大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.72 )
日時: 2019/06/25 22:27
名前: 枕木

ガチャンッ

「……は?」
「……え?」

うわ、声揃うとか気色悪ィ。思わず隣の男を睨みあげると、その男も包帯に隠れていない片目で同時に睨んできた。
しかし、殴ることは出来ない。否、何か理由がある訳ではない。物理的に、だ。
隣の男……太宰は俺から視線を逸らし、眼前の男……俺らの首領・森鴎外を見た。

「首領、之はどう云うことですか?」

俺も訊きたいことは同じだ。同じように首領を見ると、首領は組んだ手に顎を乗せ、にっこりと微笑んだ。

「否なに、君達に絆を深めて貰おうと思ってね。……今日から暫く、其れで行動して貰うよ」

朗らかに首領が云ってから、俺達は一拍おき、そして同時に“其れ”をまじまじと見た。

意味もなく包帯を巻いた忌々しい右手首と、黒い手袋をはめた俺の左手首には同じ銀色の輪がはまっている。そしてその輪を繋ぐ、10センチ程の鎖。要するに手錠。

俺と太宰、この最悪の男は、何故か手錠で繋がれていた。

…………は?

「「はあぁぁアアァァ!?」」

これは、俺達が17のときの話だ。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.73 )
日時: 2019/07/06 16:45
名前: 枕木

「はぁー……」

深々と溜め息を吐く。
ジャンケンで負けて太宰の家に来ているのも、この世で顔を見たくない奴第1位の男が終始左隣10センチ以内に居るのも、全ては訳の判らない首領と、この手錠の所為だ。否違ェ、元はと云えばこいつが悪い。
そう思い直して、平然と自宅のドアノブに鍵をさしこんでいる隣の男を睨み付ける。
ガチャ、と鍵が開いた。ドアを開けてから太宰は俺を一瞥し、そして、不機嫌そうに手錠のはまっている右手首をぐいっと引いた。

「そんなとこにつっ立ってないで早く入ってくれる? そうしてつっ立ってると本当に帽子置き場にしかならないから」
「黙れ包帯の付属品。チッ、こんな状態じゃなけりゃ誰が手前の家なんか入るかよ」
「其れは私の台詞だね。君という異物が私のプライベート空間に入るなんて寒気がする」
「誰が異物だゴラ! そのまま凍え死ね!!」

悪態をつき合いながら、短い廊下を歩き、床の間に着く。
服や塵が散乱しているのだろうと思っていたが、案外そんなことはなかった。
俺達が入ってきたドアが南だとすると、部屋は東西が少し長い長方形だ。部屋の真ん中に机とソファ、その正面に、低い棚の上に乗った液晶テレビがあり、テレビの両隣にはタンスとクロオゼット。ソファの右手の東の壁には太宰の背丈程ある、趣向の良く判らない書物がぎっしり詰まった本棚が3つほど並び、窓は西側しかない。その西側の壁は窓以外何もなく、その他の装飾品もないので、広めの白い壁紙のこの部屋は、殺風景に感じられた。

「……つまんねえ部屋だな」
「不満ならどうぞご退却下さい」

太宰が左手でつい、とドアを指差す。
それを睨み付け、低く云った。

「それが出来てたらとっくにしてる」

太宰が舌打ちして、どさ、とソファに座る。俺も必然的に隣に座ることになる。じろり、と顔を見合わせ、そして同時に諦めの溜め息を吐いた。俺はうつむき、太宰は天井を見上げる。左隣10センチだ。相手の行動が何でも判るこの距離が忌々しい。あー、なんでこんな目に遭ってンだ、俺……

「錠外しは手前の十八番だろうが」
「無理。頭悪いなあ、首領は『命令』って云ったんだよ。それに、この手錠には鍵穴が無い。仮に開けられたとしても、恐らく、もう一度錠をかけることは出来ない。首領の命令に背きたくないなら、諦めるしかないよ」

そう。首領は『命令』と云った。
あのあとのことだ。

「どうして絆なんか深める必要があるんですか! 今のままでも俺達は成果をあげている筈です!」
「それがねえ、君達の仲の悪さは組織としても結構問題になっているんだよ。君達の部下も君達が喧嘩したあとは八つ当たりされて大変だとか」
「ッ……」

思わず言葉に詰まった。『八つ当たり』という言葉が反芻される。つい最近も部下を相手に実戦訓練をしているとき、先程嫌がらせをしてきた太宰の顔がちらつき、思わず力が入って、相手になっていた部下をぶっ飛ばしてしまった。すぐに手当てしたため大事には至らなかったが。太宰も覚えがあるのか、黙って首領をみつめるままだ。
そんな俺達を見て首領は満足げに笑った。

「大丈夫、君達が仲良くなったと私が認めたら、直ぐに外してあげるから。任務もきちんと考慮して与えるし。という訳で、頑張ってねえ」

太宰は、もう何も云うまいと、一礼してから踵を返した。ぐいっと引っ張られる。よろけた。キッとその男の頭を睨む。

「オイてめ!」
「のろま」
「ああ"!?」

太宰に引き摺られるようにして首領の部屋を出ようとドアを開いたとき、思い出したように首領が後方から「嗚呼」と声をあげた。
振り向くと、首領は微笑み、云った。

「『其れ』は、首領としての『命令』だからね」

……詰まりは。

「仲良くなったと首領に認められるしか、この悪夢から覚める方法はない」
「……可能だと思うか?」
「ちっとも」

即答だ。

「珍しく俺も手前とは同意見だ」

この悪夢は、終わりそうも無ェ……
また、二人同時に溜め息をついた。

「……仲良くなるのは無理だけど」
「あ?」

顔をあげて振り向くと、太宰は天井を見上げたままだった。
そして、気力無さげに云う。

「気の進まない努力をすれば、仲良く見せるのは可能だ」

太宰が俺に振り向く。鳶色の片目と目が合った。

透き通っているとは云い難い、何も映していないような瞳だった。

そして、奴は云った。

「協力してよ、中也」

その瞬間、悪夢から覚める為の悪夢が始まった。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.74 )
日時: 2019/07/12 04:08
名前: 枕木

太宰との手錠生活は、一言に最悪だった。

夕飯を作れば、

「其処の塩取れ」

先程から俺の手元を見るばかりで一向に手伝う気の無い太宰に苛立ち、声をかけた。塩は、俺の左後ろの棚の上にある。太宰からすれば、左手を伸ばせば届く距離だ。
しかし、太宰は一回「は?」と嫌そうに顔をしかめた。子供か、そのくらいやれや。
だがすぐに、「嗚呼……」と太宰が何かを理解したように俺を見る……というか、見下ろす。

