じゃがって云うんだぜ」
「……じゃがいも、おかわり」
「ん」
ぶっきらぼうに空のお椀を手渡してくる太宰に笑いながら、お椀を受け取った。じゃがいもは、柔らかく、旨い。流石俺。でも、それだけではなく。
「また作るか?」
「……うん」
太宰は、隣で、小さく頷いた。
その肩との距離は5センチ。
この日を境に日に日に近づいていく距離は、俺も気づいていなかった。
……太宰は、じゃがいも選びが、上手い。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.77 )
- 日時: 2019/07/06 22:54
- 名前: 枕木
「太宰くん、中也くん、休憩中済まないね」
廊下の奥まったところにある休憩スペースでソファに腰かけて太宰と雑談していると、首領が歩いてきた。右手に持った書類の束を掲げている。
珈琲のカップから口を離し慌てて立ち上がろうとした俺を「嗚呼、いいよ」と制止し、首領はにっこり笑った。その対応に少し戸惑っていると、太宰が左手ですっ、と俺の帽子を取った。生憎、俺の右手は珈琲のカップで塞がっていたのだ。
「これでいいでしょ」
「嗚呼、悪ィ」
太宰は俺の左手に帽子を持たせながら、「本当に中也って無能だよねえ」と溜め息混じりに云った。うっせ、莫迦。
そんなやり取りを見て、首領は感心したように声をあげた。
「何だか、もう普通に仲良しだね」
「「何処がですか」」
太宰と声が揃う。もう、仲良く見せる努力とかやってらンねェからな。太宰と仲良く……みてェのは諦めた。
首領は、ぷっと吹き出した。
「そう、君達……成る程ねえ」
「?」
「ふふ……否、何でもないよ。嗚呼、太宰くん、この前君がくれた資料なのだけど、君が情報を付け加えてくれたものが無くなってしまってね。済まないけれど、これにもう一度訂正を入れてくれないかな。出来れば、この場で」
「手書きでも宜しいですか?」
「うん、何でも構わないよ」
嗚呼、この前の資料って、太宰が左手でキーボード打つの疲れたって云って、俺が代わりに打ち込んだやつか。あれ以来、俺は太宰の代筆が多くなった。
「太宰」
「はい」
太宰に、ぱっと珈琲のカップを差し出すと、太宰は左手でそれを受け取り、代わりに右手で万年筆を手渡してきた。最近は俺の方が遣うことの多い、太宰の愛用品だ。
太宰が首領から受け取った書類を左手で受け取り、万年筆を走らせる。まあ、大体あのときの入力内容は覚えているからな。
太宰は俺が受け渡した俺のカップの珈琲に口をつけながら、時々口を挟んできた。
「そこの区域、夏になると人口が増えるんだよ」
「嗚呼、1.6倍だったか?」
「うん。そっちは1.7倍」
「怪しいな……」
「要チェックマークつけておいて」
「ん」
もうすっかり慣れた、太宰とのこんな動作と言葉のやり取り。
それを見て、この状態を作り出した張本人・森は小さく呟いた。
「相棒……否、もしかしてそれ以上かな」
それ以上、とは何を示すのか。相棒という関係は何なのか。この状態を作った本当の目的は何なのか。
その全てを知るその男は、密かに微笑んだ。
* * *
風呂に入るとき、トイレに行くとき、着替えるとき。
精々そのくらいのときしか、太宰と、お互い離れることのできないこの生活が続いてはや3週間。
いろいろ、限界のきていることが出てきた。
「嗚呼、ねえ、見た? 今すれちがったあの女性、脚がすらっと長くて切れ長の綺麗な瞳していて、すごく美しかったよ」
「そんなん見てねェよ」
「声かけてこようかなあ」
「莫迦、夕食の支度間に合わなくなる」
「ちぇっ……」
それが、業務の帰りのこと。
家に帰れば、
「こら、なンで酒なんか出してきてンだよ」
「いいじゃないか、食前酒だよ」
「手前が呑んでると俺が料理できねェだろ」
「ちぇっ……」
というのがここ最近毎日だ。
限界……と云っても、ほとんどが太宰の限界が、だけど。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.78 )
- 日時: 2019/07/10 05:55
- 名前: 枕木
普通とはかけはなれた生活ではあるが、一応は普通の思春期男子。そんな俺達が、二人きりな訳で。太宰も、太宰のよく云う美女とこの状況に置かれていたら幸せだったかも知れない。俺じゃなくて、美人の、女だったら……
青菜を切っていた手が、ぴた、と止まる。
「どうかした?」
太宰が俺を見る。その瞳をみつめる。
その瞳には、俺が映っていた。あのときより少しだけ澄んだ鳶色に、俺、ただ一人が映っている。
当たり前か。この3週間、この瞬間迄、ずっと二人きりだったもんな。
でも、この手錠が開けられて自由になったあと、この鳶色には誰が映るのだろう。それは、俺じゃない。だって俺にとって太宰は、相棒で、命綱で、死んでほしくて……それだけだ。友人でもなんでもない俺達を繋ぐものは、何もない。この3週間俺達を繋いでいたのは、この10センチの鎖だけだ。
何故か、苦しい。痛くはないのに、つらい。意味わかんねえ。なんだ、これ。何故か、こいつに、
抱き締めてほしくなった。
「……太宰」
思わず、口に出た。みつめ合う。視線と思考が絡み合う。なあ、太宰。手前は、俺のこと……
ボコボコボコ
泡のたつ音にハッとした。太宰から視線を外して鍋を見ると、野菜を茹でる為に沸かしていた湯が沸騰していた。
慌てて、料理を再開する。左手を動かすと、ジャラ、と鎖が擦れた。
泣きそうな顔で自分をみつめていた中也の何かに耐えるような横顔をみつめて、太宰は、言葉を探していた。その苦しげな表情を安らげられるような、言葉を。でも、見つからない。もどかしい沈黙に、太宰は首をかしげた。
どうして、僕はこんなに必死になっているんだろう? どうして、どうにかしてあげたいと思ったんだろう? どうして、中也はそんな顔をするの?
その時、答えは出なかった。
でも、太宰は、ぎゅっと拳を握りしめた。何故かは判らない。突然の衝動だった。何故かは判らないけれど、その横顔をみつめていたら、
抱き締めてやりたくなった。
言葉も行動も、何も出ない。
じれったい、17の二人の10センチ。
でも、何かが変わろうとしていた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.79 )
- 日時: 2019/07/12 05:26
- 名前: 枕木
「……は?」
「……え?」
声が重なる。ちらっと、俺と同時に声を発したその男を見る。男は、唇を僅かに開き、二回瞬きした。あれから1週間、こいつは表情が増えた。
1ヶ月前、俺達は今と同じ場所に同じ状態……詰まり、10センチの鎖で繋がれた状態で、首領の前に立っていた。
しかし、俺達がこの声を発したのは1ヶ月前とは真逆の事が原因で。
俺達の数メートル先で、首領は組んだ手に顎を軽く乗せ、にっこり笑って云ったのだ。
「明日、手錠の鍵を開けてあげよう」
……え、あ……?
一瞬、胸の底がぽっかり抜け落ちてしまったような、途方に暮れた感覚になった。でも直ぐに気を取り直す。
詰まりは。
「……俺達の仲が深まったと、そうお考えと云う事ですか?」
「うん。事実だと思うけどねえ。君達の部下からの嘆きは、今月の中旬頃からぱったりなくなったよ。私の目から見ても、そう思う。だから、明日外してあげるよ」
「……そうですか」
俺も、なんとなく感じていた。1ヶ月前とは、太宰への見え方が、感じ方が、違う。太宰のことを知りたいと思って、知ったら、案外、俺の思っていた太宰ではなくて。それが、少し……ほんの少しだけ、楽しくもあって……いがみ合いをする理由も、なくなっていった。
そうか、そうだよな。こう云うのを、仲が良いって云うんだもんな。それなら、手錠なンて要らねェ。
望んだこと。切に願った事だ。この悪夢が早く終わってほしいと。
嬉しい。最高だ。やっとこいつと離れられる。大嫌いで、忌々しい、こいつとはおさらばだ。嗚呼、清々した!
……って、なる……よな? きっと、直ぐに。今は、なれなくても。
「では、明日また此処へ来なさい」
「はい。失礼します」
ハッと我に返る。太宰が首領に頭を下げていた。慌てて俺も同じ動作をする。太宰に歩調を合わせて歩くのも慣れた。並んで歩いて、首領の部屋を出る。
バタン、とドアが閉まった。
太宰が、じっと俺を見ている。な、なんだよ。
「……中也は、嬉しい?」
「手錠が外れる事が、か?」
「うん」
咄嗟に出かけた言葉があった。それが何かは、こいつは知らなくていい。
今の俺は可笑しいンだ。だから、普通の俺なら、本来なら、云うであろう言葉を口にした。
「勿論嬉しいに決まってンだろ。最高だ。やっと手前とも手前との忌々しい生活ともおさらば出来るんだからな」
普通なら、この言葉が一番に出てくる筈だったのに。本当、どうしたンだろうな、俺……
笑みを浮かべて云い放つと、太宰は俺をみつめ、鳶色の瞳を細めた。
……え?
直ぐにふい、と顔を背けたから、良く見えなかった。でも、なんで。黙って前を歩くそいつの背中をみつめて、問い掛ける。
どうして、そんな悲しそうな顔すンだよ……?
* * *
こいつとは最後になる、料理、食事を済ませて、蒲団に潜り込む。
あれから互いに口数も少なくて、なんとなく気まずい。無理をすると腕がねじまがるから、いやでも向かい合って眠らなければいけない。最近は、この体勢に抵抗もなくなって、太宰と駄弁りながら眠ったりしていた。でも、今晩は駄目だな。気まずくて、目ェ合わせらンねェ。
思えば、この1ヶ月で色んな事が変わった。太宰の表情、太宰への印象、太宰との関係……いつも左隣にいて、少しずつ10センチの距離も縮まった。
でも、それも終わる。逆戻りする。判ってる、鎖がなくなれば俺達はこうはいられなくなる。判ってるンだよ……
あのとき、咄嗟に出かけた言葉。
あれを云えば、何か変わるかもしれない。でも怖い。もし駄目だったら、相棒でも何でもなくなる。それはいやだった。
もういい。目を瞑ろう。薄々気づいているこの気持ちからも、目の前にある太宰の胸からも。
目を瞑る。眠ろうとした。本気で、眠ろうとした。
……しかし、それを邪魔された。
ごりっ
「ひッ!?」
声が飛び出て、ぱちっと目を開ける。股間に、何か硬いものが擦り付けられたのだ。腕が伸びて、蒲団脇のスタンドライトがつけられた。その明かりに映し出されたのは、
「だ、太宰? うぷっ」
俺が言葉を紡ぐ前に、その頭を太宰の胸に押し付けられた。密着した身体には、やはり硬い違和感が当てられる。
……真逆、こいつ。
「1ヶ月も抜いてなかったから、仕方ないよね」
頭上の、のんびりとした声。嘘だろ……? 否、だからって何で俺に……
ぐるんっ
世界が反転した。鎖で繋がった俺の左手と右手をひとまとめにした太宰の右手が、俺の頭上でそれを蒲団に縫い付ける。押し倒されるのも拘束されるのも突然で、全く抵抗できなかった。
スタンドライトの灯りが太宰の顔を照らす。太宰はにっこりと笑った。
「最後の夜だ。少しだけ、付き合ってよ」
何に付き合うのか理解したときには、もう遅かった。気づくと俺は、ズボンを脱がされていた。太宰の細い指が下着のゴムにかかる。全く抵抗できない。ソレが、露になった……
最後の夜に、望んでいない、初めての夜が始まった。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.80 )
- 日時: 2019/07/13 06:01
- 名前: 枕木
暫くその手つきを呆然と見ていたが、ソレが外気に触れて寒さを感じた途端、さっと血の気が引いた。
否、待て待て待て待て待て。
「だ、だ、ざい……?」
「ん〜?」
「な、にして……」
「なにって……これだけど」
「ひッ!?」
太宰が拘束していた俺の手を離した。そして、素肌を晒した俺の足を左手で割り開き、その間に顔を埋めた。
足の間に、太宰の頭が埋まってゆく。何をするのかは判ってる。でも、頭が追い付いていかねェ。なンで、こんなことになった?
じゅっ
「んぁッ!!」
何だよ、何だよこれ。
太宰が俺の亀頭を口に含んで、じゅっと吸ったのだ。熱い口内の柔らかい感触に弱いところを擦られ、引っ張られる。初めての感覚だったのに、出たのは甲高い嬌声だった。
太宰が顔を上げて、悪い遊びを知っちゃった子供みたいに口角を上げた。
「感度良好? いいね、中也」
「い、いや、ちが」
「大丈夫、きもちよくしてあげるから」
太宰が、あーんと口を開ける。そして、再び俺のをかぷっとくわえた。自分で云うのもなんだが、俺のは大きい方じゃない、むしろ……だから、太宰は易々とほぼ全部くわえてしまった。太宰の口内は熱くて柔らかくて、微かに触れる歯の感触や、しっとりと絡む舌の感触も、くらくらする。
口淫……口で、淫ら。嗚呼そうか、今俺、こいつと。
ぼーっと考えていたら、裏筋をゆっくりと舐められた。
「あッ!?」
舌と唇を使って、何度もソレを往復して擦られる。だんだんソレが熱をもち、ビキ、と芯をもって起き上がってくるのを感じた。その間も、完全に勃ってからも太宰の口淫は続いて、俺は声をあげ続けていた。
「んッ……アッ、んぅ、ああッ! ン……ひぁあっ! やっ、そこ、らめ、いぁっ、ああンっ!!」
脳天がじりっと焼けるような感覚。腰からぞわぞわとせりあがってくる、一際大きい快楽の波。
「あッ、あッ、だ、め、だめ、イッ……!」
溜まらない快楽に腰がしなり、太宰の後頭部の髪に震える指をさしこむ。ぎゅっと目を瞑り、経験したことのないような快楽に耐えようとする。
どぴゅっと勢いよく飛び出した精液は、離さなかった太宰の口の中に入った。快楽の余韻が引いていき、起き上がった太宰の舌に見えた白い液体が絡んでいるのを見た瞬間、カッと頬が熱くなった。
ごくんっ
「!?」
「ん〜……あまい」
太宰が喉を上下に動かし、感想を延べる。は……嘘だろ。
「なん、で、ンなもん飲んで……?」
「別にいいじゃない」
「否、良くねェだろ!? 俺のせー……だぞ」
「中也の精子だから飲めるの。他のなんて頼まれても御免だよ」
ぴた、と俺の動きが止まる。
どう云う意味だよ、それは
「まあ、とりあえず一回イッたから、もう抵抗できないよね?」
「なにするつもりだよ」
もう、ここまで来ると何をしても同じだ、と思っちまう。それに、思春期男子としての興味と、太宰がこうする意味を知りたいという欲求もあって、やめてほしいという気はおきなかった。
「最後迄シたいの」
「は? 男だぞ、できるわけ……ひッ」
ひきつった声が出る。太宰が左手で俺の後ろの蕾に触れたのだ。
……真逆。
察しのいい自分が恨めしくなる。太宰は人指し指でその蕾の丸い辺をなぞった。否、真逆とは思うが。
「……此処に、挿入るのか?」
太宰がにっこりと微笑む。天使のような、と表現するような笑み。
でもそのあと口にした言葉は、悪魔のような言葉だった。
「大丈夫、痛くしないよ」
その瞬間、俺は太宰をはねのけて起き上がり、蒲団から出ようとした。冗談じゃねェ、そんなん死ぬのと変わらねェよ!
ガッ
「ッた!」
左腕がびんっと引っ張られる。動けない。
振り向くと、太宰は相変わらずの天使の笑みを浮かべて、右手をぐいっと後ろに引いた。鎖に引っ張られて、太宰の胸に頭がつく。
嗚呼、そうだった。太宰は俺から逃げられない。でもそれは、逆も然り。詰まりは……
「残念、中也は僕から10センチ以上離れられないよ」
終わった……
「楽しもうよ、中也」
俺は、絶望の意味を知った。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.81 )
- 日時: 2019/07/16 06:14
- 名前: 枕木
「痛い?」
「いっ……たくは、な……き、もちわるっ……」
「そう」
とろっとした液体を絡めさせた太宰の人指し指が、中をかきまわす。壁を押されると、腹への圧迫感と不快感を感じた。
嗚呼、信じらんねえ。こんな奥、自分でも知らねェのに。なんでこいつは易々と暴いちまうんだ?
その羞恥と初めての感覚に、すすり泣くような声を出す。右腕で顔を隠していた。
「もっ……やだぁ……」
「ん〜……あともう少し……此処かな?」
云うなり、中の指が一点を擦った。
ゴリッ
「〜〜ッ!! ッ!!」
熱くて仕方のない快楽。一瞬頭が真っ白になった。
え、え、え?
腕を外して太宰を見る。太宰は、にっこりと笑った。
今の、こいつがやったのか? いやいやいや、ありえねェだろ。だって、こんなとこ擦られてこんなになるわけ……
「あァッ!!」
再び擦られ、びくっと太股が痙攣した。心臓がバクバク鳴っている。なんだよ今の。おかしいだろ、絶対。
俺が、余程判りやすい混乱した顔をしたんだろうな。太宰が楽しそうに笑って、指を引き抜いた。抜かれると、何故か、中が外気に触れる冷たさを感じた。何だか泣きそうになる。太宰は笑ったまま、再びあのとろっとした液体の入った小さなボトルを出し、中身を左手の五本指に絡めた。
「変じゃないよ、中也。男でも感じる場所があるんだって。中也は此処みたいだね。きもちいでしょ?」
「っ……きもちいい訳ねェだろ!! 男だぞ!?」
それでもこいつに気持ち良くされるのは嫌で、そう叫んだ。太宰が更に笑顔になる。
「じゃあ、中也はこんなことしても気持ち良くならないよね? 此処も、硬くならないよね?」
ばっと足の間を見る。そこには見たくない光景があった。目を逸らして瞑る。俺はこいつなんかに……っ
「ッ……」
「何本か判る? 二本挿入ったけど」
知るか、そんなん感じたくもねェ。
ゆっくりと、さっきより太い感覚が奥へ挿入ってくる。ぐりゅぐりゅと内壁を広げられる感覚は、矢っ張り気持ち悪ィ。
でも、その一瞬後、その指がじんじんと熱いところに触れた……
「ァあんッ!!」
びりっと快楽がかけ上がってくる。ぴく、ぴく、と痙攣する足。やだ……やだ、やだ
ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ
「ん、あァ、あァッ!! ひぅ、あぁんっ!!」
擦られる度に熱くなって気持ち良くなって、自分のものとは思えない声があがる。やだ、だめ。だめ……だめ。
顔を隠そうとした両手を再び拘束される。見るな、見ないで……そう願って最低な男をみつめるのに、涙で滲んだ視界に映る太宰の顔は、この上なく楽しそうに笑っていた。嗚呼、いやがらせってやつか、また。
「んんぅ……いぁ、あぁ、ああんっ! んぁっ、あ……」
びく、びく、と内股が痙攣する。せりあがってくる一際大きい快楽の波に、あらがう術はなく。その波をやりすごす手段もなく。ただ、一回その波を受け止めて力の入らない身体で、その波を受け止めた。
腰がしなる。天井だけじゃ収まらず頭上の壁をみつめる。声も出ない。足先までピンと張り、身体がびく、びく、と痙攣している。途方もない快楽。何も考えられない。それがしばらく続き、やっと快楽の余韻が過ぎ去ろうとするのと同時に夢の世界へ去ろうとしたが、首筋を甘噛みされてそれを阻止される。
「何やってるの、本番はここからだよ?」
見ると、太宰が血管の浮き出た自身を下着の中から取り出すところだった。くらりと目眩がする。
その瞬間、滲んだ視界がほろりと流れ落ちた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.82 )
- 日時: 2019/07/21 18:34
- 名前: 枕木
ぽろぽろぽろ。
とめどなく頬を流れる液体。嗚呼、此が涙ってやつか。なんで泣いてんだよ、俺。
そんなの、判りきってる。
知りたくもなかった、こんなこと。
太宰は俺の涙に僅かに目を見張ったが、直ぐに俺の上に覆い被さった。
「そんなに怖いの? まあ、幾ら泣いたってもうやめる積もりないけどね」
「ち、が……」
「じゃあなに?」
瞬きをすると、滲んでいた視界が冴えて、目の前の太宰の顔が見えた。無表情だった。片目を隠す包帯が、少しほどけていた。スタンドライトを反射しただけの鳶色には、矢っ張り俺は映っていない。
嗚呼、知っていたさ。とっくに知ってる。だって、俺は、
手前の相棒だから。
「……何でだよ」
「は?」
「何で、もう明日には解放されるってのに俺を抱こうと思ったんだよ。今更、何でだよ」
「なに、もっと早く抱いて欲しかったの?」
再び、視界が滲む。何も見えない。
もういいだろ、どうだって。
もういい。
所詮、ただの相棒だ。
「ッ……其処らの女と俺を一緒にすんじゃねェよ!!」
抱くとか抱かないとかそれ以前に、太宰にとってどちらが上かも構わず、太宰が目移りするあいつらと一緒にされたくない。
色んな太宰がいるのは知っている。太宰が俺の事を嫌ってるのも出会ったときから知っている。でも、太宰が俺にしか見せない太宰がある事、太宰が嫌う人物は俺しかいない事も知っている。
なァ、少しくらい自惚れてもいいだろ?
「手前がその気になりゃァ百戦練磨の美男子でほいほい女をひっかけるのも容易だろうがな、そうやって今まで抱いてきた女と俺を一緒にすんな!! 俺は……ッ」
あーあ、やっちまった。
何で云っちまったんだよ、俺。
もう終わりだな、相棒もなにもかも。
太宰の顔が翳る。表情が見えない。
「中也」
静かに、太宰が俺の名を呼んだ。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.83 )
- 日時: 2019/07/23 14:45
- 名前: 枕木
ちゅっ
……は?
額にあたった柔らかい感触に、思考が停止する。
え? は?
太宰は俺の額から唇を離し、そっと俺の頬に手をあてた。
そして、ぷっと吹き出す。心底楽しそうに。
「なに間抜け面してるの」
「え、だって、お前」
「ふふ。泣き止んだね」
太宰はするりと俺の頬を撫でた。
なんだ、これ。
まるで、花に触れるような優しい手つきで俺の頬を撫でて。まるで、恋人をみつめるような柔らかい目で俺をみつめて。
その瞳に、俺が映っていて。
そりゃあ、涙なんて吹っ飛ぶだろ。
太宰はそのまま俺の朱色の前髪を指に巻いて、にやりと笑った。
「中也、私のこと好きなんだ?」
「は……」
ぼっと顔が熱くなる。
意味わかんねえ。なんでこんな、いきなり。
でも。
俺は、ぷいっと顔を逸らした。
「んな訳あるか、手前なんか大ッ嫌いだ」
「え〜、ここまで来て?」
「るっせェ、手前はどうなんだよ」
「私は……
好きだよ」
心臓がドクンと高鳴る。
「って云うと嬉しいんだろうなあ、中也は」
「あ”!?」
太宰は莫迦だなあ、と嘲笑うように鼻を鳴らした。嗚呼、殺してー。
「私だって君なんか大ッ嫌いだよ」
「上等だ青鯖」
「うるさいなあ、ちびなめくじ」
「誰がちびなめくじだコラ……」
「もう黙って」
つ、と指が、反論しようとした唇に当てられる。思わず口をつぐむと、太宰は首もとのネクタイをシュルリと引き抜いた。
「もう黙って、大人しく私に抱かれなよ」
一度中断されていたのに、血管の浮き出た太宰のソレは、全く萎えていなかった。その先端が、ぴたり、とそこにあてがわれる。濡れていて、硬いけれど肌の柔らかさがある。何より、熱い。熱くて、熱くて。
覚悟を決めて枕の端を握りしめたそのとき、太宰が俺の首もとに顔を寄せ、囁いてきた。突然のことで、俺は目を見開くしかできなかった。
「可愛く鳴けたら、“百戦練磨の美男子”の初めて奪ったんだって、“其処らの女”に自慢していいよ」
「え……だざ、あァアッ!!」
驚きを口に出す前に、指とは比べ物にならない質量の熱が侵入してきた。
全く意図していないのに中がぎゅうっと締まる。硬くて、太くて、熱くて……。更に進んでくるだけで「んあッ」という気色の悪い声が飛び出し、心臓がどくんっと大量の血液を送ってくる。
ふと、ずぶずぶと太宰のそれが俺の恥の中へ埋まってゆく様を目撃してしまって、思わずぎゅうっと中を締め付けた。
「ッ、きっつ。もう少し力抜けない?」
「む、り……」
太宰が顔を歪め、頬に汗を一筋流して俺をみつめる。そして、何時もと変わらない……いや、少し辛そうな、笑みを浮かべた。
つらい……我慢してるのか? こいつが? なんで? 俺の為に?
ぐりゅっ
「あァッ!」
快楽に声をあげて、太宰の背中にすがりつく。中の、この一点。ここに触れられると変になる。何か怖い。でも、太宰のソレの熱さが内壁にじんじんと伝わってきて、怖いのに疼くその一点にその熱さを擦り付けたらどうなるのかと、心臓がドキドキ鳴った。
なんだこれ。これが、性交……? どんどん変になる、これが……?
「どうしてほしい?」
太宰が俺の思考を読んだかのように問うてくる。
その瞳をみつめる。ったく、楽しそうにしやがって。変な奴。知ってたけど。
黙って、首に腕を回した。
少し腰を動かすと、未だ挿入りきれていないソレが疼く場所をかすった。心臓が高鳴る。
小さく、小さく、云った。
「……イイとこ、判んだろ」
「どうしてほしいの? 擦ってほしい? 突いてほしい? どうしたい?」
追い討ちをかけられる。
嗚呼、もう……!
「ッ〜〜、とにかく良くしろ!!」
「我が儘だなあ。まあいいか」
恥をかなぐり捨てて云ったのに、太宰の反応は存外薄く。
益々頬が熱くなっている間に、太宰はぐいっと俺の足をもって、広げた。
「なッ……」
「ふふ、丸見え」
全部、見られてる。太宰の太いのをくわえこんできゅうきゅうしてんの、全部。太宰の、その瞳に。
やだ、こんなの。やだ……
「はは、そんな締め付けないで。すぐあげるから」
太宰が再び俺の額に口づけする。唇が離れると、太宰は腰を浮かせて、そして……
ずぷぷっ
ごりゅんっ
「ああァぁンッ!!」
ビリッと流れる快楽。疼くところを熱いもので強く擦られて、気持ち良すぎて、じんじん燃えるようだった。
しがみつく太宰のシャツに皺ができる。それを見ながら、太宰が耳元で囁くのをきいていた。
「たっくさん良くしてあげるね?」
快楽がほしくて、太宰がほしくて。俺は、ただ何もかもを委ねて目を瞑った。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.84 )
- 日時: 2019/07/23 15:11
- 名前: 枕木
「あぁ……んぅ、あッ、あぅ、あぁんっ!!」
ごりゅ、ごりゅ、と先っぽの硬いところで其処を擦られる。絶頂しそうな快楽に、足先が丸まって、内股がビクン、ビクン、と痙攣する。
きもちい、きもちい……それしかなくて、そんな自分への羞恥に身体が熱くなる。
「ンッ、んあ、や、らめ、んあんっ」
其処ばっかり、ごりゅごりゅと擦られて。圧迫感や痛みがなくなってその質量に慣れてくると、擦られる度にその快楽を喜ぶように内壁がきゅう、きゅう、と締まる。その度に太宰の形を感じてしまって、恥ずかしいのに、何故か……何故か、うれしかった。
ぬちゅ、ぬちゅ、ごりゅっ、ごりゅっ
「あぁ、ひうぅ、んん、あァん、あッ、あん、あァッ!!」
ビク、ビク、と開いた脚の痙攣が止まらない。なんで、其処ばっかり、ごりごりって何度も。きもちい。やだ。こんなにきもちいの、聞いてねェよ。
呼吸をするように収縮を繰り返すようになった内壁。どこを擦られてもきもちよくて、涙が滲む。中で出される愛液の、ぐちゅ、ぐちゅ、という泡のたつような水音。太宰の、荒い息遣い。太宰も、興奮してる。腰を打ち付けて、何度も、何度も。「だざい……」と名を呼ぶと、吐息混じりに、「ぅん?」と返事をしてきた。顔をあげると、紅く上気した頬に汗を流して、微笑む太宰がいた。
右手を伸ばして、その首に回す。そっと引き寄せる。唇が重なる寸前で、太宰がぴたっと静止した。
「……いいの?」
不安そうに伺う、目の前の1つだけの鳶色。俺の蒼色が映ってる。太宰は、俺しか見ていない。嬉しくて、嬉しくて。
「はっ……や、ぼなこと、訊くな」
そう答えると、太宰は左手でそっと俺の頬に触れた。
そして、割れ物に触るようにそっと、やさしく、静かに顔を近づけて。
そして、唇を重ねた。
初めての口づけは、柔らかくて、暖かい。ぎゅうっと胸が締め付けられて、どうしようもない。離れる唇が寂しくて、もっと触れてほしくて、たまらない。ああ、だめだ。もう、だめ。
「もっと、して」
口から溢れた本音。太宰がにやりと笑った。純粋な、悪ガキの笑顔。やってることはいやらしいのに、純粋で澄んでいた。これが、本当の太宰なのか? そうだとしたら、きっと、知っているのは俺しかいない。
ああ……なんだよ、それ。おかしくなりそうだ。
「だざい、だざい」
何度も呼ぶ。太宰がそれに応えて口付けてくる。胸がぎゅっとして、もう何も我慢できなくなる。脚を開いて、ぬちゅっと腰を振った。それに応えて太宰がずちゅ、と進んでくる。それを受け入れるように更に股を開けば、ずぷずぷと挿入てきて、とうとう、ぱちゅ、と太宰の肌が股に触れた。全部、奥まで挿入ってる。そう判った途端、中がきゅんっと締まった。
その瞬間、頭が真っ白になった。
「あァッ!?」
触れられたことも、見られたこともない一番奥底に熱が押し付けられている。それだけできもちよすぎて、涙がこぼれ落ちた。
「あッ……ア、ア……」
きもちいいことを知ってしまったから、中が何度もきゅんきゅんと締まる。奥底に硬い熱が当たるのが、その疼く空間を埋められているのがきもちよすぎて、何度も何度もきゅうきゅうを繰り返す。太宰は動いていないのに、自分で太宰のできもちよくなっている。こんなのやだ。でも、きもちい。
「はっ……本当、淫乱だね、中也は」
きゅうっとする度に中で愛液を出される。太宰も気持ちいい? 無意識に閉じていた目を開けると、太宰は顔を歪めて、きゅん、の度に眉を寄せていた。ああ、感じてる。きもちよくなってる、俺で。でも、もっと。
「だざい……きもちくなって」
「え?」
「きもちく、なろ?」
太宰が目を細める。
「中也」
名前を呼ばれる。口づけされる。繋がっている俺の左手にそっと右手を重ねて、指を絡めて握った。
そして。
ぱんっ
「あッ」
ぱんっ、ぱんっ
「んあ、あァ」
ぱちゅっ、ぱちゅっ、ぱちゅっ
「あァア、あァ、あぁんっ!!」
腰を引いては、奥底を突く。触れるだけで気持ちよかったのに、中をごりゅっと強く擦られて奥をごりっと突かれて、快楽が強すぎておかしくなる。
二回突かれただけで、声も出せず、下半身をがくがく痙攣させてイッた。止まらない快楽にのけぞって、こぼした涙を舐められる。
「ンぁ……ああっ、あァ、あああっ!!」
喘いで、鳴いて、口付けられて。
イッたばかりで敏感な身体に大きく膨らみきった性器を激しく出し入れされて、下半身の痙攣ががくがく止まらなくなって、身体を揺らす。びくんっびくんっと身体が跳ねる度に手錠がジャラッと鳴って、この快楽からは逃さないぞと脅す。
「あッ、あァ、あァアあんっ!!」
また、イッちゃう。イッちゃう、出ちゃう、イく……ッ
「ッ〜〜!!」
飛び出る精液。背中をのけぞらせてイッたのに、全然だめ。やだ、なに、これ。なんか、きちゃう。すごいの、きちゃう……っ
「ア、あッ、やっ、あ、だざ……」
「ちゅうや……」
ごりゅっ
びくっ、びくっ
大きく身体が痙攣して、普通なら性器から出される筈の熱が、中に集まる。ぎゅっと中が締まって、脳天を快楽が突き上げた。
真っ白な、永遠かと思われる絶頂。
どくんっと中で脈うった太宰が、奥に熱い精液を出すのを感じた。長い長い射精に身体を震わせる。なにも判らない。判るのは、繋いだ太宰の手の、熱さだった。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.85 )
- 日時: 2019/07/23 14:36
- 名前: 枕木
あの1ヶ月、俺たちが繋がっていたのは、鎖だけじゃなかった。
10センチが近づいて、もっと、どんどん、近づいて。
幸せな時間だった。次の日首領のところにいったらまじまじとみつめられて、ぷっと吹き出されて、「仲良くなりすぎたかな」なんて笑っていた。
そのとき、相棒の意味をきいた。
後悔はしていない。あれから1年たって太宰が消えたときも、一回だって後悔したことはなかった。
信じてたから。ずっと。
だって、『元相棒』だから。
「なにぼーっとしてるの、中也」
「え、ああ……悪ィ」
はっと我に返ると、2つの澄んだ鳶色が俺の顔を覗きこんでいた。
「久しぶりにデエトに出掛けるんだから、今日は私だけ考えてればいいんだよ」
「ばーか、誰が手前なんか」
「もう、可愛くないなあ」
口を尖らせてそう云ってから、太宰は、ふ、とやわらかく笑って、手を差し出してきた。右手。あの、右手。ずっと、俺に触れていた右手。
「じゃあ行こうか、相棒」
「……相棒じゃ、ねェだろ」
不満を露にしてそう云えば、太宰は笑って、ぎゅっと抱き締めてきた。
「なんだ、かわいいじゃないか」
「ばか」
「ふふ、そうだね、『元相棒』だ。ずっと一緒にいる、けど違うよね」
相棒の意味。俺たちを表していた、相棒。
それは、『ずっと一緒にいる』。
確かに、今もずっと一緒にいる。
でも、違う。
だって、離れてても一緒だから。こういうのは相棒じゃねェんだよ。こういうのはなァ
「恋人、だろ」
太宰がくすっと笑う。
「そうだね」
そっと胸中から俺を離して、微笑んで俺をみつめて、そっと顔を近づけてくる。目を瞑れば、ちゅ、と唇に暖かさが触れた。
それが離れると、太宰がぱっと俺の左手を握った。
「よし、行こう」
「おう」
笑いあって、ドアを開けた。
空は、快晴。
蒼くて、澄んでいる。
最高のデエト日和だな。
手前の右手と、俺の左手。
手前の心と、俺の心。
元相棒、現恋人。
その距離____
「中也」
「ぅん?」
鳶色に俺を映して、にかっと笑う。ガキみてェに。
「好き」
_____その距離、0センチ。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.86 )
- 日時: 2019/07/23 15:09
- 名前: 枕木
長い。
いやあ、長い。書き始めたのが6/23…って、丁度1ヶ月前かよ。
すみません、なんか、もう……はい、何も言いません。
手錠生活させたいなあ×若者らしく恋愛してほしいなあ=今回の話
になりました。途中途中のフラグを全部最後に回収したのは、決して手を抜いてるとかじゃありませんよ? 行き当たりばったりなだけよ(ドヤッ
ま、まあそれでも沢山考えて書いたので、少しでも伝わるといいなあと思います。ではでは、次回は芥中でお会いしましょう♪ 感想&リクエスト相変わらず待ってま〜す♪
それでは!
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.87 )
- 日時: 2019/07/25 07:19
- 名前: 枕木
……芥川先輩だ。
仕事帰り、駅前を車で通ったとき目の端にちらっとうつっただけの黒色に、瞬時に脳がそう認識する。それと同時に、樋口はブレーキを踏みしめていた。
駅前の噴水の前の時計台の下で、黒外套で身をすっぽり包んで、サングラスをつけて、ちらちらと辺りを伺う、その姿。
これは好機では……!? とはならず、それを見た樋口の脳裏に浮かんだのは、過去の軽いトラウマだった。それと同時に、どうしようか、と首を捻る。とりあえず車を止めたはいいものの、声をかける勇気も必要もない。トラウマではあるが、あの事件のその真相、芥川が待ち合わせていた可憐な美女とは彼の妹であり樋口の部下である麗しき銀ちゃんであったからだ。
見ず知らずの女であったらトラウマでは収まらないが、妹なら何の心配もない。
仲の善い兄妹だよね。銀が羨ましいなあ。
そんなことを思いながら、ふう、と安堵の息をはき、去ろうとしたとき。
人々の雑踏の中樋口の耳に飛び込んだ、憧れの人の声。
「態々すみません」
え……?
ゆっくり、ゆっくりと首を回す。
そして、目を見開いて瞬かせた。
てっきり、其処にくるのは黒髪の美女だと思っていたのだ。
しかし、違った。そもそも妹にこんな丁寧な物云いをする必要はない。
其処に現れたのは、黒髪ではなかったのである。
銀ほどではない長めの茶髪を左肩に流して、大きい黒外套で身を包んだ、小柄な人影だったのである。
芥川はその者に向かって頭を下げたが、小柄な人影はふるふると首を横に振り、樋口には聞こえない声で何か云った。すると、芥川は顔をあげて、嬉しそうに笑った。それは、樋口も見たことのない、幸せそうなやさしい笑顔だった。
樋口は暫く固まっていた。
ショックで、頭が回らなかった。
「あ……くたがわ、せんぱい……?」
震えた声が発せられる。しかし当の芥川は、目の前の人物をずっとみつめている。熱っぽい視線で、ずっと。
小柄な者が、行こう、と促したようだった。芥川が頷く。そして、二人は駐車場の方へ並んで歩いていった。
樋口はその、お似合いの黒い背中2つを呆然と見ていたが、後ろからのクラクションの音にハッと我に帰った。こんなところで止まっていられない。芥川先輩をたぶらかす悪女を暴かなくては!!
樋口は無意識の涙を振り払い、アクセルを踏んだのだった。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.88 )
- 日時: 2019/07/25 11:20
- 名前: 枕木
樋口が駅の駐車場へ車を回すと、丁度芥川と“敵”が車に乗り込むところだった。
女が運転席……? まあ当然か、芥川先輩は車が無いからあれは女の車でしょうし……だからこそ送り迎えは私の出る幕だと常日頃思っているんだけど、何故か小さな幹部に先を越されるんだよなあ……どうして……まあ今はいい、とりあえずあとをつけなければ。
二人が乗り込み、車が発進する。樋口はそのあとに続いた。
その車の後ろ姿を見て、樋口は既視感を感じた。なんだろう、なんだっけ? まあ今はいい。ぐっと唇を噛み締めて、ぐっとハンドルを握り締める。
先輩、待っていてください。今私が救い出しますからね……!
* * *
芥川と敵の二人は、何軒か店を回ってはそのたびに購入していった。カーテン・絨毯の店、家具の店、ショッピングセンター。家具の店では紙切れをもってきただけだったから、オーダーメイドでもしたのだろうか。ショッピングセンターでは、食料や調理器具、洗剤などの日用品など、随分大きな買い物だったが、敵は、女にしては不自然な程のどっしり質量のありそうな大荷物を軽々と持ち上げていた。ああ、なんて女だろう。芥川先輩が手を貸そうとしたのに断った。なんて贅沢な! そこを代わりなさい、変態女!!
……という一部始終を全て尾行し、離れたところから双眼鏡で監視する樋口もかなり変質である。だが、憤りを感じながらも、樋口はその芥川の表情を見るたび胸を痛ませていた。
なんて幸せそうな顔だろう。目をやさしく細め、嬉しさ、幸せがあふれでるような輝く笑みを口元にあらわし、いつでもぴたりと敵の傍についている。熱のこもった眼差しはいつもその傍らに向けられていた。
羨ましいし、憎らしい。しかし、こんなに幸せそうな先輩を見るのは初めてで、樋口は、哀しみを感じながらも、もうすでに諦めのような、納得したような、観念しました、というような、何かが胸にすとん、と落ちたのを感じていた。
例えこの女が何かを企んでいたとしても、先輩が何か窮地に立たされているのだとしても、芥川先輩はいま、この女といて幸せなのだ。私がこの幸せを邪魔するのは、部下としても相応しくない。
女が荷物を積み込んだ。二人が車に乗り込む。
……あと一軒。次で、終わりにしよう。そうしよう。
樋口はそう決めて、車のあとを追った。もう悪女を暴く、という強い闘志はなかった。ただ、もう少しだけ、芥川先輩の幸せそうな姿を見ていたかっただけであった。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.89 )
- 日時: 2019/10/05 05:01
- 名前: 枕木
二人の乗った車は、レストランの駐車場で止まった。もう買い物は済んだらしい。確かに、もう随分沢山の物を買い込んでいた。
二人が店へ入っていく。樋口は、少し迷った。
次で最後、と云いつつ、結局は最後迄ついてきてしまった。ならばもう、最悪、ばれてもいいのでは。
ばれてもいいから……一度、あの二人の近くに寄ってみたい。邪魔する訳ではない。寄るだけなら。きっと、許されるでしょう。うん。よし。
樋口は一人頷くと、そっと二人のあとを追いかけて店内へ入った。
彼女は、少しだけ、楽しそうにも見えた。
* * *
女とテーブルを挟み向かい合って座った芥川と背中合わせになる形で、樋口はテーブル席に座った。もう子供が寝る時間は過ぎていたため、空いていたのだ。
ウエイターが置いていったお冷やに口をつけつつ、自分の背後に耳をそばたてる。
「家具は、来月には届くようです」
芥川先輩が云った。ああ、紙切れを持って出てきた、あの家具屋か。樋口はコップの中の氷をみつめながら、そう合点した。
「電気も通った故……ようやく、新居に移れますね」
そうか。
樋口は、ここにきて理解した。
芥川先輩とこの女は、新居で同棲を始めるのだ。今日は、そのための買い物だったのだ。だから、絨毯やカーテン、あんなに沢山の日用品を買い込んでいたのだ。
そうか……樋口は、少し寂しさを感じた。でも声から察すると、芥川先輩も嬉しそう……
「嬉しいかァ、芥川?」
……え?
明らかに男の声。否、でもこの声と口調、聞いたことが___
「はい。
______中也さん」
…………は?
………は?
「はぁああああぁぁぁぁぁあああ!?!?」
バッと立ち上がり、叫びつつ振り向けば、「なんだ」と無表情で振り向く芥川と、目を真ん丸にして樋口を見、朱色になりかかっている茶髪を黒手袋のした手で鋤く小さな幹部がいた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.90 )
- 日時: 2019/08/01 20:06
- 名前: 枕木
「態々すみません」
そう云って頭を下げる芥川に、俺は横に首を振った。
「莫迦、恋人を久しぶりのデエトに誘っておいて謝ンなよ」
頬が熱くなるのを感じながらそう云えば、芥川は顔をあげた。
ったく、嬉しそうな顔しやがって。
俺は、万が一の為にと、目立つ朱色を簡単に茶色に染めた髪に触れながら、照れ隠しにそっぽを向いた。
* * *
「はぁああああぁぁぁぁぁあああ!?!?」
低い隔てを介した隣の席で、奇声と共に立ち上がる女がいた。
な、なんだ…? 振り返った女の顔を見て、躰が硬直した。
「五月蝿いぞ、樋口」
「すみませんッッ!!」
条件反射なんだろう。芥川が迷惑そうに云えば、彼女はバッと黄金の頭を下げた。
樋口だ。明らかに、どこからどう見ても、どう考えても、樋口だよなァ。
否待て? なんでコイツが此処にいるんだ? 偶然じゃねェよな、今のタイミングで。つか今、芥川と何話してたっけ? 嗚呼そうだ、同棲のことを……
「……………………
!!!!!!」
バッと口元を抑える。一気に体温が上昇する。
え? は? おいおいおい、嘘だろ、おい?
「中也さん?」
不思議そうに俺を見る樋口。俺はザッと立ち上がると、その肩を押して、俺が座っていたところに座らせた。そして、自分は芥川の……恋人の隣に座る。おい芥川、手前俺が隣にきて嬉しそうにしてる場合かッ!!
未だ脳内が整理できてねェ。否、そんなことある訳がないよなァ。念のためだ、念のため。真逆だとは思うが……
「……樋口お前、ずっとつけてた訳じゃねェよな?」
樋口が目を瞬かせる。芥川が人を殺せそうな目で樋口を睨む。樋口はその目に「ひッ」と小さく叫んだ。
「どうなんだ、樋口」
内心冷や汗をかきながら問いただす。
すると樋口は、真っ青で「すみませんッ」と頭を下げた。おい?
そして、小さく小さく、呟いた。
「……………………つけてました」
ゴンッ
俺は、反射的に額をテーブルに強かに打ち付けた。
「ッ、樋口貴様、中也さんに……ッ」
「す、すみませんッ! し、知らなくて、その、お、お二人が……」
嗚呼、終わった。終わった。
顔をあげられない。絶対真っ赤だろ。
でも、こいつに暴かれるくらいなら、いっそ俺から。
顔をあげる。覚悟を決めて、口を開く。
「お二人が……」
「樋口、実はな……」
「「こんなに仲が良かっただなんて/俺たちは付き合って……」」
「「…………ん?」」
思わず、顔をしかめた。
は? コイツ今なんつった?
「あの、ええと、中也さん今なんて仰いました?」
「否、だから……否その前に、手前こそ何て云ったんだよ」
「ですから、私、お二人がここまで仲が良かっただなんて知らなくて」
ん?
目を瞬かせる。樋口は至って普通の顔をしている。気を遣っているとかじゃねェよな、これ?
芥川と顔を見合わせる。芥川は何か物云いたげにしていたが、俺の心中を悟って、口をつぐんだ。
……思わぬ、幸い。
俺は「ンン”ッ」と咳払いをすると、帽子をかぶり直した。
「そうか、判りゃいいんだよ、判りゃァ」
「はい……しかし、先程は何を?」
「否? 何も云ってねェよ? なァ芥川?」
振り向くと、芥川は腕組みをし、黙っていた。
おい! そこは何か云えよ! バレたらどうすんだ!!
「す、少し、部屋の模様替えをしようと思っててな。俺、独り暮らしだろ? 芥川に着いてきてもらってたンだよ」
「……」
「そうだったのですか。てっきり、私は芥川先輩が女性の方とデエト中かと」
「……」
「な、何云ってんだよ!! い、何時も送り迎えしてやってるから荷物持ちに付き合えって云っただけでなァ、前にも先にも芥川とこんなことしたことねェし」
焦る。やばい、どうにか、弁解しないと。樋口は疑っている様子はない。でも。ああもう芥川、黙ってンなよ!!
焦って、考えられなくなって、それで、急いで、叫んだ。
「そもそも俺と芥川は、ただの上司と部下だ!!」
胸がずきんっと痛んだが、堪えて、云い放った。
はあ、と息をつく。樋口は、「そうですよね」と完全に納得している。嗚呼、よかった……
その瞬間、ずっと黙っていた隣の芥川が、口を開いた。静かな口調で、云った。
「僕と中也さんは、来月から同居するのだ」
目を見開く。樋口も目を真ん丸にする。おいおいおいおいおいおい?? と責めようとしたが、芥川は至って落ち着いていて、寧ろ、少し怒っているような感じだった。だから、何も云えなくなった。
「……えっと、同居、というのは……」
「即ち、僕と中也さんは恋なモゴッ」
急いでその口を手で塞ぐ。冷や汗が流れる。困ったような顔をしている樋口に、早口で云った。
「だからな、俺もこいつも独り暮らしだし、模様替えついでに家賃割り勘しねェか? みたいな感じになってよ。否、隠してたわけじゃねェんだ。ほら、色々誤解があるだろ? 一緒に棲むっつうと」
「ああ……」
樋口が納得したように頷く。俺は、また芥川が何か云い出す前に、その手を握った。
「そういうことだ。来月からこいつと棲む。それだけだ。あと、人を勝手に尾行すんな。いいな」
「はい」
「それじゃ帰んぞ、芥川」
握ったその手を引っ張って、店を出ていく。背中に、少し間の抜けた部下の「お疲れ様でした!!」という声を受けながら、むすりとした恋人の手を、ぎゅっと握った。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.91 )
- 日時: 2019/07/31 20:53
- 名前: 枕木
「なァおい、いい加減機嫌直せって。悪かったっつってんだろ」
先刻から目を合わせずに無言で俺のシャツの釦を外している恋人に云う。芥川は、矢っ張り怒った顔で、眉間に皺を寄せて、黙って釦を外すばかりだ。
参ったな、こりゃ……。車ン乗ってるときも、俺の家に入るまでも、この瞬間まで、芥川はずっとこの調子だ。俺にも罪悪感があったから芥川にいきなり寝室に引っ張りこまれてベッドに押し倒されて服を剥かれても、抵抗する積もりは無い。無いけどな? 無いけど、芥川手前、ヤるか怒るかどっちかにしろよ! こんな雰囲気じゃたつモンもたたねェわ!!
「あくたがわぁ……」
やべ、声半泣き。まあ、実際泣きたい気分ではあるが。
恋人の黒髪に手をやりながらそう呼べば、恋人は、観念したように、俺のベルトを外していた手を止めて顔を上げた。
眉をひそめて、拗ねたような顔をしている。鳩色の瞳が俺をじっとみつめていた。
「芥川、悪かった。御免な?」
「…………僕は……僕は、何故に隠すのか判りません」
芥川が、とうとう口を開いた。開いたと思ったら、芥川らしい言葉が吐かれた。
少し考える。一番伝わり易い言葉って何だろうな、と。そして、俺も口を開いた。
「バレたら……お前も俺も、未来がなくなるかもしれねェだろ。樋口を信用してない訳じゃねェ。でも、それとこれとは別だ。なんたって、俺らはマフィアだからな。この関係を、俺は微塵も恥じてない。だが、この関係は知られれば弱味だ」
「そんなこと……ッ。僕は、貴方を否定するくらいなら我が身を滅ぼしても構いません……!」
「それじゃ駄目なんだよ莫迦!!」
叱りつける。芥川が、辛そうに顔を歪める。まだ少年のような不安定さが伺える瞳が揺れていた。
芥川の想いは嬉しい。嬉しいけど、駄目だ。それじゃ、駄目なんだよ、芥川。
手を伸ばして、そっと頬に触れる。白色がかかる綺麗な黒髪を撫でる。芥川は、ぐっと唇を結んで目を細めた。
芥川。俺がどんだけお前のこと想ってるか知らねェだろ。
ずっとずっと、
「一緒に、居たいだろ」
芥川が目を見張る。
微笑んで、その頬を引き寄せた。莫迦、そんな驚くなよ。
額を、こつんと合わせた。
「俺だって、お前がどうにかなるくらいなら喜んで命でも躰でも差し出してやるよ。だがな、それじゃ駄目なんだよ。そんな事でお前と離れたくねェ。お前と、一緒に居たい」
「……中也さん」
「だから、嘘を吐いた。これからも嘘を吐く。お前と一緒に居るためにな。……胸は痛ェよ。すげえ痛ェ。でも、そのくらいでこうして一緒に居れンだから、安いモンだろ?」
にっ、と笑ってみせれば、芥川は息を飲んだ。そして、切なげに顔を歪めて、バッと抱き締めてきた。
「中也さん、貴方はずるい」
「おうおう、悪かったな」
笑いながら応える。芥川は、俺の首に顔を埋めて、はあ、とため息を吐いた。
「僕も精進せねば……」
「少しずつでいいだろ。安心しろよ、強ーい幹部様が傍にいてやるから」
「はい、有り難う御座います」
少し茶化して応えれば、返ってきたのは存外あたたかくてやさしい言葉で。胸が高鳴った。
芥川が顔をあげる。微笑んでいた。
「愛してます、中也さん」
「おう。……龍之介」
嗚呼もう、嬉しそうにしやがって。
その首に腕を回して、引き寄せて、口づけた。柔らかい感触から、恋人の熱が伝わってくる。
唇を離すと、にやっと笑ってやった。
「仕方ねェな、今夜はサービスしてやるよ。……その代わり、満足させろよ? 龍之介」
「はい。中也さん」
嬉しそうに微笑んで、みつめあって。
そして、再び口付けした。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.92 )
- 日時: 2019/08/11 06:34
- 名前: 枕木
俺が一糸纏わぬ姿になると、芥川は待ち切れないように直ぐ様抱いてきた。
つー、と白い指が鎖骨を、胸筋をなぞり、尖りにひっかかる。ぴく、と反応したのをきっかけに、くりくりといじってきた。
「んぅ……」
膨らんできた尖りをこねられるたびに、ぴり、ぴり、と緩い快楽が駆け抜ける。ぴくぴく、と快楽に反応してしまう太股を擦り合わせれば、もう既に硬く勃ちあがった自身が主張していた。
性欲に耐えられなくなって、表情も乏しくただ恋人をいじめる芥川の、空いている手を掴む。芥川は顔をあげて楽しむような目をして俺をみつめた。
「さ、わって……ここ」
ここ、と、掴んだ手を引っ張って、自身に触れさせる。その恋人の手の感触だけできもちよくて、びく、と股をひらいてくちゅりと愛液を垂らした。しかし、芥川はその手を動かそうとしない。なんで……きもちよくなりたいのに……
だがしかし芥川は、意地悪く目を細めていた。
「辛いのならば、自分で触れれば善いのではないですか?」
「っ……」
「中也さん?」
「お……まえ……っ」
それは詰まり、お前の目の前で自慰をしろってことだろ……?
かあ、と顔が熱くなる。涙で滲む視界で、目の前の男を睨み付ける。そんなものに効果がねェのは判ってる。でも、こいつ絶対ェ頭沸いてる!!
