大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 文豪ストレイドッグス【福乱/R18.BL】 ( No.11 )
日時: 2019/06/03 11:43
名前: だらく ◆nI0A1IA1oU

福乱でケーキバース〜【ある日を境に】その1
 

 突然だけどケーキバースって知ってる?
嗚呼、そうだよね 実は僕もつい最近知ったんだ!
どうせなら食べる側になりたいね!甘くて美味しいなら尚更!だけど、どうやら僕は食べる側じゃないみたい......あ〜あ、つまんない、つまんないなあ......自分にとってすっごく美味しくて食べたいって匂いだけでなるぐらいなら食べてみたいのになあ、もう社長に頼もう!洋菓子が食べたいって!


ーーー

 此処は横浜にある探偵社、いつも通りの忙しい日々を過ごしている

 社長である福沢も一昔前まではほぼ毎日書類と格闘する未来なんて露(つゆ)ほど思ってはいなかったが、今では手馴れた手つきで捌(さば)き、選別し時おり他方への出張や面会等の通常業務を行っていた

 その日の福沢の仕事は各社の依頼や報告書等の書類を簡単に言ってしまうと纏(まと)めたり片付けたりすることだった

 所謂(いわゆる)ディスクワークをしている際に(アニメ版では秘書)事務員の女性、春野がお茶と共におぼんで持ってきた和菓子を見て暫(しば)し沈黙する

「............」

「............」

 互いに無言だが事務員の春野の方を見れば微笑んだまま何も言わずに此方の発言を待っているようにも見え、春野から視線を外し社長室にある時計を見れば何時も休憩に入っている時間帯だった

「........頂こう」

一言だけ告げてから書類を机の端に纏めて和菓子とお茶が置けるスペースを空ける。その言葉に良しとしたのか「はい、どうぞ」とすぐさま空(あ)いたスペースに和菓子、お茶が置かれる

 和菓子は羊羹(ようかん)と落雁(らくがん)だ、羊羹は餡の甘さが強くこし餡のような舌触りがある。羊羮によってはつぶ餡状のものやよく潰されているこし餡状のものがあるがこれはつぶ餡状の羊羹で食感も楽しめるようになっている

.........この和菓子はどう見ても乱歩が好きそうな甘いものだ、幸いにもこの和菓子はあの善哉(ぜんざい)の意味をなさない事態(こと)にはならないはずだ

..............持って来られた和菓子は突っぱねても仕方ないが、菓子問わず食べ物に関しては勘が働く誰よりも頭を使う乱歩には必要とさえ感じる

 だからこそ、乱歩の食事に関しては黙秘している。菓子ばかり食うなと叱ることが出来ない、一昔に云ったことがあるが言ったら言ったで一週間以上も一切菓子類を食べることも見ることさえしなかった、それにあるのなら尚更(なおさら)だ

 福沢は和菓子を出されるとついついあの日、乱歩との出会いを思い出す、最近菓子好きが定着している乱歩。自らも好きだと公言するが無意識に甘いもの=糖分、ブドウ糖となっていると乱歩を見ていて感じる

 福沢は、まだ手をつけずに和菓子を見て数秒で考える、和菓子から目を放して春野の方を見てから

「.......春野、この和菓子を乱歩にも取って置いてやってくれ」


 そんな言葉に春野は何故か生暖かい眼差しを福沢に向けてから「分かりました」と告げて社長室を後にした

 仕事の合間の甘味は疲れた体には効くので乱歩でなくてもこの差し入れは嬉しいことで早速頂くことにする

 落雁か羊羹からか一瞬だけ迷ったが甘さが弱いと思う羊羹の方を最初に食べることにした、甘さが強い方を最初に頂くと他の甘さが消えるからだ、茶を飲めば良いことだったが乱歩と時たまに甘味処に行くのでその時の乱歩の気分にも寄るがたまに自分が注文した和菓子や洋菓子と同じものにすることがあり、そうなると乱歩は自分の食べる仕草を何から最初に食べるかも真似してくるのでつい、乱歩の味覚に合わせて自分も茶を飲むのを忘れ、なるべく他から見られても決して行儀悪くはない食べ方をするようにしていたため、乱歩が居ないのにも関わらず知らず知らずのうちに考えを巡らすようになっていた