「届かないもんね、仕方ないか」
「あ”!?」

手前、最近背ェ伸びてるからって調子乗るんじゃねェぞ? あ”?
その憤りを言葉にする前に、太宰は塩に手を伸ばした。
……右手を。

「ッ、てめっ……!」

強制的に俺の左手が2メートルの頂に連れていかれる。いきなり筋が張った。

その数秒後、鍋の中に適当に塩をかける太宰の横で、俺は左腕を押さえて悶えていた。完全に腕つった……

絶対、殺す。

風呂に入れば、

「……之、どうやって脱ぐんだよ?」
「首領にこの鎖をどうにかしてもらうしかない」
「風呂にも入れねェのかよ……!」
「まあどっちみち、君と裸の付き合いなんて御免だけどね」
「ケッ、此方こそ願い下げだ」

寝床につけば、

「此方向くんじゃねェよ気色悪ィ」
「嫌だよ、私達が同じ向きで寝たら君と密着することになる」

煙草と酒と薬品の匂いがする太宰の蒲団に、向かい合って、10センチの距離で眠る。この世で一番嫌いな男と。
これ以上の苦痛があるか?
我慢するしかない、と腹に決めて、目を瞑った。

「チッ……絶対俺に触んなよ」
「何、夜這いでもかけると思ってるの? 自意識過剰もいいところだね」
「思ってもねェよ!!」

嗚呼、早く、早くこの悪夢が終わって欲しい。
そう切に願って、眠りについた。

*  *  *

「はい、これでいいと思うよ」
「……ありがとうございます」

一度は解放された左手首に、僅かな間なら着替えなどができるように細工してもらった手錠がかけられる。勿論、もう片方は太宰の右手首にかけられる。ガチャン、という小気味のいい音に溜め息をついた。嗚呼、矢ッ張り、そう簡単には悪夢から解放されねェか……

「一夜過ごしてみて、どうだい? 何か変わった?」

嗚呼、今が最悪です。変わったと云えば以前よりこいつがうざくなったくらいです。
そう云おうと思ったが、それより前に太宰が云った。
……笑顔で。

「彼がこんなに近くにいて、僕の知らない中也を知ることができて楽しいです。以前より彼の事が好きになりました」

思わず、その男の横顔を凝視する。
それで早く手錠を外してもらえるようにしている積もりか……?
俺は呆れて眺めていたが、それを聞き、首領は嬉しそうに微笑んだ。

「それなら良かった。それじゃあ、早速、以前より増した仲の良さを見せてもらおう」

冷や汗が流れる。……真逆とは思うが。

「任務を与えよう」

……頭が痛ェ。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.75 )
日時: 2019/07/06 16:53
名前: 枕木

俺達が取り仕切る時間、何もかもが寝静まるこの時間。

俺は、直属の部下10名と共に、最近俺らの商売を邪魔している小規模組織の殲滅に向かっていた。首領直下の任務だ。……手錠で繋がれた太宰と共に。

階ごとに明かりの点る、隠蔽の為に普通の証券会社に見せかけているビルを見上げてから、じろりと左隣の男を睨む。男は、つまらなそうに裏口の横にある証券会社らしい会社名が書かれたプレートを眺めていた。

「手前、絶対ェ足引っ張んじゃねェぞ」
「誰に云っているの? もし僕に云っているなら、一度首領に頭診て貰った方が佳いよ」
「あ”!? つか手前、昨日から思っていたが本当に努力する気あンのかよ!?」
「気の進まないって云ったじゃないか」
「それは詰まり、遣る気は無ェってことか?」
「君にしては上出来じゃないか、そう云うことだよ」

溜め息をつく。判っちゃいたが、矢っ張り悪夢が覚める気配はない。ほんっとに苛つくなコイツ。

「……太宰は戦死したって首領に報告してやろうか?」
「戦死かあ、つまらない死に方だね」

太宰は相変わらずプレートを眺めて云った。

太宰が、この世の誰にも理解されない思考を持っている事はとっくに知っている。太宰が、この世の何処にも無いモノを見ている事も知っている。相棒だから。
でも、こんなに近くで、こんなに沢山の言葉を交わした事は少ない。
相棒だから……否、相棒なのに、か。
そもそも、相棒ってのは何処からそれを指すんだ? 仕事の同僚で、俺のいざと云う時の命綱で、死んで欲しい男一位で……今は、終始隣にいる、まで付け加えなきゃなんねェか。
そういうのを全部ひっくるめて相棒と呼ぶのか。それとも、他に意味があるのか?

一般的に美しいと称される太宰の横顔を見、思考を働かせていると、太宰が顔をしかめて俺に振り向いた。

その距離、7センチ。

至近距離で、鳶色の片目と視線が絡んだ。
人工光だけを反射した瞳。濁りきっていて、俺の姿さえ映っていない。太宰の瞳は、何も映しちゃいなかった。この世の何もかもに諦めたような、僅かも動かない瞳に、何故か釘付けになっちまって。
そして、ふと、思った。

俺は、太宰にとって何なのだろう、と。太宰は、俺にとって何なのだろう、と。

「何、何か云いたい事でもあるの?」
「は? あ、否……」

吐息が俺の前髪を揺らす。はっと我に返って……近くね? 近ッ!?
だが、言葉が出ない。上手い言葉を探していると、背後から驚いたような声がした。

「き、貴様ら!?」

咄嗟に背後で放たれる銃声。周辺警備に来ていた男が、俺の部下に撃たれて倒れていた。
途端に、階上が騒がしくなる。この先は馴れた道だ。ぱっと太宰から顔を逸らし正面玄関に部下を全員行かせ、裏口のドアを開ける。なんか空気が変だったから助かったな……

「結局、何なの」
「あ?」

太宰が云う。無表情でそう訊いてきたから、素直にさっきの冷たく胸を横切った疑問は話したくなかった。
ぷいっと顔を逸らした。

「……何でも無ェよ」

そう応えると、太宰はもう何も云わなかった。
手錠で繋がれている不便さはあるが、片手片足でも殲滅など造作もない。無駄な言葉は一切交わさず、終始隣に太宰がいるだけで、ほとんど何時もと変わらず任務を果たした。

汚れてもいない黒外套を左手ではたく太宰を見ていて、思ったことは、2つ。

10センチってこんなに遠かったか。

太宰は近づく努力は無理だと云ったが、俺は、太宰の事を、もう少し知れるんじゃねェか。

思えば、もうこの時には悪夢は別のものに変わっていたのかも知れねェな。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.76 )
日時: 2019/07/06 06:22
名前: 枕木

「好きな食いモンとかあンのか?」
「……は?」

それは、買い出しのためスーパーに来て、じゃがいもを吟味しているときに俺が云った言葉だった。
それを投げ掛けられた男は、顔をしかめていぶかしげに声をあげる。ったく、人がせっかくよ……
まあ、端から返事がくるとは思っちゃいねェが。溜め息をつき、じゃがいもに向き直る。矢っ張り、いきなり近づくのは無理な話だ……

「……蟹」
「え?」

思わず聞き返した。
聞き取れなかった訳じゃ無い。否、だって、こいつ、今答えたのか? 俺の質問に?