「如何なされますか、中也さん」
「っ……」
「ほら?」
「あッ!」
芥川が親指で先をぐり、と刺激する。気持ちよくて、更に硬くなるのを感じた。
つらい。イキたい。でも、自分でするのは、やだ。だって、俺……
やっぱりそれ以上は動かしてくれない芥川の手を掴む。芥川の楽しむような瞳をみつめて、泣きそうになりながら云った。
「俺……お前でイキたい」
芥川が目を見張った。すげえ淫乱な言葉だなとか、どうでも善かった。ただ、こいつに触られて、こいつできもちよくなりたかった。こいつ以外の誰かは、例え自分でも、いやだった。
「芥川……」
じっとみつめて、懇願する。
すると芥川は、観念したように、ふ、と息をはいた。
「先刻の仕置きをしようと思ったのですが、仕方がない」
「うん……ごめんな、芥川。でも俺、芥川じゃねェとやだ」
「……随分愛らしいことを仰る。判りました、いいですよ」
芥川が、改めて俺の自身を握りこんだ。ドキドキと心臓が高鳴る。
そして、先っちょから溢れ出る愛液を指に絡め、その指で俺自身を擦りはじめた。
「んっ……あっ……」
くびれの部分や先っちょの部分など、弱いところを擦られるとたまらなく気持ちよかった。枕をたぐり寄せてそれに顔を埋めながら、快楽にびくびく跳ねる身体で、芥川の手が動く度に、ぐちゅぐちゅと愛液が卑猥な音をたてるのに興奮していた。
「あっ、ふ、ぅ……んぁっ」
そこ擦られるの、きもちい……あ、イキそ……
「蕩けてきましたね。そろそろ、こちらも」
ちゅぷっ
「あッ!」
足がピクン、と上がった。中に、指が侵入してきたのだ。
「ふっ……中も熱い。もう柔らかいですね」
「あ、くたがわ……」
「判ってますよ、中也さん」
もう、駄目だった。欲しくて欲しくて堪らなかった。芥川がもうイキそうだった自身を手放した。何をするかは判ってる。ドキドキしながら、芥川が自身を取り出すのを見ていた。ソレはもう完勃ちしていて、その欲望を吐き出す場所を欲していた。
俺も、欲しい。早く、早くと、中が収縮を繰り返す。芥川はそんな俺に気づいて、ふっ、と笑った。
「随分と恥じらいのない先輩だ」
「きらい、か?」
「いいえ。……好いています、中也」
カアッと体温が更に上がった瞬間、芥川の自身がずぷっと一気に入ってきた。
「あァン!!」
びく、と腰が反った。熱い中に、熱い芥川が挿入っていて。奥に進むと、快楽を感じる神経を直接擦られたような感覚になって。
きもちいい。怖くなるくらい気持ちよくて、芥川の背中に手を回してしがみついた。
芥川自身が、ぐりぐりと内壁を擦って、奥へ進んでいく。中が芥川で満たされていく。ごりゅ、と奥底に硬いものがぶつかった。その衝撃にびく、と浮いた俺の足を掴み、芥川は楽しそうに微笑んだ。
「奥迄きましたよ、中也さん。どうしますか?」
芥川は、本当に楽しそうだった。何時から、こんなに表情豊かになったんだ? 判らねェな……
でも、そんなことを考えている余裕もなくて。快楽で満たされたい、こいつで満たされたいという欲求が、止まらなくて。
足を更に開いて、きゅん、きゅん、と中を収縮した。芥川は僅かに眉をひそめた。
ああ、好きだ。
「……動いて。大好きだから。龍之介」
その瞬間、芥川の目の色が変わる。何かのスイッチを押してしまったらしい。
「掴まっていろ」
云われた通り、芥川の背中に回した手にぎゅっと力をこめる。
「……本当に、困った人だ」
芥川はそう笑うと、直ぐにその笑みをおさめて、爛々と光る目をした。
そして、ずるん、と抜けるか抜けないがくらいのギリギリまで腰を引いた。やることが判って、更にぎゅっと芥川のシャツを握りこんだ俺に、芥川は……一気に奥まで、突きあげた。
「っ!! ああああああッ!?」
摩擦で壁を強く擦られ、快楽が痺れるように身体を駆け抜ける。奥を突かれると、ぞくん、と腰に熱が集まって、あっという間に絶頂を果たした。
びく、びく、と痙攣の止まらない身体。なのに芥川は、そこから直ぐに律動をはじめた。
ずちゅ、ずちゅ、と何度も往復して内壁を擦られる。硬い亀頭で弱点であるしこりを擦られると堪らない快楽が走って、どんどん脳内を快楽に塗り潰されていった。
「や、ア、あァ、ああん、あん、ああン!!」
途切れ途切れの自分の嬌声と、ぱん、ぱん、と腰をうちつける音が卑猥で、興奮を高めていく。「ンアァン……」とあられもない声を出して二度目のがくがく痙攣イキを果たすと、俺は震える身体を起こして、力の入らない身体で、すこし重力をかけて芥川を押し倒した。
「あッ……」
これ、すげえ奥までくる……
「中也さん……?」
「云っただろ……サービスしてやるって……」
俺は、足に力をこめた。
そして、上下に身体を揺すりはじめた。
「あッ……ひっ、う、あ……」
すすり泣くような嬌声が出る。俺の体重がかかって、奥をごりごり突かれる。ぱちゅ、ぱちゅ、と濡れた肌がぶつかる音。気持ちいいのが怖くなって動きをゆっくりにしていると、下からガッと腰を掴まれた。
「!?」
「……温いですよ、中也さん」
にやっと笑った芥川の表情に、胸がバクバクし出す。震える腰を掴んで、芥川は……
ずくっ
「ッ〜〜〜〜!!!」
下から、突き上げた。
奥底を強く刺激されて、声もなくイッた。もうそこからは何も判らなくなった。何度も何度も奥底ばかりずちゅずちゅと突かれて、反り返ってイッたってお構い無しに突き上げてくる。その内、無意識に更なる快楽を求めて芥川の突き上げに合わせて腰が動くようになっていた。動きが合うと奥底の更に奥を突かれて、あまりの気持ちよさに唾液を垂らした。
「あッ、あ……も、だめ、むり、も、や、ああ……」
「はい……最後は、共に」
芥川が身体を起こして、言葉なんかなくても伝わる愛を、唇で伝えあった。そして、突き上げがぱん、ぱん、ぱん、と速くなって、そして、最後にぐりゅっと奥底を突かれて。
奥に、どぴゅっと熱いものを吐き出された。それにぶるっと身体を震わせて、俺は永遠かと思われる、射精を伴わない絶頂を果たした。快楽、快楽、快楽……こいつに満たされる喜びに満たされて、俺はふっと意識をなくした。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.93 )
- 日時: 2019/08/11 06:49
- 名前: 枕木
目を覚ますと、すぐ目の前に眉間に皺をよせて険しい顔で眠る恋人の顔があった。
ふっ、と笑って、その眉間に口づけする。すると、その皺もほどけた。
複雑なように見えて単純で、大人なように見えて子供で、そっけないように見えて俺を愛してくれてる。
いとおしいんだ。だから、離れたくない。お前とずっと一緒にいたい。
「ごめんな、芥川」
本当は髪を染めないでデエトをしたい。堂々と恋人なんだと云いたい。もっと強くなったら、そうなれるだろうか。
芥川は俺に初めて愛を伝えてくれたとき、自分は俺の為に強さを求めるのだと云ってくれた。それなら、俺だって。
まあ、とりあえず、一緒に住もうぜ。話はそれからだな。
幸せな未来を、こいつと一緒にいる未来を祈って。俺は、大好きな恋人に口づけした。
えんど
おまけ
樋口(それにしても、あの中也さんと芥川先輩が同居もい問わないほど仲が善かったとは……あれ、あれは首領と芥川先輩?)
森「やあ、芥川くん。最近、恋人とは上手くいっているのかい?」
樋口(!? 矢っ張り恋人がいたの!?)
芥川「はい。来月から同居することになりました」
森「嗚呼、だから君の恋人、ここ最近嬉しそうにしているんだねえ」
芥川「……あの方が?」
森「うん。任務を与えると、通常の1.5倍の速度で終わらせてくるよ」
芥川「……急用を思い出しました。失礼します」
森「ふふっ♪」
樋口(…………芥川先輩の恋人はマフィアの中に!?)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.94 )
- 日時: 2019/08/12 06:44
- 名前: 枕木
今更なあとがき〜
ずっと放置しててすみません。8月に入ってからバタバタしちゃって。これからは夏っぽい話も沢山書いていきたいところです♪
芥川さんの口調が不明すぎて、あんまり上手くいかなかったかも。自分は誰かにスポットを当てた三人称っていうのが苦手ってことに気づいたので、途中から通常運転の中也くん目線です。中也くん目線ばっかり…っていうか、最近中也受けしか書いてなくね?とふと思ったので、あみだくじ作ってみました!((唐突)
攻め…太宰、敦、森、ドス
受け…中也、乱歩、谷崎、中也
シチュ…お祭り、風邪、天体観測デート、オメガバース
ドス君と谷崎君は、意外性が欲しかったので。まずcpであみだして、その結果の四組であみだするんです。あ、受けに中也が2体いるのは中也受けが書きやすいからとか単純に好きだからとかそういう理由では!断じて!ないので!お、思い付かなかっただけだし!?
シチュも思い付きですが、作ってやってみたら中々面白いことになりそうですよー♪もしこの中の組み合わせで「これ見てみたい!」とかあったら言ってくださいね。なかったら、次書く話のあとぐらいからそのあみだの結果で書いてみます。
ではでは、次回は太中でお会いしましょう〜♪おやすみなさい
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.95 )
- 日時: 2019/08/12 15:25
- 名前: 枕木
全ては、首りょ……ンン”ッ! エリス嬢のいつもの我が儘から始まった。
「海に行きたいの!!」
首領室に呼び出されたのでかしこまって行き、床に膝をついていれば、頭上でそんな声が。
……海?
「顔を上げてくれるかい、中也くん」
「はい」
云われた通り顔をあげる。すると、エリス嬢と首領がにこにこして机についていた。
……ん?
首領は、黒髪をさらりと流し、更に口角をあげて、組んだ手の上に顎を乗せた。
「そういうことなんだよ、中也くん」
「……と、仰いますと?」
「エリスちゃんがどうしても、どうしてもって云うから、明日海に行くことにしたんだよ」
エリス嬢の願いと云うより、それは……という突っ込みはしないでおく。最近は首領、でっけェグループとの交渉に自ら出向いたりしてずっと忙しそうだったもんな。息抜きがしてェんだろ。
でも、ここで疑問。それでどうして俺を呼び出したんだ?
「最初はエリスちゃんと二人きりで行こうとしていたんだけど、紅葉君に、そんなの許すわけないって怒られてしまってねえ」
雲行きが怪しい。明らかにおかしい。いや待て? 真逆……
冷や汗が流れる。首領が、口を開いた。
「だからね、幹部として中也君についてきてほしいのだよ」
え。
「ああ勿論黒とかげや芥川君なんかにもついてきて貰う積もりだよ。けれど、幹部が、ねえ。そう云った紅葉君は生憎今他の仕事をしているんだ。お願いできるかな、中也くん」
首領の云う『お願い』は、即ち『命令』だ。詰まり、明日海についていくというのが俺に課せられた任務。
勿論、喜んでついていく任務だろうな。たった1つの、この問題さえなければ。
「いやかな、中也くん?」
息を吸う。冷や汗が流れ続ける。どうする、どうする……? 云い訳が思いつかねェ。嗚呼、もうこれ、選択肢なんかねェだろ。
「…………………………喜んで、お付き致します」
「そうかい。ありがとう」
俺は、内心涙を流した。
泳げねェとか、絶対ェ云えねェ……………!!
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.96 )
- 日時: 2019/08/13 23:08
- 名前: 枕木
エリス嬢と首領に何かあったときのため、という名目だから、一応水着に着替えてきたものの……
「リンタロウ、私彼処まで泳ぐわ!」
「いいよお。私も着いていこう」
止めるのも失礼だよな。嗚呼、二人が沖の方へ泳いでいく……
俺は、黒とかげが持ってきたビーチパラソルの下のビニールシートに座った。
目の前に広がる白い砂浜、その向こうには果てなく広がる青い海。ポートマフィアが入るということで情報が流れているのか、いつもは賑わうというこのビーチも今日は人気がない。さっきから向こうの岩礁の影から餓鬼や大人の賑やかな声がするが、そのくらいだった。
あーあ、首領あんなところまで……遊泳区域からは出ないだろうが、あの、区域を示すブイまで行く積もりか? どうすんだよ、本気で泳げねェし……否、なんかさっきからビーチバレー始めてるけど黒とかげと芥川いるし、大丈夫だろ……否でも護衛としてついてきた俺が首領またはエリス嬢がピンチなのを目前に何もしなかったっつうのは背信問題か? 嗚呼今更だけど何でついてきちまったんだよ俺……! 今更泳げませんとか云えるか!!
悶々と考え、頭を抱える。
そもそも俺は、泳ぐ必要がない。重力の前には、海も川も池も関係ないからだ。なのに何で泳げないことを知っているのかと問えば、所謂遠距離恋愛中の恋人の趣向が原因ということになる。
正確には、活動距離的には近い。けれど、実質遠距離恋愛となってしまっているのは、お互いの立場と仕事量によるものだ。ここ一年、月1で会えるか会えないかぐらいの恋愛が続いている。
あー、会いてェな……って、それはいいんだよ。問題はアイツの趣向だ。
アイツに出逢って間もなくして、アイツの自殺嗜好は理解した。しかし、アイツが入水に挑戦しているのを初めて見たとき、本気で溺れているのだと酷く驚いて、恋愛感情は未だ無かったと思うが同僚としての責任感を感じて、ソイツを救助すべく川に飛び込んだ。勿論水中に入ったのはそれが人生で初めてだった。泳ぐとか泳げるとか、何も考えずに、その浮き沈みする黒髪めがけて飛び込んだ。
例えそのとき救助できていたとしても、完全なる無駄骨だ。だがそれより最悪な結果となった。なんと、飛び込んで太宰のもとへ行こうとしても沈むばかりで、全く泳げなかったのだ。
異能力を遣うという思考さえもできなくなり、息をしようとするたび入り込んでくる水と、それに咳き込んで息ができなくなって、もがきつづけた。本当に、一瞬だったが、恐怖を感じた瞬間だった。
結果として溺れた俺は太宰に陸へ引き揚げられ、「君、泳げないんだ?」と散々莫迦にされた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.97 )
- 日時: 2019/08/17 16:02
- 名前: 枕木
それ以来、俺は二度と水泳に挑戦したことはない。依って、俺が泳げない事を知るのは太宰だけだ。マフィアきっての体術遣いと称される幹部様の天敵が真逆なんの変哲もない水溜まりだとは、部下も、勿論首領も、夢にも思わないだろうなァ。
今までは、この事実を隠していても何の不利益を生まなかった。だが、今は違う。嗚呼、何で俺は隠して……否いい。隠してたのは正解だ。だって普通に格好悪ィだろ!? でも何で早く露見しなかった俺!! 首領とエリス嬢、キャッキャしながらどんどん泳いでいくし! 彼処水深何メートルだよ!!
運が良けりゃ、例え溺れても彼処迄とんでいって引っ張りあげれば済む。否、その前にエリス嬢が首領を引っ張りあげるだろう。だが、万が一ということも……
ハイここで没。
本当はなんやかんやで中也くんが溺れて太宰さんが助けて、莫迦にされたのが悔しかった中也くんが「水泳くらいできる!」と水泳の練習して、太宰さんが手を引っ張って手伝ってあげたりして可愛い展開にしようとしたんですが、この路線だと、中也くんの異能ではどんな理由をつけても泳ぐ必要性がないことに気づきました。どうしよう、この話読み返すと違和感しかなかった。
今後、いい展開思い付いたら書き直します。又は、一緒に泳ごうって首領命令を受けたとか、良さげなストーリーで書けそうだったら。このまま続けてもいいよって人は、甘えさせてもらうので云ってください(露骨なコメント催促)
お口直しになるかさえ判りませんが、以前私が他サイト(そこで書いたものを修正したりして転載することは良しとされています)で書いたものを修正してお出ししますね。すみません!
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.98 )
- 日時: 2019/08/17 16:00
- 名前: 枕木
少し人混みに酔ってしまって辺りを歩いていたとき、彼をみつけた。
彼は橋の上から川を見下ろし、楽しそうに笑う。そして、よいしょ、と手摺をよじ登る。その間は、遠足へ行く為にバスに乗り込む子供のように輝いた顔をしている。
そして、綺麗な革靴で手摺の上に立つと、二度三度ゆらりゆらりと躰を前後に揺らして、そして、その勢いですっと前に躰を倒す。その一連の動作は、とても綺麗で、そして、どんな場所のどんな場面でも見たことのない、この世に希望をもった輝いた表情を保ったまま行われていた。
重力に従い頭から落ちた彼が、僅かな揺れもない水面を貫き、すっと消えていく。予想に大きく反して、それはまるで、木の葉が水面に着地したような静けさだった。この静けさで、こんな夜に、気づく人なんていない。
あいつ以外は。
それをじっと橋の上から見下ろしていた。
暫くしてから、彼が水面から顔を出した。今夜はずいぶん長い間あちらへ行っていたようだ。遠くで聞こえる陽気な太鼓と笛の音から逃げたかったのだろうか。彼は黒髪から滴をしたらせて頭を出し、水を吸って重そうな砂色の外套から順番に躰を水面から出して、そして、その重さなんて感じないかのように軽々と川縁に上った。
そして、ごろん、と寝転がった。息も乱さず、ただ、先程の笑顔が嘘のように冷たく暗い顔で闇の何かをみつめている彼に近寄っていった。
そして、問うてみた。
どうして死にたいのに死なないの、と。唯の好奇心だった。大体判っていたけど。
彼は僕をじっとみつめていたけれど、ふっ、と口元を綻ばせた。
笑って、いやがらせですよ、と彼は応えた。
そう、と僕は応えて、そして、黙って土手を上っていった。
本当、莫迦莫迦しい。子供じゃないんだから。大の大人が何やってるんだか。
帰ろうと歩き出してから少しだけ、振り返ってみた。ほーら、来た。丁度あいつが向こうから不機嫌そうに、その割には息を乱して走ってきて、川縁で待つ彼の傍らに降り立つところだった。黒い外套がふわりとなびいていた。少しだけ、彼らの会話がきこえた。
祭りを楽しんでるときに人を呼び出すんじゃねェ青鯖。
誰が呼び出したのさ、勝手に来たのは君じゃないか。
ンだとコラ。ほら、一回帰って着替えンぞ。祭りで酒呑まないで帰る訳にはいかねェだろ。
対して強くもないくせに。
ああ”?
ふふ。どうせ帰るのなら、君も着替えたら、浴衣。
……着て欲しいっつうなら、別に……
そうだねえ、着て欲しいかな。
……じゃあほら、早く帰んぞ。
はーい。
彼は、橋の上にいたときよりも楽しそうで、幸せそうだった。本当に、お騒がせな部下だ。こんなことを毎回繰り返すのが、素直に会いたいと云えない彼と、理由がないと会いに行く勇気がないあいつの愛なんだろう。こんな夜には、花火の下で実る恋もありそうだ。だってもう、これで100回目だから。そろそろ、いいよねえ。
あーあ、こんな子供同士の寸劇を毎回見に来る僕も相当莫迦だなあ。
僕は、あーあ、とため息をついて、その口直しに林檎飴でも食べよう、と、くるんと回れ右をした。そして先刻買ったヨーヨーで遊びながら、僕もあの人の為に浴衣でも着てみようかなあ……なんて考えた。先刻、真面目な顔をして可愛らしい猫のお面を購っていたっけ。
丁度そのとき、頭上でどん、と音がして、光が散った。
夜空には大きな炎の花が咲き、その下では小さな愛が実る。
浮き世からほんの少し離れれば、そこは、美しい夏の夜。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.99 )
- 日時: 2019/08/19 13:47
- 名前: 枕木
マイナーcpだっていいじゃない!あみだくじ文ストBL企画!!(>>94参照)
第一弾
太宰治×谷崎潤一郎
お祭り
「今日は、お祭りだそうですよ」
尊敬する上司であり、恋人……である、その人に、書類を書きながら、何気無く云ってみた。
少しぐらい、期待……しちゃうよなあ。しちゃうよ、そりゃあ。だって、「谷崎君は綺麗だねえ」から始まって告白されて、付き合い始めたのが一ヶ月前。太宰さんは驚いたことに、ボクが初めてだなんて云うから。嬉しくて、この一ヶ月でまあ……そこそこ、否大分……交際は進んだわけで。嗚呼もう、恥ずかしい……
でも、デエトって未だしてないんだよね。本当は映画とか誘いたかったンだけど、僕からって云いにくいじゃない? だから、その……太宰さんから誘ってくれないかなあ……なんて、思っちゃったり……
「してるんだ?」
「……はいっ!?」
ずいっと顔を近付け、太宰さんは悪戯っぽく笑って云った。
してる……ッて、え!? 全部見透かされてた!?
「当然! 谷崎君は顔に出やすいからねえ」
「そういうの、乱歩さんだけにしてくださいよ……」
「ふふ。その乱歩さんも、今は恋人とそのお祭りに行っているみたいだよ」
「え……敦くんと?」
敦君には、長い間、乱歩さんが好きなンだって相談を受けてたからなあ。去年の乱歩さんの誕生日に告白してみたらいい返事貰えたって、すごく喜んでたっけ。最近は彼氏バカすぎて皆に呆れられてるけど。
太宰さんは、ふふっと楽しそうに笑った。
「うん。今、国木田君は社長とお偉いさんの所に挨拶に行ってる。他の社員も、もう退勤時間になってるから殆ど帰ってる。よって、今この残業を抜けても止める人はいない」
「……良いンですか? 今手伝ってるこの書類、国木田さんに明日の朝一で出せって云われているンでしょう?」
「あはは、君も意地悪だねえ」
当然ですよ、やられっぱなしはボクだって癪ですから。
太宰さんはクスクス笑ったあと、キィ、と椅子を鳴らしてボクのすぐ側まで動かし、そして、ボクの頬にそっと手を沿えた。優しい手つきと目つきが、ボクだけに向けられている。大人だなあ……ドキドキする。
鳶色の瞳がゆっくり閉じて、格好良い顔が近付いてくる。ぎゅっと目を瞑れば、ちゅ、と唇に柔らかくも弾力のある、暖かさが触れた。
目を開けると、何時もは子供っぽい事ばかりするのに、こんなときばっかり大人の男って感じの色っぽい顔をした恋人が、やさしく微笑んで云った。
「それに、愛しい恋人のお誘いに勝るものなんて無いよ」
「……ずるいですよ、太宰さん」
「ふふっ。お互い様でしょ」
わあ、ほっぺた熱い……
太宰さんは、立ち上がって、太宰さんの机の下に置いてあった紙袋を僕に渡してきた。少し重い……中には黒い布のようなものが見えた。
「? 何ですか、これ。太宰さん」
「見れば判るよ。じゃあ私は残りをやっちゃうから、一時間後に鳥居の所で待ち合わせね。この贈呈品、ちゃんと使ってきてよ?」
「わ、判りました……」
「うんうん。じゃあまたあとでね。手伝ってくれてありがとう、お疲れ様」
太宰さんはひらひらと手を振り、ボクの書きかけの書類と自分が書いていたものをひとまとめにすると、さらさらと書き始めた。ちゃんと仕事してる……今日に限って、どうしてだろう? 何時もなら、「明日の朝一って事はぁ、明日国木田くんが出社してくる迄が時間期限[タイムリミット]って事だよねぇ」なんて後回しにしていくのに。
でも、喜ばしいことか……ボク、太宰さんの遣る気の邪魔しちゃったかな……
少ししょんぼりして、ボクは恋人からの贈呈品をぎゅっと胸に抱いて、事務所を出ていった。
「……莫迦だなあ。私の遣る気の原動元は健気な恋人しかいないのにねえ。……今日は少し違うけれど。ふふ。谷崎君がアレ着てきてくれるの、楽しみだなあ」
事務所に一人残った太宰はそう云いながら、悪戯っ子のように笑った。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.100 )
- 日時: 2019/08/20 18:23
- 名前: 枕木
100です。ええ、とうとう100です。読む方の得は一切考えず自分がおいしいだけの駄文を書き連ねてはや4ヶ月…ええ。今日この時間で大体4ヶ月なんです。ええ、ええ。
憧れの作者様とお話できたり、すこーしだけ文才あがったり? 本当に楽しいです!これからもどうぞ、相変わらず太中と中也受けと乱歩受けとマイナーしか書かない駄作者をよろしくお願い致します。(ペコリ)
本日は自虐多めでお送りしました(笑)やっぱり「そんなことないですよ!」って言われたいよねえ。ふふ。(チラッ)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.101 )
- 日時: 2019/08/22 21:54
- 名前: 枕木
「わー、いらっしゃい中也ー♪」
「来るな寄るな気色悪ィ」
「またまた、照れちゃって♪」
「殺されてェか……?」
「うーん、中也になら考えてあげても……」
「莫迦なのか? とっとと死ねよ」
「えー、そう云われるとなあ……」
「どっちなんだよ手前はァ!!」
「中也は、どうしてほしいの?」
「俺は……」
「ん?」
「俺は」
「うん」
「……矢っ張りいい」
「えー!? ずるい!! 云ってよ!!」
「云わねェ、絶ッ対云わねェ」
「死んでほしくないの?」
「云わねェっつってんだろ。俺が云わねェって云ったら死んでも云わねェよ」
「ふむ……それならもう云わせる手段なし、か」
「そうだろ? けっ、時間の無駄だったぜ、全く。手前からかっても疲れるだけだなァ」
「それ判ってて毎年来るの君でしょ」
「るっせェな。あー、もう俺はいくからな」
「……じゃあ、最後に教えてよ」
「嗚呼?」
「中也はさ……」
太宰は、真っ直ぐ彼をみつめた。
そして、唇を開いた。
「私に、死んでほしいの?」
彼は、不機嫌そうに口を結んで、笑顔の太宰をじっとみつめて、そして、はあ、と面倒そうにため息を吐いた。
「ねえ中也……」
「だから」
焦れて、彼に一歩踏み込んだ太宰の声を遮って、彼の凛とした声が、部屋に響いた。
「来るなって、云ってんだろ」
ぼろぼろの帽子と、破け目1つない黒手袋と、罵倒の言葉と、単純な思考回路と……
矢っ張り阿呆以外の何者でもないな、と、太宰は、自分の吐いた二酸化炭素だけが溜まる部屋に三百回目くらいの溜め息を吐いた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.102 )
- 日時: 2019/08/23 19:06
- 名前: 枕木
つっかれたー!!
疲れた。とにかく疲れた。マフィア絡みの始末書だったから、今回ばかりは国木田君に丸投げするわけにもいかず久方ぶりに机に向かい朝から夜までみっちり書き物をしてみればこの始末。矢っ張りお仕事なんてするものじゃないね。明日は絶対働かない……って、毎日誓ってるけど。それなのに結局こうして働いちゃう私ってば何てお人好しなんだろう。
嗚呼、国木田君が怒鳴る幻聴が聴こえる……まずいなあ。これは早く寝ちゃった方がいいよね。お風呂とか御飯とか何も考えず、泥のように眠りたい……嗚呼でも明日も出社しなきゃだしどっちもしなきゃなあ……でも、御飯もお風呂も、一緒にする人がいないとイマイチ、なんか。って云っても、最近あっちも忙しいみたいだし、当分会えそうにないけどね。
憂鬱に溜め息を吐きながら外套のポケットの中の鍵をまさぐり、ふと住処であるアパートを見上げてみれば、自分の部屋に位置する場所の明かりが点いていた。
はて、お客さんかな……? でも、電気点けるなんてナンセンスな事しないか。真っ暗のまま玄関の死角に潜んで、私が入ってきたら私が電気を点ける前に後ろに回り込んで首をかっさばけばいい話だもの。とすると、空き巣さん? 物騒だなあ、やだなあ、蒲団の下に隠してあるお酒盗られたらどうしよう。
お酒を盗られるのは嫌だから、アパートの古い階段を重い足でなんとか上っていく。そして、傘で殴れば気絶するかなあ……なんてぼんやり考えながら自分の部屋の前まで来ると、ドアノブをひねった。嗚呼、本当に今日はよくない日かも知れない。こんな疲れた頭と躰で、ちゃあんと空き巣さんを追い払えるかなあ。面倒くさいなあ。あーあ、こんな日には、無性にあいつの声が聴きたくなる……絶望的な気分でドアを開けて、そして、その光景に、目を見開いた。
……え?
玄関には、一足の黒い革靴。見慣れた予想外なそれに目を見開いていると、奥の居間から、声がした。
「帰ったか? 年中暇な探偵社には珍しいじゃねェか」
凛とした、乱暴な言葉遣いの、その声。
それに回らない頭で呆然としていると、足音がして、居間に続くドアが開いて、そいつが姿を現した。
「早く入れよ。飯が冷めちまうだろ」
「……」
「おい」
「……」
「太宰?」
不機嫌そうだったのがいぶかしげな表情に変わり、とてとてと近づいてくる。
そして、たちすくむ私の目の前までくると、首を伸ばして、蒼い双眸で私を見上げて、眉を寄せた。
「おい、聞いてんのか?」
返事をできないでいると、チョーカーをつけた首をかしげ、そして、ふわっと浮き上がると、私の顔をのぞきこんだ。
「どうしたんだよ太宰。熱でも……どわっ!?」
心配そうに揺れる瞳と、目の前の顔を見ていたら、もう堪えられなくなってしまって。衝動にあらがわず、目の前の彼を……会いたくてたまらなかった恋人を、ぎゅっと抱き締めた。
異能が解けてすっぽり私の胸に収まる彼を、ぎゅう……と思いきり抱き締めて、朱色の髪に、首筋に、顔を埋める。
嗚呼、中也のにおいがする。
「はぁ……」と深く息を吐き愛しい感触と体温とにおいを躰中で堪能していると、「おい、おい」と胸板をばしばし叩かれた。
少し腕を緩めて見てみると、頬を染めた恋人が、私の胸の中から私を見上げていた。
「ど、どうしたんだよ、まじで……矢っ張り体調悪いのか……?」
余程驚いたのか、しどろもどろに尋ねてくる。
あーあ、矢っ張り知らないんだなあ、中也は。
「んー……そうだね、少し悪かったけど、でも、もう治ったかなあ」
「? そ、そうなのか……?」
「うん。嗚呼そうだ、御飯作ってくれたの? お腹ぺこぺこなんだよね」
「嗚呼……そんな手の込んだもん作ってねェけどな」
「お風呂は?」
「沸いてる。先風呂にするか?」
「そうしようかなあ。一緒に入ろうよ、中也」
「い……善いが……へ、変な気、起こすなよ……?」
「わあ、中也のエッチ」
「ああ”!?」
「あはは、ごめんごめん。判った判った、何もしないよ。じゃあこのままお風呂場行こうか」
「わ、莫迦下ろせ……っ!!」
何もしないよ。多分……ね♪ と心の中で付け加えて、私はいつの間にか空いていたお腹と、いつの間にか満ち足りた幸せな気持ちと、顔を真っ赤にして足をバタバタさせる恋人を抱えて、意気揚々とお風呂場へ向かった。
そして、ふと思い立って、立ち止まって、目をぱちくりさせる恋人に微笑んで、「ただいま」と口づけした。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.103 )
- 日時: 2019/08/26 01:25
- 名前: 弑逆
か、感想ってここに書いて良いんですかね…
ずいぶん前から読ませていただいてます!個人的に作者様の太中が大好きでして…単語の使い方とか中也さん達の動かし方とか…もう惚れ惚れしてます!これからも読ませていただきます!頑張ってください(^^ゞ((長文失礼しましたぁ…!!
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.104 )
- 日時: 2019/08/27 00:45
- 名前: 枕木
>>103
弑逆様
あざあああっす!!嬉しいです、有り難う御座います♪
太中は個人的に大好きで書いている処あるので、そういっていただけると凄く嬉しいしほっとします…(´`*)
乱歩受け中也受けと言いつつ太中メインになりつつあります(--;)だから逆手をとって、太中だけでも目当てで来ていただければなと!要は、これからもどうぞよろしくお願いします。
とにかく嬉しかった…前から読んでたとか…有り難う御座いました(_ _)期待に沿えるように頑張らせていただきます♪またのお越しをお待ちしています〜(切に)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.105 )
- 日時: 2019/09/02 03:48
- 名前: 枕木
マイナーcpだっていいじゃない!あみだくじ文ストBL企画!!(>>94参照)
第二弾
中島敦×江戸川乱歩
風邪
信じられない事が起こりました。
僕に、恋人ができました。
歳上で、僕の職場の大先輩で、人間の域を超えた頭脳の持ち主。だけど、我が儘なのに素直じゃなくて甘味が好きで、座右の銘は『僕がよければすべてよし』だって。困った先輩だよね。
でも……すっごく、頑張ってる人なんだ。一人で探偵社を支えてる。あの小さな躰で、なんでもないよって顔して、お菓子をポリポリ食べながら、でも、すごく、すごく頑張ってる。
そんな“彼”に向けていた尊敬と信頼の念は、いつの間にか、彼に見合う人になりたいと、彼に見合う人が妬ましいと、そういう、恋心とか云うものに変わっていた。
僕には重すぎる問題で、実は……なんて重々しく谷崎さんに相談してみたら、谷崎さんは吃驚したように目を数回瞬かせたあと、ぷっと吹き出した。
あのときはなんで笑われたのか判らなかったなあ。「あはは! だって、敦君があんまり深刻そうな顔して云うから……」なんて。まあ、その理由も、その彼に告白したときに判った訳だけど……
本当に信じられない。人に、それも彼の人に、愛して貰えるなんて。今も未だ、何処かで疑ってる。だけど、信じられないくらい幸せだ。
でもね、信じられない事ってもっとあるみたいだ。誰が想像できたと思う?
その彼の住処の扉の前に、買い物袋をぶらさげて立っているなんて……
いや、彼の家は知ってた。知ってたよ。とっくに。でも、「行っていいですか?」なんて訊く勇気などある訳もなく、彼が誘ってくれる訳もなく。
それなのにどうして今僕が此処にいるのかと問われれば、答えは1つ。
彼が……乱歩さんが、風邪をひいたから。
これが信じられない事の1つ。乱歩さんが風邪ひくとか信じられな……いや案外そうでもないかな。食生活いいとは云えないし、小柄だし子供っぽいし可愛いし可愛いし可愛いし……可愛い子って風邪をひきやすいとか云うし。そういうことなのかなあ。
勿論、乱歩さんから「来て」なんて云われた訳じゃない。今日出勤したら乱歩さんが明日一杯迄欠勤ということになっていて、どうしたんですかって訊いてみたら「風邪を患ったらしい。かなり苦しそうな声だったな、心配だ……」「嗚呼それなら敦君、お見舞いに行ってきたらどうだい?」「丁度いいじゃないか。風邪薬なんかも持っていっておくれ」「私も生憎暇がない。一日かけても善いから、行ってやってくれ」と、とんとん拍子に、ね。
嬉しい……すごく嬉しいんだけど、足ぶるぶるしてる……だってなんか、緊張する。どきどきする。初めての、乱歩さんの家……きっと荒れ放題なんだろうけど。でも、恋人の家だなんて、だって、つまり、それって……さ? 嗚呼もう僕の思考が駄目だ……今乱歩さんは病人なんだから。僕はお見舞いと看病の為に来たんだから。そう、それ! 看病、看病、病人、病人。そうだよ。振り払うんだ煩悩を……
ガチャッ
「ひっ!?」
突然目の前の扉が開いて、躰が跳ね上がった。ああうん、出てくるのは一人しかいないよ。判ってる。誰よりも愛しくて、それでいて……
「……何? 不審者?」
可愛い。
うん、可愛い。今日も天使です乱歩さん。
扉をすこーし開け、その隙間から顔を覗かせる、僕の、恋人。
元気な黒髪と、鋭い糸目と、熱があるのか赤らんだ頬と、不機嫌そうに結ばれた唇と、桃色の寝間着と……
一言で表し切れているか不安なくらい、可愛い。
天使に見とれていると、その愛らしい唇を開き、乱歩さんは、ツンツン云った。
「お見舞いも看病もいらない。帰っていいよ。お菓子だけ置いていって」
え、あわわ、それはやだ……
僕は、口を尖らせている恋人に、慌てて云った。
「で、でも、あの、し、社長とか国木田さんにも云われて……よ、与謝野さんから薬も……」
「えー、『忙しいから代わりに行ってくれ』って? いいよそういうの。薬も苦いやつでしょ。良薬は口に苦しとか絶対嘘だもん。折角風邪になったんだから風邪シロップ飲ませてよ」
うーん、乱歩さん、あのシロップ好きなんだ……ぷりぷりしちゃって、可愛いなあ。でもどうしよう、家に入れて
もらえない……
「えっと……さ」
「差し入れ? それだけ置いていってくれればいいよじゃあね」
「ま」
バタン
「……」
鼻先で勢いよく扉が閉まる。
え、えぇ……? せめて袋だけ受け取ってくれたりしない、かなあ。何だろう、もしや、嫌われてる……? らんぽさぁん……でも、元気そうだったし大丈夫なのかな。それなら、よかった。でもちょっぴり残念だったり……でもまあ、予想できない展開ではないよね。
うん、と一人頷き、帰ろう、と袋を置こうとしたそのとき。
「ごほっ……ごほっ、ごほっ、がはっ……ヒュー……ヒュー……」
乱歩さん!?
扉越しに苦しそうに咳をする、乱歩さんの呼吸音。僕は他のことは何も考えず、直ぐ様扉を開けた。見ると、乱歩さんが玄関先で屈みこみ、肩を上下させていた。
「乱歩さん!? 大丈夫ですか!?」
回り込んで屈み、正面から肩を掴む。
乱歩さんは手で口を押さえ「ごほっ、ごほっ」と肺から出すような咳をして、そして、涙目で僕を見上げた。
「…………くすり」
「え?」
「薬、苦い、でしょ?」
「え、ええ、はい、多分」
「……飲ませてよ」
「!」
「でも、ご飯のあとじゃないと、くすり、飲んじゃだめ。……だから」
目を逸らし、ツンツン云う乱歩さん。嗚呼、その赤らんだ頬は、熱の所為だけじゃないですよね、乱歩さん。
「任せて下さい」
云いにくそうにしている乱歩さんに、云う。乱歩さんは、僕をみつめた。にこっと笑いかける。乱歩さんは僅かに目を見張った。
「僕は乱歩さんの恋人ですよ?」
「……莫迦じゃないの、何今更」
そう云いながら、乱歩さんは、とん、と額を僕の胸に預けてくれた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.106 )
- 日時: 2019/09/05 19:13
- 名前: 華蓮
ああ…貴方の文才がすばらし過ぎて辛いです…(急にキモい事言ってすみません)
続き楽しみに待ってます(*≧∀≦*)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.107 )
- 日時: 2019/09/07 05:20
- 名前: 枕木
>>106
華蓮様
うわぁぁ、ありがとうございます…!
嬉しいです!!褒めてもらうと伸びる子なので、沢山書かせて頂きたいと思います♪すっごく励みになります、本当に…(泣) 続き書いて待っていますから、またいらして下さいね!(^^)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.108 )
- 日時: 2019/09/07 06:12
- 名前: 枕木
とりあえず乱歩さんを虎の腕力で寝床まで運んだ。
うーん、矢っ張り顔赤いなあ。熱、どのくらいあるんだろう。
「乱歩さん、熱って計りました?」
乱歩さんは、ひざまづいて訊いた僕を開いた瞳でじっとみつめ、その後、ぷいっと顔を背けた。
「計ってない。でも敦が気にすることじゃない。お医者さんとかいいし。与謝野さんから貰った薬の中に解熱剤あるでしょ。どうせ飲むんだから同じだよ」
そういう問題じゃないです!乱歩さん!!
弱ったなあ。お医者さん嫌がるのは判ってたからいいけど、せめて熱くらいは……心配だもん……体温計なら僕も持ってきたし……
ごほっ、ごほっと辛そうに咳をする乱歩さんの団子蟲みたいに丸めた背中を摩って、どうにか検温させようと考える。少しして、ぽんっといい考えを思い付いた。これだ!
「乱歩さん……熱の高さに依って、薬の種類、変わりますよ?」
乱歩さんがぴくっと躰を動かした。どうだ……?
でも直ぐにきっぱりばっさり「嘘だね」と切り捨てられた。確かに、立てるくらい元気だったら飲ませておくれって貰った薬しかない。もしそれより重症だったら連絡してって云われてる。辛そうだったけど玄関まで出てきてくれたりしたし、とりあえずは僕が看病するで大丈夫だよね。
手強いな……それなら。
「じゃあ僕お粥作りません」
今度は、先刻より大きく、びくっと乱歩さんの躰が動いた。
本気ですからね乱歩さん! と、名探偵に読み取られないように、心の中で念じる。
少ししてから、乱歩さんがのっそり躰を起こした。そして、此方を見ずに云った。
「……体温計」
「はい!」
やったー!
* * *
むっつりした顔の乱歩さんから手渡された体温計に表示されていたのは、38度9分の文字。矢っ張り高い……心なしか、乱歩さんは先刻より息荒く辛そうに見えた。目を瞑り蒲団に潜り込んでいる乱歩さんの背中が、ごほっ、ごほっと大きく上下する。僕には、その背中を摩ることしかできないけれど。僕も苦しいです、乱歩さん。貴方を助けたいのに。
「……助けたいならさ」
ごほごほと咳をしてから、乱歩さんが僕に振り返った。濡れた瞳が僕をみつめた。
僕は、目を見張った。
「お粥、作ってよ」
乱歩さんは手を伸ばし、僕のシャツの袖口をぎゅっと握った。
「云うこと、ちゃんときいたでしょ……? 敦」
少し不安そうに僕を見上げるうるんだ瞳を見ていたら、胸がぎゅっと締め付けられた。
なんだろう、なんか。
愛おしいなあ。
「はい、今すぐに」
額にキスをして、にこっと笑いかけて、立ち上がった。
嗚呼そうだ、僕が好きになったのもあの瞳だった。いつも凛と据えている瞳が不安そうに揺れて僕をみつめる。その瞳を好きになった。変な性癖かなあ。僕が貴方に告白した日も、その瞳をしましたね。嗚呼、懐かしいなあ。
ふふ、と笑って台所に立った。
乱歩さんは、忘れているかもしれないし、忘れたいのかもしれないけれど。
でも僕はね、本当に本当に、嬉しかったんです、嬉しいんです。
あの日も、そして今この瞬間も。
貴方が「敦ってこれだけはまともだよね」ってお鍋一杯食べてくれるお粥を作りながら。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.109 )
- 日時: 2019/09/09 17:50
- 名前: 華蓮
素敵過ぎてまた来てしまいました♪
枕木さんの作品ほんとに萌えますぅぅぅ(*ノ▽ノ)応援し続けますから頑張ってください!
また来ます!!
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.110 )
- 日時: 2019/09/14 17:03
- 名前: 枕木
>>109
華蓮様
返信遅くなり申し訳ありません
また嬉しいコメントありがとうございます…(泣)
ここで活動していて、こんなに応援してもらえるなんて、これ以上嬉しいことはありません…(号泣)
しかも、また来て下さるって…もう大好きです!
最近はモシモシカメサン更新ですが、コメントを励みに、続き書いてお待ちしております♪
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.111 )
- 日時: 2019/09/27 18:39
- 名前: 枕木
暫くは、敦が料理をしている、料理器具や食材なんかを扱う音を聞いていた。聞き慣れない音だ。僕の部屋の台所が使われるのも、僕ではない生き物がこの部屋で息をして動いているのも。
ずっと独りだったんだから、それが普通だったんだから。それ以上も以下もあり得なかった。
でも、それが、どうしてこうなったのかなあ。いつの間にか、僕の周りには沢山の生き物が……仲間、が、いた。
みんなやたらときらきら輝く目で僕を見て、「乱歩さん、乱歩さん」って。その中の一人が、寂しい虎の子が、走りよってきて、笑いかけてきて、凄いなあって、僕も頑張りますねって。
変な奴だなって思った。人間の心なんて理解できないししたくもない。だけど、何故かそいつは僕に近づいてくる。ぐいぐい、ぐいぐい。鬱陶しいって追い払おうとしたのに、ふと気づいてしまった。
僕はそいつが、それが、嫌じゃなかった。鬱陶しくなかった。どうしてだろう。どうして?
嗚呼、そうか、僕は……
判らないわけない。判りたくなくても、判ってしまうんだ。だって僕は、名探偵だから。この世に一人の、名探偵だから。
「……さん、ら……ぽ、さん……」
だって、仕方ないじゃないか。あんな奴。あんな奴……
「らん……ぽさ……」
彼奴が、好きになったのは、彼奴が愛したのは、『名探偵』じゃなかった。彼奴が、敦が見ていたのは……
「乱歩さん」
『江戸川乱歩』だったから。
「っ……」
「乱歩さん! 御免なさい、お粥冷めちゃうので起こしちゃいました」
目を開けると、眼前にあったのは、にこっと笑った恋人の顔だった。
嗚呼……お粥待ってる内に寝ちゃったのか。
少しぼーっとしていると、敦は僕の上に乗り出していた身を引き、傍らの机の上に置いていた器を手に取った。器からは湯気が出ていて、側に持ってくると出汁の美味しそうなにおいがした。お粥……敦のお粥だ。具は鮭のほぐし身と溶き卵だけの、素朴なお粥。僕達が初めて体温を通わせたとき、立ち上がれなくなった僕を心配して敦が作ってくれたのと、同じ。……そう考えたら。
「……ふふっ」
「? 乱歩さん? どうかしました?」
「……否。ほら、早く食べさせてよ」
「あっ、はい!」
敦は嬉しそうに頷くと、匙を手に取り、お粥を掬った。
「はい、あーん♪」
……楽しそうにあーんするの止めてくれない? 恥ずかしいのに、断れなくなるじゃんか。
全く、もう。
僕は口を開けて、ぱくっとそれを口に含んだ。たちまち、優しいにおいと味が口いっぱいに広がる。
「美味しいですか?」
少し不安げにそう訊いてくる敦の顔をちらっと見て、ふんっと顔を背ける。「ら、乱歩さん!?」と焦った声が追ってくる。
……でも、まあ、褒めてあげても……しないけど!
その代わりに、そっと振り向いて、口を開けた。目をぱちくりさせる敦に、小さな声で云う。
「……もっと」
「!! はい♪」
敦は、嬉しそうに頬を上気させて、ぱあっと笑った。その笑顔に、僕は、心の中で云った。
初めて身体を許した日に食べたお粥。
初めて心を許した日に見せた表情。
敦。僕もね、覚えているよ。忘れてもないし、忘れたくもない。みくびらないでよね。ちゃんと覚えてる。
僕も……嬉しかったから。
でもそれを口には出さず、ただ、恋人の手作りのお粥を祖癪する。
やさしい味、言い換えればいかにも貧乏な薄味は彼の本性丸出しで、くふふっと笑ってしまった。
ここで一旦切ります。ここからの展開をもう少し練りたいので。何話か別の話を挟んでになりますが、続きをお楽しみに!
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.112 )
- 日時: 2019/09/28 22:56
- 名前: 枕木
「……中也」
「ん……」
その声に、ぱちっと目を開けた。今何時だ……躊躇いがちに細く開いた扉の隙間からさしこむ光に目を細め、返事をする。
そこから顔を出したのは、帰宅した夫だった。
「御免、起こしちゃったようだね」
「否、いい。お帰り、太宰。飯食ったか?」
「うん。台所立つの辛いのに作り置きさせちゃって御免ね」
「悪ィな、飯一緒に食えなくて。ろくなもん作れなかったし」
「ううん。美味しかったよ。君って料理だけは人並みだから……」
少し遠慮したような変な軽口にくすっと笑う。全く、らしくねェなァ。
黙って、手招きする。太宰はそっと寝室に入ってきて扉を閉め、蒲団脇のスタンドライトを点けた。そして、そのまま俺の枕元に座り、俺の髪を撫でた。
その手つきが心地好くて目を瞑る。最近は太宰も仕事量が多く、俺もつわりが非道くてずっと寝込んでいる状態だったから、こうして触れ合うのは久しぶりだ。矢っ張り、なんか落ち着くな……
俺がつわりになってから、俺の希望で、太宰には俺が寝る寝室にあまり入ることのないように、リビングで寝てもらっている。でも、今日は……
「太宰、風呂入ったか」
「うん」
「歯磨きは?」
「したよ。なあに、お母さんみたい」
「まあ、練習だろ」
「そっか。中也、本物のお母さんだものね」
太宰はふふっと笑い、目を細めた。仄かな明かりに照らされた、俺を見下ろす太宰の顔は、何処までも優しかった。
それを見た途端、愛しさが溢れた。
胸の内が温かくなって、ぎゅっと締め付けられる。どうしようもなくなる。好きだなあって。好き。好きだ、太宰。
「太宰……」
呼びながら両手を伸ばすと、太宰は柔らかく笑って、そっと、俺に覆い被さり、そして、首に腕を回した俺をぎゅっと抱き締めた。
腹を気遣って、体重はかけないように、優しく、そっと、それでも、ぎゅっとしてくれる。幸福感に満たされて、「ふふっ♪」と笑みが溢れた。
「だーざーいー……」
「うん……ちゅーや、あったかいねえ。矢っ張り、こうしているのが一番幸せだなあ……」
耳元でほっと息をつく太宰が、俺と同じことを感じていることに驚いた。でも……嬉しいもんだな。
「なァ太宰」
「ぅん?」
「今日は……此処で寝ろよ」
「つわり、大丈夫なの?」
「嗚呼」
「そっか……」
太宰が、姿勢を変える為に俺を一度離した。そして、嬉しそうに微笑んで、俺に添い寝すると、自身の胸に俺を包み込んだ。
「ふふふっ」
堪えきれなくてという風に太宰がもらした笑みは、本当に幸せそうで。此方まで、嬉しくなった。
太宰のにおい、柔らかさ、鼓動、体温……
その愛しい全てを、顔をつけた胸から、包むように躰に回された腕から、密着した躰から、感じる。
嗚呼、矢っ張り俺は『これ』が一番好きだ。一番、安心する。
吐き気もだるさもあって最近は寝付きが悪かったが、今日はいい夢が見られそうだ。
そっと顔をあげてみると、やさしい笑顔がそこにあった。
ふっ、と笑って、再び胸に顔を埋めた。こういうことを云うのは、少しばかり恥ずかしい。
「……なァ、太宰」
「ぅん?」
「つわりも、収まってきたし……そろそろ、安定期に入る」
「! それは善かった」
嬉しそうな声。心配してただろうからなァ。こいつ、自殺未遂と錠外しと悪巧み以外、からっきしだからな。
だから……だからこそ、こうして甘やかしてくれるんだろう。
まあ、これにどれだけの効果があるかは本人は知らねェだろうし、知らなくていいけどな。
だから……だからな。
「…………明日から、此方で寝ろ」
「!!」
太宰の目が輝く。「いいの!? やったぁ!!」そんなところだろう。くすっと笑ってから、目を瞑った。愛しい胸に顔を埋める。
「それと」
父親になる、お前が。母親になる、俺が。
これからは何でも二人……否、三人になる。
今までもこれからも、沢山のことがある。良いことばかりじゃない。
だけど、確かに、ここに温もりがある。幸せがある。俺が掴んだものだ。手放さねェよ、絶対にな。
「赤ん坊の、服……とか、買いに、行くか」
「っ……うん!」
思い描く未来、ここにある温もり。
それがあれば、今はいい。幸せなんだ。すごく、すごく、な。
明日は起きたら一番にこいつにキスしよう。驚いて跳ね起きたのを笑ってやろう。そして、朝飯を一緒に食おう。
幸福を噛み締めて、眠りについた。愛しい人に包まれて、俺は夢も見ない、安心しきった眠りに落ちていった。
「おやすみ、中也」
太宰は、世界で一番愛しい二人にキスをした。
幸せな、とある家族の、夜の話。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.113 )
- 日時: 2019/09/29 14:01
- 名前: 枕木
それは、昨夜の疲れが取れない怠い躰を懸命に動かして朝飯を作っていた、少し苛つくくらい清々しく晴れた休日の朝のこと。
背後からやってきた悪魔は、唐突に云った。
「中也ってさ、何時も私でイッてる?」
「…………は?」
振り返り、奴の顔をまじまじとみつめる。
きょとん、と俺をみつめ返すその鳶色の瞳が、ちゃんと据わっているのを確認する。
……とすると、これは。
「なんだい? そんなにみつめられると照れるなあ」
「…………太宰」
ドゴッ
鈍い音が、チュンチュンと鳴く雀の鳴き声と共鳴した。
* * *
「ねえ、機嫌直してよ、ちゅーやー」
「……」
「ごめんって云っているじゃない。少し確かめたかっただけだよ」
「……」
「ちゅーうーやー」
先刻から俺の周りをくるくる回り、ご機嫌取りでもしている積もりなのかちょくちょく料理に手を出してくる恋人が心底うざったい。あー、もういっそのこと殺すか。それが世のため俺たちの為なのかもなあ。そんなことをぼんやり考えながら、そっと醤油の瓶を寄せてきた手を無視して、1つだけ焼いた目玉焼きに塩を振り掛ける。後ろで、でっかい生き物がぐすぐす鳴いている。
「中也さああん……」
あーっ、もう!!
キッと振り返り、手を伸ばして、胸ぐらをガッと掴んだ。そして、仔犬みてェに目をうるませているその顔に怒鳴りつけた。
「っせェんだよ、黙れ殺すぞ呆け!!」
「中也が無視するからじゃないか!!」
「手前が俺のこと辱しめようとするからだろうが!!」
「辱しめようとなんてしてないよ! 私は只、少し気になっただけだよ」
「ああ”!?」
太宰は、「心外だ!」とでも云うように顔を歪めた。そして、ふん、と息を吐き、俺の腰に手を添えた。
一般的に美しいと称されるその顔が艶やかな笑みをたたえ、至近距離で俺をみつめる。な、なんだ……?
「勿論、昨晩も君が私ので何度も奥を突かれて『太宰、イく、イッちゃう……っ』って泣きながら7回もイッたこと、私は知っているよ?」
嗚呼、矢っ張りこいつ殺すかな。
「でも、悪魔で君がイかされたのは、“私の息子”……それなら、“私”でイッているという事実はあるのかなって」
よし、殺そう。
「ねえ中也、その辺りはどうなの?」
そのにこやかな笑顔を殴る為、拳を固める。しかし、腰に添えられた手がすす、と移動し、尻を撫でた。
「ひっ!?」
「ねえ中也、どうなの……?」
耳に太宰の口元が寄せられ、湿った生々しい吐息が、なまめかしいテノールが、耳を犯す。尻を擦っていた手が、その谷間に入ろうとしている。昨晩の快楽と感触を思い出して、カァッと躰が熱くなった。シャツ一枚だけで隠された肌が密着している。
「ねえ、中也……?」
シャツの裾から入り込んでくる手の感触を感じた途端、俺は叫んだ。
「んな訳あるか、俺がイカされてんのは手前じゃねェ!!」
太宰で……太宰で、イけるか、なんて。
そんなの、訊かなくたって知ってるくせに。なんで、今更。否でも、知られてても困るが。手前に触れることが、触れられることが許されていなかった時期、俺がもてあまされた熱を何で発散していたか、なんて……
そう思って、叫んだのに。何故か、パッと躰が離れていった。
え……? 顔をあげると、太宰は両手をあげ、にこっと笑っていた。
「そっかあ。それは残念だよ」
ん……?
あれ、なんか、変……? 気のせいか?
「それじゃあ私はもう一眠りしておこうかな。中也も無理しないでね」
太宰は目玉焼きとウィンナーの乗った皿をもち、にこっと笑いかけてくると、そのまま寝室へ歩いていった。
なんだ、あいつ……
つーか、自然体[ナチュラル]に目玉焼き持っていきやがった……
チッと舌打ちし、もう一度コンロに火をかける。太宰の口調や動作に感じた違和感は、もう気にしないことにした。
まあ、この朝の出来事が、思えば元凶だったんだろうがな……
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.114 )
- 日時: 2019/10/05 18:46
- 名前: 枕木
仕事が片付き、懲り固まった肩をボキボキ鳴らして回しながら、帰路についた。
この時間なら未だ店やってるか……? 冷蔵庫の中何もねェから、食材買い足さねェと。買い置きのカップ麺は太宰に平らげられてるだろうし、あれってあんまり躰によくねェからな……つか、あいつも多少は家事に協力……したら逆効果だもんなァ。奴に任せたら、仕事が三倍になって返ってくる。あれはお得意のいやがらせってやつなのか、普通に無能なのか、判別は出来ていない。どちらにしろ、役にはたたない。つまりは、家事の一切がっさいは俺の仕事だ。ああ……
溜め息を吐きながら、奴のへらへらした顔を思い浮かべてひたすら呪い殺していたとき、外套の内ポケットから携帯の着信音が鳴った。そういや、今日の朝切るの忘れてたな。1日鳴らなかったが。仕事に支障がないよう、切るようにはしている。その所為で以前、太宰に「なんで携帯電源入れてないの! もう。帰り際に歯磨き粉買ってきてって頼もうとしたのに……」とぷんすこされたことがある。歯磨き粉くらい自分で買ってこいよと云いたかったが、確かに、小遣いを渡していなかった太宰よりも家計を管理している俺が帰りに買った方が合理的だった。だから素直に謝ったら、奴は「じゃあお詫びの気持ちを見せてよ」とかなんとかほざいて、俺に奴のそれを……あああああああ!!! まじで殺すあいつ!!
そんな、頭から湯気が出そうなほど奴への感情が昂っているところにきた、メール。それは、タイミングがいいのか悪いのか、よりにもよって『青鯖』だった。
反射的に携帯電話を握り潰しそうになったが、辛うじて理性がはたらいた。舌打ちして、画面を操作する。これがしょうもねェ内容なら、家帰ったら殺す……!! と決意してメールを開くと。
『お疲れ様、中也。
突然だけど、今、緊急の依頼で××市にいるんだ』
それなら、電車で四時間といったところか。マフィアの傘下の大手薬品開発メーカーの親会社があるから、たまに首領が社長に会いに行くのに着いていくことがある。まあ電車なんて乗らないからおおよそだが、ここからかなり遠いことにはかわりない。
ふうん……そうか、忙しいときに限って嫌がらせみたいに、いや実際に嫌がらせなんだろうが、太宰から意味もなく『やっほー! 元気〜?』なんてかかってくる電話が今日はなかったのは、あっちも忙しかったからか。あいつが真面目に働いているなんて想像もつかないから、粗方、仕事仲間に引きずられて行ったのだろう。
合点して、メールを読み進める。
『今やっとお仕事が終わったところだから、今日はこのまま此方に止まって、始発で帰ることにするよ。夕食も要らないから、そういうことで。じゃあね。』
始発っつうと、此方に帰ってくるのは俺が仕事に出たあとになるか……じゃあ、会えねェな……晩飯も朝飯も独りか、久しぶりに……
なんて、少しだけ、本当に少しだけ、爪の先くらい、淋しくなっていたとき。
まだ改行が続いていることに気付き画面をスクロールした俺の目に入ってきたのは。
『買い物ついでに、ローション切らしてたから買っておいてね!』
よし、死ね太宰。
携帯電話をブチッと切り、どすどす歩く。アスファルトに若干ひびが入るのにも構わず、俺は肩を怒らせて歩いた。
今日はあまりの高価に手を出しあぐねてた葡萄酒を太宰の収入から出して買ってやる。ついでに、思いっきり贅沢な夕食買って食ってやる!! よし、決めた。
その数刻後、どっしり詰まった買い物袋を浮かせて家の扉前に立っていた俺の元に、『明日君に任せる予定だった案件が解決したから、休みでいいよ』という首領からの電話が入った。有り難く甘えさせてもらい、俺はそのときラッキー♪ としか思わず、もうこの際夜が更けるまで食い散らかしてやろうと心に決めて、足で扉を開けた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.115 )
- 日時: 2019/10/06 10:54
- 名前: 枕木
んぁ……あ?
