大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.67 )
- 日時: 2019/06/18 06:05
- 名前: 枕木
探偵社社長は、少し渋い顔で俺を見ている。まあ、そりゃあそうだよな……敵の組織の、しかも探偵社に喧嘩を売りつけたこともある奴だ。部下の恋人という立場も許しがたいだろう。
なんか……胸が寒い。仕方のないことだ。判りきってることじゃねえか……
ふと、隣に座っていた太宰が、立ち上がる気配がした。太宰は社長と俺の間に立った。
「社長。少し、ご相談が。此方へ来てもらえますか?」
「善いだろう」
「っ、だざ」
背を向けた太宰に、慌てて声をかける。太宰は振り返り、にっこり微笑んだ。
「直ぐ戻るよ」
そう云って、太宰と社長は土産売り場の裏へ消えていった。
直ぐって……それまで、無表情でソフトクリーム食い続けてる名探偵と二人きりかよ? うわ、どうすりゃいいって……
「あのさ」
びくっと肩が大袈裟に跳ね上がった。い、いきなり話しかけンなよ……!
名探偵は、さっきまで太宰が座っていた俺の隣に、すとん、と座った。いつの間にか眼鏡をかけている。
そして、ソフトクリームをペロリと一舐めし、俺の方は見ずに問うてきた。
「そのくらいで傷ついてるのに、どうして太宰と恋人でいるの?」
「……何の話だ」
「云っておくけど、僕に誤魔化しとか効かないからね。社長の視線とか、辛かったんでしょ」
喉まできた弁解の言葉を飲み込む。こいつに其れは無意味だ。
だから、黙って、視界に広がる明るい遊園地の光景を眺めた。大きな観覧車、豪奢なメリイゴウランド、キラキラしたオブジェ。そして、その間を行き交う幸せそうな人の群れ。
そこから少し離れた空間であるこの柵沿いのベンチに座っているのは、俺たち二人くらいだった。
黙っていると、更に名探偵が口を開いた。
「太宰は、ちゃんとそういう覚悟あるよ」
「……え」
「若し、組織か君か選ばなくちゃいけなくなったときの、覚悟。君と一緒にいるっていう、覚悟。どんなに軽蔑されようが、冷たい目で見られようが、ね」
純粋に驚いた。何時も飄々と生きている自殺嗜好の彼奴が、そんな未来のことまで考えて腹を決めている、なんてことに。
名探偵が、コーンまで食い尽くしたソフトクリームを巻いていた包装紙をぐしゃっと握り潰した。そして、其処で初めて俺をみつめた。
「君には、そういう覚悟、あるの?」
静かな問いだった。
余計な言い訳なんていらない。もう、とっくにそんなの決まってる。
「太宰を好きになったときから決めてる」
名探偵の糸目が開き、澄んだ瞳を見せた。
自然と笑みが溢れる。そうだった。もうとっくに答えは出てるじゃねェか。
「彼奴の恋人は俺じゃなきゃ務まらねェよ」
名探偵は、暫く俺をみつめていた。そのあと、ため息をつきながらカチャ、と眼鏡を外した。
「誰ものろけろなんて云ってないし。本当、太宰と君って似てるよね」
名探偵は空を見上げた。
「……まあ、いいんじゃないの、似た者同士仲良くやれば」
それが、名探偵……乱歩の言葉だった。
詰まり……俺、認められた……のか、こいつに?
「今度菓子折りでも持っていく」
「あっ、それなら、駅前のロールケーキね! クッキーも!」
突然目をキラキラさせて此方に身を乗り出し、子供のように云う。俺は判った、と頷きながら笑った。
「あれ、何だか随分うちどけてるね」
振り向くと、正面から太宰と社長が歩いてきた。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.68 )
- 日時: 2019/06/18 21:46
- 名前: 枕木
用はすっかり済んだようで、明るい表情をしている。社長も、先刻より穏やかな表情だ。……一体、何の話したンだ?