 羊羹を黒文字で端から一口分だけ切り分けてから一口分の羊羹を黒文字を挿して流れるような動作で口の中に運び入れた

 福沢は、そこであることに気づき思わず口を閉ざしたまま、「ん?」と顔を顰めて黒文字を皿に置いて、じっと和菓子を見る

 見る限り普通の和菓子で食感もあったはあったが肝心な甘さが全くないことに福沢は気付くと同時にこれでは、乱歩に取っておいても意味がな......いや、私が甘さを感じなくなったのか?と思い、どちらにしても不味いことには変わりないと今度は落雁を懐紙に挟んで口の中に放る

 残りの落雁も食べてみたがやはり甘さがなかったが茶は渋(しぶ)く相変わらず入れ方が上手いなと思うも甘さだけが感じないようでどうやら味覚に異常があることが分かった

 とりあえず乱歩に取っておいても大丈夫なことは分かり、安堵するようなため息が零れるが昨日までは確かに甘さが感じられていたためにこの異常の原因を考えて思い付いたのはストレスだった......ストレスか、最近は仕事詰めで乱歩にも春野以外の社員に会っていないからかそれとも......猫を見ることも猫と触れることもなかったからだろうかと思い、味がしない残りの羊羹を食してから

「......少し詰(つ)めすぎたようだな.....気分転換をしに行き、それから社員たちや社の様子を見る、か」


〜〜続く

※黒文字(くろもんじ)........和菓子に使われている楊枝(ようじ)のことを指している。

Re: 文豪ストレイドッグス【福乱】【r18/BL】 ( No.12 )
日時: 2019/06/03 11:46
名前: だらく ◆nI0A1IA1oU

福乱でケーキバース〜【ある日を境に】その2

 ケーキバースとは、とある外国発祥(とっくにはっしょう)、その多くが精神的なストレスによるものの後者と生まれながら甘さのみが感じられない人の前者がある......所で何故、私が説明をしなくてはいけない.....ん?乱歩が知りたがっている?誰が乱歩に言った......?教えないと言うのならば私が社の一人一人に問いただすとしよう
春野、今すぐ洋菓子を手配し乱歩にやってくれ、私は出る...一人一人軽く締めに行くだけだ、すぐに戻る

ーー

 同時刻、探偵社内では変わりない職務を皆が皆、業務に勤(いそ)しんでいる
二人を除いては通常通りと云っても良いほど変わらない日常風景がそこにはあった

 通常通りじゃない二人のうち、一人は朝から疲れきったようにぐでーと机に突っ伏し気だるそうにふとしたら直(す)ぐにでも眠りに落ちてしまうほど疲弊(ひへい)していた

 その者は自分で適当に切ったような不揃いの短髪に睫(まつげ)の長い切れ長の開眼していたら吊り目になるが今は糸目がちの眼(まなこ)に、やや幼い顔立ちをしている彼は江戸川乱歩、先程社長の福沢が和菓子を乱歩に取っておくように春野に告げるほど社長が一番に気に掛けている本人だ

 乱歩は頬を冷たい机に押し付けたまま、徐(おもむろ)に口を開けると


「あ〜......何かもう疲れた......一部の人の視線が僕に集中してるとか......僕が名探偵として有名になるのは一向に構わないんだけど、何かそれとは違う気がするんだよねえ......敦(あつし)、これどう思う?」

 不満そうに唇を尖(とが)らせながらもやや斜め横に居る少年に、何の前触れもなく聞く乱歩からしてみれば何となくでただ自分の近くに居たのが、敦と呼んだ少年だった。それだけのことでこの質問に意図や深い意味は何もなかった

 だが、聞かれた敦は朝から乱歩と同じか乱歩以上に疲弊している中、ぼーーっとした頭で、乱歩の不満そうな声を言葉を耳にして、僕と似たような目にあってるなあなんて思いながらも立ち聞きのようなことをしていたのもあって


「は、はいっ?!え、僕に振られてもと云うより........僕も実のところ、似たような目に合っていて、一部の人に獰猛(どうもう)な目で見られてて......しまいには........だから、その体中が痛くて此処に来るのが......ってそうじゃなくて!えっと、すみません、乱歩さんのお役に立てなくて......正直なところ...僕が知りたいなあ、なんて....あははっ」