目を覚ました。あれ、俺寝てたのか……目を擦り擦り掛け時計を見てみれば、日付が変わる時刻を示していた。
机の上に突っ伏して寝ていたようだ。机の上には今日買った多少贅沢品の冷凍食品や加工肉やらのパッケージが散らかっている。満腹になったら、仕事疲れも相まって寝てしまったようだった。頭を掻き、「うぅん……」と伸びをし、帰ってきたときよりもいくらか軽くなった躰で立ち上がって、片付けを始めた。
にしても、一人で贅沢するってのは悪くねェな。これから、太宰がいない夜はこうしてやろう。
でもまあ……彼奴と食卓を挟んで、俺が作った飯を旨そうに食う彼奴を見ながら、他愛のない会話をして食う飯も中々……いやいい加減彼奴のこと考えるのよそう。なんかきもいだろ俺……
頬が熱くなるのを感じながら後始末を終えたときには、もうすっかり目も冴えていて、二度寝する気にはなれなかった。どうせ明日は休日だ。このまま摘まみでも食いつつテレビでも見るか……、とその前に、家帰ってきてから家事なんもしてねェな。洗濯くらいはしとかねェと。
俺は籠に溜め込んである二人分の衣服を洗濯機の中に放り込み、洗剤を入れてスイッチを入れた。洗濯機が回り出したのを確認してリビングを見渡せば、ふと、ソファの上にシャツが置いてあるのに気づいた。彼奴のシャツか、また脱ぎっぱなしにしやがって……一緒に洗濯しちまえば善かったな。とりあえず、籠の中に……と拾い上げ、何気なく広げてみる。
全く腹立たしいことだが、でかい。
ひょろいから羽織りのようになることはないが、袖も丈もでかい。真っ白で、一見綺麗に見えるが彼奴が1日着ていたシャツだ。彼奴の……着ていたシャツ……
ごく、と喉が上下した。
今、ここには俺一人だ。何時もの五月蝿いのはいない。それなら、多少、多少は何をしたって、咎めるやつはいない。それなら。それなら……いいよな? 少しだけ、ほんの少しだけだ。別に、なんてことはねェ。そうだ。
そっと、自分の着ていたシャツを脱ぐ。するり、と脱げ落ちたシャツをソファの上に置いて、再び彼奴のシャツを広げる。胸がドキドキ鳴っている。少しだけ、少しだけだ。
そっと、腕を通して、羽織った。矢っ張り袖も丈も合っていない。だけど、襟を少しばかりたててみると、ぶわっと顔が熱くなった。
……太宰の、におい。
そりゃそうだ。太宰が1日中着ていた、肌に密着していた服だ。当然のことだ。それなら、俺は今、太宰と、密着してる……?
自分でも訳の判らないことを考えている内に、心臓がバクバク鳴って、躰がかあっと熱くなった。知っている感覚だ。息が、少しだけあがる。
ほんの少しの、好奇心、だろうか。そろりと手を伸ばして、足の間に触れてみた。
くちゅ
「っ……」
少し動かすと、硬い感触と、下着とそれが粘液で擦れる卑猥な音がした。もう下着はびちょびちょだ。脱がないと。
……もう一度だけ、そこに触れてみる。少しだけ、ズボンを押し上げている先端を押してみる。
「ン……ッ!」
緩やかな快楽に、背筋に何かが走る。こうなると、もう無理だ。観念するしかない。
こんな行為、何時ぶりになるだろう。毎日毎日彼奴が快楽を強要してくるから、自分で慰める必要なんてなかった。彼奴と付き合い始めたのが……だから、……ぶり……嗚呼、彼奴のことはいいんだよ!!
一回、一回だけなら、許されるよな。
ズボンを押し下げて脱ぎ、更に、下着も足から抜いていく。見ると、大きな染みができていた。
羞恥心にさいなまれて、下着を放り、ソファの上に仰向けになる。さっさと済ませちまえばいい。
頭を肘掛けで支えて目線を高くし、足を広げて、その間で、俺のそれが勃ちあがって、透明な液でとろとろになっているのを確認する。先端が赤く熟れて、早く早くと急かしているようだった。
自分の喘ぎ声を聞くのは忍びないから左手で口を抑え、右手を股に伸ばす。すう、と息を吸い込めば彼奴のにおいで一杯になって、触るとぴく、と内股が動いた。
太宰だったら、どうする……? まず、竿を握って、親指を亀頭にかける。そして、親指でぐりっと握り潰す。
「ッ、ッ、」
ぐりぐり握り潰して、腰がびくびく浮いて、心臓がバクバクする。もう快楽が欲しくなる。
すると太宰はにやっと口角をあげて、握ったその手を上下に動かす。くちゅくちゅ音がして、恥ずかしくて堪らないのに、摩擦で擦れるのが気持ちよくて、ビクビクする。
絶頂に向かい始めると、そのくびれたところを擦られる。段違いな快楽を与えられて、「だざい……」なんて口走ってしまう。
きもちい、きもちい……イきそう。太宰に、イかされちゃう。見られるの恥ずかしいけど、太宰で、イきたい……
頭の中は快楽と彼奴のことしかなくて、ただ、脳内の彼奴の動きを追って夢中になってそれをしごいた。
弱いところだけをカリカリ引っ掻いて責めたてて、絶頂の兆しに腰がしなる。太宰、イく。太宰で、イッちゃう。太宰、太宰、イく、イく……ッ
プルルルル……
「ッ!?」
はあ、はあ、と息が上がっていたのに気がついた。手を伸ばせる位置、机の上に、震えている携帯電話があるのを確認する。
まだ甘く溶けている脳が正常に動かなくて、俺は右手はそこに添えたままに、左手を伸ばして、携帯電話をとった。そして、かかってきた相手もろくに見ずに、応答する。これが首領とかだったら、俺どうしたんだろうな。
だが、そのとき耳にあてた携帯電話から入ってきたその声は、
『お楽しみのところ御免ね中也』
「ッ……!?」
甘い、恋人の声。
その瞬間、この現状が現実味を帯びて迫ってきて、カアッと顔が熱くなった。燃えそうだった。恥ずかしくて堪らなくて、何を云えばいいのか判らなかった。
だが、その声は『ふふ』と笑って。
『大丈夫大丈夫。可愛いよ、中也。そのまま続けて? ちゃんと中也が私のことを想ってイッてくれるとこ、聞いててあげるから』
「いや……」
『いやじゃないでしょ。ほら、見て御覧よ、君の股。ぐちゃぐちゃで、びんびんで、イキたがってるよ? ほら、その右手を動かして御覧? すっごくきもちいいよ』
ね? と促され、知らぬ間に、右手が動いていた。指でそれを撫で回してみると先刻みつけたイイところを見つけて、びく、と跳ねた。
『ほら、そこ、先刻みたいにカリカリして御覧』
云われるままに、指をたててそこをカリカリ引っ掻く。
「あァン!」
な……んだ今の声。太宰に、聞かれてた? やだ……恥ずかしい。でも、指止まんない。どうしよう、きもちい。太宰、太宰、聞こえてんのか? 俺が自分でくちゅくちゅ自分の慰めて、あんあん喘いでるの、聞こえてる?
「あ、あ、あッ……だ、ざ」
『うん、聞こえてるよ、全部。君が私のことだけ考えて、きもちよくなっちゃってるの……嗚呼、すっごく可愛いよ中也。もっと聞かせて?』
「あッ、ああッ!! あ、き、もちい、きもち、きもちぃ……あ、イく、イくぅ……」
涙がぽろぽろ溢れた。どうしよう、イッちゃう。恥ずかしい、恥ずかしい。太宰の声が、太宰のにおいが。きもちい、太宰……!
『いいよ……思いっきりイッて。私の名前呼んで。ほら……イッて』
グリッ
「ッ〜〜!! あァッ、だざいぃぃ……!! あァァン……!!」
びゅくっ
絞りだすような喘ぎ声が、一人きりの部屋に響いた。やべえ、きもちい……
快楽の余韻に浸って息を整えていると、『ふふっ』と笑う恋人の声が、力の抜けた左手から滑り落ちた携帯電話から聞こえた。
『すごい声出たね中也。そんなにきもちよかった?』
電話なのに、コクコク頷いてしまった。だけど太宰は『そっかそっか』と嬉しそうに云った。
『じゃあさ、中也……もっときもちよくならない?』
「……う、しろ……?」
『そう、当たり!』
「お、れ、遣り方、わかんな……」
『大丈夫。私が教えてあげるから。ね、中也。一緒にきもちよくなろう?』
ごく、と喉が上下した。もっと、きもちよくなれる……俺は、白濁で汚れたシャツを羽織った侭、携帯電話を握って、ガクガクの足で、壁伝いに、寝室に歩いていった。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.116 )
- 日時: 2019/10/11 21:07
- 名前: 枕木
「この世で一番美しい自殺法って知ってる?」
カラン、と酒と氷をグラスの中で鳴らしながら、太宰はにっこり笑って、先刻隣に腰掛けたばかりの相棒に問い掛けた。
一方、問い掛けられた方の彼は蒼い瞳を、うんざりだ、とでも云わんばかりに細め露骨に顔をしかめ、「そんなん知るか」と切り捨てた。
続けて、そんなん知りたくもねェよ、と告げようとしたが、もう既に自分のことは見ておらず、夢を見る少年のような瞳をして宙をみつめている相棒を見ると、口をつぐんだ。その包帯で、瞳と傷と、その他何を隠しているかは知らないが、本来の姿はこうである筈なのだ。きっと、その対象と時期がずれてしまっただけで。だから、彼は口をつぐんで、太宰が楽しそうに語る言葉に酒もなく耳を傾けた。
「それはねえ、百合を使う自殺方法なんだよ。百合って、光合成はしないで呼吸だけするの。だから、百合に囲まれて密閉空間で寝ていれば、酸欠で昏睡状態に陥って、最終的には眠りながら死に落ちていくんだよ。ねえ、素敵だと思わない?」
「……ああ」
「そうでしょう!?」
太宰は彼の肩を掴む勢いで身を乗り出し、頬を紅潮させて、興奮気味に云った。彼はその瞳をみつめて、なんだかとてつもなく脱力して、泣きたくなった。けれどそんなのは気にせず、なおも太宰は語り続ける。
「百合は英名でリリー(Lliy)って云うんだけれどね、リリーっていうのはカラー・リリーっていう花のことを示すの。百合とは少し違う種類なんだけどそちらの花も美しくて、しかも毒をもっているのだよ。食べると喉が塞がって呼吸困難になって、ゆっくりゆっくり死んでいくの。沢山百合を買うのが面倒になったら此方でもいいかなあって思うのだけど、君はどう思う?」
彼は一度口を開いて、閉じて、そして、僅かに首を振った。
「花は……好きじゃねェ」
太宰は目をぱちくりさせて、まじまじと彼の顔を見て、そして、彼が目を伏せてしまうと、身を引いて、少しだけ寂しそうに目を瞬かせて、酒を一口飲んだ。その夜は、それきり、太宰も彼も、言葉を交わすことはなかった。太宰は何度か彼をみつめ口を開いたが、とうとう、言葉が吐かれることはなかった。
それから数日たって、尾崎紅葉は、教育してやっていた蒼い瞳の童に、「庭園の一角を花壇として遣わせてもらえませんか」と頼まれた。
彼女はその童をじっとみつめ、そして淑やかに笑い、「きちんと自分で世話をするのじゃぞ」と云った。童はこくりと頷き、頭を下げて、小走りで花壇を造りに行った。
その年の6月19日、太宰自身も、太宰の手にかけられた幾多の罪人たちも恨んで止まない、その日。
太宰のもとに、差し出し人のない贈呈品が贈られてきた。
それは、太宰の腕一杯の、白い百合の花だった。太宰はそれをぼんやり眺め、一緒についていたカードを読み、その『早く死ね』という言葉に小首をかしげた。
とりあえず太宰は、その百合の花を寝床にばらまいた。そして、その上に寝転がった。
すこしすれぱ百合の濃厚なにおいが充満し、くらくらして、死ねそうな感じがした。だけど実際そんなことはなく、日の出と共に明日はやってきた。
太宰はがっかり肩を落とし、腹いせにと、いつの間にか庭園にできていた粗末な囲いの花壇から百合の球根を残らず掘り返した。それを袋の中に集めると、一粒だけ噛んでみた。辛くて、とても食べられるものではない。今度こそ、と思ったのになあ、と、がっかり肩を落とし、帰っていった。
それから数日、花壇と共に、太宰は消えていった。
彼は高級葡萄酒ペトリュスを飲みながら、物思いに馳せていた。結局結論は出ずに、四年といくらか、月日が流れた。
「ねえ、来て御覧よ」
手招きする太宰のもとへ、呼ばれた彼は歩いていく。太宰はベランダに出て、何かを育てていることだけは知っている鉢植えの前に屈みこんでいた。その傍らに同じように屈みこみ、鉢植えをのぞく。そして、目を見開いた。それは、見覚えのあるものだった。
「芽が出たのだよ」
太宰はにっこり笑った。
「何の、かぐらいは判るだろう?」
「……なんで、だって、お前」
「うん。私も、数年もたってしまえばもう育たないものかと思っていたのだけれどね、どうにかなるものだよ」
よく、知っていた。この芽が葉となり、茎が伸びて、最後には白いらっぱ形の花を咲かせる。彼が、姐さんの云われた通りにきちんと自分で世話をしたのだから。
その芽をただじっとみつめていると、太宰が「ねえ」と口を開いた。
「百合の花言葉って知ってる?」
彼は少し困った顔をして、そのまま目を伏せた。ぽつりと、数年前と同じ言葉を吐いた。
でも、そのときとは違った。その言葉に太宰は頷き、そして、くくっと笑ったのだ。驚いて太宰の顔を見上げた彼の顔を、太宰は鳶色をした双眸でしっかりみつめ、笑みをたたえたまま、云った。楽しげでもなければ、心踊る興奮が滲んでいたわけでもない。けれどもその口調、言葉に、彼は目を見開いた。
「百合の花言葉は、純潔。
……ねえ、これってさ、君の為にある言葉だと思わない?」
見開いて硬直したまま、動けなかった。
悲しかったし、哀しかったし、かなしかった。だけど涙なんて一滴もでないで、その代わりに、この日の為にととっておいた高級葡萄酒の最後の一滴を口に含んでいた。
だから、悟った。知った。判った。いやそもそも自分で云っているじゃねェか。
『陰鬱なる汚濁の許容』
と。
だけど、手前は純潔だというのか。この花が育って手前が生まれた日に真っ白な花を咲かせても、そう云うのか。
「綺麗な花だよね、百合って」
太宰は、彼の肩を抱き寄せた。
「私ね、花って大好きだよ」
太宰の腕の中で、その肩が震えた。太宰は「ふふっ」と笑って、その朱色の髪を撫でた。彼のにおいは、百合の香りよりよっぽど好きだなあと、笑った。そして、まだ堪えようとする彼を抱き締めて、それが溢れ出すきっかけを、腕一杯の愛のお返しを、あの日云いたかった言葉を、そっと、告げた。
「ねえ、君ってすっごく綺麗だよ、中也」
ƒin.
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.117 )
- 日時: 2019/10/11 21:17
- 名前: 枕木
お話の途中ではありますが、今日の誕生日花が百合だと聞いていても立ってもいられなくなって、書いてみました。
堪えて堪えて堪えて、それでも、まだやれるからって。なんて苦しい曲なんだって思いました。でも知らず知らずの内にみんなそうしているんだろうなあ。だから、誰かが頑張っている姿に励まされるのでしょうね。頑張っていない人は、頑張っている人を妬む。頑張っている人は、頑張っている人に励まされる。
励ます方でも励まされる方でもいい。百合の花のように、純粋で美しく、凛と生きていきたいものです。
…ああもう、なんの話だよ…寝ます(照れ隠し)それでは。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.118 )
- 日時: 2019/10/12 09:55
- 名前: 枕木
>>117
申し訳ございません。重大なミスを犯してしまいました。
×Lliy
○Lily
です。何てことを…。日付を変えたくないので、ここで訂正は完了したということにしてください。すみませんでした。
ところで、皆さんのところは台風、大丈夫ですか?こちらは全然大丈夫ではないです。一人だと不安で仕方がないので、こうしてネットに…。停電しなければ、今日はすごい来ると思います。良ければ構って下さいね。ほんと怖い…
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.119 )
- 日時: 2019/10/20 17:52
- 名前: 枕木
人を殺して、日々の糧を得る。
そんなことしか知らなかった無垢な子供に悪い遊びから愛の溺れ方まで、全てを教えたのは私だった。
本当に、無垢で純粋で、怖いくらい騙されてくれた。
彼は、私の言葉を信じて、身体を許してくれた。その身に傷が残っても、毎晩私を許して受け止めてくれた。
そして必ず、抱かれる度に涙を一筋流すのだ。
自分でもよく判らないと云う。いっそ痛い、辛いと泣きじゃくってくれればいいのに、それもしないで静かに一筋涙を流し、それを何とか慰めようとした私の口づけに応えてくれる。
それを見る度、胸が締め付けられた。何をしても、例え罪にとわれても構わないから彼を手に入れたいと、良心の欠片もない筈の胸が、痛いほど締め付けられた。
それでも私に溺れてくれる彼が愛しくて愛しくて、冷たい涙を舐めとりながら、受け入れてくれる彼に甘えてしまうのだ。
そんな日々に終止符を打ったのは、随分前のことだ。
何も知らずに隣で寝ていた彼の額にそっと口づけをして、朝日が昇る前にそこを抜け出した。
後悔はしていない。けれど、暫くは身体が狂いそうなくらい彼に飢えていた。
それにも慣れて、彼がいなくても笑えるようになった。歪んでいると自覚している感情にも区切りがつきそうだった。敵同士として彼とナイフをつきつけあうことも、苦しくなくなってきた。
……それなのに。
「……手前、どう云う積もりだ?」
「なんのこと?」
背中には冷たい壁、喉笛には冷たいナイフの切っ先、眼前には冷たい彼の瞳。
抱く度にとろとろに溶けていた、彼の瞳。
「もう、ンな目で俺を見んな」
「……中也くん、自意識過剰かな?」
「黙れ」
そんな目ってどんな目のこと。どんなに隠したって仕舞おうとしたって無駄な、君への欲情?執着?顔に、出てる?うわあ、かっこわるい。
間違ったって愛なんて呼べない。
縛り付けて、閉じ込めて、薬漬けにでもして一生、いや死んでも彼を私の物にしていたい。
身体をものにすれば、彼の心までものにできるなんて思っちゃいなかった。でも、彼の中に居るのは私だけでいてほしかった。
「……太宰」
少し怯えたような中也が、ナイフを落とした。
私は、震える両手で顔を覆い隠した。
いろんな感情が胸中に渦巻いている。ぐるぐる、ねばねば、どろどろ。醜い醜い、愛の成り損ない。
「……御免。ごめん、中也。お願い、見ないで。許して」
自分は今、どんな顔をしているのだろう。今何か少しの衝撃だけで彼を痛めつけてしまうだろう。痛めつけて、動けなくして、縛って、それから、それから……
「太宰!」
びくっと肩が跳び跳ねる。
両手を掴まれ、下げられた。
目の前には、泣きそうな中也がいた。
「……なんで、俺の前から消えた。なんで、何も言わねえんだよ」
「……だって、私は……」
「じゃあ、俺はどうなるんだよ!?」
怒鳴り付けられた。
「身体も心も全部手前に奪われて縛られて、身動きなんてとれねえ、一歩も動けねえ。それなのに手前ばっかりずんずん俺から離れていくし、それなのに俺は縛られたままで……」
嗚呼、お願いだから泣かないで。
泣かせたくない。もう、二度と、あの涙は。
だから……
「手前のもんなら責任もってつれてけよ!!」
「……ッ」
中也の瞳から涙がこぼれ落ちた。
どうして、なんで。私、君のことまた傷つけた?
嫌だ、なんで、嫌だ、君だけは……
「……中途半端に汚していくな。汚すなら躰も心臓も悲しみも全部汚せ。……そうしないと、俺……」
震えた躰の胸元に、赤い跡が見えた。
腸が煮えたぎるってこういうことか。
「……けがすなら、いっそ、全部」
言い切る前に、口を塞いだ。
中也は一瞬硬直して、だけど、前みたいにぎこちなく応えてくれた。
どうして気がつかなかったんだろう。
そうだった、彼を縛り付けたのは私だ。だけど大切すぎて大切にしすぎて手放して、違う人にけがされてしまった。
許せない。
自分が。
抱き締めて、囁いた。
「ちゃんと終身刑言い渡したっけ」
「とっくの昔だろ」
「そうだった。これからはきちんと見張ってあげるよ」
中也は何も言わずに、ぎゅっと私の外套を握った。
手始めに私の大事なものをけがした男を消して、彼に愛を囁いて、抱き締めて眠ろう。
何もかもどうでもよくなっちゃった。彼がいるなら、なんでもいい。
彼がいないなら、もうなにも。
「帰ろうか、中也」
こくりと頷いて、私の手を握ってくる。
私は微笑んで、そのまま家へ歩いていった。
さあ、帰ろう、中也。私たちの家に。
……そういえば、部屋掃除したっけなあ。玄関も靴でいっぱいだ。中也を家の前で待たせて、片付けをしよう。
中也がいるんだから、玩具はもう要らないもんね。全部捨てちゃおう。
私は微笑んで、彼に「愛しているよ」と告げた。彼は、同じ台詞を呟いた。
幸せだね、中也。ずっと、ずっと。
お題/けがされた終身刑
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.120 )
- 日時: 2019/10/14 15:15
- 名前: 枕木
ふうぅー……と長く煙を吐き、悪魔は横目で少年を眺めた。
「ねえ、未だ吐く気にならないの?早く吐いちゃえば?楽になるじゃない」
悪魔が語りかけた少年は全身傷だらけで、口の端から血を流している。肋を四本折っていて、左足首もあらぬ方向へ捻れ曲がっていた。右足の太股には貫通した短刀の傷跡があり、抉れた桃色の筋肉が血にまみれてその姿を露にしていた。
何故生きているのか不思議になるくらいの状態である。それもその筈、ポートマフィアが得意とする拷問を更に極めた、尾崎紅葉率いる拷問班に拷問を受けたばかりなのだから。
しかし少年は、にやりと笑って、頭から流れた血で見えなくなった右目はそのままに、蒼い瞳を爛々と光らせた左目で悪魔を睨み付けた。その目付きは狂暴な野犬そのもので、悪魔は下品だなあ、と顔をしかめた。
「何を吐けっつうんだよ。こんな部屋で手前と二人にされて、胸糞悪くて今にも吐きそうなもんならあるぜ?なんなら今すぐ此処にぶち撒けてやろうかァ?」
「あー、やだやだ。だから躾されてない犬は嫌いなんだよ。本当、下品で汚い」
悪魔は顔に少年への嫌悪感を明らかにし、吸っていた煙草を弾丸の速さで少年に投げつけた。少年はひょいっと首を傾けかわす。悪魔は勿論そんな結末目に見えていて、ただ、つまらなそうに、少年を眺めていた。少しするとため息をつき、そして、もう一本煙草を出すと、口にくわえて、先端に火をつけた。深く吸い、長く吐き出した。その後口を開いた。
「判った。君が『あの人』に教わった、君の事改め荒吐覇の記録の在りかは教えてくれなくていいよ。仲間になったら、きっと君から在りかだけじゃなくてその内容さえも、教えてくれると思うからね。ねえ、ポートマフィアにおいでよ。今更普通の暮らしができるなんて思っちゃいないでしょう」
「はっ、『あの人』の相棒なんだろ、あの蘭堂って野郎はよ。あいつに訊きゃあいいじゃねェか」
「それは何なの、皮肉?大事な犯人を殺すのに手を貸したのはお前だろうって?」
「別に殺すのが目的だった訳じゃねェよ。あんな陰気な野郎に取り込まれるのは真っ平だっただけだ」
「こっちだって同じだったけどねえ?蘭堂さんが先代を蘇らせる異能を隠し持っていて、荒吐覇は君で、蘭堂さんの死んだ筈の相棒さんが真実を伝えに君の元へやってくると知っていれば、こんなことにはならなかったよ」
「おまけに蘭堂の遺品も残らず持ち去られてたとなりゃあ、こんなただのガキにも動くポートマフィアってわけか。ハッ、なっさけねェなァ。こんな組織誰が入るかよ」
「こんなただのガキが荒神の力の遣い方を知らないままだったらこうはならなかったなあ。まあ、知らない方がいいことを知っちゃったのが運の尽きだね。現にこうして捕まっているのだし」
少年は視線に殺意を含ませた。今にもとびかかっていきそうだった。だが、背中でひとまとめにされた両手首を縛る紐の先端を握るのは悪魔だ。異能力を無効化されていて、ズタズタの躰はまだ動けない。
悪魔はベッドに腰掛け、煙草をく揺らせ、床に座り睨み付けてくる野犬をつまらなそうに眺めていた。
____またすぐ、駄目になるだろう。
彼は判っていた。今までもこうして拷問に長けた班の手にかかっても口を割らなかったのが彼の元に放り込まれた。彼は、わくわくしてそれに手を伸ばす。それはまるで、新しい玩具を与えられた子供のように、楽しそうに。だが、彼が触れると、数分もすればその玩具はすぐに壊れてしまった。彼はその度にがっかり肩を落とし、そしてまた、新しい玩具を待ちわびる。それを繰り返して、もう彼は判っていた。彼を楽しませてくれる玩具は、存在しない。とても悲しかった。きっと、この少年だってそうだろう。数分もすれば壊れて、この威勢が嘘のように、海月みたいになってしまう。それは嫌だったけれど、こうして生意気にいきがるガキも腹立たしい。
それなら、もう、瞬時に壊れるのを覚悟で、遊び回してやろうか。どうせ壊れるのだ。それなら、壊し方はどうでもいいだろう。
悪魔は口元に笑みをたたえた。そして、紐をくいっと引っ張った。少年はあらがわずに、引っ張られるままにベッドに引き上げられた。ぼすん、と音をたてて悪魔の隣に倒れこむ。さあ始まったぞと、どんな拷問でも貫き通した無表情で挑戦的に悪魔を見上げると、悪魔は、にっこり笑っていた。悪魔は少年の上に股がり、自身のネクタイを緩めた。
____何か、可笑しい。
その笑みを見て、少年の背中に冷や汗が流れた。どんな痛みにも耐えた少年でも耐えられないような、何かが、始まるような。そんな悪寒が走る。
悪魔は笑みを絶やさず、そのまま、少年に覆い被さった。そして、悪寒に身を硬直させた少年の耳元で、囁いた。
「ねえ中也君。これから長い付き合いになるのだから、お近づきの印に、僕といいことしない?」
少年の嫌な予感は、的中したようだった。悪魔の笑みを見て、少年は悟った。今更逃げようとしても、もう遅かった。少年は、悪魔に捕まったのだから。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.121 )
- 日時: 2019/10/19 21:31
- 名前: 枕木
俺に初めて「君は生きている」と云ってくれたのは、帽子をくれた人。
そして、俺に初めて生きる目的を、正しい生き方をくれたのは……
「中也くん」
風貌はどこにでもいる中年の町医者。その実は、俺らポートマフィアを束ねる首領、森鴎外。
そんな彼の、きっと誰にも触らせない膝にただの一幹部で部下である俺を乗せ、ヨコハマを動かすために指示をだして、時には人を救うためではないメスを握る指が、俺の唇をなぞる。
そして、柔らかな優しい声で俺の名を呼ぶ。命令を出すときに指を指すだけでは判り辛いから、呼ぶ為にあるだけの名前を、こんなに、優しい声で。
信じられない。真逆、この人が俺を愛してくれているなんて。俺の恋人だなんて。誰が予想できただろう? 例え、俺が、恩人である首領に命以上のものを捧げたいと願っていたことを知っていたとしても、こうなることを予想できた者はいない筈だ。
窓のスクリィンを閉ざし、誰もいない、首領の部屋で、二人きり、肌に触れられて。
「ンッ……あ、ぼす……」
「首領じゃないだろう?」
「ひぅっ! あッ、も、り、さ……」
「なんだい?」
はあ、はあ、と荒い息を整える。誰も、誰も知らない。こんな関係だなんてこと、こんなことをしてるだなんてこと。
それでも、矢っ張り、信じられない。
「お、れ……」
「ん?」
にっこり笑った顔。優しい顔。
嗚呼、本当に信じられない。
こんな。
……こんな、勤務時間中に、こんなことされるだなんて。
「はっ……なしてください! 俺、始末書が……っ」
「えー? そんなのいつでもいいよ? 君の為なら経費も人材も繋がりもどれだけ失ったって構わないからねえ」
「そう云う訳にはいきません!!」
いいじゃないいいじゃない、と俺の腰にぎゅっと抱きつく彼からなんとか逃れようともがく。無駄なのは判ってんだけどな、矢っ張り、駄目なもんは駄目だろ!?
首領直々の任務を果たし、報告に上がったところでこれだ。最近はいつもこれじゃねェか? 首領に呼び出されたと気ィ引き締めて首領室伺って見れば、朗らかに「今日の帰りデエトしよう、中也くん。店を予約するけど、何料理がいい?」と訊かれたり、廊下で部下に頼んだとある案件の調査書を読んで眉間に皺寄せてれば突然背後から「いやあ、美人が悩む姿はそそるねえ」と尻を撫でられたり。
公私混同はしないように、と云ったのは首領だ。その首領が仕事中もデエト中も、何処でも何時でも恋人を隠さない。勿論片想い相手だった人に愛されるのは嬉しい。が、それに甘んじて仕事を軽んじる積もりはさらさらない。それなのに首領がこれでは、部下に示しがつかない。
から。
「は、な、し、て、ください!!」
「えー? 私のこと嫌いかい?」
「……いえ……」
「本当かい? 嬉しいなあ、嬉しくて、抱き締めたくなってしまうよ」
先刻からこの繰り返しだ。
ため息をつき、一旦無駄な体力の消費を止めるか、ともがくのを止めた。首領は俺の胴に抱きつきながら、俺が抵抗をやめたと見るや、躰を起こし、今度は自分の胸中に俺を収めて抱き締めた。
あー……また負けた……流されっぱなしだな、何時か罰当たるんじゃねェか……?
「ふふ。中也くん、愛しているよ」
幸せそうに笑って、首領が俺の耳元でそう云った。ぎゅう、と抱き締められて、鼓動が、体温が、俺の為に開いた黒い衣服と皺一つないシャツ越しに、伝わってくる。冷酷で鋭い脳とは裏腹に、人間らしく、あたたかくて柔らかい。どれだけの人間が知っているだろう、広大なヨコハマを支配するポートマフィアの首領が、実は子供体温だなんて。
本当に罰が当たりそうな気がする。
こんな……信じられないくらい、
「幸せだよ、すごく」
吃驚して、胸中から顔だけをあげて恋人の顔を見上げた。彼は俺を見下ろし、微笑んでいた。髪を撫でて、ちゅっと額に口づけを落とした。そして、俺をみつめて、云った。
「有り難う、中也くん。生まれてきてくれて」
その真っ直ぐな瞳に、目元に柔らかく刻まれた皺に、ぐっと息がつまった。胸が締め付けられた。せりあがってきたものを必死で抑える。嗚呼、罰が当たる、きっと、何時か。でも。
「……っ、でも、始末書、書いてからですよ。なにか、その、する、のは」
「おや、この流れを切れると思っているのかな?」
「〜〜っ」
ふふふ、と楽しげにくつくつ揺らして笑う胸に泣きそうな顔を埋めて、溢れそうな想いを隠した。
こんなに幸せで、いい訳ない。何時か罰が当たる。それでも、俺は、このどうしようもない人が、大好きで、愛しくて。勝負になんてなりっこねェんだ、最初っから。判ってるのに、それでも足掻いてしまうのは、
「照れ屋さんだねえ、中也くんは」
「五月蝿いですよ……鴎外……さん」
「!!」
貴方に捧げた筈のこの血潮を、躰を、心を、貴方が優しく触れてくれるのが嬉しくて、悔しくて。
だから、ほんの少しの、照れ隠し。
貴方がくれたのは、古ぼけた黒帽子と、生きる目的と正しい生き方。それと、溢れるような愛。
どうか、ずっと傍に置いてください。
「無論だよ。寧ろ、心配なのはこちらだけどねえ。君も強くなった。去っていこうと思ったら、出来るんじゃないか?」
「そんなことしません。云いましたよ、首領。俺は、貴方のために奴隷として敵を砕く。そして敵に思い知らせましょう。ポートマフィアを蔑する者が、どれほど苛烈な重力で潰されるかを」
真っ直ぐに自分を見上げ、微笑む小悪魔を、森は黙って見ていた。
その表情には、今までのどんな笑みとも違う笑みが___謎めいてもいなければ底知れなくもない、人間が愛しいただ一人に向けて浮かべる笑みが___浮かんでいた。
そして一言、「期待しているよ」と云ってそっと口づけた。
そのあと、
「でも、奴隷じゃなくて恋人って云って欲しいなあ」
と笑って付け加えた。
7年経って、敵だった組織の幹部となり首領の恋人になった少年は、ひどく赤面した。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.122 )
- 日時: 2019/10/20 22:18
- 名前: うさぎ
はじめまして。そして
貴方は神ですか?
凄いです。
あつかましいかもしれませんが、
リクエストします
乱歩さんをひたすら可愛くして下さい。
お願いします
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.123 )
- 日時: 2019/10/21 19:43
- 名前: 枕木
>>122 うさぎ様
初めまして。いらっしゃってくださり、有り難う御座います。
Wow...I'm a human.But I'm not got.Thank you.I love you!!
おっとっと、どさくさに紛れて愛を告げてしまった…
リクエストも有り難う御座います!露骨な催促にうんざりしているのか(ごめんなさい)、このスレでは一度も頂いたことがなく…凄く嬉しいです(号泣)
今日は乱歩さんの誕生日ということなので、誕生日小説としてリクエストを書かせてもらいますね。すぐ書きますから、良ければ感想や追加のリクエストなど、お待ちしています♪
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.124 )
- 日時: 2019/10/21 20:16
- 名前: 枕木
「あれ、太宰さんもう帰るんですか?」
「うん、今日は大切な用事があるからねえ」
そんな仕事の部下たちの会話が聞こえてきて、江戸川乱歩はうたた寝から覚めた。もう、折角気持ちよく寝ていたのに……顔に乗せていた雑誌をとり、ちらっとそちらを向いてみる。戸口の前に立ちにこにこ笑い手を振る太宰と、書類の山を抱え「お疲れ様です」と頭を下げる敦、八つ時を示す掛け時計を認識する。おやつ……お腹空いたなあ。
ぼんやりと考えていると、「ああ」と太宰が乱歩を見た。
「乱歩さん、今日はおやつは我慢して頂けますか?」
「は? 理由は? 十文字以内で」
「お願いします」
「理由になってない!!」
毎日の楽しみであるおやつ時間を制限しろと云われ、乱歩は不満を露に頬を膨らませた。しかし、太宰はにこにこ笑うばかりだ。
「どうしても、お願いします。その代わり……」
「その代わり、なに?」
「ふふ♪ お楽しみです」
謎めいたことばかり云う。乱歩は頬を膨らませたまま太宰を睨み付けていたが、太宰は上機嫌のまま「では、後程。乱歩さん♪」と退社していった。
なんなの、彼奴……と見送り首をかしげ、まあいいや別に従う必要もないよね、と卓上の駄菓子の入った袋に手を伸ばしたところでポケットから鳴る携帯電話の着信音。
邪魔ばっかり入るなあ……とぷんぷんして携帯電話を開き、その表示された名前に驚きながらも応答する。
「なに? 僕いまからおやつ食べるから邪魔しないでくれる?」
『今からか? 丁度よかった、悪ィが乱歩、そいつは今日は抜きにしてくれ』
「はぁ!?」
どいつもこいつも乱歩の楽しみを奪おうとする。「なにそれ、意味わかんない!」と思わず声を荒げると、事務所内にいた社員は皆目をぱちくりさせて乱歩を見た。乱歩はげきおこだ。ぷんぷん丸だ。
「どうしてさ!? 十文字以内で!!」
『どうしても、だ。頼む』
「理由になってない!!」
この応答はつい数分前もやった気がした。涙目になった乱歩を察したのか、電話の相手は慌てたように云う。
『そ、その代わり、は、やる。絶対に、だ』
「……代わりって?」
『まあ、それは楽しみにしとけよ。絶対満足させてやるから』
「なにそれ……」
『そういうことで、頼む。また後でな』
「ちょっ」
ツー……ツー……
無機質な通話終了の音の鳴る携帯電話を握りしめ、乱歩は勢いで立ち上がったまま、立ち尽くした。ハラハラと周りが見守る中、乱歩は大きく息を吸い……
「太宰と素敵帽子君の莫迦!!」
と叫び、机に突っ伏した。
こんなに云われて、食べられる訳がない。おろおろと皆が乱歩の周りを右往左往する中、乱歩はおやつを食べられないことで見事に拗ね、机に突っ伏したまま、動かなくなった。
……そしてそのまま、眠ってしまった。
江戸川乱歩がぷんぷんしたまま自宅の扉の前に立ったのは、それから5時間後のことだった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.125 )
- 日時: 2019/10/21 22:56
- 名前: うさぎ
おわあああスゲエ・・・
もうかわいいんですけど!?
話が変わりますが、私は実はうさぎじゃなくて
「そよか」といいます。
間違えて昔使っていたのを書いてしまいました。
私も今カキコで小説書いてるんですが、同じ二次小説です。
進撃の巨人を書いています・・・
そよかです。
良かったら見てください。
そして文章力を分けてください。
乱歩さん誕生日おめでとうございます。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.126 )
- 日時: 2019/10/21 23:36
- 名前: 枕木
ガチャッ
パチッ
「!?」
鍵を開けドアノブを回したところで、突然中からドアを開け放たれた。バランスを崩し前のめりに倒れた乱歩が誰かに受け止められる、と同時に電気がついた。
驚きはしなかった。掴んだドアノブに引っ張られた途端、この結果は予想できたから。そして、犯人も判っていた。
なんなのこいつら、今日は……
「なんのつもりなの? 太宰、素敵帽子君」
怒って乱歩が云うと、「あれ」と頭上で不思議がるような声がした。
「乱歩さん、判ってなかったんですか?」
「マジかよ。あんだけ云やあ、判ってると思っていたが……」
「だから、なんのこと!?」
いい加減はっきり云ってよね! と乱歩が身を起こし、太宰と中也を睨み付ける。二人はきょとん、とし、それから、ああそうか、と微笑んだ。
乱歩は、未だ判っていない。気づいていないのだ。乱歩は、あまり日付に頓着はしない。
「乱歩」
「乱歩さん」
二人の声が、重なる。二人は、まだ判らなくて目を瞬かせる乱歩をみつめ、云った。愛をこめて、やさしく。
「「誕生日、お目出度う」」
……そう。今日は、江戸川乱歩の誕生日である。
* * *
「いやあ、今日は、乱歩さんの為にディナーを用意したので、お腹を空かせておいてほしかったんです! 何時も乱歩さん、おやつでお腹一杯にしちゃいますから」
居間に入り、真っ先に目に飛び込んできたのは広くはないちゃぶ台の上にところ狭しと並べられた豪華な料理たちだった。ハンバーグ、オムライス、グラタンといった子供が大喜びするようなメニューばかりだが、乱歩は一瞬にして糸目を開き、その瞳を輝かせた。
「……これ全部、作ってくれたの?」
「はい、腕をふるって♪」
「おい太宰、手前が作ったみてェに云ってんじゃねェよ! 手前は皿並べただけだろうが!」
「献立考えたのは私ですぅー。君はその通りに動いただけの無能でしょ? さあ乱歩さん、私の愛のこもった料理を……」
「んだとコラ手前!! 実際作ったのは俺だ! 乱歩が口に入れんのは俺が作った料理……」
乱歩という男を愛する男二人が互いの間に火花を散らす。が、当の乱歩は誰が作ったか誰の愛がこもっているか、などどうでも良かった。ただ、美味しそうなご飯のいいにおいに心を踊らせていた。二人の言い争いなんて聞こえていないかのように、二人にくるりと向き直り、そして、ぴたりと静止した二人に満面の笑みで……
「二人ともありがとう! すっごいおいしそう!」
と声を弾ませた。
固まった二人に回れ右をし、ちゃぶ台まで駆けていって、ちょこん、と座り、ぱちんっと手を合わせて「いただきます!」と叫ぶと、スプーンとフォークを手にとって嬉しそうに料理を口に運んでいった。
「おいしい〜♪」と子供のように笑う乱歩を見た瞬間、太宰と中也は「ぐはっ」と吐血した。そんなことは何も知らずに頬いっぱいに料理を頬張りもぐもぐと口を動かす乱歩、罪深き男は、愛で世界を救ったのだった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.127 )
- 日時: 2019/10/22 05:18
- 名前: 枕木
二人が負ったダメージが回復するころには、乱歩はもう食事を食べ終えていた。ぱちんっと手を合わせ、
「御馳走様でした!」
と元気よく云う姿にもうめく二人だったが、振り返った乱歩を見て、中也はポケットからハンケチを取り出した。
「乱歩、口のまわりソース付いてんぞ」
「ん〜?」
「ほら、拭いてやるから動くなよ」
中也はハンケチで、乱歩の口のまわりについた茶色いソースを丁寧に拭き取った。そして、反面に折り返し、乱歩の唇をそっとなぞった。乱歩は目をぱちくりさせる。
「……? ありがと、素敵帽子君」
「ん」
と返事をしながらハンケチをポケットに仕舞おうとした中也だったが……
ガシッ
その手を掴まれた。掴んだのは勿論、にっこりと黒い笑みを浮かべた太宰である。
「ちゅーやくーん? どさくさに紛れて今、なにしたのー?」
「なんもしてねェよ離せ」
「嘘吐かないでくれるかなあ!? 今、乱歩さんの唇もらってったよね!? そのハンケチ、ナニに遣う積もりなのかな??」
「どうもしねェよ変な妄想すんじゃねェ屑!!」
「じゃあそのハンケチ頂戴よ、絵柄割と好みだからっ!」
「はァ!? 誰がやるか、散々人の趣向否定しといて都合のいいときばかり……大体手前はァ……!」
乱歩は自分の為にこの端から見たら下らない争いが繰り広げられているとは露知らず、大きな欠伸をした。
「ん〜……」
眠そうな目を擦り擦りしている乱歩を見て、二人はハッとした。
「乱歩さん、ケーキもありますけど、明日にしますか?」
「ぅん……」
「贈呈品もあるからな。明日渡すことにするか」
「ぅん…………」
「じゃあ私今夜は泊まらせてもらっちゃおうかな!」
「ああ”!? なにほざいてやがる、それなら俺も……」
「ねえ」
こっくりこっくりしていた乱歩だったが、二人を手招きした。
一旦休戦し、誘われるまま、乱歩に顔を寄せる二人。ちょいちょい、と合図されて、耳を傾ける。乱歩はその二人の耳に口を近づけて……
「ありがとう、だいすき」
目を見開いて二人が乱歩を見ると、乱歩は目を伏せ、頬を赤く染めた。
それだけで充分だった。二人は見事にK.O.を決められ、乱歩ごと倒れこんだ。乱歩はどさっと畳に押し倒され、成人男性二人の体重をかけられた。
「うわっ、ちょっ……!?」
「あー、ほんと手前って奴は……」
「とんでもないですね、乱歩さん」
はあー……と長く溜め息を吐き、けれどそのあと、二人で同時に、きょとん、としていた乱歩の両頬にキスをした。
「生まれてきてくれて有り難うな、乱歩」
「これからもよろしくお願いします、乱歩さん」
「っ……うん」
真っ赤になってしまった乱歩にくすりと笑い、二人は目を閉じた。今日は張り切っていたのだろう。乱歩も元々眠気に襲われていたため、二人に誘われるようにして目を閉じた。
その夜、太宰と中也は乱歩を守るようにして、乱歩は二人に守られるようにして、眠った。
翌朝、早く起きた太宰が乱歩を襲おうとして中也に殴り飛ばされ乱争が再開したのはいうまでもない。
でもね、乱歩さん。全部、貴方を愛しているからこそ、なんですよ。
いつか気づけよ、鈍感名探偵。
ハッピーバースデイ、可愛い名探偵さん。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.128 )
- 日時: 2019/10/22 05:24
- 名前: 枕木
>>125 うさぎ様改めそよか様
可愛く…できているでしょうか!?
寝落ちて誕生日小説なのに当日に仕上げないという愚行を犯してしまいましたが、少しでも楽しんでくださったなら幸いです!(><)
そよか様でしたか!名前はお見かけしておりました。進撃の巨人、好きなので、いいですよねえ、エレリ。今度伺わせてもらいますね。
本当に有り難う御座いました!どうかまたいらして、感想なりリクなりお願い致します。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.129 )
- 日時: 2019/10/22 09:01
- 名前: 皇 翡翠
お久し振りです、枕木さん。
此処でのコメントは初ですね。
ちょっと前に浮上率が低下して来ていた処ですが、最近また浮上した至大です。
枕木さんの作品で癒しと恵を得ながらちょくちょく更新する日々を送っています。
太中や誕生日ネタ、とても良きです。
また宜しければ、お話が出来ればと思います。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.130 )
- 日時: 2019/10/22 10:22
- 名前: 枕木
拝啓 ダザイオサム 様
手前におかれましては、全く理解のできない自殺趣味に相も変わらず勤しんでいることかと存じます。その努力が一刻も早く報われることを、俺も切に願っております。手前に送って差し上げた葡萄酒にも毒を盛ってやりましたが、手前のことだからぴんぴんしてやがることでしょう。手前は本当に人間なのか疑わしくなることがあります。いや失敬、元々人間失格の烙印押されていたんでしたね、それなら仕方のないことです、本当に残念です、早く死ね。俺の車爆破したことも汚濁遣ったあとの俺を放置していったことも忘れてねえからな、早く天界へ召されてください。まだまだ物申したいことはありますが、手前の為に態々買った紙を消費するのも手前の為に慣れない手紙書くのに時間を消費するのも腹立たしいので、止めておきます。本題に入る。同封しておいたこれは、手前の犬を卒業した記念です。これを着けている限り手前に何処までも付きまとわれてコケにされる気がしてな、あまりに不吉だから返却致します。本当にめでたい、ペトリュス開けたいくらいです。ああそうだ、手前記念に持ってこいよ。まあ手前の薄月給じゃ買える気もしねえからな、ロマネで我慢してやる、次顔付き合わせるときは是非ご持参ください。つっても手前のことだから数年に一度くらいふらっと来るくらいだろうがな、いや実際は来て欲しくもないから矢っ張りいいです、二度と顔見せんな、来んな。忘れろ、全部。そうだなァ、例えば、15から18、それと22からの記憶全部、忘れちまえば手前にとってもご都合宜しいでしょう。こんなこと態々云わなくても手前のことだから直ぐ忘れるだろうがな、念の為だ。取り合えず、こいつは返す。これでめでたく清算できんだろ。ほら、こんな紙切れ捨てちまえよ、早くしろ、ぐずぐずすんな。手前は何時もそうだ、一つもままならねェ。適当でマイペースでマジむかつく。飯作るのは何時も俺だったし、靴下もとうとう一度も裏返ったまま洗濯籠に入れない日はなかった。そのくせ飯の味が薄い偶には蟹出せとか、靴下が生乾きだとか文句ばっかりつけるしマジ腹立つ。その腹いせに靴の中に生卵入れてやったら普通に引っ掛かったよな、あれは傑作だったぜ。あれが無かったら手前の汚部屋なんか疾っくに出てってやってたな、有り難く思えよ。とりあえず新聞溜め込むのやめろ、どうせ一度読んだら内容全部頭に入ってんだろうが。手前の手にかかるとただの紙さえ哀れになるからな。あと手前毎日外食できるほど給料ねえんだから自分で飯作れよ。猿でも作れる料理の作り方まとめといてやったから、遣れ。できんだろ、元ポートマフィア最少年幹部さんよお。できなかったら猿以下だぜ、それも笑いもんだから俺は一向に構わねェが。おんぼろの洗濯機も手前の給料から引いて新しいのにしたし、掃除機は直しておいたから、感謝して泣きながら遣え。本当に手前はなんもできねえからな。そんなんじゃ女の方から愛想尽かすぜ。哀れに一生孤独で死んでくんだな、手前には当然の結末だ、せいぜい莫迦やって迎えろよ。まあそれを迎えるのもあと何十年先か見当つかねェけどな。手前の苦しみ悲しみが一刻も早く終わるように祈っててやるよ。まあ当分顔つき合わせることもないからな、会うとしたら百年後。手前がどうしても会いたいっつうなら、そんくらい経ったなら会ってやってもいい。それまでに会いに来たら殺すからな。俺の手にかかる前に手前が死ぬことを祈ってる。俺の気に入ってる手袋が手前の血で汚れるのなんか真っ平だからな。そういや、手袋どこいったんだ。手前みつけたら教えろよ。帽子と首輪と手袋は気に入ってんだ。いつも着けとかねえと落ち着かない。手前にはどうでもいい話か。なんか莫迦莫迦しくなってきたからこの辺でやめるか。とりあえず早く死ね。会うのは百年後だ。そしたら決着をつけてやる。まあ、それまで精々しぶとく生きるんだな。今もどっかで青鯖が空に浮かんだような阿呆面して、女たぶらかしてんだろ。早く死んじまえよ、太宰、また、百年後にな。
差出人のないその手紙の内容は、酷いものだった。私は苦笑した。
「なに、結局会いたいの会いたくないの、どっちなの」
『だから、百年後だっつってんだろ』
「莫迦だなあ、そんなに生きられるわけないじゃない」
『ケッ、今更人間ぶるんじゃねェよ』
「人間失格だもの、君の云う通り、ね」
「犬卒業なんて云ったって、君私の犬としてろくに働いたことないじゃない」
「私葡萄酒なんて判らないよ。ロマネってなに?」
「私がどう暮らそうが私の勝手じゃないか。蟹、一度も出してくれなかったの怒ってるからね」
「私、君よりよっぽど女性にもてると思うけどねえ?負け惜しみかなあ」
「嗚呼、手袋なら、私知ってるよ。まあ教えてあげないけどね」
立て続けに、云った。勿論返事は返ってこない。墓石が喋るわけがない。
私だって、人間なのだ。いつかは死ぬし、それまでは生きるしかない。
君のいない人生を、この先百年、歩むしかない。
「百年なんて、無茶云うよねえ」
死ね死ねと云っておきながら、百年は会わないだなんて、本当に君は莫迦なことしか云わないね。呆れるよ。
墓石に乗っているのは、趣味の悪い黒帽子。黒い外套がふわりとかかって、その姿は小さな躰で精一杯威厳を見せるとあるポートマフィア幹部のようだった。
手紙と一緒に入っていたものを、重石代わりに墓石の前に置く。気に入っていたのなら、返さなくたっていいよ。君が身に付けていたものなんか持っていたくはないからね。重石代わりのそれの下で揺れるそれを見て、ふう、と息を吐く。毎年こんなことをして何をやっているんだろう、私。からかう相手がいなくなったから、少し暇になっただけだよ。それだけだから。
「さあて、今日は入水日和だなあ」
砂色の外套を翻して、私は墓石に背を向けた。
また来年、私はここへ来るだろう。何故って? 嫌がらせだよ。彼奴が忘れてくれって云うものだからね、嫌がらせ。忘れてほしいなら、絶対忘れてやらない。あと百年生きて、ちゃんと云い付け守ったんだから云うこと聞いてよねって、蒼い瞳を細めて悔しそうな顔を拝んでやる。
それまでは、こうして、細やかな嫌がらせを、繰り返して。
「またね、中也」
呟いた太宰の足元で、黒い首輪を乗せられた赤い椿が風に揺れた。黒い手袋を、片方だけ添えられて。
太宰は黒い手袋がちらりと姿を見せたのをポケットに押し込んで、振り返らずに去っていった。
10月22日。
中原中也が、死んだ日。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.131 )
- 日時: 2019/10/22 11:45
- 名前: 皇 翡翠
す、凄い…。
中也らしい手紙に笑いを溢しながら拝読させて頂きました。
そして、まさか死亡していた展開に吃驚しましたよ。
後から調べて分かったのですが、中原中也さんは今日が死亡日だったのですね。
其処まで知りませんでした‥。
思いもよらない執筆でしたので感嘆しました。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.132 )
- 日時: 2019/10/22 12:18
- 名前: 枕木
>>129>>131 皇 翡翠 様
お久しぶりですね!中々声をかけるタイミングを掴めずだったので、来てくださって嬉しいです♪まとめての返信をお許しください。
癒し…与えられていますか…?私が貴方からもらってばかりなような…でも、そう云ってもらえると嬉しくて虎穴に首をつっこみたくなります。本当に嬉しいです(ノ∀;`)
太中大好きですから!やっぱり愛がこもると違いますよね(キリッ)乱歩さん受けもその他中也くん受けも大好き、愛があってこそ、好きこそものの上手なれ、です!!
イベントとか記念日は欠かしませんよー♪そうなんですよね、昨日は江戸川先生誕生日、今日は中原先生没日で…祝ったり悲しんだり忙しい(笑)
割と伏線をしいてみたつもりでしたが、展開バレませんでしたか!?結末見え見えも面白くないですものね、良かったです♪でも良かったら、今度は中也死んでるんだよね…と意識して読み直してみてください。
順序も言葉遣いも内容も矛盾してごちゃごちゃ、けれど伝えたいことは一つだけ…中也が太宰に手紙を書くとしたらどう書くんだろう、と沢山悩んで書いたものなので、中也らしいと云っていただけるとほっとします。
ふふ、やっぱりコメント頂けると嬉しいですねえ。それも、尊敬する貴方に!!長々とごめんなさい。そちらにも近いうち伺わせてもらいますから、こちらこそ、良ければお話ししてください。有り難う御座いました!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.133 )
- 日時: 2019/10/22 12:32
- 名前: 枕木
さて、これで記念日小説は落ち着いたので書きかけのやつ完結させるの頑張ります。誰のため頑張るのかと問われれば自分のため世のため人のため…なーんてね、思い付いたやつを書き散らした責任は果たさないと。目次に載せられないんですよね(笑)
やっぱり小説書くのも読むのも楽しくて。皆さんに話しかけるのも話しかけられるのも、至福の時間です。
どうかこれからもよろしくお願いしますね。
…いきなりどうしたんだよ…(泣)
あとやっぱりリク欲しいんでどんどんください、お願いします…(号泣)
では…(ビュンッ)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.134 )
- 日時: 2019/10/22 12:57
- 名前: 皇 翡翠
>>132
長文での返信有難うございます!
嬉しくて口許が緩んでしまいました。
あぁ、御声がけのタイミングですか、其れはすいません。鍵を掛ける程の価値があるか判らないまだまだ未熟な執筆者にも拘らず、荒らされるのは嫌なので常時鍵を掛けさせて頂いております。
癒し、私に限らず読んでいる皆様は与えられていると思いますよ!
私は最近、枕木さんの含め沢山の文豪スレが稼動して来ているのをきっかけに再び浮上率を上げた身ですから。
そうですね、好きだからこそ上達しようとするものですものね!
昨日・今日と続き感情が忙しないですね笑
はい、勿論。もう既に何度か再読しております。より深く感じられますからね。
中也らしい言葉遣いや内容に想像出来ますよ笑 笑いを含めたシリアス風の死.ネタ作品でしたね。
はい、本当にコメントを頂けると嬉しいものですよね。
貴方の尊敬に値する執筆者で居られるよう精進して参ります。
お待ちしておりますので、是非!
先々、そろそろシリアスネタも執筆しようかとも思っております。
此方こそ、小説スレなので簡潔にするつもりが長々となってしまい申し訳ないです。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.135 )
- 日時: 2019/10/22 21:59
- 名前: そよか
ありがとうございます!
なんかもう乱歩さんの可愛さとかお話しできる嬉しさで死にそうです!!
ぜひ見に来てくださいね!!!
素敵なお話しありがとうございました
(*- -)(*_ _)ペコリ
そして朝起きて中也さんを思って泣いた。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.136 )
- 日時: 2019/10/23 19:04
- 名前: 黒兎
こんばんはお久しぶりです黒兎です(^^)
手紙にやられました…orz
中也の手紙を読んだ後の展開に泣きました。
ナチュラルに(いい意味で)騙された…読み終わった後、しこたま辛かったけど太宰さんの嫌がらせに百年生きるって言う決意が唯一の救いで「あぁあ"ぁぁ"ぁぁ!!」ってなってます。
死ネタ書けるの純粋にスゴい…私ハピエン厨なので死ネタ書いたら自滅するので本当羨ましい!!!