「中原、そういうのは野暮ってやつだよ」
口を開こうとしたとき、乱歩が隣でこっそりと云ってきた。悪戯っ子のように笑い、片目を瞑って見せる。
名探偵が云うんなら、そういうもんか。
頷くと、乱歩はにこにこ笑った。そんな俺と乱歩を交互に見ながら、太宰が云う。
「あれ、いつの間にそんな仲良くなったんですか、乱歩さん」
「ないしょ。さあて、ソフトクリームも食べちゃったし、社長、彼処の屋台行こうよ。チュロスだって!」
ぴょんっと弾みをつけて立ち上がると、乱歩は社長の腕に腕をからませつつ、そうねだった。黙って懐から財布を取り出して中身を確認する社長に、太宰と一緒に思わず苦笑する。
「じゃあ、私達も行こうか」
「ん」
差し出された太宰の手を取って立ち上がる。そして、苦い顔をしている探偵社社長とにこにこしている乱歩とすれちがった、その時。
ぼそっと、小さな声だった。でも、俺に向けられた言葉だった。
「……世話をかけてすまないな」
……え……?
振り向くと、同じように振り向き、俺をみつめる社長がいた。
そして、社長は、そっと微笑んだ。それに気づいた乱歩も振り返ってきて、大きく手を振られる。
「今度絶対に探偵社来てね! 待ってるからね!」
「おう」
「今日と明日の休暇分は後日挽回することだ、太宰」
「はーい」
手を振り返して、その場を去った。
それから俺達は、夕暮れになるまで遊園地を満喫した。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.69 )
- 日時: 2019/06/18 22:25
- 名前: 枕木
空が朱色がかってきた頃。
太宰が、遊園地を出た途端満足そうに伸びをする中也をみつめ、微笑んで云った。いつ云うか迷っていたが、今でいいだろう。
「お疲れ様、中也」
「?」
「たくさん人に会って、疲れたでしょ」
「ああ……」
中也は腕を下ろしながら、今日のことを脳裏に思い起こす。
ポートマフィア2トップに会って心臓が縮んだが、穏やかに別れたこと。探偵社の代表2人に会って冷たい目を向けられたが、温かく別れて……
……あ?
其処で、中也は立ち止まった。
何か此れ……意図があンのか?
太宰が、立ち止まった中也を見て微笑む。そして、答え合わせを始めた。
「せっかくの中也との誕生日休暇だからね。どうせなら最高な日にしようと思って。ずっとしなきゃいけないとは思っていたのだけどね。……みんなに、私達のことを認めてもらう、ってこと」
結婚式に困るでしょ、と続けようとした太宰を「待て」と制止したのは、中也だった。
驚いて行動が止まった太宰を真っ直ぐ見上げ、中也は云った。
「『みんな』になら、一番に会いに行かなきゃなんねえやつ、いるだろ」
太宰は、心臓が凍るような感覚を味わった。
……中也の口から、その名が出るとは思ってもみなかったのだ。
* * *
太宰には、どうして中也がこんな場所につれてきたのか、全く理解ができなかった。
あの真っ直ぐな蒼い瞳をみつめ返して察して、そして、此処に着くまで散々考えたけれど、矢っ張り判らなかった。
だって此処は。
「織田。……織田作之助」
中也が、墓石に刻まれた名を読み上げる。否、本当は呼んだわけではないのかもしれない。その名へ対する太宰の想いを計る為、呟いたのかもしれない。けれど中也はここへ来るまで、今現在も、一度も太宰の顔を見なかった。
少し寒いくらいの風が吹き、横顔を照らす夕日より甘い色の髪がなびいた。
笑いも泣きもせず、ただ静かに墓石をみつめるその美しい横顔は、何を思っているのだろう、と太宰は考えた。
そして、墓石に視線を戻し、ぽつりと云った。
「……知っているの?」
「否、知らねェ」
「……そう」
太宰がそっと瞳を閉じる。中也は、じっと墓石を見下ろしていた。
中也が知っていることは、きっと1つだけなのだろう。
「でも」
中也が振り向いた。
蒼色の瞳が太宰を真っ直ぐみつめていた。
「大切な人なんだろ」
疑問形ではないその言葉。太宰は嘘のない真っ直ぐな瞳をみつめかえしてしまっていて、もう、小さく頷くしかなかった。無理矢理微笑もうとしたような、歪んだ表情。
中也は太宰の微かな返事を聞いてから、おもむろに帽子をとった。
そして、静かに、墓石の前にひざまづいた。驚いて、太宰は目を見開いた。
……中也は、何を……?