「蟹。頭だけじゃなく耳も病院行かなきゃいけないんじゃない?」
「うるせェ、聞こえてる。……蟹、好きなのか?」

そう問うと太宰は、ずっとつまらなそうに見ていたじゃがいもを1つ掴み、俺が肘にさげていた籠に無造作に入れた。そして、またじゃがいもを見ながら、無表情無感情で云った。

「悪い? 君に文句云われる理由ある?」
「別に文句は云ってねェけど……」

驚いたンだよ。好きな食べ物はあるのか、という俺からの問いに、太宰が素直に答えたことが。
否、恐らく太宰は質問に対して機械的に答えただけなのだろうが。それでも、太宰に好きなものがあること、それを答えたということに、ごく純粋に驚いた。
太宰はもう1つじゃがいもを籠に放り込んだ。それを確認して、無表情な太宰の横顔をみつめて少し悩む。
……でも、まあ、いいか。ずっと相棒だったもんな。相棒の意味は、よく判らないけど。

「行くぞ」

それだけ云って、野菜売り場から歩き出す。太宰は黙ったまま着いてきた。
目的の場所に歩く間、俺は先刻急遽変えた今日の夕食の献立に必要な食材などを籠に入れていった。太宰は何れにも、興味を示さなかった。

俺はその売り場に来て、最初は何れにするかと悩んでいたが、まあ、いい、本人に聞いてみるか、と、太宰に振り返った。太宰は、それらを……蟹の足が5、6本入ったトレーたちをみつめていた。
そう。ここは、蟹コーナーである。

「太宰、何れがいいんだ?」
「……え?」

呟いた太宰の片目と目が合った。驚いたように見開いている。あれ? なんか、珍しいな。何時も無表情無感情なのに。

「どうして僕に訊くの」

太宰が困惑したように云う。は? そんなの……

「手前が好物だって云ったから、だろ」

籠の中には、本だしと、葱と、うどんの束が入っている。

「蟹入れたうどんにしようと思ってな」
「どうして」
「どうしてって、そりゃ……」

真っ直ぐ俺をみつめ、やけにしつこく訊いてくる太宰に首をかしげ、少し考えてから、口を開いた。そんなこと、考えたことねえ。もし云えるとしたら……

「好きなものがあるって、嬉しいだろ」

太宰が目を瞬かせる。

「……僕を喜ばせようとしているの?」
「自惚れンな。俺が食いたかっただけに決まってンだろばーか」

少し恥ずかしくなってそう返すと、太宰は黙った。くっそ、なんか調子狂うな……

少したってから、太宰は1つ、蟹のトレーを籠に入れた。そっと、静かに。真っ赤なその甲羅を見てから、ぷいっと顔を逸らしている太宰を見る。……あ、耳が赤ェ。

「……ははっ」
「なに」
「ひひひ……否、なんでもねェよ」

無性におかしくなって笑った俺に眉をひそめて、太宰が批判的に声をあげる。なんだよ、可愛いところあンじゃねェか。
俺は、少し拗ねたような顔の太宰を見てから、蟹のトレーを籠にもう1つ入れた。

今日判ったことは2つ。

太宰は、蟹が好きだ。

そして。

「肉じゃがって云うんだぜ」
「……じゃがいも、おかわり」
「ん」

ぶっきらぼうに空のお椀を手渡してくる太宰に笑いながら、お椀を受け取った。じゃがいもは、柔らかく、旨い。流石俺。でも、それだけではなく。

「また作るか?」
「……うん」

太宰は、隣で、小さく頷いた。
その肩との距離は5センチ。
この日を境に日に日に近づいていく距離は、俺も気づいていなかった。


……太宰は、じゃがいも選びが、上手い。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.77 )
日時: 2019/07/06 22:54
名前: 枕木

「太宰くん、中也くん、休憩中済まないね」

廊下の奥まったところにある休憩スペースでソファに腰かけて太宰と雑談していると、首領が歩いてきた。右手に持った書類の束を掲げている。
珈琲のカップから口を離し慌てて立ち上がろうとした俺を「嗚呼、いいよ」と制止し、首領はにっこり笑った。その対応に少し戸惑っていると、太宰が左手ですっ、と俺の帽子を取った。生憎、俺の右手は珈琲のカップで塞がっていたのだ。

「これでいいでしょ」
「嗚呼、悪ィ」

太宰は俺の左手に帽子を持たせながら、「本当に中也って無能だよねえ」と溜め息混じりに云った。うっせ、莫迦。
そんなやり取りを見て、首領は感心したように声をあげた。

「何だか、もう普通に仲良しだね」
「「何処がですか」」

太宰と声が揃う。もう、仲良く見せる努力とかやってらンねェからな。太宰と仲良く……みてェのは諦めた。

首領は、ぷっと吹き出した。

「そう、君達……成る程ねえ」
「?」
「ふふ……否、何でもないよ。嗚呼、太宰くん、この前君がくれた資料なのだけど、君が情報を付け加えてくれたものが無くなってしまってね。済まないけれど、これにもう一度訂正を入れてくれないかな。出来れば、この場で」
「手書きでも宜しいですか?」
「うん、何でも構わないよ」

嗚呼、この前の資料って、太宰が左手でキーボード打つの疲れたって云って、俺が代わりに打ち込んだやつか。あれ以来、俺は太宰の代筆が多くなった。

「太宰」
「はい」

太宰に、ぱっと珈琲のカップを差し出すと、太宰は左手でそれを受け取り、代わりに右手で万年筆を手渡してきた。最近は俺の方が遣うことの多い、太宰の愛用品だ。
太宰が首領から受け取った書類を左手で受け取り、万年筆を走らせる。まあ、大体あのときの入力内容は覚えているからな。
太宰は俺が受け渡した俺のカップの珈琲に口をつけながら、時々口を挟んできた。

「そこの区域、夏になると人口が増えるんだよ」
「嗚呼、1.6倍だったか?」
「うん。そっちは1.7倍」
「怪しいな……」
「要チェックマークつけておいて」
「ん」