自分じゃ書けないジャンルが読める幸せ!!これからも良い作品沢山読ませて下さいお願いします_|\○_
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.137 )
- 日時: 2019/10/23 20:22
- 名前: 枕木
まとめて返信する無礼をお許しください。こんなに反響があると思わずフリーズしていました…
>>134 皇 翡翠 様
すみません、「聞かれてないけど答えちゃうよ☆」スタイルでグダグダと…(笑)いえいえ、翡翠様だけで成り立っている神聖なあのスレッド、凄く素敵だと思います。私などが汚す訳にはいきませんから!代わりに雑談の方へコメントさせて頂きました。よろしければ彼方でもよろしくお願いします。
文スト、少しずつ栄えてますよね!黒兎様や皇 翡翠様が浮上したからこそ復活したのだと思っていますが…私もそのきっかけになっているのなら、これほど嬉しいことはありません。ただ、過去スレ見ると流行に乗り遅れた悔しさはありますね…それでも私は書き続けますよ!少しでも、こんな風に貴方や皆に褒められるために、癒しを与えるために(笑)何度も読み返してくれたとか、嬉しすぎます…これからも愛と根性で、こんな小説ですが書き続けます!!またいらしてくださいね、新作全裸の正座で待っています!(笑)
>>135 そよか 様
可愛かったですか、良かったですほっとしました…(´`*)
いえいえ、此方こそ、コメントとリク頂けて、赤面するような感想いただけて、感謝しかありません…!本当に、またいらしてくださいね、待っています。
乙女の涙を奪ってしまった…罪深い男ですね、中也くんは(笑)30歳という若さで亡くなる瞬間、誰を想っていたのでしょうね…想像もつきませんが、少なくともこの中也くんの心には、包帯ぐるぐる巻きのひょろい男がいたようですよ。
>>136 黒兎 様
いらっしゃいませ、今晩は、お久しぶりです!貴方を心待ちにしておりました。
手紙…そうですか、良かった…本当に、じっくりじっくり考えて書いたものなので。
真逆、黒兎様を欺ける日が来るとは!この構成も練り上げたものなんです、評価して、それも貴方に、頂けるともう泣きそうになりますね。
割と得意なのかも知れません、私、こういうお話しは。基本、トロしかないマグロみたいなお話しか書かないんですけれどね、偶にはクジラが海岸に打ち上げられることもあるでしょうから。
私こそ、貴方はいつも憧れのお手本です!沢山、新しい扉に出会わせてもらいました。こんな日がくるなんて思いもしませんでしたよ。
少しでも、私も貴方に与えられるものがあったなら幸いです。期待されると頑張れる子なんですよ、良い作品っていってもらえるように、沢山書いて頑張りますね!
皆様、本当に有難う御座いました。もしよければまたいらしてくださいね。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.138 )
- 日時: 2019/10/23 22:38
- 名前: そよか
包帯ぐるぐる巻きって・・・
あああああっ(泣)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.139 )
- 日時: 2019/10/25 06:48
- 名前: 枕木
>>138 そよか 様
ふふっ♪きっと、百年後にはお空になめくじと青鯖が浮かんで、黒手袋も2つ、揃っていますよ。
ところで!
雨やばくないですか?嗚呼、やだなあ、家から出たくない…
腹いせに(?)なんか雨をテーマにした太中小説あげたろー。
どんなんにしようかなあ。
……先に書き散らしたやつの後始末しろってな。仕方ないじゃん。後から後から書きたいのが涌き出てくるんだもの…!もうこれはどうしようもないよね、うん。……うん。(笑)
ということで、夕方頃またお会いしましょう!!では♪
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.140 )
- 日時: 2019/10/25 17:35
- 名前: 枕木
雨ノ日太中小噺
其の一
「中也さん、今から帰るんですか?」
「嗚呼。三徹したからな、半日休むぜ」
「お疲れ様です。傘はお持ちですか? 雨が降り始めたみたいで」
「それ、俺に云う台詞かァ?」
「あっ、そうか、中也さんには銃弾も雨粒も当たりませんもんね」
「ったりまえだ。誰一人、何一つ、俺には触れさせねェよ」
「ふふっ。お気をつけて」
ガチャッ…パシャパシャパシャッ
どんっ
「ッ、莫迦、本気でぶつかってくるもんじゃないでしょ、折れちゃう」
「あ? 恋人が雨の中走ってきて抱きついてきたんだぞ、受け止めろよ」
「……お早いお帰りですね、ポートマフィアのチビ幹部さん」
「偶にはな。年中暇な探偵社と違って忙しいんだ。休まねェとやってられるか」
「あっそ。……お帰り、中也」
「ん。……待ってたか? 太宰」
「真逆。偶々ポートマフィアのビルの前通っただけだよ」
「そうかよ」
「そうですぅ。ほら、行こ。こんなとこ居たくないし」
「手前が風邪引きそうだしな」
「ほんとにね。ほら、風邪ひいてほしくなかったらもうちょい此方寄って歩いてよ。私が傘からはみ出ちゃうでしょ」
「ったく、仕方ねェなァ。もう少しマシな傘買えよ」
「君が薄月給なのが悪いんじゃない。二人分の生活費で精一杯だよ」
「あー? 手前が酒と自殺やめりゃあ……」
「それなら中也だって葡萄酒と帽子に……」
パシャ、パシャ、パシャ。
パラパラ、パタパタ、
しとしと、ぬくぬく、らぶらぶ。
ぎゅうっ
其の二
ずぷんっ
「あァんっ!」
ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅ、ぱちゅ
「あァッ、あんっ、あっ、あぁんっ」
ザァアアアアアア……
「ひっ、うぅ、アァッ! アッ、は、や、すぎぃ、ぃああっ!!」
「ふふっ」
ぱんぱんぱんぱんぱんっ
「あ、あ、あ、あ、あ、ああ、あっ」
ギシッ…
ザァアアアアアア……
ごりゅっ
「ひあァアッ!!」
びく、びく
びゅくっ
ぱちゅ、ぱちゅっ
「あァン!! あんっ、あんっ……ま、い、ま、いま、いった、あァッ! ばっかりぃ……ああっ」
ぱんっぱんっ
「はっ、は……」
「いく、いく、いくいくいく……っ」
ぱんっぱんぱんぱんぱんっ
ザァアアアアアア………
「やら、やら、やらやらやら、いく、でる、いく……ああんっ!」
びくんっびく、びく……っ
どぴゅっ
ぴゅー……
「あぁぁぁああ……」
ぷしゃっ
「〜〜〜〜ッッ」
じわぁ……
「ははっ……すっごいね、中也。雨漏りしたみたい。びちょびちょ」
「や、ら……き、もち、いの、おわん、な……」
「躰ビクビクしてるもんねぇ? もしかして未だイッてる? 可愛いなあ」
「あッ、だ、ざい」
「うん、いいよ。気が済むまで付き合うから。こんな大雨じゃ誰も邪魔はできないし、誰にも聞こえないから。今日は、二人きりだよ。ずっと、ね」
「だざい……太宰」
ぎゅうっ
「ふふっ、雨っていいね、中也」
ちゅっ
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.141 )
- 日時: 2019/10/26 23:35
- 名前: 枕木
閲覧5000ありがとうございます!!
いやあ、嬉しいですね!いつの間にか活動半年が過ぎている……本当に早いものです。いつも応援してくださって、本当に私は泣きそうになるんですよ。
これは予告になるのですが、半年も経てば多少は語彙力もついただろうということで、とうとう書き始めます。
その名も、太中家族計画-出産編- です。
太中家族計画シリーズの最新話で、安定期に入ったということで、妊娠5ヶ月目の時系となっております。ここからは、6ヶ月目から一気に出産へ向かっていきます。かなり長編になる予定です。途中で別の話を挟むことがあるかもしれませんが、基本はそれを書いていきます。
自分の中で大切なお話になるので、少しずつ進めていこうと思います。何ヵ月かかるか判りません。ですが、皆さんも一緒に見守ってくださると嬉しいです。
それでは、そういうことで、お願いしますね。皆さん、いつもありがとう。これからもよろしくお願いします!
では、出産編でお会いしましょう!!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.142 )
- 日時: 2019/10/27 00:13
- 名前: 弑逆ノ藍
閲覧5000突破おめでとうございます!
そ、そんなに活動していらっしゃったとは…尊敬いたします!!
とうとう家族計画が出産まで到達……
楽しみすぎて剥げてしまいますよぉぉ!!!
枕木さんの書く太中は本当に大好きであります!
無理せずマイペースで書いてくださいな!
応援してますっ!!!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.143 )
- 日時: 2019/10/28 22:47
- 名前: 枕木
>>142 弑逆ノ藍 様
有り難う御座います!
本当に時がたつのって早いですよねえ。半年ですか、短いような、長いような……でも、確実に成長した半年だったのだと信じています。その半年の間に、あなたに出会うこともできましたしね。
出産編、とうとう というか、やっと、というか。太中家族計画が私のメインで、一番大切なものだったりするので、取り掛かる決心が必要でした。楽しみにしていただけるなら幸いです。
そう励まして頂けるとほっと安心します……じっくり考えて、ゆっくり書いていきますね。どうか、時々見に来てください。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.144 )
- 日時: 2019/10/31 17:56
- 名前: 枕木
「中也ー? 準備できたー?」
あー、やべ、待たせちまってたか。
部屋の外からの彼奴の声に「一寸待ってろ、直ぐ行く」と叫んで、鏡を覗きこんだ。
蒼い瞳が真っ直ぐこちらをみつめている。辛かった時期も終わり、彼奴に抱き締められて眠るようになったからだろう。彼奴に会う度心配された目元の濃い隈も消えて、ただ、蒼色が明るく輝いていた。
じっとそれをみつめて確認してから、思わず苦笑した。
今まで、自分の容姿とか気にしたことなかったんだけどな、彼奴が、「君の瞳って快晴の空の色で綺麗だよね」とか云って笑うから。そりゃ、気にするだろ。乙女かよってな。俺が一番判ってるんだよなァ……
ふう、と息を吐き、最終確認として、数歩後ろに下がって、鏡に自分の全体を映し、観察してみた。
朱色の髪。少し伸びたな……こうなってから、整える暇とか無かったもんなァ。早いとこ切るか結ぶかしねェと、彼奴に玩具にされる……三つ編みとか団子とか、何で無駄に器用なんだろうな、彼奴。
蒼い瞳。目元に隈は一切なし。また彼奴は綺麗だねって笑うだろうか。心配で歪めた顔よりずっといい。
そして、太股まで丈のある白いセーター。彼奴が自分の職場の探偵社員たちに俺のことを話したところ、その中の女性陣が協力して編んでくれたらしい。女にはこういうときの状態って判るもんなのか、冷えやすい躰に温かく、ゆったりとしていて苦しくなくて、着ていると調子もいい、有難い贈呈品だ。そのセーターに黒いパンツ、あとは、休暇をとってから二、三ヶ月が経っているものの、首領の厚意でその位が保たれている、ポートマフィア幹部としてのせめてもの威厳として、黒外套を羽織る。
うん、まあ、こんなところだろ。
一人鏡の自分に頷いていると、後ろから人がぬっと現れた。うわっ、脅かすんじゃねェよ阿呆!
「あはは、御免御免。何してるのかなあって」
「あー……悪ィな、待たせて。もう済んだから、出られるぞ」
「ん。急がなくていいよ? どうせ今日明日暇だからねえ。ゆっくりしようよ」
呑気にそう云って、後ろからぎゅっと包み込むように抱き締めてきた。
「こらこら」と口では云いながら、ふと、それが鏡に映っているのと目が合った。
顔の上半分は、高さ的に映っていなかった。なんかムカつく……ふわっとした黒髪、優しく微笑んだ口元、砂色の外套と何時もの服装、その裾から覗く真っ白な包帯。
そっと、俺の腹に回っているその左手に包帯越しに触れてみた。
……温かい。指が細長くて、すらりとした、綺麗な手。だけど温かい。その手が、俺に触れている……
なんか、夢みたいだな。
「なんか、夢みたいだね」
頭上で、奴がそう呟いた。
思わず、ふっ、と吹き出して、笑った。背後の奴も、笑った。
本当にな、夢だよなァ、これ。今まで現実がこんなに優しかったことなんか一度もねェのに。
「……私は夢でもいいよ。ただ、これが永遠に覚めない夢でありますように」
「そんな甘いもんか?」
「いいじゃない、偶には」
「まあ、偶には、な」
「うんうん」
楽しそうに笑う奴の左手に触れた指先を、そっと滑らせる。
包帯、長い指、薬指……硬い感触。
鏡にきらりと輝く、小さくて、途方もなく重くて、それでいて人生で一番幸せな、約束。
「中也」
振り返ると、鳶色の瞳が、あって。
それは、笑っていた。
「今日も綺麗だね、私の奥さんは」
目がかち合って、引き寄せ合うように、口づけをした。柔らかい感触が触れ合って、その隙間がなくなって、互いの下唇を柔く食んで、離れた。至近距離で、じっとその笑顔をみつめる。
でも堪えられなくなって、吹き出した。
なーんでこんなんなんだろうな、俺の旦那は。お前の父親だぜ? こいつ。ははっ、お前も笑ってんの? 大丈夫だ、俺がいるからな。父親はこんなでも、母親はしっかりするから。心配すんな。
「ん……あれ?」
「動いただろ、今」
「うん、動いた!」
目を輝かせて、俺の丸く膨らんだ腹に触れた手でそっと撫で、嬉しそうな顔で、判る判る動いてる! と子供のような反応をした。
そして、少し屈んで、まだこの世に姿を現せていない、けれど確かにここにいる自身の息子に、語りかけた。
「今から君が何時でも此方に来られるように、お買い物するからね。大人しくしてるんだよ?」
「ははっ、今日はよく動くな、こいつ」
「ちゃんと返事をするだなんて……私に似て頭がいいんだね」
「ばーか、早く外で暴れたくて仕方ねェんだよ。俺に似て体術遣いだな」
「えー……」
口を尖らせた顔と見合わせると、矢っ張り同時に吹き出してしまった。
やばいな、なんか。今日はなんか……すげえ、幸せだ。
「ふふふっ。今日はまだこれからだよ? 楽しいのはここからでしょ?」
「はははっ。そうだな。じゃあそろそろ出るか、太宰……じゃなくて」
「君も太宰だからねえ」
「わ、判ってんだよ! ……治」
「よくできました♪」
「っ……ほら、早く行くぞ」
「はぁい」
熱い顔を隠すように、ふいっと背け、歩き、外套掛けに掛けてあった黒外套を引っ付かんで、羽織る。そして、靴を履いて扉を開けた。直ぐに、だざ……おさむ、も、追いかけてきて、「いい天気だね」と空を見上げた。
澄みきった快晴の空。あー、これって。
「君の瞳の色と同じで、綺麗だね」
治が、にっこり笑ってそう云った。
……あーあ、矢っ張りこいつ、駄目だな。
二人で一頻り笑ってから、滲んだ涙を拭いつつ、歩き出した。
この蒼色も、治の笑顔も、全部、見せてやるからな。楽しみにしとけよ。
ははっ、今日は本当によく動くなァ、お前。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.145 )
- 日時: 2019/10/31 07:54
- 名前: 黒兎
こんばんは祝観覧数5000おめでとうございます!!
オノマトペだけで濃厚せっせの情景が目の前に浮かんでニヤニヤが止まらなくなって、一緒にその場に居た家族に「お前顔気持ち悪いぞ」と言われてしまいました^^;
目に見えて観覧数増えるとありがたいですが半年ってホント長いようであっという間ですよねぇ
今後も枕木さんのご活躍、影ながら応援しています(^^)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.146 )
- 日時: 2019/10/31 17:51
- 名前: 枕木
>>145 黒兎 様
有り難う御座います!5000とか半年とか、黒兎様の輝かしい功績に比べると、太平洋と琵琶湖、太陽と地球、ですよねえ。でも凄く嬉しいです。
あらあら、それは(^^)なんか楽しくて、ノリノリで書いた作品です。喘ぎ声とか情事の音とか、上手く表現できていたらいいのですが(真顔)あれ、もしかして黒兎様も私と同じ類いの性癖を持ってらっしゃるのかしら(笑)
いつも有り難う御座います。どうか、これからもお願い致します(_ _)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.147 )
- 日時: 2020/08/16 14:07
- 名前: 枕木
はらはら、紅葉が散る。屋敷の中が見えないように竹柵で囲っている為、こうして縁側に座っていても、見えるのは、越えることの許されない、低くも余りに高い柵と、中庭に植えられた大きな楓の木。紅く色付いた紅葉が、音もなく散って、落ちてゆく。もう地面は紅葉で埋め尽くされていた。
四季折々で中庭も景色が変わる。冬になれば、雪が積もり、かまくらなんか作ったりする。春には桜が散り淡い色の花が咲いて、夏になれば向日葵や池や。屋敷の持ち主で俺たちの雇い主である森鴎外が、客に景色まで楽しんで貰おうという精神だからだ。どうやって中庭を作っているのかは知らない。だが、この柵に囲われている俺たちが見られる唯一の世界が、この中庭だ。客の為に作ったものとはいえ、その世界が展開されているのを見ていられるのは有り難かった。15で此処に入って、もう既に感覚は麻痺しているが、それでも人間だ。もし、こんなに小さくてもこの世界がなかったら、柵に囲われ屋敷に閉じ込められるしかない人生だったら、狂っていたかも知れない。この小さな小さな世界は、俺の支えだった。
「もう秋かえ。早いのう」
上品な、衣擦れの音。そちらを見ると、紅蓮の髪を結い上げた、背の高い美しい女性が歩んできて、俺の隣で立ち止まり微笑んで中庭をみつめた。
「姐さん」
「これ、姐さんは止めよと云っておるじゃろう。まだそんな齢ではないがえ」
「すみません、姐さん」
「ふう……まあ、よかろう」
姐さんは、仕方のない奴じゃ、と着物の袖を口元に添えて、淑やかに笑った。
姐さん___尾崎紅葉は、この遊郭の最上級の花魁だ。森鴎外___主<ボス>にも気に入られていて、儲けの3割はこの方の功績だという話だ。一時期はこの儲けを一割にまで抑えられ、代わりに四割を制していた男娼がいたが、彼のいない今は彼女がそれを制している。
この遊郭では、最下級のまだ成り立ての遊女でさえ、普通の人間の一ヶ月の収入分は支払わないとその姿を見ることさえ許されない。姐さんの階級までいくと、一夜を共にすればもう車が買えるんじゃなかろうか。
それなのに、姐さんに客が絶えることはない。それどころか。
「また、身請けの話があったそうですね」
姐さんの魅力に、敵う者などいない。ましてや、姐さんの魅力に、虜にならない者などいないのだ。
姐さんを見上げて云うと、姐さんは俺を見ずに、落ち行く紅葉をみつめて、再び小さく笑った。
「まあ、そこかしこに物好きなどいるものじゃ」
「その話、どうするんですか?」
「どうもせん。私は、今の生活が気に入っておる」
「……そうですか」
うつむいて、俺は呟いた。
今の生活が、気に入っている……俺も、嫌いではない。居場所もなくふらふらしていた俺を拾って育ててくださったのは主<ボス>だ。俺も、少ない男娼の中では最上に位置する、姐さんほどではないが上級の男娼だ。俺がこの遊郭の、主<ボス>の役に立てているのなら、嬉しい。
……だが、身請け、即ち、家で例えるなら庭付きの豪邸を買えるであろう多額の金を支払って自身を買ってくれる者が現れれば、一生その者のものになる代わりに、この遊郭や柵の中から解放されて、自由になれる。姐さんには、身請けの話が幾度もきているのに、姐さんはそれを請けたことは一度もない。この遊郭が、暮らしが、気に入っている、というのだ。
昔、それと反対のことを云って、この遊郭を出ていった男がいたのを、思い出す。
『ねえ中也。君はさ、この人生が___』
「窮屈だと、感じたことはありませんか」
ぽつりと、口から滑り落ちていた。
全くの、無意識だった。
「この柵も、中庭も、飽きてしまったなあ、と……」
そこまで云ってはっとして、さっと姐さんを見上げた。姐さんは、表情もなく、ただ静かに俺をみつめていた。血の気が引く。何てこと云ってんだ俺。やばい、どうしよう、ただの男娼の俺が不満なんて云っていい筈ねェのに……!
慌てて口を開いた俺をそっと制して、姐さんは、優しく目を細めた。
「よい。内緒にしておいてやろう」
「……有り難う御座います」
頭を下げる。すると上から言葉が降ってきた。
「籠から逃げた小鳥は、果たして幸せかのう」
目を見開く。姐さんに、俺の思考、ばれてる……
うつむいたまま、唇を結んだ。
「が、しかし、中也」
名を呼ばれて、顔をあげる。
姐さんは、美しく微笑んでいた。
「誰と一緒になるかくらいは、自分で決めよ。お前の躰はもうお前のものではないかもしれぬが、お前の人生は、心は、お前のものじゃ。飼い殺される定めならば、誰に飼われるかは自分で決めよ。大丈夫じゃ、お前の籠の中でさえずる姿は何にも変えがたいほど美しい」
俺は、黙って頭を下げた。衣擦れの音が遠ざかるまで、頭を下げ続けていた。
そして、右手に握っていた一通の手紙を……『そなたに惚れた。儂の元へ来てほしい』というとある客の厚意を……握り潰した。
誰に飼われたいか、と問われたなら、一番最初に出てくるのは、何年か前に籠から逃げ出した一羽の小鳥。判っている、逃げた小鳥は帰ってこない。
ふう、と立ち上がり、自身の部屋へ戻ろうとしたとき。
「中也君」
姐さんが去っていった方とは反対から、呼ばれた。
振り向くと、中年の男性……主<ボス>がいて、にこにこ笑っていた。さっと頭を下げる。主<ボス>は、朗らかに云った。
「ほらほら、頭を上げて、支度をしてくれ給え。お客様が来ているよ。椿の間にご案内してあるから、お相手してねえ。明日の朝まで、頼むよ」
どくん、と心臓が高鳴る。ぎゅっと胸を押さえる。
毎月月末に、椿の間で、夕方から翌朝まで、俺を指名する客。それは、一人しかいなかった。
何年か前に、身請けされて、出ていった、姐さんを霞ませるほどの男娼だった男。だが、彼を買ったのは、この屋敷の男娼の世話をしていたとある男で、その男は死んだ。死に際に、彼を買うための金と契約書を残して。
彼の身請けは受理されて、彼は出ていった。しかし四年経って、彼は……客として、この遊郭に現れるようになった。
椿の間に、足を踏み入れる。酒を飲み、窓から落ちる紅葉を眺める、黒髪で、茶色の着流しに灰色の衣を羽織って、躰に包帯を巻いた、かつて幾多の人間を虜にした美形の男。
彼が俺に気付き、振り返った。鳶色の瞳が俺をとらえた。そして、口角を上げて、軽く云った。
「やあ。待っていたよ」
太宰治。
元最少年男性花魁であり、
俺の、初めての客だった男。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.148 )
- 日時: 2019/11/03 13:36
- 名前: 枕木
太宰は酒を机に置き窓を閉めて、俺を手招いた。俺は正座して、
「宜しくお願い致します」
と、お客様に御挨拶した後、襖を閉めて、太宰に歩み寄る。太宰が座ったまま微笑んで両腕を広げたので、太宰に向き合う形で、太宰の膝の上に股がった。
「久し振りだね、中也」
「丁度一月振りになります。御会いしとう御座いました」
「あれ、可愛いこと云うねえ? そんなこと云ったら、すぐに食べたくなっちゃう」
太宰が俺を抱き締め、首元に口づけを落としながら云う。嗚呼、首元は、昨日の……
「……」
案の定、太宰は、昨日の客が首筋にくっきりと残した痕を見て、一瞬、表情を消した。そして、その痕に上書きするように、口づけを落とした。
それが……それが、悲しくて、嬉しくて、声が震えそうになるのを、股間に触れてくちゅっと卑猥な音で誤魔化した。
「遠慮なさらず、召し上がってください。俺は貴方様のものです」
俺は、太宰の手をとって、着物の帯に触れさせた。下着の履いていない下半身を、着物越しに太宰のそれに擦りつける。少し捲って、もう既に濡らしてあるそこを晒すと、太宰はにこりと微笑んだ。
内心をひた隠しにして、お客様を悦ばせるため、楽しませるための、言葉を吐く。もう何年もやっているのだ。こんなこと、慣れている。
それが例え、かつては軽口を叩き合いながら日々を過ごして、客のいない夜になると互いの部屋を行き来して、蒲団に隠れて躰を重ねて愛を囁きあった、ただ一人の男だとしても。
もう、あの日々が来ることは二度とないから。
「あッ、あッ、ああっ」
「あー……すっごいイイ。もっと締めて」
「はぁ、ん、い……あぁん! あん、あん、あんっ!」
蒲団に寝かされ、足を開かされ、上に乗った男のそれを突っ込まれて、よがり喘ぐ。帯は傍らに捨てられていて、開いた着物は白濁で汚れていた。
一度一度のセックスで感じていたら身がもたないので、感じすぎないようにと、薬を服用されている。だが、お客様を気持ちよくさせるため、きゅうきゅう締め上げて、喘がないといけない。
太宰が、腰を小刻みに揺らす。いくら薬を飲んでいても、前立腺をゴリゴリされると堪らない。太宰はそれをよく判っていて、前立腺だけを硬い亀頭で何度も擦るのだ。小さく、速く、揺すって、ゴリゴリする。気持ちよくて、背中が反って、唾液が溢れる。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ
「あッ、あッ、あッ、あッ、あッ」
ごりゅごりゅごりゅ、ごりゅっ
「あぅっ! あ、あん、あぁん、あんっ!!」
「あー……きゅうきゅう締まって……あっ、いい……ちゅーや……」
足を開いて、もっともっとと、腰を揺らしてしまう。男が股を開いて、男に突っ込まれて動かれて感じて性器膨らませて透明な蜜だらだら流して喘ぐ。
それに興奮を覚え、病み付きになる人間がいる。だから俺たちは生きていけている。
この男も……太宰も、その一人なのだろうか。偶々、俺と躰の相性がよかったから……それだけなのだろう。
ぱんっぱんっぱんっぱんっ
「いぁあ……お、く、おく、あんっ、おく、らめ、らめぇ……あぁんっ! あんっ、ひぁっ、あぁん、あんっ、らめぇ……」
「うわあ、イイ顔……きもちいい? 中也」
本格的に、快楽に襲われる。元々感じやすい方なのだが、どうも、太宰に対してだけは薬がよく効かない。
だんだん感覚が麻痺して、太宰をお客として扱おうとしていたのが崩れてくる。
ぱちゅんっぱちゅんっぱんぱんぱんっ
「いい……ああんっ! あんっ、あぁんっ、あんっ、あんっ! きもち、いい、いい、あぁんっ! よ、すぎ、ぃ、あっ、ん、あぁっ、よ、すぎぃ、て、いっちゃ、いっちゃう……っ」
「いいよ……イッて」
「やらぁ……だ、ざい、の、だざい、の、ほしい……」
太宰の背中にしがみつき、ビクビク躰を痙攣させて、懇願する。太宰はにやっと笑って、俺の乳首をきゅっと摘まんだ。勿論、乳首も開発済みだ。紅く染まって、太宰につねられると、快楽が走った。
「はは、矢っ張り。中也って、乳首つねられるとすっごいナカうねるよねえ。ほら、ナカに出してほしかったら、頑張って締めて?」
きゅう……ぱんぱんぱんぱんっ
「やっ、ち、くび、らめ、おく、らめ、いく、ああっ、ああんっ、あんっ、あんっ、あんっ、ああ、ああっ!!」
ゾクゾクっと熱が集まって、我慢なんて出来なくて。
俺は、本当は禁じられていることを……自分のそれに手をやり、濡れたそれを上下にクチュクチュ擦って、ビクビク躰を痙攣させて、イッた。
「ああぁあぁぁぁ……」
きもちい……きもちい、きもちい。
もっと、もっと。
ごりゅっ
「ッ!?」
目を見開く。
やだ……なに、そこ……
太宰を見上げると、太宰は悪戯っぽく笑った。
「ねえ、もっといろんな顔見せて? ちゃんとナカに出してあげるから」
「あ……だざい……」
「ちゅうや……」
どちらからともなく、唇を重ねる。太宰は、腰を揺らして、奥の奥を突いた。
「んんっ、んっ、んんぅ、んっ!!」
目を見開いて、太宰に必死でしがみつく。無意識に下半身に力が入ってぎゅっと締め付けて、太いそれが狭く収縮したところを往復して擦るのが堪らなくきもちよかった。
太宰……太宰。初めてのときも、太宰だった。痛かったけど、段々慣れて。客をとれるようになっても、太宰とするのが一番で。
こんな……こんな関係でしか会えなくなっても、矢っ張り、俺は、こいつが。
ごりゅっ、ごりゅっ、きゅう、きゅう
「あッ、あんッ、あん、あんっ……あっ、いい、ああっ、いいよ、ああんっ、いい、あんっ、いいよぉ、だざ、ひあぁっ! いいよぉ、だざいぃ………」
突かれる度、摘ままれる度、涙が溢れる。快楽に支配される。けれど、怖くはない。相手が、太宰だからなのか。そうなのか? なあ……
ごりゅっ
「ひっ」
「ふふ……もう、そろそろ」
「だざ……」
ゴリ、ゴリ、ごりゅ、ごりゅ、きゅうぅ……
「いく、いっちゃ、いく、いく、いくぅ、ああ、ああ、ああ、ああぁぁぁぁあああぁ……!! あっ、あっ……!」
「っつ……」
ナカがぎゅうっと締まった。太宰の、太くて、硬くて、熱い……きもちいい……
どくんっとそれが脈打って、奥が重い液体で勢いよく濡らされる感覚。敏感になりすぎて、それだけでイッてしまいそうだった。
「……中也……」
「だざ……太宰……」
名前を呼び合う。引かれ合うように、口づけをする。
それでも俺は、こいつのものではないのだ。明日になれば、また違う男に抱かれる。このまま眠ってしまえば、もう二度と俺たちは会うことはないかもしれない……そんな、関係でしかない。
不意に流れた涙が、快楽からきたものだと信じたい。俺はぎゅっと太宰に抱きついて、囁いた。
「ほら、なにへたばってんだよ。明日の朝までだろ? まだ夕方だぜ? こんなんで一晩中楽しめんのかよ」
太宰は、客への態度だとは思いがたい俺の挑戦的な発言に、楽しそうに笑った。
「勿論。覚悟しときなよ、中也」
太宰はそう云って、口づけてきた。それに応えて、舌を絡ませる。こうして夜になって、更けてゆく。
客との口づけは禁止されている……とか、俺らの、太宰と俺との間だけは、どうか、許してほしい。
このくらいしか、太宰と特別でいられる方法がなかったのだ。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.149 )
- 日時: 2019/11/04 07:44
- 名前: 枕木
不意に、何の前触れもなく、目覚めた。辺りはまだ薄暗い。
上半身を起こし、傍らを見る。すー……すー……と微かに寝息をたてて眠る太宰がいた。そっと、その黒髪に触れてみる。存外、柔らかかったりする。
あー……毎日、こうだったらいいのにな。毎日、目覚めたとき傍らにいるのがこいつだったら、どんなに幸せだろう。
なんて、叶わぬことを思いながら、その寝顔をみつめる。罪になるほどの美形。かつて、何百という人間の人生を狂わせた、美しい悪魔。
判ってる。俺は太宰のものではないし、太宰は俺のものではない。こいつが帰ったら、また違う客が来る。そうしたら、俺は太宰にしたのと同じように、股を開いて、突っ込まれて、きもちいいきもちいいと鳴いて、腰を振る。そうして一月を過ごして、こいつがやってくる……
嗚呼、なんて人生だろう。ほんと、いやになってくるな……
「泣いてるの?」
はっと気づくと、太宰が目を開けて、じっと俺をみつめていた。
やっべ、俺、泣いて……? 慌てて目元に触れると。
「ううん、涙は流れてないよ。そう見えるだけ」
「……申し訳御座いません。お見苦しい姿をお見せしてしまって」
「いいよ、君の泣き顔ってすごいそそるから」
太宰が手を伸ばし、俺の頬に触れた。ひんやりと冷たい手。きもちいい……
そのまま引き寄せられて、ちゅっと口づけした。唇を開くと、その隙間から舌が侵入してくる。それを受け入れて、絡ませた。この行為が、俺の唯一の特別だった。他の客に同じように抱かれはしても、口づけはしない。これだけは、太宰が最初で最後の相手だから。
太宰が俺の腰に手を回し、立場を入れ替える。俺の上になった太宰は、突然、俺の首筋に歯をたてた。
「っ……」
一瞬、顔が歪む。太宰が口を離す。あ……? どうなった……? 太宰は、僅かな痛みの残るところに指を滑らせ、ふふっと笑った。
「くっきり、歯形ついちゃった。森さんに怒られるかな?」
「い、いえ……」
本当は、余り歓迎されない。昨日の客がつけた痕も、本当はつけてほしくなかった。独占欲の強い客だと、他の男がつけた痕を見て眉間に皺を寄せることもあるからだ。客を不快な気持ちにさせることは、絶対に許されない……けれど、太宰は……太宰だけは、嬉しい。
「俺は、貴方様のものです」
迷いなく、云った。太宰は嬉しそうに鳶色の瞳を細めて、口づけてきた。
舌を絡ませて深く口づけていると、ふと、太股に硬い感触が当たる。
唇を離し、少しばつの悪い顔をする太宰を、ははっと笑った。なんだよ、可愛いとこあるじゃねェか。
昨夜、情事を終えてから着替えた着物をまた汚してしまうことになる。けれどまあ、気にすることでもない。
俺は、着物の袂を開いて、紅く染まりぴんと勃った乳首を晒した。太宰が、ごくりと息を飲んだ。我慢する気か? 勘弁しろよ、こっちももうその気になってんだからよ。
「太宰様……どうか、遠慮なさらず。俺も、貴方が欲しいから……早く」
「っ……そうだね、もう今日はお客さんとれないくらいへとへとにしてやろうかな」
それもいいな。
口には出さずに、賛成の意を伝えるため口づけた。太宰のそれを、俺のそこに誘導する。今更慣らすような穴ではない。ずぷん、と勢いよく挿入る。ずぷずぷ……と進むと、太宰の形が判ってくる。最奥にぶつかると、太宰は一度息をついた。そして、俺の髪をかきあげて、優しく微笑んだ。
「君のナカ、すっごくあったかくて、やわらかいね。最高」
「俺も……太宰様が、一番です……」
「ふふ。有り難う」
太宰が、一度腰を引いて、ぱちゅん、と思いきり打ち付けた。「あァン!」と鳴いて、その動きに合わせて腰を振る。そうして、快楽に溺れていく。
他の客じゃこうはならないのだ。太宰だけ、こんなに気持ちよくて、こんなに愛おしくて、どうしようもなく幸せで、嬉しくて……
ずっと、ずっと、この時間が続けばいいのにと、願ってしまう。
叶わないのは、判っている。綺麗に色づいた紅葉も、いつまでもその色を保っていることはできない。綺麗なうちに落ちるか、枯れて残るか……それだけの違いだ。
けれど若し、美しく落ちた紅葉を、貴方が……太宰が、拾ってくれたなら。そんなに嬉しいことはないのにな。
「じゃあ、また来月来るよ」
「お待ちしております」
最後に口づけをして、みつめあって、微笑を交わして、名残惜しく、太宰は去っていった。
その背中に小さく手を振って、息をつく。腹に手をやる。まだ、太宰がナカに出した精液が残っていて、温かい。これが残っている内は、太宰のもので……
「中也君」
ああ……
「太宰君はお見送りしたよ。今度は、蓮の間にお客様が来ているから、躰洗ったら行ってねえ。その間、芥川君が相手してくれているから」
そうだよな。判ってる……筈だったのに。
「……畏まりました」
俺は、太宰のものには成り得ない。
俺たちを繋げられるのは、金と、躰だけだから。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.150 )
- 日時: 2019/11/14 21:12
- 名前: 枕木
湯槽に浸かり、湯気で白く霞んだ遠い天井をぼんやりとみつめる。この遊郭がどれだけ栄えているのかを思い知らされる。その支えの一部に俺は含まれているのかもしれないが、それはただの古株だからという理由だけで、姐さんや太宰のような、生まれついた瞬間にこうなることを定められたような才能はもっていない。現に、毎日途切れることなく人が俺を指名するけれど、何度も来るような客はいない。多くて三度だろうか。ほぼ、毎日人が変わる。つまり、直ぐに飽きられる程度の魅力なのだ。
だからといって、遊郭で暮らし遊女や男娼に育てられた俺に、これ以外出来ることもない。だから、外に憧れたことなんて無かった。
否。一つだけ……たった一つだけ、けれど胸が焦がれるほど、惹かれることはあった。それは、柵の外でなら、彼の人と……太宰と、手を繋いで、歩けること。太宰と暮らして、朝起きて一番に太宰の顔を見て、お早う、と挨拶を交わして、太宰の吐いた空気を吸って生きることができること。
外に出られたら、それが叶うかもしれない。太宰に愛してもらえたら、そうなるかもしれない。一人の人間を愛し愛されることさえ許されないこの柵に囲われた屋敷の中では、到底叶わないこと。ただ、湯気でぼんやりふやけた頭で、数刻前まで愛のない男に抱かれていたこの躰を湯槽に浸からせて、微睡みながら想うだけ。願いなどしない。ただ、妄想、瞑想、想像。
あと、半月。半月で、太宰に会える。あと半月、俺は他の男に躰を売りながら、どうにか生きる。太宰に会える。それだけが、俺の生き甲斐だった。長風呂で温くなってしまった湯槽には、これっぽっちも生きた心地を感じない。早く、早く、太宰に逢いたかった。
一つ息をついて、ざぶんと勢いよく立ち上がった。そして、湯槽から出た。
もう、半月の辛抱だと、唇を噛み締めて。
磨り硝子の扉の向こうにいる、次の客が来たと報せに来た世話係の元へ歩いていった。
* * *
「どうか、また会いに来てください」
勿論だ、と興奮が覚めやまない紅潮した顔で頷く男に、心中でこっそりと、うそ吐き、と呟いて、それでも笑顔を崩さずに、手を振った。
名残惜しそうに何度も振り返りながら去っていく男に、まるで別れを悲しむような歪めた顔を送り、完全に見えなくなると、そっと手を下ろした。どうも、太宰以外とやるのは心だけじゃなく躰も重い。鈍く痛む腰に手をやって、まだ感触の残る下半身を撫でた。溜め息をつき、部屋に戻ろうとしたとき。「中也さん」と声がして、振り向くと男娼の世話をしている少年がいた。頬に十字の傷がある少年は朗らかに、
「主様がお呼びです。主様の部屋へいらしてください」
と伝えてきた。
主<ボス>が部屋に呼ぶなんて、珍しいな……。滅多に呼びはしないのだ。
少年は俺を呼んだ内容は知らないようで、朗らかに、俺を導いてくれる。少年は笑顔だ。笑顔で、口調も柔らか。なのに、どうしてだろうか。歩きながら、むかいながら、胸に手をやりぎゅっと抑えた。
どうしようもなく、悪い予感がする。
そして、その予感というのは大抵、当たるものなのである。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.151 )
- 日時: 2019/11/17 16:48
- 名前: 枕木
幸せも不幸もない囲いの中と、
幸せも不幸もある囲いの外は、
どちらが、いいのだろうか。
「良かったですね」
主<ボス>の部屋からぼんやりと出てきた俺に、少年はそう云った。悪気などないのは判っている。けれど、何の悪気もなく放った一言が、無知で無垢な少年が笑顔で云った一言が、心を深く抉ることもある。
「お幸せに」
そして、その傷は半月経っても癒されることはなかった。
* * *
月の終わり、夕方から朝まで、椿の間。
「これが中也君の最後の仕事になるねえ」
「……はい」
主<ボス>は、にっこり笑って頷いた。俺も、何とか笑顔をつくった。
妖艶、純粋、明るい、あざとい、可愛らしい、美しい、儚い……
幼い頃から、沢山の表情を、笑顔を、つくることを教わった。上手くやって、客を喜ばせることもできている筈だ。だが、今の俺は……判らない。今俺は、どんな笑顔をつくっているのだろうか。
「中也君」
ふいに、主<ボス>が俺の名を呼んだ。ぼうっとして、うつむいていたらしい。慌てて表情を作ろうとして、その間も与えず、主<ボス>は笑顔のまま、云った。
「今日までは、君は誇り高い美しき花魅だ。判っているね?」
喉元で何かがつかえる。鉛のように硬く重く、息を詰まらせる。苦しくて、胸を抑えた。否……平気。平気だ。大丈夫。判ってる。判ってる。……判ってる。
「はい」
「うん」
短くそれだけを交わして、俺は立ち上がり、背筋を伸ばした。そして、一歩一歩、確実に、歩を踏む。
半月前も、こうして歩いていた。目の前に少年が立ち、その後ろを歩いた。あのときはきっと、意識せずともこうして美しく歩けていただろう。否、もしかしたら上の空で、全く出来ていなかったかもしれない。嫌な予感に胸を抑えて、そわそわして。だが、一つだけ確かなことは、
若しあの日に戻ることが出来るのなら、俺は決して主<ボス>の部屋の扉を開けはしなかった。
* * *
すれ違う人々の、驚いたような顔をして、振り返って背中まで追いかけてくる、沢山の視線を感じたが、無視をして歩いた。俺は、決して遊郭を歩き回ったりしない。自分の部屋と部屋から出たところで見える中庭を前にした縁側だけが主な活動範囲だ。主<ボス>に呼ばれ奥まったところにある主の部屋へ行くときだけが、俺の、ほんの僅かなそれの機会になる。男の花魁となれば噂は下級の遊女や男娼にまで噂は流れるようで、ひそひそと興奮気味に俺のことを囁き合う声も聞こえた。嫌な予感が、益々強くなる。どろどろして、気持ち悪い。
だが、目の前には立派な、金糸の入った襖。主の部屋だ。不愉快な顔をすることなど許されない。
ふうー……と大きく息を吸い、窺うような視線を向けてくる少年に「ありがとな、もういいぞ」と云って立ち退かせた。少年が走り去ったのを確認し、襖に向き合う。矢っ張り、嫌な予感がして、胸の中がどろどろしている。今なら、逃げられるかもしれない……と躊躇っていると、「遠慮なんかしないで、入ってきていいよ」と中から声がした。ごく、と生唾を飲み込む。
もう、逃れられない。
「失礼します」
襖を開けた。そこには、机を前にしてにこにこ微笑む主がいた。
否、可笑しい……何か変だ。こんな笑い方を、する人だっただろうか。
「まあ、座り給えよ、中也君」
促されて、丁寧に断りながら、机を挟んで主の前に正座した。主は相変わらず機嫌が良さそうに笑っている。そして、俺が佇まいを落ち着かせたのを待ってから直ぐに口を開いた。
「いきなりだけど、本題に入ってしまうね」
それを聞き、心臓がばくばくと激しく鳴る。背筋がぴんと伸び、動けなくなる。無意識に、太股に置いた手に力を込めていた。聞きたい、でも、聞きたくない。いやだ、いやだ、いやだ
「実はね」
やけに、ゆっくりに見える主の口の動き。三日月形に開いた口。そこから、発せられた声が、空気を揺らし届いて、鼓膜が震える。そんなことまで感じていた。うるさかった心臓の音が、急に聞こえなくなった。否、全ての音が、なくなる。急に、目の前から鮮やかさが、現実味が消える。血液が一気に冷たく重い液体と化して、すっと躰を冷やしていくような。脳内が空っぽになって、何も、考えられなくなって。これが、絶望ってやつなんだろうな。と、後に思う。でも、その瞬間はただ躰が一気に冷たくなって、笑う主の口元だけが切り取られたように鮮明で、それ以外は何も判らなくなった。
嗚呼、いやだ。いやだ、いやだ、いやだ……
「君の、身請けが決まったよ」
いやだ。
* * *
襖を開ける。そして、挨拶をしながら入って、襖を閉めた。正座をして丁寧に手をつく。……頭を上げられずにいた。落ち着け、落ち着け……
「やあ」
声が降ってくる。主でも姐さんでも誰のでもない、ただ一人の、愛しい人の、低くも高くもない、のんびりとした、声。
鼻の奥がつんとして、唇を噛んだ。なんだよ、俺。これだけで……。しっかりしろ。
口角を上げようとしてひきつって、それでも無理矢理持ち上げて、顔を上げた。
「ご指名、有りが……」
思わず、声が途切れた。言葉を、発することが出来ない。
柔らかい、茶のかかった黒髪。全てを見通してしまう、時々ふとしたときに素を出すように濁る澄んだ鳶色の瞳。相手を畏縮させない、柔らかな口元。余りに整った顔立ちと、きめ細かい色白の肌に巻いた包帯に、何時もの茶色の着流しの上に羽織った黒色の着物。窓は閉ざされていて、卓上に酒はない。蒲団の上に座り、ただ黙って、俺を見ていた。その瞳を見て、もう何もかも判っていることが判った。
「太宰」
「うん」
掠れた声で呼んだら優しく返事をされて、
もう、無理だった。
「太宰……ッ」
息が詰まる。立ち上がって、もつれそうになりながら彼に駆け寄って、彼が広げた腕の中に飛び込んだ。
「太宰、太宰、太宰……ッ」
「うん、うん、うん」
俺が呼んだ分だけ返事をして、太宰はぎゅっと俺を抱き締めた。
筋肉も贅肉も俺よりなくて、背ばかり高くて、だから、こうして収まってしまう太宰の胸が、何より好きだった。太宰のにおいも、体温も、全部、全部がいとおしい。ずっとここに居たい。ずっと、ずっと、太宰と、一緒に。
「俺……ッ 俺、俺は……ッ」
「うん」
「俺、本当、は……ッ」
「うん」
「本当は……」
喉につかえたものが、あるいは俺の中の無意識の自制心が、その先を云わせてくれない。本当の気持ちを、伝えさせてくれない。太宰だけ、太宰だけなんだ。太宰だけに、この気持ちは、あるんだよ……なのに……なんで……? なんで、どうして、声が、声が……
「うん。判ってるよ、判ってるから、中也」
「ッ……」
「もう、いいよ」
太宰の顔を見たかったが、胸の中に押さえつけられて、それは叶わなかった。
暫く、そうされていた。太宰の着物が濡れることはなかった。けれど、太宰は「もう泣かないで」と云い、腕を離して顔をあげさせて、口づけをしてきた。目を瞑ったままだったから、その瞬間の太宰の顔を見ることはなかった。でも、背中に蒲団の感触を感じて目を開けた瞬間、心臓が潰れそうになった。
太宰、太宰。なあ、太宰。俺は、俺はな……
云いたい言葉が一つだけある。けれど、云ってはいけないのだ。云ったら、きっとこいつは困った顔をして、心臓を潰すのだから。
だから、それをひた隠しにして、太宰の背中に手を回した。口づけをする。
そして俺は、太宰治に抱かれた。
奥まで深く深く繋がって、強く強く手を繋いで、一度も、太宰の鳶色の瞳から目を逸らさずに。言葉は、一言も交わさなかった。そうして、夜になって、気づいていない振りをして眠っている彼に、伝えられない想いと引きかえに呟いた。「さようなら」と。
さようなら、愛しい人。どうか、幸せで。
そっと蒲団から抜け出し、襖を開けて、出て、後ろ手に閉めた。
幸せな時間だった。この上なく、幸せな時間。
この思い出だけで、生きていこう。きっとできる。それだけで、きっと。
俺は幸せ者だなァ、太宰。
振り向かずに、歩いた。
口づけは、しなかった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.152 )
- 日時: 2019/11/26 05:12
- 名前: 枕木
明け方、俺は生まれて初めて屋敷を出た。
初めて屋敷の門の敷居を跨いで、辺りをぐるりと見回せば、そこは竹林だった。目の前に車に黒い車が止まっていて、鬱騒と生い茂る竹林を切り開くように下り坂の道が続いている。よくもまあ、こんなところまで来ようと思うなあと、場違いな感心をした。
もう生まれ育った屋敷を振り返る気はなくて、運転席から降りてきた背広姿の男が、車の後部座席の扉を恭しく開けるのを、ぼんやり見ていた。まず最初に出てきたのは、綺麗な革靴だった。傷や汚れのない、革靴。
そういやあ、俺は幾らで買われたんだろうか。主は、「君が十年かかっても儲けられないくらいの額を積まれて、断ることは不可能になったのだよ」と云っていた。換算したことはないが、俺の一年に稼ぐ額だけでも、三人家族が一生贅沢に暮らせるくらいの額にはなる筈だった。そうしたら、幾らになったのか。
いかにも成功者なその革靴を見て、そんなことを考えた。彼奴の靴は、傷だらけで緩んでいて、だらしがなくて、こんなのとは比べ物にならねェよなァなんて、微笑みながら。
「噂に聞いた以上の美人だね」
はっとして、顔を上げた。足元ばかり見ていて、ぼうっとしていたのだ。見れば、長身で長髪の、外套や襟巻きで不自然なくらいの厚着をした色白の男だった。見覚えはない、が、隣の主が笑みを浮かべているのを見ると、彼なのだろう。彼こそが……俺の、一生の主なのだ。
「初めまして。私は蘭堂。よろしくね、中也君」
笑みを浮かべ、手を差し出してきた。手袋は、このために外してくれたようだ。品のいい育ち方をしたのだろう。矢っ張り、彼奴とは大違いだ。彼奴のことを考えると、自然に笑みを浮かべることができた。だから、その表情のまま、手を握った。そして、彼の……蘭堂の瞳を、みつめた。鳶色では、ない。勿論、それは。な。
「宜しくお願い致します。どうか、」
末永く、と云おうとして、「う」の口のまま固まった。あっ、やべ……慌てて、笑顔でそれを誤魔化した。
どうしても云えなかった。何故か、は考えたくない。でもきっと、その内忘れるだろうから。そうしたら……
「では、貰いますよ」
「はい。どうぞ」
そんな会話をする主を見上げると、主も俺をみつめた。俺は、すっと頭を下げた。
「今まで本当に有り難う御座いました。この御恩は一生忘れません」
「うん。此方こそ、今まで有り難う、中也君。元気でね」
黙って、頭を下げたまま、蘭堂の元へ歩いていった。そして、蘭堂に「さあ」と促されるまま、車に乗り込もうとした、その瞬間。背中に、声が刺さった。
「お幸せにね、中也君」
目を見開き、血液が凍り付くような感覚に、硬直した。
嗚呼、嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼……
貴方は、ここでその台詞を吐くのか。
ぎゅっと唇を噛み締め、絶対に主はもう見るまいと、車の中に滑り込んだ。その代わりに、隣に滑り込んできた新たな主に微笑みかけた。蘭堂は頷き、顔を綻ばせると、召し使いなのであろう運転席の男に「出してくれ」と指示をした。
そんなにエンジン音もなく、静かに、車が滑り出していく。少しずつ少しずつ、離れていく。目を瞑って、瞼の裏に浮かんだ包帯に、そっと別れを呟いた。
さようなら。さようなら、俺の全てよ。さようなら、愛しい人よ。どうか、いつまでも。
* * *
可笑しい、と感じたのは、車が発進してから一時間ほどたった頃だろうか。
蘭堂は落ち着いた静かな口調で、とりとめもない世間話をした。それが不思議と心地好く感じられて、俺もそれに応えて、それなりに楽しい時間を送っていた。だから、気がつかなかったのだ。いつまでも終わらない、竹林に。
「あの……」
「うん?」
「街に……向かっているんですよね?」
以前、客が此処に来る間に雨に降られて大変だったと話していた。だから、時間はどれくらいかかるのですかと、特に意図もなく訊いた。客は、街の外れに住んでいるから二十分くらいで来られるよ、と返した。それに対して俺は、ではそれなら何時でも会えますね、なんて云って客の上に股がったのだが、それはもうどうでもいい話だ。山を登って二十分、詰まり、遅くとも三十分もあれば山を降りられる筈なのに、そんな時間はもうとっくに過ぎている。
蘭堂は、にこっと笑った。
……え?
その笑みに、背筋がぞわっとした。
「どうしてそんなことを訊くのかな?」
「え……」
「街に降りたいのかい?」
「……向かっているのは、貴方様のお家ではないのですか……?」
「誰もそんなことは云っていないよ」
車が、止まる。周りは、あの中庭ほどの大きさの原っぱになっていて、竹も遠巻きだった。きっと、この辺りの竹を伐採したのだ。なんのために?
蘭堂が、更に笑みを深くする。背筋に冷や汗が流れる。何か……何か、やばい。やばい。
「ねえ中也君。私は、何の為に君を買ったと思う?」
普通なら、性奴隷にするため、とか、伴侶代わりにするため、と答えるところだ。しかし、こう質問するからには、違うのだろう。
真っ先に頭をよぎったのは、人身又は臓器売買だった。否、違うだろう。俺は体格だけ見れば普通の男だ。それをしたいなら、態々高い値のつく男娼を買う必要はない。もっと安く、寧ろただで買える人なんて其処ら中にいる筈だ。それなら、何故……
思考を巡らせていると、蘭堂は突然、片手で俺の顎を掴み、蘭堂の顔を見ろと持ち上げた。手が、冷えきって冷たくなっていた。蘭堂はにっこり笑っていた。
「私が思っていたよりもずっと、君は賢かったようだね。けれど、車に乗り込んでしまったのは、賢明な判断ではなかったようだ」
「ッ……」
俺はこれから傷つけられる……否、殺される、らしい。視界の片隅に、運転席の男が刃物を光らせたのが見えた。背筋にひやりと悪寒が走り、動けなくなった。ただ、楽しそうに微笑んでいる蘭堂を、見上げていた。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.153 )
- 日時: 2019/11/27 17:44
- 名前: 華蓮
お久しぶりです!
相変わらず素晴らしい作品ありがとうございます(*´∇`*)
だ、だだ大好きだなんてそんな…///
こんな素敵なもの書く方にそんな言葉をかけて頂くなんて…(*/□\*)もう死んでもいい……
更新待ってます!愛してます!
また来ます!(((語彙力皆無
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.154 )
- 日時: 2019/11/27 19:43
- 名前: 皇 翡翠
お久しぶりです。
今回の小説も衝撃的で深読みしちゃいますね。
枕木さんが小説更新なされている中、自身のレスがそろそろ更新しないとなぁとは思うものの、大文下がってしまって焦り気味な為、シリアスネタかRもの何方を上げようか悩んでおります故、良ければ意見を下さればと思ってお声掛けさせて頂きに参りました。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.155 )
- 日時: 2019/11/28 21:44
- 名前: 枕木
>>153
またコメントを頂けるなんて、嬉しくて仕方ないです…♪ありがとうございます!
I love you…ふふっ、そのまんまですからね♪本当に嬉しくて、こんな風に言ってもらうために書いているようなものなんです。だから、何にも凄いことなんてないんです。寧ろ、こんなに喜ばせてくれる貴方の方が凄いと、私は思いますよ。
どうか生きて(笑)またいらして下さい。また褒めてもらえるような小説研究して、待ってます!!ありがとうございました(^^)/
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.156 )
- 日時: 2019/11/28 22:06
- 名前: 枕木
>>154 皇 翡翠 様
コメント有難う御座います!
