大人二次小説(BLGL・二次15禁)

Re: 詰めた【雑多/不定期】 ( No.1 )
日時: 2019/07/15 20:50
名前: 憑 ◆R1q13vozjY

【カラ松が無痛症になった話/おそカラ】

 此れは、俺の弟がとある病に掛かってしまった話。その病名は『無痛症』と言うらしい。弟を診断した医者が言うには治し様の無い......、んまぁ難病っつうの?不治の病だとか、何だとか。でも、無痛症を発症した際には無汗症ってのにも同時に患う確率が高いらしいんだけど、俺の弟は幸運な事に一緒に患うなんて事は無かった。俺ぇ?んー...まぁ、俺は健康的だから彼奴の気持ちなんて分かんねぇけど心配はいつだってしてる。前まで、最近までは本当、競馬とかパチンコ中心だったけど今じゃ彼奴中心だしな?
 んでさ、彼奴――カラ松が後天性無痛症になってから早半年。何か話が有るみたいで夜、皆が寝た後居間に来てくれって言われたんだよな。無論断るなんて阿呆な事はしない。その時、話を持ち掛けてきたカラ松の顔は......とても苦しくて、辛そうだった。汗をたらたらと流してたのに、気付いてなかったみたいだし...彼奴は多分、無意識。だから余計に心配なったのよ、だって、あのカラ松が「話がある」って言ってくる時点で心配なるっしょ?


「に、しても話か〜。......ぁ〜、怖ぇ、カラ松だし何言ってくるか分かんないしなぁ......」


 んな事を考えながら階段を一段ずつ慎重に転けないように降りていく。居間を締め切る襖越しにでも淡い光がぼわんぼわんと居間を照らしているのが分かる位に、もやぁ〜っと辺りに明かりが漏れ出ていた。んもう、まぁ怒りはしないけど目ぇ覚めちゃうじゃん。明かりの強さ下げて欲しいね。襖に近付けば近付く程、はっきりしなかった光がはっきりとし始め脳に刺激を与えて来る。それはもう、眩しくて思わず目を瞑っちゃうぐらい。嗚呼、完全に目覚めちゃったかも?この後散歩にでも行くかな。
 襖の、手を引っ掛ける所に手が届く範囲にまで歩みを進めた。嗚呼、いよいよか。ふぅ、と息を飲み込むが唾も一緒に飲み込んだらしくゴクリと音が鳴った。そして襖に手を掛ければ横にずらす。スラーっといとも簡単に、軽く擦られる襖。あれ?んな軽かったっけ?心無しか明かりも遮られてる気がするんだよなぁ。些細な事だが疑問を感じ、襖から正面へと視線を移した。
 その時である。視界の全面肌色や黒色で埋まった。


「うわぁぁぁああ!? 何何何ぃ!? びっくりすんだけどぉ!」
「お、おそ松......。遅かったな。騒ぐとマミー達が起きるぜ?」
「い、いやそうだけどさぁ......。距離が近(ちけ)ぇんだよ、気持ち悪いわ〜」


俺は思わず大声を上げて、裏返ったその掠れた声を張り上げる。普段では想像の付かない位に華麗で軽やかなステップを踏んでは廊下の壁に付く位に後ろに下がった。
 視界一杯一杯に、カラ松の顔が広がっていたのだ。キリッとした凛々しい眉がこれでもかという位に目に付く。いや、鬱陶しいんだけど...。んまぁそれは置いといて何より俺が吃驚(びっくり)したのは、カラ松との距離。少し動けばキスが出来てしまう程、異常な迄に近かった。それが、俺の吃驚した理由。
ブルブルと震えるように体をわざと震わせつつ、自身を抱く様に腕を交差させる。いやもう本当、目が合った時は吃驚した。視界が殆どカラ松の顔で埋まってたし、それが深夜だしで怖いわぁ〜。
 んまぁ、それは今じゃどーでも良くて。早くカラ松の口から聞かなきゃいけない事がある。俺はすぅ、と息を吸い込めば覚悟を決めたかの様に目を見開いた。
聞くだけなのに、何か怖い。彼奴は突拍子も無い奴で、頭空っぽな奴。何を言い出すか分かったもんじゃ無(ね)ぇし……全く、俺の困った弟。


「んで? 話って?」


 俺は廊下の壁に背中をつけたまま問い掛ける。元々の目的はこれだし。何時もの様に少し首を傾げれば、廊下の壁から背中を離して少しカラ松に詰め寄った。少し首を倒して、カラ松の顔を覗くようにして見る。
何処か躊躇っている様な顔だった。彼奴は喋りもしない。何だよ、何か一言でも言えば良いのに。「やっぱり止めとく」とか「ああ」とか。最初は心配してた筈なのに、徐々に苛立ちが募っていく。「もういい」、そう言おうと口を開こうとした時、カラ松が口を漸(ようや)く割った。
 酷く、切なくて苦しい声だった。何時もの声だけど…違う。聞いているだけで此方が苦しくなってきて、喋るなって言いたくなる位で、泣きたくなるぐらいだ。


「おそ松。痛みって何だ?」
「............ぁ......」


 何で。膝頭がガクッと大きく震えて、体に力が入らなくなって、また壁に背中をぴとっとくっ付けた。頭が、クラクラする。カラ松は難題を吹っ掛けて、いつも通りの笑みを静かに浮かべた。何。何だよ。お前らしくない。お前は、お前は、お前は……苦しい時に我慢する癖に、泣く奴だろ。
 カラ松の問いに答えられなかった。当然だ。無性に彼奴が怖くなって、声が出なかった。掠れた情けない声が一滴、ぽちゃんと地面に落ちただけだった。
カラ松は痛みが分からない。でも、俺は痛みが分からない世界が分からない、理解出来ないんだ。
 ……答えられる筈もない。


「すまない。……変な事を聞いてしまって。…...俺は寝るよ」


カラ松は一度目を伏せて俺から視線を外せば、もう一度合わせて悲しそうな顔で言った。カラ松はのそのそと動けば、軋んだ音を立てる。その立てる物音から、彼奴は階段を上がっているのだと分かる。
……追っかける気にもなれない。あー、もう、こういうときに限って......俺はカッコ悪いな......。


「兄ちゃんなのに、情けねー」


 じわりと滲んできた視界を誤魔化すように、不貞腐れた様にボソりと呟いた。目頭がすっげー熱い。何かが垂れてきそうで、俺は思わず下を向いた。無意味だって分かってる。けど、とても情けなくて、カッコ悪くて、悲しい。
 泣かずにはいられなかった。足元の床に一滴一滴、透明の雫がポタポタと落ちていく。熱い雫が俺の足指を濡らして、床を汚くしていった。