 やけに上擦(うわず)ったような声を上げて持っていた書類を驚きからか床にばらまいてしそうになるのを何とか持ち直して聞かれてもないことを混乱した頭でそう言うが、言っている内にやけっぱちになったのか乾いた笑みを浮かべて乱歩を見る


「....ふーん、昨日からか......まあ、お互い様...嗚呼、違うね!僕の方がマシだ!何たって僕はまだ被害を受けていない!あの目は君が言うように獰猛な眼差しで僕を見た時は本当に気持ち悪かったけど、それが____だったら全然気持ち悪くないし君のようにはならないからね!」

 聞いたのにも関わらず、どうでも良さそうに返すがちらりと開眼している目で敦を数秒見てから再び何時もの糸目になるとまた口を開き、最後の方肝心な部分は濁(にご)して何かを得心したようにつらつらと言い放ち、顔ごと敦の方を向ける


「ふへ!?え、あ、何もないですよ?!昨日は何もなかった、あんなことは....!と云うよりも思い出したくもないです、昨日のこと全て!.......嗚呼、そうですね、乱歩さんの方が被害受けていない時点で大分マシですよ.....僕なんか身も心もずたぼろにされた思い....ですからね、嗚呼、忘れたい....」

 あわあわと何かを得心したような言い方をする乱歩に片手に書類を持ってから手を前に出して、身ぶり手振りしながら否定して何とか確信させないようにするも被害を受けてないと云う言葉に隠しきれず、そんなことを愚痴のように溢しよっぽど忘れたいのか頭を抱えるようにして項垂れた


「あ〜あ、君もう僕に答えを言っているようなもんだよ?そう云うのをこの僕に隠したいなら冷静にか頭を空(から)にして受け答えしなきゃ...嗚呼けど、そんなにひどい目にあったんなら与謝野(よさの)さんの治療が必要になるね、内側が色々痛いんでしょ?....僕が呼んでこようか、直ぐに来ると思うよ?」

 項垂れた敦を開眼していない眼で見て、しょうがないなあと云うようなニュアンスで言っていれば、ふと敦に近寄る女性に気付いてそれを含めた上で敦にそう聞く


「うう、以後気を付けます!そ、それは、そうなんですけど!!で、出来れば遠慮し....っ」

 自分の言ったこと後悔したように言っている途中で敦の肩に後ろからぽすんと手を置かれて、肩に置かれた手を見て明らかに男性じゃない女性の手に敦は血の気がなくなるような感覚を覚えながらも恐(おそ)る恐る後ろを振り向く

 乱歩が名を口にしていた与謝野女史だった、乱歩は此方に来る与謝野さんにも聞こえるようにまた敦の反応を見るためだけに言っていたのだ

 彼女は与謝野晶子(あきこ)という名で、探偵社専属の医師。三度の飯より手術や解体を好んでいるが故に敵よりも寧ろ身内から恐れられている

 そんな与謝野女医(せんせい)が敦が向いた途端に、にやりと笑みを浮かべて


「へえ....敦、怪我しているって?見たところ外傷はないようだけど、乱歩さんが言うなら内部の方だねえ、遠慮しないで良いからねえ、敦?大人しく妾(アタシ)の治療を受けな」

 そう言う与謝野女医は、心配から言っている訳じゃなくただ解剖と手術が出来るこの好機を逃さないと云わんばかりに笑いながら威圧をかけつつ、敦に肩に手を置いたまま問う


「あ......は、はい、お願いします......与謝野女医」

 さーーっと顔色を変え、青ざめた顔で消え入るような声で何とかそう言って、項垂れながらも与謝野女医に首根っこを捕まれて引き摺られる形で手術室に連れてかれる


「........、....」

 その光景を止めることなく開眼したつり目で二人が視界から外れるまでぼーーっと眺めてからゆっくり目を閉じて、ぽつりと


「........何か本当に疲れ、た....」


〜〜〜続く

Re: 文豪ストレイドッグス【福乱/r18/BL】 ( No.13 )
日時: 2019/06/03 11:48
名前: だらく ◆nI0A1IA1oU

福乱でケーキバース〜【ある日を境に】その3


 洋菓子が食べたいって頼もうとしたけど、僕が食べられる側ってことは周囲からそう云う目で見られるってことだよね?........社長と行動しよう!それが良い!そうしよう!社長ー、今の時間帯なら社長室かな?社長ー、居る?