厚かましくも、貴方の雑談のスレッドにお返事を書かせて頂きました。勝手にすみません。作者として、というよりはファンとして、意見を述べさせて頂きました。参考にならないようでしたら畑を三反ほど耕しますから、お許しください…
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.157 )
- 日時: 2019/11/30 05:53
- 名前: 枕木
男といえども今まで暴力や喧嘩とは無縁だった、所謂箱入り。シートに押し倒され顎を押さえつけられてしまえば、どんなに抵抗しても無駄だった。じたばた手足を動かし、蘭堂の手を引き剥がそうとしたが、びくりともしなかった。
近づいてくる、にっこり笑う蘭堂の顔と、きらりと光る鋭利なもの。
嗚呼……終わりか。此処までだ。ぱたり、と抵抗を止めて、やけにゆっくりと感じられる自分の死を、待った。
思い返せば、散々な人生だった。
7つまでの記憶はなくて、ある日突然、ふとそこに立っていた。辺りは荒れ地だった。ぐるりと周りを見渡し、上を見、抉られたような土の壁を首をかしげて見上げた。そこをよじ登ってみれば、そこから先の世界が広がっていた。その光景だけは、鮮明に覚えている。だが、そこまでだけだった。蒼い腕輪をつけた武装姿の少年少女たちに突き飛ばされ、痛みを知ったこと。当てもなくさ迷い歩き、疲れて座り込み寄りかかったのが、まだエンジンがかかって暖かかった黒塗りの車だったこと。その車の持ち主が俺をみつけ、にっこり笑って云った。「綺麗な顔をしているねえ。君、名前は何と云うのかな?」そのあと、「私は森鴎外」と名乗って、俺に手をさしのべた……
嗚呼そうだ、あのときの手も、冷たかった。けれど、一つだけ、温かい手を知っている。白くて細い指の、包帯を巻いた、あの手。あの手だけは暖かかった。あの手に触れてもらえるのが、何より嬉しかった。頬に触れて、「中也」と呼んで、その鳶色の、瞳で。
そうだな。うん、そうだ。幸せだった。幸せな人生だった。彼奴に出会えた。彼奴と触れ合えた。彼奴を愛せた。幸せな人生だ。
こんな形で終わるとは思ってもみなかったけれど、けれどまあ、悪くはない。彼奴のものになれないのなら、もういっそ誰のものでもなくなってしまおう。せめて、魂だけででも、彼奴の側に……
目を瞑った。熱かった。温かかった。
じゃあな。
顎を押さえていた手が外れる。短刀が、さらけだした首めがけて降り下ろされた。
その瞬間、俺は呟いていた。
じゃあな、
「太宰」
瞑った瞳から、熱いものがこぼれ落ちた。
その、瞬間だった。
ドンッ
「!?」
何かがぶつかってくる鈍い音と、衝撃。車体が大きく揺れる。蘭堂が驚いたような顔をした。運転席から伸ばされていた手から、その弾みに短刀が落ちた。
「ばかな……」
蘭堂が大きく目を見開き、呆然と呟くのが聞こえた。
「私はこの辺り一体を亜空間で展開した……何かが入ることなど、あるはずがない……」
あくうかん……? 何云ってんだ、こいつ。つうか、今ぶつかってきたのって牛かなんかか……
ブロロロロ……
慌てて、運転席の男が車を再発進させた……のが、空中で空回りした音。ぐるんっと、俺ではない、車が、回転する。重力に逆らえず、ドアに叩きつけられた……と思ったがぶつかられたときに歪んだようで、ぱかっと開いたドアから、ぶんっと車が持ち上げられ揺らされた勢いで、外へ放り出された。車の前座席の頭に掴まり、俺を見下ろす蘭堂の焦った顔が見えた。その瞬間、恐怖で心臓がぎゅっと掴まれたような感覚になった。何が起きたのか全く判らない。けれど、矢っ張り俺はこうして死ぬ運命なのか。こうなったのも、あのとき彼の名を呟いた罰なのか……
地面に叩きつけられるのを覚悟で目を瞑った。もうすぐ、地面に……というところで、俺は何か、硬くないものに受け止められる感覚を感じた。
え?
地面ではない、なにか。しっかりと、俺の背中と足を持ち上げる、二本の……腕の感覚。
人間だ。人間に、抱き止められた。
そして、その人間とは、真逆。このにおいと、この腕の感触。真逆、そんな訳、と、ゆっくりゆっくり見上げた。
その瞬間、目を見開いた。
声が出ない。突然起こった、今の事態にも、勿論、びっくりして、何が何だか判らない。けれど、それがどうでもよくなるくらい、今見ているものが……彼がここに、目の前にいるとという事実に、心臓が止まった。
ふふっ、と柔らかく笑い、鳶色の目を細めて、黒髪をさらっと流して。
そして、囁くような声で、俺の名を呼ぶ。
「中也」
呼ばれて、止まっていた心臓が脈を打つ。その声に、表情に、見開いた目を閉じられない。
ただ息を飲んでみつめていると、彼は、ぷっと吹き出した。そして、あははっと楽しそうに笑った。
「自分で呼んでおいてその顔はないんじゃないの?」
訊いてきた彼の……太宰の問いに答えられず、ただ、見開いた瞳から熱いものが流れ出るのを感じていた。
今目の前にいるのは、俺を抱き抱えているのは、紛れもない、太宰治、彼だった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.158 )
- 日時: 2019/12/01 06:51
- 名前: 枕木
太宰は、俺をそっと地面に降ろすと、俺がちゃんと自分の足で立ったのを確認して、俺の躰を素早く見回した。そして最後に俺の顔を見て、ほっと息をつき、顔を綻ばせた。
「善かった。怪我はないみたいだね。何か飲まされたりとかも、してない?」
「……してない……」
「そう。善かった……」
太宰は心の底から出したような安堵の吐息を吐き出して、そして今度は俺を安心させるみたいに、俺をみつめてにっこり笑った。だが、返って俺はその穏やかな笑顔に動転してしまった。俺はまだ、全然、何も把握できてねェのに。状況が、判らない。混乱して、思考回路が全く働かなかった。口から疑問がだだもれていた。
「何が、起こって……何で太宰が此処に……蘭堂ってそもそも何者……」
「うん、あとで順を追って説明してあげるから。けれど……」
太宰がキッと彼方、蘭堂の乗る車を
見る。蘭堂の車が、空中に持ち上げられて、振り回されて……振り回してんのは……子供……!? 金髪の、麦わら帽子を被った子供が、あんなに簡単に車を……?
「あっちが、先だ」
太宰が呟いたのと同時に、突然、空気が歪んだ。次に来たのは、衝撃波。空気が揺れる。子供が車と一緒に吹っ飛ばされるのが見えた。竹林の壁にぶち当たり、崩れ落ちる。おいおいおい、あれ、死んじまったんじゃ……!?
「大丈夫。賢治君は頑丈だし、受け身も心得てる。けれど、君は、違うよねえ……」
太宰が俺を振り返って、仕方ないなあ、と態とらしく肩をすくめた。なんっかむかつくな……
「すまないが、邪魔だったのでね」
静かな口調の、声。はっと前方を見ると、さっきまであの金髪の子供が立っていたところに、蘭堂が立っていた。車が吹っ飛ばされる直前に車から飛び降りたのか……あ? でも、運転席の男は?
「仲間が死んでもお構い無しですか。貴方、友達いないでしょう?」
太宰がからかうようにそう云った。俺はそれを呆然と眺めた。
蘭堂は、ふっ、と笑った。
「誤解してもらっては困るよ。私に仲間はいない。すべては、駒だ。目的を果たす為の……そう、中也君、君を殺す為のね」
蘭堂の目が俺を射抜く。心臓に、突き刺さるような感覚。
俺を、殺す為。
それを反芻したら、躰に震えが走った。けれど太宰はそれと対照的にけろりとしていて、にっこり笑みを浮かべた。
「すみませんが、彼は私のものなので。渡す心算は微塵もないですね」
驚いて、太宰を見た。は? 今なんつったこいつ。
「そうか。それは残念だよ」
だけど太宰にそれを問う暇もなくて、蘭堂が、本当に残念そうに顔を歪めながら、此方に掌を向けてきた。
そして直ぐに、衝撃波。空気……否、この空間そのものが、遅いかかってくるような。先程のよりも強かった。なんだ、これ。蘭堂から来てんのか。
動くことができない。太宰が、動かないから。声をかけようとした。しかし、太宰は余裕の笑みで、動いた。右手を前方へ出す。まるで、その空間を受け止めようとするみたいに。
そして、それはその通りになったようだった。
太宰の掌に吸い込まれるように、空間が消えたのだ。あとに残るのは静寂。にっこりと笑う、両者。唖然とそれをみつめる、俺。吸い込まれたんじゃない……太宰が、消した。蘭堂が発したとてつもない力を、太宰が。
「……成る程」
蘭堂が、呟く。そして、太宰に向かって云った。
「君は、異能力者からさえも仲間外れにされた憐れな子か」
「お言葉ですが、私はもう一生寄り添ってくれる人をみつけているので、可哀想ではないですね」
すかさず、太宰が穏やかに反論する。蘭堂はそれを暫くみつめた後、ふっ、と笑った。
「そうか。それなら、君には荒神がお似合いかもしれないな」
「そう云ってもらえると嬉しいなあ」
そう云う太宰に、気が抜けたように、ふっと笑い、次に、俺を見た。どきりとした。
「中也君。私は、君の全てを知っている。君の生い立ちも、君という存在が何なのかも」
息を呑む。心臓が止まる。蘭堂が微笑む。
「力をつけたら、そこの青年と一緒に来なさい。全てを教えた上で、殺してあげよう」
最後に心臓に爪痕を残して、蘭堂は去っていった。否、去った、という表現は正しいのか判らない。瞬きをして瞼を開いたとき、もうそこに彼はいなかった。まるで、その空間ごと消えてしまったみたいに。
暫く呆然としていたが、ふと気がついて、先刻まで蘭堂のいたところに近寄ってみた。
そこに落ちていたのは、年季の入った黒帽子。それを拾い上げてみると、太宰が横からそれを覗きこんだ。
「随分趣味の悪い帽子だねえ。まあ、次会うときまで持っておいてってことじゃあないの。約束の証として、さ」
俺の、全てを……俺という存在が何なのかを、あの男は、知っている。
聞かなければ、いけない。知らなければ、いけない。そうしなければ、俺は人間になれない。太宰の隣にいることもできない。
「……おう」
俺は小さく頷いて、帽子をみつめた。
少しして、太宰ががばっと両腕を広げた。思わずびくっとする。驚かせんじゃねェよ!!
「よし、これで邪魔者はいなくなった! 会いたかったよ中也!!」
そして、ぎゅうっと抱き締め……られそうになったが、そこではたと気づいて、ひょいっと屈んでその腕を回避した。
「あの子供!! 彼奴、大丈夫か!?」
遠くに、竹を背もたれにして座り込んでいる金髪の子供が見えた。慌てて、俺は立ち上がり走りよって行った____
のを、太宰は苦笑して見送った。箱入りで世間知らずで、これは大変だ。
紫色に薔薇が伝う着物が、ぱたぱたとはためく。朱色の髪に、白い肌。美しく儚い、けれど強い。彼は、自分の生まれた理由を、自分が存在する理由を、知るだろう。彼は、それをどう受け止めるだろうか。
彼をみつめている背後に、足音が数人。ぶつぶつと文句を云いながら。
「全く。僕が場所割り出した瞬間車飛び出すとか有り得ない! 押し退けられて、お菓子溢しちゃったよ!」
「すみません。帰りに駄菓子屋寄りますから……それにしても、これまた、やたら難しいのを抱え込んできたな、太宰」
「賢治君、事前に太宰さんと打ち合わせてたみたいで、一緒に飛び出していっちゃいましたからね……でも、すっごく綺麗な人ですね」
「当たり前だろう、太宰が惚れたンだからねェ。賢治は……あの程度じゃなんともないか。つまらないねェ」
「成る程。太宰さんが惚れるのも判るなあ……でも、どうするんですか? 彼、自分の異能とか、全く知らないって話ですけど」
「おい、どうするんだ、太宰」
「うふふ」
太宰は、楽しそうに笑った。そして、くるりと振り返った。
「実はもう決めてある」
乱歩は顔をしかめ、国木田、敦、与謝野、は、きょとん、と太宰をみつめる。
太宰は、晴々しい笑みを浮かべ、高らかに宣言した。
「うちの社員にする」
……皆の絶叫が、「都会の人はこんなに美人なんだなあ」と怪我のない賢治に感心され戸惑っていた中也の元に届き、可哀想に、びくっと躰を跳ねさせた。
これより始まる日々がどんなものになるか……それを、彼が知っている筈もない。けれどその瞬間、彼の悲惨だった運命は動き始めていたのである。
一人の男……太宰治によって。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.159 )
- 日時: 2019/12/01 17:16
- 名前: 枕木
数年後。
某廃ビル裏にて。
「おい、国木田。聞こえるか?」
『嗚呼。此方は外れだ。も抜けの殻どころか人がいた気配もない』
「そうか。それは可哀想なこったなァ。まあ、自分の運の悪さを恨むんだな!」
『なぬをぅ……』
「一寸、中原さん〜。勿体ぶらないで、教えてあげましょうよ」
『!? 敦、その口振りだと、真逆……』
「まあ、そういうことだ。此方は大当たりだったぜ。五十はいるな。どうする?」
『全く、貴様という奴は運だけはいいな……依頼通りだ。殺さず、けれど十分後に警察が来たときに楽に全員を捕まえられる状態にしておけ』
「それが一番難しいんだぜ、知ってるか?」
「はは……」
『貴様らになら三分もあればやれるだろう?』
「まあな」
「中原さんがいるのなら、何とか」
「な」
『よし。嗚呼、長だけは、爆弾についての情報を聞き出した後、だぞ。場所も、解除方法も全てな。横浜の彼方こちらで爆破されては敵わん。ヒントだけでもいい。絶対に聞き出して、九分で収めろ』
「へいへい。了解」
無線機を切ると、立ち上がり、盛大にため息を吐いた。
「ったく、彼奴無茶しか云わねェ……今度絶対ェ酒奢らせる。さっさと終わらせようぜ、敦」
「はい。何時でもいけますよ!」
「おっし、んじゃいくかー」
云うなり、中也は派手な音をたててビルの壁を蹴り破った。予想通り、中では屈強な男たちが数十人たむろしていて、突如ガラガラと崩れたコンクリートの壁と、足を振り上げている、小柄な朱色の髪に趣味の悪い帽子を被った男、それを「普通に扉から入りましょうよ……」とぼやく白髪の少年を唖然とみつめた。
「おーおー、不良の溜まり場かよ此処は。取り合えず、でっけェ音たてんなよ手前ら。三階で寝てんだろ? 手前らの長。起こしたくはねェからなァ」
にっ、と笑い、軽々と跳躍すると、その勢いで手前にいた男の頭を四人回し蹴りした。筋肉の盛り上がった大男が、バタリバタリと面白いくらいに倒れる。
「ッ……! やれ、手前ら……」
「すみません、お静かにお願いします」
ようやく事態に気がついて仲間をけしかけようとした男に、虎の俊足で背後に回り込んだ敦が、腕を回して首を固定し、ひねりあげた。男は、崩れ落ちた。その間にも、中也の攻撃は止まらない。無防備な男たちの首を回し蹴り、鳩尾に重い拳をめり込ませ、米神に踵を降り下ろす。そして、残り一人になって躍起になった男のふりかかってきた鈍器を黒手袋をした手で受け止め、見えない力……重力で、弾き飛ばした。男は反対側の壁まで吹っ飛ばされ、泡を吹いた。
中也は、倒れてうめく男の上に足を乗せ、全く乱れていない息をついた。
「こいつら、貧弱すぎじゃねェのか? つまんねェの、三分もかからなかったぜ」
「そんなこと云ってられませんよ! ほら、三階でしたよね? 早く、長から情報を……」
「任せとけって。五分でイかせる」
「は!?」
「あっ、悪ィ云い間違えた。吐かせる」
「否いま絶対態とですよね!?」
「さあなー。じゃあ、手前は国木田に報告しとけよ」
「はーい……」
頬を赤らめる健全な少年の敦にくすっと笑って、中也は自らが崩壊させた壁から外へ出ると、ふわっと跳躍した。そして、三階の高さまでくると、くるっと反転して窓を蹴り破り、中へ入った。
見ると、更に奥に部屋がある。
中也はにんまりと笑い、自らのクロスタイとシャツの胸元を緩めた。
そして、扉を開ける。そこには、怯えた長の男が、中也を見て情けなくヒィッと悲鳴をあげ、ソファから落ちる。
「こらこら、怖がんなよ」
中也は一歩一歩、近づいていく。
男があとずさる。とうとう、中也に壁際まで追い詰められた。中也はその上に股がると、怯えきったその瞳をみつめた。
「なあ、俺、お前と仲良くしたいんだぜ……?」
ちろっと出した赤い舌に、男はごくりと息を呑んだ。
* * *
「……ってのが聞き出した全部だが、これでいいか?」
『はっはっは! それだけ情報があって僕に判らないことはないよ!』
「そうか。じゃあ、後は手前らと警察に任せりゃいいな?」
『嗚呼。よくやったな中原。敦も。今から迎えに行く。そこを離れて、駅へ歩いていてくれ』
「否、敦だけで充分だ。俺は寄るところが……」
「太宰さんに作るご飯の材料、買いに行くんですって♪」
「お、おいこら、敦!!」
『そうか。それなら、中原はそのまま直帰でいいぞ。ご苦労だったな』
「おう。お互いにな」
『中原かい? 敦も、怪我はないかい?』
「嗚呼、センセーか。俺はねェよ」
「はい、僕も」
『ちぇっ……そうかい。つまらないねェ』
『……命拾いしたな、中原に敦……』
「ははは……じゃあ僕は駅へ歩いてますね」
『嗚呼。後でな。それじゃ、切るぞ』
『中原! 太宰なら、あと二時間で帰宅だよ。ご飯作りは、早めにね!』
「ッ〜〜……云われなくてもなっ!!」
真っ赤になった中也を、敦が面白そうに笑う。それをまた真っ赤になって抗議する中也。
これが、彼、中原中也の日常になっていた。
* * *
「そういえば、今日中也また色気仕掛けしたんだって? 敦君から聞いたよ」
「あ? あー……」
太宰が帰宅して、美味しいにおいに釣られて台所を覗くと中也が料理を作って待っていて、「お帰り」「只今」の言葉と軽い口づけを交わして、とりとめもなく喋りながらそれらを食べて、もう既に中也が風呂に入ってしまったのを不服そうにしながら太宰が風呂入って、その間に食器洗いを中也が済ませて、寝室で待っていた中也に、風呂上がりの太宰がそう投げ掛けた。
「なんか、中也最近多くない?」
少し不機嫌そうに口を尖らせて太宰が云う。中也は苦笑した。
「仕方ねェだろ。俺、元最上級男娼だし。手加減って苦手だからな。色気で男殺すんじゃなきゃ、マジで殺しちまう」
「脳筋だものねえ、君……」
「んだとコラ」
「ふふふ」
太宰が、笑って、中也の上に倒れ込む。
「強くなったね、中也。あのころより、ずっと」
「そりゃあな。今や、武装探偵社の主要戦闘員だぜ?」
「そうだね。……もう、君は自分の意味も知っているのだし」
「……そうだな」
未だ、帽子は中也の手元にあった。帰しに行かなかった訳ではない。約束通り二人で彼の元へ行き、中原中也の秘密を知り、そして、戦い、勝利した。今でも時々、中也は彼の墓を訪れている。
「もう、手前の隣に居ても恥じなくていいくらいには、なったぜ」
中也が呟くと、驚いて、太宰が顔を上げた。
中也は、にっと笑う。
太宰は、ふっと笑う。
そして、電気を消そうと手を伸ばして、ふと、太宰が思い出したように云った。
「嗚呼そうだ、実は私、暇があると屋敷へ行ってね、屋敷から出てくる中也指名の男のあと、つけてたんだよ」
「!?」
「それで住所覚えて、もう二度と中也に触れるなって嫌がらせしまくったりしてたなあ」
「!! 俺に常連客が少なかったのは手前の所為かっ!!」
「まあね〜」
「ざっけんな、手前の所為でいくら売り上げが落ちたか……」
「君に私以外が触れるのが、嫌だったのだよ」
じたばた暴れていた中也が、ぴたりと静止する。目を見開いて、太宰をみつめる。太宰はふふっと笑って、口づけすると、その唇をぺろりと舐めた。
「ほら、どうやって幾多の男を誘惑してきたか、実践して見せてよ」
太宰が中也の腰を妖艶に撫でた。中也は、にいっと笑う。
「いいぜ。今の話のお返しだ。絞り取ってやるよ」
太宰は、電気を消して蒲団の脇のスタンドライトを点けると、仰向けになっている中也が首に回した腕にひき寄せられるまま、抗うことなく、魅惑の夜に沈み込んでいった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.160 )
- 日時: 2019/12/01 14:19
- 名前: 枕木
「あっ……そこ、もっと、擦って……あっ、あっ、あぁっ!」
太宰がナカで指を動かす度、気持ちいいところを擦られる度、びくん、びくん、と躰が跳ねる。もう性器はぐちゃぐちゃで、裸になっている俺の躰のあちこちに白濁を飛び散らして、反り返った赤い先端からだらだらと愛液を垂らしていた。
「やっ、い、く……」
太宰の指が突然速くなる。気持ちいいのが高まって、目を見開き、がくがく躰が震えて、白濁を吐き出した。やだ、やだやだ……きもちいの、おさまんない……なんで、太宰、指止めないの……俺イッた、のにぃ……ガクガク、止まんない……
「や、だ、とめ、ゆび、とめ」
「えー? だって中也、指だけでこんなに満足してるみたいだしい……」
「あ、あ、い、やあ、太宰のが、いい……」
太宰が、ふっ、と笑い、指を引き抜いた。入れていた人差し指と中指がぐちゃぐちゃに濡れていて、二本指の間で糸を引いていた。かあ、と顔が熱くなる。
「そんなに欲しいなら……自分で、挿入ていいよ?」
「え……」
「欲しいんでしょう?」
太宰はにやにや笑っている。こいつ、恋人は虐めるもんじゃねェだろ……!
でも、もう、疼いて仕方がない。指じゃ届かなかった奥が、きゅんきゅんしていて。我慢、できない。
「じゃあ……俺が乗る」
「わあ、本当?」
太宰が、顔を輝かせる。チッ……あとで覚えとけよ太宰!
ふう……と心を落ち着かせ、座った太宰の肩に手を置く。そして、そっと下腹部へ手を伸ばし、下着の中から性器を出した。根本からつつつとなぞってみると、ぴくっと反応して大きくなんのが判った。
「相変わらず半端ねェなァ……」
「そりゃあ、可愛い恋人の前だもの」
「っ……ばか」
恥ずかしくて堪らなくなったので、太宰の首に顔を埋めて、ゆっくりと腰を下ろした。すぐに、入り口に堅い感触。少し腰を動かしてみると、太宰のなのか俺のなのか、ぬるりと滑った。
……息を吸い、覚悟を決めて、腰を下ろす。膨らんだ先端が、抵抗をものともせず、つぷ、と挿入した。
びくっ
「っ〜〜」
「つらい? 大丈夫、大丈夫。そのまま、ゆっくり、腰下ろして……」
髪を撫でられ、促されるままに、腰を下ろしていく。太くて大きくて、苦しいのに、息が荒くなる。膨らんだ性器から愛液が垂れる。どうしよう、奥、きちゃ……
ごりっ
「ひあっ!」
快楽が脳天を突き上げ、じわりと涙で視界が歪む。
「ふふ、イイトコロ当たっちゃった? いいよ、自分でイイトコロに当てて御覧?」
「っ……」
いいよ、なんて耳元で囁かれると、もう、我慢なんてできなくなって。
腰を小刻みに動かして、気持ちいいトコロを太宰の亀頭にごりごり擦り付けた。
ぐちゅぐちゅぐちゅ
「あっ、あっ、あっ……」
ごりゅっ
「あぁっ!」
ごりゅっ、ごりゅ
「あぁン! はっ、あ……ッ」
びくっ、びくっ
気持ちいいのが、止まらない。脳天が快楽で痺れて、もうやだって思うのに、自分で腰振って、止めらんない。ぐちゅぐちゅと濡れたナカで水音がして、恥ずかしくて堪らないのに、その音にさえ興奮してしまう。ただその一点ばかりを擦り付けてビクビクしていると、突然、耳元で湿った声が囁いた。
「ねえ中也? 奥のトコロ……一番奥のとこ、コンコンしたらどうなるのかなあ。私のを奥まで飲み込んで、気持ちいいトコ、ぜーんぶ擦りながら上下に動いたら……」
びくっと躰が跳ねる。
「どうなっちゃうのかなあ?」
脳を甘い痺れが駆け抜ける。どろどろに溶かされる。嗚呼……もうダメだ。
俺は、更に腰を下に下ろした。腹の圧迫感が強くて、少しずつ、少しずつ、押し開いていく。
不思議なもので、もう何度も太宰にはこんなところ辿り着かれているのに、何度ヤッても狭いままだ。手前もきついよな、と太宰に問うと、いや、と返ってきた。
「ぎゅうぎゅう締め付けられて、嬉しいよ。私の侵入を歓迎してくれてるみたいで。中也のナカは、もう私専用だもんね」
と、にこっと笑いかけてきたので、顔が熱くなってしまった。
そう。俺は、太宰のものだ。
太宰だけを愛して、太宰だけに愛されて、太宰だけに抱かれて、太宰だけと口づけする。
けれど、太宰だけじゃない、仲間もできて。あの頃、俺はこんな生活を全く、想像も出来なかった。
あの頃の俺に教えてやったら、どんな顔をするだろうか。
想像したら自分の間抜け面思わず笑ってしまって、力が抜けて、ずりゅんっと一気に奥まで挿入った。
ごりっ
「〜〜〜ッッ!!」
「あー、もう、莫迦だなあ」
いきなりキた、奥を堅いもので勢いよく突かれる快感に、太宰にしがみついて耐えると、太宰は笑って、俺の髪を撫でた。
「中也、動ける?」
「…………むり……」
「だよねえ」
呼吸をするのが目一杯だ。息を吸う度ナカが締まって、血管が浮き出て、濡れていて、堅くて太い、太宰のを感じてしまう。それだけでビクビクしてしまうのだから、奥をゴリゴリして、ナカをぐちゅぐちゅして、ぱんぱんえっちしたら、どうにかなってしまいそうで、恐い。
「ごめ、ぬく……おれ、だざいの、なめる、から……」
「ん〜……フェラもいいけど……」
どさっ
突然、視界が変わる。天井と、太宰のにっこり笑った顔と……
「……あああッ!?」
びくんっと躰が反り返り、涙が爆ぜた。
うそ……だろ……?
奥までずっぷり埋まった太宰のソレ。太宰は満面の笑みで。
「やら……やら、やら……」
「ねえ中也、許してね。たっくさん、気持ちよくさせてあげるから」
「やっ……ら……あぁ、あぁあっ!!」
びくびく、と躰が反り返る。
腰をひいては、ずりゅっと奥を突いて。ナカを、擦られて。
どうしよう……こんなの、むり……
けれど、あまりの快楽に絶句している俺にはお構い無しに、太宰は腰を振る。
ぱんっぱんっぱんっ
「あァ、あッ、んぁっ!!」
ゴリッ
「〜〜〜〜〜ッッ!!」
ぬー……ぐちゅっ、ぐちゅ……ぱちゅっ
「あ……ひっ、うっ……あぁンッ!!」
ゴリゴリゴリゴリぱんっぱんっぱんっ
「ア! あぁあ、ああ、あっ! あっ! あン、あン、あンっ!!」
両手を掴まれ逃げられなくて、足を大きく開かされて、ただ、壊れそうなくらいの快楽にビクンビクンと痙攣して、泣きじゃくった。
ゴリッ、ぬちゅぬちゅ……
「あぁン! やっ、ごりごり、らめぇ……」
ぬちゅぬちゅぬちゅ
「ら、め、らっ……あぁ……」
ぬー……ごりゅりゅりゅんっ
「ん……あぁぁあぁあっ!!」
びく、びくっ、びゅくっ
あ、たま、おかしく、なりそ……あ、やべ、イくの、とまんない……腰、ガクガクして……
「だ、ざ……」
「うん、大丈夫、大丈夫……イッていいよ。たっくさんイッて」
ぱんっぱんっぱんっ
「あ、あぁ〜〜ッッ」
反り返って快楽から逃げようとしても、逃げられない。ぼろぼろ涙が溢れて、泣きながら、頭が真っ白になる絶頂を迎えた。その間も奥をぐりぐりされて、絶頂の更に上の快楽を味わう。もうわけが分からなくなって、けれど、きもちよくて、もうわけわかんないくらいきもちよくて、もっともっとって、浅ましく腰を振ってしまう。きゅんきゅん締めて、ナカに種を求めてしまう。こういうのを、遊郭の外では……
「いんらん」
「……ッ! 〜〜ッ!!」
耳元で囁かれて、奥がぞくっとして、ナカがきゅうう……と締まった。やばい……ヘンなの、キちゃ……
「あ〜……もう出したいなあ。ねえ中也。ナカに、ほしい?」
「ほ……しい……」
快楽で蕩けた頭も、躰も、快楽を求めていて。もっとほしい、もっともっとって。
「じゃあ、誘ってみてよ。ナカにくださいって。淫乱な、元花魅の中也くんなら、できるよねえ?」
にやっと笑った太宰の顔に、躰が熱くなる。いんらん……おれ、いんらんだから。おれ、おいらんだった。できる……
「だ、ざい」
手を伸ばして、太宰の背中に手を回す。そして、呂律の回らない舌で、云った。
「なか、きゅうきゅうして、がまんできないの……だざいのせーえき、どぴゅどぴゅって、いっぱいちょーだい? おくこんこんして、だざいのせーえきで、おれのなか、ぐちゅぐちゅに……あ、あっ、あぁあぁぁんっ!」
卑猥な高音が俺の喉から響く。
片足をぐいっと持ち上げられ、さらに奥を突かれる。やだ……こんなの、しらない。きもちいい……
「だざい、だざいぃ……」
「はっ、ははっ……君って本当、とんでもないね」
目を開けると、太宰は、笑っている唇の口角をひきつらせて、瞳に野獣のような鋭光を宿していた。
あー……これは、やっちゃったな。
ぱんぱんぱんぱんぱんっ
「は、や、あ、い、あッ、あッ」
ゴリッゴリッゴリッ
「あぁっ、あッ、あぁあッ!!」
ごりゅんっ
「はあぁんっ」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ
「やぁあんっ! あァ、あッあッああッ! あン!」
やばい……やばいやばいやばい。
ぱんぱんぱんぱんっ
「イ、く、う、イク、イク」
ぱんっぱんっごりっごりゅんっ
「イク、イク、イッ、アッ、ああぁぁあぁああぁ……ヒュッ、は……」
かけ上がってくる一際大きい快感の波に抗えず、息をするのも必死に、イッた……
筈だったのに。
ぎゅうっ
「!?」
「ふふ……」
突然、ソレを掴まれて射精を遮られる。涙目で見ると、太宰が根本を手で握っていた。楽しそうに笑っている。涙が溢れた。
イキたい……イキたい、イキたい。
「や、ら……イカせて……」
「イけるでしょ、このままでも。先刻、イキかけてたよね?」
先刻の、何かがキた感覚を思い出す。かあっと躰が熱くなる。
「あれは、ちが……」
「ちがくないよ。大丈夫、一緒にイこ?」
耳元で囁かれ、もう、どうしようもなくなった。
ゴリッ
「やあっ!」
ごりゅ、ごりゅ、ごりゅ
「い、や……あ、あ、あ、あぁっ」
ぱんぱんっ
「ひッ、うぅ」
ぱんぱんぱんぱんぱんっ
「あああぁぁああぁあっ!!」
太宰に、必死ですがりつく。何かが、何かが、クる。キてる。
ゴリッゴリッゴリッゴリッ
「あン! あぁ、あン、あぁン!」
ゴッゴッゴッ
「〜〜〜ッッ!!」
ぬちゅぅ……ごりっ
「つうぅ……ああああっ!!」
涙が溢れて止まらない。キてる、キてる、もう、むり、いく……
ぱちゅっぱちゅっ
「キ、ちゃう、キちゃうぅ……あぁっ、ンあぁん、ああっ、あっ……」
「うん。一緒に、ね」
優しく微笑んで、ちゅっと口づけされる。甘えるように舌を出すと、その舌裏を舐めて、唾液を絡めてくれた。それだけでもうきもちよくて、頭が真っ白になる。
ごりゅっごりゅっごりゅっ
「ンン、んんぅ、んっ、んっ……」
くちゅ……ごりっごりっ
「ふぁ……んんっ、んんっ!!」
クる、キちゃう、イク、イク、いくいくいく……ッ
「ぷはっ! お、さむ……おさむ、おさむ」
「! ……ちゅうや」
とびっきり優しい、大好きな奴の、大好きな笑顔。嬉しそうな笑顔に、きゅんっとして。
最後に、太宰は俺の手をぎゅっと握って、抜けるぎりぎりまで腰をひくと、そのあと……
「ちゅうや……」
奥の奥まで、突き上げた。
「あいしてる」
「か、は……ああ、あっあっあっあっあっ」
目を見開き、ガクガク痙攣する。奥の、一番柔らかいところが、うねって。その柔らかいところに、ナカで脈打った太宰のが、熱い精液を注ぐのが判った。
絶頂したときの、一番強い快感が、頭の中を真っ白にする。なのに、精液は出ていなくて、ナカがきゅうう……と締まって。いつまでもいつまでも、イッているような。どうしよ……きもちいの、とまんない……また、なんか、クる……
「中也」
ちゅっ
「朝まで、楽しもうね」
あの日の煽りのお返しみたいに、太宰がにいっと笑うのが、霞んだ視界で見えて、くらくらした。
嗚呼、でも。
「はあ、はあ……の、ぞむところだ、太宰」
「ふふっ」
笑い合って、再び愛を確かめあうために、ぎゅっと抱き締められて息を落ち着かせた。
いつまでもいつまでも、この幸せな日々が続きますようにと、祈りを込めて口づけした。太宰は僅かに目を見開いて、そして、楽しそうに笑った。手を握って、もう一度口づけした。
鳥籠の中で美しく鳴いていた鳥に、手をさしのべたのは、この、温かい、包帯に巻かれた手。
もう、俺は自由だから。
どうか、どうか、末永く。大好きな、手前と一緒に。
「さあて、いける? 中也」
「そちらこそ、もういけるのですか? 満足させて下さいね、太宰様」
「っ……」
悔しそうな顔を、あははっと笑った。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.161 )
- 日時: 2019/12/01 09:46
- 名前: 枕木
はらはらと、紅葉が舞い落ちる。
美しくも、これが何ヵ月もつづけばいやでも作り物だと……幻想だと気づいてしまう、儚く虚しいもの。
それを、尾崎紅葉は眺めていた。
「あの子の髪の色に、似ておるのう」
目を細め、そう呟く。
「……嫌がらせかえ?」
隣を振り向けば、同じように中庭を眺めキセルを蒸かす青年が。癖のついた髪はくすんだ蜜柑の色をしていて、髪飾りや耳飾りで着飾っていた。
彼は苦笑した。
「真逆。貴方に嫌がらせをしようだなンて、思い付きませんよ」
「それなら、いいんじゃ」
再び憂い顔で中庭を眺め始めた紅葉の横顔を見て、青年は云う。
「そろそろ、換えましょうか」
「そうじゃな。今度は、雪にかまくらに、駆け回る犬が欲しいのう」
「犬ですか。太宰さんが嫌がってたから、もう随分映してないなあ」
「何年前の話じゃ。もう、太宰も……中也も、おらん。あとは谷崎、お前が要じゃぞ」
あの二人は……天性の才能を持っている。無自覚に理性で抑えていた、人間として恥じる部分、野性の、本能の部分を、簡単にさらけ出してしまう。あんなの、一度でも抱いてしまったら麻薬だろう。何度男の人生を狂わせたのか、知る由もない。あの二人を失って、この遊郭も相当な痛手をうけた。
遊女をつれ戻す方法は……あるにはある、らしい。
だが当分は動けないだろう。それまでは。
「判ッてますよ。ナオミを助けてもらった恩がありますからね。ナオミにやらせる必要がないように、僕が沢山稼ぎますから」
「期待しておる」
「はい」
谷崎はにっこり笑い頷いて、中庭をみつめ、すっと掌を向けた。その途端、景色がぱっと切り替わる。しんしんと雪が降り、もう既に積もっていて、かまくらができていて、茶毛の犬がわんわん吠えながら楽しそうに雪の地面に足跡をつけて回る。ついでに作った雪だるまは、炭で可愛らしく笑顔をつくっていた。
「愛いのう。小さきものは、本当に愛い」
紅葉はそう云って美しく微笑んだが、決して手を伸ばすことはしなかった。手を伸ばしても、届かないものがある。それを、彼女はよく知っていた。
そして、それは谷崎も同じだった。
けれど数年前、自分より明るい髪色をした青年が、伸ばした手を引っ張られて、此処を出ていった。
同じことが起こるとは、思っていない。けれど、そういうこともあるのだと、知ってしまった。
何時か、この日々が終わる日が、運命が変わる日が、来るのかもしれない。
淡い期待に、すがることもなく。ただ、ただ、それは淡く、細雪のように、すぐに、溶けてゆく。
「谷崎君、ご指名だよ」
はあい、と返事をしながら、彼は、そっと、その小さな世界へ手を伸ばした。
えんど
……?
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.162 )
- 日時: 2019/12/01 09:52
- 名前: 枕木
あとがきー
ずっと前から何時か書きたいと思っていた、遊女パロです。姐さん、美人ですよねえ。すっごく妖艶。着物、本当に似合いますものね。中也君も太宰さんも、ね。
そんなとこから始まった遊郭パロでしたが、いかがだったでしょうか?設定詰め込みすぎて、途中遊女どこいった?みたいな(笑)でも、大分凝って作り上げた世界なので、また機会があったら書いてみたいですね。
さてさて、濡れ場も存分に書いたことですし、出産編ですよ!沢山書きたいことがあるんです。最早、途中で挟むレベルで書く長さではなくなってしまいましたが、こんな感じでちまちま書いていきますので、良ければ感想・リクエストください。お話の途中でも一向に構いません。どしどしくださいね!
それでは、また出産編の続きでお会いしましょう〜♪
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.163 )
- 日時: 2019/12/15 08:15
- 名前: 枕木
今日は時間もあるからと、店が揃う駅前へは徒歩で行くことにした。ぶらぶらと、とりとめもなく会話をしながら、歩いていく。
そうしながら、うなじがピリピリするのを感じていた。気にしないように努めたが、ヒソヒソと話し声まで耳に入ってきて、苦笑いがこぼれた。太宰も察したようで、俺の苦笑いに釣られるように、眉をひそめた。
「気になるかい?」
「……まあ、ほんの少し、な」
太宰が、そっと辺りを見回す。すれちがう人々が、俺の腹を見て、ザワザワしているのだ。
はあ、と溜め息をついた。
「悪ィな、太宰」
「何で謝るの」
少し怒気を含んだ声音で、太宰が云う。
まあそれもそうだよな、仕方のないことだ。と頷くしかなかった。
世間体とか、俺も太宰も気にするタマじゃない。けれど、矢っ張り、気分が悪い。何故こんなに注目されるかって、妊娠・出産のできる男性がいると発表されてから、その例があまりにも少ないからだ。例え器をもっていたとしても上手く腹の中で育たなかったり、そもそも種付けができなかったりする。同性での恋愛自体、普通のこと、という認識は低い。
だから、こんなに腹の膨らんだ男が男と連れだって歩いていたら目立つのは当たり前だし、奇異の目で見られヒソヒソ噂されるのも当然だ。男同士で、そういうことをしたのか……と妊娠するにあたる経路を想像し、囁きあい爆笑する人もいた。
矢っ張り、そういうのは気分悪いもんだろ。
「……中也……」
太宰の顔を見上げ、微笑んだ。
「そんな顔すんなよ。そこまで気にしてねェ」
「でも、気分悪くしたでしょう」
「まあ、多少はな」
ふう、と息をついた。この生活が、あと四ヶ月ほど続く。そうして産んで、育てていく。長い長い人生だ。それなら、これくらいのことは慣れねェと。
だから、心配すんな、と傍らの夫に笑いかけた。
「このくらいのことはどうってことはねェよ。
……考えなきゃいけねェことは山程あるぜ」
そう。決して楽観的にはなれない。危惧しなくてはならないことは、山程ある。こんな些細なことはどうでもいい。もっと危険な、命に関わることもある。
……それでも。それでも、産みたいと思った。産むと決意した。太宰と俺の、もう何人人を殺めたか判らない手で、子供を育てようと決めた。
守りたい。俺の、俺たちの、大切なものを、全部。
「男らしいなあ」
俺の思考を読み取ったのか表情から何かを読み取ったのか、太宰がくすくす笑う。俺はにやっと笑い返した。
「まあ、一先ずデエトを楽しもうぜ」
「そうだね」
差し出された手を握って、並んで、歩いた。
この先に待つものも、今はどうか、姿を見せずに。二人の時間を、邪魔しないでくれ。
もう少しだけ、どうか。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.164 )
- 日時: 2019/12/21 22:21
- 名前: 枕木
すみません…ちょっと、何かを見失ってしまったので、太中はしばらくお休みさせてもらいます。突然すみません。
多分、勢いよく八ヶ月も書き進めてしまった所為だと思います。出産編も始めてはしまいましたが、まだ私には早かったようです。ここで少し、落ち着きたいと思います。
しかし、書きたいものは文スト以外にもあって。メインは文スト、という意識があったので抑えていましたが、実はハマっていて、書きたいのが他にもあるんです。そこまで数は書かないと思うので、このスレでそのまま始めたいと思います。
ぶっちゃければ、今ハマッているアニメというのも、私が以前中途半端に始めたオールジャンルスレ(消しちゃいました)でも書いていた、『弱虫ペダル』です。
私の中の弱ペダは小野田君1年で止まっているので、時系列としてはそこらへんが主かと。文ストでなくても、弱ペダも知ってるわよー、とか、知らなかったけどおもしろー、とか、話しかけて頂けると嬉しいです。
突然すみません。文ストを書かない枕木でも、どうかよろしくお願いします。
- Re: 【文スト休止中】弱虫ペダル 東堂受け ※一定期間のみ ( No.165 )
- 日時: 2019/12/22 20:52
- 名前: 枕木
あっ、ヤベェ。
そう気づいたのは、コール音が3回と少し鳴って、それがぷつっと途切れて。
『オレに掛けてくるなど珍しいな。遅刻の言い訳か?』
そう聞こえて、自分が掛けた筈のない人物の、その気に入らない声に驚いて、
「東堂ォ……?」
と掠れた声で呟いてしまった後だった。
驚いたのは向こうも同じだったようで、直ぐに返事は来なかった。だからオレは、通話を切るボタンを押した。
ディスプレイを凝視する。
オレは、部活を休むときの鉄則として、部長である福チャンに電話をしたつもりだった。しかし、今は今しがた起こったことの衝撃で覚醒している意識が高熱で朦朧としていたのだ、送信する人を間違えてしまったらしい。
【東堂尽八】
そう表示されたディスプレイと、17秒という通話時間が嘘であってくれと、願うばかりだった。
心臓がバクバクと煩かった。
オレは、スマホを探しながら、考えていた。電話しねェと。誰に? 部活、休むってことを……
一番、大切な人に。
勿論、大切というのは部活で、という意味で、部長である福チャンのことを指す。
しかし、あろうことかオレは何時も煩くて喧しいダサカチューシャの副部長に電話をしてしまった。全くの無意識だった。意識をして掛けたのならまだその時オレはどうかしていたのだと誤魔化せる。しかし、無意識だった。完全に無意識で、福チャンの名前を押そうとして滑ったわけでもない。電話帳は登録順で並べてあるから、福チャンと東堂は大分離れている。だからオレは、オレの本心は、意図して押したのだ。『一番大切な人』の名前を。
「ッ……バカかよ……」
歯を食い縛った。それでも、否応なく想像してしまう。オレの電話を受けて、東堂はどうしているだろうか。
アイツのことだから、今頃パニックになっておろおろして、兎にも角にもと福チャンや新開のところへ走っていっているのだろう。きっと、「アイツ死ぬんじゃないか!?」なんて大騒ぎしているのだろう。
嗚呼そうか、オレ、結局何にも伝えてないもんな……。我ながら本当にバカだ。
今度こそ福チャンに、メッセージを送る。部活を休む旨と、謝罪の言葉。東堂へ電話をかけたことには触れないでおいた。送ってすぐに既読がつき、間もなくして返事がくる。了解したこと、オレの体調を労う言葉。そして最後に、『東堂が心配している』と。
奥歯を噛み締め、スマホを放り投げて布団を頭から被った。
やっちまった。マジで、やっちまった。どうすりゃいい? 次に会ったら、きっと問われる。「何故オレに掛けてきたんだ?」と。アイツ相手に言い逃れはできない。きっと不信に思うだろう。でも、オレは答えられない。どうしても。
嗚呼もういい、忘れちまえ。目を閉じた。どうせ、東堂に会うのは月曜日。明後日だ。それまでに電話でもメッセでも送って、誤送信だったと弁解して……
そんなことを考えながら、眠りに落ちていった。
そして、目が覚めたとき。
窓は朱色に染まっていて、換気に開けた覚えのない窓からゆるやかに入ってくる風がカーテンを揺らしていて、デコにはひんやりとしたシートが貼られていて、高熱を外に逃がすため出た汗の不快感もなくて。
オレが頭を乗せる枕の端に突っ伏して、すやすやと眠る東堂がいた。
目を見開いた。
吹き込んできた風が東堂の髪を揺らし、オレの頬にかかった。ふわりと、シャンプーの匂いがする。寮棟備え付けのものだから同じものを使っているはずなのに、何か、オレとは違った。
「ん〜……」
夢うつつで小さくうめき、オレが起きたのを察したらしい東堂が、顔をあげる。オレは東堂を向いていて、枕はそれほど大きくないのに東堂はその端に突っ伏していて。だから勿論、東堂の顔が目と鼻の先にあった。
東堂の、紫がかった黒目が、オレを捉える。ぱちぱちと何度か瞬きをした。その睫毛の振動さえ感じるような距離で、東堂が言う。
「お早う、荒北」
そして、にこっと笑った。
ざわざわと、胸のなかで何かがうごめく。
何かが始まる、においがする。
でも東堂は何でもない顔で体を起こして、伸びをした。そして振り向いて掛け時計を確認して、「もう4時か!」と驚いたように言った。
ごくりと唾を飲み込み、口を開いた。東堂が「ん?」と振り向いた。
「何時から此処に居んの、お前」
ひどく掠れた、声が出た。
東堂はじいっとオレをみつめ、その後、堪えきれないといった態で、「ブフォッ」と吹き出した。
「何笑ってんだゴラ!!」
笑われたのが恥ずかしくて、怒鳴る。しかしその声も掠れて全く様にならない。東堂は「いひひひ……」と腹を抱えて笑い、そして笑いが収まってくると胡座をかいて、傍らのレジ袋を引き寄せた。
「さてね、覚えとらんよ」
答えはそれだけで、代わりのようにスポーツドリンクのペットボトルを差し出され、「起き上がれるか? 水分を摂れ」と言われた。
オレは無言で上半身を起こし、無言でペットボトルを受け取って、口をつけた。それまで特に喉が渇いたという欲求はなかったが、冷たい飲料が喉を潤していくのが気持ちよく、一気に半分ほど飲んでしまった。
ぷはあっと大きく息をつき、オレがキャップをしめたのを確認すると、東堂は立ち上がった。
「此処にレジ袋を置いておく。薬は食後に必ず飲め。パンと果物が入っているから、無理のない程度で食べろよ」
「は……?」
「何驚いた顔をしているのだ? オレも暇じゃないんだ、ここからは自分でやれよ」
「え……?」
オレはまだ宿題が残っているからな、とむっつりした顔の東堂だが、驚いているのはそこじゃない。
は? てことは、東堂が全部やったのか? 冷えピタも、汗拭きも、換気も。
部活は3時に終了だったはずだ。そこから買い物して帰ってきてなんなりしていれば、到底、さっきまで東堂が傍らで寝ていた、なんて状況にはならない。
それなら、コイツ、部活を抜けてきたのか?
副部長で、エースクライマーで、今日のコースは坂が多いからオレの出番だとウザいくらい張り切っていたはずだ。その東堂が、部活を抜けて、オレの看病をしていた……?
「なんで……」
思わず呟くと、東堂は眉をひそめた。
「なんで、だと? お前なあ……」
大きく溜め息をつき、東堂はぐいっと屈んで俺に人差し指をつきつけた。
「電話するだけしておいて特に何も言わず切るなど、来てくれと言っているようなものだろう」
目を見開き、当然だとばかりに息を吐く東堂をみつめた。東堂は身を起こしつつ、
「まあ、思ったより元気そうだからな。或いは、ただの構ってちゃんか? 野獣も風邪で寂しくなることはあるのだな」
と、腰に手を当てニヤッと笑った。かあっとして、怒鳴り返す。
「ッセ! んなわけあるかさっさと出てけバァカ!!」
「ムッ、バカではないな! バカはお前だろうが、冬に風邪で寝込むなど小学生か?」
「アア!? 移してやろうか、風邪!」
東堂は笑顔をひきつらせ、一歩後退した。
「いや、遠慮しておこう」
「ならさっさと出てけヨ」
「うむ、そうしよう」
東堂は頷き、ドアへ歩いていった。そしてドアノブに手をかけ、思い留まったように止まり、そしてくるっと振り返ると、ビシッと俺に人差し指を向けた。
「早く治せよ、荒北。野獣に風邪など笑いしかとれん」
「……わーってんよ、ッセェな」
ワンテンポ遅れて返事をして、しっしっと手で追い払う仕草をした。東堂は呆れたように笑い、そして「お休み」と出ていった。
……そういやあ、言ってなかったな。
「ありがと」
って。
あーあ、あーあ、あーあ。
もう知らね。どうでもいい、あんなヤツのこと。さっさと飯食って寝る……
レジ袋に手を伸ばし、中を覗きこんでみる。
中には、クリームパンとバナナとリンゴと、それからプリンが入っていた。
暫く静止して、それから、深い溜め息を吐いた。
「あのバカチューシャ……」
呟いて、乱暴にクリームパンの袋を開け、かぶりついた。ああもう、マジでムカつくんだよアイツ。次の練習は覚えとけよ! 還付なきまでに叩き潰してやる。その前にこの風邪治して……ああでも、マジでアイツムカつく。
顔が熱ィんだよ、さっきから。
絶対ェ熱上がったじゃねェか、どうしてくれんだよ、東堂。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ…………」
オレは、荒北の部屋を出ると、そのままずるずると座りこんだ。
やってしまった。どうしよう。取り返しのつかないことをしてしまった。
さっき、オレは自然に笑っていただろうか? 普通に会話出来ていただろうか? 全く自信がなかった。
寝込みにキスしてしまった友人に、普通に接していられたか、なんて。
オレが部屋に入ったとき、彼奴があまりに苦しそうに息をしていたから。何とかしてやりたい、と思ったのは本当で。しかしなぜ、唇を。
口元に手をやり、そしてその手で顔を覆った。
隠さなければ。決して、バレてはいけない。月曜の部活も、オレはいつも通り、荒北と、競いあって。……できる、だろうか。
いや、やってみせる。大丈夫だ。今まで、ずっとできていたじゃないか。大丈夫。できる。……できる。
いやあしかし、参ったな。
すっくと立ち上がって、頬に触れて、溜め息をついた。
参ったな。頬が熱い。頭も、体も。
荒北の風邪が、移ってしまったようだ。
えんど
おまけ
Q.尽八おめさん、どうやって靖友の汗拭いたんだ?
A.……ま、まあ、お、オレは、天才だからな! 起こさずに服を脱がすなど動作もないさ……(デクレシェンド)
- Re:【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.167 )
- 日時: 2019/12/24 21:17
- 名前: 枕木
「あー、かったりぃ」
そうぼやきつつ、首をゴキゴキと鳴らした。靴音を鳴らしながら、彼はひっそりとした暗い廊下を歩く。くああ、と大きく欠伸をした。ポートマフィアの“最小”幹部様、中原中也である。
今日は朝早くからヨコハマにヤクを流通させようとしていた雑魚共をぶっ潰して回り、その始末書を提出しようと首領のところへ行ったらエリス嬢の買い物の護衛につかされた。今日は街全体が妙に浮かれていて、色んなものが何やらキラキラしていた。何時もの倍以上の数の人間が、それも、赤い帽子を被ったり、動物の角を頭に生やしたりした人間が、そのキラキラしたものたちを見ては歓声をあげ、この寒い中身を寄せ合い楽しげにしていた。塵のようにいる人々の間を潜り抜け、何時よりはしゃいでいるエリス嬢について店を回るだけでも疲れるし、街がそんな雰囲気で終始苛ついていて、「リンタロウに洋菓子[ケエキ]を買えたわ!」とご機嫌なエリスを首領の元へ膨大な買い物袋とともに送り届けた後の現在、中也はただただ疲れていた。
なんで今日は皆こんな浮かれてんだ……? と溜め息をつきつつ、何気なく窓の外を見た。そして、お、と小さく声をあげる。
「雪か」
窓の外で、白く冷たいものが降ってきていた。今まで意識していなかったが、恐らく初雪。まあ、言うて年末だ。特に珍しいことじゃない……
そこで、彼ははた、と立ち止まった。
とある記憶が、甦ってきたのだ。
何年前だろうか。覚えていなかったが、未だ、彼らが子供だった頃。年末に、ふっと窓の外を見たら雪が降っていて。中也はさして興味を示さず、雪か、と呟いた後拳銃の手入れを再開したが、同じ部屋にいた同僚は違って。
彼は、わあ、と歓声をあげ、藁人形にくくりつけるための髪の毛を採取していた中也の帽子を放り投げると、窓に駆け寄った。そして、輝いた片目で静かに降るそれをみつめ、中也を振り返り、笑顔を弾けさせて、云った。
『ホワイトクリスマスだね』
中也はそのとき、クリスマス、という日を知らなかった。
だから、何だよそれ、と訊いた。すると彼は目を真ん丸にし、考え込む顔になって。そして、中也に気づかれないようにニヤリと笑って、クリスマスっていうのはね…… と中也に話して聞かせた。
そうか。今日は、クリスマス前夜。クリスマスイブ。そういえばそうだったな。日付感覚のない彼は今日何故あんなに浮かれた雰囲気だったのかを納得し、じっと窓の外をみつめた。
あれ以来、確か、あの場所には行っていなかった筈だ。ヨコハマには余り雪が降らない。
中也は、カツン、と靴音を響かせた。
* * *
「あっ、雪だ」
寒い寒いと云いながら空調の温度を調節していた敦が、窓の外を見て歓声をあげた。途端に、事務所中がざわざわする。
「まあ、クリスマスイブに雪だなんて。ロマンチックですわね、お兄様♪」
「そうだね。きっと明日はホワイトクリスマスだ」
「うーん、僕の推理だとこれは積もるねえ……ということは、明日は雪遊びだ!」
「わあい! 僕、雪合戦したいです〜!」
「け、賢治君が雪合戦なんかしたら死人が出るんじゃ……」
「……雪兎……」
「コォラ、持ち場を離れるな! クリスマスは浮かれた莫迦共が事件を起こし易い。休む暇などないぞ!」
「まあまあ、いいじゃないか。雪合戦? 結構だよ。怪我したら直ぐに妾ンとこ来ればいいさ。ねえ?」
「「ヒィッ!!」」
相変わらず賑やかな武装探偵社事務所内。しかし、その賑やかな輪から一人外れて、じっと窓の外をみつめる男が一人居た。何時もなら真っ先に話に入り斬新な発言で周りを引かせているところである。敦もそれに気がついて、雪だるまとかまくらどちらを作るかで議論を始めた輪から外れて、彼に近寄った。
「太宰さん、どうかしましたか?」
彼は振り返らず、窓の外をみつめたまま、ふっ、と微笑んだ。
「いや。……少し、クリスマスイブと雪で、懐かしい思い出を思い出してね」
「? ……どんな思い出ですか?」
敦が訊くと、太宰はふふっと笑い、くるりと振り返った。
「とある無知な子供にね、素敵な嘘を教えた思い出だよ」
敦は釈然としない顔で、はあ…… と首をかしげた。
太宰は笑みを浮かべたまま、事務所の扉へと歩いていった。ドアノブに手をかけたところで国木田が気付き、声をかける。
「コラ太宰、未だ仕事は片付いとらんぞ」
太宰はガチャリと音をたてて扉を開け、ひらりと片手を振った。そして一言。
「仕事は片付けたよ」
国木田がハッと太宰の机を見ると、書き上がった書類の束が、綺麗に整頓されて重ねてあった。
「信じられん……」
国木田が、太宰の出ていった扉を呆然とみつめる。
「明日は雪でも降るのではないか」
「もう降ってますよ、国木田さん」
すかさず敦が云う。
「じゃあ槍だな」
「槍ですね」
二人は頷き合った。
「クリスマスの奇跡だね」
乱歩が云ったが、それは太宰のことを云ったのか、雪だるまかまくら戦争が雪兎コンテストをしようという結末で終わったことを云ったのか、判別はできなかった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.168 )
- 日時: 2019/12/27 21:55
- 名前: 枕木
山を少し登ると、鬱蒼とした林が開けて、余り広くはない原っぱになっている。その真ん中に、一本の樅の木が生えていた。何故此処に生えているのかは判らない。けれど大分大きく育っていて、切れば金になるのではないかと思う。しかし、数年経ってもその木は雪で白く染まって堂々と立っていた。
「相変わらずでけぇな」
俺はそれを見上げ、白い息を吐いた。
元々この周辺にはポートマフィアの隠れ家の1つがあって、ヨコハマの外れでの仕事を終えるとこの基地を使うことが度々あった。その頃は『双黒』なんて呼ばれ太宰と一緒に仕事をすることが多かったから、二人でこの基地で夜を明かすこともあった。そんな時間の中で、太宰はいつの間にかこの籾の木を発見していたらしい。
『クリスマスにはね、クリスマスツリーが必須なんだ。樅の木が、それも大きければ大きいほどいい』
そんなでけェ樅の木ここら辺にねェだろ、と云ったら太宰は迷わずこの場所を口にした。そして、その日の内に二人でこの山に登った。その時は今よりもこの木が大きく見えて、すげェな、と声に出した。太宰は満足げに笑って、
『これなら神様に届きそうだね』
と云った。そして、おもむろに黒外套の内ポケットから…………
はあ、ともう一つ白い息を吐いた。
懐かしい思い出だった。まだ俺も太宰も子供で、太宰は俺の『同僚』と呼べた。けれど二人で過ごす時間が積み重なっていくにつれて太宰の瞳は濁っていって、ついに太宰は俺の前から姿を消した。四年という空白の時間。それからはもう、太宰に手が届くことはなくて。きっともう、これからも、太宰に近づくことはない。
太宰のことを考える度、激しい嫌悪感と苛立ちを覚える。それは本当だ。だけど、それと同時に何処かが…胸の内の何処かが、鉛と化したように重たく、鈍く、痛む。
その正体に、きっと俺は気づいてる。
こんなの、莫迦げているかもしれない。
けれど、あのときと同じように、クリスマスイブに雪が降ったんだ。太宰と再会した、その年のクリスマスイブに。
それなら、ホワイトクリスマスの奇跡ってやつを、少しくらい信じてみてもいいだろ?
