大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.62 )
- 日時: 2019/06/10 21:24
- 名前: 枕木
近くのカフェで軽い朝食を食べ、のんびりと手を繋いだまま歩いた。
計画[プラン]も特にない、気まぐれなデエト。人生初めてのその日は、とうに梅雨入りしているというのに、まるで天までこの男の誕生した日を祝うように、初夏らしい清々しく晴れた日だった。
繋いだ手から伝わる体温が温かくて、けれど少し恥ずかしくて、ちらっと隣を歩く恋人の横顔を見るだけで頬が熱くなる。
そんな、幸せな時間だった。
しかしそれも、前から歩いてくる二人組を見た瞬間、打ち砕かれたかのように思われた。
「ッ……!」
「……中也」
恐怖と不安に立ち止まった俺の手を握った太宰の手に力がこもる。
俺の名前を呼び、にっこり微笑みかけ、そして、太宰は正面から二人を……ポートマフィア首領・森鴎外と、それに続く第二位・尾崎紅葉と、向き合った。
「おや、奇遇だねえ、太宰くん。散歩かい?」
「こんにちは、森さん、姐さん。見て判りませんか、可愛い恋人とデエト中ですよ」
「ほう、可愛い恋人、のう」
三人とも穏やかな笑顔だが、穏やかな昼前の横浜駅前とは思えない緊張感だ。通行人がただならぬ空気を避けながら、ひそひそと何かを囁いて去っていく。
姐さんにみつめられ、俺は太宰の手から手を抜こうとした。しかし、太宰はぎゅっと掴んで離さなかった。
『大丈夫だから』そう云っている気がした。
暫く、ビリビリと肌が焼けそうな空気が続く。
その空気を緩めたのは、三人一斉に肩をすくめ、小さく交わした微笑だった。
あれ……平気……なのか?
「あの中也くんが休暇が欲しいなんて云うから、驚いたんだよ。これなら納得だねえ」
「何しろ、半年も前からこの2日だけはと願い出をしていたからのう」
「え、そうなの中也!?」
張り詰めた空気から一転、突然俺の話を始める。姐さんが着物の袖を口元に当てながら朗らかに云うと、太宰がバッと俺に振り返り、キラキラと輝く瞳で訊いてきた。
ば……莫迦、ンなこと云えるか! 姐さんもそれは云っちゃいけねェやつだろ!?
……という叫びは心の中に秘めておくが。取り敢えず、熱い頬を太宰の背中に隠すようにそっぽを向いた。
「本当に中也は愛いのう……」
「全くだね。……そんな中也くんに突然無粋な話題を持ってきてしまって悪いのだけど、少し顔を貸してくれるかい? 把握しておいてほしいことがある、幹部としてね。嗚呼太宰くん睨まないで睨まないで。幹部として、と云っただろう。すぐに無事返すから」
「はい」
頭を切り替えて、素早く返事をする。少し名残惜しかったが太宰と手を離し、首領に手招きされて、路地裏で話をした。商売相手が襲われる事件があったので俺の直属の部下を借りたい、どの部隊が適任か、という簡単な相談と報告をして下さった。
ものの数分だろう。俺は首領と話をした。その間の太宰と姐さんが何を話していたか、なんて、知る由もねェ。
「中也と一緒になる気かえ?」
中也と森が路地裏に消えてから、紅葉が、太宰に静かに問うた。
太宰は姐さんの視線を静かに受け止め、微笑んで頷いた。
「私の妻になってもらいます」
「私たちが、お前に中也をやると?」
「いいえ、微塵も。くれないでしょうけど、貰います」
太宰が微笑んだ顔を崩さず云う。紅葉の瞳が細められ、背後から冷たい靄が発せられた。
「随分強気じゃのう。中也は絶対にやらんと云ったらどうするのかえ?」
「奪います」
紅葉は、初めて見た。
太宰の、本気の殺意を。本気の瞳を。本気の愛を。
幼い頃から見てきた二人だ。紅葉は、冷たい靄をしまい、困ったものじゃのう、と微笑んでため息をついた。
「まあ、中也があれほど楽しみにしていたデエトじゃ。邪魔したくはないからの。今日は善い」
「助かります、姐さん」
「困った童らじゃのう。……太宰」
「はい」
「覚悟は、あるのかえ」
鋭い視線を太宰は静かに受け止め、そして、優しい笑みを浮かべた。
「はい」
紅葉は、黙って日傘をくるりと回した。
その美しい横顔は、嬉しそうにも、寂しそうにも見えた。
云うなれば、娘に大切な人ができた母の表情。
太宰の微笑も、その母に認められた嬉しさを象徴しているように見えた。
「やあ、待たせたねえ」
間もなくして、森と中也が現れる。何でもない顔で太宰に一言二言会話の内容を説明している中也を見てポートマフィア2トップは和やかに微笑み、そして、二人の隣をすれちがっていった。
「楽しんでくるんだよ、中也くん」
「はい」
「楽しませるのじゃぞ、太宰」
「はーい」
二人を見送ってから、中也はじっと太宰を見上げた。
「なあに?」
「……姐さんと何を話してたンだ?」
「ん〜……ひみつ♪」
「……?」
まだ気になる中也の手を、太宰が再び握る。
「まあいいじゃない。デエトの続きね、中也」
「……ん」
あっという間にほだされた中也は、太宰と並んで歩き出す。太宰は、さっきの紅葉との会話は決して中也に教えまいと誓った。
そして、それのついでに、誓った。
絶対に、この愛しい人を幸せにしよう、と。
今更、当たり前の話なのだが。きちんと言葉に起こしておきたかったのだ。
人間らしい温かさが胸に溢れた。不可解だが、不快じゃない。そうか、これを人は
「ねえ中也」
「んぁ?」
「遊園地、行こうか」
愛と呼ぶのかなあ。
予定が定まり、足取り軽く歩き出した四本の足は、長年寄り添った夫婦のごとく、揃っていた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.63 )
- 日時: 2019/06/15 14:15
- 名前: 枕木
一つ二つアトラクションに乗り、ベンチに座って休憩していたところで、俺の目に止まる人影があった。
「……あ? あれは……」
「ん? 嗚呼、そういえば二人も来ると云っていたねえ」
思い出したように太宰が云う。
ソフトクリームを舐めながら歩いてくる小柄な男と、その隣を歩む和装の男。
そう。前方から歩いてきたのは、武装探偵社社長・福沢諭吉と、自他認める名探偵・江戸川乱歩である。
あんまり、会いたくねェ二人だな……
当然俺と太宰のことは太宰から聞いているだろうが、俺はこいつらとはマフィアとしてしか会ったことが無い。気まずいし、なんとなく気恥ずかしい。
しかし、笑顔で手を振る太宰とその隣でうつむく俺に気づいた二人は、こちらへ近づいてきた。
「奇遇だね、太宰。デエト場所ここに選ぶとかベタだなあ」
「ふふ、お見通しですか」
「当たり前。こんなのが恋人って、素敵帽子君かわいそう」
「お、おい……」
名探偵とは知っているが、こうもズバッと云われると戸惑う。乱歩の方は太宰を軽蔑的な目で見ながらソフトクリームを舐めているが。