もうすっかり慣れた、太宰とのこんな動作と言葉のやり取り。

それを見て、この状態を作り出した張本人・森は小さく呟いた。

「相棒……否、もしかしてそれ以上かな」

それ以上、とは何を示すのか。相棒という関係は何なのか。この状態を作った本当の目的は何なのか。

その全てを知るその男は、密かに微笑んだ。

*  *  *

風呂に入るとき、トイレに行くとき、着替えるとき。

精々そのくらいのときしか、太宰と、お互い離れることのできないこの生活が続いてはや3週間。

いろいろ、限界のきていることが出てきた。

「嗚呼、ねえ、見た? 今すれちがったあの女性、脚がすらっと長くて切れ長の綺麗な瞳していて、すごく美しかったよ」
「そんなん見てねェよ」
「声かけてこようかなあ」
「莫迦、夕食の支度間に合わなくなる」
「ちぇっ……」

それが、業務の帰りのこと。
家に帰れば、

「こら、なンで酒なんか出してきてンだよ」
「いいじゃないか、食前酒だよ」
「手前が呑んでると俺が料理できねェだろ」
「ちぇっ……」

というのがここ最近毎日だ。
限界……と云っても、ほとんどが太宰の限界が、だけど。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.78 )
日時: 2019/07/10 05:55
名前: 枕木

普通とはかけはなれた生活ではあるが、一応は普通の思春期男子。そんな俺達が、二人きりな訳で。太宰も、太宰のよく云う美女とこの状況に置かれていたら幸せだったかも知れない。俺じゃなくて、美人の、女だったら……

青菜を切っていた手が、ぴた、と止まる。

「どうかした?」

太宰が俺を見る。その瞳をみつめる。

その瞳には、俺が映っていた。あのときより少しだけ澄んだ鳶色に、俺、ただ一人が映っている。
当たり前か。この3週間、この瞬間迄、ずっと二人きりだったもんな。

でも、この手錠が開けられて自由になったあと、この鳶色には誰が映るのだろう。それは、俺じゃない。だって俺にとって太宰は、相棒で、命綱で、死んでほしくて……それだけだ。友人でもなんでもない俺達を繋ぐものは、何もない。この3週間俺達を繋いでいたのは、この10センチの鎖だけだ。

何故か、苦しい。痛くはないのに、つらい。意味わかんねえ。なんだ、これ。何故か、こいつに、

抱き締めてほしくなった。

「……太宰」

思わず、口に出た。みつめ合う。視線と思考が絡み合う。なあ、太宰。手前は、俺のこと……

ボコボコボコ

泡のたつ音にハッとした。太宰から視線を外して鍋を見ると、野菜を茹でる為に沸かしていた湯が沸騰していた。
慌てて、料理を再開する。左手を動かすと、ジャラ、と鎖が擦れた。

泣きそうな顔で自分をみつめていた中也の何かに耐えるような横顔をみつめて、太宰は、言葉を探していた。その苦しげな表情を安らげられるような、言葉を。でも、見つからない。もどかしい沈黙に、太宰は首をかしげた。
どうして、僕はこんなに必死になっているんだろう? どうして、どうにかしてあげたいと思ったんだろう? どうして、中也はそんな顔をするの?
その時、答えは出なかった。
でも、太宰は、ぎゅっと拳を握りしめた。何故かは判らない。突然の衝動だった。何故かは判らないけれど、その横顔をみつめていたら、

抱き締めてやりたくなった。


言葉も行動も、何も出ない。
じれったい、17の二人の10センチ。

でも、何かが変わろうとしていた。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.79 )
日時: 2019/07/12 05:26
名前: 枕木

「……は?」
「……え?」

声が重なる。ちらっと、俺と同時に声を発したその男を見る。男は、唇を僅かに開き、二回瞬きした。あれから1週間、こいつは表情が増えた。

1ヶ月前、俺達は今と同じ場所に同じ状態……詰まり、10センチの鎖で繋がれた状態で、首領の前に立っていた。

しかし、俺達がこの声を発したのは1ヶ月前とは真逆の事が原因で。
俺達の数メートル先で、首領は組んだ手に顎を軽く乗せ、にっこり笑って云ったのだ。

「明日、手錠の鍵を開けてあげよう」

……え、あ……?
一瞬、胸の底がぽっかり抜け落ちてしまったような、途方に暮れた感覚になった。でも直ぐに気を取り直す。
詰まりは。

「……俺達の仲が深まったと、そうお考えと云う事ですか?」
「うん。事実だと思うけどねえ。君達の部下からの嘆きは、今月の中旬頃からぱったりなくなったよ。私の目から見ても、そう思う。だから、明日外してあげるよ」
「……そうですか」

俺も、なんとなく感じていた。1ヶ月前とは、太宰への見え方が、感じ方が、違う。太宰のことを知りたいと思って、知ったら、案外、俺の思っていた太宰ではなくて。それが、少し……ほんの少しだけ、楽しくもあって……いがみ合いをする理由も、なくなっていった。

そうか、そうだよな。こう云うのを、仲が良いって云うんだもんな。それなら、手錠なンて要らねェ。
望んだこと。切に願った事だ。この悪夢が早く終わってほしいと。

嬉しい。最高だ。やっとこいつと離れられる。大嫌いで、忌々しい、こいつとはおさらばだ。嗚呼、清々した!

……って、なる……よな? きっと、直ぐに。今は、なれなくても。

「では、明日また此処へ来なさい」
「はい。失礼します」

ハッと我に返る。太宰が首領に頭を下げていた。慌てて俺も同じ動作をする。太宰に歩調を合わせて歩くのも慣れた。並んで歩いて、首領の部屋を出る。

バタン、とドアが閉まった。
太宰が、じっと俺を見ている。な、なんだよ。

「……中也は、嬉しい?」
「手錠が外れる事が、か?」
「うん」

咄嗟に出かけた言葉があった。それが何かは、こいつは知らなくていい。
今の俺は可笑しいンだ。だから、普通の俺なら、本来なら、云うであろう言葉を口にした。

「勿論嬉しいに決まってンだろ。最高だ。やっと手前とも手前との忌々しい生活ともおさらば出来るんだからな」

普通なら、この言葉が一番に出てくる筈だったのに。本当、どうしたンだろうな、俺……
笑みを浮かべて云い放つと、太宰は俺をみつめ、鳶色の瞳を細めた。

……え?

直ぐにふい、と顔を背けたから、良く見えなかった。でも、なんで。黙って前を歩くそいつの背中をみつめて、問い掛ける。


どうして、そんな悲しそうな顔すンだよ……?