俺は、喉笛に手をやった。硬い感触がある。マフィアに入って間もない頃、賭けに負けた罰として太宰に差し出されたもの。
『ハイ、これで君は今日から僕の犬だ!』
『なんでそうなるんだよ!!』
そんな言葉と共に着けられた、この首輪。罰を受けると云ったのは俺だから、外せないでいただけだ。……本当は、太宰が包帯をほどいたあの日、外そうと思った。けれど、しなかった。仕方のないことだ。暫く身に付けてりゃあ、多少は愛着湧くだろ?
けれど、流石に長すぎた。もう、いいだろう。
俺は、首輪を外した。そして、樅の木の、少し浮いて届くところに輪にしてくくりつけた。
すた、と地面に着地して、かかった雪の所為で目立っている、その黒い首輪をみつめる。
あのとき、確かに神に届いた。それなら、また届くかもしれない。あの日以来神を信じたことはない。けれど、届いてくれ。
どうか、また______
「人から貰ったものを捨てるなんて」
『クリスマスっていうのはね、神様の誕生日なんだ』
背後からの見知った声に、目を見開いた。
『だから、贈呈品を贈らなきゃいけない。それも、見易いように樅の木にくくりつけてね』
すっ、と後ろから手が伸びた。そして、俺が浮いてくくりつけた首輪を、易々と取った。その手には包帯が巻かれていた。砂色の外套も、見知ったものだった。
『でも、神様は優しいからね。見返りをくれる。けれど、その場合ただの贈呈品じゃだめなんだ』
その手が、極自然な動作で後ろから手を回し俺の首に首輪を巻いた。
「だめじゃないか、中也」
ごくっと息を飲み込む。胸をぎゅっと押さえた。深呼吸をして、覚悟を決めた。
ゆっくりと、振り返る。
見知った顔がにっこり笑って、ひらりと手を振った。
「久しぶりだね、中也」
「……未だ死んでなかったのかよ、太宰」
絞り出した声は、掠れていた。
心臓がバクバク鳴る。嫌だ……止めろよ。
「それを、これにくくりつけたってことは」
くるっと、樅の木に向かい直った。知られたくない。……知られたくなかった。
「君は何を願ったのだい?」
『自分の一番大切なものを捧げると、願いが叶うんだ』
「ッ……」
未だ、ずっと、信じてた。何時か、何時か、また、
太宰に、愛される日が来るんじゃないかって。
思い出にすがって、奇跡を信じて。らしくもない。けれど、願えば何時かは叶うんじゃないかと思った。
何度も願った。けれど、太宰の背中は遠ざかるばかりで。でも、今日なら、叶う気がした。
あの日俺は、太宰と手を握って、太宰に手渡され俺が取り付けた樅の木の天辺の星を、じっとみつめていた。
そのとき、太宰に訊いた。あの星が手前の大事なモンじゃねェだろ? 手前は願い事ねェのか、と。
『君こそ、無いの?』
太宰に聞き返されて、俺は少し照れ臭さを感じながら、もう大体叶ってるからな、と答えた。太宰はその返事に嬉しそうに笑って、僕もだよ、と答えた。嗚呼そうだ、それで、此処で口づけした。だが太宰の本当の願いが叶ったのは、ほんの四年前だ。太宰に気を遣われていたとか、気色悪くて鳥肌がたつな。
「ねえ、君は何を願ったの? 教えてよ」
太宰が俺の肩口に顎を乗せ、囁いた。かじかんだ耳が震えた。
「教えたところでどうにもなんねェだろ」
「じゃあ、どうにかなるのなら、教えてくれるの?」
「莫迦か手前。それ本気なら後で後悔するぞ」
声が震えていないか、不安で堪らなかった。
「いいよ。私は、本気だ」
静かな口調に、心臓が高鳴った。
どうにかなるわけない。そんなわけがない。期待するな、信じるな。もう二度と、裏切られたくない。
そう思うのに……俺は、振り向いていた。太宰、と呼んだ。息を吸い込む。太宰の鳶色の瞳に吸い込まれそうだった。けれど堪えて、掠れた声で云った。
四年分の、願い事。
「もう一度、俺を愛してくれ」
太宰は、にっこり笑った。
「やっと云ったね」
「……は?」
中也は、思ってもみなかった反応に目を見開いた。太宰は、硬直した中也をぎゅっと抱き締めた。
混乱して、中也は太宰の胸の中で目を白黒させる。
「だ、ざい……?」
「だって中也、一度もそうやって口に出してくれないんだもの。寂しかったよ、ずっと」
そういえばそうだったか、と中也はハッとした。ずっと隠そうとして、胸の内に秘めていた願い事なのだ。
「まあ、勿論答えはイエスなんだけれどね」
その言葉で、死ぬほど驚く、という感覚を中也は味わった。中也は、大きく躰を震わせた後、太宰のシャツを握り込んだ。
太宰はその背中を擦りながら、この愛しいものに、いつ本当のことを教えようか考えた。中也はきっとクリスマスの奇跡だなんて思っているだろうけど、これは中也の小さな勇気が生み出した、当然の結果なんだから。
まあでも、こんな雪の降るクリスマス、少しくらい、恋人同士でロマンチックに過ごすのも悪くない。
もう少し、真実は隠したままで。このまま抱き締めていよう。太宰は、樅の木を見上げた。
その天辺には、あの日と同じ星が輝いていた。
「メリークリスマス、中也」
太宰はそう囁いて、中也の顔を上げさせると、雪のように溶けそうな、甘い口づけをした。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.169 )
- 日時: 2019/12/25 14:06
- 名前: 枕木
サンタさんがね、プレゼントくれたんです。見失ってたもの。これもクリスマスの奇跡かな。
メリークリスマス!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.170 )
- 日時: 2019/12/29 19:37
- 名前: 枕木
太宰×乱歩
太宰治が働くとき。
それは、とても稀だが、あるにはある。それも、働くに至る条件がある。それは極めて特殊で、ある1つに絞られる。しかし、時刻は大体決まっているが、日付はまちまち。1週間空くこともあれば、4日連続で発生することもある。そして、太宰が働くことで何かを得られる人は、条件を起こしたそれに限る。
が、一言に云ってしまえばそれは非常に判りやすい。この上なく単純明快。
「あー、これでお菓子最後だなあ……ねえ太宰お願い。僕がこのスナック菓子食べ終わるまでにこのメモに書いてある洋菓子全部買ってきて?」
「了解です♪ 行ってきますね♪♪」
そう。ただの彼氏莫迦、略してカレバカである。
太宰が働く条件はただ1つ。
それは、江戸川乱歩の「ねえお願い」である。
* * *
乱歩から買ってくるもののリストを貰った太宰は、いまだかつて無い程の速さで扉を出ていった。何時もの喋る粗大ごみっぷりは遠く宇宙の彼方まで飛んでいってしまったようだった。
事務所内にいた国木田は嬉々として太宰が出ていった扉を眺め溜め息をつき、敦はそんな国木田を見て、あは……と苦笑いした。乱歩は平然と机の上でスナック菓子を食べている。
「何時もあの行動力を自らの仕事へ回していれば何れだけ此方が助かるか知れないな……」
キーボードを打つ手は休めずにぼやく国木田の前に資料を積み、それらを整頓しながら、敦は笑った。
「それじゃあ、乱歩さんに頼んで貰って仕事して貰いましょうよ。きっと凄い早さで仕上がりますよ」
「ねえ〜、だざい〜! おしごとして〜♪」
乱歩がノリ良く裏声で云うと、敦は噴き出し、国木田の眼鏡はずり下がった。乱歩はにやっと笑って、くわえたスナック菓子を口の中に引き込んだ。
「あはは、絶対効きますよ、それ! 太宰さん帰ってきたらやってみて下さいよ」
「ま、まあ、それで本当に効果があるか試すだけなら、やって頂いても……」
「ふふん。まあ、考えてあげてもいいよ? 社の為だと思えばね」
「す、凄い、乱歩さん、ちゃんと探偵社のことを考えて……」
「だって、太宰が僕の分まで働いてくれたら僕が楽になるじゃない」
屈託なく笑ってさらりと云う乱歩に、敦は、ですよね〜と口の端をひきつらせた。乱歩は不敵な笑みを浮かべ、自分の頭を指さす。
「で、僕のこの天才的頭脳を休ませる時間が増えれば、事件解決も早くなる。非常に合理的だよね」
国木田は乱歩さんらしいな、と顔を綻ばせ画面に集中し直そうとしたが、ふと気がついたように手を止め、乱歩を振り返った。
「そういえば乱歩さん、以前一度だけ太宰が乱歩さんの頼みを聞かないことがあったって仰っていましたよね」
乱歩は僅かに糸目を開き国木田を見ると、サク、と小気味の良い音をたててスナック菓子を食べた。乱歩は国木田に云われ思い出すように宙に視線をさ迷わせたが、勿論乱歩の記憶力は絶対的なもの。乱歩にしては珍しく、どう話そうか考える時間稼ぎだった。そしてその焦点を国木田に合わせ乱歩が云った台詞は、「そういえばそんなこともあったね」だ。敦は首をかしげた。
「どうして太宰さん、聞かなかったんですか?」
「どうしてだと思う?」
敦の質問は予想してたとばかりに乱歩が直ぐ様聞き返す。敦はばらばらになっている資料を順番に重ね直してホチキスで留めながら、少し考え込み、あ、と声をあげた。
「乱歩さんの頼み事が、もう女性を口説くなっていうものだったから、とか」
「残念。前に面白半分で云ってみたことがあるけれど、彼は快く承諾したからね」
「違うんですか……? え、乱歩さんは太宰さんのああいう行為に嫉妬したりとか……」
「するわけないでしょ。僕はそういうのには全く興味がないからね」
と切り捨てた乱歩だったが、内心赤面していた。いや、内心ではなく、頬がほんのり紅く染まっている。
以前乱歩は、暇潰しを探していて太宰を見つけて、丁度いいとばかりに云ってみたのだ。「ねえお願い、太宰。もう女性を口説くのはやめてよ」反応を見てみたかっただけだった。しかし太宰は予想に反して、驚いた顔もせずにっこり笑い、
「乱歩さんがそう望むのなら、仰せのままに」
と返した。その笑顔と台詞に驚き硬直してしまった乱歩だったが、直ぐにハッとし、慌てて「莫迦だ君は。冗談だよ」と取り繕ったが、太宰は意味ありげに微笑んでいた。
しかし、それなら、そんな頼みも聞き入れる太宰が断った乱歩の頼み事とは何なのか。益々気になった敦は、乱歩に詰め寄り身を乗り出して云った。
「答え、お願いします乱歩さん!」
敦の純粋な目に当てられ、乱歩は1つ息をつくと、袋を高く持ち上げ袋を逆さにし、大きく開けた口の中にスナック菓子の残りかすを全て入れた。それをもぐもぐ動かし、敦に一寸待って、と片手をつきつけた。しかしそれは、ただの手のひらではない。五本指だ。広げられた指が、折り曲げられていく。国木田はいぶかしげに目を細め、敦は首をかしげたが、何かに気づいたようで後ろ……扉の方を振り向いた。虎の敏感な五感である。
5、4、3、2、1。
バアン!
ゴクンッ
事務所の扉が勢い良く開くのと乱歩がスナック菓子を飲み下すのは、全く同じタイミングだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ま、にあいました、よね、らん、ぽさん……」
本当に珍しいことに、太宰が扉に手をついて躰を支え、激しく肩で息をしていた。もう片方の手で小脇に大きな紙袋をかかえている。乱歩は空になったスナック菓子の袋をごみ箱に放り、ケタケタと笑った。
「おお、ご苦労だったねぇ。中々できるようになったじゃないか。間に合ってはないけどね」
「ええ〜? 絶対私の方が早かったですよ〜?」
唇は尖らせながらも、声は全く尖っていない、どころか、間延びして、甘くて、でれでれだ。乱歩に叱咤されることに快楽を感じるマゾのようにも見える。それならかなり危険である。
太宰が鼻唄を歌いながら、乱歩の前に紙袋から次々に洋菓子の箱を取り出して重ねていくのを見て、敦は恐る恐る訪ねてみた。
「太宰さん……乱歩さんに、幾つお菓子頼まれたんですか?」
太宰は敦に振り向き、さらりと云い放った。
「十四」
「十四!?」
「あ、因みにこのロールケーキとチーズケーキ、カステラはお店指定したよ」
「ええ……」
それをこの短時間でこなしたのだ、見事しか云いようがない。国木田の云う通り、その才能を仕事に活かせば戦争の1つや2つ1日で終わらせられるだろう。
「はい、乱歩さん、これお土産のマカロンです」
「わあ、マカロン!! 気が利くじゃないか太宰」
目を輝かせ紙袋の中を覗き込む乱歩を見て幸せそうに微笑んだあと、太宰は笑顔で後ろを振り返った。
「探偵社全員の分も買ってきたから、社長も連れてきてお茶にしようよ」
「え!? 本当ですか!? やったぁ♪」
「まあ、休憩も悪くはないな。社長を呼んでくる」
そうして、やんややんやとする内に、敦がした質問の答えは出されないままになってしまった。
乱歩はマカロンを頬張りながら、こっそりと太宰を盗み見た。太宰は春野が淹れた紅茶を飲んでいたが、直ぐに気がついて、乱歩に微笑みかけてみせた。乱歩は赤面して、ぷいっと顔を逸らせた。
乱歩が太宰に一度だけ断られた頼み事。
それは、ある年の誕生日、したお願い。
乱歩は以前太宰に渡された指輪を太宰に差し出して、にっこり笑って云った。
「ねえお願い。僕と別れてよ」
僕とこのまま一緒にいたら、待っているのは破滅じゃないか。僕を守れるほど、君は強くないのだから。ねえ太宰。幸せになりたいでしょ? 人間だもの。
そんな心の声さえ聞き取って、太宰は黙り込んだ。じっと、ただ静かにじっと、乱歩をみつめていた。
乱歩はずっと笑顔だった。けれど、その無理矢理引き上げていた口の端が痙攣して、頬がピクリと動いた。
それを合図にして、乱歩は顔を歪めた。八の字に下がった眉、震える唇を噛み締めた口。そして、痙攣していた頬を、涙が伝い落ちた。
太宰が成人した誕生日のことだった。
「……乱歩さん」
嗚咽の止まらないうつ向いた乱歩の頬を、すっと撫でた。乱歩は顔をあげなかったが、ひっく、としゃくりあげた。太宰は泣きそうな顔で笑った。
「その頼みだけは、聞けませんよ」
「……ど、うして? 簡単、だろ」
幸せになってほしい。そんな乱歩の健気な願い事を、太宰は頑として聞き入れない。
何故なら、太宰には働く理由があるから。それがないのなら、決して働かない。そう心に決めていた。
太宰は乱歩の躰を引き寄せて抱き締めた。そして、その耳元で囁いた。
「乱歩さん、私はね____」
幸せそうにマカロンを頬張る敦や、楽しげに漫談しながらお茶を飲む国木田たちを横目に、太宰は乱歩に歩み寄った。その手には黄色のマカロンが摘ままれている。乱歩は無視をきめこんでいたが、「らーんっぽさん」と呼ばれると、渋々振り向いた。太宰はその口に直ぐ様マカロンを押し込んだ。
「ふっ!? ひょ、ふぁふぁい……!」
「ふふふ♪」
にこにこ笑う太宰に吐息をつきつつ、乱歩はマカロンを噛み締める。予想できていたとはいえ口に無理矢理押し込まれたことで不機嫌になっていた顔が、噛む内に綻んでいって、最後には幸せそうに飲み込んだ。満足そうに指をペロリと舐めてから、その様子をにこにこして見ていた太宰にハッとし、「いや、ちが……」と弁解をしようとする。けれど太宰はそれを遮って、云った。
「喜んでくれましたか? 乱歩さん」
乱歩は太宰の顔をじっとみつめて、けれど何も云わずに、あ、と口を開けた。太宰は少し驚いた顔をしたあと嬉しそうに微笑んで、今度は桃色のマカロンをその口に入れた。ほんのり紅く染まった頬をもぐもぐ動かすのをみつめて、太宰は呟いた。
「働いた甲斐がありましたよ」
乱歩はしばらく何も喋らなかったが、やがて、ぽつりと云った。
「……いい仕事したんじゃないの、太宰」
「ッ♪♪ ありがとうございます♪♪」
嬉しそうに乱歩の足にかじりつく姿は、まるで主人に誉められてはしゃぐ犬のようだった。敦や国木田は、顔を見合わせ苦笑した。そして、「乱歩さん、もう一ついかがですか?」と箱を持って駆け寄っていった。
今日も賑やかな探偵社。かつて一人ぼっちだった少年はもうどこにもいない。
ねえ乱歩さん。私はね、
あなたを幸せにしたいんですよ。
私も幸せになれるから。
だから乱歩さん、泣かないでください。あなたの願いは、私が叶えてあげるから。だから乱歩さん、私からのお願いです。
「うーん、水色も捨てがたいねえ……」
「緑色も美味しかったですよ!」
「俺は赤だな」
「よし決めた、全部!」
「「ええええ〜〜!?」」
悪戯っ子のように笑う乱歩に、太宰は心の中で呟いた。
お願いです。
どうか、笑っていてください。
太宰は優しく微笑んで、青色のマカロンを口に放り込んだ。
太宰が働く理由はただ一つ。
それは、恋人が喜んでくれるから。
愛する人の笑顔を、守るため。
太宰は今日も、ヨコハマを駆け回るのだった。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.171 )
- 日時: 2020/01/18 17:36
- 名前: 枕木
午後三時。万年筆を走らせる手が丁度疲れてきたので、一度休憩するか、と伸びをしたとき。机の角に置いた携帯が振動した。電源をつけてみて、驚いた。
『相談したいことが有ります故、つきましては本日午後八時下記の飲食店へ来てくださりますよう、お願い申し上げます』
やけに丁寧な文面でメールを送ってきたのは、黒獣を操る生意気な後輩だった。
珍しいな、彼奴がメールなんて……否、それ以上に相談があるとか食事に誘ってくるとか、何の前兆だこれ? つうか、食事に誘うくらい口で云えよ! 同じ職場なんだからよ〜……
否、と携帯を閉じて、組んだ両手の上に顎を乗せ机に肘をついた。考え事をするときはこれが落ち着く。
それくらい、芥川にとっちゃ云いにくい、深刻な相談ってことかもしれねェ。それも、太宰じゃなくて俺に……。ん? もしかして、太宰のことで相談か……? 有り得る……よなァ。彼奴、俺のことを太宰の何だと思ってんのか知んねェけどたまーに太宰のことについて訊いてくるもんな。太宰の友好関係とか経歴とかそういうやつ。俺が知るかっての!ついでみたいに「では中也さんは如何なのですか」って莫迦にしてんのか彼奴……!!
なーんか腹立ってきたな……太宰の話題だったら直ぐ帰ってやる。もしそういうことになったら、芥川が指定してきた店じゃ勿体ねェよな……。
よし、と呟いて、携帯電話を手に取った。どうせ明日は休日だ。緊急事態で呼び出されることも有り得るから、なるべく早く帰って寝てェし、いいよな。
『判った。いいぜ。だが、手前の指定した店は性に合わねェ。つーことで、俺の家来い。六時には此処出るから、地下駐車場で待っとけ』
二人きりの方が腹割って話し易いし、帰り車乗せてきゃいい話だし、これで解決だな。
俺はそのまま送信して、携帯電話を伏せた。んじゃ、早くこの書類書き終わらせらせねえとな。万年筆を手に取り、作業を再開した。
……うん、云うな、云うな。判ってる。判ってんだって。このときの俺がどれだけ軽率だったか、この選択が後の人生をどれだけ変えたか、なんてよ……
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.172 )
- 日時: 2019/12/31 19:53
- 名前: 枕木
ドアがノックされる音で、ぷつっと集中力が切れた。机の上を見てみれば、ほぼ無心でやっていたからか、積み重なっていた書類が粗方終わっている。少なくとも、今日提出する分はとっくに終わっていた。我ながらすげェな、何時間やってたんだ?
「あの……中原幹部?」
ああ、六時に書類取りに来いって云ってあったもんな。時間通り……って、は!? 八時!?
携帯電話のディスプレイに表示された時刻を見て唖然としていると、失礼します、と部下が入ってきた。なぁに平然としてんだよ!
「オイコラ手前ェ……」
「は、はいっ!」
地を這うような声で云えば、部下はびくっとした。そんなんでマフィアやってけるかってんだよ!!
「俺は六時に取りに来いって云ったよなァ……?」
「え、ええ、最初は」
「いま何時だと思ってやが……ん? ……最初は?」
ひっかかった言葉を聞き返すと、部下は不思議そうな顔で瞬きした。
「六時に此方へ伺った時、中原幹部はあと二時間やらせろって……」
……は?
俺が? 云った? あと二時間待てって?
云われてみて嫌な予感がし、記憶をまさぐる。そこで、ぴんとくるものがあって、背中を冷や汗が流れた。
……嗚呼、そういや云ったな。あと五枚くらいやれば八割方終わるところだったから、もう少しやりてェなって……
俺は、部下の肩にぽん、と手を置いた。部下は少し膝を曲げて屈み、俺と目線を揃えた。……変なところで気ィ遣うんじゃねェよバーカ!!
けれど殴りたい衝動はぐっと抑え、苦々しく口を開いた。
「ッ……わ、るかった」
「いえ」
部下はすっと無表情になり云う。頬がぴくっと動くのが判った。こめかみに血管が浮き上がるのを感じた。
「笑ってんじゃねェぞコラ……」
「す、すみません……っ。書類を頂きますね……っ」
笑いを堪えつつ書類を束ねる部下の背中に、飛び蹴りをかましてやった。
部下の肩に手置こうとして背伸びする上司を莫迦にするとか許さねェからな!!
「では、届けておきますね」
「おう」
「嗚呼、そういえば、芥川さんから託けを預かっています」
「芥川ァ?」
何も考えずに聞き返すと、部下は苦笑した。
「中原幹部が仰ったんですよ。『あと二時間待ってろって、芥川にも伝えとけ』と」
あー、そういや云ったなー。
つかその無駄に上手い物真似やめろな。
「それで、芥川はなんだって?」
「『車の前で待たせてもらいます』と」
そこで消え去っていた今日一日の記憶が蘇った。サッと血の気が引くのを感じたあと、吃驚した顔の部下の頭上を飛び越えて廊下に出て、全速力で地下駐車場へ向かった。
* * *
階段を飛びとばして、駆け降りる。否、普通帰るだろ。二時間だぞ? でも……彼奴、変に生真面目っつうか。確認だけだ、確認だけ……そう云い聞かせながらも、芥川は待ってる、この寒ィ中俺の車の前で直立不動で待ってる、という確信があった。だからこそ、こんなに必死で走ってんだよ。
警備についていた構成員の、俺の勢いに気圧されたような「ぅお疲れ様です……」を押し退け、地下駐車場への扉を開け放った。そして、つい十七日前に駐車した自分の車の元へ走る。柱の角を出て……嗚呼。
「芥川!!」
堪らず叫ぶと、黒外套に身を包み、俺の車をじっと見つめるようにして片手で口元を覆う形で立っていた男が、顔だけ振り向いた。相変わらず顔色悪ィ無表情だなァ……って、否寒ィのか。
芥川の真正面までくると、勢いを弱めて息を整えた。芥川は、息を切らす先輩を不思議そうにみつめているようだった。あー、そういや何で俺こんな必死なんだか。
「わ、りィ、芥川……待たせちまって……」
「否、事前に聞いていました故……」
「そういう問題じゃねェだろ! 手前何時から待って」
「十六時からですが」
「はぁ!?」
四時間かよ……
余りの長さに声を出せないでいると、芥川は首をかしげた。
「貴方がそこまで責任を感じる必要は皆無です。太宰さんに上司と待ち合わせをするときは約束の二時間前にその場所にいろと教わりました故」
なに教えてんだ彼奴……
あの憎ったらしい笑顔がちらつき、苛つくより先に、この当然だろうとばかりに平然と立つ男が哀れに思われ、溜め息が出た。
「あー……おう。そうか。……まあ、とにかく車乗れ。家までそんなかからねェから」
パンツのポケットから車のキーを出しつつ云うと、芥川は黙って頷いた。
* * *
「そういや、自分の車に誰か乗せたの初めてだな」
芥川と二人きりというのは珍しいことでもないから、この沈黙の空間が気まずくなることはない。けれど、ふっと思い付いた瞬間、口に出していた。ちらっと助手席を盗み見ると、芥川は俺から顔を逸らすようにして窓の外を見ていた。苦笑して、前を向き直す。そりゃそうだよなァ。男に云われて嬉しい台詞でもねェ。なあに云ってんだか、俺。
また暫く沈黙が続く。目的地が近くなり、芥川でも飲める酒あったか? と考え始めた頃、隣で口を開く気配がした。お、来るか? と覚悟してから一拍置いて、息が吐かれる。
「太宰さんを、この車に乗せた事は無いのですか」
「はぁ? 太宰ィ?」
予想外の質問に、すっとんきょうな声が出た。ハンドルを切りそうになったほどだ。まあしねェけど? 前の車で後部座席からいきなり“ピッ”って爆弾爆発までのカウントダウン始まっても事故らないで対処した俺だからなァ……二回目にはやられたが。
「否、無ェけど。手前が初めてだって先刻云ったろ?」
「……そうですか」
それっきり、目的地で車を止めるまで、否、俺が自宅の扉を開け玄関に招き入れるまで、芥川は押し黙ったままだった。芥川が太宰の名を出した意味も、判ることはなかった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.173 )
- 日時: 2020/01/01 00:00
- 名前: 枕木
〜大晦日の太中〜
炬燵にもぐり込みごろごろしていた太宰が、急に此方をバッと見る気配がした。うわ、早ェな、流石。「中也!?」と鳶色の目を輝かせ起き上がるいい大人の姿に、餓鬼みてェだな、とくすくす笑った。
「なんか、私の大好きな匂いがする……!」
「ん〜? そりゃ、俺の事かァ?」
にやっと笑い云ってみれば、太宰はにやっと笑い返し、「それもあるねえ」と炬燵から這い出して台所へやってきた。
菜箸を持ち鍋をみつめる俺の背後に立ち、首と胸に腕を回してぎゅっと抱きついてくる。今まで炬燵に入っていた温もりを背中全面に感じて、温かくてほっと息を吐いた。
「中也、一寸冷えちゃったね」
うなじに口づけをしながら、太宰が云う。くすぐってェ、と少し身を捩ると、ふふっと笑うのが判った。
「そうかァ?」
自分では余り寒さを感じなかった。我が家に炬燵以外の暖房器具はないが、こうやって湯気のたつ鍋の前に立っていると割と温かい。けれど、太宰はうなじに顔を埋めたまま頷いた。
「うん、冷えてるよ。平熱より0.6度くらい低い」
「くらいって割には細けェな」
「まあ、誤差はプラスマイナス0.04度ってとこかな」
「うわ〜……」
ま、口でそう云っても、今更そんなんでどん引きなんかしないがな。
んー、でも太宰がそう云うってことは、躰冷えたんだな。今って冷えやすいけど冷やしちゃいけねェ時期だし、気をつけねェと。
少し反省しながら、菜箸を置き、鍋に蓋をする。その次の瞬間、「ふー……」と耳に湿った息が吹き掛けられ、思わずびくっとした。こら、と振り返ると、待ってましたとばかりに口づけられる。呼吸を遮られ、目を見開いた。
「ん〜!! んぅ、んっ……ぷはっ! こら、だざい……」
「ふふっ。温めてあげようと思って」
「ッ〜〜……」
至近距離で悪気なく笑う太宰に叱る気にもなれず、ふん、と不機嫌に息を吐いた。でも、なんだか無性に愉快な気持ちになって、すぐ吹き出した。太宰も同じだったようで、ふふっ、と笑いながら、こつん、と額を合わせた。
すぐ目の前に太宰の顔がある、大晦日の深夜。少し寒いのが気にならなくなるくらい。抱き締められて、吐かれた息を感じて。目を閉じると、口づけされる。誰が予想できたかってな。
「もう八ヶ月なんだねえ……」
唇が離れると、太宰が、しみじみと云った。けれどすぐにくすっと笑う。
「まあ、“もう”って感じる日々じゃなかったけど」
「いつの間にか、こんなんなってんだもんなァ」
「本当に。……信じられないことばかりだよ」
太宰は、大きく膨らみもう誰がどう見ても妊娠していると判る、俺の腹をそっと撫でた。その手に自分の手を重ねる。……あー、あったけェな。
太宰の肩に頭を乗せると、太宰は反対の手で俺の頭を撫でた。
妊娠して、半年と数十日。性別を教えてもらわないことにしたのは、太宰と二人で決めたことだった。男か女か判らない我が子は、順調に育っている。今じゃもう俺を移動のときや寝るときに苦しめるまでになった。お陰で毎日大変だぜ、全く。
「有り難う、中也」
耳元で囁かれた。目を見開く。
その、「有り難う」にどれだけの意味が、言葉が詰まっているか。……それは、俺しか判らねェんだよなァ。
だから、俺は笑って、
「どういたしまして」
と云った。太宰は満足そうに息を吐いた。
顔を上げると、太宰はにっこり笑っていた。笑う角には福来るって云うんだっけな。なんか、こいつといるときは何が起こっても笑っちまう。変な奴。知ってたけどな。だから、にっ、と笑い返した。
「んー。じゃあ、そろそろ食うか」
「うんっ!!」
蓋を開けると、旨そうな……太宰の好物の匂いがした。太宰が餓鬼のように両手を握り締める。ははっ、奮発した甲斐があったな。
「よし、年越しそば蟹乗せ、食おうぜ!」
「わあい! 蟹がいっぱい♪」
鍋の中には、程好く茹でられた蕎麦の上に蟹の足の身が並べられた、年越し蕎麦。良く出汁が出てそうなつゆが旨そうだ。
初めて誰かの為に作る、年越し蕎麦だった。
器によそい、炬燵に置く。ふと振り返ると太宰が悪戯っ子のように笑っていて、その両手に持っているものに苦笑した。
「俺今飲めねェんだけど?」
「葡萄ジュースでーす♪ 私は普通にお酒〜」
「嫁が我慢してんだから手前も我慢しろや」
「やだね。太宰さんは大人だからねえ」
「オイコラ……」
「ハイハイ、怒らない怒らない。誰も中也がその身長でお酒飲めるとか(笑)外見子供なのに(笑)とか云ってないよ」
苦情を云おうとした俺を遮るようにして、太宰がグラスに飲み物を注ぐ。俺のグラスには葡萄ジュース、太宰のグラスには氷割りのウイスキー。炬燵に入って飲むのがたまらなくうまいらしい。変わらねェなァ。
ふっ、と笑みがもれて、どうでもよくなった。俺は太宰の正面に座り、腹を庇いながら炬燵に足を入れた。
湯気のたつ二つの年越し蕎麦の器、葡萄酒に見せかけた葡萄ジュースと氷割りのウイスキー。
かつて双つの黒と呼ばれ恐れられた俺らが、今、ここに夫婦として向かい合っている。
人生何があるか判らねェもんだな、本当に。
鳶色の瞳、黒髪、むかつくけど整った顔、無駄に巻いた包帯、白いシャツ。
昔とは違う、けれど確かに此処にいる、ずっと愛してきた男。
誰よりも愛しい、太宰治という男。
「じゃあ、来年もよろしく」
そいつが、微笑み、カラン、と氷の光るグラスを持ち上げた。
俺も、それに葡萄ジュースのグラスで応える。暫く酒は飲めねェな。でも不思議と苦じゃないのは、幸せだからだろう。
堪らなく幸せなんだ。八ヶ月前始まった、この幸せを、噛み締める。これが続くのだろうか。否、続けたい。続いてほしい。
それを願う為の、乾杯だ。
「おう。よろしくな、治?」
顔を見合わせて、いつも通りで行こうよ、と笑った。その耳が少し紅くなってるのに、何だか堪らなくなった。
何時終わるか判らない、この日々。明日の約束もできないこの日々で。それでも、手前との約束くらい、してもいいだろ?
ずっと、ずっと……
「末永くよろしくな、太宰」
「末永くよろしくね、中也」
澄んだ音を響かせてグラスがぶつかるのと___未来への誓いを交わしたのと、新しい年が始まったのは、同じ瞬間だった。
えんど
明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 枕木
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.174 )
- 日時: 2020/01/05 23:21
- 名前: 枕木
「いいかい?」
「無理に決まってんだろ。手前みたいな奴が世界で一番嫌いなんだよ」
「知ってるよ」
「もういいかい?」
「駄目に決まってんだろ。相棒だろ俺達。仕事に支障が出る」
「判ってるよ」
「もういいよ」
「そうかよ。あーあ、清々したぜ。あ? 嬉しいに決まってんだろ」
「……………」
「「…………………」」
「もうだめかい?」
「そうだな。俺は手前を殺さなきゃならねェからな」
「判ってたよ」
「「………!………」」
「まだ居るかい?」
「嗚呼、居るぜ」
「まだ有るかい?」
「嗚呼、有るぜ」
「まだいいかい?」
「手前次第だな」
「「…!…!…!…」」
「もういいかい?」
「待ちくたびれた」
「「!!!!!!!」」
「まだいいかい?」
「もう訊くなよ莫迦」
ずっと、此処に居るから
「もういいよ」
もう、訊かなくて、いいよ。
もう、待たなくて、いいよ。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.175 )
- 日時: 2020/01/13 08:39
- 名前: 枕木
「中也ってさあ、雨と晴れ、どっちが好き?」
「……それは、人が仕事してる目の前でゲームしながらする質問か?」
「うん。君にする真面目な質問なんてないよ」
「下らないって自覚してしてんのか殺すぞ」
「だって暇なんだもの。中也は薄月給の所為でゲーム買えなくて対戦相手になってくれないし」
「幹部サマじゃなくてもゲームくらい買えるぜコラ。まあ、買う心算なんて全くねェけど」
「えー、なんで? 私には絶対勝てないから? わあ、すっごく賢明な判断だと思うよ!」
「ちっげェよ呆け。んなことに費やす時間なんてねェんだよ手前と違って暇じゃねェからな」
「あっそう。じゃあ真面目な構成員君は退屈をもて余した幹部様の質問に答えて仕事に戻りなよ。先刻から私のこと受け流してるふりして二十六文字しか進んでないよ?」
「ッせェな、先刻から手前が足絡ましてくるからだろ気持ち悪ィんだよ! 退けろ!」
「だから暇なんだってば。答えてくれたら退いてあげる」
「……………………あめ」
「ふうん、理由は? 嗚呼、これには答えなくていいよ。どうせ人の活動が消極的になって面倒事が起きにくくなるから、でしょ? 本当に君って仕事のことしか考えないよねえ。何時からマフィアの犬になったの? 君は私のなのだけれど」
「……未だ云ってんのかよ、それ」
「勿論。何時までも云うよ? 中原中也は私の犬なんですってね、君が死ぬまでずっと」
「はぁ……つーか、先に死ぬの手前だろ。そうしたら俺は目出たく手前の犬解放って訳か」
「は? そんな訳ないでしょ。ご主人様が死んでも犬は犬だよ。お墓と遺産を守るのさ。そして、誰かに貰われそうになったら『太宰治の犬だから誰のものにもなれない』って断って、私のお墓の前で独り死んでいくのだよ」
「安心しろ、手前がどんな死に方しても死体は粉砕して川に流してやっから。墓も遺産も残らねェよ」
「残念、私はもう既に遺してある」
「は? 何をだよ」
「其処に」
「あ? ……俺の胸? に、何を……」
「想い」
「……は」
「私への、想い。それは、私が死んでも遺るものでしょ」
「………………は!? ふっざけんな、何妙なこと抜かしてやがる、手前への想いなんて微塵もねェよ!!」
「逆に」
「おいコラ聞け……」
「そう。私の胸、触ってみて」
「っ……何もねェけど」
「何もなくて悪かったねえ。君は巨乳趣味だったか。まあ一生あれに触れることはないと思うけどね。でもさ、ねえ、判るでしょ?」
「……」
「ふふ。ね? 君も、もう私に遺してあるのだよ。だからね、君が私より先に死んでも、私は一生君だけの御主人様でいてあげる。こんなに手のかかる犬がいるんだもの、一人で手一杯さ」
「…………知るか、手前の勝手だろそんなの。自分が俺だけにするから俺も自分だけにしろ、なんて理屈にはなんねェよ」
「おや、犬にそんな権利があると思っているのかい? 何人も御主人様のいる犬が何処にいるのさ」
「ッ、オイ!!」
「あーあ、全く、莫迦な飼い犬をもつと大変だよ」
「ッ〜〜〜〜……ッチ、手前なんかにもう付き合ってられっかよ。俺はこれ終わらせるからな、もう話しかけてくんなよ」
「はいはい。私もそろそろラスボスだからね」
「会話しながらずっと続けてたのかよ……はーあ……」
「ふふふん♪ ……嗚呼そうだ中也。君と同じだなんて癪だけど、私もね、雨が好きだよ」
「……理由は」
「雨の日は任務があること少なくて、君とこうして二人きりになれるから」
「!!!」
「ふふっ。雨っていいよね、中也」
どっちが先に死ぬとか遺すとか、そういう長い恋にしよう。
雨が好きな理由/終
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.176 )
- 日時: 2020/02/01 20:52
- 名前: 枕木
“それ”に気づいたのは、何時だっただろう。
気付いたその瞬間まで、ずっと信じていた。自分のことを。自分の力を。過信でもなく事実としてこの強大な力を持った俺が、真逆。そんな、考えたこともなかった。確かに、身長が低くそれなりの格好をしていれば女として敵の拠点へ忍び込むこともできた。多少気にしてはいたが、それらが“それ”特有のものだと思ったことはなかった。
“これ”に気づいたのは、何時だっただろう。
一時の気の迷いだと思っていた。相棒として終始隣に居て、気づけばテムポ良く軽口を叩き合いながら歩いていた。嫌いな奴だ、という第一印象からそれが変わることは無かったし、容姿や性格に魅力など微塵も感じたことはない。けれど命を預け合うこの関係を、何かが勘違いしてしまっただけだと。
しかし、今では覚えていないある日、気づいてしまったのだ。
雨の降る朝だった。着信音で目が覚めた。こんな朝っぱらから……嫌がらせかよ……と顔をしかめながら携帯電話を取り上げて。そのディスプレイを見てみると『青鯖』と表示されていて、俺はそのまま携帯電話を伏せた。マジもんの嫌がらせかよ……無視だ無視無視。その後何度かコールが鳴ったあと諦めたのかぷつりと切れて、俺は安堵の息を吐いた。しかし少しだけ気になって、携帯電話をひっくり返してみた。すると、昨日の夜中に一本メールがきたらしく、通知がきていた。その差出人を見て俺は全身が粟立つような感覚を覚えた。
それは、とある病院の名前だった。マフィアの傘下にあり、大分優遇されてた。だからこそ、こんなに早く、それもメールで教えてくれたのだろう。……それは勿論、結果を。
メールを開こうとして、指先が震えているのに気がついた。思わず舌打ちをする。大丈夫、万が一にも、そんなことはねえよ。ねえ。絶対に。……絶対に?
息を吸い込み、吐き出す。そして、必要以上に強くタップしてメールを開いた。そして、下へ読み進める。万が一にも、そんなことは有り得ない。でも、心臓は嫌な予感に早鐘を打ち、血管が波打つように動いていた。そんな、わけない。真逆……真逆。
とうとうたどり着いた、その言葉。[結果は____]
その記号が目に入った瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。ちかちかと光が瞬き、視界が戻ってきたが大きく脈打つ心臓で震えている携帯電話のディスプレイに映っているのは、紛れもなく。
どうして、どうして。どうして。
どうして? 頭の中がぐちゃぐちゃで、思考回路が機能していない。何度も何度もその部分を読み返したが、一字一句、読み間違えた箇所はなかった。詰まりは……これが、現実?
俺は病院で、“性別検査”をしていた。
この世界において性別はカーストを決める大切なものなのだ。普通は誕生時に判明するが、生憎俺はその機会を逃していて、マフィアに入り医療機関と関わるまでその存在さえ知らなかった。勿論俺も最高ランクであるα(アルファ)だと信じて疑わなかった。いや、信じるまでもなくそうだと知っている積りだった。
けれど、そのとき床に落とした携帯に表示されていたのは、それとは違う結果で。
何時だったかは忘れた。けれど、確かに、気づいてしまったのだ。知ってしまったのだ。自分の本当のことを。
中原中也22歳。
性別……
[結果は、Ω(オメガ)です]
そして、俺は気づいてる。
俺は、“彼奴”を……正真正銘αの太宰治を……
Ωとして、求めてしまっていた。
Ωとαには互いに『運命の番』というものがあり、それに近づくと本能的に互いを求め合うらしい。
その感情は、俺が太宰に向ける感情と同じものだったのだ。
ポートマフィア幹部、中原中也、22歳。性別、Ω。
運命の相手…………
武装探偵社員、太宰治、22歳。性別、α。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.177 )
- 日時: 2020/02/02 22:05
- 名前: 枕木
ヨコハマを支配するポートマフィアには、どんなに下っ端構成員でも庶民クラスのβ(ベータ)の中でも優れた層に属していて、上層部に至ってはαの中でも優れた人材しか集まっていない。詰まり、マフィアには俺以外にΩはいないし、マフィアは最下層の性別であるΩを必要としていない。それなのに、位は最上位とはいかなくても、首領自らに勧誘されてマフィアに入った俺がΩだと知られたら、どうなるか。それは、考えなくても安易に判ることだろう。
つい先日、マフィアの中のまあまあの位に位置する構成員が夜道を歩くΩのフェロモンにあてられ襲いかかり抵抗したΩにあっさりと殺られて姐さんの部下がその報復に向かったが、その部下が吐き捨てた言葉が「Ωごときに殺られるなんて」だった。
Ωごとき、と卑下される理由は、Ωは常にフェロモンを発してオスを誘うからだ。種を欲し、孕み、βとαの血筋を残すためにある、卑しい人種。それがΩだった。昔は女の役目だったそれは、今は男女関係なく少数のΩが担っている。俺の身体がそれができる身体なのだと思うと、短刀でズタズタにしたいほど嫌悪感が湧いた。しかし、死のうとは思わない。それは、常日頃口癖のように自殺願望を口にしている相棒の所為だろうか。
俺はΩだった。しかし唯一の救いは、それを俺と検査を任せた医師以外誰も知らないということだった。医師には言わずもがな判るだろうと圧力をかけ、何食わぬ顔で出勤することにした。
身支度をしながらガラス窓越しに外を見ると、雨は激しさを増したようだった。これから先の俺の人生を表すかのようにみるみる内に雨は嵐となり、遠くで雷鳴が轟いた。
生まれついたときから俺の身体はΩの体質だったのに、検査が判るまで俺の身体はβとαと同じだった。しかし、Ωだと判明したその日から、徐々にΩの体質は現れてきた。
低身長も顔も変わらない筈だが、周囲から「可愛らしい」と表現されることが多くなった。姐さんには頭を撫でられ「愛いのう、中也は」と娘か妹のように扱われ、首領にはにこにこ顔で「エリスちゃんに買ったお洋服なのだけれど、中也君にあげよう。着て御覧♪」と地獄を味わされた。オスにウケる為の魅力、といったところか。
しかし一番ひやっとしたのは、高鳴る心臓を抑えて、Ωと判ってから初めて太宰と任務を行ったときだった。
太宰が俺の運命の相手だと意識した途端、太宰の傍にいると、身体の奥が疼くような感覚がしていた。隣で相手が入り口から出てくるのをじっと待っている太宰に心臓の音が聞こえていないか心配で心配で仕方がなかった。緊張すればするほど心臓は過剰に動いて、その音に緊張して、を繰り返し、こうやって太宰の隣にいるときだけ感じる太宰のにおいと黒外套の感触にまで反応してしまうようになった。
そうして、息も上がり、疼いて、疼いて、だんだん、我慢が効かなくなって。
欲しい、欲しい。
疼いて堪らない。
太宰に触りたい。太宰に触れて欲しい。
太宰に、
太宰が、
欲しい。
「?……中也、なんだか甘い匂いが……」
ふいに、そう云いながら太宰が振り向いた。思わず「ひぁっ」と声を出した。驚いて声を発しただけなのに、まるで愛撫に声をあげる生娘の嬌声のような声だった。太宰の鳶色の片目が、真ん丸に見開かれる。でも一番驚いたのは俺だろう。思わずぱっと手で口を塞いだが、その行為が余計に俺の奇行を際立たせてしまった。
太宰の瞳が、突然すっと細められる。背筋が凍った。
え? 嘘……だよな……?
「ねえ、なんだか甘い匂いがしない、中也? どこからするのかな」
「す、るか? そんな、におい」
「え? 判らない? 気の所為かなあ。でも、君なら判るでしょ、ねえ?」
太宰が顔を近づけてくる。動けなかった。
こんな、直ぐにバレるもんなのかよ、これって。
いや、今までαとして普通に振る舞えていたのが可笑しいのかもしれない。俺は、所詮Ωなのだから。
「ねえ、中也?」
太宰の頬が、ほんのり紅く染まっている。甘い匂いとは、俺の、Ωのフェロモンのことだろう。それにあてられて、興奮している。
太宰は、ゆっくりと迫ってくる。なんとかしなければと判っているのに、突き飛ばせない。理由は明確だ。突き飛ばしたくないから。俺の身体が、本能が、太宰を求めているから。太宰に抱かれたら、俺はもうΩとして生きていくしかない。
嫌だ。嫌、いや。
太宰の微笑み整った顔が、目の前に。唇が重なるまで、あと少し。あと1センチ。
あと……
「いや……太宰っ!!」
叫んだ、その瞬間。
パンッ!
銃声と共に、俺が左手をついていた数ミリ左の地面が焦げた。直ぐ様振り向くと、銃を持ち武装した人間が数十人入り口から出てきてこちらに銃口を向けていた。太宰が溜め息をつく。
「あーあ、折角楽しいところだったのに」
太宰は身を起こし、「そこにいるのは判っているんだぞ!」と再び撃ち込んできた弾を右に首を傾けるだけでかわすと、俺をみつめた。真っ直ぐな鳶色の瞳に、恐怖で凍り付いたようだった心臓が高鳴った。
銃弾をかわしながらしばらく見つめあった後、太宰は眉を寄せ、面倒そうにふう、と溜め息を吐き。
「暇だったから、一寸悪巫山戯してみただけでしょ。そんな恐い顔しないでよ」
やれやれ、と首を振り、俺に声を上げさせる前に「うっざ」と舌打ちして声のした方に銃を向けた。何かが倒れる音がして、直ぐに騒がしくなった。暫くその真相の掴めない横顔に見惚れていたが、再び俺に向けて銃声が鳴り響き、反転しながら蹴りあげて反撃して、参戦した。
勿論、任務は成功したわけだが人間の残っていない基地をあとにするときも太宰は一言も喋らず、態々自分の墓穴を掘ることもないから俺も黙っていて、あの時重なろうとした唇のことはうやむやになった。それは、今となっても判らない。
何故なら、それから程なくして太宰はマフィアを去り、武装探偵社員となったからだ。そして俺は、幹部となった。Ωのポートマフィア幹部。笑える身分だ。Ωと知られたときに失うものは、大きくなりすぎた。
太宰と唇が重なりかけた、その日の夜。まだ疼いている身体を繰り返し慰めながら、これがΩ特有の“発情期(ヒート)”なのだと知った。事故でも太宰に触れてしまったり、酷いときには太宰の姿を見ただけで、トイレで太宰の顔や声やにおいや感触を思い出しながら股を濡らす日々が続いた。抑制剤を服用してはいたが、太宰以外には効いても、太宰には全く効かない。太宰が気づいているのかいないのかは微妙だった。しかし、時々その視線を感じることはあった。でも、太宰は何も言わなかったし、仕事に必要な言葉以外を交わすことはなくなった。俺のマフィアとしての生活が脅かされることもなかった。まあ、そんな太宰の視線に気づくだけでも息が上がるようになってしまっていたのだが。
でも、太宰が去り、そんな日々も終わって。発情期も、抑制剤でコントロールできるようになって、マフィア幹部にとっては平穏な日々が続いた。太宰がいなくなった直後は狂おしいほど疼いていた身体も収まって、この日常が普通になりかけていて、それが続くと思っていた。しかし、そうはいかなかったのだ。
あの日の嵐は、昼頃になって弱まったが、夜にまた威力を回復したどころか朝より増し、俺の部屋の窓を粉々に割ったのだから。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.178 )
- 日時: 2020/02/16 15:51
- 名前: 枕木
見てくれてる人っているのかな…
ちょっと不安になっちゃいますね…
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.179 )
- 日時: 2020/02/22 09:37
- 名前: 弑逆ノ藍
めっちゃ見てますよ!
自分最近書けてませんけど……めっちゃ見てますよ!!!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.180 )
- 日時: 2020/02/22 21:24
- 名前: 枕木
>>179 弑逆ノ藍 様
わああ、ありがとうございます(泣)
もうモチベーションが瀕死で泣きそうでした、でも貴方のお陰で回復しました…!!ありがとうございます(号泣)
更新待ってます、何時までも待ってます。レスしようと思って覗いてみたものの、もう来ないかもしれないな…としょんぼりしたりしていたので、すごく安心しました…!
なんてったって、私は弑逆ノ藍様ファン(自称)第一号にして一番のファンですからね☆
お互い頑張りましょうね…!良ければまたいらしてくださいお願いします。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.181 )
- 日時: 2020/02/23 03:24
- 名前: 皇 翡翠
お久しぶりです、枕木さん。
覚えていますでしょうか…?
最近、リアル(現実)が立て込んでて、忙しい日々を送っていました。
枕木さんの小説、今でもちょくちょく拝読させて頂いておりますよ。
私も、もう少し落ち着いたら再開させて頂こうと思っております故、良ければどうかお待ちしてもらえると、有難き所存です。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.182 )
- 日時: 2020/02/24 11:10
- 名前: 枕木
>>181 皇 翡翠 様
貴方まで…!忘れるわけありませんよ、何時までも私の憧れの人ですから。
何だか構ってちょーだいしてしまってすみません…でもすごく嬉しかったです、安心しました…(´ω`)
皆さん、そりゃあ忙しいですよね…無理なさらなくていいので、本当に、いや、早く読みたいんですけど、でも、ずっと待ってますから…!活動再開されたらまた遊びに行かせてもらいますね。良ければまたいらしてください。
よっし、お二方のお陰でモチベーションばっちり回復したので、オメガバース太中再開します♪皆さん、どんな方でも何人でも、リクエスト・感想・生存報告お願いしますね!ではでは♪♪
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.183 )
- 日時: 2020/02/24 11:31
- 名前: 皇 翡翠
御返事、有難うございます!
あぁ、良かったです、覚えていらしたんですねっ嬉しいです。
無事に生存報告出来ましたことですし、楽しみにしてくれているとのことなので、早ければ今日中には、何か一噺レス上げをと考えている所存ですので、気付いて下されば是非、読んでくれると嬉しいものです。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.184 )
- 日時: 2020/02/24 17:12
- 名前: 枕木
>>183 皇 翡翠 様
!!!それは本当ですか!?
え、やった、嬉しい…!めっちゃくちゃ楽しみです…!!(*>ω<*)
待ってますねっ!絶対一番にコメントしに行きます!!ふふ、楽しみだなあ〜♪伝えに来てくれて有難う御座います!!あっ、本当に無理はなさらないでくださいね!ああでも、期待せずにはいられない…!楽しみすぎる…!!
すみません、でも、待ってますからね!ではまた!!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.185 )
- 日時: 2020/02/24 17:45
- 名前: 皇 翡翠
そんなに楽しみにして頂きありがとうございます!
そんな訳で、ちゃちゃっと執筆し終えてご報告を、と思いまたもお邪魔させて頂きました。
暫く間が空いちゃったんで、クオリティーは下がっちゃってるかもですが、良ければ読んでくださいね。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.186 )
- 日時: 2020/02/25 00:39
- 名前: 枕木
「は……?」
呟いた声は掠れていて、続けようとした罵声は喉元でつっかえた。息苦しくて飲み込んだのは、きっと罵声だけじゃないだろう。
「やあ。久しぶりだね」
顔に巻かれた包帯はなくなって、濁っていた鳶色は幾分か澄んでいて、黒外套は砂色に変わって、あの頃は隠していなかった、底無しの絶望と破滅願望の危うさは、飄々とした笑顔で隠して。そして、片手を挙げて、軽々と奴はそう云った。
確かに久しぶりだ。
こうして、首領の部屋の扉の前で会うのは。
「ど、して……手前が……」
太宰の顔から目を逸らすことができずに呆然と問うと、太宰は「やれやれ」と呆れた仕草で溜め息をついた。
「聞いている筈だよ? 今回はうち[武装探偵社]とそっち[ポートマフィア]との共同作業になるって」
確かに聞いている。でも、太宰と組になるとは聞いていない。俺は……
「谷崎君と、だったよ、確かにね」
太宰が先回りをして云う。今更思考を読まれていることをどうとも思わないが……それなら、俺の疑問も判ってるんじゃねェのか。
そう思って太宰の瞳をみつめていたが、太宰はふいに目を逸らし、ふう、と力を抜き切るように息を吐いた。
「せっかちだなあ。それはこれから判ることだよ」
まあ……そうか。俺は、『緊急事態が発生したから至急私の部屋へ来てくれ給え』って呼び出されたんだもんなァ。その緊急事態ってのが、今隣に太宰がいるこの事態ってことか。
それならさっさと、と手を出し、その重厚な扉をノックしかけた俺の視界に、突然細長い指が伸びた。
どくん、と心臓が大きく脈打った。
な、にを……
その指先は、硬直した俺の前髪に触れた。前髪を一房ふわりと摘まみ、左の脇へするりと避けた。耳に掛けたとき、耳朶に指先が触れてぞくりと何かが駆け抜けた。
太宰に……触れられた。
「中也、まさかその跳ねてる髪のまま入る積りじゃあなかったよね? 寝癖? この前髪。監理出来ないなら切ったら?」
太宰が、呆れた吐息混じりに云った。そこで俺はようやく我に返って、慌てて前髪を抑え、三歩下がって太宰から離れた。
吃驚した吃驚した吃驚した吃驚した吃驚した吃驚した!!
何しやがんだコイツいきなり……!