 後、僕を食べていいのは、一人だけだから!君たちに振り回されるほどお気楽な僕じゃない!何たって僕は一途だからね!というより振り回される前に僕が振り回したら良い話だよね!
とりあえず、まずは社長を探そう、此処には居ないみたいだし!
............スッ....
...................、........超推理(←)

嗚呼、あと一寸(ちょっと)だけ待っていれば良いみたいだね、なら待とう!


ーーーーーーーーーー


「........何か本当に疲れ、た....」

 自分の周りが二人が居なくなったことで静さに包まれたその数秒後に、はあとため息が自然と口から零(こぼ)れ落ち、本日二回目の疲れたが無意識に声に出てしまったこと自体にまたため息を吐く

 あの目、本当に気持ち悪かったなあと乱歩は社に来る前の出来事を思い返して、心の中で改めて呟いた

 幾(いく)ら僕が人の事気にしないって言ってもあれは........いや、考えるのは止めよう、何か嫌だから


「........社長、忙しいのかな........最近顔見せてくんないし....社長室には社長から良いと言われるまで、入っちゃダメって言われてるし........何時見せてくれるのさ......兎じゃないけど寂しくて死んじゃうじゃん」

 頬を机の天板(てんばん)にくっ付けて突っ伏した状態のまま、数秒目を閉じていたが不意に目を開けて開眼したつり目で見る、乱歩が見た先には書棚があり、それ以外には目ぼしいものはなかったが乱歩の目には違うのが映っている

 乱歩の頭に浮かんでいるのは社長ただ一人だった、一人になるとつい頭に浮かんできていつの間にか社長のことで脳内を占めていた

 だから、乱歩の目の奥には何時も社長が居る。何故自分がこんなにも社長のことを考え思ってしまうのか、自分にも分からないまま、ただ悪戯(いたづら)に時だけが流れていた
 
 社長と出会ってからあれから何年経ってしまったんだろう、あの頃の方が一緒に居る時間あったなあ........と考えれば考えれるほど寂しさでいっぱいになり、記憶から映し出された社長の姿より実際に会いたいと云う思いが段々募(つの)り

 
「........もう我慢できないしこっそり社長室に入っちゃおうかな........あ、でも怒られたくないし........うー....どうしよ........とりあえず一旦寝よう、僕疲れたし」


「................」


「........」


「............会いたいよ....福沢さん....」


 眠気で今にも途切れそうな意識の中、切なくも消え入りそうな声音でぽつりと小さく社長の名を呼んだ

........夢の中でも構わないけれど、どうせなら........夢じゃない方が良い....夢なんかよりもずっと良いに決まっている


「............」

「........」


 完全に意識を手放して深い眠りについた乱歩は自分でも気付かないうちに涙を流していた


ーーーー

ーー



 乱歩が眠りについてから何れ程時間が過ぎたのだろうか、ふと乱歩の周りが暗くなる、それは誰かが乱歩の傍(そば)に近寄った人の影だった

 近寄った人物は福沢社長本人だ、社長はすぐに声を掛けようとしたが肩を上下に揺らし頬には涙の跡が残っている乱歩の寝姿を見ると声を掛けるのを止めてそっと乱歩の頭を優しく撫でようと手を伸ばして、そこであることに気付いた

 乱歩から甘い匂いがすると、何時もだとは思ったが今日は朝から疲れていて、菓子を食べている姿を誰も見ていないらしく、社の一人でもある弟子の国木田が用意している戸棚にある菓子を見ても減っていないことや乱歩に取って置いた分だけある羊羮と落雁を食してないと春野から聞いたため、そんなことはないと感じた

 だが、確実に乱歩から社長が好きな菓子の匂いがする。それも甘ったるい匂いじゃない........美味しそうと思える匂いで、今日半日を甘い匂いがしない、甘いと感じられなくなった味覚の原因を探していた社長にとって乱歩からのみ甘い匂いがするという事実に動揺を隠せずに手を引っ込めて一歩下がる

 また一歩下がり、ちらりと社内を見る。今は夕暮れ時で社内に居る人は帰投(きとう)していた、また好きで残っている社員らも今日は珍しく帰ったのは先刻、乱歩の様子を見に行く前に挨拶されたので分かっていたが、つい動揺を隠せない自分の姿を見られたくないと思っての行動だった