*  *  *

こいつとは最後になる、料理、食事を済ませて、蒲団に潜り込む。
あれから互いに口数も少なくて、なんとなく気まずい。無理をすると腕がねじまがるから、いやでも向かい合って眠らなければいけない。最近は、この体勢に抵抗もなくなって、太宰と駄弁りながら眠ったりしていた。でも、今晩は駄目だな。気まずくて、目ェ合わせらンねェ。

思えば、この1ヶ月で色んな事が変わった。太宰の表情、太宰への印象、太宰との関係……いつも左隣にいて、少しずつ10センチの距離も縮まった。

でも、それも終わる。逆戻りする。判ってる、鎖がなくなれば俺達はこうはいられなくなる。判ってるンだよ……

あのとき、咄嗟に出かけた言葉。
あれを云えば、何か変わるかもしれない。でも怖い。もし駄目だったら、相棒でも何でもなくなる。それはいやだった。

もういい。目を瞑ろう。薄々気づいているこの気持ちからも、目の前にある太宰の胸からも。

目を瞑る。眠ろうとした。本気で、眠ろうとした。

……しかし、それを邪魔された。

ごりっ

「ひッ!?」

声が飛び出て、ぱちっと目を開ける。股間に、何か硬いものが擦り付けられたのだ。腕が伸びて、蒲団脇のスタンドライトがつけられた。その明かりに映し出されたのは、

「だ、太宰? うぷっ」

俺が言葉を紡ぐ前に、その頭を太宰の胸に押し付けられた。密着した身体には、やはり硬い違和感が当てられる。
……真逆、こいつ。

「1ヶ月も抜いてなかったから、仕方ないよね」

頭上の、のんびりとした声。嘘だろ……? 否、だからって何で俺に……

ぐるんっ

世界が反転した。鎖で繋がった俺の左手と右手をひとまとめにした太宰の右手が、俺の頭上でそれを蒲団に縫い付ける。押し倒されるのも拘束されるのも突然で、全く抵抗できなかった。
スタンドライトの灯りが太宰の顔を照らす。太宰はにっこりと笑った。

「最後の夜だ。少しだけ、付き合ってよ」

何に付き合うのか理解したときには、もう遅かった。気づくと俺は、ズボンを脱がされていた。太宰の細い指が下着のゴムにかかる。全く抵抗できない。ソレが、露になった……


最後の夜に、望んでいない、初めての夜が始まった。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.80 )
日時: 2019/07/13 06:01
名前: 枕木

暫くその手つきを呆然と見ていたが、ソレが外気に触れて寒さを感じた途端、さっと血の気が引いた。
否、待て待て待て待て待て。

「だ、だ、ざい……?」
「ん〜?」
「な、にして……」
「なにって……これだけど」
「ひッ!?」

太宰が拘束していた俺の手を離した。そして、素肌を晒した俺の足を左手で割り開き、その間に顔を埋めた。
足の間に、太宰の頭が埋まってゆく。何をするのかは判ってる。でも、頭が追い付いていかねェ。なンで、こんなことになった?

じゅっ

「んぁッ!!」

何だよ、何だよこれ。
太宰が俺の亀頭を口に含んで、じゅっと吸ったのだ。熱い口内の柔らかい感触に弱いところを擦られ、引っ張られる。初めての感覚だったのに、出たのは甲高い嬌声だった。
太宰が顔を上げて、悪い遊びを知っちゃった子供みたいに口角を上げた。

「感度良好? いいね、中也」
「い、いや、ちが」
「大丈夫、きもちよくしてあげるから」

太宰が、あーんと口を開ける。そして、再び俺のをかぷっとくわえた。自分で云うのもなんだが、俺のは大きい方じゃない、むしろ……だから、太宰は易々とほぼ全部くわえてしまった。太宰の口内は熱くて柔らかくて、微かに触れる歯の感触や、しっとりと絡む舌の感触も、くらくらする。
口淫……口で、淫ら。嗚呼そうか、今俺、こいつと。

ぼーっと考えていたら、裏筋をゆっくりと舐められた。

「あッ!?」

舌と唇を使って、何度もソレを往復して擦られる。だんだんソレが熱をもち、ビキ、と芯をもって起き上がってくるのを感じた。その間も、完全に勃ってからも太宰の口淫は続いて、俺は声をあげ続けていた。

「んッ……アッ、んぅ、ああッ! ン……ひぁあっ! やっ、そこ、らめ、いぁっ、ああンっ!!」

脳天がじりっと焼けるような感覚。腰からぞわぞわとせりあがってくる、一際大きい快楽の波。

「あッ、あッ、だ、め、だめ、イッ……!」

溜まらない快楽に腰がしなり、太宰の後頭部の髪に震える指をさしこむ。ぎゅっと目を瞑り、経験したことのないような快楽に耐えようとする。
どぴゅっと勢いよく飛び出した精液は、離さなかった太宰の口の中に入った。快楽の余韻が引いていき、起き上がった太宰の舌に見えた白い液体が絡んでいるのを見た瞬間、カッと頬が熱くなった。

ごくんっ

「!?」
「ん〜……あまい」

太宰が喉を上下に動かし、感想を延べる。は……嘘だろ。

「なん、で、ンなもん飲んで……?」
「別にいいじゃない」
「否、良くねェだろ!? 俺のせー……だぞ」
「中也の精子だから飲めるの。他のなんて頼まれても御免だよ」

ぴた、と俺の動きが止まる。
どう云う意味だよ、それは

「まあ、とりあえず一回イッたから、もう抵抗できないよね?」
「なにするつもりだよ」

もう、ここまで来ると何をしても同じだ、と思っちまう。それに、思春期男子としての興味と、太宰がこうする意味を知りたいという欲求もあって、やめてほしいという気はおきなかった。

「最後迄シたいの」
「は? 男だぞ、できるわけ……ひッ」

ひきつった声が出る。太宰が左手で俺の後ろの蕾に触れたのだ。

……真逆。

察しのいい自分が恨めしくなる。太宰は人指し指でその蕾の丸い辺をなぞった。否、真逆とは思うが。

「……此処に、挿入るのか?」

太宰がにっこりと微笑む。天使のような、と表現するような笑み。
でもそのあと口にした言葉は、悪魔のような言葉だった。

「大丈夫、痛くしないよ」

その瞬間、俺は太宰をはねのけて起き上がり、蒲団から出ようとした。冗談じゃねェ、そんなん死ぬのと変わらねェよ!