「余計なお世話なんだよバカヤロウ!!」
そう怒鳴るのが精一杯だった。太宰は、俺に触れていたままの姿勢で、じっと俺をみつめている。ばくばく高鳴る心臓の音が五月蝿い。ああ、やっべえ。ここ暫く落ち着いてたのに。落ち着こうとして、はあ……と気づかれないように細く吐いた積りの息が熱くて、おまけに情けなく震えていて、泣きたくなった。
太宰はそんな俺の内心を知ってか知らずが急激に冷めた表情になり、手をひらひらと振って、「あっそ」と感情無く云った。
まだ五月蝿い心臓を宥めようと呼吸を繰り返しながら、再度手をあげて、扉を三度ノックして、「どうぞ」という声のあと扉を開けながら、ふっと気が付いた。気が付いた瞬間、深い絶望感に襲われて、目眩がしそうになった。
嗚呼、恨むぞ。恨むからな。
「呼び出して悪いねえ。__察したと思うけれど……」
恨むぞ、幻像の異能者。
「今夜、双黒を復活させる」
いや、恨んでんのは、俺自身だ。
「____折角の復活だ。旧友の証に握手でもしたらどうだい?」
「それ、本気で仰ってますか?」
「勿論」
そういえば、今日は朝から雨だった。
「よろしくね、中也」
差し出された掌が、巻かれた包帯の白さが、あの頃何度も俺の掌に吐き出された濁った白色と妙に重なった。
「……嗚呼、よろしくな、太宰」
そっと指先でその掌に触れた瞬間、びりっと何かが電流のように走ってきて。全ての神経が集まったような指先を、何うじうじやってんの早くしてよ、と舌打ちした太宰が強引に握る。その瞬間、下着が濡れたのを感じた。
「じゃあ、頑張ってねえ」
首領の部屋を後にすると、俺は一言「地下駐車場で待ってろ」と顔を一切見ずに告げ足早に廊下を歩いた。そしてトイレにつくと個室に閉じ籠り、パンツの中に震える手を入れ、下着のゴムを引っ張った。霞んだ視界で、それを確認して、目の奥が熱くなった。
嗚呼、なんだよ、これ。
ぼんやりと熱に浮かされた頭が、もう痛いくらいだ。完全に、やっちまった。
太宰用にと処方された、あの強い抑制剤を飲んでいれば、こんなことにはならなかったのに。
気づいたところで、もう遅い。下着は濡れてしまった。でも、濡らしたのは白いものじゃなくて、透明の液体で。ぐっちょりと汚れているのは前じゃなく後ろの方で。
早く戻らなきゃ、怪しまれる……
ロール紙で下着の汚れを拭きながら、俺は噛み締めた歯の隙間から、堪えきれず嗚咽を漏らしていた。どうして、どうして今更。やっと、やっと俺が手に入れた日常なのに。どうして……
勃起しない男性器の代わりに疼く奥の奥の子宮が、どうしようもなく憎かった。
個室を出て手を洗いながら鏡を見ると、確かに前髪が跳ねていた。
確かに、もうそろそろ切ってもいいかもな。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.187 )
- 日時: 2020/03/14 10:57
- 名前: 枕木
息を吸い込み、鏡の中の自分をみつめる。僅かに赤らんだ頬に嫌気が差すが、これで今までやってこれたんだ。アイツにかき乱される日々も終わって、幹部としてここまでやってきた。αの一級品として、組合<ギルド>からも霧からもヨコハマを守ってきたんだよ。ほんの少し、ほんの少し抑えられれば、また平穏な日々が戻ってくる筈だ。とにかく、今夜で片をつけられれば……
「無理だね」
思わず、ぱっと顔を向けて太宰の横顔を凝視した。すると太宰は「赤だよ、前見て」と前を向いたまま素っ気なく云った。特に云うことも無ェから大人しくブレーキを踏み込む。見上げると、真っ暗な背景に赤のライトが点々として、目が痛くなりそうだ。暫く俺のこの車は地下に置きっぱなしだったもんなァ。
しかし、そんなばっさりはっきり否定するくらい、今回は手こずるのか? 俺と太宰が居ても?
「……谷崎君が」
少しの沈黙のあと、太宰が口を開いた。
細雪の餓鬼のことは、車に乗り込み出発する前に聞いた。昨日、眼鏡の長髪野郎の車で移動してるときに事故に遇ったという話だった。そっちの女医が治せばいいんじゃねェのか、と問えば、
「なに、そんなに谷崎君が良かったの? 携帯の番号教えてあげようか?」
とにやにやされた。苛ついて車を急発進させたが、太宰はシートベルトを締めたあとで、「安全運転で頼むよ」と悠々と足を伸ばしてやがった。矢っ張り、無ェな、コイツだけは。心配することも無ェ。
「来られない理由は」
信号が青に変わる。アクセルを踏みながらちらりと隣を見てみて、少し驚く。険しい顔だなァ、オイ。前の車爆破しそうな目だぜ。その実なんの恨みが無くても、な。
「歩けないからだ」
「……女医も役に立たねェな。首領に伝えておかねェと」
「そうじゃない。傷は完治してる。谷崎君だって、来る積りでいた。だって、そっち[ポートマフィア]のボス直々のお願いで今回の共同作業になったんだよ? マフィアに貸しを作るいい機会だもの」
「あ”? 寧ろそっち[武装探偵社]がうち[ポートマフィア]に頼みたかったんだろうがよ。五人も社員襲われといてよく云うぜ。手前の教育が悪いんじゃねェのか」
右折しながら云うと返事がなく、おや、と目を見張った。言い返す言葉がねェってか? ざまァ。
まあ正直、今回の相手にはうちも手こずっていた。殺されたのが57人、負傷者が21人。武器庫に侵入しようとした奴がいると向かわせる度、その数は増えた。後ろから心臓に一突きだ。幾ら下級の構成員でもマフィアだ。こんなに易々と殺されるものなのか、と昨日俺の部下についたばかりだった男の死体をみつめ疑問に思うほど。死体、腕や脚がもがれ気を失っている怪我人、それらは山となっていて、応援要請を受け駆け付けた俺らを呆然とさせるほど。
マフィアが所有する武器や金、莫大な情報を狙っているならまだいい。そんな輩はごまんといる。でも、今回の奴は違う。実際のところ、武器庫からは何も盗まれていない。探偵社も同じく、役人の家から金が盗まれたと呼ばれ遣られたらしいが、女医の異能で助かったらしい。でも、そうはいかないうちは、同じ状況下にある探偵社と共同でそいつをぶっ殺すことにした。芥川や黒とかげ、探偵社の自称名探偵の野郎と人虎らが動いて相手の基地は突き止めたから、主戦力の俺が今夜向かうことになった訳だが……
「じゃあ、何で歩けねェんだよ」
細雪の餓鬼がそんなことにならなけりゃ、今こうして俺が緊張で手を湿らせることも無かった。
もう一度右折する。一方通行の、林の間の細い道だ。大勢が身を隠す基地なら、こういう人里離れた場所の方が都合いいよなァ。手練れを78も一度に遣れるんだから、100はいるか? いや、もっといるかもしれねェな。基地ごと汚濁で潰せばいい話だろ、なんでそんな気難しい顔してやがるんだよ、太宰。
「谷崎君は……行く積りでいた。だから、目が覚めて、傷のない体を確認して、ベッドから降りた。そして、与謝野さんの方へ歩こうとして……転倒した」
眉根をひそめた。視界も見えないが、話も見えない。なんでこんなに溜めてるんだよこいつ。とっとと……
「平衡感覚が無いんだ」
……は?
「谷崎君も、国木田君も、平衡感覚を失ってて、歩けない。今病院で検査を受けているけれど、多分異常は見つからない。恐らく、私たちが今向かっている人たちの異能だ。遣られた人たちも、平衡感覚を奪われたんだ。だから反撃も抵抗も出来なかった。突然立っていられなくなって、平然としていられる人なんてごく僅かだろうからね」
「じゃあ……体の機能を狂わせる異能遣いがいるのか」
「恐らく。でも、殺したいなら心臓でも肺でも止めればいい話だ。多分、ごく一部の機能を狂わせることしかできない。それも、指定の距離の中で。けれど厄介なのは、私の異能無効化が通用しないことだ。体内を、ピンポイントで狙って発動できるんだろうね」
思わず詰めていた息を吐き出した。こりゃ、思ってたより厄介だな。
「組織の中の誰がその異能遣いかは、判らねェんだな?」
「そういうこと。100人潰したって、核を突かなきゃ意味が無い。逃げられたらそれで終わりだし、只でさえ汚濁を発動している間は理性の無い中也が接触されたら重要戦力を削ぐことになる。一応選択肢には入れているけれど……どうする?」
太宰がこちらを見ているのが判った。
選択肢にはって……手前と俺がいて、他に幾つ選択肢があんだよ。
「やる。復讐と報復の為に」
「まあそうだよね。特大の頼むよ」
軽い返事をするなり、太宰はふわあ、と大きな欠伸をすると、着いたら起こしてね、と目を閉じてしまった。呑気かよ、阿呆か。つーか、基地までそんなに距離無ェし……と文句を云えば、太宰は無言で外套のポケットから耳栓を取り出し両耳にはめ、微動だにしなくなった。舌打ちをして、前方だけに集中することにする。嗚呼、ここ、少し登りになってんだな。耳が詰まるような感覚がある。標高が高くなってきている。これなら、多少なりとも暴れても大丈夫だろ。
何も、心配することは無ェ。一晩で片はつく。そうだろ、なあ。
……けれど、隣で本当に寝始めた男の寝息に反応して疼く腹の奥や、太宰の隣に乗ったときから感じている湿った下着の感覚は無視できなくて、不安は募るばかりだった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.188 )
- 日時: 2020/03/14 12:43
- 名前: 枕木
不安に揺れる気持ちを押し殺せと無心で走らせていると、突然林が開けた。お、と声をあげブレーキをかける。此処だな。所有時間も自称名探偵の野郎に云われたのと同じくらい……否、ぴったりかよ……なんか腹立つな彼奴。
暗いがヘッドライトを点ける訳にもいかない。が、闇夜を支配するポートマフィアだ。夜目は利く。じゃなきゃ此処まで運転とかできねェし。だがそれでも、Ωやβより大分身体機能も高いαの……太宰の視界とは違うのだろうなと思うと、何故か切なくて、けれど判りやすく悔しかった。
そんな俺の目を凝らして、どうやら木造の小屋らしいと見る。随分小さい。開けているとはいっても、これまた狭い。木々の間に隠れるように建っていて、上空から見ても気がつかないかも知れねェな。
小屋は窓がなく、錆びた青のトタンの屋根の簡素な造りだ。まあ、隠し蓋でもあって地下に潜んでるんだろうなァ。
ちらりと隣を見ると、未だ呑気に寝息をたててやがる。その、微かに上下する胸や僅かに開いている唇を意識してしまうから、それを吹っ切るため、拳を固めた。
「オイ、太宰。いい加減起きねェと殴るぞ」
「……」
「オイ、太宰!!」
安易に大声出せねェのから聞こえていなくて本当に寝てんのか、無視してんのか……否、完璧に後者だろ。
「オイ太宰、起きろって……云ってんだろ!」
右耳をぐいっと引っ張り、勢いよく耳栓を抜き取った。太宰は「いっ……」と声を上げ、右耳を抑えるながら目を開け、恨めしそうに俺を睨めつけた。はっ、手前が悪ィんだよバーカ。
「もう、本当野蛮!」
「知るか。んで、作戦番号<コード>は?」
太宰はまだ不満げにしていたが、はあ、と溜め息を一つつきシートベルトを外しながら、口を開いた。
「番号<コード>も何も……『やっちまえ』。以上」
「……チッ。了解」
……本っ当ムカつく野郎だぜ。
耳栓を太宰の方へ見ずに放り、その苦情を背中に車の扉を開け外へ出た。バタム、と思い切り良く扉を閉めると、軽く肩を回した。
んじゃ、遣るか。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.189 )
- 日時: 2020/05/24 11:49
- 名前: 枕木
溜め息をついて耳栓を拾い、装着する。中也が破壊という行為に快感を感じ叫ぶ声を、あまり聞きたくはない。気色悪いし。
中也が小屋へ向かうのを確認すると、私は助手席から運転席へ移動し、ハンドルを握った。中也の車だからどーなったっていーんだけどねー。まあ、移動手段は一択でも多い方がいい。それに、汚濁遣って寝た中也をトランクに放り込めるし。中也との約束だし。いや、約束なんてどうだっていいけど。
ふう、と溜め息をつき、車をUターンさせた。バックミラー越しに中也が小屋へ消えていくのを確認する。
中也の車を安全地帯まで運んだら、作戦開始ってことになっている。私の計算だと小屋の屋根彼処まで吹っ飛ぶから、車想定よりもうちょい下まで持ってちゃうか……
そういえば、ここの標高って何メートルだったっけ。私はそんなに気にしてなかったけど、中也が耳を気にしているようだった。でも、中也が圧力に負ける訳ないよねえ。中也がそれを支配している訳だし。いや、でも中也なら……
また、溜め息をついた。中也を推し図るのは難しい。私以外を私と同じだと思うことは無いに等しい。それでも、解ってしまうのだから仕方がない。αだからとか、そういうことじゃない。私が仮にβだったとして、一般人にはなれないだろう。そもそも、性別がそこまでを左右する訳ない。どうしてみんなそんなに拘るのだろう。女性という性別が卑下されていたように、人間は自分が優位に立たないと気が済まないのだ。例え、女性がいなければ遺伝子を残すことはできないと、理解していてもだ。
Ωだって、同じなのにね。αはαとΩの間にしか生まれない。Ωが孕みたくないと拒絶するようになればαは減っていき、この世をつくる均等は脆く崩れる。在るべき姿になるようにと在るべき役がちゃんと揃っているのに、どうしてこの世は在るべき姿に収まらないのだろう。理解はできてしまうけれど、うんざりするほど退屈な劇だ。
それでも、一人だけ皆と違う衣装を纏うのが中也だ。決して気付かれたくはない、真の主役。気付かれてしまえば、何かが終わってしまうのだろう。私にそれを止める気はないし、所詮ただの傍観者だ。態々舞台に上がり込むこともないだろう。あれは、彼の舞台なんだ。解れなくても問題はない。
いや……まあ、気付いてはいるけれど。気付いてはいるけれど、気付かないふりをしたい。
私も、彼の舞台に不可欠な役者だということ。
私も彼も、気づいてる。けれど、目を逸らし合っている。彼が、それを望むから。だから私も、それが願いだ。
ねえ中也。いつか君の舞台は、悲劇に変わってしまうのかな。それでも私は、君の舞台を見届けるよ。安心しなよ、私は唯の観客だから。でもその代わり、最後の一人になっても君の舞台を見届けるよ。ねえ中也。そうしたら私は、君の舞台の要素に少しでもなれるのかな。観客と主役が見つめ合うだけの悲劇は、さぞや滑稽だろうね。いいよ。私は最後に、君に惜しみ無い拍手を送ってあげるから。観客として。
……一寸近いかな。まあいいや。ここら辺に停めちゃおう。此処ならいい感じにボンネットに飛んできた木で傷がつくし。走れはするから問題なし。
ブレーキを踏み込む。ポケットから無線機を取り出し、中也に繋いだ。耳障りなノイズが混じる。うわあ、不良品? マフィアも、こんなところで経費削減してどうするんだか。
溜め息をつきながら待てば、何とか繋がった。聞こえてきたのは、不機嫌そうな声だった。
『……い……だざい……何だこれ、壊れてんのか?』
「そうみたいだね」
『チッ……』
大きい舌打ちだねえ。幸せが逃げちゃいそう。
まあ、中也の幸せとかどうでもいいけど。
「とりあえず車は運んだよ」
『傷付かないところに置いただろうな?』
「うん、ちゃんと動くだろうから大丈夫」
『は? おい、手前……』
「そんなことどうでもいいからさ、作戦開始」
『チッ、後で覚え……っ』ザー
ん……?
最後雑音入ったけど、なんか、変じゃなかった?
『もう切るぞ。三分以内に片付けるからな』
「はぁい。じゃあね」
矢っ張り雑音かなあ。まあ気にすることでもないか。
無線機を切り、座席に置いた。不良品だって後で森さんに教えなきゃね。
扉を開け、降りる。思わず欠伸が溢れる。木々の間を抜けていけば二分くらいで小屋に着ける。けど登るの面倒だなあ。いやでも、異能力者が逃走するとしたらこの経路だしなあ。
実際見てみて、嗚呼矢っ張りと思った。木々の立ち方からして、地下には小さな部屋がいくもあり、蟻の巣のようになっている。深さも大分ある。しかし収容できる人数は想定より少ない。けれど、抜け穴も多いだろう。中也がそれを追い回すか、滅茶苦茶に打ったのが当たるか。どのみち、地下の部屋は全部潰される。接触するなら、全部潰して見当違いの方向へ打ち始めたときだ。対象が無くなった中也は唯の破壊神と化す。まあ、そのときに異能力者が生きてるかも定かじゃないけど。正直、汚濁については理解できないこともある。これもまた、彼の舞台を展開させる要因なんだろう。
「わ、わあああああああ!!」
はいはい、そんな大きな声を出さなくても大丈夫だよ。
木々の間から現れた片腕のない男が、悲鳴をあげた。恐怖に目を見開いている。突然の破壊神の到来は、そりゃあ怖かっただろうね。安心しなよ、そのトラウマ、引きずらないようにしてあげるから。
懐から銃を取り出す。もう慣れすぎた動作はほぼ無意識で、引き金をひく指が動いた。
弾が、銃口から発射される。空に一筋の道を開き、男の心臓へ真っ直ぐ飛んで行く。……発射された瞬間に鳴る、乾いた音。
それを聞いたのは、男の胸に弾が届いた瞬間だった。
……おかしい。
確かに耳栓はしているけれど、音が遅れるなんてことは有り得ない。私の耳に異常はない筈だ。原因があるとしたら……
耳栓をはずして、目を閉じて……見開いた。
……嗚呼、そういうことか。
私は男の腹を踏みつけた。恐ろしく速く通りすぎてゆく木々と、流れる冷や汗。私いま体温あるかな。
解ったよ。とりあえず、ひとつは。
中也が、危ないってこと。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.190 )
- 日時: 2020/05/24 12:25
- 名前: 枕木
最悪の事態を想像すると、心臓が止まりそうになる。けれど今はその心臓を酷使して走るしかない。
どうして気がつかなかったのだろう。中也が耳を気にしていたとき、いや、歩けない国木田君たちを見たときに気付くべきだった。
ああ、中也。無事でいておくれよ。
もし無事だったら、云いたいことがあるんだから。
中也が暴れているのなら飛んでくるはずの木々や死体や音が全く無い。矢張り、そういうことなんだろう。私たちの作戦はとっくに相手にばれていた。あまりに用意周到な罠に、私たちは見事にはめられた。ずっと前から、異能は発動していたんだ。
はっと目を見開いた。視界から急に木々が消え、林が続いていたはずの地面が、月面のクレーターのように大きく抉られている。眼下には、黒い物体があった。
「中也!」
周りに人はいないようだ。見くびった。距離も範囲も自由に変えられるのか。否、でも、
音波なら、それも可能だろう。
抉られた地面を滑り、彼の元へ駆ける。近づけば、彼から獣のような低い低い唸り声が発せられていた。両手で頭を抱えうずくまり、どこも見ていない瞳だけをギラギラ光らせ、ひたすらに悲痛な叫びを上げている口から唾液を垂らしている彼は、もう限界に達しているのだろう。制御の効かなくなった躰が、世界を壊そうとしていた。
「中也止めろ! 作戦中止だ!」
ゆらりとあがった腕に、胸底がひやりとした。
君がΩだから、こうなってしまうのかい?
ねえ中也。思ったことはないの。
私が居なければ、人生を壊されることもなかったのにって。
否、幾度となく思っただろうね。私だって其処まで鈍感じゃないよ。昔から、あのときから、私が唇を奪おうとしたときから、ずっと恐かったでしょう。
ごめんね、中也。私は君を怯えさせてばかりで。
でもね、中也。
私は今から、君の舞台に乱入するよ。
「中也!!」
重力を一身で操る身に聞こえている筈ないのに、叫んだ。血を流している頭を、掻き抱く。耳を塞ぐように、胸に押しつける。胸の中で、中也が息を飲んだのが判った。
さあ中也。私と君との二人芝居の開演だ。
* * *
『ちゅうや!!』
あ……? だれだ……?
とおく、ずっと とおくから、おれを よぶこえ がする。
ああ、しっている。
しっている。このこえは。
だって ずっと ゆめ にまで みた
ああ、わかってんだよ。
てめえは、おれの____
「中也!!」
一気に声が近くなる。目が覚めた。
そして最初に感じたのは、包帯を浮かばせる薬品の匂い。火薬や、血や、あの頃の匂いとはまるっきり変わっていた。いやでも、この匂い……つか、この感触……なにかに、強く包まれて……
「中也。大丈夫かい?」
え。
「だ、ざい……?」
そろそろと顔を上げれば、至近距離で鳶色の瞳とぶつかった。ヒュッと息が止まる。
抱き締められてるのか、太宰に。
呆けていれば、太宰が思い出したように嗚呼、と声をあげた。
「それどころじゃないか。でももう暫くこれで我慢してね。耳、もう変じゃない?」
「みみ……?」
はっとして太宰から離れ、耳に触れた。いまは、何の異常もない。
山道を登るうちに強くなった耳の不快感は小屋に近づくときには耳鳴りに変わり、多少ふらついていた。しかし俺は、気にせず手袋を外して……
「っ! これが敵の異能かッ!」
「恐らく。音波を操り、それも距離や範囲、強弱など全て操れる。人間の平衡感覚は耳の器官で保たれているのだよ。ある特定の不快音を聴かせていると平衡感覚は狂う。事故だって起きるし、そうやって麻痺させている間なら殺人も可能だ。今、この山一帯がその異能の発動範囲となっている」
「そう遠くにはいねぇな。……その異能力者なら、心当たりがある」
「ああ、私もだよ」
その特徴を聞いて、一人思い浮かべる人物がいた。しかも、マフィアと探偵社を襲う理由もある。
「……太宰、車を回せ」
「はいはい。無線機もあの中だしね。妨害を受けていたのだろうから、動く筈だし。此処にいてよ」
「嗚呼。どうせ動けねぇ」
ぱたりと寝転べば、太宰は呆れたように溜め息をついた。チッ、手前が早く止めねぇのが悪ィんだよ。
「はぁ……もう。じゃあ回してあげるから外套預かってて」
は? と声をあげる前に、ばさりと外套を投げつけられた。預かるなんてものじゃなく、視界を奪われ、頭から足まで全部覆われる。文句を云おうと息を吸えば、胸がどくんと高鳴った。
……太宰の、におい。
先程の、太宰に抱き締められていた感覚が甦る。あの声、俺を呼んでいた、あの声は……
『中也!!』
「っ……」
きゅんっと奥が疼く。切なさが込み上げ、頬が火照る。この感覚は、よく知っているものだった。絶望と共に、強く強く躰が求める。快楽を、種を、ただ一人を。
嗚呼……終わった。
発情(ヒート)が来ちまった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.191 )
- 日時: 2020/04/16 13:52
- 名前: 枕木
はい、ご察しの通り、これからオメガバース太中は濡れ場へと突入します。
書くには多少では済まされない気力が必要なので、一旦切ります。
まあ、一番の理由は…
太宰さんと中也くんが、新たな家族をつくろうとしているからです。
長らくお付き合いさせましたが、とうとう出産となります。応援よろしくお願いします。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.192 )
- 日時: 2020/04/17 21:54
- 名前: 枕木
妊娠してから、一年が経過した。
十月十日とされていた出産予定日をとうに過ぎているが、特に異常は見られないようだった。
いや、異常はないといっても普通の妊娠とは違う。予定日を2週間過ぎたとき、太宰と病院へ行った。何かあったんじゃねぇかと思ったからだ。エコーで見た医師は、予定日を過ぎている割には平均より大分小さい、と云う。
「成長が止まったってことか……?」
「いえ、ほんの少しずつですが成長はしています。しかし二十四週目で見たときまでは普通の妊娠の経過と同じでしたから、遅くなっているのは事実です。丁度いま二十五週目と同じくらいですから、このまま成長していけば約一年で出産できる大きさになるかと」
矢っ張り普通に妊娠して普通に出産して……とはいかねぇか。まず俺らの存在が普通じゃねぇし。
「あまりに例の少ない出産になりますから、慎重に、あと二ヶ月様子を見ましょう」
相変わらず俺らに怯えた顔の医師に頷いて、ふと部屋の角に立つ夫を仰ぎ見た。太宰は憂い顔でじっと映像の我が子をみつめていた。何を思ってみつめてるんだろうな、こいつ。
そう考えながら太宰をみつめていれば、突然、彼の口元が、ふっと微笑んだ。驚いて声をかけようとしたが、その前に太宰がぽつりと呟くように云った。
「君に似て、暴れん坊だね」
絶え間なく躰を動かしているのが、映像でも確認できる。なにより、腹を蹴って外に出たがっているのがいつも感じられる。
うっせ、と笑えば、太宰も幸せそうに微笑んだ。
大丈夫だ。なんたって、俺たちの子だからな。
……そうやっていたのが、二ヶ月前の話になる。もう腕の中にいるはずの我が子は、俺と繋がったままだった。大きさはもう充分で、元気に動いている。しかし、一向に陣痛がこない。
俺は、本当に子供を産める躰なのか?
女じゃねぇ躰だから、赤ん坊が……
『もうこれ以上は……様子を見るしかありません。しかし、もう産める大きさで長く妊娠していると、母体にも影響が……』
太宰は、その言葉をずっと気にしてるようだった。でも、決して口には出さなかった。太宰も俺も、自分たちの子供を信じて待ち続けると決めていた。
何より安心する温度に包まれて微睡んでいた夕方。突然、見知った着信音が部屋に鳴り響いた。一気に目が覚める。思わず、同じように目を覚ました太宰と目を見合わせた。
着信を告げたのは、仕事用の携帯電話。
表示された名前は、『首領』だった。
……否、でも、なんか、なんで。
どうしようもなく不安になって、自分の腹を……我が子を抱き締めた俺の背中を、太宰が安心させるようにそっと擦った。
鳴り響いていた着信音が俺の耳元でぷつりと途切れると、聞こえてきたのは、半年前に聞いたっきりの物腰穏やかな、しかし背筋の凍るような冷徹な声だった。
『やあ。突然すまないね。元気かい、中也君?』
ごくりと喉を鳴らした音が聞こえていないか、不安で仕方なかった。肩を抱く温度に支えられて、口を開いた。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.193 )
- 日時: 2020/04/20 06:53
- 名前: 枕木
「手前は此処までだ」
後ろの靴音がぴたりと止まる。首だけで振り向けば、僅かに顔を歪めた夫が、車の前で、外套のポケットに手を入れ直立不動で立っていた。
随分行儀が良くなったもんだな。まあ、助かるが。
太宰は、揺らぎのない瞳で俺をみつめた。予想はしていたんだろうな。俺が首領には一人で会うって。もう表情はいつも通りに戻っていて、ただ、肩を軽くすくめながら「そう、気を付けてね」と軽い口調で云った。
俺はそれを黙って受け取って、彼奴から離れていく。入り口に向かって真っ直ぐ歩くと、警備の男たちが俺に気付き、慌てたように駆け付けてきた。躰を舐めるように見られて驚いた顔をされるのはもう慣れた。いくつも投げられる労いの言葉を受け流しながら、ポートマフィア幹部として、久しぶりに基地へ足を踏み入れた。
数々の視線や声を全部無視して、ただ、上を目指す。考えることは山ほどあって、他に構う暇なんてねぇ。
ぎりっと奥歯を噛み締めた。先刻の太宰の歪んだ表情が脳裏に甦る。
……嗚呼、判ってる。ったく、手前と何年居ると思ってんだ。そのくらい、気を付けてねの一言で判る。俺だって、そのくらいは予想ついてんだよ。
帽子を被り直し、外套を少し払った。
……判ってんだよ、そのくらい。
ノックを三回。「どうぞ」と穏やかな声がして、静かにドアノブに手をかけた。片方の手で、我が子を守る。これはもう、癖になっていた。
扉が開く。
「やあ、久しぶりだね。元気にしていたかな、中也君」
待ち受けるのは、未来を変える分岐点。
……問題は、どれだけ時間があるかってことだろ? 太宰。
* * *
上等な机に両肘をつき、手を組んで微笑む彼を一瞬で確認すると、さっと帽子を取った。そして片膝をつこうとすれば、「ああ、結構だよ」と声がかかった。正直助かった。今この体勢は大分きつい。
「では、お言葉に甘えて」
「楽にしてくれていいからね。休みをあげると云って呼び出したのは私なのだから」
帽子を胸につけ、直立不動で彼を真っ直ぐみつめる。闇に溶けるような黒髪と洋服、年相応の皺が刻まれた中年の男。真意の読めない笑み。
俺はこのお方に、この血潮を、この肉体を、全て捧げた。この組織を、このお方を守ると誓った。偽りは無い。俺はこのお方の奴隷だ。それは一生変わることは無いだろう。
けれど、俺にはもう一つ、守るものが出来たんだ。
守らなければいけない。
彼奴と二人で、守ってみせる。
首領を真っ直ぐ見つめて、すっと床へ視線を落とし、出来得る限りで頭を下げた。
「首領の配慮には感謝しています。俺の影響で組織が被った損失は、必ず俺が」
「それなんだけれどね、話というのは」
床をみつめたまま、そっと息を飲み下した。
……矢っ張り、その話か。
変わらない穏やかな声だが、責められている。一歩間違えればこの場で殺されるほどの危うさがある。話の結末はもう見えた。覚悟はしている。首領が無償でこんなに長い休暇をくださるとは思っていない。それでも、犠牲になるのは俺一人じゃないとならねぇ。
「頭を上げてくれるかな、中也君」
「はい」
すっと背筋を伸ばせば、果てのない闇が広がる瞳とぶつかった。
……もう、後戻りは出来ねえな。否、そんなの、疾っくに判ってる。
産むと決めてから、覚悟はしている。
だから、ただ真っ直ぐに首領をみつめた。
首領は暫く俺の真意を探るようにみつめていたが、ふいに、ふっと失笑を溢し、組んだ手に顎を乗せ目を瞑った。
「母は強し、というのは本当なのかもしれないねえ」
「いえ、お言葉ですが首領。俺は今、ポートマフィア幹部としてここに立っています」
すっと瞼が開き、薄笑いが浮かんだ。
「ほう。……そうだねえ、君はとても優秀な構成員だ。マフィアきっての対術遣い。強力な異能力も持ち合わせる、圧倒的に強い存在だ。組織の為によくやってくれているよ」
「有り難う御座います」
頭を下げ礼を云うのも、唯の時間稼ぎに過ぎない。話の持って行き方は予想通りだった。つまり、行き着く先は……
「だからこそ」
深い闇が、首領の背後に広がる。俺は闇の中で生きる人間だ。そう決めたのは俺だ。決めたのは、俺だった。十五のときに、そう決めた。それでいい。俺は、生まれた瞬間からこの闇に一人で居たんだ。
でも……でもな、俺は……
そっと腹を撫でる。首領の口角が上がり、開かれる。
そしてとうとう、待っていた言葉が発せられた。
「君が生んだ損失は、余りに大きい。……君一人では、到底埋められないだろう」
続く言葉は、判っていた。表情は変えない。ただ真っ直ぐに、みつめ続ける。
「私は、君が恩を仇で返すような人間だとは思っていない。厚意は利子を伴って返ってくるべきだ。そうだろう?」
「はい」
きっぱりと肯定すれば、首領が、おや、と面白がるように声を上げた。
「成る程ねえ。流石、太宰君の相棒だ」
此処で、太宰の名が出されるってことは。否、悪意を感じる云い方だがそういう話じゃない。これは俺と太宰の話じゃねえんだ。
「否、太宰君の奥さん、と云った方が良いかな」
からかうような口調は受け流す。首領は気にせず、にこりと微笑んだ。
「太宰君のことも、私は高く評価していたよ。否、今でも必要とする優秀な人材だ。君と太宰君は、長けた部分は違えど互いにひけを取らない、最高のコンビだった。……そしてその二人が夫婦となり、血を分けて育んだのが、今君のお腹に宿る命だ」
何よりも恐れたこと。
太宰の歪んだ顔が脳裏を横切った。
これは、太宰と俺の話じゃねえんだ。
首領が親しみさえ感じる笑顔で、口を開いた。
そう、これは。
「私はね、期待しているんだよ。何せ、中也君と太宰君の遺伝子をもっているのだからね」
これは、未来の話。
「元最少年幹部と、現幹部の子供だ。それなら、と。私はね、期待しているんだよ」
俺と太宰が守ってゆく、まだ顔を見せない我が子の話。
「マフィアに尽くしてくれる、優秀な子になってくれるんじゃないかってね」
大丈夫。
絶対ェ守ってみせるからな。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.194 )
- 日時: 2020/04/20 11:34
- 名前: 枕木
電話を切り、少し時間が流れた。俺も太宰も何も云わなかった。俺は黙って立ち上がり、帽子を手に取った。
「……中也」
そこで、太宰が口を開いた。
「中也」
「ああ」
振り向かずに、首を動かさずに、頷いた。それだけで、俺たちは伝わる。抱き締められた温度で、伝わる。
躰に回された太宰の包帯を辿って、左手に触れた。薬指に、かたい感触。視界の隅で光を放ったそれに安堵して、少しだけ胸の中で目を閉じた。
太宰の意思と、俺のは同じだった。
当たり前といえば、当たり前だった。
表情も姿勢も一切変えずに、薄笑いの首領に口を開いた。
「それは、俺が生んだ損失をこの子で埋めるということですか?」
「そう受け取っても良い。君にはこれから、子を育てるための時間も必要だろう? それを二年あげたとしても、二年半だ。その間、ずっと五大幹部の一席は空いている。ましてや、あの中原中也の席だ。その莫大な空白を埋められる人材が、そう何人もいるとは思えない」
首領からの過大評価も、今は俺を追い詰めた。
受け取ってもいいと仰るが、そう受け取るしかないでしょう?
時間稼ぎの言葉を探していれば、首領が先手を打った。
「それに、君。難産なんだろう?」
思わず息が止まった。首領が口角を更に上げる。
……あの病院は、マフィアの傘下だ。首領に情報がいくのは当然だ。そんなのはいい。
それよりも、首領の笑みを見て一つの可能性に思い当たって、血の気が引いた。否、真逆……
「マフィアが抱える医療部隊[チーム]は、少なくともヨコハマでは最先端の技術をもっている。設備も整っている。残念乍産婦人科という訳ではないけれど、彼らに任せれば安心だろう」
否、真逆。
けれど、俺たちも思わなかった訳じゃねえ。俺と太宰の子だ。出来損ないと云われる子でも善かったが、恐らくそんなことは無いだろう、と。
「それに君、忘れた訳じゃないだろう。君の存在は、荒神を封印する器だ。出産時に何が起こるかも判らない。もしかしたらそれは、赤子の方かもしれない」
もしかしたら、世界を壊す力をもつ子が産まれるんじゃ、と。俺の存在が、正にそれだからだ。
出産には太宰が立ち会うことになっていたが、それも怪しいのかも知れなかった。
首領がここまで期待するのも、俺らと変わらないということだ。首領が、組織の利益になると感じたのなら。
首領は、あらゆる手を遣ってこの子を組織の人間にするだろう。
マフィアの首領が、傘下の病院に、一人の患者への処置を怠れと云うなんて、林檎にナイフを刺すより簡単なことだ。
首領は依然として微笑んだままだった。一方で俺は、頭の中まで真っ白になって、立っているのもやっとだった。
もうマフィアの手が伸びているのなら、逃げ道はないのか。この子を守る手は残っていないのか。
立ちすくむ俺に更に追い打ちをかけるように、幾分か軽くなった口調で首領は云った。
「将来有望な人材の育成という名目なら、五年間、君に子供を育てる時間をあげよう。子供は母親を求めるものだろう? 五才になったら、一緒に出勤してくれば善い。構成員が責任をもって君の子の面倒を見てくれるだろう。その方が、君も安心できるよねえ」
くらりと目眩がして、堪らず顔を伏せた。
……首領は、俺たちの子を完全にマフィアの犬に育て上げる気だ。マフィアに育てられ、マフィアに恩を感じ、マフィアに尽くす、従順な犬。
もう、崖っぷちまで追い込まれた。
「……俺は」
俺はまだ、何も云えていない。予想が甘かった。相手はマフィアの首領だ。本気で手に入れようとするのなら、俺一人で太刀打ちなど。
俺の子、というより、太宰の子だからか。太宰の代わり、否、それ以上の存在になるのかもしれない、この子が。太宰が手に入らないのなら、この子を。そういう事なんだろう。
……太宰と一緒じゃなくて、本当に善かった。
すう、と息を吸い込む。
御免な、未来を奪っちまって。
「俺は、自分が生んだ損失くらい、自分で埋められます」
「ほう」
首領の目が細められる。
御免な。俺と太宰と、三人で暮らす未来を奪っちまって。
「二年半も、かい?」
「いえ。半年」
御免な。
「半年分、頂く筈だった五年間で埋めます」
首領が満足げに笑みを浮かべた。
遣える“であろう”子供を期待して更に五年を潰すより、遣えると判っている俺を五年ほぼ無償でこき遣う方が、利益が上がる。そういう考えもあるだろう。首領の選択肢にもあった筈だ。
「それで善いのかい? 君は。……太宰君も」
紡ぐ筈だった「はい」が喉につっかえた。太宰の、我が子を映像でみつめていたときの、幸せそうな笑顔が脳裏に甦る。太宰が笑う未来とは、程遠いものになるかもしれない。
それでも善かった。
この子には、光の下で生きて欲しいからなァ。
「だざ」バァーン!!
俺の言葉を遮って、勢いよく扉が開いた。驚いて振り返った俺は、思わず目を見開いた。
どうして。手前は此処までだって、云っただろ。あのとき、決意は固めただろ。なんでだよ。
扉を開け放った男がずかずかと部屋へ入ってきて、俺の隣に並んだ。その目は俺を一切映さず、ただ真っ直ぐ、首領を捉えていた。
「私は納得していません。中也の一人よがりです」
「おや、突然の訪問に随分なご挨拶だねえ」
にこりと笑う顔が、みつめあう。思わず喉が鳴った。
「ねえ、太宰君」
「はい、森さん」
太宰、なんで来たんだよ。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.195 )
- 日時: 2020/04/20 15:00
- 名前: 枕木
穏やかな表情で見つめ合う太宰と首領の間に、静かに火花が散った。もう俺は、それを見守るしかねぇ。
先に口を開いたのは、太宰だった。
「単刀直入に云いましょう。私は、マフィアに入れても善いと思っています」
声を出しそうになって、必死で飲み込んだ。
おいおい、そんなの聞いてねぇよ。
その言葉には、流石の首領も驚いたようだった。
「ほう、意外だねえ」
「中也の考えは私と合致している訳ではない。あくまで中也の意見です。ですから、私の意見としては」
太宰の手が伸びてきて、声を出す間もなく肩を引き寄せられた。なんだよ、いきなり……
顔をあげて、はっとする。
いつになく真剣な顔で、太宰は前を見据えていた。
ああ、そうだった。
こいつは一度、俺から離れていった男だ。自分の意志でマフィアを抜けた、元最少年幹部。
こいつは、行くべき先を示した友が在れども、その道を自分で切り開いた。そう、俺が生きる深い闇の底から、光の下へと。
そんな男が父親なら。……それなら、この子の未来は。
我が子をそっと抱き締めた。
「己の道は、己で決めるべきだ」
静かに、太宰はそう云った。
光の下で生きて欲しいという俺の……母親の願いを断ち切って、太宰は……父親は、ただ先を見据えていた。
太宰が俺に回していた手を下ろし、歩を進めた。そして、俺の前に立ち、外套のポケットに両手を入れた。
「十五歳」
太宰は、云い放った。
ただ、その背中をみつめた。
「十五歳になったら、決断させます。己の道を。ポートマフィアに入ると決めたのなら、中也が生んだ損失の倍の利益を生むマフィアに、私と中也が育てます」
「ほう。では、それ以外の道を選んだ場合はどうする気かな?」
「その時は……」
なあ、お前の父親の背中、ひょろくて大分頼りねぇな。
だけど、その分、何もかも見通すような気味悪い眼で、お前のことをきちんと見てるみてぇだから。
「中也と私で、利益を出します。社長にはもう話はつきました」
ポケットから携帯電話を出し、その手をひらりと振った。薬指で輝きがあった。首領は満足げに目を閉じた。
そしてその目を開けたとき、我が子の未来は守られた。
「善いだろう。中也君、育児休暇は?」
「三年、お願いします」
「うん、そうだね。子供が十五歳になるまでは色々融通を効かせたいだろうしねえ」
「はい。有り難う御座います」
太宰の隣に進み出て頭を下げる。下げながら、腹をそっと撫でた。
父親の分も、俺が躰張って守ってやるから。
だから、安心して生まれて来いよ。
話は終わった。もう云うこともねぇ。
「では、これで……」
「あと一つ、森さんに云いたいことが」
驚いて、隣の男の横顔をみつめた。
太宰は、口元に笑みさえ浮かべ首領を見ていた。
他に云うことって、手前、何を……?
「何かな」
「貴方が、何か云ったのでしょう? だから、困ったことになっていましてね」
「何の話だい?」
とぼける態度は、明らかに太宰を面白がっていた。
俺だってそのくらいは判る。積り、通っている病院の話だろ? 俺が今、まだ子供を産めていないのは、何か治療が行き届いていないから。この子をマフィアに入れる為に脅す材料にするから。でもそれなら、話は着いたんだからもう言及する必要も無い筈だ。困ることって、それじゃあ、他に?
「医院長と上の人たちが細工をして、医師には全く伝えられていないのでしょうね。だから私も気付きませんでしたよ」
「ふふ、そうかい」
首領は意味ありげに笑うだけだ。一方で太宰の笑みは少しも笑っていない。否、全く判らない。一体、何が……
戸惑って太宰の横顔をみつめ口を開いた瞬間。
太宰が、云い放った。
「あのエコー写真も診断書も、全て偽物ですね」
…………は?
偽物?
順調に大きくなっていることがわかるエコー写真。元気に育っていますよ、と渡された診断書。男だと書かれていて喜んだ。
じゃあ、あれも全部嘘か?
困ったことって、何だよ。
おい、ふざけんなよ。
「……首領、それは事実ですか」
やっと出た言葉は案外平然としていて、ただ空虚で、何も考えちゃいなかった。
ふいに浮かんだ意味ありげな笑顔が、俺を絶望へと突き落とした。
「さて、どうかな。私では無いかもしれないよ」
嫌な予感は、これだったのかもしれない。首領に我が子の未来を定められる恐怖よりも、その全てが偽りだったという絶望。
いる筈の我が子を抱き締めた。とんとん、と蹴り返す微かな痛みが、唯一の救いだった。
……例え嘘だったとしても、ここに在る。
滅茶苦茶に蹴られる感覚で、やっと立っていられた。少し落ち着いて、太宰の声が耳に入ってきた。
「……ら、本当に困るんですよ」
「そうかい? そんなに困ることかな」
「はい。なんて云ったって……」
続いた言葉に、耳を疑った。
「ベビー服を、全てお揃いで二着ずつ揃えなくてはいけない。もう買ってあるんですよ、どうしてくれるんですか」
…………は?
「は?」
先刻から立て続けで目が回って、処理が追い付かなかった。
どういうことだ、それ。
太宰が、ふっと気が付いたように、嗚呼、と俺を見た。そして、顔をしかめて、親指で首領を指した。
「信じられる? あの人、中也に子供をマフィアに入れるって約束させて、二人ともゲットする積りだったんだよ。一人渡す、じゃなくて、子供を渡す、と云っただろうって云ってさ」
「……は? 二人って……」
太宰は呆れたように肩をすくめた。
「ね、そうなるでしょ? 私も吃驚したよ。そんなことの為に……
中也のお腹にいるのは一卵双生児だってこと、隠させてたんだよ」
時が止まったように感じた。
何度もその言葉を繰り返した。
一卵双生児。……双子。
この子は……双子。
大きく膨らんだ腹を撫でた。
二人いるのか、此処に。
それなら、悪いことしたなァ。
お前じゃなくて、お前らって呼ぶべきだった。
「ほら、これ。本当のエコー写真、医院長がくれたから」
「太宰君、日本語は正しく遣おうね。くれた、じゃないでしょう。脅したよねえ、君」
首領を嫌そうな顔で無視して、今度は右ポケットから一枚の写真を取り出して、手渡してきた。
その写真に、釘付けになった。
我が子の影が写っている。手足を丸めた人間の形をしている、その子は、その子たちは、確かに二人、俺の腹の中に居た。
「……二人」
「うん」
顔を上げれば、夫の優しい笑顔があった。堪らなくなって、額をその胸につける。
「っ……」
「うん、ねえ、中也」
躰に回された手が、そっと子供たちを撫でた。
「嬉しいね」
「っ……莫迦、二人も育てるの、どれだけ……っ」
「はは、そうだねえ。でも、大丈夫。二人で頑張ろう。大丈夫だよ、二人とも、元気に産まれてきてくれるから。だってさ、何て云ったって、」
左手が重なった。頭上から優しい声が降ってきた。
「私たちの子供たちだもの」
ああ、本当に。
本当に、俺は。
俺は、待ってるからな。
二人揃って、元気に泣いて産まれてこいよ。
「ああ……そうだな」
顔をあげて笑い合った。はっと気が付いて向きを変えれば、首領が呆れたように笑った。っ〜〜……やっちまった……
「お見苦しいところを……」
「まあ、今回は善いよ。確かに傘下の病院が君の診察にあたって細工をしたのは事実だからねえ」
「だから、貴方がやったんでしょう」
「さてさて、それは。ふふ。もう下がりなさい。産まれたら顔を出すよ」
「結構ですけど」
「もう、そんな顔をしないでおくれよ、太宰君〜」
露骨だなァ、太宰も。
と笑っていて。
ふいに、突然、それはきた。
「っ……!?」
ずくん、と躰の内側が大きく脈打つような感覚。目眩がして床に膝をつけば、躰の奥から激痛が走り、声をあげた。
「中也!」
叫ぶ太宰の声。駆け寄ってくる首領の靴音。また、ずくん、と激痛が走った。脂汗が浮かび、躰が冷たくなる。また、ずくん。
嗚呼……そうか。
お前ら、もう、俺の腹の中は厭きたよな。
もう、外に出て暴れてぇよな。
「森さん、医療部隊[チーム]は直ぐに呼べるの」
「問題無いよ。おや、外が……」
「太宰! 遅かったかい!?」
「いえ。今始まったところです。敦君、そのストレッチャーを……嗚呼、芥川君も来たの。じゃあ二人で持って」
「何故こやつと……否、致し方ない」
「そうだよ、お前の大事な先輩だろ! ほら、中也さん、大丈夫ですか……」
「太宰、お湯を持って来られるかい……」
一定時間をおいて何度も来る激痛に霞む意識。その遠くで、沢山の声と足音がした。
お前らのことは、俺が守るからな。
そう誓った俺を、何か沢山のものが守っていた。
今にも飛びそうな意識を何とか保っていられたのは、ふいに浮かんだ名前を、呼び続けていたからだった。
なあ、これがお前らの名前だ。
早く、呼ばせろよ。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.198 )
- 日時: 2020/04/20 18:05
- 名前: 枕木
命を育むことのできる器をもっているとはいえ、躰は普通の男だ。生まれて初めての陣痛に耐えられる女の躰は持ち合わせていなかった。
運ばれながら、ただただ激痛に襲われる。繰り返し繰り返し訪れる波の狭間で、幾度も意識が溺れかけた。けれどその度に、頬を叩かれて連れ戻された。
ぼんやりと目を開ければ、それは、
「しっかりするんじゃ、中也! 私はそんなひ弱な男に育てておらぬ!!」
と叱咤しつつも目に涙を浮かべる姐さんだったり、
「頑張んな! 今、アンタの子も一生懸命産まれようとしてンだよ!」
と鬼の形相をする探偵社の女医だったりした。
女は、強ぇな。
否、俺も姐さんに育てて貰ったんだ。強いに決まってる。そして、お前らも俺の子だ。そうだよな、お前らも生きようとしてんだ。俺も。
「中也さん、着きましたよ!」
「おい人虎、揺らすな。中也さんの躰に障るだろう」
消えかける意識を必死で保ちながら目を開ければ、眩い光と、マスクに手袋をつけた女や男が見えた。躰が持ち上げられ、大きな椅子に乗せられる。背もたれがぐっと倒され、天井を見上げた。バタン、と扉の閉まる音がして、突然、周りで聞こえていた声援や足音がなくなり、静寂に包まれた。「失礼しますね」と声がして、下着ごと脱がされる。足を開かされ、けれど寒さも感じられぬほど、痛みは強くなっていた。
「頑張って。もう大分開いていますからね。あともう少しですよ」
痛い、痛い、痛い、痛い。
うめいて、声をあげて、手に触れた肘掛けを必死で掴んだ。手袋の感触が無いと気付けるほど、理性は残っていなかった。息をするのもやっとで、「呼吸して。はい、すぅー……はぁー……」と声をかけられ、必死で呼吸をした。
「ぐっ……あああ……っ!!」
突然一際大きい波がきて、頭痛と共に激痛が走る。
その瞬間、必死に堪えていた一線がぶつりと切れた。掴んでいた右の肘掛けがバキッと嫌な音をさせて、俺の手の中で粉々になった。
「ああ……ぐああ……ああああああ……!!」
「抑えて! っ、堪えて! 頑張って!」
がく、がく、と躰が震える。けれど激痛は収まらなくて、怒りのような感情が燃え上がる。
「開いた! もう、出てきますよ! 頑張って!!」
叫ぶように言う医師の声が、遠ざかる。肘掛けが、左手の中でミシリと軋む。
痛ぇ……終わらせてぇよ。
でも、お前らが俺の元に来ようとしてんだ。
でも、もう。
否、もっと。
今にも押し勝とうとする衝動が、肘掛けを更に軋ませる。
ああ……もう。
嫌な音がして、掴むものの無くなった俺の左手が……
掴まれた。
「中也!!」
見知った声だ。
すうっと燃え上がっていた衝動が落ち着いてゆく。静かな意識で目を開ければ、俺の左手を両手で包み込んだ夫が、泣き出すんじゃねぇかと心配になる顔で、俺を見下ろしていた。
ひゅう、と息を吸い込んで、掠れた声で呼んだ。
「だざい……」
太宰は頷いて、ぎゅっと俺の左手を握り直した。
「中也。もうすぐ会えるよ。頑張ろう」
小さく、首を動かす。太宰は笑みを浮かべた。
ぐいっと更に足を開かされる。足の間に顔を埋めた男の医師が、「見えた!」と叫んだ。
生まれようとする意志が、圧迫感と痛みを伴って、迫ってくるのを感じた。
「頭が出ますよ! いきんで!」
「ひっ、ふっ、ふっ、」
「そう、その調子! 頑張って、もう少し!」
「中也……」
痛みを堪えきれなくて、太宰の手を握り締めた。
嗚呼、いってぇなぁ、コラ。
何時か、この痛みをお前らに伝える日が来るんだろうなァ。
「いきんで! もう少し!」
「ひっ、ひっ……ふぅ、ふ、ああ、あああ! ぐぁあああぁぁぁ……!」
「出た! 頭! もう一踏ん張り!」
ぐっと下半身に力を込める。
「中也……」
「ぎっ……ぐ、あ、う、うぅ、ぐ、う、ひっ」
手を、思いきり握り締めた。
「いきんで!!」
「中也!」
「ぎっ……ああああぁあぁぁ……!!」
お前らが必死に、生まれて来ようとしている。医師らも額に汗を浮かべて、お前らを助けようとしている。此処まで、沢山の声や手が支えてくれた。
そして、太宰がお前らの未来を躰張って守った。俺が一年間、腹の中で育ててきた。何時もお前らと会える日を、太宰と、全員で過ごす日々を祈って、命をかけて守ってきた。
なあ、絶対ェ守るから。
お前らの未来も、全部。
だから、来い。俺と、治の元に。
「中也、最後だよ。息吸って……いきんで!」
元気に、生まれてこい。
「う、ぐ、あああぁぁぁぁあああぁぁぁ!! 〜〜〜っ、〜〜っ!!」
ずっと腹の中にあった温かさが……消える。代わりに聞こえたのは、手際よく俺との繋がりを切る音が四回。そして、ばしゃばしゃとお湯がかけられる音。
もう親しみさえ感じていた痛みが消え、静寂が訪れる。
その静寂を打ち破ったのは、
「うぅ……」
小さな、うめき声。
そして、間髪入れずに、響く。
「おぎゃぁぁぁあああ!! おぎゃあああぁぁぁ!!!」
「ひっ、うっ……おぎゃぁああ!おぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」
それは、二人分の産声だった。
二人が、初めて声をあげた瞬間だった。
「中也……!!」
「お目出度うございます!」
ぼやけていた視界が、頬を熱い雫が伝うと共に、泣きそうに笑う太宰の顔で一杯になった。
「元気な双子の男の子ですよ!」
太宰がそっと身を引いた。もう力の残っていない手を、太宰の手が引く。すると喧しい泣き声が近づいてきて……
目の前に、真っ赤な顔を皺くちゃにして、歯のない口を大きく開けて泣き喚く、赤ん坊が二人、やって来た。
「抱いてあげて。君の子供たちだよ」
太宰が、引いた手をそっと離した。
俺は、微かに震える手を、伸ばした。
両手で二人の頬に触れれば、「えっぐ……」としゃくりあげて、泣き声が止んだ。
柔らかい頬は、林檎のように熟れていて。
その温かさに触れてしまえば、声が掠れているのを、自覚していても。
名前を、呼んだ。
すると、二人はそれに返事をするように、ぱちっと目を開けた。
息を飲むような、澄みきった、
青色と鳶色が、俺をみつめるように開いていた。
涙を呑み込むのに必死な俺の胸に、二人はそっとやってきた。
まだ世界に慣れていない四つの瞳は俺の顔を見上げるように見えて、涙は意地でも呑み込んだ。
もう一度、二人の名前を呟いた。
二人は、それに応えるように、今度は顔を皺くちゃにして、泣き出した。
俺たちにも泣かせろよ、と笑うのは俺と太宰の声で、本当に喧しく、二人の泣き声が響いた。
けれど、その声と胸の中の熱さは、ずっと待っていた、何よりも愛しく大切なもの。
ぎゅうっと抱き締めれば、苦しいと抗議するように、全力で暴れた。太宰が笑い、扉の外で歓声があがった。
頬を伝うそれは、言葉じゃ云い表せねぇ。けれどそれは紛れもなく、お前らに溢れ堕ちた、
母親の涙だった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.199 )
- 日時: 2020/04/20 18:07
- 名前: 枕木
ありがとな。
生まれてきてくれて。元気で生まれてきてくれて。
ありがとう。
私たちを、親にしてくれて。家族にしてくれて。
一生忘れられねぇよ。
忘れる訳がないでしょ。
それは、一生消えない汚れも浄化され、人間を辞めた人間さえ許されるような、
そんな、輝きに満ちた春の日だった。
治輝、春也。
それが、お前らが生まれた日。
俺たちが、私たちが、
家族になった日だ。
二〇二〇年四月二十日十八時七分
太中家族計画、成功
期間、三百六十五日
応援ありがとうございました。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.200 )
- 日時: 2020/04/20 18:28
- 名前: 枕木
云うことは、ありがとうございます、しか有りません。
この一年間で、沢山の方に関わってもらいました。初めて感想をもらい、必要としてくれて、どんなに嬉しかったか。勇気を出して得られた感動が、どれだけのものだったか。沢山、沢山、学ぶことができました。閲覧数もコメント数も、こんなに増えて。全て0だった一年前が、本当に懐かしい。今ではもう、このサイト無しでは無理です。正直、嫌になって投げ出したことも一度や二度ではありません。書きかけの作品も、一体いくつあることやら(´∀`;)でも絶対戻ってきます。やっぱり大好きなんです。この場所が、小説が、太中が!(笑)
沢山沢山、作りました。小説も、思い出も、関係も。本当にありがとうございました。これからも沢山作っていきます。
これからも、枕木をよろしくお願いします。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.201 )
- 日時: 2020/04/29 08:06
- 名前: 枕木
何処までも何処までも落ちてゆくような。堕ちてゆくような。ただ、心地好い虚無。何も無い、底無しの絶望。それが一番心地好くて、死することとは、生きていないとは、そういうことなんだろうと。
何かが手の中にあれば、掴んでいた感触を知ってしまえば、もう知らなかった頃には戻れない。その感触が決して好ましいものでなかったとしても、それが無くなって喜びを感じたとしても、知らないことには出来ないのだ。一度知ってしまえば、何も無い手のひらをみつめ、「無くなった」と思ってしまうのだ。得ることを知らなければ、無くなることも知らなかったのに。
何かを得ることとは、何かを失うこと。失うこととは、何かを得ること。
この世に生を受けた。命を得た。同時に失ったのは、安全で心地好い暗闇。
剥き出しの絶望は、周りを巻き込んで。隠しもしない絶望は、嗚呼、私はあまりにも幼く、無邪気だった。その絶望は、友達を呑み込んだ。得た楽しみは、友達を失った。失った友達は、あまりに素敵な日常を得た。得た日常は……
君を失った。
そして、この心臓と引き換えに、君を得た。
「ねえ、中也」
塞がっていない左手を、そっと掴んだ。窓は半分ほど開いていて、澄んだ朝の風が白いレースのカーテンを揺らしていた。部屋が純白の光で満たされていて、その中で眠る綺麗な三人は、天使の如く。まだ動き出すには少し早い、燃え出すには早い、静かな時間。私は、あまりに美しく愛しい寝顔をみつめて、静かに、静かに、燃える炎で胸を焦がしていた。
静かに、優しく、泣きたいほど、恋をしている。
「……ねえ、中也」
握り締めた左手は、細いけれど固くて、何度も何度も私の躰に傷をつけた、男の手。
その薬指には、私と同じ、輝く誓い。
その手を額につけて、目を閉じて、呼吸をした。
ずっとずっと、こうやって私は、君に生かされてきたのだよ。
君が殺してくれるのを、ずっと待っている。
君にはとっくに殺されているのに、君の隣で呼吸をして、早く早く、と待っている。
ねえ、中也。君は「なんだそれ」って変な顔をするのかな。それとも、笑うのかな。君はきっと、こう言って、
「今更かよ」
って。
目を開けてみると、青い瞳が私を貫いた。にっ、と笑った顔は予想通りで、笑い声が漏れた。
「あっ、おい、こら。こいつらが起きたらどうすんだよ」
「御免、御免」
小声で云って、まったく……と顔をしかめる中也の頬にキスをした。中也はただ微笑み、繋いだ私の手を導いた。導いた先には、温かい命があった。
真っ赤な顔をして泣いて、泣くのはいつだって青色の瞳の春也が先で、それを感じて悲しくなったような治輝の鳶色の瞳もうるみだすのだ。青い瞳がじんわりとうるんでいくのを見るのは、まるで。
「春也は、君に似るのかもね」
「治輝は、手前に似るかもな」
同時に云って、同時に目を合わせて、同時に笑った。小さく小さく、笑った。
そして、中也は母親の笑みで、胸の中で並んで眠る我が子たちを抱き締めた。目を閉じて、呼吸をして。そして目を開けて、無言で私を呼んだ。私はベッドに乗り上がり、中也と向かい合い子供たちを挟む形で寝転がり、中也の頬を撫でた。中也はゆっくり目を閉じて、私の手に手を重ねた。胸がぎゅっと締め付けられた。
「……なおき、はるや」
中也が必死に守る我が子の、その名前を初めて呼んだとき、この子たちは生まれてきた。私の中に、私の家族として。それは温かく、じんわりと溶けてゆく、やさしいものだった。
「ふふっ、何だかくすぐったいかなあ」
呼ぶだけで、溶けてゆく。私の中に、溶けてゆく。もう忘れることなど出来ない。得るものが大きすぎて、失うことに恐怖を感じるなど。抱いた瞬間、もう、私は。
きっと、君に出会ったときから、動き出していたのだろう。完全になろうとしていた私の暗闇は滅茶苦茶にされて、心地好い温度は熱くなって、とてもいられたもんじゃない。きっと、もう私はどうしようもないんだ。
ねえ、中也。
君がこの世に生を受けた瞬間、私は心臓を失い君を得る為の空白を作っていたのだね。
最初から手遅れだったのだよ。
それならもう、仕方ない。
失うものかと、強く、抱き締めるだけだ。君は、慌てたように頬を染めるけれど。大人しく胸の中で守られていてはくれないけれど。
「ちょ、おい潰れるだろ、子供たちが……」
「ねえ中也」
たまらなくなって名前を呼べば、中也は静かになって。名前を呼ぶだけで、この愛しさが伝わる? この幸福が伝わる?