 そして、社長は数十秒間意味もなく右へ行ったり左へ行ったりを何回か繰り返した後、不意にくんと袂を掴まれた感覚し、掴まれた方を見れば


「........ま、待って....待ってよ、福沢さ、ん」

 乱歩は泣いていたのもあり涙腺が脆(もろ)くなっているのか、今にも涙が零れてしまいそうな開眼している潤(うる)んだ瞳で、弱々しく袂(たもと)を引っ張りながら心細そうな掠(かす)れている声で言ってから社長を見上げる

 乱歩は社長と目が合うと自分が何故こんなにも不安なのか、一緒に居たいと思ってしまうのか、福沢さんの前では色んな表情が感情が出てしまうのか、弱くなってしまうのか....とその答えが出なくて、分からなくて....たった数秒の沈黙に堪(こら)えられず俯(うつむ)こうとするもそれは叶わなかった

 それは社長が袂を引っ張っていた手をとってそのまま自分の方に引き寄せるように立たせたため、乱歩はよろけて前のめりになるも社長が包み込むように抱き止め、更に引寄せたからだった


〜〜続く〜

Re: 文豪ストレイドッグス【r18/BL】福乱 ( No.14 )
日時: 2019/06/03 11:50
名前: だらく ◆nI0A1IA1oU

福乱でケーキバース〜【ある日を境に】その4

 乱歩に言ったのは太宰か、社に戻っていないとなれば今日は社には戻ってこないだろう、国木田や谷崎が連れ戻してきましょうか等と聞いてきたが断り、先程社長室に戻ったのだが

............何故か乱歩が椅子に座っていたのだ
しかし、それは何時ものことで見馴れた光景だった、が一つだけ何時もと違うのは乱歩が寝ていることだった

........これからは、社長室に入れない方が良いだろう、こんな無防備で、乱歩と私しか居ない部屋には 

........そう思った瞬間でもあり、そっと乱歩の頭を撫でた、乱歩が起きている時には稀にしかしないことだが、本当は何時もこうしてやりたいと思っている


ーーーーーー


 社長に手を引かれたことに驚いて今にも流れてしまいそうだった涙が引っ込み、目を見開いて為すがまま抱き締められた乱歩は何が起きたのか分からないと云うようにすっぽりと顔を胸板下辺りに埋められたままでいた

 不安で押し潰されそうな気持ちが一瞬で消えて、真っ白になった

 でも、その真っ白で何もない、何も浮かばないのも一瞬だった、社長の温もりが感じられて少しだけ忙しない社長の心音が聞こえる

 福沢さんの温もり、福沢さんの心音....安心する、もっとこうしていたい........出来るならと自分からも背に手を回して確かめるように抱き着く

 それに重なるようにふわりとまた、乱歩から発する鼻腔を擽(くすぐ)るような甘い匂いが増して、抱き締めるのを止めて離れようとしたが乱歩が手を背に回して羽織から滑(すべ)りそうな手をむぎゅと服を掴んですり寄るように頭を押し付けてきたので離れようにも離れることが出来なかった

 乱歩から発する甘い匂いでくらくらしてきた思考を何とかしようとなるべく匂いを気にしないようにしつつも乱歩が気が済むまで抱き締め、背を撫でる

 その仕草を何度かした後に、もぞりと乱歩が身動(みじろ)いだような感覚がして乱歩の方を見やれば、顔を上げた乱歩と目が合った


「........福沢さん、忙しいのは........分かってるけど、顔ぐらい見せてくんないと僕の調子が狂うから見せてほしい、福沢さんが足りない」

 互いに見つめ合った状態が数秒続いてから乱歩は躊躇(ためら)ったように口をゆっくり開いて、開眼しているつり目で福沢を見上げながらも何処か拗ねているような声音ではっきりと言い、足りないから何とかしてと云うように強請(ねだ)っている瞳は身長差の関係で上目使いになっている