ガッ

「ッた!」

左腕がびんっと引っ張られる。動けない。
振り向くと、太宰は相変わらずの天使の笑みを浮かべて、右手をぐいっと後ろに引いた。鎖に引っ張られて、太宰の胸に頭がつく。
嗚呼、そうだった。太宰は俺から逃げられない。でもそれは、逆も然り。詰まりは……

「残念、中也は僕から10センチ以上離れられないよ」

終わった……

「楽しもうよ、中也」

俺は、絶望の意味を知った。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.81 )
日時: 2019/07/16 06:14
名前: 枕木

「痛い?」
「いっ……たくは、な……き、もちわるっ……」
「そう」

とろっとした液体を絡めさせた太宰の人指し指が、中をかきまわす。壁を押されると、腹への圧迫感と不快感を感じた。
嗚呼、信じらんねえ。こんな奥、自分でも知らねェのに。なんでこいつは易々と暴いちまうんだ?
その羞恥と初めての感覚に、すすり泣くような声を出す。右腕で顔を隠していた。

「もっ……やだぁ……」
「ん〜……あともう少し……此処かな?」

云うなり、中の指が一点を擦った。

ゴリッ

「〜〜ッ!! ッ!!」

熱くて仕方のない快楽。一瞬頭が真っ白になった。
え、え、え?
腕を外して太宰を見る。太宰は、にっこりと笑った。
今の、こいつがやったのか? いやいやいや、ありえねェだろ。だって、こんなとこ擦られてこんなになるわけ……

「あァッ!!」

再び擦られ、びくっと太股が痙攣した。心臓がバクバク鳴っている。なんだよ今の。おかしいだろ、絶対。
俺が、余程判りやすい混乱した顔をしたんだろうな。太宰が楽しそうに笑って、指を引き抜いた。抜かれると、何故か、中が外気に触れる冷たさを感じた。何だか泣きそうになる。太宰は笑ったまま、再びあのとろっとした液体の入った小さなボトルを出し、中身を左手の五本指に絡めた。

「変じゃないよ、中也。男でも感じる場所があるんだって。中也は此処みたいだね。きもちいでしょ?」
「っ……きもちいい訳ねェだろ!! 男だぞ!?」

それでもこいつに気持ち良くされるのは嫌で、そう叫んだ。太宰が更に笑顔になる。

「じゃあ、中也はこんなことしても気持ち良くならないよね? 此処も、硬くならないよね?」

ばっと足の間を見る。そこには見たくない光景があった。目を逸らして瞑る。俺はこいつなんかに……っ

「ッ……」
「何本か判る? 二本挿入ったけど」

知るか、そんなん感じたくもねェ。

ゆっくりと、さっきより太い感覚が奥へ挿入ってくる。ぐりゅぐりゅと内壁を広げられる感覚は、矢っ張り気持ち悪ィ。
でも、その一瞬後、その指がじんじんと熱いところに触れた……

「ァあんッ!!」

びりっと快楽がかけ上がってくる。ぴく、ぴく、と痙攣する足。やだ……やだ、やだ

ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ

「ん、あァ、あァッ!! ひぅ、あぁんっ!!」

擦られる度に熱くなって気持ち良くなって、自分のものとは思えない声があがる。やだ、だめ。だめ……だめ。
顔を隠そうとした両手を再び拘束される。見るな、見ないで……そう願って最低な男をみつめるのに、涙で滲んだ視界に映る太宰の顔は、この上なく楽しそうに笑っていた。嗚呼、いやがらせってやつか、また。

「んんぅ……いぁ、あぁ、ああんっ! んぁっ、あ……」

びく、びく、と内股が痙攣する。せりあがってくる一際大きい快楽の波に、あらがう術はなく。その波をやりすごす手段もなく。ただ、一回その波を受け止めて力の入らない身体で、その波を受け止めた。

腰がしなる。天井だけじゃ収まらず頭上の壁をみつめる。声も出ない。足先までピンと張り、身体がびく、びく、と痙攣している。途方もない快楽。何も考えられない。それがしばらく続き、やっと快楽の余韻が過ぎ去ろうとするのと同時に夢の世界へ去ろうとしたが、首筋を甘噛みされてそれを阻止される。

「何やってるの、本番はここからだよ?」

見ると、太宰が血管の浮き出た自身を下着の中から取り出すところだった。くらりと目眩がする。

その瞬間、滲んだ視界がほろりと流れ落ちた。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.82 )
日時: 2019/07/21 18:34
名前: 枕木

ぽろぽろぽろ。

とめどなく頬を流れる液体。嗚呼、此が涙ってやつか。なんで泣いてんだよ、俺。
そんなの、判りきってる。
知りたくもなかった、こんなこと。

太宰は俺の涙に僅かに目を見張ったが、直ぐに俺の上に覆い被さった。

「そんなに怖いの? まあ、幾ら泣いたってもうやめる積もりないけどね」
「ち、が……」
「じゃあなに?」

瞬きをすると、滲んでいた視界が冴えて、目の前の太宰の顔が見えた。無表情だった。片目を隠す包帯が、少しほどけていた。スタンドライトを反射しただけの鳶色には、矢っ張り俺は映っていない。
嗚呼、知っていたさ。とっくに知ってる。だって、俺は、

手前の相棒だから。

「……何でだよ」
「は?」
「何で、もう明日には解放されるってのに俺を抱こうと思ったんだよ。今更、何でだよ」
「なに、もっと早く抱いて欲しかったの?」

再び、視界が滲む。何も見えない。
もういいだろ、どうだって。
もういい。
所詮、ただの相棒だ。


「ッ……其処らの女と俺を一緒にすんじゃねェよ!!」


抱くとか抱かないとかそれ以前に、太宰にとってどちらが上かも構わず、太宰が目移りするあいつらと一緒にされたくない。

色んな太宰がいるのは知っている。太宰が俺の事を嫌ってるのも出会ったときから知っている。でも、太宰が俺にしか見せない太宰がある事、太宰が嫌う人物は俺しかいない事も知っている。

なァ、少しくらい自惚れてもいいだろ?

「手前がその気になりゃァ百戦練磨の美男子でほいほい女をひっかけるのも容易だろうがな、そうやって今まで抱いてきた女と俺を一緒にすんな!! 俺は……ッ」

あーあ、やっちまった。
何で云っちまったんだよ、俺。
もう終わりだな、相棒もなにもかも。
太宰の顔が翳る。表情が見えない。

「中也」

静かに、太宰が俺の名を呼んだ。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.83 )
日時: 2019/07/23 14:45
名前: 枕木

ちゅっ

……は?