ねえ中也。どうしてだろう。
いつの間に、私の世界は光に満ちたの。
「君の所為だ」
胸に額をつけた中也が、少し揺れて、笑った。
「悪かったな」
風が吹き抜ける。
春風が君を連れてきたのだね。
私の元へ、まっすぐに。
いつの間にか、私の心臓を奪っていった、美しく輝く、あたたかい春の、風が。
「君が、生まれてきた所為だ」
中也が息を飲むのが判った。
本当はかき抱いて滅茶苦茶に愛したかったけれど、治輝と春也が目覚めてしまうから。
だから、輝く目と目を合わせて、キスをした。
額をこつん、と合わせて、みつめあって。そして私は、君に伝えよう。
私を、心臓を、友を、闇を、失い。
君を、愛を、家族を、光を、得て。
繋いだ手は、抱き締めた腕は、離さないから。だからどうか、末永く。
ねえ、君の所為だよ。
君が、生まれてきた所為だ。
だから憎しみと恨みを込めて、云うのだ。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
心臓を神様に。
愛をあなたに。
「どういたしまして」
君が笑えば、私の世界は光で満ちた。
……眠りから覚めた息子の泣き声その静寂を打ち破るのは、もう少しあとにして。
ほんの少しだけ、夫婦水いらずで。
愛してるんだ、中也。
「誕生日おめでとう、中也」
もう一度キスをすれば、静寂の代わりに日常が始まった。
おはよう、治輝、春也。中也。
ねえ、愛してるよ。
えんど
四月二十九日
中原中也様、生誕百十三年
おめでとうございます。
そして、ありがとうございます。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.202 )
- 日時: 2020/05/13 12:30
- 名前: 枕木
空っぽのグラスが、在った。
安定した土台があり、ひび割れどころか傷一つなく、その上人より大きいグラスだった。
けれどそのグラスは、長い間空っぽだった。一滴も満たされることはなく、ただ、清く透明なグラスは、そこに在った。
「ははは! こりゃいい!」
まだ青く荒々しい魂が八重歯を見せてにやりと笑う。
その瞬間、ぽたり、とグラスに一滴、青い滴が落ちた。
「判るさ。俺はお前の……友達、だからな」
濁った闇の中、ただ一筋の光が行くべき道を指し示す。
それを境に、ぽたり、ぽたり、とグラスが日々満たされてゆく。
「この唐変木が!」
「中々やるようになったじゃないか」
「怪我人は出たかい?」
「都会って凄いですね!」
「絶ッ対にもう無理ですからね」
「感激ですわ!」
「貴君を歓迎しよう」
そして。
「あ あんた川に流されてて……大丈夫?」
満たされたグラスは、他のグラスへと注ぐ。大切なものだけど、だからこそ、注ぐ。
そう。大切なものだから、こそ。
「いまさら……なんで……」
グラスに、塩辛い滴がぽたりと落ちる。
それは、グラスを満たしていた静かな水面を激しく揺らした。
「……好き、だ」
静かな水面は、その瞬間から、波打ち、蒸発し、散々だった。
しかし、その瞬間から、グラスには温かいものが絶え間なく注がれて、
いつの間にか、溢れていた。
「……ねえ、あのね」
規則正しく胸を上下に小さく動かし、僅かに寝息をたてて、彼は眠っていた。
だから起こさぬように、そっと、その朱色の髪を撫でた。その手つきはどこまでも優しく、愛しさが溢れていた。
「私はね、色んな人に満たされて、生きているんだ。お返しもきっと出来たと思う。……だけどね」
顔を近付ける。小さな躯には宝の持ち腐れだね、とからかっているその端正な顔が、見ただけで、愛しくて愛しくて、堪らず額にキスをした。
囁くように、言葉を紡ぐ。
「君にだけは、返せた自信がないな」
震えた語尾が、ぎゅっと胸を締め付けた。
与えられた温かいそれは、毎日毎日、絶え間なく注がれる。返したいのに、返すことが出来ないから、もどかしい。しかし、それでも幸せそうに笑って、欲しがる分だけ、注いでくれるから。
幸せで幸せで、グラスがいつか、壊れてしまいそうだ。
それでもいい。
君になら、壊されてもいいよ。
「ねえ、御免ね」
彼の手を取り、そっと自分の胸につけた。その手のひらの下では、力強く脈打つ熱いものがある。
グラスは熱くなりすぎて、注ぎたい分だけ注げない。けれど与えたい人は一人だけで、全てを与える覚悟さえあった。
「折角君に満たしてもらったのに、私は他の人に分けることが出来ないんだ。全部、君に与えることしか出来ない。……きっと君は、無駄なことしてんじゃねェって、怒るのだろうけど」
握りしめた手は、力強く。
「でも私、中也だけしかいないんだよ」
心臓を、壊されてもいい。
君になら。
温かいものを、
愛を、くれた君になら。
「愛してるよ、中也」
眠っているはずの口元が微笑み青色が覗く。そして、名前を呼んだ。
「太宰」
その瞬間、ぽたり、とグラスが温かいもので満たされた。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.203 )
- 日時: 2020/05/17 00:02
- 名前: 弑逆ノ藍
気付いたら家族計画完結……うひゃー、お疲れさまでした!!
好きです←
すいません失踪してて。
今全部読みました。相変わらず最高です。
家族計画は暖かさと辛さが文面から辛いほど伝わってきて思わずおめでとうって言っちゃいますし
他の話でも言葉回しが抽象的でとても感傷的な場面に引きずり込まれました!
あああぁぁ!!好きです!他の作品にかまけてる場合じゃなかった!!
出来ればリアルタイムでこの感想をお伝えしたかった!!
遅れて申し訳無いです
改めて家族へん完結おめでとうございますっ!!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.204 )
- 日時: 2020/05/17 08:00
- 名前: 枕木
>>203
わー、おかえりなさい!お待ちしていましたよー!!
お祝い、ありがとうございます♪
出産編は、多分私の生涯でも上位に君臨するのではないでしょうか…。沢山考えて考えて、練り上げたこのお話です。楽しんで頂けたのなら、もう幸せです私(^^)♪
中也さんの一人称がほぼ定着しちゃいましたね…(笑)けれど、キャラの心情がよく書けてる!とか仰って頂けること増えたので、年月と愛をかけりゃあ、だんだんとその人の心に寄り添っていくものなのね、と実感しています。
いいんですよ、いつでも!来てくれただけでもう嬉しいんですから♪
こっそり言うと、あなたが「とうとう出産編!楽しみです!」のようなコメントをくださったこと、ずっとモチベーションにして書きました。あなたもこの小説の一部なんです。
またいつでも来てくださいね。ありがとうございました!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.205 )
- 日時: 2020/05/19 21:21
- 名前: 枕木
恋人が、部屋から出てこない。
理由は単純。
仕事でやらかして、酷く落ち込んでいるからだ。
眺めていた携帯電話をポケットに仕舞い、何度目かの溜め息をついた。
幼少期のトラウマか、生まれたときからの呪いか、俺の恋人は自己肯定というものをあまりに知らなすぎる。自信満々で自由奔放(に見える)な上司を持っている筈なのになァ。あの振る舞いができる性格が彼に一割でもあったのなら、もっと楽な人生を歩めただろうに。……ついでに、その上司をもつことも無かっただろうな……
勿論、俺からしてみれば対立している組織、探偵社の事情なんてどうでも良い。社員がやらかして破産でもしてくれりゃあ、有難い。だが、昨晩死にそうな顔をして帰ってきたと思えば口もきかず自室に鍵をかけて閉じ籠り、あくる日の夜まで出てこない恋人のことは放っておく訳にはいかねェんだよ。
「おい、敦」
扉をノックする。返事は無い。判ってた。昨晩からここまで、敦は一言も話してない。最後に言葉を交わしたのは昨日の朝で、「敦、上の空だが何かあったか?」「え? あっ、いえ、何も……ごめんなさい、集中して食べます」という、作り笑いの彼との会話。
すう、と息を吸い込み、覚悟を決める。ドンドン、とやや乱暴に扉を叩いた。そして、低い声で云う。
「今すぐ開けろ。じゃなかったら扉蹴っ飛ばす」
本気だった。こんな薄い隔たりで俺を拒絶できると思うんじゃねェ。手前と暮らす俺の覚悟はそんなもんじゃねェよ。莫迦にすんのも大概にしろってんだ。
憤りさえ感じて数秒待てば、がちゃり、と躊躇いがちに鍵の開く音がした。続いて、扉が僅かに開く。そんなの待ってられるか。思いきり引っ張って、扉を全開に開いた。
部屋はカーテンも閉め切り完全な暗闇となっていて、突然光の元に放り出された少年は、泣き腫らした目を眩しそうに細めた。
「敦」
逃げ場のなくなった恋人は、低い声にびくっと肩を揺らし、うつむいた。
「……ひっでェ格好だな」
シャツは昨日から着替えていないから皺が寄りみすぼらしく、顔は涙で腫れ、目は充血し半分程しか開いていない。髪はぼさぼさで、元々斬新な髪型が大変なことになっている。おまけに叱られることを判っていて、死にそうな表情をしているから、俺くらいにしか見せられない格好だろう。
はあ、とまた溜め息をつく。
そんな表情見せられたら、叱る気も失せるよなァ。
「風呂入ってこい。着替えは出しといてやるから」
云うと、敦は吃驚した顔になり、腫れた瞼の下から俺をみつめた。チッ、と大きく舌打ちをして、敦の胸ぐらを引き寄せ、ほどけかけているネクタイを奪う。敦の唖然とした顔を睨み上げ、がっと口を開いた。
「ったく、ガキが一丁前に落ち込んでんじゃねェ。つか、手前が笑ってねェと此方が調子狂うんだよ。早くその間抜け面洗ってこい。飯が冷めるだろうが」
見開いた敦の琥珀色の瞳に、ぽわっと光が灯る。引き結んでいた口元が綻び、頬がほんのり赤くなって、弾んだ声で、
「はいっ!」
と返事をすれば、俺も釣られて笑ってしまった。
* * *
コトリ、と出来上がっていたものを入れたお椀を机に置いたそのタイミングで、ほかほかと湯気をあげながら敦がやってきた。目敏い奴。もういつもの腑抜けた顔に戻ってやがるし。矢っ張りガキだよなァ。
「有り難う御座います、中也さん」
「ん。早く食え。温かいうちに食っちまえよ」
「はーい……って、わあ!」
ふやけた顔で寄ってきてお椀を覗き込んだ敦が、目を輝かせて歓声を上げる。貧乏人かよ手前は。このくらいで喜びやがって。
「茶漬けくらいでそんな喜ぶか?」
「くらいじゃないですよ! お茶漬けが一番旨いです」
「そうかよ」
敦は嬉しそうに席につき、いただきます! と勢いよく手を合わせて、早速茶漬けをかきこんだ。あーあー、そんなに勢いよく食うと喉に詰まるだろ。落ち着いて食えよ。
「なんだ、腹減ってたのかよ」
「ふぉふぉふぁふぇふぁ」
「おいおい、飲み込んでから喋れ阿呆」
ごくん、と飲み込む音がして、どんぶり大のお椀はあっという間に空になった。「ご馳走さまでした!」と手を合わせ、敦は隣の俺に向き直る。
「いえ、先刻まで空腹とか何にも感じてなかったんですけど……中也さんの顔を見たら、急にお腹空きました」
「んだそれ。変な奴」
ふふふ、と笑い合い、また、目を合わせる。敦はゆっくり瞬きをし、眉尻を下げ、少しうつむいた。
「……子供に、大怪我させちゃったんです」
紡がれる言葉に、じっと耳を傾けた。
「凶悪犯が潜伏していた団地の子で、犯人が時間稼ぎに放火して……中に、取り残されていて」
敦の胸が大きく上下する。揺れる瞳は、手前への怒りか。
「僕なら、間に合ったはずなのに。……なのに、犯人捕まえるのに躍起になって……その間に、子供は……落ちてきた天井の下敷きになって。……太宰さんには、子供を救うことを最優先にって云われていたんだ。なのに僕は、目先の犯人しか目につかなくて……あの子の将来を、僕は……」
再び、彼の心が雲ってゆく。
昨日の朝から、彼はその依頼のことを案じていたのだろう。きっと毎回、不安と恐怖を抱えて現場へ向かうのだろう。
俺は、敦の上司じゃない。俺は、敦の親じゃない。だから、敦の仕事を支えてやることは出来ない。だから、敦に教えてやることは出来ない。
けれど、俺は、敦の。
「……っ……!?」
敦が吃驚して硬直する。
構わず俺は、ぎゅっと抱き締めた。
「えっ……ちゅう、いたたたたたたたたたた!!」
ギチギチと締め付けてやれば、敦は悲鳴を上げた。少しして解放してやれば、敦はぜえぜえと荒く息をして、目を白黒させている。頬は紅潮し、少年らしい、敦らしい表情が戻ってきていた。
満足して、ふう、と息を吐く。
そして、語りかけるように、静かに告げた。
「俺はな、手前を慰めたりしねェよ」
敦が目を上げた。
澄んだ瞳だった。
「それは、俺の仕事じゃねェからな」
そう。俺は、手前の上司でも親でもねェから。それは、俺の役目じゃねェんだ。
だから俺は、ポケットから携帯電話を取り出し、画面を掲げた。
「そういうのは、手前の上司にしてもらえ」
敦が目をぱちくりさせる。しかし、そのメッセージの送り主である『青鯖』の名前を見れば、飛び付く勢いで携帯電話を受け取って、目を凝らして画面を見た。
その光景を苦笑しながら眺めていれば、敦の弾んだ声が上がる。
「子供、目を覚ましたそうです!もう安心って……!」
「そうかよ」
けれど、彼奴が手前に伝えたかったのはそのあとだろう。読み進めた敦が突然笑みをおさめ、真剣な表情になる。
その瞳に光が宿っているのを確認して、俺はそっと敦のお椀を取り台所へ歩いた。
程なくして、子供のように泣きじゃくる声が聞こえた。俺はただ黙って、その声が収まるまで、何度も何度もお椀を洗った。
* * *
電気も消しうとうとしてきた頃、ポケットの中で携帯電話が震えた。来やがったな。相手は見ずとも判った。
細心の注意を払って、携帯電話を取り出す。画面を指で触り耳に当てれば、聞き慣れた声が『やあ』と飛び込んできた。
「いま何時だと思ってやがる」
『私に時間という概念はないね。私が起きている間は昼だよ』
「手前がそうでも、少なくとも俺にとっちゃ丑三つ時だ莫迦野郎、死ね」
『ん〜? そんなひそひそ声じゃ聞こえないなぁ〜?』
「マジ優しい上司だなー手前はー」
『有り難う!』
「聞こえてんじゃねェか死ね」
『ふっふっふ。まあ、優しい上司としては傷ついた部下のことが気になってね。……その声から察するに、大丈夫だったようだけれど』
「……まあな。つうか、態々俺を通さないで直接電話でもすりゃあ善かっただろ」
『ふふふ。それじゃあ、敦君のお腹は満たされないよ』
「……」
『私は唯の彼の上司だ。だけど君は違う。そうでしょ、中也』
「……はあ。もう切るぞ」
『はぁい。……まあ、結局のところ、傷付いたときはさ___』
胸の中で寝息をたてる子供の、あどけない寝顔に涙が溢れる。それを指先で拭って、そっと、微笑んだ。
突然、声が上がる。
「もう、おなかいっぱい……おちゃづけはみたくないです……」
吃驚して目を開いたが、直ぐにむにゃむにゃ……とまた寝息をたて始める。くはっ、と笑うと、携帯電話の向こうでもくつくつ笑う声が聞こえた。
『ガキだね』
「ガキだな」
温かな沈黙が流れ、俺は静かに通話を切った。目を瞑り、呟く。
「いい夢見ろよ、敦」
『傷付いたときはさ、恋人の手料理食べて、ぎゅうってされて寝ちゃうのが、一番だからね』
額に1つキスを落とせば、まだ成長途中の恋人は、夢を見ながらにへっと幸せそうに笑った。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.206 )
- 日時: 2020/05/24 12:19
- 名前: 枕木
嗚呼……終わった。
発情(ヒート)が来ちまった。
躯が熱くて、頭が靄でもかかったようにぼんやりする。まともな思考回路はほんの少ししか残っていなくて、その僅かな理性が、欲しいものを……狂おしいほど躯が求めるたった一人の名を呼ぼうとするのを、懸命に堪えていた。
熱い吐息が絶え間なくもれる口元を、震える右手で抑える。自分の声にさえ興奮するこの躯は、もう、制御出来るものじゃなかった。
「ふーっ、ふーっ……んんっ、んんぅっ!」
左手は熱く疼く腹を抑えていたが、それをそろそろと下へずらし足の間を撫でてみれば、脳天を快楽が突き抜け、びくっと躯が跳ねた。その弾みで右手が口元から離れる。そして感じた匂いに、目を見開いた。
……掛けられた外套から香る、匂い。あの頃当たり前のように染み付いていた火薬や薬品の匂いはあまりしなくて、しかし、これは、まさしく、彼奴の……
「ひぅっ」
小さく、叫んだ。
じくじくと熱く疼く。脈打つ。その熱は脳も溶かしていく。僅かには残っていた俺の最後のプライドさえ、ぐずぐずに溶かしていって。
俺は……下着の中に、手を入れていた。
「はっ、はぁ……」
背中を支えるのは土の感触で、何より屋外だ。敵が残っている可能性は無いが、こんなところで淫行に及ぶなんてどうかしている。けれど、そんな理性も無いくらい、熱くて熱くて、もうどうしようも無かった。
外套を握り締め、顔に寄せる。その匂いを深く吸い込めば、手の中で自身がとぷりと愛液を垂らした。その滑りを借りて自身を擦れば、びくびくっと躯が跳ねた。
きもちいい。彼奴の匂いに包まれて、まるで彼奴に抱かれながらしているような錯覚に陥る。きもちいい。
「はっ、あっ……んっ、あっ、そこ……ああっ!」
快楽が高まっていくのと同時に、声も高く大きくなる。けれど全く気にならなくて、この声も彼奴に聞いてほしい……なんて、淫らに願った。
どこを触っても気持ちよくて、先端に爪をたてれば、腰が浮いた。亀頭をてのひらで包み込み、ぐりっと撫でるようにする。愛液が擦れてぐちゅっと音がするのに興奮して、夢中で亀頭を擦った。
「あっ、はっ、ぁ、あ、あ……はっ、あっ、ああっ! あっ!」
ぐちゅぐちゅ……ぐぢゅっ、ぐぢゅっ
びくびくっと躯が跳ね、背中が反る。
あっ……イく。
「はっ、あっ、ああああっ!!」
一際大きな嬌声が上がり、脳天をおおきな快楽の波が襲った。びくんっと反った躯に白い液体が飛び散る。びくっ……びくっ……と定期的に痙攣する度に快楽が押し寄せ、涙が溢れた。
きもちよすぎて、おかしくなりそう。
こんな台詞、まさか俺が遣うなんてな。今まで経験したことのないこの快楽は、俺が懸命に隠してきた俺の本来の姿だ。
Ωに生まれた俺だけが得られる、快楽。
そう。これが、在るべき姿だ。運命の相手を見て、触れて、感じるだけで股が濡れて発情して、求めるままに快楽を貪る。そして最後は、その相手に……
「……中也」
振り返らずとも判った、その声に。
俺の躯は、従順に反応して。
奥がきゅうっと切なく疼いて、堪らず躯を抱き締め、丸まって目を瞑った。
「中也」
呼ばれても返事なんて出来なかった。けれど、そっと、髪に手が触れられる。じんわりと涙が溢れ、その外套を濡らした。
そう。俺は、長く細い指に、ずっと触れて欲しかった。
相棒として隣にいた時期、それしか考えていなかった。
俺の服を全部取り払って、乱暴に押し倒して、足を開かせて。もう俺のそこは、手前を受け入れる準備は出来てんだ。知らねェだろ? 一人でするときは、手前の顔とか感触とか思い出しながら、だらしなく口開けてはあはあ息乱して、ぐぽぐぽ指を出し入れしてんだ。知らねェだろ? 知ったら軽蔑するだろ? 俺はな、手前らαに軽蔑され、虐げられる存在……Ωでしかねェんだ。
だから、手前にそうされてたら、もう直ぐに種を植え付けられる。奥まで突いて、そうしたら、俺はきもちよすぎてぎゅうぎゅう締め付けて中イキするから。そうしたら、手前も我慢せずに出しちまえばいい。心配すんなよ。Ωの俺が、中絶する権利なんて持ってねェ。どこもそんなのしてくれねェ。発情したΩの妊娠率はほぼ十割。喜べよ。手前の遺伝子をもったとびきり優秀なαが生まれるぜ。だって、俺たちは運命の番だ。最高のパートナー。最高の遺伝子。最高の子供。
それが、在るべき姿なんだよ。
俺は、手前に突かれてきもちよくなりたい。手前の種が欲しい。
手前だって、俺のフェロモンにあてられて、苦しいだろ? 早く突いて、奥に出したいだろ?
完全に利害は一致していて、堪える理由なんてない。もっと早くこうなっているべきだった。本来なら。
……けれど、けれど、なんで。
「中也、こっち向いて」
「やっ……」
頬に手が添えられ、振り向かせようとする。静かな声で、もう一度俺の名が呼ばれた。
もう抗う力なんて残ってねェ。そもそも、抗うのが間違っている。このまま流されれば、在るべき姿になる。
……けれど、けれど。俺は。
「中也」
「やだっ……!」
ぐいっと顔を振り向かされた瞬間、俺は叫んでいた。同時に、ずっと閉じていた目が瞬き、涙が溢れた。
どうしてだろうな。涙が止まらねェんだ。
暫く、涙で視界が霞んで見えなかった。
抱かれたい。それが正解だし、一度出したくらいじゃ収まらない自身は痛いほど張り詰めて、解放を待ちわびている。
番いたい。それが正解だし、運命の番とのセックスは堪らなく気持ちいいだろう。
しかし、俺は。
「中也。ねえ、私を見てよ」
ずっと恋なんて感情を寄せていた元相棒に、項を噛んで欲しかった。
抱かれたいのと、番いたいのは、俺がΩだからだ。けれど、もう1つは違った。
「ねえ、中也」
ぐちゃぐちゃになった頭と股が苦しくて、涙を止められないでいた。けれど手前の顔は見たくない。αの手前に、俺は……
「中也。お願いだから。
……私は、αじゃなくて、太宰治だよ」
驚いて、思わず顔を上げた。
そして更に、驚いた。
……なんでそんな、優しい笑顔してんだよ。
頬に触れた手は温かく、俺に覆い被さるようにして……まるで、俺を守るようにして、太宰が、微笑んでいた。
「……太宰」
「うん」
「…………なァ、太宰」
「うん。聞かせて、中也」
涙がこぼれ落ちた。鳶色の瞳には優しく光が宿り、包帯は、ほつれていて。何より、木の枝にひっかかれたような擦り傷が頬にあって、手前らしくねェな。
どんだけ、全力で走ってきたんだよ。
「太宰……俺は」
俺はΩで、手前はαで。運命の番で。
偶々俺はΩで、偶々手前はαで、偶々運命の番だっただけだった。
「俺は、終わらせたくねェよ……」
終わらせたくない。
この気持ちも、この人生も、この舞台を。
始まったばかりだ。手前との二人芝居。観客なんて要らねェよ。
手前と俺で、やり直してェんだ。
中原中也として、手前を、太宰治を、愛してる。
「太宰」
「……うん、中也」
見詰め合う。太宰が、俺の様子を伺いながら、少しずつ少しずつ身を寄せてくる。俺は瞬きさえしないで、その瞳を見詰めていた。
硬い肉が、触れ合う感触。背中に手が回って……ぎゅうっと、抱き締められた。
「役者が揃い、君の悲劇は……喜劇へと、か」
耳元で呟かれた言葉に、小さく頷いた。太宰は何も返さずに、ただ力を込めて、俺を抱き締めた。
血に染まった地面の上、土煙の舞う夜空の下。
抱き締めあったその夜、舞台の幕が上がった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.207 )
- 日時: 2020/06/14 15:43
- 名前: 枕木
もつれあうように、車の中に乗り込んだ。
私の下で苦しげに熱い息を吐く中也は、とろとろに熟れて、正に食べ頃だった。上気した頬、涙でうるみとろんと蕩けた青い瞳。暑い、とうめきながら自ら上着とクロスタイを脱いだ肌は汗ばみ、シャツが張り付いていた。
ごくり、と喉が鳴る。
そして何より……この、甘ったるい匂い。
それは中也と、中也が未だ握り締めている私の外套にかかった精液や、彼の項や、彼の肌全体から、むせるほど強く発せられていた。嗚呼、中也の肌、本当に甘そうで、美味しそう。堪らず首筋に顔を埋め舐めながら、囁いた。
「凄いね、中也……こんな強烈なの、堪んないな」
「あ……? それは、うんめいの……」
違う。
それにしたって、中也の躯は特別だ。
あまりにも、フェロモンが、濃すぎる。
Ωは常に甘い匂いを伴い雄を誘うフェロモンを発している。鋭いαなら感じるし、あてられることもある。しかし、ほとんど気付くことはない。ただ、無意識に錯覚を引き起こす。微量のフェロモンの効果で、可愛らしい、愛らしい、と感じるようになる。体格も相まって、中也は随分可愛がられていたね。……否、嫉妬なんかしないよ? ……しないように、しているよ。
けれど、発情(ヒート)している状態になると、フェロモンは決壊したようにただ漏れる。発情(ヒート)は不定期なΩもいれば定期的にくるΩもいて、効果も固体差がある。Ωの発情(ヒート)は……なんてひとくくりにするのは浅はかだ。それを理解しないから、発情(ヒート)状態のΩが路上で強姦される事件が多発するのだよ。
αはΩのフェロモンに逆らえない。それが動物的本能だから。
だが発情した中也のフェロモンは、そんな理由じゃ収まらない。αやβなんて関係無い。下手をしたらΩだってあてられる可能性がある。匂いだけではなくて、瞳や、唇や、汗や、涙や、細胞の一つ一つが誘う。一目見るだけでいい。発情した中也を一目見るだけで、もう、抗うことはできない。私でさえ、ぎりぎりなのだから。今の今まで中也が汚れのない躯を守ることができたのは、奇跡に近い。
……否、奇跡とは違うのかな。
中也はそこら辺の猿よりかは頭がいいから、定期的にくる発情期は操作していただろう。そして、何時でも何処でも発情する条件となる……そう、“運命の番”の存在が、近くに無かったから。
“運命の番”というのは、決して誤魔化すことも断ち切ることもできない、固く強い繋がりなのだ。
「あッ……んっ」
シャツの下に手を入れ肌を撫でると、中也はぴくっと跳ねながら、甘い声をあげた。
嗚呼、くらくらする。
蕩けた顔も、期待して私をみつめる青い瞳も、飛び散った白濁も、車に充満して理性を溶かしていく甘い匂いも。
「だざい」
そう、もっと呼んでよ、中也。そうやって、愛おしそうに私を呼んで。
頬を撫でると、熱かった。それはとても、熱かった。中也は瞬きをして、それから、躊躇いがちにそっと両手でその手に触れた。私の様子を窺う猫の様な仕草が可愛くて微笑めば、中也は、ゆっくりと蕾が開くように、嬉しそうに微笑んだ。
ぶちぶちと、張り詰めた糸が千切れていく音がする。
「……ねえ、いいの? 此処、外で、君の車の中だけど?」
煽るように訊いた。余裕だよ。君のフェロモンなんて、私を揺るがせられるほどじゃない。
嘘だよ。強がってるよ。
じくじくと太股が痛む。
ぎりぎりだけど、守りたい。君だけは尊重する。誓う。私は君が大切なのだよ。
本当は今すぐに、この膨張した熱で君を貫きたい。奥深くまで突いて、ぐちゃぐちゃに犯して、ぐずぐずに喘がせて、孕ませたい。
限りなくぎりぎりで。それでも君を、守りたい。
シートに押し倒した中也の両脇についた腕が、少し震えた。限界はあとほんの少し。
中也は、きょとん、とぱちぱち瞬きをした。
そして、きょとんとしたまま、
「いまさらだろ……?」
と云った。
確かに今更だ。もう私の手は君の肌に触れているし、布越しに擦り合わせているお互いの自身は張り詰めている。
「でも、今なら未だ……」
その先は云えなかった。
言葉は、中也の唇に奪われていた。
触れるだけのキスは長い訳では無く、家族や友人とでもするような、子供っぽいキスだった。こんなに扇情的な瞳が目の前にあるのに、溢れてきたのは中也への愛しさだけだった。
はっ……と吐息を漏らしながら離した中也の唇は艶めいていて、恥らうように頬を染め、目を逸らした。
あーあ、もう。
「……折角私が親切で我慢してあげようかって訊いてあげているというのに、君って本当……」
深々と溜め息を吐けば、中也はむっと唇を尖らせた。
「んだよ。頭悪ィとか云いてェんだろうが、手前だって……」
「否、違う」
目を合わせる。中也がはっとしたように目を見開き、そして、矢っ張り恥じらいながらぬれた睫毛を瞬かせた。
ふふっ、と微笑んで見せ、耳元に顔を寄せて囁いた。
「君って本当……
最高だね」
甘い匂いが強くなり、腕の中で、可愛らしい恋人が期待に躯を震わせた。
いじらしく私の袖を掴む感触に、
ぶちっ
と、最後の一糸が切れる音がした。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.208 )
- 日時: 2020/06/19 07:09
- 名前: 枕木
ふと、気配を感じて振り返った。
勿論、殺意や敵意といった類いではない。
それは、もっと優しく、あたたかく、そして……でかい。
「珍しく早起きじゃねェか」
「其れ、君が云うのかい? 徹夜だったでしょう」
くすくすと笑いながら云う彼からぷいっと顔をそむける。矢っ張りばれてたか。まあ、同じ寝床で寝てんだから、お互いの家を行き来してたころみてェには行かないよな。
静かな、朝。
外では、地面の水溜まりに絶え間なく空から滴が落ちる透明な音が、続いていた。
ふいに、背後からひた、ひた、と裸足の足音がして、それが近付いてきた。
……ったく。
ふう、と息を吐き出しながら、持っていたものを置き、ぱっと両手を広げた。
背後から忍び寄っていたのが、驚いているのが判る。「えっ」と小さな声が可笑しくて、俺も笑った。
振り向くと、目を軽く見張り、口を僅かに開いた間抜け面が、俺に両手を伸ばした状態で固まっていた。透き通った鳶色の瞳をみつめる。
あーあ、餓鬼みてェな顔しやがって。手前今日で幾つになると思ってんだよ。
朝は起きるの遅くてついでに寝汚ェし、料理はまともに出来ねェから相変わらず俺に遣らせるし……マフィアの幹部だぞ、俺は? 絶対につりあってねェ。こんな、裏切り者との同棲なんて、どう考えても。
……だが、な。
両手を広げたまま、早くしろよ、と急かす。目の前の木偶は相変わらず固まっていた。
「来るんじゃねェのか?」
にやりと笑って云えば、鳶色がきらりと光った……気がした。
ぎゅうっ
強く、抱き締められる。押し付けられた胸板は随分薄い。頼りねェなァ。こんな細い躯であいつら護ってやれんのかよ。
すん、と匂いを感じとる。……ああ、この匂い。よく知っている。知ってる。これは、
俺と、子供たちと同じ、石鹸と、洗濯洗剤の匂い。
「……中也のえっち」
「あ”!?」
あはは、と笑い声をあげる彼を、胸の中から見上げる。
白い肌、それより白い包帯……絶対ェ無駄だろ。
そして、左手の薬指にある輝きに気付いてもなお、惹かれる者が後を絶たない端正な顔立ち。……郵便受けに呪いの恋文が溢れかえるほど入っていたときは俺までこいつを呪いそうになった。
細い……細い、躯。無駄にでけェんだよ、ともう一度胸に顔を伏せれば、今度は頬が手で包まれ、顔を上げさせられた。
「……中也」
「……ん」
腕を伸ばし、彼の首に巻き付ける。
そして精一杯伸びをして、顔を近付ける。彼も低い体勢になったから、少しむかついた。
目をつむれば、
唇が、重なる。
その瞬間、こいつに対するむかつくのとか、全部消えちまって。
代わりに残ったのは、あたたかな。
鼻先が触れる距離で、みつめあう。
ふっ、と同時に笑った。
「また今年も暢気に誕生日とか迎えやがって。自殺すんのは何時になるんだろうなァ?」
「仕方ないじゃない。一緒に死にたい唯一の人が双子の子育てで忙しくて、全然死んでくれないんだもの」
莫迦、と矢っ張りむかつく唇をもう一度塞げば、ふいに泣きそうになっちまって、首に回した腕に力を込めた。それを感じて、腰に回された腕にも力がこもる。舌を忍ばせながら、俺の世界にはこいつしかいなくて、激しい雨音も消えて、聞こえるのはこいつの心臓の音だけだった。
銀糸をのこして唇を離す。
そして、期待に輝く鳶色にため息をついて、それでも、ふっと笑った。
しっかりとみつめあう。
そして、口を開いた。
「誕生日おめでとう、治」
「ありがとう。これからもよろしくね、中也」
もう一度キスをしようとした……が、その空気を突き破るように、泣き声が響いた。途端に世界に太宰以外の音と色が戻り、日常が再開する。
慌てて寝室へかけ戻る太宰を笑って、それから、また手を動かした。
激しい雨音をかき消す我が子二人の……太宰と、俺の二人の子供の元気な泣き声と、それをあやす太宰の……夫の声を聞きながら、俺は赤い甲羅から赤い身をするりと引き抜いた。
今日は一日どしゃぶり。
たまには家族四人でゆっくりするのもいいかと、鼻唄を歌いながら。
六月十九日
太宰治
誕生日おめでとう
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.209 )
- 日時: 2020/07/26 02:40
- 名前: 枕木
思えば遠くへ来たもんだ。
「ん……もうすぐ来るな」
出汁の味見をしていた小皿を置き、手を洗う。ちらりと居間の壁にかかる時計を見上げれば、まだ日付が変わるまで随分時間がある。最近、所謂ハイハイが出来るようになった我が子二人でさえ先刻寝たばかりだ。何時からまあ、こんなに健全な男になったんだか。
青色のタオルで手を拭きながら、溜め息をついた。ったく、昨日は探偵社で打ち上げだ飲みまくりだって浮かれてたくせに。こんなに早く帰ってくるなんざ聞いてねェんだよ。夕飯の連絡は早めに寄越せって何時も云ってんだろうが。
「……まァ、もうとっくに諦めてんだよなァ、こっちは」
苦々しく呟いたら、嗚呼、腹が立った! 何時も何時も、俺は、彼奴からのメール一つ電話一つ声一つに振り回される。『予定変更。あと半刻で帰宅するよ。夕飯よろしくね♪』だの、『明日から休暇になったから旅行に行こう。荷造りよろしくね』だの。そら遠慮なく、ぶんぶん振り回される。何度か文句を云ってやったが、彼奴聞きゃしねェ。何時も何時も、キレかけたところで……その、……キス、とか、まあ、そういうやつで、「次から気を付けるよ。これで許してくれ給え」なんて甘い声でほざきやがる。
思い出したら湯気が出そうになって、俺は実際湯気をあげる鍋の中に少し醤油を入れた。これで味は整っただろう。
そこで、ふと気付いた。
つか何で俺はいま台所に立ってんだよ。彼奴なんかの為に。
残念ながら気付いたときには遅く、調理し終えていた鍋に、ガシャン、と音をたてて乱暴に蓋をする。
決めた。今夜こそ彼奴に最後まで文句云ってやる。我が子二人が起きない程度なら、そろそろキレても良いよなァ?
「覚悟しとけよ、太宰」
がちゃり、と音をたてた玄関の方へ目を向けて、俺はその蒼い瞳をぎらっと光らせた。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.210 )
- 日時: 2020/07/26 09:52
- 名前: 枕木
生きてゆくのであらうけど
扉が、キィ、と音をたてて外気を誘い込む。ぐっ、と拳を握り固める。
俺を振り回す迷惑な男、俺を苛立たせる不真面目な男。昔からずっと変わらねェ、俺が嫌いなところ。
嗚呼、そう云えば、こいつと出会ってからもう随分時が過ぎたんだなァ。
蒼い腕輪を着けていたあの頃の俺は、双黒なんて呼ばれていた頃の俺は、否、幹部に成って久しい俺でさえ、もう、遥か遠くに居て。
永遠のように続く、ひたすら進んで行く足跡が、ゆったりと歩む二列の足跡となったのは、何時からだったか。
もう、懐かしむほど、全てが遠い。
扉が開く。コツン、と敷居を跨いだ足は、くたびれた革靴だ。この靴を買ったときも俺はこいつの傍らに居た。
『好きなのは中也の靴選びの感性(センス)くらいだ』
あながち嘘じゃ無かったね、としみじみ呟くこいつを、俺は軽く小突いて。でも大袈裟に痛がるから、声を上げて笑ってやったんだ。
嗚呼、腹が立つ。
俺の重ねた日々は、全て、こいつと共にあるらしい。こんな奴なのに、俺は。
「ただいまー」
また俺を苛立たせる、間伸びした挨拶も変わらねェなァ。
なあ、
太宰。
「だァざァいィ!!」
びゅんっと鋭い音が空を切り、俺より幾らか高いところにある顔をめがけて拳が繰り出される。怒りを込めて放った声と拳は、真っ直ぐ太宰へ向かった……筈だったが。
「っ!?」
思わず、声にならない叫び声が出た。拳と声は、飲み込まれた。
……こいつの、太宰の、胸の中に。
薄い胸板に俺を押し付け、細い腕で俺をぎゅうっと思いきり抱き締めている。貧弱野郎。へし折ってやろうか。
「おい太宰! もうその手には……」
掲げたままの拳を振り回し、喚いて抵抗する。またご機嫌取りで逃れる積りなんだろ、どうせ……
「中也。ただいま」
耳元で囁かれた声に、ぴたっと動きが止まった。
……何時もなら、もっと甘ったるい、媚びるような声で云いやがるのに。
その声は、まるで、はしゃぐ子供のように、弾んだ、喜びが滲み出るような声だった。驚くのも無理ねェだろ。
「だ、ざい……?」
「うん。ねっ、ただいま」
「え、ああ……」
少し腕の力が弱まり、胸の中から顔を上げた。黒髪。白い肌。それより白い包帯。同僚たちよりはいくらか濁った鳶色。それが、輝いていて。そして、幾多の女を泣かせる元凶となった顔に、慈しむような笑みを湛えて。
片目を闇で覆った子供が、遥か遠くから俺を振り返った。
「おか……えり。……おかえり、太宰」
濁った、一つだけの鳶色が、一瞬輝いた気がした。
自然に溢れた笑顔で太宰をみつめて云えば、太宰はそれは幸せそうに頷いて。
瞳をじっと合わせて、心を通わせる。
そっと瞳を閉じれば、温もりが近付いてくる。
ふに、と慎重に、軽く触れた、その感触に思わず笑声を漏らせば、むっとしたような息を吐いて、噛みついてきた。唇を僅かに開けば、温い感触が侵入してくる。歯列をなぞり、上顎を舐められれば、ぞくっと背筋を走るものがあった。腕をもう一度伸ばして彼の首に回し、躯を擦り寄せる。
キスは好きだ。絶対ェ云わないけど。
「ん……はっ」
唇を離せば、光を反射する糸が伸びて二人を繋いだ。それが切れるのも待ちきれず、背伸びして、包帯から覗く剥き出しの首筋に噛み付く。小さくうめいた声に征服感を覚えながら、ぐっと歯をたてた。
しばらくして離して見れば、くっきりと、俺の歯列の形に濃く鬱血していた。
まあ、今日だけは。これで許してやるか。
「あっはは……いいね、中也」
細い指でそこをなぞりながら、太宰が楽しそうに云った。その、強い光を放つ瞳に挑戦的に微笑んで、俺は自分のシャツの釦を一番上からゆっくりと外していった。太宰から、目は逸らさずに。ごくり、と上下した喉仏に満足して、俺は手際よくシャツを脱ぎ捨てた。下には黒のタンクトップ。下半身はまだ脱がない。だって手前、脱がせるの好きだろ?
「久々か?」
「ふふっ、そうだね。少なくとも、君の倍は飢えてるかな」
太宰が笑みを湛えたまま俺をみつめ、腰を引き寄せる。背骨をなぞる手つきが妖艶で、思わず反らせた。ちっ、遣られた。仕方ねェな、主導権は手前にやるよ。
「ほう、楽しみだなァ、そりゃ。せいぜい楽しませろよ?」
「君こそ、啼きすぎて子供たち起こさないようにね?」
微笑みあって、みつめあって。
それから、夜の始まりの合図に深く深くキスをした。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.211 )
- 日時: 2020/07/26 18:33
- 名前: 枕木
ぼすん、と音をたてて蒲団に倒れ込む。傍らに横たわり、服の下から俺の肌をまさぐる手の感触に、小さく息を吐いた。
腹の中に彼奴らの命が宿ってからここまで、太宰とはずっとご無沙汰だった。少しだけ、と云って始めてしまったらお互い止まれないことは、充分判っていたからだ。俺は妊娠の症状と出産の影響でそういう欲はほとんど無かったからいいが、太宰は一年以上よく耐えたもんだ。だから、今夜は心ゆくまで、支配されてやろう。こうなることを予想していた訳じゃねェが、丁度良く鍋の中身は肉じゃがだ。愛し合った時間だけ、旨くなってくれるだろう。
「中也……」
少し掠れた声が、熱い吐息と共に耳に吹き込まれる。思わずびくんっと躯が跳ねた。目を上げれば、俺の上に乗った夫が、楽しそうに微笑んでいた。
「かわいーね、中也。変わらないよねえ、本当に」
「……何時から」
「初めて涙を見せてくれたときから」
予想外の即答に、目を見開いた。
否、勿論自覚とかはねェよ。無いが、初夜のときから……という答えを予想していた。だが、初めて太宰に涙を見せた夜、といえば……
「雲の間に月はいて」
「そう。月はその時空にいた」
嗚呼、そうか。
あの公園の、あの夜からか。
傍らに手前が居るようになったのは。
嗚呼、本当に、遠くに来たもんだ。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.212 )
- 日時: 2020/08/02 00:54
- 名前: 枕木
遠く経てきた日や夜の
「腰、あげて」
「ん……」
耳元で熱い吐息とともに吹き込まれた声の通りに、仰向けの腰を上げた。すると、俺の下着の中にいた太宰の手が、下着ごとするりと俺の下半身を剥いた。垂れ流しの愛液がねっとりと下着に染みをつくっている。久しぶりの快感に過敏になって、ぴくり、ぴくり、と脈動している太股。その間では、太宰の手でいじられて、完全に勃ち上がった自身がスタンドライトの微かな光でてらてらと主張している。その向こうでは、服を脱いでいる太宰が、ループタイをほどきながら、満足そうに微笑んだ。思わず、顔を反らした。
嗚呼、見るんじゃなかった。
「ふふ、顔真っ赤。反応いいね、ママ?」
「っ……るっせぇ……」
ママ、という単語1つで、意識が隣室の子供部屋で寝ている我が子二人へ向く。夜泣きもあまりしねェが、隙をつくらせない、つくってはいけない俺と太宰の遺伝子なのか、僅かな異変で起きる子たちだ。昼寝もしない。だから、ゆっくり寝てほしい、が……
「中也、しーっ、ね?」
はっと気がつけば、見慣れてもなお美形だと感じる夫の顔がすぐ目の前にあった。俺にのしかかり、微笑むその笑顔は、完全に雄のものだった。
ごくり、と喉が上下する。
やばい……俺、きちんと覚悟できてんのか? ただでさえ、この俺の躯が三日は辛くなるほど、加減を知らない奴だ。そいつを一年以上放置して、しかも俺から誘って……
一体何日、子供たちをおんぶだっこできなくなるんだ?
「だ、ざい」
「と云っても……」
迫る胸板を押そうとしたとき。太宰は、意味ありげに微笑んだかと思うと……
「ひっ!?」
俺の膝を割り開いた。
ふるり、と自身が震えている。思わずそこに集中すれば、冷気にさらされて反応した自身は涎を垂らし続けていた。それが股を伝い、入り口を濡らしている。かあ、と顔が熱くなった。
「一寸触って脱がせただけでこれじゃ……声とか、もう抑えられないね?」
「やっ……」
耳元での艶やかな声と、震える自身の先端に触れた指先に、ぴくん、と躯が震える。
やばい、だめだ、おれ、
「こんな躯で……」
先端に触れていた指先が、愛液の道筋を辿る。根本へとおりていく指の感触に、ぴくぴくぴく、と躯が小刻みに震えて、思わず太宰の腕をぎゅっと掴んだ。
「は、ぁ」
喘ぎ混じりの息を吐き、股を伝う太宰の指の刺激を堪える。快感にいちいち反応する俺の自身が、さらに太宰の指を濡らす。その指が入り口に辿り着いたときには、もう息が上がっていた。
「此処、入れたら……」
囁くように云いながら、その入り口の縁をなぞる指先。一年以上も全く触っていない、元々は性器の役目を果たしていない、其処が。太宰によって開かれて、太宰のための性器にされて、太宰を待ちわびているその入り口が。
きゅうっと、その指先に吸い付いた。
意思とは関係のない、その行為。羞恥で顔が燃えそうだった。
「っ!?」
「ふふ。まだ私のこと、覚えていてくれたのだね」
けれど太宰は、嬉しそうで。そろりそろりとその顔を窺えば、太宰は笑って、俺の其処の形をなぞっていた。
そしてふいに、俺の耳に唇を寄せてきて。囁いたのは。
「どうにかなっちゃうかもね、中也」
ぞくぞくっと背筋を駆け抜けたのは、興奮と期待、そして、この気障な男へのほんの僅かな苛立ち?
嗚呼、こんなに余裕な笑顔でいやがって。こっちは泣きそうなくらいだってのに。今に見てろよ? のぞむところだ、という意味を込めて、キスをした。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.213 )
- 日時: 2020/08/12 10:53
- 名前: 枕木
腕で顔を隠し、暗闇にいる俺の感覚。
中をかき回す細長い指の感触は、本当に久しぶりで。しかし、少しの痛みが去れば、早速弱いところを擦られて。びくっと跳ねた俺の躯に快楽を思い出させるように、ぐちゅ、ぐちゅ、と態と音をたてながら、太宰は俺の中をかき回した。
粘着質な水音と、歯を食い縛って必死に抑えているのに抑えきれない、すすり泣くような嬌声。太宰は一言も喋らないのに、俺の耳元でくつくつと笑うように息をしている。
どうすんだよ、マジで、俺今日死ぬんじゃねェか。死因は快楽か、羞恥か。
ぬちゃ、ぐち、ぐち、じゅぷっ
「やぁっ」
突然の二本目の指の侵入に、思わず小さく叫んだ。入り口での圧迫感。けれど、じゅぷぷ……と音をたてて、耳を塞ぎたくなるような、卑猥な音をたてて、入ってきた。頬を汗が流れる。
思い出しかけてる、俺も。こうして、中を満たされる感覚を。
指とは比べ物にならない、熱くて、大きな、奥まで抉るように激しく愛される感覚を。
その瞬間。
「あッ」
きゅんっと中が締まり、びくんっと足が跳ね上がった。
ふいにはっきり感じた、指の輪郭。意思とは関係なくきゅうきゅうと締まる内壁の、こりこりした、弱いところ。
そこを、ぐりゅっと強く擦られた。
「ひっ……! あっ、あうぅ……っ!」
あっという間に頭の中が真っ白になって、突き抜けるような快楽に躯が跳ね上がった。白濁が躯に飛び散る。きゅん、きゅん、と二度三度中が収縮して、そこでやっと快楽の波が去った。同時に、そこで呼吸をするまで、息も出来ていなかったことに気が付いた。
「……中也」
力が抜けた俺の腕をそっと掴まれ、下ろされた。ぼんやりとしたまま、ぼやけた視界で夫を見つめる。太宰はふふっと優しく笑って、俺の目の端に溜まった涙を親指で拭き取った。
「御免ね。いきなり、無理させてしまって」
額にキスを落としながら、太宰が云う。
……最初の頃は、俺を気遣う素振りも見せないで、ただがっついていただけだったのにな。
その暴力的な快感の中にも愛はあって、俺たちの愛はこういうものなのだろう、と思った。
でも、こうして、俺の頬を撫でながら、優しく笑うこいつがいる。
遥か彼方の過去に生まれた愛は、いつの間にか、大きく、温かく、確実に育っていて。
「……中也? え、なに、どうしたの?」
「何でもねェよ」
「何でも……って、え?」
「……」
「ちょっ……ねえ?」
戸惑い、焦ったような太宰の声が無性に可笑しくて。
「もう……なんで笑ってるの、中也」
手前の所為だよ、ばーか。
「なァ、太宰」
「ん?」
油断した笑顔が、次の瞬間には目を見開いた間抜け面になっていた。
勢いをつけて起き上がり、太宰を押し倒してその上に馬乗りになった。俺以外の奴にはこんな簡単に押し倒されんじゃねェぞ、貧弱野郎。
脱ぎかけのシャツの間から肌を触って、包帯がほどけかけている首筋の、先刻つけた……俺がつけた、歯形をなぞる。明日から暫くは、包帯を多めに巻いていかなきゃなんねェな。他の奴に不審がられたら、こいつは何と言い訳するのか。何かの弾みで見られちまうのもいい。濃くて、強い、俺の独占欲。それを見て、嫉妬の炎で心臓を燃やして、息絶えて。
そう、こいつに近付く何もかも、焼かれて死んじまえばいい。
顔を寄せて太宰の唇を舐め、ひっそりと微笑めば、太宰が手を伸ばしてきて、俺の頬に触れ、笑った。
「あっははは……ねえ、中也、目、やばいけど」
「手前も人のこと云えねェけどな」
俺を見上げて口角をあげている彼の目は、全く笑っていない。目の奥でちろちろと見え隠れする雄の炎に、ぞくっと背筋がひりついた。
判ってる。こんなに大きく育っちまったんだ。
仕方ねェなあ。
俺は、倒れ込んで太宰と躯を密着させると、手を忍ばせて、太宰のボトムのポケットから“それ”を抜き取った。
「えっ、ちょっ!」
「五つか。本当にこれだけでいいのかよ?」
焦った顔が面白くて、その眼前に連なった桃色の袋をぶら下げて煽った。太宰の喉が上下する。鳶色の目の奥で、炎が燃える。
腹の奥が、きゅんと切ない。
「……ちゅう、」
その声を遮って、今度は蒲団の下から物を取り出す。
これ、なーんだ? と掲げて見せれば、太宰は三度瞬きしたあと、
「あー……もう!」
と小さく叫んで、勢いよく上半身を起こした。そして、噛みつくようにキスされる。深く深く口づけながら、太宰は俺の手首をぎりっと強く握り締めた。余裕無くなってやんの。太宰のくせに。
甘やかな熱に、溶かされそうだった。
ぷはっ、と口を離したときには、もう太宰の炎は剥き出しだった。
「ほんっと頭悪いよね、君」
「ハッ、そんな獣みてェな面してよく云うぜ」
太宰の手のひらに、ころん、と転がったのは、白い錠剤。
仕方ねェから、
「手前、俺の中に出すの好きだろ?」
「何云ってるの? 君が私に中出しされたいだけでしょ?」
にやりと笑い合い、再び、口付ける。太宰の舌が喉の奥へ押し込んでくる錠剤を、抗わずに飲み込んだ。
目を合わせて、笑い合う。
もうこれ以上は、お互いに我慢はできないと、判っていた。
「ねえ、中也」
「あ?」
ちゅっ、と、額にキスが落とされた。
「沢山、愛してあげるね」
「……仕方ねェな」
仕方ねェから、愛されてやるよ。
飲み込んだ錠剤が腹の中で溶ける頃には、入り口に熱い感触が押し当てられていて。
久しぶりのセックスの目的は、互いを愛することだけだった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.214 )
- 日時: 2020/09/23 21:10
- 名前: 枕木
お久しぶりです!皆さんお元気ですか?挨拶もそこそこに申し訳ないのですが、お知らせします。
私には今、大事な時期が訪れています。人生の分かれ道です。つきましては、勉学に集中するため、期間限定で更新を中断します。
実をいえば、勉学に励むため…が理由になるほど真面目じゃないんですけどね私(笑)
でも、自分への戒めのような…違うな、皆さんに復帰と朗報を祝ってもらう楽しみをつくるため!!です!!!
勝手なことばかりすみません。私にとってはいいタイミングだったので。書きかけやりかけ(意味深)ばかりですし、必ず続きを書きに戻ります!どうか、忘れないでください、私のこと。
ここまでありがとうございました。来年、春風にのって戻ります。
またね。
2020,9.23
枕木
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他【更新停止中】 ( No.215 )
- 日時: 2020/09/23 22:31
- 名前: りり
初めまして。いつも読ませて頂いています。枕木さんの作品が大好きで
もう10回は読んだと思います。
毎日の癒しです。
お勉強頑張ってください。
いつまでも応援してます。
いつまでも待ってます。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他【更新停止中】 ( No.216 )
- 日時: 2021/03/15 14:17
- 名前: 枕木
お久しぶりです!枕木、復活しました!!
無事夢を叶える為の一歩を踏み出すことができました。これで一安心出来ましたので、少しずつ投稿を再開していこうと思います。リクエストや感想、アドバイス等常時受け付けておりますので、是非是非下さいませ!!
これからもよろしくお願いします(^^)
あと、お話ししたいことも沢山ありますので、雑談の方も更新します。お話ししましょうね(๑>◡<๑)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.217 )
- 日時: 2021/03/19 22:35
- 名前: 天照
おかえりなさいです!枕木様!
自己紹介が遅れました。
はじめまして。天照(あまて)
と申すものです。
夢に近づけたこと本当におめでとうございます!
枕木様の作品が大好きで大好きで
復活を心待ちにしながら静かに
応援していました。
復活して本当に嬉しいです!
また枕木様の作品が読めるのが
めちゃくちゃ嬉しいです!
これからも応援しています!
長文失礼しました。
(語彙力なくてすいません)
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.218 )
- 日時: 2021/04/28 23:25
- 名前: 枕木
≫217 天照様
温かいコメント、ありがとうございます♪
本当、こんなこと言っていただけるとは思わず、復活を宣言しておきながら1ヶ月以上放置した私ってなんなのでしょうね…
時々は見にきて書きますので、そのときは見てやってください!お願いします!ぜひ
またコメントもください!
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.219 )
- 日時: 2022/06/19 15:31
- 名前: 枕木
太宰さん、お誕生日おめでとうございます!