 私が足りないとは何だ?とくらくらとする頭が更にくらくらとしてくるのは気のせいじゃないだろうと福沢は思った、どう云う意味で言ったのかと逸らしていた視線を乱歩に戻し


「すまなかった、乱歩 これからは顔を出すようにする....、....して足りないとはどう云う意味だ?」

 まずは乱歩の様子も社の様子すら見れなかったことに対して詫びて安心させるように背を撫でてながらそう言い、少し躊躇ってから先程の言葉の意味を聞く  

「意味ってそのまんまの意味....今まで会えなかった分、福沢さんを感じたいってことだけど....駄目?」

 まるで、え?と聞き返すように不思議そうな眼差しで福沢を見ながらそれ以外何があると言わんばかりにはっきりと言い、間を少し空けてから僅かに首を傾げて何処か甘えたような声でそう聞く

 聞くんじゃなく聞き流せば良かったと福沢は先程の聞き返してしまった言葉を後悔するもすでに口から出たこと取り消しは効かない....駄目も何も否、感じたいとは.....とそこまで目を閉じてどう受け止めようかと考えていたが、それを止めるかのようにふわりと甘い匂いを纏わせて

 唇に何かが触れた、触れただけで甘いと感じる柔らかな何か−−、その何かは紛れもなく乱歩の唇でそのことを理解すると福沢は驚いたように目を開けて乱歩を見やると仄(ほの)かに顔が紅くなりながらも何時もとは違ったはにかんだような笑みを此方に向ける乱歩の姿があった 

 開眼している目は乱歩の想いを映すかのように熱を持ち、心の奥底から望んでいると見ただけで分かり、それに答えるように福沢は乱歩がした触れるだけの口付けよりも深い口付けをする


「っん....あ、ふ....んんっ」

 福沢にリップを塗るような丁寧さで上唇と下唇を舌で舐められて、乱歩はぴくんと体が反応し、服を掴んでいる手に力が入るもののすぐに吐息混じりの色めいた声と同時に力が抜けて委ねるように瞼を閉じ、するりと入ってきた舌を受け入れる


「んぁっ....ふあ.....あ」

 歯並び、歯茎、歯の裏、口内を余すことなく舌で丁寧になぞられている感覚に恥ずかしさからか、或いは福沢さんにされていることに対してか、その両方かは定かではないが、仄かにだった頬がかぁぁっと耳まで紅くなり、無意識に甘い声がなぞる度に口から洩れてしまう

 何でこんなにキス上手いの?福沢さんと内心で乱歩は思うが、自分の発する自分じゃないみたいな声と福沢の舌が自分の舌を絡むように触れ合い始めて

 その思考が次第にふわふわしてきて、じわじわと火照(ほて)る体が、福沢の熱を求めるように疼(うず)いてきて物足りないさが募り始めると同時に息が苦しくなり


「んぅ..ふ....ぁん....ふく、ざわ....さん」

 弱々しく福沢の服を握っていた手をくいくいっと二回引っ張り、口から放してくれた福沢を苦しさともどかしさで涙目なった何処かとろんとしたつり目で見つめ、舌足らずな声音で呼ぶ、唾液で口を放しても繋がれていた糸に福沢さんと僕はキスしたんだ、福沢さんも同じなのかなとそう思うと嬉しく恥ずかしくまだまだ福沢さんが欲しいと思ってしまう


「っ..苦しかったか、すまん ....だが、止められそうにない....私を煽(あお)ったのは乱歩自身だ....誰を煽ったか、先をやれば引き返せないのは、分かるな?乱歩」

 乱歩に服を引っ張られてはっとしたように口を放すが繋がれた糸に何れ程深く味わっていたのだろうと福沢は思うも、乱歩の甘さと愛しさに戸惑ったように数秒目を泳がせるも何とか口にして、一旦目を閉じてから再び目を開けて真っ直ぐ乱歩の瞳を見て、本当に良いのかと云う意味を含めて聞く


「うん、勿論....分かってるけど、僕は福沢さんのこと好きだから....それに、この僕を食べて良いのは福沢さんだけだからね!それと福沢さんの気持ちも僕と一緒だから.......僕の恋人になってほしいんだ、福沢さんに 福沢さん、続きしよ?」
 

 僕の傍に居れない時は、福沢の恋人だって云う証を僕に付けて欲しい、福沢さんにしか、僕を満たせないんだから、好き、大好き...福沢さん、愛してるよ




ーーENDーー


あとがき 
このあとは皆様の想像にお任せ致しますね!←