額にあたった柔らかい感触に、思考が停止する。
え? は?
太宰は俺の額から唇を離し、そっと俺の頬に手をあてた。
そして、ぷっと吹き出す。心底楽しそうに。

「なに間抜け面してるの」
「え、だって、お前」
「ふふ。泣き止んだね」

太宰はするりと俺の頬を撫でた。

なんだ、これ。

まるで、花に触れるような優しい手つきで俺の頬を撫でて。まるで、恋人をみつめるような柔らかい目で俺をみつめて。

その瞳に、俺が映っていて。

そりゃあ、涙なんて吹っ飛ぶだろ。

太宰はそのまま俺の朱色の前髪を指に巻いて、にやりと笑った。

「中也、私のこと好きなんだ?」
「は……」

ぼっと顔が熱くなる。
意味わかんねえ。なんでこんな、いきなり。

でも。

俺は、ぷいっと顔を逸らした。

「んな訳あるか、手前なんか大ッ嫌いだ」
「え〜、ここまで来て?」
「るっせェ、手前はどうなんだよ」
「私は……
好きだよ」

心臓がドクンと高鳴る。

「って云うと嬉しいんだろうなあ、中也は」
「あ”!?」

太宰は莫迦だなあ、と嘲笑うように鼻を鳴らした。嗚呼、殺してー。

「私だって君なんか大ッ嫌いだよ」
「上等だ青鯖」
「うるさいなあ、ちびなめくじ」
「誰がちびなめくじだコラ……」
「もう黙って」

つ、と指が、反論しようとした唇に当てられる。思わず口をつぐむと、太宰は首もとのネクタイをシュルリと引き抜いた。

「もう黙って、大人しく私に抱かれなよ」

一度中断されていたのに、血管の浮き出た太宰のソレは、全く萎えていなかった。その先端が、ぴたり、とそこにあてがわれる。濡れていて、硬いけれど肌の柔らかさがある。何より、熱い。熱くて、熱くて。
覚悟を決めて枕の端を握りしめたそのとき、太宰が俺の首もとに顔を寄せ、囁いてきた。突然のことで、俺は目を見開くしかできなかった。

「可愛く鳴けたら、“百戦練磨の美男子”の初めて奪ったんだって、“其処らの女”に自慢していいよ」
「え……だざ、あァアッ!!」

驚きを口に出す前に、指とは比べ物にならない質量の熱が侵入してきた。

全く意図していないのに中がぎゅうっと締まる。硬くて、太くて、熱くて……。更に進んでくるだけで「んあッ」という気色の悪い声が飛び出し、心臓がどくんっと大量の血液を送ってくる。
ふと、ずぶずぶと太宰のそれが俺の恥の中へ埋まってゆく様を目撃してしまって、思わずぎゅうっと中を締め付けた。

「ッ、きっつ。もう少し力抜けない?」
「む、り……」

太宰が顔を歪め、頬に汗を一筋流して俺をみつめる。そして、何時もと変わらない……いや、少し辛そうな、笑みを浮かべた。

つらい……我慢してるのか? こいつが? なんで? 俺の為に?

ぐりゅっ

「あァッ!」

快楽に声をあげて、太宰の背中にすがりつく。中の、この一点。ここに触れられると変になる。何か怖い。でも、太宰のソレの熱さが内壁にじんじんと伝わってきて、怖いのに疼くその一点にその熱さを擦り付けたらどうなるのかと、心臓がドキドキ鳴った。
なんだこれ。これが、性交……? どんどん変になる、これが……?

「どうしてほしい?」

太宰が俺の思考を読んだかのように問うてくる。
その瞳をみつめる。ったく、楽しそうにしやがって。変な奴。知ってたけど。

黙って、首に腕を回した。
少し腰を動かすと、未だ挿入りきれていないソレが疼く場所をかすった。心臓が高鳴る。
小さく、小さく、云った。

「……イイとこ、判んだろ」
「どうしてほしいの? 擦ってほしい? 突いてほしい? どうしたい?」

追い討ちをかけられる。
嗚呼、もう……!

「ッ〜〜、とにかく良くしろ!!」
「我が儘だなあ。まあいいか」

恥をかなぐり捨てて云ったのに、太宰の反応は存外薄く。
益々頬が熱くなっている間に、太宰はぐいっと俺の足をもって、広げた。

「なッ……」
「ふふ、丸見え」

全部、見られてる。太宰の太いのをくわえこんできゅうきゅうしてんの、全部。太宰の、その瞳に。
やだ、こんなの。やだ……

「はは、そんな締め付けないで。すぐあげるから」

太宰が再び俺の額に口づけする。唇が離れると、太宰は腰を浮かせて、そして……

ずぷぷっ
ごりゅんっ

「ああァぁンッ!!」

ビリッと流れる快楽。疼くところを熱いもので強く擦られて、気持ち良すぎて、じんじん燃えるようだった。
しがみつく太宰のシャツに皺ができる。それを見ながら、太宰が耳元で囁くのをきいていた。

「たっくさん良くしてあげるね?」

快楽がほしくて、太宰がほしくて。俺は、ただ何もかもを委ねて目を瞑った。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.84 )
日時: 2019/07/23 15:11
名前: 枕木

「あぁ……んぅ、あッ、あぅ、あぁんっ!!」

ごりゅ、ごりゅ、と先っぽの硬いところで其処を擦られる。絶頂しそうな快楽に、足先が丸まって、内股がビクン、ビクン、と痙攣する。
きもちい、きもちい……それしかなくて、そんな自分への羞恥に身体が熱くなる。

「ンッ、んあ、や、らめ、んあんっ」

其処ばっかり、ごりゅごりゅと擦られて。圧迫感や痛みがなくなってその質量に慣れてくると、擦られる度にその快楽を喜ぶように内壁がきゅう、きゅう、と締まる。その度に太宰の形を感じてしまって、恥ずかしいのに、何故か……何故か、うれしかった。

ぬちゅ、ぬちゅ、ごりゅっ、ごりゅっ

「あぁ、ひうぅ、んん、あァん、あッ、あん、あァッ!!」

ビク、ビク、と開いた脚の痙攣が止まらない。なんで、其処ばっかり、ごりごりって何度も。きもちい。やだ。こんなにきもちいの、聞いてねェよ。
呼吸をするように収縮を繰り返すようになった内壁。どこを擦られてもきもちよくて、涙が滲む。中で出される愛液の、ぐちゅ、ぐちゅ、という泡のたつような水音。太宰の、荒い息遣い。太宰も、興奮してる。腰を打ち付けて、何度も、何度も。「だざい……」と名を呼ぶと、吐息混じりに、「ぅん?」と返事をしてきた。顔をあげると、紅く上気した頬に汗を流して、微笑む太宰がいた。
右手を伸ばして、その首に回す。そっと引き寄せる。唇が重なる寸前で、太宰がぴたっと静止した。