太宰が訊く前に、中也がそっと口を開いた。
「俺は、太宰と友人だったことは一度も無ェ。何度も殺しあった」
それは自分に向けて云っているのか、それとも墓の下に眠る自分の友人に云っているのか、太宰は判らなかった。
「だけど」
風が吹く。朱色の髪が舞う。
太宰の世界に、光がかかった。
全てが輝く。止まっていた何かが動き出す。
たった、一言で。
「俺は、こいつと生きたい」
何かを変えてやれるわけでもない。何かを与えてやれるわけでもない。だけど俺は、手前とは違う。俺は、こいつを残していかない。絶対に。
中也は、眼前の男にそう云い放った。
「こいつと、生きていく」
暫く、時間が止まったようだった。
気がついてみれば、日が沈みかけていて、薄暗い。中也は立ち上がり、帽子を被った。
「……届いたと思うか?」
「……うん……うん、うん……」
静かな問いに、何度も頷いて返す。
そして、一寸後に、恋人を抱き締めた。
強く胸の中に抱き、締めて離さない。
「中也……ありがとう……っ」
中也は、黙って、震える背中に手を回した。
そして、ふと、“彼”の墓に寄り添うようにして咲いている一輪の花に気がついた。
一輪だけだ。でもそれは、とてもとても美しい、蒼い薔薇の花だった。
「……ねえ中也。どうしてこんなところに薔薇が咲いているんだろう」
「さあ……な」
そう云う中也の頬には、涙が光っていた。
蒼い薔薇の花言葉は、『奇跡』と『祝福』
その花は、“彼”からの祝福だったのだ。
- Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.70 )
- 日時: 2019/06/19 00:00
- 名前: 枕木
「すっかり遅くなっちゃったね」
織田作の墓まで足を運び、其処から私達の家まで徒歩、ともなると大分時間がかかる。途中で夕食を食べて帰路へ着いたが、もう日付変更時刻に近い。
「ああ……そうだな」
中也も、少し眠そう? そりゃあそうだよな、疲れたよね。
……でも、もう少し頑張ってね、中也。最後の誕生日の我が儘だから。
「今日も色々あったね、中也」
「……そうだな」
「今日まで、本当に色んなことがあったよね」
「そうだな」
苦笑混じりに中也が云う。
本当に本当に、色んなことがあった。噛みつきあって、話をして、すれちがって、殴りあった。
出会って7年。本当に色んなことを、色んな場所で……
だけど其処には何時も君が……中也がいた。
立ち止まる。
だから、最後のお願いは
「中也」
中也が振り向く。
嗚呼、変わらない、強い光を宿した綺麗な瞳だ。
私が好きになった人だ。
「話があっ」
「お」
遮って、中也が声をあげる。見ていたのは懐中時計だ。そして、その盤を見せて、云う。
「日付が変わった」
「……詰まり」
「手前の誕生日だな」
苦笑する。なんてぶっきらぼうな返答だろう。
だけど、そのあと中也は私を見上げ、にっこり笑って云った。
「手前が生まれてきやがったこと、感謝してる。……おめでとう、治」
少し目を見張って、それから、笑って抱き締めた。
あーあ、愛しいなあ。どうしようか。
「……だから、手前の誕生日だから」
胸の中で中也が云う。
腕の中から離すと、中也は私を真っ直ぐみつめた。覚悟と決意をかためた、綺麗な瞳だった。
「きいてやるよ、手前の話」
ほら、話しやがれ。と中也は云った。
ああもう……敵わないなあ、一生。
私は迷わず、中也の足元にしゃがみ、膝をついた。
そして、外套の下に入れてあった、私の精一杯の愛の形を取り出す。
ジュエリーケース。そして、中身は勿論。
ケースを開けて、恋人に差し出した。
何を云おうかちゃんと考えていたのに、全部忘れてしまった。
でもいいや。伝えたいことは元から1つだけだから。
深く息を吸う。
いつ、こうなることは決まったのだろう。君と出会ったとき? 君と手を重ねたとき? 違う。
生まれてきた、あのとき。
今日、この日だ。
今なら包帯もほどけるだろう。生を叫べるだろう。
生まれてきたこの世界に、生まれてきたこの日に、そして私と出会ってくれた君に、精一杯の愛を。
真っ直ぐ中也をみつめて、云った。
「好きだから、結婚して」
中也の表情が崩れる。笑顔が、泣きそうに歪む。でも、最後には笑っていた。
そして、中也は掠れた声で、云った。
「莫迦なのか、手前は」
ありがとう、おめでとう。
太宰が生まれた日に、二人の愛が生まれた日に、祝福を。
6月19日。
おめでとう、太宰。
えんど