「……いいの?」

不安そうに伺う、目の前の1つだけの鳶色。俺の蒼色が映ってる。太宰は、俺しか見ていない。嬉しくて、嬉しくて。

「はっ……や、ぼなこと、訊くな」

そう答えると、太宰は左手でそっと俺の頬に触れた。
そして、割れ物に触るようにそっと、やさしく、静かに顔を近づけて。

そして、唇を重ねた。

初めての口づけは、柔らかくて、暖かい。ぎゅうっと胸が締め付けられて、どうしようもない。離れる唇が寂しくて、もっと触れてほしくて、たまらない。ああ、だめだ。もう、だめ。

「もっと、して」

口から溢れた本音。太宰がにやりと笑った。純粋な、悪ガキの笑顔。やってることはいやらしいのに、純粋で澄んでいた。これが、本当の太宰なのか? そうだとしたら、きっと、知っているのは俺しかいない。
ああ……なんだよ、それ。おかしくなりそうだ。

「だざい、だざい」

何度も呼ぶ。太宰がそれに応えて口付けてくる。胸がぎゅっとして、もう何も我慢できなくなる。脚を開いて、ぬちゅっと腰を振った。それに応えて太宰がずちゅ、と進んでくる。それを受け入れるように更に股を開けば、ずぷずぷと挿入てきて、とうとう、ぱちゅ、と太宰の肌が股に触れた。全部、奥まで挿入ってる。そう判った途端、中がきゅんっと締まった。
その瞬間、頭が真っ白になった。

「あァッ!?」

触れられたことも、見られたこともない一番奥底に熱が押し付けられている。それだけできもちよすぎて、涙がこぼれ落ちた。

「あッ……ア、ア……」

きもちいいことを知ってしまったから、中が何度もきゅんきゅんと締まる。奥底に硬い熱が当たるのが、その疼く空間を埋められているのがきもちよすぎて、何度も何度もきゅうきゅうを繰り返す。太宰は動いていないのに、自分で太宰のできもちよくなっている。こんなのやだ。でも、きもちい。

「はっ……本当、淫乱だね、中也は」

きゅうっとする度に中で愛液を出される。太宰も気持ちいい? 無意識に閉じていた目を開けると、太宰は顔を歪めて、きゅん、の度に眉を寄せていた。ああ、感じてる。きもちよくなってる、俺で。でも、もっと。

「だざい……きもちくなって」
「え?」
「きもちく、なろ?」

太宰が目を細める。

「中也」

名前を呼ばれる。口づけされる。繋がっている俺の左手にそっと右手を重ねて、指を絡めて握った。

そして。

ぱんっ

「あッ」

ぱんっ、ぱんっ

「んあ、あァ」

ぱちゅっ、ぱちゅっ、ぱちゅっ

「あァア、あァ、あぁんっ!!」

腰を引いては、奥底を突く。触れるだけで気持ちよかったのに、中をごりゅっと強く擦られて奥をごりっと突かれて、快楽が強すぎておかしくなる。

二回突かれただけで、声も出せず、下半身をがくがく痙攣させてイッた。止まらない快楽にのけぞって、こぼした涙を舐められる。

「ンぁ……ああっ、あァ、あああっ!!」

喘いで、鳴いて、口付けられて。
イッたばかりで敏感な身体に大きく膨らみきった性器を激しく出し入れされて、下半身の痙攣ががくがく止まらなくなって、身体を揺らす。びくんっびくんっと身体が跳ねる度に手錠がジャラッと鳴って、この快楽からは逃さないぞと脅す。

「あッ、あァ、あァアあんっ!!」

また、イッちゃう。イッちゃう、出ちゃう、イく……ッ

「ッ〜〜!!」

飛び出る精液。背中をのけぞらせてイッたのに、全然だめ。やだ、なに、これ。なんか、きちゃう。すごいの、きちゃう……っ

「ア、あッ、やっ、あ、だざ……」
「ちゅうや……」

ごりゅっ

びくっ、びくっ

大きく身体が痙攣して、普通なら性器から出される筈の熱が、中に集まる。ぎゅっと中が締まって、脳天を快楽が突き上げた。

真っ白な、永遠かと思われる絶頂。
どくんっと中で脈うった太宰が、奥に熱い精液を出すのを感じた。長い長い射精に身体を震わせる。なにも判らない。判るのは、繋いだ太宰の手の、熱さだった。

Re: 【文スト】太中R18*乱歩・中也受け ( No.85 )
日時: 2019/07/23 14:36
名前: 枕木

あの1ヶ月、俺たちが繋がっていたのは、鎖だけじゃなかった。
10センチが近づいて、もっと、どんどん、近づいて。
幸せな時間だった。次の日首領のところにいったらまじまじとみつめられて、ぷっと吹き出されて、「仲良くなりすぎたかな」なんて笑っていた。
そのとき、相棒の意味をきいた。
後悔はしていない。あれから1年たって太宰が消えたときも、一回だって後悔したことはなかった。
信じてたから。ずっと。
だって、『元相棒』だから。

「なにぼーっとしてるの、中也」
「え、ああ……悪ィ」

はっと我に返ると、2つの澄んだ鳶色が俺の顔を覗きこんでいた。

「久しぶりにデエトに出掛けるんだから、今日は私だけ考えてればいいんだよ」
「ばーか、誰が手前なんか」
「もう、可愛くないなあ」

口を尖らせてそう云ってから、太宰は、ふ、とやわらかく笑って、手を差し出してきた。右手。あの、右手。ずっと、俺に触れていた右手。

「じゃあ行こうか、相棒」
「……相棒じゃ、ねェだろ」

不満を露にしてそう云えば、太宰は笑って、ぎゅっと抱き締めてきた。

「なんだ、かわいいじゃないか」
「ばか」
「ふふ、そうだね、『元相棒』だ。ずっと一緒にいる、けど違うよね」

相棒の意味。俺たちを表していた、相棒。
それは、『ずっと一緒にいる』。
確かに、今もずっと一緒にいる。
でも、違う。

だって、離れてても一緒だから。こういうのは相棒じゃねェんだよ。こういうのはなァ

「恋人、だろ」

太宰がくすっと笑う。

「そうだね」

そっと胸中から俺を離して、微笑んで俺をみつめて、そっと顔を近づけてくる。目を瞑れば、ちゅ、と唇に暖かさが触れた。
それが離れると、太宰がぱっと俺の左手を握った。

「よし、行こう」
「おう」

笑いあって、ドアを開けた。
空は、快晴。
蒼くて、澄んでいる。
最高のデエト日和だな。

手前の右手と、俺の左手。
手前の心と、俺の心。
元相棒、現恋人。
その距離____

「中也」
「ぅん?」

鳶色に俺を映して、にかっと笑う。ガキみてェに。

「好き」

_____その距離、0センチ。


えんど